著者
岸部 幹 斎藤 滋 原渕 保明
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.8-14, 2005-01-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
15
被引用文献数
5 11 7

鼻骨骨折は, 顔面骨骨折のうち最も頻度の高いものであり, 一般および救急外来でよく遭遇する疾患のひとつである. 鼻骨骨折は, 骨折による偏位がある場合や, 鼻閉や嗅裂の狭窄により嗅覚障害が惹起される可能性がある場合に整復する必要がある. しかし, 整復の成否については, 客観的に判断していない症例が多いと思われる. この理由として, 救急外来受診者が多いこと, 骨折の診断で単純X線検査やCTを使用した場合の被曝への配慮などが考えられる. しかし, 小さな偏位を見逃す例, 後に鼻閉や嗅覚障害を来す例もあり, 整復の成否について確かめる必要がある. 当科では徒手的整復を行う際に, 整復の成否を被曝のない超音波検査装置 (エコー) にて判定し有用な結果を得ている. その方法として, 特別な用具等はいらず, 鼻背にエコーゼリーを塗りプローブを置くだけで鼻骨を描出できている. これにより, real timeに鼻骨を描出しながらの整復が可能であった. また, 腫脹が強い場合は, 外見上, 整復がなされたか判定できないとして, 腫脹が消退するのを待ってから整復を施行する症例もあるが, エコーを用いれば腫脹が強い時でも整復が可能である. また, CTとほぼ同様にエコーでも鼻骨の輪郭が描出されることを考えると, その診断にも用いることが可能と考える. 以上から, エコーは診断から治療判定, 再偏位の検出といった鼻骨骨折診療の一連の流れに有用であり, 特に整復時の指標については, 現在のところ客観的にreal timeに判定できる機器はエコーのみであり, これを整復時に用いることは特に有用と考えられた.
著者
池岡 博之 大橋 淑宏 丸岡 健一 古下 博之 中井 義明 小野山 靖人
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.88, no.11, pp.1562-1566, 1985-11-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
21

In order to examine the effects of irradiation on the nasal epithelium, rabbits received 200kV hard X-ray irradiation at 3, 000 rad to their nasal septum. The nasal mucosa after the irradiation was examined with scanning and transmission electron microscopy in a time-course manner. Immediately after the irradiation, few morphological changes were observed on the nasal epithelium with scanning electron microscopy, while transmission electron microscopy disclosed some morphological changes such as vacuolation and ballooning of epithelial cells, and enlargement of intercellular space. 2 weeks after the irradiation, sporadically affected changes were observed. The affected signs of the epithelial cells were observed at the wider area according to the course of time after the irradiation. 4 weeks after the irradiation, stratified arrangement of non-ciliated cells or undifferentiated cells were noted in an extensive area of the nasal mucosa 8 weeks after the irradiation, the nasal epithelium were chiefly consisted of undifferentiated cells. Accordingly, the following conclusions were derived from the present investigation; 1) Irradiation affected the nasal ciliary epithelium. 2) The damage of the nasal epithelium by irradiation was not recovered easily.
著者
檜澤 伸之
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.15-19, 2014-01-20 (Released:2014-02-22)
参考文献数
20
被引用文献数
1

咳嗽は呼吸器疾患の日常診療では最も頻度が高い症候の一つである. 肺炎, 肺がん, 間質性肺炎や喘息, COPDなどの疾患がないことを確認した上で, 慢性咳嗽の原因疾患を考えていく. 身体所見や胸部X線写真, 呼吸機能検査で異常を伴わずに長期に続く咳嗽は, 原因疾患が曖昧なまま漫然と鎮咳薬, 抗炎症薬や抗生剤が投与され, 咳嗽によって生活の質が著しく低下したままで放置されてしまう危険があり, 適切な対応が求められる. 咳嗽は本来, 感染などによって気道内に貯留した分泌物や吸入された外来異物を気道外に排出させるための生体防御反応である. しかしながら, 8週間以上続く慢性咳嗽においては, 感冒を含む気道の感染症に対する生体防御が主体となることは少ない. 喘息/咳喘息, アトピー咳嗽/非喘息性好酸球性気管支炎, 副鼻腔気管支症候群/上気道咳症候群, さらには胃食道逆流などが慢性咳嗽の主要な原因疾患と考えられている. また, 長引く咳を呈する感染症としては, 線毛上皮細胞に感染するマイコプラズマおよび百日咳を考慮する. 日常の臨床では, これらの疾患を念頭に置いて詳細な病歴聴取を行い, 基本的な検査を進めていく. それぞれの病態に特異的な治療を実施し, 効果判定を行った上で治療内容の変更や増減を行う. しかしながら, これらの治療によっても軽快しない難治性の慢性咳嗽が存在し, その割合は20~40%ともいわれ, 中枢性の咳感受性亢進が難治性の慢性咳嗽に一定の役割を果たしている可能性が指摘されている. 難治症例においては咳嗽の原因に対する治療だけではなく, 亢進した咳嗽反射に対する非特異的な治療も重要になってくる. 慢性咳嗽の診療を支援する目的で日本呼吸器学会は咳嗽に関するガイドラインを作成している. 本稿では, 難治性の症例に対するアプローチなど, 慢性咳嗽を取り巻く最新の話題を, 最近改訂されたガイドラインの内容も踏まえながら概説したい.
著者
海老 原充 海老 原敏 岸本 誠司 斉川 雅久 林 隆一 鬼塚 哲郎 朝蔭 孝宏 吉積 隆
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.101, no.12, pp.1406-1411, 1998-12-20 (Released:2008-03-19)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

分化型甲状腺癌は比較的悪性度の低い癌として知られているが,中には周囲臓器への浸潤を来すものもある.特に浸潤頻度の高い臓器は気管である。そこで当院での気管浸潤例における手術手技,気管再建法における工夫,及び成績に関して報告をした.対象症例は国立がんセンター中央病院(1978年1月~1990年2月)およびセンター東病院(1992年7月~1996年12月)にて気管合併切除を施行した分化型甲状腺癌30例で,同期間中に手術を施行した分化型甲状腺癌全486例の約6.2%にあたった.病理組織学的には全例乳頭癌であった.性別は男性10例,女性20例であり,平均年齢は58.8歳(22~75歳)であった.切除後,21例に関しては二期的にhinge flapにて気管孔閉鎖が可能であった.気管部分切除•局所皮弁による再建は,気管環状切除•端々吻合に比較して術後の気道管理も容易であり手術侵襲も少なく,甲状腺分化癌のように悪性度の低い癌ではこの術式にて十分対応可能と考えられた.残りの5例に関しては欠損範囲が大きく,そのままでは二期的閉鎖が不可能であったため,3例に関しては気管壁欠損の上下方向を縫縮し残った欠損部に気管孔を作製し,局所皮弁にて閉鎖を行った.さらに,他の2例ではハイドロキシアパタイトを使用し気管壁の支持を試みた.ハイドロキシアパタイトは組織親和性に優れ,わん曲,長さ等の選択が可能で気管再建に有用と思われた.なお閉鎖のできなかった4例に関しては他因死が1例,肝癌併発にて気管孔縮小に止まったものが1例,経過観察中のものが2例であった.
著者
森 恵莉 松脇 由典 満山 知恵子 山崎 ももこ 大櫛 哲史 森山 寛
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.12, pp.917-923, 2011 (Released:2012-01-28)
参考文献数
20
被引用文献数
5 12

現在日本で保険適応のある嗅覚検査には, 基準嗅力検査と静脈性嗅覚検査の二種あるが, 基準嗅力検査は実施率, 普及率ともに低く, 静脈性嗅覚検査は疼痛を伴う検査であり患者への侵襲が高い. 嗅覚同定能検査の一つとして開発されたOpen Essence (以下, OE) は, 現在医療保険の適応はないが, その臨床的有用性が期待されている. 今回われわれは嗅覚障害患者に対するOEと自覚症状, 基準嗅力検査, および静脈性嗅覚検査との比較検討を行った. 当院嗅覚外来患者のうち, 嗅覚の評価が可能であった122例を対象とした. OEスコアと基準嗅力検査, 静脈性嗅覚検査, また嗅覚障害に対する自覚症状としてのVisual Analog Scale (VAS) と日常のにおいアンケートとの間にはそれぞれ有意な相関を認めた. また静脈性嗅覚検査において嗅覚脱失を認めた群はOEの正答率が有意に低かった. OEは従来からの検査法である基準嗅力検査と静脈性嗅覚検査および自覚症状をよく反映するため, 一般臨床において広く利用可能な嗅力検査であると考える. なお, OEに含まれるメンソールは詐病を見破れるものとして必要と考えるが, 嗅力を判定する際にはこれを除いて検討する方が良いかもしれない.
著者
岩崎 聡
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.3, pp.176-182, 2021-03-20 (Released:2021-04-03)
参考文献数
10

伝音・混合性難聴に対する振動子が体内に埋め込まれる人工中耳 (Vibrant Soundbridge: VSB) と能動型骨導インプラント (Bonebridge: BB) の現状と将来について概説する. 1983年世界に先駆けて本邦からリオン型人工中耳が開発され, その後 VSB が2000年に感音難聴に対して FDA の認可を取得し, 2006年 Colletti らが伝音・混合性難聴に対して, 正円窓に振動子である FMT を設置する新たな応用方法を報告した. VSB 手術は, 現在 FMT の留置部位によって正円窓留置法と卵円窓留置法の2つのアプローチ法がある. FMT と内耳のカップリングの補助としてカプラーを使用することができる. 現在認可されている VORP503 は MRI 1.5 テスラ対応となっている. 能動的骨導インプラントである BB は VSB の振動装置が側頭骨内に埋め込まれる点が異なるだけで, 2012年には CE マークの承認が得られているが, 本邦ではまだ保険収載されていない. 先天性外耳道閉鎖症に対して臨床研究が実施されている. 先天性外耳道閉鎖症に対する音質の自覚的評価を VSB, BB, Baha に実施し, VSB で明らかに良好な結果が得られた. したがって, われわれは第1選択を VSB とし, 乳突腔の発育不良例などの症例には BB などの骨導インプラントを選択している. 今後は一側性伝音・混合性難聴への適応拡大が課題である.
著者
神崎 晶 小川 郁 熊崎 博一 片岡 ちなつ 田副 真美 鈴木 法臣 松崎 佐栄子 粕谷 健人 藤岡 正人 大石 直樹
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.3, pp.236-242, 2019

<p> 聴覚過敏を主訴とした患者に対して, ほかの感覚器の過敏症状を問診・質問票による検査をしたところ, 複数の感覚過敏を有する5例を発見した.「感覚過敏」と本論文では命名し, その臨床的特徴を報告する. 主訴に対する聴覚過敏質問票に加えて, 複数の感覚過敏に対する質問票「感覚プロファイル」を用いて過敏, 回避, 探求, 低登録について検査した. 同時に視覚過敏は5例で, 触覚過敏は4例で訴えたが, 嗅覚と味覚過敏を訴えた例はなかった. 病態には中枢における感覚制御障害が存在することが考えられる. 感覚過敏の検査法, 診断法, 治療についてはまだ確立されておらず, 今後の検討を要する.</p>
著者
齋藤 康一郎
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.117, no.5, pp.614-630, 2014
被引用文献数
7

頭頸部におけるヒト乳頭腫ウイルス (HPV) 感染に関連した疾患の中で, 喉頭乳頭腫は, 特に再発性・多発性の強い, 喉頭気管乳頭腫症 (recurrent respiratory papillomatosis: RRP) と称される症例では手術も多数回におよび, 治療に難渋し, 医師・患者・家族を大いに悩ませる疾患の一つとなっている. 個々の喉頭乳頭腫で経過がまちまちであることも, 事態を複雑化させている. 本疾患は, 100以上の遺伝子型があるHPVの中でも良性型に分類される6型と11型が主としてその発症に関与しているが, その感染源に関しては種々の可能性が報告されている. 小児発症症例と成人発症症例での臨床経過の違いを含め, 疾患の臨床動態に影響する種々の背景因子に関しては, 慢性のHPV感染症という観点からも, 基礎知識として整理し, 把握しておく必要がある. 診断は, 病理組織学的診断によるが, 病変の広がりの詳細な診断には, 特殊光を用いた内視鏡での観察も有効である. 疾患を取り扱うに際しては, 経過中に悪性転化を来す可能性, 腫瘤の好発部位, さらには気管切開に関する考え方も知っておくことが要求される. 決して頻度が高いとはいえない orphan disease であることもあり, 絶対的な治療方法の開発が進まない現状において, 治療の基本は外科的切除であり, 再発・多発症例では補助療法を併用することとなる.<br> 本稿では, 喉頭乳頭腫に関する疫学からHPV感染症としての背景, 診断のコツや疾患とかかわる中での注意点をまとめた. さらに, 外科的治療の基本的な考え方や種々の手技の特徴, 補助療法に関するこれまでの試みと今後の展望まで含めて, 欧米の報告を中心に概説する. さらに, 2006年6月以来, 60症例以上の喉頭乳頭腫の患者にかかわってきた経験をもとに, われわれが現時点で施行可能かつ有効と考え, 実践している, 診断・治療のポイントを挙げる.
著者
鈴木 淳 小林 俊光
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.113, no.11, pp.844-850, 2010-11-20
参考文献数
16
被引用文献数
3

目的: 2009年におけるインターネット人口普及率は75.3%であり, 今後インターネット上での医療情報収集がますます進むと予想される. インターネット上には顔面神経麻痺に関するさまざまな情報が存在するが, それらを検討した報告はない. 今回, インターネット検索サイト (Google Japan, Yahoo! Japan, Google USA) にて「顔面神経麻痺」, 「facial palsy」「facial nerve paralysis」をキーワードに検索を行い, 上位50サイトについて検討を行った. 結果: 鍼灸院のサイトは日本語サイトの約40%と多数を占めた. 日本語サイトでは, 医師作成サイトや公共性の高いサイト (大学・学会・公共組織) の割合が英語サイトに比較し少なかった. 耳鼻咽喉科医以外が作成した日本語サイトでは, 中耳炎・耳下腺腫瘍・側頭骨腫瘍の記載率が少なかった. 医師作成サイトと鍼灸師作成サイトの比較では, 改善率, 改善時期, NET (nerve excitability test)・ENoG (Electroneuronography), ステロイド, 形成外科手術の各記載率について, 医師作成サイトが有意差をもって多かった. 結論: 十分な情報が記載された日本語サイトは少ない. 今後は公共性の高い組織から, 質の高い情報が発信されることが望まれる. 耳鼻咽喉科医は, インターネット上での情報提供により積極的に参加していくことが必要と考えられる.
著者
片岡 祐子 菅谷 明子 福島 邦博 前田 幸英 假谷 伸 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.10, pp.1258-1265, 2018
被引用文献数
2

<p> 新生児聴覚スクリーニング (以下 NHS) を全例公費で実施した場合と, 全例実施しなかった場合で, NHS および要精密検査例を含めた難聴児の診断にかかる費用, その後に必要となる教育, 福祉, 補聴等にかかる公的費用について岡山県のデータをもとに試算し, NHS の費用対効果について検討を行った. 義務教育機関については NHS 実施例の方が非実施例よりも地域の公立学校 (難聴学級, 支援学級を含む) 進学率は7.6%高かった. また NHS 実施例の方が特別児童扶養手当受給開始は4.3カ月早く, 障害児福祉手当受給率は8.8%低く, 人工内耳装用率は6.9%高かった. NHS と精査, 教育, 福祉, 補聴にかかる公的費用は, 年間出生数16,000人の自治体を想定すると, NHSを実施した場合では795,939,526円, 非実施では807,593,497円であり, NHS を実施した方が11,653,971円低く, NHS を全額公費負担にしたとしても償還できる可能性が高いという結果であった. また NHS と以後の精査にかかる費用としては, 1段階 NHS と確認検査まで実施する2段階 NHS を比較すると, 2段階 NHS の方が経済的効率は高かった. 教育および福祉費用の軽減の背景には難聴児, 障害児の義務教育の受け入れ状況の年代による変化も関与している可能性はあり, 統計学的な限界はあるものの, NHS を全額公的助成で行う意義は十分あると考える.</p>
著者
國枝 千嘉子 金澤 丈治 駒澤 大吾 李 庸学 印藤 加奈子 赤木 祐介 中村 一博 松島 康二 鈴木 猛司 渡邊 雄介
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.10, pp.1212-1219, 2015
被引用文献数
6

声帯ポリープや声帯結節の診断・治療方針の決定には大きさなどの形態的特徴が関与することが多い. 初診時から音声治療を行った声帯ポリープ36例, 声帯結節35例について, 手術の効果および手術の際に測定した病変の大きさと術前音声検査値との相関, 病変の大きさとその術後改善率との相関を検討した. 手術後の音声機能は, 声帯ポリープ・声帯結節の両群で最長発声持続時間・声域・平均呼気流率・Jitter%値 (基本周期の変動性の相対的評価)・Shimmer%値 (ピーク振幅の変動性の相対的評価) のすべての項目で術前に比べ有意な改善を認めた. 病変の大きさとの相関では, ポリープ症例は術前の声域・Jitter%で相関を認め, 術後改善率では, 声域・平均呼気流率・Jitter%・Shimmer%で相関を認めた. 一方, 結節症例では術前の声域のみ相関を認めた. Elite vocal performer(EVP) (職業歌手や舞台俳優など自身の「声」が芸術的, 商業的価値を持ち, わずかな声の障害が職業に影響を与える) 群と EVP 以外群で検討を行い, 声帯ポリープ症例の EVP 群では EVP 以外群と比較して病変の大きさと音声検査値との相関は低かった. 結節では両群とも病変の大きさと音声検査値との相関は低かった. 両疾患において手術治療は有効で, 形態的評価は治療方針決定のために必要であり, 音声治療も両疾患の治療に不可欠であると思われた.
著者
清野 宏 岡田 和也
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科學會會報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.114, no.11, pp.843-850, 2011-11-20
参考文献数
36
被引用文献数
1

生体防御の上で極めて重要な位置にある粘膜には, 粘膜免疫として知られる全身免疫とは異なる巧妙な免疫システムが構築されている. 粘膜固有の免疫担当細胞としてB1系B細胞や&gamma;&delta;T細胞, またNK22細胞などが見出され, それぞれ重要な役割を果たしている. また, 粘膜面に, 病原体に対する防御に不可欠な, 抗原特異的分泌型IgAを効率的かつ臓器特異的に誘導するメカニズムとして, MALT (粘膜関連リンパ組織) を中心とした粘膜免疫システムが構築されている.<br>頭頸部領域での粘膜免疫については, MALTに相当するものとしてヒトにおけるWaldeyer輪がよく知られている. マウスなどでは扁桃が存在せず, 鼻腔のNALT (鼻咽腔関連リンパ組織) がそれに相当するものと考えられる. 加えて近年, 鼻腔や口腔のみならず眼結膜や涙嚢にもCALT (結膜関連リンパ組織) やTALT (涙道関連リンパ組織) などのMALTが見出され, 全体として頭蓋顔面粘膜免疫システムという広大な粘膜免疫ネットワークを構築することが明らかになってきた. さらに, リンパ節や腸管のMALTであるPeyer板が胎生期に発達するのに対し, NALTやTALTは生後に発生し, また組織形成に必要な遺伝子群も明確に異なるなど, 非常にユニークな発生過程をとっている. NALTやTALTの形成に関わる遺伝子は頭蓋顔面粘膜免疫システムの鍵を握るものと予想され, その究明が待たれる.<br>頭蓋顔面粘膜免疫システムの臨床応用として, 経鼻ワクチンが挙げられる. 現時点では米国でインフルエンザワクチンとしてFluMistが使用されている. 点鼻により痛みもなく, また効果的に気道系での免疫が得られる, 優れた経鼻ワクチンの開発は呼吸器感染症対策のために必須であるが, 嗅粘膜からの吸収による中枢神経系への移行が懸念されてきた. Nanogelは新しく開発された生体用の素材で, マウスでの検討では, ワクチンデリバリー用素材として用いると中枢神経への移行もなく, 極めて効率的に鼻汁中でのIgA抗体を誘導できており, 今後の発展が期待できる.
著者
高野 賢一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.3, pp.187-191, 2021
被引用文献数
1

<p> 目覚ましく進歩する通信情報機器や通信技術により, 遠隔地に在住する患者や交通弱者の医療機関等へのアクセスビリティの向上, 地域間医療資源差の解消, 勤労世代の労働時間確保などの諸問題を解決できる手段のひとつとして, 遠隔医療に対する注目が高まっていた. そこに, 新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大する状況となり, 患者および医療者双方の感染リスクを軽減させ, いわゆる受診控えを解消させる観点から, 医療インフラとしての遠隔医療の有用性が再認識され, 医療現場での導入が加速しつつある. 2020年4月には厚労省から, オンライン診療における時限的・特例的な通知が発出され, これまでの制限が時限的ではあるが緩和されている. われわれは北海道という地域特性から, 2018年より主として人工内耳装用者を中心に遠隔医療の提供を試みてきた. 本稿では遠隔マッピングや遠隔言語訓練を中心に, その経験を紹介したい. 遠隔マッピングでは, 患者は居住する地元の病院または医院を受診し, 大学病院サイトとオンラインで結びマップ調整を行っている. これまでもおおむね高い満足度が得られてきたが, マッピングソフトによる制限や不満点もあった. 2020年9月に新しいマッピングソフトにより改善が図られたことから, 今後は対象者の拡大とさらなる満足度の向上が期待されている. 遠隔言語訓練では自宅に限らず, 装用者がいる場所とオンラインで結び, 言語訓練を行っているが, 時間的空間的制限が減ることから, やはり満足度は高い. 遠隔医療の普及は始まったところであり, エビデンスの蓄積, 法整備, 診療報酬面などまだ課題は多いものの, 専門家の偏在と不足が特に顕著である聴覚障害診療が抱える諸問題を解決できる手段のひとつとして, 遠隔医療は大きな可能性を秘めており, 正しく発展することで聴覚診療に携わる医療者と患者双方に多大な恩恵をもたらすものと思われる.</p>
著者
飯沼 壽孝 加瀬 康弘 塩野 博己 北原 伸郎 広田 佳治 清水 弥生 福田 正弘
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.91, no.9, pp.1358-1365, 1988
被引用文献数
2

1. 小児副鼻腔炎179症例のウォータース法によるX線写真を対象として,画像上の撮影角度,上顎洞の病変,上顎洞骨壁の所見を分析した.<br>2. 撮影実施時の撮影角度が成人に準じて適正であっても画像上の撮影角度は過半数において過剰であり,その傾向は幼少児に強い.<br>3. 画像上での撮影角度の過剰は軽度病変において見掛け上での陰影増強を来しうるが中等度以上の病変の陰影には影響を来さない.<br>4. 小児副鼻腔炎の画像上での病変は約70%で左右対称的であり,その傾向は幼小児に強い.<br>5. 上顎洞壁の不鮮明な所見の出現率は,上顎洞上壁内方で18.4%,同外方で17.3%,頬骨陥凹部で24.6%,頬骨歯槽突起線で1.1%である.<br>6. いずれかの部位で洞壁が不鮮明となる率は軽度病変で16.2%,中等度で47.8%,高度で72.0%となり,画像上での病変が高度になるに従って洞壁の所見は不鮮明となる.<br>7. 小児におけるウォータース法では,成人における撮影角度(耳眼面に対して45度)を修正し,3-4歳では20-25度とし,以降は年齢と小児の個体としての発育に合わせて,10歳以降ではじめて成人なみとする.<br>8. 小児副鼻腔炎のX線診断では,合併症や悪性腫瘍の疑いがない場合は,4-6歳まではウォータース法のみでもよく,7-9歳以降は症例に応じてコールドウェル法を併用する.<br>9. 他の画像診断として,上顎洞内の貯留液の有無に関してはAモード超音波検査法が有用である.<br>10. 小児副鼻腔炎の画像診断にはX線診断法に超音波診断法を組み合わせることで経過観察と治療効果の判定がより簡単となろう.
著者
野々木 宏
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.119, no.9, pp.1187-1193, 2016

<p> 米国と欧州ガイドラインとともに JRC 蘇生ガイドライン2015が同時発表された. この診療ガイドラインの特徴は, 万国共通の国際的な科学的コンセンサスをもとに加盟国がそれぞれの医療事情に応じたガイドラインを作成していることであり, 他の診療ガイドラインには類を見ないものである. 最も注目される変更点はエビデンスの質を評価するための透明性の高い GRADE システムを採用したことである.<br> 蘇生方法の今回のポイントは, 病院内外での心停止の予防をさらに強調していること, 市民による心肺蘇生の実施率を上げるため心停止かどうかの判断に自信が持てなくても心肺蘇生と自動体外式除細動器 (AED) の使用を開始することを強調し, それには119番通報時の通信指令台による口頭指導が役立つことを示した. また, 胸骨圧迫と AED の使用法に内容をしぼった短時間の講習や, 学校教育の重要性を示し, 医療機関で行われる体温管理療法や脳機能モニタリングなど, 心拍再開後の集中治療の重要性を強調した. さらには市民の救命処置への参加をさらに促すために, 倫理的・法的課題についても言及した.<br> 本ガイドラインを普及啓発することで心停止の予防や救命率向上がはかられ, さらにわが国からのエビデンスの発信が期待される.</p>