著者
山本 修子 南 修司郎 榎本 千江子 加藤 秀敏 松永 達雄 伊藤 文展 遠藤 理奈子 橋本 陽介 石川 直明 加我 君孝
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.8, pp.1118-1126, 2019-08-20 (Released:2019-09-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1

2017年に成人人工内耳適応基準が改定され, 高度難聴例が追加となった. そこでわれわれは当院成人人工内耳例から, 新基準で新たに人工内耳の対象となる症例の臨床像の解明とその装用効果の検討, 特例として適応を検討すべき症例の解明を目的に研究を行った. 当院で人工内耳埋込術を行った18歳以上の症例を対象に, 術前聴力データが従来の基準に該当する「旧基準群」, 新たに追加された基準に該当する「新基準群」, どちらにも該当しない「特例群」に分類した. 各群について, 手術時年齢, 発症時期, 難聴の原因・病態, 術後語音聴取能を調べた. 新基準群は全例が言語獲得後発症で, 原因不明の進行性難聴が大多数を占めた. 術後語音聴取能は新基準群と旧基準群は同等の結果であった. 特例群のうち非術耳の術前語音明瞭度が良好であった2例は常用に至らなかった. 視覚障害合併者は非合併者と比較して語音聴取能が良い傾向にあった. 新基準群の術後聴取能は旧基準群と同等で, 新適応基準により, 言語獲得後発症の進行性難聴患者の病悩期間を短縮できる可能性が示唆された. 特例群の中で Auditory Neuropathy および言語獲得後発症の視覚障害合併例に人工内耳が有用であった. 良聴耳に新基準も満たさない程度の残存聴力がある症例の非良聴耳に人工内耳を行った場合, 従来のリハビリテーションでは限界があると考えられた.
著者
渡嘉敷 亮二 平松 宏之 本橋 玲 品田 恵梨子 井上 瞬
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.5, pp.491-497, 2011 (Released:2011-09-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1

音声障害の診断と治療は特に見た目の異常がない場合, 耳鼻咽喉科医にまだ広く知られているとはいえない. 本稿では診断と治療に関して一般耳鼻咽喉科医にはなじみが薄いもの, と同時に新しい知見について紹介する. 声帯に異常が見られない音声障害には, 機能性発声障害や痙攣性発声障害がある. 前者の治療には積極的に耳鼻咽喉科医がかかわるべきもので, 見た目の異常がないことで治療不要との判断をしてはならない. 後者は声帯筋の局所性ジストニアであり, 的確な治療により改善するため, 疾患についての認識と理解が必要である. 老人性声帯萎縮による嗄声は, 日常生活において乾燥の回避や唾液分泌を促進する工夫, 声を積極的に使うことで改善へ向かう. 音声障害の外科的治療は声帯ポリープや声帯麻痺など疾患によりその方法も多彩であるが, いずれにおいても内視鏡の進歩により外来での日帰り手術の適応が広がった. 声帯ポリープ摘出術や声帯萎縮・片側声帯麻痺に対する声帯内注入術は, 喉頭の麻酔を十分に行えば, 内視鏡下での微細な手術が外来で可能である. ただし片側声帯麻痺に対しては, 確実に良い声を得るためには入院での披裂軟骨内転術が望ましい. 音声障害は特徴的な声や声帯の動きといった動的情報が診断に重要である. われわれはweb上でホームページを立ち上げ音声障害に関する情報を発信している.
著者
永井 知代子
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.5, pp.321-327, 2020

<p> 発話障害の責任病巣は, 大脳, 神経伝導路および小脳・大脳基底核, 構音器官の3つのレベルに分けられる. 高次脳機能障害による発話障害は, このうち大脳レベルの障害により生じる.</p><p></p><p> 高次脳機能とは, 脳機能のうち, 単純な運動・感覚以外の機能を指す. 言語や記憶, 遂行機能などに区分されるが, 失語は言語の障害であり, 特に内言語 (思考に用いられる言語) の障害である. したがって, 音声言語だけが障害されるということはなく, 読み書き障害も伴う. 失語は, 非流暢な発話を特徴とする運動失語と, 流暢だが言語理解障害が主体の感覚失語に分けられる.</p><p></p><p> 発語失行には2つの解釈がある. ひとつは, 運動失語の非流暢な発話の特徴のことであり, 広義の発語失行である. もうひとつは, 失語ではないが発話特徴は運動失語と同等であるものをいい, 純粋発語失行という. 狭義の発語失行といえば後者を指す. 日本では, 失構音・純粋語啞も純粋発語失行と同じ意味で用いるが, 欧米の専門書では, 失構音は重度の構音障害, 純粋語啞は重度の発語失行を指すと記載されており, 注意が必要である.</p><p></p><p> 発語失行の特徴は, ① 途切れ途切れの発話, ② 一貫性のない構音の歪み, ③構音運動の探索と自己修正, ④ 発話開始困難・努力性発話, ⑤ プロソディ障害とまとめられる. 特に①②は構音障害との鑑別において重要である. 発語失行は発話運動のプログラミング障害と定義され, 発語における3過程, 音韻符号化・音声符号化・運動実行のうち, 2番目の音声符号化過程の障害と説明される. これは音素レベルの発話運動プランの障害であり, 主に声道の状態変化などの体性感覚情報を用いたフィードバック制御の障害と考えれば, 中心前回のほか, 運動前野・島・中心後回など複数の領域の機能低下で生じると考えられる.</p><p></p><p> 近年話題の関連疾患として, 小児発語失行, 進行性発語失行がある. 耳鼻咽喉科を受診する場合があり, 注意が必要である.</p>
著者
小林 万純 柘植 勇人 三宅 杏李 曾根 三千彦
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.1273-1278, 2018

<p> 両耳聴の意義に対する認識が高まり, 補聴器も人工内耳も可能であれば両耳聴を目指す方向に向かっている. 今回, 装用前の語音弁別能は不良であったが, 両耳装用後に実用レベルに達した症例について検討した. 耳鳴を主訴とした両側水平性感音難聴の2症例で, 語音弁別能は初診時左右それぞれ30~55%であったが, 1年後には両耳装用下の音場検査にて各々80,95%という結果が得られた. これは周波数ごとに圧縮を変更しながら十分なファンクショナルゲインを確保したことと, 優れた両耳聴効果に起因するところが大きいと思われる. そして, 補聴器の調整を適正に行い十分な聴能訓練を行うことで, 補聴器の効果をより発揮できると考える.</p>
著者
岡村 陽介 武岡 真司
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.116, no.6, pp.673-678, 2013-06-20 (Released:2013-08-28)
参考文献数
36

血小板は, 血液凝固系と連動した巧妙かつ複雑な止血機構を有しており, これらすべての機能を人工系で模倣することは非現実的といっても過言ではない. 感染の危険性がなく長期間保存可能な血小板代替物として, 生体投与可能なナノ粒子に活性化血小板を認識できる分子 (フィブリノーゲンγ鎖C末端ドデカペプチド, HHLGGAKQAGDV: H12) を担持させることで, それが血管損傷部位へ特異的に集積して血栓形成を誘導する起点となり, 集積したナノ粒子によって出血部位を充填し止血能を補助できるとの発想に基づいて, 極めて単純な血小板代替物を設計した. さらに, 血小板凝集を惹起するアデノシン5'-二リン酸 (ADP) をリポソームの内水相に封入することで止血能を増幅させることにも成功している.
著者
三輪 高喜
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.8, pp.1043-1050, 2018-08-20 (Released:2018-09-11)
参考文献数
44
被引用文献数
1

嗅覚もほかの感覚と同様, 加齢とともに低下する. 視覚ならびに聴覚と比べて嗅覚の低下は日常生活における支障度は高くはないものの, 生活上の支障にさらされる危険性をはらむとともに, 食と深くかかわる感覚であるために栄養や生活の潤い, 楽しみに影響を及ぼす. 嗅覚低下のリスクファクターとして, 加齢と男性であることがすべての調査で指摘されており, それ以外に鼻副鼻腔疾患の既往, 喫煙, 生活習慣病などが挙げられている. 加齢に伴う病理変化は, 末梢の嗅神経細胞から中枢の嗅覚野まですべての嗅覚経路で表れる. 加齢に伴う嗅覚低下における問題点は, ① 日常生活上の危険,支障を抱えること, ② 自身の嗅覚低下に気付いていないこと, ③ アルツハイマー病やパーキンソン病など神経変性疾患の前駆症状であることが挙げられる. 加齢に伴う嗅覚低下を改善することはできず, 眼鏡や補聴器のような補装具もないため予防が重要である. 予防としてはリスクファクターの回避に加えて, 適度な運動が効果を示すことが報告された. また, 近年, 欧州で行われている嗅覚刺激療法が嗅覚低下の予防に効果を示すかもしれないが, 今後の研究が待たれるところである. 耳鼻咽喉科医としては, 嗅覚低下を有する高齢者を診察する際には, まず, 鼻副鼻腔炎など原因となる疾患を鑑別した上で, 原因と思われる疾患が明らかでない場合は, 神経変性疾患の存在も考慮すべきである. また, 治らないとしても患者の抱える危険や日常生活の支障, 心理的な変化を理解する必要がある.
著者
杉浦 彩子 内田 育恵
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.5, pp.707-713, 2017-05-20 (Released:2017-06-20)
参考文献数
31

難聴は高齢者に最も多くみられる障害の一つだが, 近年難聴が認知機能低下のリスク要因であることが注目されている. 難聴と認知機能は, 共通の因子や相互作用もあると考えられ, その関係性は複雑である. 補聴器による難聴に対する介入で, 認知機能の維持・改善が報告されており, 2015年には大規模な疫学調査における補聴器装用の認知機能への有効性がイギリスとフランスから報告された. 難聴高齢者は難聴の自覚が乏しく, 家族から難聴を指摘されて受診する場合が多い. 高齢者において聴力を評価する場合には, 既に認知機能低下を伴っていて, マスキングがうまく入らなかったり, 聴力検査でのボタン操作が不安定だったりすることがある. また, 本来の難聴に機能性難聴を伴う症例があり, 留意が必要である. 認知機能低下のある高齢者の難聴への介入は, 語音明瞭度が悪く補聴器の効果が限定的な方が多いこと, 本人の自覚が乏しく補聴器装用の意思の乏しい方が多いこと, 意思があっても補聴器の操作などが困難な方がいること, 紛失のリスクが高いこと, などの問題点があり, 慎重な対応を要する. 認知機能正常の難聴高齢者と認知機能低下のある難聴高齢者とを区別して対応する必要がある. 高齢の難聴者の看過できない問題として耳垢栓塞があり, 湿性耳垢の多い欧米では高齢者の3割程度に認めるとされているが, 本邦においても1割弱の方に耳垢栓塞があると考えられ, 留意が必要である.
著者
湯田 厚司 小川 由起子 荻原 仁美 鈴木 祐輔 太田 伸男 有方 雅彦 神前 英明 清水 猛史
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.120, no.6, pp.833-840, 2017-06-20 (Released:2017-07-15)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

スギ花粉舌下免疫療法のヒノキ花粉飛散期への効果を検討した. 方法: スギ花粉舌下免疫療法 (SLIT) を行ったヒノキ花粉症合併180例 (平均37.0 ± 17.0歳, 男性105例, 女性75例, CAP スコアスギ4.6 ± 1.1, ヒノキ2.7 ± 0.8) を対象とした. スギ・ヒノキ花粉とも中等度飛散の2016年に日本アレルギー性鼻炎標準 QOL 調査票の QOL およびフェーススケール (FS) と, 症状薬物スコア (TNSMS) を花粉ピーク期に調査した. また, 花粉飛散後に両花粉期の効果をアンケート調査した. 結果: 飛散後アンケートで, 治療前にはスギ期で症状の強い例が多く, SLIT の効果良好例はスギ期68.7%とヒノキ期38.7%でスギ期に多かった. 両花粉期を比較すると, 同等効果42.2%であったが, ヒノキ期悪化が半数以上の54.9%にあった. 各調査項目の平均では両花粉期に有意差がなかったが, 個々の例で TNSMS スコア1以上悪化例が27.2%あり, スギ期軽症の FS 0または1の43.4%で FS が悪化した. 治療前にスギとヒノキ期に同等症状であった例の30.4%でヒノキ期に TNSMS が悪化した. 一方で, 治療前にヒノキ期症状の強かった8/30例 (26.7%) でヒノキ期に改善し, 効果例も認めた. 結論: スギ花粉舌下免疫療法はヒノキ花粉症に効果例と効果不十分例があり, ヒノキ期の悪化に注意が必要である.
著者
藤原 崇志 野々村 万智 白 康晴 吉澤 亮 岩永 健 水田 匡信 吉田 充裕 佐藤 進一 玉木 久信
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.143-147, 2019-02-20 (Released:2019-03-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1

2010年4月~2018年3月の間に専攻医が執刀した甲状腺葉切除術の安全性と質を評価するため, 手術時間, 術後半年以上治癒しない声帯麻痺, 術後出血を評価した. 8名の耳鼻咽喉科専攻医が専門領域研修を開始し, 339例の甲状腺葉切除術を執刀した. 声帯麻痺は3例 (0.9%) に生じ, 術後出血は10例 (2.9%) に生じた. 術後出血は執刀10~20例目に多く, 執刀経験が40例を超えると1例も認めなかった. また手術時間は執刀数が45例を超えると手術の約75パーセンタイルが1.5時間以内であった. 術後出血および手術時間の観点から甲状腺葉切除術を安全に行うには45例程度の執刀経験が必要であった.