著者
三澤 貴宏 本山 裕一 山地 洋平
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会講演概要集 72.1 (ISSN:21890803)
巻号頁・発行日
pp.1246, 2017 (Released:2018-04-19)

かごめ格子上のスピン1/2のハイゼンベルグ模型は磁場下で1/3プラトーをもつことが知られている。現在まで、1/3プラトーに関して多くの理論研究が行われているが、多くの計算は基底状態に限定されており、その有限温度の性質は明らかにされていない。本発表では、近年提案された熱的純粋量子状態を用いて1/3プラトーの有限温度に対する安定性および1/3プラトー近傍のエントロピー・比熱係数などの熱力学的物理量を調べた結果について発表する。
著者
米沢 富美子
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.34, no.7, pp.589-598, 1979-07-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
26

X線吸収による新しい原子構造解析法が提案され, ここ数年注目をあびている. EXAFS (extended X-ray absorption fine structure)とよばれるこの方法は, X線光電効果を利用した構造解析法である. X線電子分光学が, 外部光電効果を利用して, 放出電子の性質から物質内電子のエネルギースペクトルを調べる一つの手段であるのに対して, EXAFSは内部光電効果によるX線吸収係数の, 広エネルギー領域にわたる微細構造から, X線を吸収した原子のまわりの局所的な原子配置をさぐる方法である. この方法は, 粒子線回折による構造解析と異なり, 結晶構造をとらない一般の不規則系に対しても有用性が全く変らないこと, 複数の構成要素から成る系に対してもそれぞれの種類の原子のまわりの配置の様子が調べられることなど, いくつかの長所を持っている. しかし当然適用限界はあり, 不注意な過信は危険である. この解説では, EXAFSの構造解析の理論の現状を紹介し, 構造に関して, 原理的に得られる情報と, 原理的に得られない情報とをまず明確にする. 更に, 原理的には可能でも実際上探索が至難である情報にどんなものがあるかを述べ, EXAFSの長所と限界をはっきりさせることによって, EXAFSの有効な応用への一助に供したい.
著者
武田 正俊 吉川 悠一 家富 洋
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会講演概要集 72.1 (ISSN:21890803)
巻号頁・発行日
pp.2979, 2017 (Released:2018-04-19)

すでに、複素ヒルベルト主成分分析(CHPCA)が多変量間のリード・ラグ関係を検出できることを明らかにした。CHPCAを用いてマクロ経済基礎指標(30種類)を解析すると統計的に有意味な固有モードが2個同定される。本研究ではそれらの景気集団運動モードがリーマンショックや東日本大震災といった外的ショックに対し、どのような影響を受けるのかを明らかにする。
著者
蔵本 由紀
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.774-779, 2008-10-05 (Released:2017-08-04)
参考文献数
25

この小論では,まず1970年代の初頭に日本で非線形現象の科学が興り始めたころの状況に触れ,わが国の誇るべき分野である非平衡統計力学の延長線上にこれが展望されたという面が強かったことを指摘する.本論の後半では,非線形科学の一ブランチとしての結合振動子系の理論について,著者の個人的経験を通してみた研究の流れを素描する.
著者
山崎 国人 土浦 宏紀 吉岡 匠哉 小形 正男
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会講演概要集 72.1 (ISSN:21890803)
巻号頁・発行日
pp.1991, 2017 (Released:2018-04-19)

近年、電子ドープ型銅酸化物超伝導体において、ノンドープ型と呼ばれる物質で超伝導が観測されている。本講演では、その系の有効モデルを提案し、かつ超伝導状態の安定性について議論する。
著者
江口 豊明 長谷川 幸雄
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.59, no.8, pp.530-536, 2004-08-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
18

原子間力顕微鏡(AFM)は,探針先端と試料表面との間に働く力をプローブとして用いるため,走査トンネル顕微鏡(STM)とは異なり,絶縁性の試料も観察可能である.近年では力検出技術の発展によりAFMでも真の原子像観察が可能となったが,その分解能は未だSTMに比べ劣るとされてきた.これはAFMで検出する力には,原子分解能を与える短距離力(化学結合力)の他に,ファン・デル・ワールス力や静電気力といった長距離力が含まれていることに起因する.我々は短距離力を優先的に抽出できる実験条件を設定することで,STMと同レベルの高分解能AFM観察を行うことに成功した.本稿では,AFMの高分解能化のためのアイデアと,それに基づく実際の実験結果について解説する.
著者
中島 秀之
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.74, no.8, pp.526-532, 2019-08-05 (Released:2020-01-31)
参考文献数
27

近年,AIが歴史上初めて実用に供されるようになった.その中心技術は深層学習(Deep Learning)である.しかしながら,学習とは過去のデータに依存する方式であり,万能ではない.ここではAIの他の部分に焦点を当て,複雑系をはじめとするAIの哲学的側面を論じ,今後のさらなる発展の方向性を示したい.知能は複雑系であり,またその扱う対象も複雑系である.複雑系では完全情報が得られず,アルゴリズム(計算結果の正しさを保証する機械的手続き)が構築できない.そのような系をうまく扱うことが知能の働きだと考えている.そして,人間はそのような処理に長けている.AIでもそのような手法が求められる.AI研究は,コンピュータによる記号処理でそのような人間の能力を実現しようとして始まったが,それは同時に知能とは何かということの追及でもあった.初期のAIでは記号の処理が知能の本質であると考え,外界の情報を記号化して内部に取り込み,それを使って推論しようとした.そこでは直ちに「フレーム問題」が発見された.これは対象物に関する知識を記述しようとすると膨大なものになり,その中から推論や判断に関係するものだけを適切に抜き出して処理することが不可能であるというものだ.人間には,関係する知識のみに焦点を絞ったり,不完全な知識の下でも推論したりして,(たまに間違うが)適切な解を見出す能力がある.AI研究者はこれを「常識推論」と呼び,フレーム問題の解決を試みたが,失敗した.全てを内部表現で処理しようとしたのが失敗の原因だ.複雑系の全てを表現できるわけがない.近年では得られる情報は部分的であるという前提に立つ「限定合理性」の考え方が中心となっている.一方,生態学,システム論,心理学など様々な分野で,環境との相互作用の定式化が試みられている(オートポイエシスや環世界など).情報の全てを個体内で処理するのではなく,環境をうまく使うのだ.その方向性の一つにブルックスがロボット用アーキテクチャとして提案した,内部表現に依存しない(しすぎない)「服属アーキテクチャ」(subsumption architecture)がある.これを更に環境まで含めたループとして拡張することによって環境との相互作用を利用する知能アーキテクチャとなる.知能を含む複雑系を対象とする研究の方法論にも同じ枠組みが適用できる.分割統治を中心とする分析的方法論と並置できるような,複雑系の構成的方法論を提案する.この方法論の核心は環境を経由する速いループを多数,並列に回すことである.このループの一つを展開するとそれは更に多数のループが並立する構造になって,フラクタル構造となっていることがある.実際,分析的方法論のループは構成的方法論の一部となっていると考えられる.この構成的方法論はAI研究に使えるだけではなく,IT(情報技術)一般に使える.速いループを回す手法はソフトウェア開発ではアジャイル開発技法と呼ばれ,採用されている.20世紀は物理学が飛躍的に発展した時代であった.21世紀は,20世紀に開発された様々な技術を用い,情報が社会の仕組みを変えようとしている.
著者
九後 汰一郎
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.593-599, 1989-08-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
18
著者
金 信弘 受川 史彦
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.388-397, 2017-06-05 (Released:2018-06-05)
参考文献数
35

現在,素粒子とその相互作用を実験結果と矛盾なく説明する素粒子標準模型によると,物質の構成粒子であるクォークとレプトンはそれぞれ弱アイソスピン対をなして3世代6種類存在すると考えられている.また,この標準模型では,ゲージ原理により生じるゲージボソンとして,強い力を伝えるグルオン,電磁力を伝える光子,弱い力を伝えるW,Zボソンが存在し,さらに標準模型の基本仮説として真空中に凝縮して素粒子に質量を与えるヒッグス粒子が存在する.また,我々の物質宇宙が存在するために不可欠な粒子・反粒子対称性の破れを説明するために,1973年にクォークが3世代以上ある小林・益川理論が提唱された.その後1977年に第3世代のボトムクォークが発見されて以来,その弱アイソスピンのパートナーであるトップクォークは長い間,多くの衝突型加速器実験で探されてきた.1983年のWボソンとZボソンの発見により,素粒子標準模型で予言されていて未確認な素粒子はトップクォークとヒッグス粒子のみとなった.米国フェルミ国立加速器研究所のテバトロン衝突型加速器を用いた陽子・反陽子衝突実験CDF(Collider Detector at Fermilab)は1985年の初衝突以来,1987年に重心系エネルギー1.8 TeVの衝突データ収集を開始し,その後の改良により2001年から重心系エネルギーを1.96 TeVにあげて,2011年9月のテバトロン運転終了まで,世界最高エネルギーの陽子・反陽子衝突データを収集した.CDF実験では,世界最高エネルギーの加速器を用いて,新しい素粒子・新しい物理の探索を30年の長きにわたって遂行し,多くの重要な物理の成果をあげて,素粒子物理学の発展に寄与してきた.特に1995年にはトップクォークの発見という輝かしい業績をあげた.6番目のクォークであるトップクォークは多くの衝突型加速器実験で探索されてきたが,発見されず,20年来の素粒子物理の宿題となっていたが,CDF実験によって,ついに解決した.CDF実験ではヒッグス粒子の探索も強力に推進してきた.ヒッグス粒子の質量は輻射補正を通してトップクォークとWボソンの質量と関係づけられるので,トップクォークとWボソンの質量を精密に測定することによって,ヒッグス粒子の質量の上限を決定した.またヒッグス粒子を直接に探索した結果とあわせて,ヒッグス粒子の質量範囲を147 GeV/c2以下と特定した.そのヒッグス粒子は2012年にスイス・ジュネーブにあるCERN研究所のLHC陽子・陽子衝突型加速器を用いたATLAS,CMS実験によって発見され,現在では素粒子標準模型で予言されていて未発見な粒子はなくなった.CDF実験では,上記のトップクォークの発見以外にも,2006年にB0s中間子の粒子・反粒子振動を観測して,小林・益川理論が正しいことを精密に検証し,1998年には15種類ある基本中間子のうちの最後の中間子であるBc中間子を発見するなど,多くの重要な物理成果をあげた.現在も物理解析を続けていて,結果を論文で報告している.ここに,その30年の軌跡を振り返る.