著者
日髙 尚子 田口 学
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.330-336, 2019-05-30 (Released:2019-05-30)
参考文献数
28

Remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema(RS3PE)症候群とは,急性関節痛・四肢末端の圧痕性浮腫を特徴とする炎症性疾患であり,DPP-4阻害薬の副作用として報告されているが,高リスク群や量依存性の有無などの詳細は不明である.我々は,DPP-4阻害薬内服中にRS3PE症候群が発症・増悪した6例(シタグリプチン3例,ビルダグリプチン2例,リナグリプチン1例)を経験した.男性3例,年齢中央値72.5歳,HbA1c中央値7.6 %.全例で膠原病の合併または家族歴を認めた.2例はDPP-4阻害薬の種類変更後に発症し,1例は同一DPP-4阻害薬の増量後に発症した.RS3PE症候群発症は,膠原病の合併や家族歴との関連が疑われ,患者側のリスク状態の変化や被疑薬増量に伴い発症する可能性が示唆された.
著者
栗原 義夫 山下 久美子
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.18-25, 2020-01-30 (Released:2020-01-30)
参考文献数
18

Sodium-glucose cotransporter 2(以下SGLT2と略す)阻害薬は血糖降下作用と様々な代謝改善効果が報告されているが,ごく最近,本剤の投与により糖尿病腎症1~2期の患者において,その推算糸球体濾過率(以下eGFRと略す)の改善が報告された.そこで,3年以上SGLT2阻害薬を服用している当院通院中の2型糖尿病患者111名(腎症1期68 %,2期27 %,3期5 %)の各パラメーターの推移を後ろ向きに検討した結果,SGLT2阻害薬服用者では3年後の体重,血圧,HbA1c,AST,ALT,γ-GT,LDL-C,尿酸はいずれも有意に低下しており,HDL-C,Hctは有意に増加していた.さらにeGFRは2年後より有意な増加が続くことが認められたことから,本剤は腎機能が比較的保たれている患者において腎機能改善効果を有している可能性があることが示唆された.
著者
大森 恵子 浦田 美佐子 新美 恵 中山 幹浩 中島 英太郎 佐野 隆久 堀田 饒
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.805-810, 2009-09-30 (Released:2010-03-01)
参考文献数
5

インスリン注射を行っている2型糖尿病患者では,血糖自己測定(self monitoring of blood glucose: SMBG)を繰り返していても,それだけでは血糖コントロールは改善しない.そこで,インスリン投与量を変更せず予測しながらSMBGを行うことで,血糖コントロールが改善するかどうかを調査した.対象は,既にSMBG, インスリン注射を行っている2型糖尿病患者25名である.年齢65.0±10.2歳(mean±SD), 罹病期間17.5±9.9年,インスリン自己注射経験年数8.0±8.7年,SMBG経験年数7.7±8.8年.まず,従来通り血糖値を予測せず3カ月間SMBGを行ったのち,予測しながら行うSMBGを3カ月間継続してもらった.開始1カ月目,3カ月目とも,血糖予測値は実測値より有意に低かった.従来のSMBGでは,3カ月間HbA1cには有意な変化はみられなかった.予測しながらのSMBGを開始すると,開始時の7.2±0.5% (mean±2SE)に比べ,1カ月目は有意な変化はないものの,2カ月目は6.9±0.5%(p<0.05), 3カ月目は7.0±0.4% (p<0.05)と有意に低下し,予測しながらのSMBGは血糖コントロールに対して有効である可能性が示唆された.
著者
清水 嵩之 古川 慎哉 藤岡 燿祐 金本 麻友美 玉井 惇一郎 梅岡 二美 宮岡 弘明
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.672-679, 2022-12-30 (Released:2022-12-30)
参考文献数
33

症例は50歳代男性.X-9年に2型糖尿病と診断され治療中であった.X-5年8月に左尿管癌,多発リンパ節転移と診断され治療を開始し,2次化学療法としてX-1年11月から抗PD-1抗体(ペムブロリズマブ)を開始.X年2月下旬より食欲低下を認め,口渇,吐き気も出現したため3月初旬に当院を受診.血液検査で糖尿病性ケトーシスと診断し同日入院.空腹時血清Cペプチドは1.1 ng/mLから0.3 ng/mLに低下し,入院後補液とインスリン持続静脈注射を行い入院18日目に退院した.発症後2年経過したが,インスリン分泌は低下したままである.本症例は抗PD-1抗体投与後に内因性インスリン分泌が急激に低下したことから,抗PD-1抗体投与に伴う1型糖尿病と診断した.抗PD-1抗体投与中は慎重にケトーシスおよびケトアシドーシスを疑う症状の有無を確認し,高血糖を認めた場合には内因性インスリン分泌の評価を行う必要がある.
著者
熊倉 忍 坂本 美一 岩本 安彦 松田 文子 葛谷 健
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.499-504, 1988-06-30 (Released:2011-08-10)
参考文献数
15

黒色表皮症を伴い家族性に高インスリン血症を認めたインスリン受容体異常症の1例を報告する. 症例は16歳女性. 主訴は腋窩部の色素沈着. 男性化徴候や多嚢胞性卵巣はない. 100g経ログルコース負荷試験 (OGTT) では耐糖能は正常だが高インスリン血症 (基礎値40μU/ml, 頂値746μU/ml) を呈した. インスリン抗体, インスリン受容体抗体はなく, インスリン拮抗ホルモンは正常であった. インスリン感受性試験で感受性の低下を認めた. 患者赤血球のインスリン結合能と親和性はほぼ正常であった. 患者血清のゲル濾過の結果高プロインスリン血症は否定された. 患者インスリンの生物活性をモルモット腎膜成分を用いるRadioreceptor assay (RRA) およびラット脂肪細胞を用いるグルコース酸化能にて検討したが正常であった. 以上より, このインスリン抵抗性は受容体結合以後の障害と考えられた. また, 母親, 兄弟に高インスリン血症を認め, 遺伝性疾患である可能性が高い.
著者
笠井 富貴夫 中村 光男 石井 正孝 寺田 明功 工藤 研二 対馬 史博 広田 則彦 武部 和夫
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.219-226, 1991-03-30 (Released:2011-08-10)
参考文献数
25

胃排出機能とインスリン皮下吸収の食後早期血糖変動への影響を検討する目的で, 胃排出遅延を認めるインスリン依存型糖尿病 (IDDM) 11例にGastrokineticsを投与し, 明らかな胃排出改善の得られた6例 (I群), 改善のなかった5例 (II群) について食前および食後120分までの血糖 (PG) と血中遊離インスリン (Free-IRI) をPEG抽出法で測定した.胃排出機能はアセトアミノフェンとアイソトープ併用の液食一固形食同時測定法で検討した.I群;ΔFree-IRIには全検査時間を通じ, 胃排出改善前後で有意差なく, ΔPGは食後60分以降, 有意な上昇を認めた.すなわちΣΔFree-IRIには有意な変化はなく (2310±1266→2707±6889μU/ml・min), Σ ΔPGには有意な上昇 (1853±3442→4799±2983mg/dl・min, p<0.02) を認めた.II群;ΔFree-IRI, ΔPGともに胃排出改善前後で有意な変化を認めなかった.IDDMではインスリン皮下吸収に有意な変化を認めない場合, 胃排出機能が食後早期血糖を制御する重要な因子であることが示された.
著者
武井 洋一 池田 修一
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.535-537, 2015-08-30 (Released:2015-08-30)
参考文献数
5
著者
濱本 博美 清水 一紀 佐々木 元章
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.429-434, 2016-06-30 (Released:2016-06-30)
参考文献数
16

我々は妊娠成立と同時期に急性発症1型糖尿病を発症した2症例を経験した.症例1は10代女性,口渇,多飲が出現した数週後に妊娠が判明し,産科を受診.体重減少が著明で血液検査にてHbA1c 12.5 %,随時PG 790 mg/dL,抗GAD抗体陽性,ケトアシドーシスを呈し,急性発症1型糖尿病と診断した.症例2は30代女性,高血糖症状を訴えて内科を受診.HbA1c 10.1 %,随時PG 599 mg/dL,抗GAD抗体陽性,ケトアシドーシスを呈し,急性発症1型糖尿病と診断した.その3か月後に腹部膨満を契機に妊娠が判明.いずれの症例も,逆算すると妊娠成立と1型糖尿病の発症が同時期であり,またHLA DR9を有していた.妊娠に合併する1型糖尿病の多くは劇症1型で妊娠後期に集中するため,稀なケースと考えられる.妊娠悪阻とケトアシドーシスの症状は類似しているため,妊娠と1型糖尿病の診断には注意を要する.
著者
姫野 龍仁 神谷 英紀 中村 二郎
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.579-581, 2017-09-30 (Released:2017-09-30)
参考文献数
5
著者
山﨑 智文 永井 義夫 堀口 恭平 鹿嶋 直康 倉﨑 康太郎 丹羽 一貴 浜野 久美子
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.458-463, 2022-08-30 (Released:2022-08-29)
参考文献数
20

1型糖尿病診断マーカーとしてのグルタミン酸脱炭酸酵素(Glutamic Acid Decarboxylase:GAD)抗体は,数か月という短期間で陰性化することは稀である.我々はCOVID-19罹患とGAD抗体の消長が関連したと考えられる症例を経験した.43歳,男性.COVID-19に罹患した際GAD抗体陽性と判明し,インスリン治療を開始したが,7か月後GAD抗体は陰性化した.HLAの遺伝子型は,DRB1*09:01-DQB1*03:03であり,日本人1型糖尿病発症の疾患感受性ハプロタイプを有していた.COVID-19に罹患した糖尿病では,後にGAD抗体が陰性化することがあり糖尿病の病型診断には慎重であるべきと思われた.新型コロナウイルス感染と糖尿病の関連性を考えるうえで,同様の症例があった場合はインスリン分泌能とGAD抗体価をフォローしHLAハプロタイプまで確認しておくことが望ましい.
著者
酒井 シヅ
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.89-93, 1998-02-28 (Released:2011-03-02)
参考文献数
30
著者
栗原 義夫 山下 久美子
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.892-896, 2013-11-30 (Released:2013-12-03)
参考文献数
7

スルホニル尿素薬(以下SU薬)を含む経口血糖降下剤治療にdipeptidyl peptidase-4(以下DPP-4)阻害薬を追加した当院通院中の2型糖尿病患者219例を対象に,SU薬の用量調節について後ろ向きに検討を行った.SU薬を減量せずにシタグリプチンを追加した169例では,3ヵ月以内に低血糖症状の発現や低血糖予防のためにSU薬を減量された者が46例(27 %)あった.そのうちRecommendation以下のSU薬を服用していた者が9例(20 %)あった.また,SU薬をその量に関係なくほぼ半減しシタグリプチンを追加した50例の患者では低血糖症状の発現はなく,HbA1cの低下幅はSU薬を減量しなかった患者と有意差を認めなかった(-0.9 % vs -0.9 %,p=0.95).以上よりSU薬にDPP-4阻害薬を追加する時には,SU薬はその量に関係なく一旦半減するのが適切な調節であると考える.
著者
木村 和樹 石坂 正大
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.12, pp.791-797, 2016-12-30 (Released:2016-12-30)
参考文献数
16

本研究は糖尿病多発神経障害(DP)に伴い低下する身体機能・構造項目を二項ロジスティック回帰分析で検討した.対象はDM患者100例とした.身体機能・構造項目は,前方および後方10 m歩行速度,開眼片脚立位,Timed Up & Go Test(TUG),30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30),下腿周囲長(CC)とした.DPは「糖尿病性多発神経障害の簡易診断基準案」を用いた.二項ロジスティック回帰分析よりCCの萎縮と後方歩行速度の低下が抽出された.ROC曲線より,カットオフ値はCCが33.75 cm,後方歩行速度が0.905 m/sであった.非高齢患者はCS-30の減少,高齢患者は後方歩行速度の低下が抽出された.DPを有する非高齢患者は下肢筋力低下を生じ,加齢に伴いCCの萎縮を認めた.DPを有する高齢患者はTUGや後方への動的バランスが障害され,後方歩行速度の低下と関連があった.
著者
植木 浩二郎
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.689-692, 2014-09-30 (Released:2014-10-07)
参考文献数
5
被引用文献数
2
著者
林 葵 佐藤 大介 大角 誠一郎 辻 明紀子 西村 公宏 関根 理 森野 勝太郎 卯木 智 前川 聡
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.132-138, 2020-03-30 (Released:2020-03-30)
参考文献数
29

症例は27歳,女性.産後7日目から食思不振と全身倦怠感が出現し,産後25日目に意識障害を認めたため救急搬送され,糖尿病性ケトアシドーシス(以下DKAと略す)と高アンモニア血症のため緊急入院となった.DKAの改善後も見当識障害と高アンモニア血症は遷延した.先天性代謝異常の既往や家族歴はないが血中アミノ酸分画を測定したところ血中シトルリン低値であり,尿素サイクル異常症が示唆された.亜鉛欠乏(49 μg/dL)に対して亜鉛補充を開始したところ,高アンモニア血症と血中シトルリンは正常化し,見当識障害は改善した.以上の経過から,亜鉛欠乏による一過性のオルニチントランスカルバミラーゼ活性低下から高アンモニア血症を来したと推察された.本例のような長期の食思不振から低栄養状態が疑われる場合には,亜鉛欠乏に伴う一過性高アンモニア血症も鑑別に挙げる必要があると考えられる.