著者
髙木 太郎 麻生 沙和 横井 隆司
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.11, pp.1298-1303, 2020-11-20 (Released:2020-12-02)
参考文献数
15
被引用文献数
1

TIPIC syndrome は, 頸動脈周囲の一過性の炎症が原因となり頸部痛を来すまれな疾患である. これは以前から carotidynia として扱われてきた疾患であるが, 近年ではその画像所見に関する報告が増えたことで徐々に病態が解明され, 診断基準とともに名称を変えつつある. 今回われわれは, TIPIC syndrome の2例を経験した. 2症例とも特徴的な頸部圧痛 (Fay 徴候) を認め, 超音波検査と造影 CT 検査にて患側の総頸動脈遠位部に全周性の軟部組織陰影を認めた. いずれも NSAIDs の内服で経過観察をしたところ, 1週間後に症状は軽快した. 今回, これらの症例について文献的考察を加え検討した.
著者
清野 宏 岡田 和也
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.11, pp.843-850, 2011 (Released:2011-12-02)
参考文献数
36
被引用文献数
1

生体防御の上で極めて重要な位置にある粘膜には, 粘膜免疫として知られる全身免疫とは異なる巧妙な免疫システムが構築されている. 粘膜固有の免疫担当細胞としてB1系B細胞やγδT細胞, またNK22細胞などが見出され, それぞれ重要な役割を果たしている. また, 粘膜面に, 病原体に対する防御に不可欠な, 抗原特異的分泌型IgAを効率的かつ臓器特異的に誘導するメカニズムとして, MALT (粘膜関連リンパ組織) を中心とした粘膜免疫システムが構築されている.頭頸部領域での粘膜免疫については, MALTに相当するものとしてヒトにおけるWaldeyer輪がよく知られている. マウスなどでは扁桃が存在せず, 鼻腔のNALT (鼻咽腔関連リンパ組織) がそれに相当するものと考えられる. 加えて近年, 鼻腔や口腔のみならず眼結膜や涙嚢にもCALT (結膜関連リンパ組織) やTALT (涙道関連リンパ組織) などのMALTが見出され, 全体として頭蓋顔面粘膜免疫システムという広大な粘膜免疫ネットワークを構築することが明らかになってきた. さらに, リンパ節や腸管のMALTであるPeyer板が胎生期に発達するのに対し, NALTやTALTは生後に発生し, また組織形成に必要な遺伝子群も明確に異なるなど, 非常にユニークな発生過程をとっている. NALTやTALTの形成に関わる遺伝子は頭蓋顔面粘膜免疫システムの鍵を握るものと予想され, その究明が待たれる.頭蓋顔面粘膜免疫システムの臨床応用として, 経鼻ワクチンが挙げられる. 現時点では米国でインフルエンザワクチンとしてFluMistが使用されている. 点鼻により痛みもなく, また効果的に気道系での免疫が得られる, 優れた経鼻ワクチンの開発は呼吸器感染症対策のために必須であるが, 嗅粘膜からの吸収による中枢神経系への移行が懸念されてきた. Nanogelは新しく開発された生体用の素材で, マウスでの検討では, ワクチンデリバリー用素材として用いると中枢神経への移行もなく, 極めて効率的に鼻汁中でのIgA抗体を誘導できており, 今後の発展が期待できる.
著者
今野 良
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.2, pp.73-84, 2012-02-20
参考文献数
76
被引用文献数
1

子宮頸癌は発癌原因が主にHPV感染であることが明らかにされていた. 50年以上前から行われてきた子宮頸癌検診による二次予防に加えて, HPVワクチン開発・臨床応用によって一次予防も可能になり, 疾患の征圧を視野に入れた予防活動が世界的に繰り広げられている. 一方, 分子疫学の発展により, 子宮頸癌以外の性器肛門癌や頭頸部癌の多くにもHPVが関連していることが認められ, 予防・検診・治療に新しい展開がみられる. 本稿では, 前半にHPVの生物学, 子宮頸癌およびHPV関連疾患の概説を行い, 後半には頭頸部癌とHPVの関わりを解説する.
著者
水田 邦博 遠藤 志織
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.1, pp.15-19, 2017-01-20 (Released:2017-02-10)
参考文献数
17
被引用文献数
1

【診断】耳管開放症の診断において, 耳閉感, 自声強聴, 自己呼吸音聴取などの症状が臥位で改善すれば, 疑い例となる. さらに鼓膜の呼吸性動揺を確認するか, 耳管機能検査で, 1. TTAG 法における鼻咽腔圧と外耳道圧の同期, 2. 音響法における提示音圧が 100dB 未満, 3. 音響法において嚥下などによる耳管の開大が継続しプラトーになる, の3つのいずれかが認められれば, 確実例と診断される. 確実例に至らない場合は, 耳管閉塞処置で自覚症状の改善を確認することが診断に有効である. 菲薄化, 硬化性病変, 弛緩部の陥凹などの鼓膜所見から耳管閉鎖不全が疑われれば, 鼻すすり癖の有無を問う. 以前は鼻をすすって改善していた症状が, 鼻をすすっても改善しにくくなったことが来院のきっかけであることが多い. 【治療】鼻すすり癖のない耳管開放症は鼓膜が正常のことが多く, 体重減少, 妊娠などが発症の誘因となる. まず, 病態の説明, 生活指導を行う. 不十分なら薬物療法を行う. 症例によっては鼓膜へのテープ貼付, 耳管咽頭口ルゴール処置も効果がある. これらの保存的療法が無効な場合, 外科的処置への移行を検討する. 鼻すすり癖のある耳管開放症の場合, 若年で中鼓室が陰圧を示し, 弛緩部の陥凹の進行が懸念される例では, 鼻すすり癖の停止勧告を優先する. 高齢者で長年のすすり癖にもかかわらず弛緩部の陥凹が円滑なら, 鼻すすり癖のない開放症に準じた治療を行う. ルゴール耳管咽頭口処置や耳管ピンで耳管を狭窄として鼻をすすりやすくすれば, 症状を軽減できる. 【まとめ】体重減少や妊娠を契機として起こる耳管開放症も鼻すすり癖をもつ開放症も同一の診断基準で診断され得るが, 病態が異なるため治療は違ったアプローチとなる. したがって, 問診や鼓膜所見で, まずその鑑別を行うことが重要である.
著者
畑中 章生 鎌田 知子 本田 圭司 田崎 彰久 岸根 有美 川島 慶之
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.115, no.8, pp.787-790, 2012 (Released:2012-10-06)
参考文献数
15
被引用文献数
1

再感染と考えられたムンプスウイルス感染症の3症例を経験した. 症例は32歳女性と5歳女児の親子, 33歳男性であった. いずれの症例も片側の耳下腺腫脹を来して当科を初診した. 全症例ともに家庭内にムンプス症例が発生していたことと, 初診時の血清ムンプスIgG抗体が高値であったことから, ムンプス再感染例と診断した. 古典的には, ムンプス感染症は終生免疫を獲得し, 再感染を起こさないものとされてきた. しかし近年の報告では, 初診時ムンプスIgG抗体が高値の場合には, ムンプス再感染を疑う所見と考えられるようになりつつある.
著者
平野 滋
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.1, pp.1-7, 2018-01-20 (Released:2018-02-07)
参考文献数
37
被引用文献数
1

日本は先進国の中でも最たる超高齢社会であり, 65歳以上の高齢者はすでに人口の4分の1で, 20年後には3分の1になるといわれている. 高齢化とともに成人病をはじめとする疾病罹患率は増加し医療費は増加の一途である. 医療費の抑制と健康増進のためアンチエイジングが脚光を浴びており, 声に関しても健康維持あるいは社会貢献の観点からアンチエイジングのよいターゲットとなる. 加齢による音声障害は往々にして仕事からの離脱, 社交場からの隔離に繋がり, 国民生産性の低下へと繋がりかねないからである. 声の老化は声帯レベル, 呼吸機能, 共鳴腔レベルで起こり, 包括的対処が必要である. 声帯のケアと維持は最も重要であり, 声の衛生はもとより, 積極的な声帯維持のために, 歌唱や機能性表示食品である抗酸化食品が効果的であることがエビデンスレベルで確認されてきた. 加齢声帯萎縮になった症例においては, 音声機能拡張訓練を代表とする音声治療である程度の効果が確認されているが, 重度の声帯萎縮に対しては塩基性線維芽細胞増殖因子を用いた声帯再生医療が効果を上げている. ヒトが健康寿命を保つために声の維持は重要であり, また, 声帯の維持は嚥下機能の維持にも繋がることが期待される.
著者
齋藤 康一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.12, pp.1342-1343, 2013-12-20 (Released:2014-02-22)
参考文献数
3
被引用文献数
1
著者
近藤 英司 陣内 自治 大西 皓貴 川田 育二 武田 憲昭
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.11, pp.1319-1326, 2015-11-20 (Released:2015-12-11)
参考文献数
30
被引用文献数
4

ACE (angiotensin converting enzyme) 阻害薬は, 副作用である咳反射の亢進により誤嚥を防止して嚥下性肺炎の罹患率を減少させ, 嚥下障害患者の嚥下機能を改善させる. 一方, 外耳道の刺激は迷走神経反射を介して咳を誘発する. また, カプサイシンは TRPV1 (transient receptor potential vanilloid 1) を活性化して知覚神経を刺激する. われわれは以前の研究で, 嚥下障害患者の外耳道へのカプサイシン軟膏刺激が, 嚥下内視鏡検査のスコア評価法により評価した嚥下機能を改善させることを報告した. 本研究では, 以前の研究の嚥下内視鏡検査ビデオ動画を, 患者情報およびスコア評価法の結果を知らない耳鼻咽喉科専門医が独立して SMRC スケールにより評価した. SMRC スケールは嚥下内視鏡検査の評価法であり, 嚥下の4つの機能である咽頭知覚 (Sensory), 嚥下運動 (Motion), 声門閉鎖反射・咳反射 (Reflex), 咽頭クリアランス (Clearance) を別々に評価する. その結果, 外耳道への0.025%カプサイシン軟膏塗布により, 26名の嚥下障害患者の嚥下機能のうち声門閉鎖反射・咳反射が有意に改善し, この効果は塗布後60分後まで持続した. 嚥下機能がより低下している患者の声門閉鎖反射・咳反射は, 外耳道へのカプサイシン軟膏の単回塗布では変化しなかったが, 1週間連日塗布により有意に改善した. この結果から, カプサイシン軟膏による外耳道刺激は, 新しい嚥下障害の治療法として用いられる可能性があり, ACE 阻害薬のように嚥下性肺炎を予防できる可能性も考えられた.
著者
齋藤 康一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.1, pp.68-69, 2016-01-20 (Released:2016-02-06)
参考文献数
10
被引用文献数
1
著者
荻原 仁美 湯田 厚司 宮本 由起子 北野 雅子 竹尾 哲 竹内 万彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.2, pp.78-83, 2011 (Released:2011-07-12)
参考文献数
11
被引用文献数
3 3

背景と目的: スギ花粉症にヒノキ科花粉症の合併が多く, その原因として両花粉抗原の高い相同性が挙げられる. しかし実際の臨床の場において, ヒノキ科花粉飛散期にスギ花粉飛散期にはみられない強い咽喉頭症状のある例に遭遇する. そこで, ヒノキ科花粉症の咽喉頭症状について検討した.方法: スギ・ヒノキ科花粉症患者で2008年のスギ・ヒノキ花粉飛散期の咽喉頭症状を1週間単位のvisual analog scale (VAS) で検討した. また, 2008年と2009年に日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査票No2で鼻眼以外の症状を調査し, 花粉飛散数による相違を検討した.結果: VASによる鼻症状は花粉飛散数に伴って悪化し, スギ花粉飛散期でヒノキ科花粉飛散期より強かった. 一方, のどの違和感と咳は, ヒノキ科花粉が少量飛散であったにもかかわらず, ヒノキ科花粉飛散期で悪化した. また日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査票No2の鼻眼以外の症状において, スギ花粉症では飛散総数が多いと全般に症状が悪化したが, ヒノキ科花粉症は少量飛散でも強い咽喉頭症状を示し, 大量飛散年に類似した.結論: ヒノキ科花粉症はスギ花粉症と同一のように考えられているが,スギ花粉症とは異なる鼻眼以外の症状を呈する. 特にヒノキ科花粉症において咽喉頭症状が強く, 少量の飛散でも強い症状がある.
著者
森 浩一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.12, pp.1472-1473, 2015-12-20 (Released:2016-01-15)
参考文献数
4
被引用文献数
1
著者
吉開 泰信
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.6, pp.539-546, 2011 (Released:2011-09-10)
参考文献数
17

T細胞は胸腺で分化して, T細胞レセプター (TCR) で自己の主要組織適合性抗原 (MHC) に提示された抗原を認識してサイトカイン産生や細胞障害活性を通じて, 免疫応答の中心的役割を担う. MHCクラスIIに結合したペプチドを認識する典型的なヘルパーCD4Th細胞はそのサイトカイン産生の特徴によってIFN-γ (γインターフェロン) を産生するTh1細胞, IL-4 (インターロイキン4) を産生するTh2細胞, IL-17を産生するTh17細胞, TGFβ/IL-10を産生する調節性Treg細胞に分類される. さらに最近はIL-9を産生するTh9細胞やIL-22を産生するTh22細胞, リンパ節のB細胞濾胞に局在するIL-21産生Tfh (follicular helper) 細胞などのサブセットの存在も提唱されている. MHCクラスIaに結合したペプチドを認識する典型的なヘルパーCD8T細胞は, 短い寿命のエフェクターT細胞, 末梢へホーミングするエフェクターメモリーT細胞, リンパ節にとどまりIL-2を産生して増殖するセントラルメモリーT細胞に分類され, パーフォリン, グランザイムを産生して細胞障害活性を示す. これらの典型的なCD4/CD8T細胞と異なる自然免疫T細胞 (innate T cells) は, 多型性に乏しいMHCクラスIb様分子に提示される核酸代謝物や糖脂質などペプチド以外の微生物抗原や自己抗原をクロスして認識する. NK関連レセプターやメモリー型の表面形質をもつことが特徴であり, クローン増殖なしにTCR刺激で早期に活性化されエフェクター分子を発現する点で自然免疫に近いT細胞と考えられ, NKT細胞, γδ型T細胞, MAIT細胞, MHCクラスIb拘束性CD8T細胞などがある.