著者
髙津 梓 田中 翔大 仲野 みこ
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.37-45, 2021-10-25 (Released:2022-10-25)
参考文献数
11

研究の目的 本研究では、排尿・排便が未確立なASDと知的障害を有する児童に対し、参加児と保護者の状況のアセスメントから保護者が実行可能な支援計画を作成し、支援の実行と効果を検討した。参加者 知的障害特別支援学校小学部3年に在籍する、ASDと知的障害を有する男児1名とその保護者。家庭や登下校時に失禁があり、トイレでの排便は未経験であった。トイレで座ることに対し強い抵抗を示し、声を上げ嘔吐をすることがあった。場面 排尿については登下校時、排便については家庭で保護者が介入をした。介入 排尿については、尿失禁が起こっていないその他の場面と同じ布パンツに変更した。排便については、拒否行動を起こさずトイレでの排便経験をし、排便することで好子が得られる方法を2つ提案し、保護者の選定により、浣腸の実施による短時間の着座と確実な排便の誘導、排便後の好子の提示を実施した。行動の指標 週あたりの登下校時の尿失禁と、家庭での排便の成功と自発の生起率、排便時の浣腸の使用頻度を指標とした。結果 保護者による支援が実行され、トイレでの排尿・排便が定着し意思表示も増加した。結論 保護者の実行可能性に基づいた支援計画が支援の実行を促し、排尿・排便の確立に繋がった。
著者
藤 健一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.22-30, 1987-03-31 (Released:2017-06-28)

日常行動の行動分析の試みとして, 写真の撮影行動をとりあげた。今回, 分析の対象としたのは, 著者が研究場面で遭遇する日々の出来事, 例えば実験装置の製作, 各種のトラブルなど, 研究日誌の記事に該当しそうな出来事を撮影するという, 著者自身の撮影行動であった。この撮影行動がいかなる要因の統制を受けていたかを推定するために, 1984年4月2日から1985年3月30日までの363日間に撮影された写真記録の事後分析を行った。その結果, (1)使用したフィルムは, 36枚撮フィルムが11本, 24枚撮フィルムが6本, 12枚撮フィルムが20本であった。(2)1日あたりの平均撮影枚数は, 装填していたフィルムの長さ(何枚撮かということ)によって異なっており, 36枚撮で4.5枚, 24枚撮で5.3枚, 12枚撮で2.0枚であった。(3)累積撮影枚数曲線の目視分析から, 撮影行動は写真のプリントのできあがりを強化事象とする固定比率強化スケジュールの支配を受けていたと推定された。
著者
友永 雅己 藤田 和生
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.51-60, 1989-03-31 (Released:2017-06-28)

累積記録をNECのPC-9801シリーズパーソナルコンピュータのCRT画面にリアルタイムで描くBASICプログラムを作成した。このプログラムは一組のサブルーチンから構成されており, 行動実験制御用の主プログラムにこれらのサブルーチンをマージして使用するものである。適切な時間に適切なサブルチーンを呼びことによって, N88-BASICがサポートしていないインターバル割り込み処理を用いることなく累積記録のリアルタイム表示を可能にしている。
著者
望月 昭 野崎 和子 渡辺 浩志 八色 知津子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-20, 1989-03-31 (Released:2017-06-28)

4名の精神遅滞を伴う成人聾者を対象として, 4種の「表情画」(「かなしい」「おこる」「うれしい」「ふつう」), 対応する「サイン」, および「文字」の3者間の等価関係の獲得訓練を条件性弁別課題を用いて試みた。対象者のうち, 2名は「サイン」-「表情画」, 「文字」-「表情画」の2種の条件性弁別課題における選択行動を強化した結果, 「サイン」-「文字」課題と表出課題については, 直接訓練することなしに獲得することができた。他の2名については, 「サイン」-「表情画」課題に引き続き行われた「文字」-「表情画」課題の獲得が困難であり, 「サイン」-「文字」課題について直接訓練したところ, 他の課題についても完成することができた。表出への転移は, 4名の対象者ともに書字あるいはサインのいずれかで, 弁別訓練中に使用した表情について行うことができたが, 新たな人物の表情写真あるいは生きた人物の表情に対する表出の般化は, 直後のテストでは4名中2名で認められた。また, 訓練の脈絡を離れた場面で4名中2名について獲得した語彙を表出したことが報告されたが, 場面に適した使用が認められたのは1名のみであった。
著者
杉本 任士
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.58-66, 2021-10-25 (Released:2022-10-25)
参考文献数
11

研究の目的 小学校2年生の給食準備・片付け場面において相互依存型集団随伴性による学級規模での介入を行うことによって、学級全体の給食準備・片付けに要する時間が短縮するか検証することを目的とした。研究計画 場面間マルチプルベースラインデザインと基準変更デザインの組み合わせを用いた。場面 公立小学校の通常学級2年生1クラスの給食準備ならびに給食片付け場面であった。参加者 公立小学校2年生の通常学級に在籍する児童25名(男子16名、女子9名)であった。独立変数の操作 強化基準を段階的にあげながら相互依存型集団随伴性による介入とバックアップ強化子の提示を行った。行動の指標 給食準備ならびに給食片付けに要する時間であった。結果 介入期ではベースライン期と比較して、給食準備ならびに給食片付けに要する時間の合計が、約18分から約13分へ約28%短縮された。結論 学級規模での相互依存型集団随伴性による介入とバックアップ強化子を提示することによって、学級全体の給食準備ならびに給食片付けに要する時間の短縮に効果があることが示唆された。手続きなどの社会的妥当性が示された。
著者
髙野 愛子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.2-11, 2021-10-25 (Released:2022-10-25)
参考文献数
14

研究の目的 本研究ではじゃんけんの手に対する勝敗判断課題を用いて、勝敗の判断基準に関する言語教示を与えることなく、伸ばされた指の本数がより多い手を勝ちとする勝敗判断を形成することを通じて、通常のじゃんけんに応じた勝敗判断を維持する強力な刺激性制御を減衰させる変数を探索した。研究計画 提示された2つ、または3つの手から勝ちまたは負けとなる手を選択する課題を用いた。訓練中の反応、および訓練前後に実施したテストにおける反応から訓練の効果を検討した。場面 個別実験として実施し、ノートパソコンを用いた。参加者 大学生8名が参加した。独立変数の操作 3つのじゃんけんの手のうち異なる2つが提示される二択条件と、これら3つ全てが提示される三択条件を導入した。行動の指標 1試行で提示された手のうち、伸ばされた指の本数がより(最も)多い手を勝ち、少ない手を負けとする反応を正反応と定義し、正反応率を測定した。結果 二択条件において、三択条件の導入前は正誤のフィードバックを提示しても正反応率の上昇が見られないか、一度上昇してもテストでは維持されず下降した。一方、三択条件の導入後は正反応率が上昇し、テストにおいても高水準で維持された。結論 じゃんけんに応じた勝敗判断を維持する刺激性制御は強固であるが、3つのじゃんけんの手から勝ちまたは負けの手を1つだけ選択する課題を提示することで、その制御が減衰することが示唆された。
著者
平澤 紀子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.274-280, 2020-03-20 (Released:2021-03-20)
参考文献数
24
被引用文献数
1

対象者の行動問題の低減から生活の質の向上への転換を示したポジティブ行動支援は、学校教育に適用される中で、対象者に支援を行う支援者への支援の枠組みとして進化している。本特集号は、このような学校規模ポジティブ行動支援の機能を確立する方向で、わが国のコンテンツと研究に必要な要素を明らかにし、検証している。こうした検討は学校教育にどのように貢献するだろうか。PBSの焦点に照らすと、既存の学校システムを機能化し、学校教育を向上させるといえる。それも、学校規模の指標の検討により、成果拡大への循環をもたらす。一方、コンテンツの方向性や実効性にかかわる課題も指摘した。
著者
平澤 紀子 藤原 義博 山本 淳一 佐囲東 彰 織田 智志
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.108-119, 2004-06-30 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

近年の応用行動分析学では、発達障害児者の行動問題を解決するために、積極的行動支援(PositiveBehavioral Support)に代表されるように、行動問題を減らすだけでなく、QOLの向上を積極的に目指していこうという動きがある。そのために、日常場面においては、行動分析学を提供する人と対象者に直接支援を行う人々との協働を前提としているが、その成果は関与する個人や環境の対応能力に委ねられているという指摘にとどまっている。そこで、本論文では、教育・福祉現場において積極的行動支援に基づく実践が行動問題の減少だけでなく、適応行動の増加を実現し、それを継続し拡大するためには何が必要かを明らかにすることにした。そのために、積極的行動支援の2つの基準とともに、実践上の課題を提示している2つの事例を検討し、そのことを通して、どのように積極的行動支援を進めることが有効か、また、その際の課題は何かについて考察した。
著者
松本 明生 大河内 浩人
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.20-31, 2003-04-20 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

本稿の目的は、実験的人間行動分析で行われたルール支配行動に関する研究を展望することである。主な結果は以下の通りである。(a)教示は反応の効率的な生起には有効であるが、随伴性の変化に対する感受性を低減させる。(b)教示に抵触する随伴性は、教示に従う反応を消失させる。(c)教示とスケジュールが一致する履歴は教示に従う反応を促進する。(d)自己ルールに対する随伴性が人工的にプログラムされていないなら、自己ルールと非言語反応には相関関係がある。(e)自己ルールが形成されるとともに、非言語反応はそのルールに連動するが、より弁別性の強い強化スケジュールに抵触するルールの場合、非言語反応は連動しない。(f〉自己ルールと非言語反応との連鎖を強化することによって、自己ルールと非言語反応との相関関係が生まれる。考察では今後のルール支配行動研究の方向性について、社会的随伴性という観点から論じた。
著者
澤 幸祐
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.158-164, 2021-03-25 (Released:2022-03-25)
参考文献数
20

徹底的行動主義に基づく行動分析学と、方法論的行動主義に基づく学習心理学は、多くの共通点を持つ関連領域でありながらも、なお無視できない相違がある。そこで本稿では、徹底的行動主義と方法論的行動主義を接続するために、行動分析学が重要視する「行動の予測と制御」と「環境と行動の関数関係の特定」という問題に注目する。制御理論や機械学習といった他領域での議論を援用して、行動の予測と制御という目的のためにどのような関数関係を検討するべきかを検討し、方法論的行動主義の研究が、そうした関数関係の研究にどのような示唆を与えうるかを議論する。
著者
赤根 昭英
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.49-60, 1995-06-15 (Released:2017-06-28)

知的障害を持つ2名の生徒に、1000円未満の買い物ができるように教授した。それまで、生徒らは、10円を超える金額の支払や、2桁の金額の読み書きができなかった。教師(筆者)の自作による「計数板」という教具を使用し、硬貨の計数を訓練した。さらに「計数板」を補助具として用いて、実際に買い物をさせた。その結果、スーパーマーケットのレジスターの金額表示を見て支払ったり、菓子屋の店主が言った金額を聞いて支払ったりすることができるようになった。また、彼らが買い物をしていることを、店の人や周りの買い物客に知らせるようにすることで、児童が買い物をしやすい環境ができただけでなく、障害児に対する周囲の人々の理解を促すこともできた。さらに、彼らが学校で買い物ができるようになると、親たちも家庭で彼らの買い物を試みるようになった。算数指導という教授の文脈からも、地域生活の為の準備としても、教室から出て現実の社会場面で実際に硬貨を使う事は有効であると考えられる。
著者
仁藤 二郎 奥田 健次
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.80-91, 2013-02-20 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
5

研究の目的 本研究では、嘔吐不安を訴えて来院したひきこもり男性に対して、食事量を指標として、精神科デイケアを利用したエクスポージャーを実施し、その効果を検討することを目的とした。研究計画 基準変更デザインを用いた。場面 精神科クリニックのデイケアにおいて介入を実施した。被験者 介入開始時19歳のひきこもり男性で、特定の恐怖症と診断されていた。介入 標的行動は、「昼食を一定量食べ、その後13時から15時までのデイケアプログラムに参加、あるいは見学する」こととした。基準1では食事量300gを、基準2では400gを目標として、それらの目標を達成するまで、あるいは昼食時間が終了する13時までは食事の部屋にとどまるという取り決めを行った。昼食時間が始まって30分経過しても目標に達しない場合には、もう少し食べるよう口頭で促した。行動の指標 食事量を測定した。結果 基準1では300gを、基準2では400gを食べられるようになった。また、その効果はそれまで対象者が一度も経験したことがなかったデイルーム場面や外食場面にも般化した。結論 嘔吐不安を訴える男性に対して、不安そのものへの介入ではなく食事量を指標としたエクスポージャーの適用が有効であった。
著者
八賀 洋介
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.120-140, 2008-03-31 (Released:2017-06-28)

近年では変動的行動のスケジュール研究が盛んに行われている。興味深い現象として、変動性の高い行動は強化頻度減少や消去に対して変動性の変化を起こしにくいことが指摘されている。しかし、スケジュール効果を検討する以前に"変動性がオペラントである、条件づけられる、強化可能である"などといわれる場合、その抽象性のために何を言わんとしているのかが曖昧である。本稿では行動変動性を強化する際に実際に何が行われているのかを明らかにすることと、併せて最近の本領域の研究動向を展望することを目的とする。分析の軸を与えるために2つの予備的検討を行う。始めに行動分析学におけるオペラントと変動性の概念の用法を確認し、次に変動性強化で使用される手続きを検討する。それらの検討から本領域で使用される分化強化の対象を明確にする。そのもとで、オペラントとしての変動性をめぐる先行研究を概説し、行動変動性と分化強化の関係を論じる。変動的行動のスケジュール研究の下では、変動性次元が分化強化対象として存在するのではなく、むしろ、変動的行動の内部パラメータとして存在していることを指摘する。
著者
小田 史子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.10-24, 2004-02-29 (Released:2017-06-28)

In Japan, some dogs are kept indoors by their owners and never allowed outside. These "inside dogs" are trained to eliminate in a container like a cat's litter box, which is lined with a "pet sheet," i.e., specially treated absorbent paper. Study objective: to investigate whether if dogs were reinforced for eliminating on the pet sheet, they would learn to eliminate there without prior prompting. Design: After a baseline period, intervention was carried out, and than a follow up done. Setting: indoor locations, such as a home or workplace. Participants: 1 female and 3 male puppies and their owners. Intervention: when the dog eliminated on the pet sheet without prompting, or after having been taken to the pet sheet, the owner reinforced the dog's behavior. Measure: The percentage of eliminations that were on the pet sheet was measured. Results: 3 of the puppies learned to eliminate on the pet sheet, although one of those only used the sheet for urination. The remaining dog did not learn. Conclusion: Reinforcing eliminating on the pet sheet was effective for training "inside puppies". Owners should take their dog to a pet sheet when the dog seems about to eliminate, and reinforce the behavior of eliminating in the correct Location.
著者
高砂 美樹
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.128-134, 2019

<p>John B. Watsonの条件性情動反応の研究(Watson & Rayner, 1920)に出てくるAlbert B.として知られるLittle Albertは本当は誰だったのだろうか。この9か月齢の子どものことは心理学史ではよく知られてきたが、Albertは実験の後に生後ずっと暮らしていた大学病院から連れていかれ、その後どうなったかについては何の手掛かりもなかった。近年になって、Beck et al. (2009)は、Little Albertは実際にはDouglas Merritteという名前の子どもで、1922年に水頭症を患い、1925年に亡くなっていると主張した。さらに2012年の研究でBeckのグループはAlbertの神経学的障害の徴候を見落としていたと報告し、もしそれが事実であったならばWatsonがこの子どもを虐待していたことになることを示唆した。しかしながら、2014年になると、もう一つのグループの心理学者らがAlbert Bargerという別の子どもをより適切なAlbert B.の候補として同定した。本論ではLittle Albertを探す一連の論争について概観する。</p>