著者
栗田 卓 梅野 博仁 千年 俊一 上田 祥久 三橋 亮太 中島 格
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.3, pp.192-200, 2015-03-20 (Released:2015-04-17)
参考文献数
43
被引用文献数
6

喉頭乳頭腫への望ましい臨床的対応を明確にすることを目的とし, 喉頭乳頭腫60例の統計学的検討を行った. 各症例は発症年齢で若年発症型と成人発症型に, 発生様式で単発型と多発型に分類した. 性別は成人発症型で有意に男性が多かった. 発生様式は若年発症型では多発型, 成人発症型では単発型の症例が有意に多かった. 乳頭腫が最も高頻度に発生していた部位は声帯であった. 乳頭腫の再発率に関して発症年齢で比較すると, 全症例の解析では, 成人発症型に比して若年発症型の再発率が有意に高かった. しかし, 発生様式別の層別解析では, 単発型と多発型ともに若年発症型と成人発症型の再発率に有意差や傾向を認めなかった. 再発率に関して発生様式で比較すると, 全症例の解析では単発型に比して多発型の再発率が有意に高かった. 発症年齢別の層別解析では, 若年発症型では多発型は単発型に比して再発率が高い傾向があり, 成人発症型では, 多発型は単発型に比して再発率が有意に高かった. 治療は CO2 レーザー蒸散術が最も多く行われていた. 補助療法としてインターフェロンや cidofovir の局注が行われていた. 乳頭腫の悪性化例は3例であった. 乳頭腫への初治療から悪性化までの期間は3~40年と幅があり, 発症から悪性化までの期間に傾向はみられなかった. 今回の検討から, 発症年齢にかかわらず多発型の症例では再発に留意すべきと考えられた. 再発や悪性化の観点から喉頭乳頭腫に対しては長期間の経過観察が望ましい.
著者
奈良林 繁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.473-484, 1970 (Released:2007-06-29)
参考文献数
42
被引用文献数
2

鼻炎及び副鼻腔炎に対する酵素療法は, 近来日本では盛んに行なわれる様になつて来たが, 酵素剤の皮下, 筋肉内注射, 又は経口投与後どの様な過程で血中, 粘膜内又はその他の臓器組織内に移行するかについては, 今尚明らかではない. 塩化リゾチームが鼻, 副鼻腔粘膜内, 及びその周囲組織に酵素活性を有したまま移行するかについて研究を行ない, その成績を得たのでここに報告する.材料及び方法1) 家兎の血中及び臓器内リゾチーム活性を塩化リゾチーム筋注又は経口投与後, 定時的に溶菌法にて測定した.2) 家兎にFITCで標識した塩化リゾチームを注射又は経口投与して, その組織内移行を螢光顕微鏡にて検鏡した.3) complete Freund's adjuvant と共に塩化リゾチームを家兎爪廓内に注射して得た抗塩化リゾチームを免疫組織学的に調べた.成績家兎の血中リゾチーム活性値の上昇は, 塩化リゾチームの筋注例では小量でも認められたが経口投与例では大量に与えた場合にのみ認められた. 家兎にFITCで標識した塩化リゾチームを注射又は経口投与した場合の組織内移行は明瞭に認められた. 注射又は経口的に塩化ジゾチームを投与したあとの人の鼻•副鼻腔粘膜内への塩化リゾチームの移行も免疫組織学的に確かめられた.考按以上の事実から投与された塩化リゾチームは血中, 鼻•副鼻腔粘膜及びその周囲組織内に溶菌性と抗原性を有したまま移行することが明らかとなつた. 組織に移行した塩化リゾチームの働らきが蛋白分解作用, 細胞賦活作用, そして外からの細菌侵襲に対する防禦作用に関するかどうかは今後検討しなければならない. 家兎の体内に卵白より抽出した塩化リゾチームに対する抗体が産生された事実から人体内にも抗塩化リゾチーム抗体の産出の可能性もあり得ると考える.

3 0 0 0 OA 頭蓋底外科

著者
岸本 誠司
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.3, pp.229-239, 2015-03-20 (Released:2015-04-17)
参考文献数
91
被引用文献数
1

頭蓋底は脳頭蓋と顔面頭蓋の境界に位置し, 多くの血管や神経が存在し複雑な構造を呈している. さらに顔面深部に存在するため, ここに生じる病変の診断治療は困難である. 特に手術においては生命予後に直結する頭蓋内合併症に加えて顔面神経, 視覚, 嚥下, 咀嚼, 構音, 整容といった患者 QOL に直結する問題が生じるため, 極めて高度な手技が要求される. そのため, 頭蓋底手術を安全に行うためにはチーム医療の確立, 新たな手術手技の開発や機器の導入と解剖学的検討に基づく十分な知識が必要不可欠である. さらに内視鏡手術などの minimally invasive surgery の開発による機能や形態の温存や, 術後合併症に対する機能再建外科を確立する必要があるが, そのためにはこれまでの知識と技術を伝承していくことが非常に重要である. 本稿では頭蓋底手術に関するわれわれのこれまでの取り組みと得られた新知見, ならびに今後の展望について述べる.
著者
花田 有紀子 笹井 久徳 鎌倉 綾 中村 恵 坂田 義治 宮原 裕
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.5, pp.606-611, 2013-05-20 (Released:2013-08-21)
参考文献数
21
被引用文献数
14

上咽頭癌はわが国では40~60歳代に好発し, 男性にやや多い悪性腫瘍である.その解剖学的特徴より, 放射線治療が治療の核をなす1). 放射線治療の後期合併症として, まれに内頸動脈仮性動脈瘤を形成することがあり, 破裂により致命的となる. われわれは上咽頭癌に対し放射線治療を行った既往のある75歳男性の内頸動脈仮性動脈瘤の症例を経験した. 鼻出血で発症し, 大量出血を認めたがAngiography下コイル塞栓術により救命し得た.この合併症はまれではあるが突然破裂することで致命的となるため, 常に念頭におき放射線治療を行うべきであると考える.
著者
打越 進 野村 公寿 木村 廣行 宇佐 神篤
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.374-378, 1981
被引用文献数
1

Six patients with nasal allergy due to Japanese Apricot pollen which are called "Ume" pollen were clinically examined. All cases had hyperrhinorrhea and nasal obstruction with ocular symptoms, and one of them also had itching in the pharynx. They have lived for 8 to 47 years near by a large grove of Japanese apricot and 4 of them were fruit-growers. Among these four cases, three have suffured from nasal and ocular symtoms while they were working in the grove. These cases had positive skin reaction to clude "Ume" pollen extract, and five patients also reacted to nasal and ocular provocative tests.<br>Serum IgE value by RIST was distributed from 98 to 2300IU/ml (mean value 887IU/ml). Specific anti-"Ume" pollen IgE in the serum was measured by BrCN activated RAST method, and serum value of five patients was 1.6 timed to 3.5 times higher than that of non-allergic subjects.<br>Air-borne "Ume" pollen collected in a grove were observed from the beginning of February to the middle of March, and maximum grain count was 43 per cm<sup>2</sup> in 24 hours.
著者
児玉 悟
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.12, pp.1406-1413, 2015-12-20 (Released:2016-01-15)
参考文献数
26
被引用文献数
5

鼻閉の改善は鼻科手術の重要なアウトカムであり, 鼻閉の改善のためには, その原因や病態を的確に捉え, 鼻腔形態の矯正を行うことが重要である. 鼻中隔弯曲症は鼻閉を来す代表的な疾患であり, 鼻中隔矯正術は耳鼻咽喉科医にとってはごく一般的な手術である. しかし前弯が顕著な症例や外鼻変形を伴っている症例では, 通常の鼻内法による鼻中隔矯正術では,弯曲の矯正が困難なことが多く, 満足する結果が得られないこともある. このような鼻中隔弯曲症に対しては, 外鼻と鼻中隔を立体的な一つの構造物と考え, 矯正を行う septorhinoplasty (鼻中隔外鼻形成術) が有効である. 外鼻手術はいまだにわが国の鼻科臨床においてはマイナーな分野であり, 外鼻への手術操作に対しては, 耳鼻咽喉科医自身も抵抗を感じるものも少なくないのが現状であるが, 正確な鼻内所見の把握と鼻閉の評価ができるのは, おそらく耳鼻咽喉科医のみである. 患者の QOL 向上のためにも鼻閉改善のための外鼻手術においては鼻閉治療の中心であるべき耳鼻咽喉科医が積極的に関与すべきであると思われる.
著者
加藤 榮司 東野 哲也
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.9, pp.842-848, 2012
被引用文献数
1

1992年から2010年までの18年間に高等学校剣道部員を対象にして行った聴覚健診成績を集計した. 純音聴力検査で一つ以上の周波数に聴力閾値30dB以上の閾値上昇を認めた聴覚障害例は225名中45名 (19.7%) 69耳であり, 障害程度は2000Hzと4000Hzで大きかった. 聴力型としては, 2000Hz-dip型, 4000Hz-dip型, 2000-4000Hz障害型感音難聴の頻度が高く, 初年度の健診では正常聴力を示した例も含まれていた. また, 聴力閾値25dB以内の小dipについても2000Hzと4000Hzのみに観察され, 剣道難聴の初期聴力像と考えられた. すべての学年で右耳よりも左耳の聴力閾値が有意に高いことがわかった (p<0.01). 18年間にわたる聴覚健診活動の結果, 聴覚障害の発症頻度減少が認められた.
著者
甲斐 智朗
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.102, no.7, pp.898-906, 1999-07-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
25
被引用文献数
1

(目的) 鼻粘膜の血管収縮・拡張が鼻腔由来の一酸化窒素 (NO) 濃度に及ぼす影響を局所への薬剤投与により検討した.(対象) アレルギー性鼻炎以外に特に鼻副鼻腔疾患を有しない健常人24名.(方法) 安静座位における鼻腔由来のNO濃度および鼻腔抵抗, 最小鼻腔断面積, 鼻腔容積を測定した後, 前者12名には血管収縮剤として硝酸ナファゾリン, 後者12名にはNO-cGMP系を介さない血管拡張剤として硫酸サルブタモールをそれぞれ定量噴霧器を用いて両側鼻腔内に投与し, それぞれの計測値の変化を測定した. NOの測定には, chemiluminescence法によるNOアナライザーを用いた. 鼻腔抵抗の測定は鼻腔通気度計を用いてアンテリオール法により, 更に最小鼻腔断面積と鼻腔容積の測定はアコースティックライノメトリーにより行った.(結果) 硝酸ナファゾリンの投与によりNO濃度は有意に低下し, 鼻腔抵抗は有意に減少した. 更に鼻腔容積は有意に増大した.硫酸サルブタモール投与により, NO濃度は有意に上昇し, 鼻腔抵抗も有意に上昇した. 更に最小鼻腔断面積および鼻腔容積は有意に減少した.(考察) 鼻腔抵抗および最小鼻腔断面積, 鼻腔容積の変化から, 各薬剤により鼻粘膜が収縮・拡張していることが示された. 硝酸ナファゾリンはα1レセプターを介して血管を収縮させ, また血管拡張作用を示した硫酸サルブタモールはβ2刺激剤であり, この血管拡張作用はNOを介さないことから, 鼻腔由来のNO産生量は, 血管の収縮・拡張に伴う基質の供給量の変化に影響される可能性が示唆された.(結論) 血管収縮・拡張剤により, 鼻腔由来のNO濃度は有意に減少・増加し, これは基質の供給量の変化に基づいている可能性があると考えられた.
著者
中山 明峰
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.1, pp.14-21, 2016-01-20 (Released:2016-02-06)
参考文献数
36

近年睡眠医療が急激に発展した背景に, 閉塞性睡眠時無呼吸症候群 (OSA) の出現がある. OSA が解明され始めた1980年代にはこれといった治療方法はなく, この時期に考案された口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 (UPPP) は画期的な治療法であり, 耳鼻咽喉科医が OSA の治療をリードしていた. ところが20世紀の終わり頃, 経鼻的持続陽圧加圧装置 (CPAP) の普及により, 手術症例が激減した. CPAP が普及し始めて10年以上経過し, CPAP アドヒアランスのよくない OSA 患者や, 治療が長期になると CPAP から完全に脱落してしまう患者が多発するというような問題点が討論されるようになった. CPAP を脱落してしまったら無治療と同じである. CPAP 治療が普及し問題点も出てきた今だからこそ, 睡眠医療における手術治療のあり方が再度検討される時期であると考えている. OSA に対して手術を行う耳鼻咽喉科医は, 以下の項目に意識を配って手術に臨んでいただくことが, 過去と同様の過ちに陥ることなく, 外科的治療の有用性を睡眠医に提案でき, 睡眠医に必要とされる外科医になる近道ではないかと考えている. 1. 睡眠医療を熟知し, OSA 以外の睡眠疾患を鑑別することができ, OSA ではないほかの呼吸障 害についても対処できる知識を持つ. 2. リスクに対する認識と対策, 再発時の合併症などを周知して手術を行う. 3. どの科よりも積極的に小児を診断し, 治療をする. 4. OSA 改善目的の手術は, 上気道の粘膜の拡張のみならず顎顔面全体を考慮し, 顎延長術など 他科との連携も配慮する. 睡眠耳鼻咽喉科医はいまだ不足しており, 睡眠医療を熟知しかつ手術も可能な施設は多くない. 現在見直されつつある睡眠医療における外科的治療に, 多くの若手医師が興味を持ってもらえたら幸いに思う.
著者
平野 滋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.3, pp.163-167, 2016-03-20 (Released:2016-04-19)
参考文献数
25

再生医療は20世紀後半のブレークスルーであり, 21世紀における発展が期待されている. 喉頭領域においても枠組み, 筋肉, 粘膜, 反回神経などの再生研究が活発に行われており, 一部は既に臨床応用に至っている. 再生医療は細胞を用いることで失われた組織を造る, あるいは失われた機能を復活させることを目的とし, 細胞およびその調節因子, さらに細胞が活動できる土台の3要素を駆使することで組織再生を図るものである. 声帯の硬化性病変である瘢痕や萎縮に対しては, 種々の幹細胞や細胞増殖因子を用いた再生実験が進んでいるが, 中でも塩基性線維芽細胞増殖因子と肝細胞増殖因子が有望視されており, いずれも臨床応用に至っている. 枠組みの再生には人工の足場材料の開発が, 反回神経においては各種ポリマーを用いた神経再生誘導チューブの開発が進められているが, 最近の脱細胞技術の発展により, さらに大きな組織, 例えば喉頭全体の再生用足場材料についても研究が開始されている. これらの研究が進むことで喉頭全摘後の喉頭再生も夢ではなくなることが期待される.
著者
五島 史行 堤 知子 小川 郁
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.11, pp.1208-1213, 2013-11-20 (Released:2014-01-16)
参考文献数
22
被引用文献数
2 3

耳鼻咽喉科を受診するめまい患者のうち, 心因性めまいの占める割合は10~30%程度といわれている. これらの患者には適切な治療が行われていないことが多い. chronic subjective dizziness (CSD) はStaabとRuckensteinによって報告されためまい疾患である. 過去1年間に日野市立病院を受診しためまい患者のうち, 心因性めまいは40例 (14%) であった. そのうちCSDの診断基準を満たした7例について治療や予後などを検討した. 治療はセロトニン再取り込み阻害薬 (SSRIs) を投与し, 全例で自覚症状の改善が認められた. CSDは自覚的めまいを主訴とし耳鼻咽喉科を受診する. そのため, 耳鼻咽喉科医が薬物治療を行って治療することができる疾患として重要である. SSRIsは本来抗うつ薬であり, 実際のSSRIsの投与に当たっては嘔気, アクティベーション症候群などSSRIsの持つ副作用を熟知した上で行う必要がある.