著者
髙尾 昌樹
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.562-569, 2018-10-25 (Released:2018-12-11)
参考文献数
18

100歳を超える人,特に健康で100歳を迎えた人の脳病理所見を研究することは,加齢に伴う脳の変化を考える上で重要であると考える.実際,加齢とともに進展・悪化すると考えられてきた,アルツハイマー病の脳病理変化は,超高齢者において無制限に進行するわけではない.超百寿(110歳以上)の研究もふまえれば,むしろ病理変化の進行がみられていないともいえる.こういった加齢変化の少ない超高齢者の脳組織を用いた研究は,加齢変化のメカニズムを解明することにつながる可能性もある.
著者
野出 孝一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.630-632, 2005-11-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
8

心筋細胞にもエストロゲン受容体, 両方が局在し, 女性ホルモンであるエストロゲンが心筋の肥大・炎症に抑制効果を有することが明らかになった. 臨床例でも, 高齢女性が高血圧による心肥大・心不全を合併しやすいことや, ホルモン補充療法が心肥大を抑制することが報告されている. エストロゲンが心筋細胞肥大を抑制するメカニズムとしては, ERK・AP-1活性化の抑制作用やカルシニューリン・NFAT3の活性化抑制作用, さらにその上流にあるGqに対する直接作用がわかってきた. 本稿では, エストロゲンの心筋細胞について自験例も含めて概説する.
著者
会田 薫子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.446-455, 2022-10-25 (Released:2022-12-06)
参考文献数
35

長寿化に伴い医学的・倫理的に新たな課題が生じている.従来,末期腎不全患者には腎代替療法として血液透析を中心とする透析療法が行われてきた.しかし,高齢者のなかには体外循環に忍容性を持たない患者が少なくなく,血液透析によって益よりも害がもたらされる場合もあると報告されるようになってきた.老化が進行した高齢患者に対しては血液透析よりも対症療法と緩和ケアを軸とする保存的腎臓療法(conservative kidney management:CKM)のほうが生命予後と機能予後およびQOLに関して優位という報告もみられるようになってきた.こうした知見を背景に,西洋諸国ではCKMへのアクセスが拡大している.日本でも『高齢腎不全患者のための保存的腎臓療法―CKMの考え方と実践』(2022)が刊行された.これは日本における最初の「CKMガイド」である.暦年齢だけでなく高齢者総合機能評価等を踏まえた療法選択が望まれる.療法選択に関する意思決定支援について,同「ガイド」は共同意思決定(shared decision-making:SDM)を推奨している.SDMでは医療・ケアチーム側からは医療・ケアの情報を患者・家族側に伝え,患者側は自らの生活と人生の物語りに関する情報を医療・ケアチーム側に伝える.双方はコミュニケーションをとりつつ,患者の価値観・人生観を反映した物語りの視点で最善の選択に至ることを目指す.SDMのプロセスをともにたどりつつ,将来,本人が人生の最終段階に至り意思決定能力が不十分となった場合に備え,本人の医療・ケアに関する意向を事前に把握するために双方で対話を繰り返しておくと,それがアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)になる.ACPの適切な実施は最期まで本人らしく生きることを支援する.
著者
荒井 秀典
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-5, 2019-01-25 (Released:2019-02-13)
参考文献数
2
被引用文献数
2 6

2018年9月の時点で我が国の高齢化率は28%を超え,70歳以上の高齢者も20%を超えた.言うまでもなく日本は世界で最も高齢化が進んでいる国である.2025年頃には国民の約3分の1が65歳以上となることが予想され,平均余命も1960年に比べ,20歳近く延伸している現状を考えると,高齢者の定義を65歳以上とすることの是非を議論すべき時期になったと言わざるを得ない.日本老年学会,日本老年医学会はこのような背景を受けて高齢者の定義を再考するためのワーキンググループを立ち上げ,科学的な観点から提言を2017年に発表した.すなわち,身体的に日本人高齢者が若返っている客観的事実と支えられるべき高齢者を75歳以上とする日本人が多数を占めているという実情から,75歳以上を高齢者とし,65歳から74歳までを准高齢者とすることを提言した.活力ある社会を維持していくためには,65歳という暦年齢をもって高齢者と定義することを改め,元気で意欲のある高齢者が活躍するエイジフリー社会を創造していくことがますます重要となってくる.
著者
原山 茉優 永井 宏達 大川 夏実 佐野 恭子 楠 博 玉城 香代子 和田 陽介 辻 翔太郎 新村 健
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.483-490, 2022-10-25 (Released:2022-12-06)
参考文献数
30

目的:地域在住高齢者における身体活動量とアパシーの関連を明らかにすることである.方法:本研究は地域在住高齢者を対象とした横断研究である.アパシーの評価には日本語版Geriatric Depression Scale15の下位項目のうち,アパシーに関する項目である3項目を用いた.身体活動量はリストバンド型身体活動量計を用いて,2週間あたりの中強度以上身体活動量,低強度身体活動量,座位行動を測定した.統計分析として,アパシーの有無と各強度別身体活動量の関連について,ロジスティック回帰分析を用いて検討した.結果:784名(平均年齢72.7±5.9歳)が解析対象となった.対象者のうち,アパシー群は103名(13.1%),非アパシー群は681名(86.9%)であった.多変量解析の結果,基本属性により調整したモデルでは,総身体活動量(OR=0.947,95% CI=0.912~0.984,p=0.005),低強度身体活動量(OR=0.941,95% CI=0.899~0.985,p=0.009),座位行動(OR=1.002,95% CI=1.001~1.003,p=0.007)がアパシーの有無に有意に関連していた.一方,中強度以上身体活動量はアパシーとの有意な関連が認められなかった(OR=0.916,95% CI=1.826~1.017,p=0.100).機能的な因子による調整を加えた最終モデルでは,身体活動量のすべての強度レベルにおいてアパシーとの有意な関連性はみられなくなり,うつ症状を表すGDS-12とアパシーとの強い関連が示された.結論:アパシーを呈する高齢者では,総身体活動量,低強度身体活動量が低下しており,座位行動が延長していた.しかしながら,それらはうつ症状の影響を強く受けており,身体活動量とアパシーの独立した関係は認められなかった.
著者
佐竹 昭介
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.319-328, 2018-07-25 (Released:2018-08-18)
参考文献数
29
被引用文献数
4 10

基本チェックリストは,近い将来介護が必要となる危険の高い高齢者(二次予防事業対象者)を抽出するスクリーニング法として開発され,2006年の介護保険制度改正の際に,介護予防把握事業の一部として導入された.基本チェックリストは,「はい」または「いいえ」で回答する自記式質問票であり,日常生活関連動作,運動器,低栄養状態,口腔機能,閉じこもり,認知機能,抑うつ気分,の7領域25個の質問群からなっている.この各領域において,二次予防事業対象者または留意すべき対象者の選定基準が決められており,地域在住高齢者を対象とした疫学調査において妥当性が検証されている.選定基準の中で,「うつを除く20項目中10項目以上に該当する場合」に自立機能を失う危険性が最も高く,多面的な評価の重要性が示唆されている.基本チェックリストに含まれる各領域は,近年注目されている「フレイル」の要素としても重要なものである.これらの要素をすべて含む基本チェックリスト総合点は,他のフレイル評価法と有意な相関性を示す.また,総合点に基づくフレイル状態の評価は,予後予測の点でも有用性が認められ,フレイル評価法として妥当性があると考えられる.総合点による評価と各領域別の評価を組み合わせることで,フレイル状態の把握のみならず,介入すべき対象領域の特定にも利用できる.基本チェックリストは,介護予防事業の変遷とともに,その存在意義や役割が変化しているが,決して有効性がなかったわけではない.むしろ,国内外のフレイルに関するガイドラインでも,妥当性のあるフレイル評価法として挙げられている.介護予防事業における変遷は,より有効な活用を模索する過程として捉え,健康長寿社会の構築に向けたフレイル予防のために,高齢者を取り巻くさまざまな場面で基本チェックリストが活用されることが望まれる.
著者
下方 浩史 安藤 富士子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.721-725, 2012 (Released:2013-07-24)
参考文献数
16
被引用文献数
8 8

加齢に伴って筋肉量が減少し,筋力を維持できなくなってしまうサルコペニアは高齢者の日常生活機能を低下させる.われわれは栄養摂取等の生活習慣や既往歴など,サルコペニアのリスク要因について,無作為抽出された40歳以上の地域在住男性1,783名,女性1,825名での10年間,延べ14,010回の測定の縦断的データを用いて網羅的に検討を行った.二重エネルギーX線吸収装置(DXA)での筋肉量から診断されたサルコペニアでは喫煙,運動不足,総エネルギー摂取量の不足,たんぱく質・分岐鎖アミノ酸不足,自覚的健康が良くないことなどがリスクになっていた.65歳以上のみを対象とした身体機能からの診断されたサルコペニアでもDXAでの診断の場合と同様に検討を行った.喫煙がリスクになっており,総エネルギー摂取量,ビタミンD,たんぱく質,分岐鎖アミノ酸摂取が意にリスクを下げていたが,身体活動との関連は有意ではなかった.
著者
荒幡 昌久 栗山 政人 米山 宏 南 真司
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.63-70, 2011 (Released:2011-03-03)
参考文献数
27

目的:高齢者嚥下性肺炎は予後不良の疾患であり,在院日数を延長させる.本症は感染症としての肺炎治療のみでは十分でなく,咳反射や脳循環を改善する薬物治療,看護や介護,リハビリテーション,栄養管理が必要とされる.今回我々は,高齢者嚥下性肺炎に対し,多職種に対する教育および多職種によるチェックシートとカンファレンスを用いた包括的で個別的な介入を行い,その予後を改善できるか検討した.方法:2008年1月15日から4月15日に発症した75歳以上の嚥下性肺炎を対象に,診断直後からプロジェクトチームが介入し,チェックシートやカンファレンスで病態を整理し,多職種間で問題点を共有しながら個別化された対策を行った.肺炎転帰,在院日数,肺炎治癒後の予後について,2007年の同期間と比較し介入の効果を判定した.結果:試験期間中に45回の肺炎があり,41回(34例)を分析対象とした(介入群;87.5±5.7歳,男性15例,女性19例).前年の同期間に51回(46例)の分析対象となる嚥下性肺炎があった(対照群;87.5±6.4歳,男性24例,女性22例).介入群で7例,対照群で5例の再発があり,介入群では再介入により評価と対策を改めた.再発を含めた肺炎転帰では,介入群で死亡率の低下傾向を認めた(4.9% vs. 17.6%,P=0.061)が,在院日数には有意差はなかった(47.2±35.0日vs. 55.6±52.1日,P=0.454).肺炎治療後1年(再発例では最後の治療終了から1年)での無再発生存率は介入群で高かった(48.5% vs. 24.3%,P=0.040).結論:高齢者嚥下性肺炎に対する包括的介入は,肺炎治癒率や在院日数よりも,長期的予後である1年後無再発生存率を改善させた.
著者
大井 一弥
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.498-503, 2019-10-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
12
被引用文献数
3

目的:薬剤師は,患者の薬歴,症状,検査値を把握することで患者の服用支援に努め,医薬品適正使用を推進していく責務がある.本邦は,超高齢社会の最中にあり,65歳以上の高齢者の割合が総人口の4分の1を超えている.高齢者はさまざまな疾患に罹患しやすくなり,必然的に薬剤の服用数が増え,ポリファーマシーが問題となっている.今回我々は,薬剤師による疑義照会がもたらすポリファーマシー是正効果について検討を行った.方法:2018年9月から同年11月までの3カ月間,在宅または外来において疑義照会が行われた65歳以上の患者を対象とした.対象患者の性別,年齢,疑義照会による処方変更の有無,疑義照会前後の薬剤総数,処方変更があった場合には4週間以降の症状の変化について検討した.結果:疑義照会対象患者は361例で,年齢は80歳代が最も多かった.処方改変のあった患者数は,349例で全体の96.7%であった.疑義照会前の薬剤数は,7.2剤であったが疑義照会後は6.0剤となり,平均薬剤数1.2剤減少となった.また,6剤以上処方されているポリファーマシー患者が疑義照会前の67.3%から疑義照会後53.7%へと有意に減少した.高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015にある,特に慎重な投与を要する薬物に対する提案は,33.7%であった.疑義照会による処方提案後,4週間以降の症状の変化は,変化なしが84.5%であった.結論:本研究によって,薬局薬剤師は疑義照会により高齢者のポリファーマシーに積極的に介入し,処方提案による薬剤数の減少を明らかにした.さらに,減薬の提案の中で,フィジカルチェックや検査値に基づいて行ったものもあり,今後,薬局薬剤師が疑義照会の質を上げるためにも検査値の情報は,重要なツールになるものと考えられた.
著者
橋爪 潔志
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.482-484, 2008 (Released:2008-12-05)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1
著者
海老原 孝枝 大類 孝 海老原 覚 辻 一郎 佐々木 英忠 荒井 啓行
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.448-451, 2007 (Released:2007-09-06)
参考文献数
3
被引用文献数
2

Angiotensin converting enzyme (ACE) inhibitor plays an important role not only as an antihypertensive drug but also for prevention of various complications related to geriatric syndrome. Pneumonia in the disabled elderly is mostly due to silent aspiration of oropharyngeal bacterial pathogens to the lower respiratory tract. Aspiration is related to the dysfunction of dopaminergic neurons by cebrovascular disease, resulting in impairments in both the swallowing and cough reflexes. ACE inhibitor can increase in the sensitivity of the cough reflex particularly in older post-menopausal women, and improvement of the swallowing reflex. In a 2-year follow-up study in stroke patients, patients who did not receive ACE inhibitors had a higher risk of mortality due to pneumonia than in stroke patients who were treated with ACE inhibitor. Moreover, the mortality of pneumonia was significantly lower in older hypertensive patients given ACE inhibitors than in those treated with other antihypertensive drugs. On the other hand, we found a new benefit of ACE inhibitor on the central nervous system. The mortality in Alzheimer's disease patients who received brain-penetrating ACE inhibitor was lower than in those who received other antihypertensive drugs. In a 1-year follow-up study, cognitive decline was lower in patients receiving brain-penetrating ACE inhibitors than in patients receiving a non-brain-penetrating ACE inhibitor or a calcium channel blocker. Brain-penetrating ACE inhibitors may slow cognitive decline in patients with mild to moderate Alzheimer's disease. ACE inhibitor might be effective for the disabled elderly, resulting in the prevention of aspiration pneumonia and Alzheimer's disease for the elderly.
著者
下方 浩史 安藤 富士子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.195-198, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
5
被引用文献数
11 14

サルコペニアは高齢者の日常生活機能を低下させ,健康長寿の障害となる.われわれは無作為抽出された地域在住中高年者コホートのデータを使用して,日常生活機能と筋力,筋量との関連について検討した.男女ともに40歳以降,握力,下肢筋力は年間約1パーセントずつ低下していた.どの年代でも男性は女性よりも筋力が強く,80代の男性の筋力は40代の女性の筋力にほぼ等しかった.筋力の低下は女性の日常生活機能により大きな影響を与える可能性がある.一方,四肢の筋量は男性では加齢とともに低下するが,女性では加齢による低下はほとんどなかった.このことは女性では筋肉の量的な変化よりも,質的な変化が問題になっていることを示している.日常生活機能は筋肉のパフォーマンスの影響を受け,握力と歩行速度で推定することが可能であった.高齢者の脆弱を予防するためには,これらの評価によりハイリスクの集団を見つけることが重要であろう.
著者
後藤 由夫
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.71-78, 1984-03-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
22

肉眼視できる最も少ない光量の100万分の一ほどの極く弱い光を検出する装置が開発され,その医学分野への応用も可能になった. このような弱い光では光子の流れは不連続で計測結果は電流としてではなく, 単位時間当りの光子数として表わされる.微弱な発光としては, 古くからホタルなどの luciferin-luciferase 反応によるものや, 発光蛋白質の分解により発光する生物種などが知られ, 生物発光と呼ばれている. 他方, luminol に代表される化学発光がある. 両者は励起分子が発光する点において同一である.この化学発光に属するものに一重項酸素の発光がある. 即ち, 励起状態の活性酸素である一重項酸素が基底状態の三重項酸素に遷移する時に光子を放出する. この性質を利用し生体試料中での一重項酸素の存在を知ることができる. ただし, 他にも発光種はあるので注意を要する.生体試料中での一重項酸素などによる発光は肉眼視できぬ極く微弱なもので極微弱発光と呼ぼれ, その中でも血液の発光のように極端に弱い発光を超微弱発光と称している.われわれは人の血液の超微弱発光の計測を行ない, 主として血漿に関して, 糖尿病や諸肝疾患で発光量が高いことを認めた. scavenger や発光スペクトルの分析からこれらの発光に一重項酸素の関与が示唆された.正常人でも喫煙すると血液の超微弱発光が増加することが見い出された. この現象は禁煙により消失することも判明した. また, タバコの煙自体も強い超微弱発光を示し, 一重項酸素がその発光に関与すると推察された.free radical や活性酸素は老化や疾患と関連して注目されているが, 臨床的には扱いにくい. その中で一重項酸素を超微弱発光として把える手段は有用であり, その実用例を紹介した.
著者
北村 伸 中村 祐 本間 昭 木村 紀幸 浅見 由美子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.74-84, 2014 (Released:2014-04-18)
参考文献数
7
被引用文献数
1

目的:メマンチン塩酸塩(メマリー®)は本邦では2011年6月に発売され,中等度および高度アルツハイマー型認知症に対して使用されている.今回,2002年から2011年までに本邦で実施したメマンチン塩酸塩の種々の臨床試験の結果を集計して,メマンチン塩酸塩20 mg/日投与の長期忍容性と有効性を検討した.方法:2002年から2011年までに実施したメマンチン塩酸塩の臨床試験のうち,メマンチン塩酸塩を投与した702名の被験者を対象に,安全性およびMMSEの推移を検討した.結果:メマンチン塩酸塩の平均投与期間は798.1日,最長は3,373日(約9年3カ月)であり,52週ごとの投与期間別に集計した有害事象発現率は71.0~88.9%,副作用発現率は5.6~32.1%であった.有害事象,副作用ともに発現率と投与期間との間に関連性は認められなかった.また,長期投与に特有と考えられる副作用の発現は認められなかった.試験の途中で中止した主な理由は「有害事象」であったが,長期に及ぶ投与期間中では,加齢や原疾患の進行に随伴する有害事象の発現,および在宅介護環境の変化や原疾患進行に伴う施設入所による投与中止等,被験者の背景的な要因による有害事象や投与中止例が多く集積された.メマンチン塩酸塩を投与した被験者のMMSEスコアの推移は,過去に報告されたメマンチン塩酸塩未投与時のMMSEスコアの推移と比較して緩やかな低下であった.結論:メマンチン塩酸塩20 mg/日の長期投与時の忍容性に問題は認められなかった.また,MMSEスコアの推移を検討した結果では,メマンチン塩酸塩が長期に亘って認知機能の悪化を抑制する可能性が示唆された.
著者
有田 健一 池上 靖彦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.318-324, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
15
被引用文献数
2

目的と方法:282名の医師を対象に患者が表明する終末期の事前指示に対する考え方や対応に関するアンケート調査を行い136名から回答を得た(回収率48%).結果:1.事前指示は"可能な限り表明してほしい"とするものが62%,"ケースバイケースで表明したらよい"とするものは36%を占めた.年齢別にみた医師の事前指示表明に対する積極性には有意な関係があり(p=0.020),特に80%が"可能な限り表明してもらいたい"とする40歳以下の医師と,58%が"ケースバイケースで表明すればよい"とする61歳以上の医師の間にみられた回答選択の有意差は明らかであった(p=0.008).2.患者が事前指示を初めて表明するのにふさわしい時期として,死につながる病気(59%)あるいは一生涯付き合わなければならない病気(47%)と診断された時が上位に選ばれた.3.医師から表明が期待された事前指示は"延命のための人工呼吸器装着"に対する意向(76%)で,次いで"胃瘻や鼻チューブによる積極的な栄養補給"に対する意向(67%)が続いた.4.どの年代の医師も文書での事前指示の表明を求めた.5.表明された事前指示に"したがうべき"とする回答は40歳以下の医師で32%,61歳以上の医師で11%であり,40歳以下では"一つの判断材料として参考にはするが最終的には関係者で決めることになる"とする回答はなかったのに対して,61歳以上では39%がこの回答を選んだ.この年齢別の回答選択には有意差がみられた(p=0.002).結論:医師は事前指示作成を勧奨する意欲を有した.この事前指示を実践する場では,40歳以下の医師は作成済みの事前指示の確からしさをいかに判断するかという点を中心に議論と考察を進め,一方,61歳以上の医師は事前指示の臨床上の位置づけや事前指示で示された患者の意思をいかに具現化するかを中心とした議論や検討を行わなければならない.
著者
小島 太郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.442-448, 2019-10-25 (Released:2019-11-22)
参考文献数
10
被引用文献数
1

高齢者は慢性疾患や老年症候群の増加にともない,ポリファーマシーになりやすい.ポリファーマシーにより薬物有害事象が増大するため薬の見直しが必要であるが,特に減薬は非常に難しい.ポリファーマシーの患者に対してはpotentially inappropriate medicationの見直しはもちろん,定期的に薬物有害事象や臓器障害,服薬アドヒアランスなどさまざまな問題点を多職種にて見直しをしていくことが必要である.
著者
村田 美穂 岡本 智子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.752-754, 2013 (Released:2014-03-13)
参考文献数
12

The frequency of depression in patients with Parkinson's disease is approximately 30-40%. Depression has a significantly negative impact on the QOL in Parkinson's disease patients. It leads to the worsening of tremors and frozen gait without disease progression and decreases the patient's motivation to participate in rehabilitation. The distinguishing feature of depression in patients with Parkinson's disease is that guilt, self-blame and suicidal ideation are rarely seen compared to that observed in patients with major depression. Depression can occur in the pre-motor, diagnostic and advanced stages of Parkinson's disease. In particular, patients with wearing-off symptoms are apt to develop anxiety. As for treatment, it is very important to optimize dopamine replacement therapy. Antiparkinsonian drugs may have beneficial effects not only on the motor symptoms of the disease, but also the patient's mood. Cognitive behavioral therapy (CBT) and peer counseling may also be beneficial.
著者
山甲 佳彦 関原 久彦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.421-428, 2003-09-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
74
被引用文献数
1

副腎アンドロゲン, デヒドロエピアンドロステロン (DHEA) とDHEAサルフェートは二十歳代以降, 加齢とともに血中濃度が減少することが知られており, 老化現象との関連が注目されている. 種々の疫学調査から, 血中DHEA濃度が高いほど, 長命であり, 心疾患が少ないといった報告がなされ, 長寿に関連したホルモンと考えられている. 抗動脈硬化作用, 抗糖尿病作用, 抗骨粗鬆症作用, 痴呆・精神機能改善作用, 抗炎症作用などに関連した, 種々の臨床的, 基礎的研究が行われており, これらに対する発症予防, 進展抑制効果が示されている.抗動脈硬化作用は, 脂質の酸化抑制と, 血管内皮や平滑筋細胞の増殖抑制からなり, 抗糖尿病作用は, インスリン抵抗性改善作用によってもたらされると考えられる. 抗骨粗鬆症作用は, 閉経後女性に対するDHEA補充療法によって示されたが, 補充されたDHEAが末梢組織中でエストロゲンに一部変換され, エストロゲン作用とアンドロゲン作用の双方によって発現していると推測される. DHEAの抗酸化作用は神経細胞においてもみられ, 酸化ストレスによって誘導されるアポトーシスを抑制することで神経細胞の傷害を防いでいると考えられている. また, いくつかの炎症性サイトカイン分泌を抑制することで抗炎症作用を発現することも実験的に示されている.ホルモン補充療法として, 閉経後女性や副腎不全患者にDHEAを投与する試みがすでに海外を中心に始められているが, 有効性に関する一定の見解はまだ得られておらず, 長期大規模臨床試験の実施が望まれる.