- 著者
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岸谷 正雄
- 出版者
- 一般社団法人 日本糖尿病学会
- 雑誌
- 糖尿病 (ISSN:0021437X)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, no.7, pp.685-695, 1980
糖尿病患者 (DM) 54名 (男27女27: 平均47歳) を対象に, 髄液 (CSF) 総蛋白濃度 (TP) 測定及びDisc電気泳動法を用いるTP分画組成分析を実施し, 糖尿病性合併症 (神経症, 網膜症, 腎症) の有無別に正常対照者 (N) 12名 (男6女6: 平均42歳) の成績と比較検討した. その結果,(1) 合併症を有しないDM群 (n=23) のTPにおいては, 平均値は33±2mg/d<I>l</I>と正常値 (N群mean土2SD: 26土13mg/d<I>l</I>) に比し有意の高値 (P<0.05) を示した. 合併症を伴うDM群 (n=31) では54±7mg/d<I>l</I>とさらに有意の上昇をみとめた. また, 網膜症の程度 (Scott分類) とTPの間には有意の相関をみとめた. 神経症のみを伴う12例のTP平均値は正常域にあり, 細小血管症 (MA) (網膜症及び腎症) のみを伴う3例のそれは異常高値であった. 血糖値とTP間に一定の傾向をみとめなかった。(2) TP分画は, prealbumin (PrA), albumin (A),α-lipoprotcin (α-LP),α'-globulin (α'-G), transferrin (Tr),β'-globulin (β'-G),γ'-globulin (γ'-G), slow α<SUB>2</SUB>-globulin (S<SUB>α2</SUB>-G) に泳動分離され, 合併症 (+) 群ではA,α-LP,α'-G, Tr,γ'-G, S<SUB>α2</SUB>-G分画濃度の増加がみとめられ, 網膜症の進展と相関する有意の高値をみとめた. MA (+) 群のTP上昇にはA,α'-G, Tr,γ'-G, S<SUB>α2</SUB>-G分画濃度増加が関与し, MAのみを伴う群ではとりわけTr, S<SUB>α2</SUB>-G分画濃度増加が著しかった. (3) MA (+) 群の蛋白分画濃度百分率はγ'-G, S<SUB>α2</SUB>-G分画の増加が特徴的であった.<BR>以上の成績から, DM群におけるCSF・TP増加には神経症よりむしろMAの関与が大きいこと, さらにMA (+) 群ではDisc電気泳動上S<SUB>α2</SUB>-G分画上昇が特徴的であることが示された。