著者
谷口 尚大郎 永濵 清子 岩切 美津代 平井 亜優美 梶原 睦美 長野 文子 有村 保次
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.199-207, 2023-03-30 (Released:2023-03-30)
参考文献数
24

糖質の過剰摂取は肥満や2型糖尿病を増加させ,糖尿病患者の血糖管理を悪化させる.本研究では,19人の健常成人を対象に,カロリー算出に係る糖質量が100 g当たり5 g未満を満たす低糖質ケーキ摂食後の糖・脂質代謝に及ぼす影響を通常ケーキ摂食後と比較するランダム化単盲検プラセボ対照群間比較試験を行った.主要評価項目の食後60分の血糖値に有意差はなかったが,副次評価項目の血糖およびインスリンの食後30分値,上昇曲線下面積および最大増加量は低糖質ケーキ群が有意に低かった.活性型GLP-1は,食後60分以後に低糖質ケーキ群で有意に高かった.遊離脂肪酸が食後90分以後に低糖質ケーキ群で高かったが,食前からの上昇はなかった.中性脂肪,RLP-C,ApoB-48に群間差はなかった.以上より,健常成人において低糖質ケーキは血糖上昇を抑え,活性型GLP-1濃度を上昇させた.長期摂食による健康影響は今後の課題である.
著者
豊田 隆謙 佐藤 信一郎 工藤 幹彦 後藤 由夫
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.133-138, 1974-03-31 (Released:2011-08-10)
参考文献数
11

アルギニンによるインスリン分泌にはグルコースの存在が必要である. しかしアルギニンによるグルカゴン分泌にたいしてグルコースがどのように作用しているかは明らかではない. ラット膵灌流実験を行ない, グルコース, 0, 50,150,300mg/dlの存在下でアルギニン作用を検討した.アルギニン注入後2分のグルカゴン値はそれぞれ745±46, 2062±106, 3433±127,510±21pg/nlと増加し, その分泌パターンはグルコース濃度0, 50mg/dlでは1相性であり, 150,300mg/dlの条件下では2相性を示した. アルギニン注入によるインスリン分泌はそれぞれ10.7±1.6, 32.4±3.2, 39.0±3.3, 43.2±3.5ng/dlと増加し, 分泌パターンはグルコース濃度0, 50mg/dlでは1相性, 150,300mg/dlでは2相性を示した. この成績はアルギニンによるグルカゴン分泌にはインスリン分泌にたいするのと同様にグルコースの存在が必要であることを示唆している. 特に興味ある事実はグルコース濃度300mg/dlによってグルカゴン分泌が完全に抑制されるようにみえるが, この条件下でもアルギニンがグルカゴンを分泌させることである. このことから次の三つの可能性が考えられる. (1) グルコースはグルカゴン分泌を抑制するがグルカゴン合成にグルコースは必要ではないか,(2) グルコースによって分泌されるインスリンがα 細胞に影響していないだろうか,(3) アルギニンの膜透過にグルコースが必要なのではないかと云うことである.
著者
香月 健志 及川 洋一 島田 朗 伊藤 裕
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.861-865, 2008 (Released:2009-05-20)
参考文献数
13
被引用文献数
6

症例は35歳の肥満男性.32歳時に口渇・多飲・多尿が出現し当院を受診,糖尿病性ケトアシドーシスの診断で入院となった.清涼飲料水の多飲歴はなく,膵島関連自己抗体も陰性であった.インスリン加療にて完全ではないものの内因性インスリン分泌能の改善を認め,退院後33歳時からインスリン加療は中止となり,食事療法のみにてHbA1c 6.0%前後で推移した.その後体重は88 kgから105 kgまで徐々に増加し,34歳時に再び口渇・多飲・多尿が出現し当院を受診,糖尿病性ケトーシスの診断にて再入院となった.インスリン加療を再開し,内因性インスリン分泌能は不十分ながら回復傾向となった.退院後現在まで血糖コントロールは安定している.本症例は経過からketosis-prone type 2 diabetesが疑われた.日本人での報告はほとんど認められず,若干の考察を含め報告する.
著者
鈴木 亨 伊藤 南 名木野 匡 和田 敏弘 星川 仁人 大竹 浩也 五十嵐 雅彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.84-93, 2019-02-28 (Released:2019-02-28)
参考文献数
29

83歳男性.38歳時に2型糖尿病と診断された.81歳時に不明熱と下腿紫斑,肺門部リンパ節腫脹,甲状腺機能低下症で入院したが確定診断には至らず,その後軽快し退院した.外来では経口血糖降下薬でHbA1c(NGSP値)は6 %台であったが,2ヶ月前より急激な血糖コントロール悪化(HbA1c 9.6 %)を認め,精査加療目的に入院した.赤血球連銭形成とγ-グロブリン高値,内因性インスリン分泌能低下に加え,肺門部リンパ節腫脹,膵臓のびまん性腫大,間質性肺炎,腎腫大を認め,血清IgG4は高値であった.肺門部リンパ節・腎生検でリンパ球とIgG4陽性形質細胞の浸潤像を認めIgG4関連疾患と診断された.ステロイド治療が奏功し,血清IgG4値の低下と共に肺門部リンパ節腫脹や膵・腎腫大は縮小し,その後2年間のステロイド治療でインスリン分泌能も改善した.IgG4関連疾患の正確な診断と適切な治療が重要と考えられた.
著者
吉田 俊秀 小暮 彰典
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨 糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
巻号頁・発行日
pp.102, 2005 (Released:2006-03-24)

β3-アドレナリン受容体(β3-AR)は白色脂肪組織における脂肪分解と褐色脂肪組織における熱産生に大きな役割を果たしている。1984年に開発されたβ3-ARアゴニストは肥満動物において著明な抗肥満・抗糖尿病効果を示したが、ゲッ歯類には著効してもヒトには効果がなかった。この効果差の原因は、1989年になり、ヒトとゲッ歯類のβ3-ARの化学構造上の種差によることが明確になった(ヒトβ3-ARは408個、マウスは388個、ラットは400個のアミノ酸より構成される)。1995年には、ヒトβ3-AR遺伝子のTrp64Arg変異がピマ・インディアンにて発見され、内臓脂肪型肥満やインスリン抵抗性、更には、糖尿病とも強く関連することが明らかになり、β3-ARの体脂肪調節に果たす役割の重要性が注目された。演者らも、日本人の34%にβ3-AR遺伝子多型(Trp64Arg)が存在し、ホモ型及びヘテロ型はワイルド型に比べ、糖尿病を6年早く発症すること、糖尿病性網膜症や腎症も2から3倍多く合併すること、更には、安静時代謝量が200kcal/日減弱しており、肥満患者の減量に当たっては食事指導を通常より200kcal減らしたより厳しい食事指導をしないと痩せにくい減量困難さを持つことを見出した。一方、β3-ARアゴニストは褐色脂肪細胞に作用し、熱産生に中心的役割を果たす脱共役蛋白質1(UCP1)を増加させ、白色脂肪細胞及び骨格筋にもUCP1を発現させる働きも持つため、褐色脂肪組織の少ないヒト成人においても有効であることが期待される。近年、脂肪細胞が、レプチン、TNF-α、PAI-1といったサイトカインを分泌し高血圧や糖尿病などの発症に密接に関与していることが明らかにされた。これら生活習慣病の根本的な治療として、内臓脂肪量の減量が重要視され、抗肥満薬としてのヒトβ3-ARアゴニストの開発に期待が高まり現在までに数多くの臨床治験が進められている。しかし、ヒトの安静時代謝量を著増させるアゴニストも発見されたが、耐えがたい皮膚紅潮などの副作用が出現するため、現在は多くの製薬メーカーにて改良が加えられている段階である。また、臨床応用時に懸念されたβ3-AR遺伝子多型の有無による効果差や、慢性投与時の受容体の発現調節についても知見が得られている。本講演では、現時点でのβ3-ARに関する最新情報を述べてみたい。
著者
玉川 えり 松岡 有子 角谷 佳城 山田 正一 藤田 篤代 三家 登喜夫
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.247-253, 2023-04-30 (Released:2023-04-30)
参考文献数
23

近年,インスリンアナログ製剤が広く用いられているが,これら使用者の抗インスリン抗体を測定し,その有無と臨床像を検討した.初めてのインスリン治療に際し,同一製剤(ヒト:22名,アスパルト:31名,リスプロ:23名,グラルギン:23名)を1年間以上使用している2型糖尿病患者を対象に,抗インスリン抗体を放射免疫測定法(抗原:ヒトインスリン)で測定した.その結果,抗体陽性者はヒト:0 %,アスパルト:58.1 %,リスプロ:39.1 %,グラルギン:34.8 %であった.アナログ使用者で,体格指数,HbA1c,インスリン治療期間,併用糖尿病薬の有無で補正した検討で,1日インスリン投与量は,抗体陽性群で有意に(p=0.009)多かった.その増加分は陰性群の34.3 %であった.以上より,アナログ使用患者では,かなりの高頻度で抗インスリン抗体が認められ,治療に際しより多くのインスリンを必要としていた.
著者
加藤 光二 綿谷 一知
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.151-158, 1978-02-28 (Released:2011-08-10)
参考文献数
10

従来より標準体重の求め方には種々の方法が紹介されているが, 数式を用いて身長から標準体重を算出する方法としては, Broca法, Jones法などがあり, わが国では8roca法の変法である {(身長 (cm)-100) ×0.9}(kg) の式が慣用されている.しかしすでに諸氏の指摘もあるように, この式は簡単ではあるが, 実際と適合しない点も多い.今回, われわれは大阪府八尾市付近在住者の体格を調査する機会を得たので, この成績と過去の諸氏の成績や厚生省栄養審議会の答申資料などを比較検討した結果, 日本人の体格は戦後次第に向上し, 身長はかなりの伸びを示したものの, 青壮年期における身長に対する体重の比率に関しては, 年代差や地方差が少ないことを認めた.現在なお標準体重の定義に関して種々問題はあるが, 日本人の青壮年期の体型が年代の変化にあまり影響されなければ, 一応それを日本人の標準体重と考えてもよいのではないかとの観点から, 年代差ならびに地方差の少ない20~39歳の身長別平均体重を標準体重と考えて, 比較的これに近く, しかも計算が簡単な標準体重簡易計算式{(身長 (cm)-50) ×1/2}(kg)を作成した。
著者
渡辺 洋子 井手 誠 坂根 靖子 岩橋 叔恵 岩橋 徳英 中嶋 久美子 髙栁 宏樹 園田 紀之 小川 佳宏
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.528-533, 2020-08-30 (Released:2020-08-30)
参考文献数
10

思春期は精神心理的問題を抱えやすく,慢性疾患である1型糖尿病を発症し受け入れることは容易ではない.今回我々は,心理社会的課題を抱えた1型糖尿病の女児がインスリンポンプ導入を通じ,自身の課題に向き合い解決へと進むことができた1例を経験したので報告する.患児は13歳時に1型糖尿病を発症.いじめが原因で小学校時から不登校であり,親からのマネジメントを十分に受けていないなど心理社会的問題を抱えていた.幼い兄弟が多く,針による怪我を心配してインスリンポンプを自ら希望した.ポンプ導入の際に,エンパワーメントアプローチや認知行動療法などの心理社会的・行動医学的介入を行った.その結果,患児は糖尿病治療中に遭遇した様々な困難を解決する過程で自己効力感を高め,自立性を得ることができた.治療を通じて自身の心理社会的問題にも取り組み,他者との良好な関係を築けるようになり,学校生活復帰を果たすことができた.
著者
志和 亜華 米田 真康 大野 晴也 小武家 和博 上村 健一郎 首藤 毅 橋本 泰司 中島 亨 中川 直哉 村上 義昭
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.149-155, 2016-03-30 (Released:2016-03-30)
参考文献数
29
被引用文献数
3

膵疾患加療目的に施行された膵頭十二指腸切除術(PD)18例および尾側膵切除術(DP)18例に対し,インスリン分泌能,膵体積量と耐糖能異常の頻度を比較検討した.インスリン分泌能評価はグルカゴン負荷試験を用い,膵体積量は造影CTを施行し計測した.術前の膵体積量,インスリン分泌能および糖尿病有病率に有意差を認めなかった.両群ともに術後インスリン分泌能は残膵体積量と有意な正の相関を認めたが,残膵体積量当たりのインスリン分泌能はDP群がPD群に比べ有意に低下していた.術後糖尿病有病率は術後3ヶ月時点でPD群33.3 %,DP群72.2 %とDP群で有意に高率であり,新規発症は術後12ヶ月時点でPD群14.3 %,DP群63.6 %とDP群で有意に高率であった.DPはPDよりも残膵体積量当たりのインスリン分泌能が低く,耐糖能が悪化する可能性が高いため,慎重な経過観察が必要である.
著者
川崎 英二 丸山 太郎 今川 彰久 粟田 卓也 池上 博司 内潟 安子 大澤 春彦 川畑 由美子 小林 哲郎 島田 朗 清水 一紀 高橋 和眞 永田 正男 牧野 英一 花房 俊昭
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.584-589, 2013 (Released:2013-09-07)
参考文献数
13
被引用文献数
14

1型糖尿病は膵β細胞の破壊性病変によりインスリンの欠乏が生じて発症する糖尿病であり,発症・進行の様式によって,劇症,急性,緩徐進行性に分類される.今回,本委員会において急性発症1型糖尿病の診断基準を策定した.劇症1型糖尿病の診断基準を満たさず,口渇,多飲,多尿,体重減少などの糖尿病(高血糖)症状の出現後,おおむね3か月以内にケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥り,糖尿病の診断早期より継続してインスリン治療を必要とする患者のうち,経過中に膵島関連自己抗体の陽性が確認されたものを「急性発症1型糖尿病(自己免疫性)」と診断し,同患者のうち膵島関連自己抗体が証明できないが内因性インスリン分泌が欠乏(空腹時CPR<0.6 ng/ml)しているものを単に「急性発症1型糖尿病」とする.しかし,内因性インスリン分泌欠乏が証明されない場合,あるいは膵島関連自己抗体が不明の場合には診断保留として期間をおいて再評価することが重要である.
著者
蜂屋 瑠見 菅波 孝祥 小川 佳宏
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.480-482, 2011 (Released:2011-08-09)
参考文献数
5
被引用文献数
2
著者
木島 弘道 坂井 恵子 増田 創 加藤 雅彦
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.665-668, 2006 (Released:2009-01-19)
参考文献数
3

症例は69歳女性.2型糖尿病,橋本病,高血圧症の治療を受けていたが,失神・脱力発作を繰り返すようになり当科に入院となった.失神発作の原因は冠血管造影にて右冠動脈起始部の完全閉塞がみられたことから,房室ブロックあるいは洞停止によるものと考えられた.入院前に使用していたグリベンクラミド,ボグリボースに代えて,塩酸メトホルミン(メデット®,以下Met)ならびに混合型インスリンを併用し血糖コントロールを改善したうえでペースメーカー植込み術を行った.しかし,この前後から乾性咳,微熱,呼吸困難感を自覚.画像検査で間質性肺炎と大量の胸水貯留が認められた.Metの中止とプレドニゾロン投与で改善がみられたが,Met再投与で微熱と息切れの再燃がみられた.Netによる薬剤リンパ球刺激試験の結果も陽性であり,同剤の投与による薬剤誘起性間質性肺炎と考えられた.
著者
馬殿 恵 今川 彰久 阿比留 教生 粟田 卓也 池上 博司 内潟 安子 及川 洋一 大澤 春彦 梶尾 裕 川﨑 英二 川畑 由美子 小澤 純二 島田 朗 高橋 和眞 田中 昌一郎 中條 大輔 福井 智康 三浦 順之助 安田 和基 安田 尚史 小林 哲郎 花房 俊昭 日本人1型糖尿病の成因診断病態治療に関する調査研究委員会
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.37-46, 2019-01-30 (Released:2019-01-30)
参考文献数
34
被引用文献数
5

抗PD-1抗体投与後に発症する1型糖尿病について,日本糖尿病学会員への調査と文献検索を行い22症例を検討した.初回の薬剤投与日から発症までの平均期間は155日,発症時の平均年齢63歳,平均血糖値617 mg/dL,平均HbA1c8.1 %,尿中C-ペプチド4.1 μg/日(中央値),空腹時血中C-ペプチド0.46 ng/mL(中央値)であった.31.6 %に消化器症状,27.8 %に感冒様症状,16.7 %に意識障害を認め,85.0 %でケトーシス,38.9 %で糖尿病性ケトアシドーシスを発症した.50.0 %が劇症1型糖尿病,50.0 %が急性発症1型糖尿病と診断された.膵外分泌酵素は52.6 %で発症時に,28.6 %で発症前に上昇した.1例でGAD抗体陽性であった.抗PD-1抗体投与後に発症する1型糖尿病は,劇症1型糖尿病から急性発症1型糖尿病まで幅広い臨床病型を呈し,高頻度に糖尿病性ケトアシドーシスを発症するため,適切な診断と治療が不可欠である.
著者
井上 光子 鎌田 裕二 坂東 慧 田口 朋 村田 秋穂 新井 梨衣那 佐々木 紗也加 林 哲範 高野 幸路 七里 眞義
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.214-219, 2019-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
25

67歳男性.インフルエンザワクチン接種2日後に口渇を認め,1週間で体重が6 kg減少した.ワクチン接種9日後に受診し,空腹時血糖329 mg/dL,HbA1c 8.4 %,尿中ケトン3+,pH 7.430,HCO3- 21.5 mmol/Lであり,糖尿病性ケトーシスで入院した.先行する上気道症状はなく,受診19日前はHbA1c 5.7 %であった.入院時,膵外分泌酵素は上昇し膵島関連自己抗体はZnT8抗体のみ陽性であった.尿中CPR 22.4 μg/日,グルカゴン負荷試験でCPR前値0.54 ng/mL,6分値1.15 ng/mLと,内因性インスリン分泌は枯渇せずに留まっていた.HLAタイピングは自己免疫性1型糖尿病の疾患抵抗性を示すDQB1*06:01:01/06:02:01であった.本症例は劇症1型糖尿病に類似し,発症にインフルエンザワクチンの関与が示唆された急性発症1型糖尿病である.
著者
井土 哲志 大井 あや 三輪田 勤 富貴原 紗侑里 笠井 貴敏 伊藤 雅子 赤羽 貴美子 吉岡 修子 井上 裕康
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.331-338, 2020-05-30 (Released:2020-05-30)
参考文献数
11

【症例】42歳女性【既往】14歳Basedow病(以下GD),35歳 緩徐進行1型糖尿病,40歳 側頭葉てんかん【現病歴】X年2月に歩行時ふらつきを自覚,4月にシックデイとGD悪化で入院.改善し退院したが,6月に眼振と小脳失調症状を認め再入院となった.血清・髄液抗GAD抗体と血清抗グリアジン抗体陽性から自己免疫性小脳失調症と診断した.血漿交換,ステロイドパルス療法及びプレドニゾロン内服,グルテン制限食などの治療により改善し独歩退院となった.プレドニゾロン内服のためインスリンは増量となったが,血漿交換後にGDは改善し抗甲状腺薬は中止となった.【考察】多腺性自己免疫症候群(以下APS)3型の経過中に自己免疫性小脳失調症を発症した貴重な1例で,治療経過と併存症への影響について報告する.自己免疫性内分泌疾患を背景に持つ患者が小脳失調症状を呈する場合,本疾患を疑い早期に精査を行うべきである.
著者
藤沼 宏彰 星野 武彦 吉田 忍 熱海 真希子 山崎 俊朗 清野 弘明 菊池 宏明 阿部 隆三
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.9, pp.821-826, 2000-09-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
8

中高年層で広く実施されているゴルフ練習の, 糖尿病運動療法としての有効性について検討した. 男性2型糖尿病患者18例を対象に2つの調査を行った (調査1: 9例, 調査2: 9例), 調査1では練習場でのショットを実施して心拍数, 血圧, 血糖変動を測定し, 無酸素性作業閾値に相当する心拍数を強度の指標にした自転車運動と比較した. 調査2は研究室内で回転式の練習機によるショットを実施し, 酸素消費量を測定して自転車運動と比較した、ゴルフ練習中の心拍数は無酸素性作業閾値に相当する心拍数を超える者が多かった. しかし, 予測最大心拍数の74.6%と, 糖尿病運動療法に対する運動強度として適度な範囲にあった. ゴルフ練習直後の血圧は自転車運動中の血圧よりも低い傾向にあった. ゴルフ練習は自転車運動と同様に, 昼食後1時間から1時間30分にかけての血糖上昇を抑制したが, 運動終了30分後のリバウンドは大きい傾向にあった. ゴルフ練習の酸素消費量は, ピッチングショット時には自転車運動より少なかったが, ウッドでのショット時には自転車運動と同様の値を示した, 酸素消費量から推定した総工ネルギー消費量は自転車運動と同様であった.これらのことからゴルフの運動の糖尿病運動療法としての有効性が示唆された.
著者
岡田 章 荒木 躋 金 政全 繁田 幸男 泉 寛治
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.89-94, 1972-03-31 (Released:2011-08-10)
参考文献数
17

Following ingestion of the caffeinated beverages, such as coffee, tea or green tea, with either sodium cyclamate or sucrose (20g) as a sweetening, changes in blood glucose, serum cholesterol, triglyceride and free fatty acid levels were studied in diabetics, and following results were obtained:1. The caffeine content ingested in this study was 370 mg/ 8 g of instant coffee, 150 mg/ 4g of instant tea and 110 mg/ 4g of green tea, respectively.2. Blood glucose levels did not change after ingestion of the caffeinated beverages with sodium cyclamate. With sucrose, a slight increase in blood glucose levels was observed in normal and diabetic subjects.3. A significant increase in free fatty acid levels was observed when the caffeinated beverages were ingested with sodium cyclamate. With sucrose, on the other hand, the increase in free fatty acid levels was suppressed during the first 2 hours after ingestion.4. The lipolytic effect was the greatest after coffee and the least after green tea among the three caffeinated beverages. The positive relationship between the lipolytic effect and the caffeine content in these beverages was found.5. There were no significant changes in serum cholesterol and triglyceride levels after ingestion of the caffeinated beverages.As judged by the change in free fatty acid levels, sucrose is recommended as a sweetening for the caffeinated beverages in mild diabetics.
著者
飯嶋 寿江 加瀬 正人 相良 匡昭 加藤 嘉奈子 清水 昌紀 西田 舞 友常 孝則 田中 精一 青木 千枝 城島 輝雄 鈴木 國弘 黒田 久元 麻生 好正
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.707-714, 2015-09-30 (Released:2015-09-30)
参考文献数
30
被引用文献数
1

症例は70歳,女性.1型糖尿病,うつ病にて加療中,自殺企図のためインスリンデグルデク300単位,インスリンリスプロ300単位を皮下注射し,注射3時間後に意識障害で家族に発見され,当院救急外来に搬送となり,入院となる.簡易血糖測定では,測定感度以下(30 mg/dl未満)を示し,血清インスリン値は2972.1 μU/mlと極めて高値を示した.直ちに,ブドウ糖の静脈投与を開始した.低血糖は大量注射30時間後を最後に認めなかったものの,大量投与36時間後の血清インスリン値は1327.0 μU/mlと依然として高く,低血糖の予防のため,第6病日まで経静脈的ブドウ糖投与を継続した.本症例の経過より,インスリンデグルデクの大量投与症例では他のインスリン製剤以上に長時間にわたる注意深い観察と対応が必要であると思われた.インスリンデグルデク大量投与による遷延性低血糖の症例は極めて稀であり,文献的考察を加え報告する.
著者
山田 ルミ 稲垣 美智子 北出 優華子 古屋 圭介 津田 真一 伊藤 弘樹 西澤 誠 中川 淳 中野 茂 古家 大祐
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.392-397, 2012 (Released:2012-07-20)
参考文献数
19
被引用文献数
2

【目的】糖尿病足壊疽などの重症足病変を予防するためには,壊疽の前駆所見のひとつである皮膚病変(乾燥や亀裂などの軽微な異常)への対策が重要である.そこで,保湿剤を自己塗布させる手法を用いたフットケア教育が患者の足に対する認識(意欲・関心)と行動を改善させることができるかどうかを検証することを目的とした. 【方法】糖尿病神経障害を有する糖尿病患者を対象に清潔ケアに加え保湿剤を自己塗布する実験群と清潔ケアのみを指導する対照群に群分けした.認識と行動は,質問紙による面接を行ない,介入前と比較し3か月後に改善がみられた患者を「向上」と判定し両群を比較した. 【結果】両群の性別,年齢,糖尿病罹病期間に有意差はなかった.行動は実験群で有意に改善し(p<0.01),意欲は向上傾向を示した.しかし,関心には有意差はなかった. 【考察】本研究において,保湿剤を用いた教育は糖尿病患者のフットケア行動を向上させたことが示された.この結果は,保湿教育が軽微な皮膚病変を有する時期における糖尿病患者のフットケアに役立つことを示唆している.