著者
河口 謙二郎 横山 芽衣子 井手 一茂 近藤 克則
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.79-89, 2022-01-25 (Released:2022-03-08)
参考文献数
31
被引用文献数
2

目的:高齢者の運動習慣定着に有効な運動プログラムのあり方を検討するために,民間スポーツクラブを利用する高齢者を対象にグループでの運動の実践と運動の継続との関連を明らかにすることを目的とした.方法:2017年6月から2019年3月にかけてリソルの森の健康増進プログラム(ウェルネスエイジクラブ)に6カ月以上参加した65歳以上の227人(女性117人,男性110人)を分析対象とした.半年に1回の質問紙調査,体力測定,年1回の健康診断,及び個人の参加プログラムや参加日時のデータを分析に用いた.24週以上に渡る平均週2日以上の運動プログラム参加を「運動プログラム継続」,平均週1回以上のグループプログラムへの参加を「グループプログラム参加」と定義し,グループプログラム参加と運動プログラム継続との関連をポアソン回帰分析により検証した.結果:グループプログラム参加者は,非参加者に比べて運動プログラムを継続する可能性が高かった(Prevalence ratio=3.63[95% CI:1.98~6.65],p<0.01).性で層化しても,女性(8.08[1.94~33.56],p<0.01),男性(2.84[1.39~5.78],p<0.01)ともにグループプログラム参加と運動プログラム継続に有意な正の関連が認められた.結論:本研究は,民間スポーツクラブに通う高齢者において,グループによる運動プログラムは参加者同士の社会的交流やつながりを増やし運動継続を促進する可能性があることを明らかにした.高齢者のグループ運動への参加を促進することで運動継続者が増加する可能性が示唆された.
著者
埴原 和郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.30, no.11, pp.923-931, 1993-11-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
3
被引用文献数
8 8

本稿で紹介した日本人集団の二重構造モデルは従来の諸説を比較検討し, また最近の研究成果に基づく統計学的分析によってえられた一つの仮説である. このモデルの要点は次のとおりである.(1) 現代日本人の祖先集団は東南アジア系のいわゆる原モンゴロイドで, 旧石器時代から日本列島に住み, 縄文人を生じた.(2) 弥生時代から8世紀ころにかけて北アジア系の集団が日本列島に渡来し, 大陸の高度な文化をもたらすとともに, 在来の東南アジア系 (縄文系) 集団に強い遺伝的ならびに文化的影響を与えた.(3) 東南・北アジア系の2集団は日本列島内で徐々に混血したが, その過程は現在も進行中で, 日本人は今も heterogeneity, つまり二重構造を保っている.以上の観点からさらに次のことが導かれる.(1) 日本人集団の二重構造性は, 弥生時代以降とくに顕著になった.(2) 弥生時代から現代にかけてみられる日本人集団の地域性は, 上記2系統の混血の割合, ならびに文化的影響の程度が地域によって異なるために生じた. 身体形質や文化における東・西日本の差, 遺伝的勾配なども北アジア系 (渡来系) 集団の影響の大小によるところが大きいと思われる.(3) アイヌと沖縄系集団の間の強い類似性は, 両者とも東南アジア系集団を祖先とし, しかも北アジア系集団の影響が本土集団に比較してきわめて少なかったという共通要因による. 換言すれば, 弥生時代以降著しく変化したのは本土集団であった.(4) 古代から中世にかけてエミシ, ハヤトなどと呼ばれた集団は, 本土集団とアイヌ・沖縄系集団が今日のように分離する前の段階にあったもので, その中間的形質をもっていたと考えられる.
著者
犬塚 貴
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.616-618, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
7
被引用文献数
2
著者
奥村 貴裕 室原 豊明
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.34-40, 2018-01-25 (Released:2018-03-05)
参考文献数
18

高齢社会の進行とともに,心不全患者は激増し,パンデミックと形容されるに至った.高齢者心不全の特徴のひとつは,拡張障害に病態の首座をもつ左室駆出率が保たれた心不全(Heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)である.残念ながら,これまでの大規模臨床試験の結果からは,HFpEFに対する有用な薬物治療は確立していない.HFpEFの病態はheterogeneousであることが推察されており,個々の症例の病態を明確にしたうえで,テーラーメイドな治療方針を立てることが望まれる.
著者
坂下 碧 南学 正臣
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.263-274, 2022-07-25 (Released:2022-09-07)
参考文献数
82

腎性貧血は慢性腎臓病に高頻度で合併し,貧血を適切に治療することは,CKD患者の余命延長や身体機能の改善につながる.現状のヒトエリスロポエチン(EPO)製剤による治療では,血栓塞栓症などの副作用やESA抵抗性の問題,高額な治療費・注射の必要性など,社会的な負担が大きい.腎性貧血の新規治療薬であるHIF-PH阻害薬は低酸素誘導因子を安定化させることにより内在性のエリスロポエチンの産生を高め,鉄利用を効率化する.これにより,従来のEPOを使用した治療と比較して,腎性貧血に対してより生理的なメカニズムでの治療が見込め,経口薬であることから非侵襲的であり通院間隔をのばすことも可能となるなどの利点がある.一方でHIFの多面的な作用により,留意すべき副作用も存在する.現在5種類のHIF-PH阻害薬が使用可能となっており,これらの薬剤の臨床研究で明らかとなっている知見なども含めて概説する.
著者
谷内 涼馬 原 天音 森岡 真一 松川 佳代 植西 靖士 長谷 宏明 牧野 恭子 原田 俊英
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.339-346, 2022-07-25 (Released:2022-09-07)
参考文献数
20

目的:高齢パーキンソン病(PD)患者の短期集中入院リハビリテーション(集中リハ)開始時の評価から,2週間後の転倒リスク変動を判別する予測モデルを検討すること.方法:対象は当院にて集中リハを実施した65歳以上のPD患者のうち,集中リハ開始時のTUG-cognitiveが転倒リスクカットオフ値である14.7秒以上であった17名(平均年齢76.5±6.1歳)とした.集中リハ開始2週間後のTUG-cognitiveから転倒リスク低下/残存の2群に分類した.低下群と残存群間における各評価項目の比較および,2週間後の転倒リスク残存/低下を従属変数にしてロジスティック回帰分析を行い,転倒リスク変動に影響を及ぼす要因を検討した.結果:ロジスティック回帰分析の結果,最終的に最大歩行速度が転倒リスク変動の予測因子として抽出された.また,ロジスティック関数から転倒リスク残存の発生率を求め,最大歩行速度が0.84 m/秒以下でハイリスクと判定された.結論:集中リハ開始時のTUG-cognitiveと最大歩行速度から,2週間後の転倒リスク変動を判別できる可能性が示唆された.転倒リスクの低下には,最大歩行速度の向上が重要である.
著者
宮城島 慶 松井 敏史 小原 聡将 三ツ間 小百合 田中 政道 輪千 督高 小林 義雄 長谷川 浩 神﨑 恒一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.260-268, 2015-07-25 (Released:2015-08-13)
参考文献数
24
被引用文献数
4 1

目的:2011年に提唱された医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドラインに従い高齢者肺炎の治療を行い,入院前後の介護度悪化にかかる予後規定因子を検討した.方法:2012年4月から2013年3月にかけて杏林大学付属病院高齢診療科で肺炎の治療を行った112名(平均年齢:86.8±5.5歳,男/女:72/40名)を対象に,退院後にNHCAPガイドラインに従い,市中肺炎(CAP)(29名)とNHCAP(83名)に,NHCAPは更に耐B群(耐性菌リスク無)とC群(有)に分類した.介護度は入院前後にJABCスコアで判定し,肺炎治療後2段階以上のADL低下または死亡を転帰悪化とし,各肺炎群の臨床的特徴と,転帰について評価を行った.結果:NHCAP患者の入院日数はCAP患者に比べて長く(CAP vs. NHCAP:21日vs. 33日,p=0.02 by Mann-Whitney U test),肺炎重症度であるADROPスコアが高値で(CAP vs. NHCAP群:2.45±0.87 vs. 2.88±0.80点,p=0.02),誤嚥を有する頻度が高かった(42.9% vs. 89.2%,p<0.0001).一方,B,C群間ではこれらの項目の程度は同等であった.また各肺炎群における死亡例の頻度に差はなかった.いずれの肺炎群でも入院前後で全体のJABCスケールは悪化し(CAP群,p=0.002;NHCAP-B群,p<0.0001;NHCAP-C群,p=0.01,Wilcoxon順位検定),特にNHCAP-B群では,全体で1ランク低下していた.死亡例を含む2ランク以上の介護度悪化者はCAP群37.9%に対し,NHCAP群は43.8%であった.年齢,性別,入院時JABCスコアで補正したロジスティック回帰分析を行ったところ,NHCAP(CAPに対し相対危険度6.2,95%CI 1.2~32.2,p=0.03),血清アルブミン2.5 g/dl未満(7.8,95%CI 1.7~35.7,p<0.01)が介護度悪化に関与した.一方ADROPスコアや誤嚥の有無は入院による介護度悪化に関与しなかった.結論:NHCAP自体が,栄養状態を反映する血清アルブミン低値とともに,入院による介護度悪化の危険因子であった.NHCAP症例は入院治療で肺炎が軽快しても介護度が悪化する可能性が高く,そのような予後予測を念頭に置いて診療を行う必要がある.
著者
宇良 千秋 宮前 史子 佐久間 尚子 新川 祐利 稲垣 宏樹 伊集院 睦雄 井藤 佳恵 岡村 毅 杉山 美香 粟田 主一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.243-253, 2015-07-25 (Released:2015-08-13)
参考文献数
26
被引用文献数
12

目的:本研究の目的は,地域に暮らす高齢者が自分自身で認知機能や生活機能の低下に気づき,必要なサービス利用につながるようにするための自記式認知症チェックリストの尺度項目案を作成し,因子的妥当性と内的信頼性を検証することにある.方法:認知症の臨床に精通した専門家パネルが37の候補項目で構成される質問票を作成し,65歳以上の地域在住高齢者2,483名を対象に自記式アンケート調査を実施した.探索的因子分析と項目反応理論(IRT)分析を用いて,チェックリストの尺度項目案を作成した(研究1).研究1で作成した尺度項目案を用いて,地域在住高齢者5,199名を対象に自記式アンケート調査を実施した.再び探索的因子分析を行い,10項目の尺度項目案を作成した上で確証的因子分析を行い,信頼性係数を算出した.結果:37の候補項目の探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った結果,5因子が抽出された.因子負荷量0.4以上の項目の内容から,第1因子は「認知症初期に認められる自覚的生活機能低下」,第2因子は「認知症初期に認められる自覚的認知機能低下」と命名した.因子負荷量が大きく,かつIRT分析の傾きの指標が高い項目を10項目ずつ選び,合計20項目からなる尺度項目案を作成した(研究1).20項目の探索的因子分析の結果から,第1因子に強く関連する5項目,第2因子に強く関連する5項目を選出し,10項目の尺度項目案を作成した.この10項目で確証的因子分析を行ったところ,2因子構造であることが確認された(χ2=355.47,df=31,p<0.001,CFI=0.989,GFI=0.985,AGFI=0.973,RMSEA=0.048).第1因子および第2因子に関連する下位尺度のCronbach αはそれぞれ0.935,0.834であり,全項目のCronbach αは0.908であった.結論:2因子構造10項目の自記式認知症チェックリスト尺度項目案を作成し,因子的妥当性と内的信頼性を確認した.
著者
黒田 広生 小川 紀雄 貫名 至 太田 善介
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.500-505, 1983-11-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
25

Alzheimer 病に代表される痴呆を主徴とする疾患や Huntington 病, Parkinson 病などの不随意運動を伴う疾患において, 脳内γ-アミノ酪酸 (GABA) 代謝の異常が指摘されている. 近年の人口の高齢化に伴い, 軽度の不随意運動や知的レベルの低下を呈する老齢者の増加が認められ, これらの老年者においても脳内GABA代謝に何らかの異常の存在することが予想される. そこで今回, 脳内GABA代謝に与える加齢の影響について研究する目的で, 脳内のGABA代謝異常を鋭敏に反映すると考えられている脳脊髄液中GABA (CSF-GABA) 濃度を各年代について測定し, 比較検討を行った.対象は健常人ボランティアおよび神経・精神疾患を有さね患者, 総計34名 (内訳: 男19名, 女15名). 年齢は21歳から81歳におよび, 平均年齢は49歳であった. CSF-GABA濃度測定にはGABA radioreceptor assay (GABA-RRA) 法を用いた.その結果, コントロール群 (20代および30代) のCSF-GABA濃度131±7.5pmoles/ml (mean±SEM) に比し, 50代, 60代, 70代, 80代の対象群のCSF-GABA濃度は有意な低下を認め, 特に70代ではコントロール群の50%, 80代では30%と著しい低値を示した. しかし, 40代では有意差は認めなかった. CSF-GABA濃度と年齢との間にも有意な負の相関関係が認められた (p<0.01). しかもこの関係は男性群, 女性群ともに成立し, 女性群においてより著明であった.これらの結果は, 年齢が進むにつれて脳内GABA代謝に著しい変化が起こることを示しており, 高齢者ほど脳内GABA代謝異常に伴う種々の症状が発現しやすい状態にあることを予測させるものであった.
著者
作田 妙子 守谷 恵未 大野 友久 山田 広子 岩田 美緒 角 保徳
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.323-330, 2019-07-25 (Released:2019-07-31)
参考文献数
15

目的:化粧療法は要介護高齢者や認知症患者に対して実施されているが,現場のニーズについての報告はない.本研究では医療従事者を対象に,高齢者の化粧療法に関する現状を把握することを目的とし質問紙を用いて調査を実施した.方法:A県下高齢者専門医療機関(職員数548名)に勤務する化粧が業務に影響すると考えられる医療従事者190名を対象に自記式質問紙法による調査を実施した.職種,性別,年齢について調査し,看護師は病棟勤務看護師を対象とし配属病棟の調査も実施した.高齢者における化粧療法の認識と容認できる化粧内容について質問した.対象者全体での検討以外に,看護師と療法士間,看護師の従事病棟別,性別ごとにも検討を加えた.結果:質問紙は121名から回収した(平均年齢33.3±9.4歳 男性42名 回収率63.7%).看護師55名,理学療法士25名などの職種となった.化粧は気分を良くし生活の質が向上すると考えている者がほとんどだが,化粧療法を初めて知った者が多かった.化粧療法をやってみたい者は全体の半数で看護師や女性はやや多かった.外来患者はほとんどの化粧内容が容認でき,入院患者はスキンケア以外の容認率が低かった.看護師,療法士間で比較したところ,入院患者のファンデーション,アイメイク,頬紅で看護師の容認率が低かった.女性で化粧療法をやってみたいと考える者が有意に多く,入院患者のファンデーションおよび頬紅の容認率が有意に低かった.従事する病棟別では,回復期リハビリテーション病棟では化粧療法をやってみたいと思う者が多く,各化粧内容の容認率が全体的に高い傾向があったが,有意差は認めなかった.結論:化粧療法は生活の質改善に効果があると考えながらも,実施したいという者は半数であった.また,化粧内容により容認率に差があった.化粧療法の現状を把握でき,その普及に資するデータが得られた.
著者
白澤 卓二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.24-27, 2010 (Released:2010-03-25)
参考文献数
9

1980年以降の分子生物学の発展により,加齢生物学の進展が目覚しい.特に,線虫や酵母菌を用いた長寿遺伝子の発見により,加齢生物学と老化の病理学を再考する必要に迫られている.インスリンシグナルやミトコンドリアの代謝は動物の寿命を制御しているばかりでなく,老化をも制御している可能性が示唆されている.一方,遺伝性早老症の研究から,ゲノムの安定性と修復機構が老化のプロセスに関与していることが分かってきた.高齢期に発症してくる病気はヒトの寿命を規定していることから,老化のプロセスは寿命を規定しうる重要な要因である.1950年以来提唱され続けている老化学説であるフリーラジカル学説と最近の長寿遺伝子の関係やゲノム修復機構との関連性,テロメアと細胞老化の関係など最新の老化研究の考え方を解説する.
著者
林 信太郎 岡田 豊博 堤 久 熊川 寿郎 森 眞由美
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.373-376, 1999-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

症例は72歳男性. 1991年頃より膝関節痛が出現しNSAIDsが投与された. 同時期に軽い腎障害を指摘された. 1993年に貧血 (Hb 9g/dl台) を指摘された. 1996年7月に下腿の浮腫と息切れを主訴に当院に受診し, 貧血の進行 (Hb 6.9g/dl) と腎障害 (Cr 1.5mg/dl) を認め入院となった. 貧血の主因として骨髄異形成症候群 (以下MDS) が, 腎障害の精査で行った腎生検でIgA腎症が確認された. また10月下旬には両側手, 膝関節に関節炎が出現した. このためプレドニン20mg/日を開始したところ, すみやかに関節炎は消失し, 貧血と腎機能にも改善傾向がみられた.本例は経過中にMDS, 腎障害, 関節炎と多彩な臨床像を呈したが特にMDSと成因の一つに骨髄異常を指摘されているIgA腎症の合併例はこれまでになく, 本報告が一例目と思われる.
著者
荒木 厚 井藤 英喜
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.1-12, 2018-01-25 (Released:2018-03-05)
参考文献数
71
被引用文献数
2 4

「高齢者糖尿病の診療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会」によって作成された「高齢者糖尿病ガイドライン2017」のエッセンスを紹介し,解説を加えた.高齢者糖尿病では認知機能や身体機能の障害がおこりやすく,それらの評価を含む高齢者総合機能評価を行うことが大切である.高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)は認知機能,ADL,併発疾患,重症低血糖のリスクなどに基づいて設定する.食事療法は過栄養だけでなく,低栄養,サルコペニアなどを考慮して行い,タンパク質やビタミンなどを十分に摂取する.運動療法は身体活動量を増やし,有酸素運動だけでなく,レジスタンス運動やバランス運動を行うことが望まれる.薬物療法は低血糖および他の有害事象を防ぐため,個々の心身機能や病態に十分配慮して行い,低血糖やシックデイの対策を行う.アドヒアランス低下や多剤併用にも注意する.今後,認知機能の簡易な評価法の開発,介護施設入所者の糖尿病のエビデンスの集積,および大規模なレジストリー研究などを行うことが,ガイドラインのさらなる発展のために必要である.
著者
青木 昭子 佐藤 貴子 五十嵐 俊久
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.615-619, 2003-11-25 (Released:2011-02-24)
参考文献数
8
被引用文献数
5 4

2002年1月から12月に大腿骨頸部骨折のため入院した38人について, 入院後の合併症を検討した. 平均年齢84.5±6.8歳. 女性32例, 男性6人. 27人 (71%) が軽度以上の痴呆を有し, 33人 (86.8%) が何らかの基礎疾患を有した. 基礎疾患の種類は高血圧29人, 脳梗塞/脳出血後遺症7人, うっ血性心不全5人, 糖尿病4人, 胃潰瘍/胃炎3人, 虚血性心疾患4人, 抑うつ/うつ病2人. 3人が大腿骨頸部骨折の既往を有した. 14例 (37%) で入院後合併症の併発がみられた (肺炎9人, めまい, 嘔吐, 心不全急性増悪, 総胆管結石, 消化管出血各1人). 術前に肺炎を合併8人, 術後に合併1人. 肺炎の重症度は軽症2例, 中等症5例, 重症2例で, 重症の2例は死亡となった. 起因菌が同定されたのは2例のみ (肺炎球菌, インフルエンザ桿菌) であった. 肺炎合併群は非合併群に比べ有意に高齢で, 痴呆の程度が重かった. 入院前の日常生活自立度や歩行能力は2群で差がなかったが, 肺炎合併群では骨折後の自立度や歩行能力が骨折前に比べ有意に低下していた. 肺炎合併群では有意に手術までの日数が長く, 手術例のみの比較では, 肺炎合併群の入院日数が有意に長期であった. 大腿骨頸部骨折のため入院した患者の予後を改善するためには, 入院後肺炎の予防が重要と考えた.
著者
大沼 剛志 金高 秀和 岩本 俊彦
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.241-249, 2012 (Released:2012-12-26)
参考文献数
27
被引用文献数
5 3

目的:高齢者総合的機能評価(CGA)は高齢者医療・介護に欠かせないものの,評価には多くの時間を必要とする.このため,CGA短縮版「Dr. SUPERMAN」の開発を試みたが,CGAの要素である認知機能の評価には時間的な制約で認知症スクリーニングテストであるMMSE(Mini-mental state examination)をそのまま用いることはできない.そこで,MMSEに先行する認知機能の評価課題を策定する目的で本研究を行った.方法:種々の疾患で外来通院中の高齢者90名(平均年齢82.5歳,男40名)を対象としてMMSE各ドメイン(1「時間の見当識」,2「場所の見当識」,3「即時記憶」,4「計算:注意力」,5「遅延再生」,6「言語機能」,7「視空間認知・構成機能」)およびエピソード記憶課題「昨日の夕食のおかずは何でしたか?」を尋ねた.MMSE総合得点から正常(24点以上),低下(23点以下)に分類し,これをゴールドスタンダードとして各ドメイン,エピソード記憶課題およびその組合せの感度,特異度,陽性反応適中率を求め,最も妥当と思われる課題の組合せを策定した.次いで,策定された組合せを高齢者50名に用いて評価時間,検者間信頼度を検討した.結果:MMSE総合得点は10~30点に分布し,正常は42名,低下は48名あった.各ドメインの感度,特異度,陽性反応適中率は,ドメイン1「時間の見当識」が68.8%,87.5%,78.6%,ドメイン2「場所の見当識」が85.4%,85.7%,87.2%,ドメイン4「計算」が89.6%,54.8%,65.2%,ドメイン5「遅延再生」が89.6%,26.2%,58.1%,エピソード記憶課題が66.7%,76.2%,76.2%であった.各課題の性質を考慮して組合せの簡便短縮化を図ると,エピソード記憶課題とドメイン1,4の課題「今年は何年」,「100から7の引き算を2回」の組合せでいずれかに異常があった場合の感度,特異度,陽性反応適中率は各々93.8%,71.4%,78.9%と高かった.また,「Dr. SUPERMAN」の中で計測された評価時間は32~55秒,評価者間一致係数κは0.861であった.結論:MMSEに先行する認知機能の評価課題には「昨日の夕食のおかずは何でしたか?」,「今年は何年」,「100から7の引き算を2回」の組合せが妥当であり,いずれかに誤・無答があればMMSEで評価すべきである.
著者
松下 哲
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.91-95, 2001-01-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
28

高齢者の終末医療では生命, 人間, 老化, 死に対する考え方が反映され, 実践される医療の質が問われる. 国民からみた現代医療は社会にとって大きい存在, 特異な亜文化, 高い統一性, イデオロギー性があり, 無益な治療つまり誤った技術の用い方が問われている. これは医学が客観性「もの」を追う科学の仲間入りをし, 進歩を遂げる条件として「こころ」を放棄したことに由来している. 故にこころの扱いが中心となる終末医療では問題が顕わとなる. 終末医療は文化全体と整合する道, こころを中心においた Art of Dying を探らなければならない. それは生, 老, 死に関する生命科学の進歩と生命観の発達を基とし, インフォームド・コンセントを中核とする緩和医療にほかならない. 天寿がんはこれらを具現する概念の一つであり, これを目標として Art of Dying が拡がる. 実践にあたっては高齢者にふさわしい理念から実際のケアに亘るガイドライン, 教育が求められる. 緩和医療の時期は不可逆的になったときから, また治療が尊厳を損ねるようになる時点からである. 高齢者は自ら医療やケアの改善を求める力がないことが多く, 家族も身近に死を経験するまではその良し悪しを判断しにくい. 医療やケアの情報を分かりやすく公開し, 緩和医療が高齢者と家族から選択されるよう推進する必要がある.
著者
谷口 直樹 山内 一信 近藤 照夫 横田 充弘 外畑 巌
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.463-468, 1981-11-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
10

aspirin は抗血小板薬として従来より各種血栓症の治療に使用されている. 近年 aspirin の大量投与は prostacyclin 合成を阻害し, 血栓生成に作用すると指摘され, その投与量が再検討されつつある. 本研究の目的は aspirin の種々の単回および連日投与における血小板凝集能抑制効果を検討することより, その至適投与量を決定することである. 対象は虚血性心疾患, 弁膜症および大動脈炎症候群などの心疾患患者71名であり, 健常人13名を対照とした. aspirin 1日80, 160, 330, 660および990mg連日投与群における4μM ADP最大凝集率には有意差は認められず, いずれの群の凝集率も aspirin 投与を受けていない健常群のそれに比して低値を示した. aspirin 160mg以上の単回投与では投与後1時間以内に凝集能抑制効果が出現した. 単回投与の凝集能抑制効果持続日数の平均値は330mg投与では4日, 660mgでは5.5日, 1320mgでは6日であった. aspirin による胃腸障害, 出血等の副作用の出現頻度は dose dependent であることを考慮すると, 本薬を長く投与する必要がある場合, 可及的少量が望ましい. ADP凝集抑制効果の観点からは1日量80mgの連日投与または160mgの隔日投与が至適投与法と考えられた.
著者
今井 健
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.242-247, 2019-07-25 (Released:2019-07-31)
参考文献数
8

医療におけるAI技術応用研究の歴史は古いが,近年では深層学習を始めとした機械学習の応用が盛んに行われており,医用画像の解析を始めとして成果を上げつつある.今後さらなるAI技術の発展のためには,学習に必要なきめ細やかで質の高い保健医療データの大規模収集が欠かせない.ICD11は従来の疾病分類体系にとどまらず,より詳細な病態の記述や生活機能レベルの評価までを包含し,詳細にコード化できる土壌が整いつつある.今後我が国でのICD11導入に向け,これを適切に活用しAI発展のための良質なビッグデータを生み出す仕組みづくりの議論が必要である.