著者
杉原 聡子 米山 直樹
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.13-23, 2015

研究の目的 自閉スペクトラム症児への運筆訓練における親の指導行動の改善に対して未編集のビデオ映像を用いたビデオ・フィードバックの効果について検討した。研究計画 研究デザインはABC+フォローアップデザインであった。場面 大学内の観察室であった。参加者 自閉スペクトラム症のある双子の男児をもつ母親1名であった。介入 母親の指導スキルは、把持修正、環境調整、トークンエコノミー、プロンプト、強化の5項目で構成した。ベースライン(A)ではビデオ撮影の方法のみ教示した。介入I期(B)では支援者と母親でビデオを視聴し、適宜ビデオ映像を停止して5項目についてその実施と未実施を母親に示しコメントした。介入II期(C)では介入Iに加え、支援者が子どもの標的行動を強化するためのトークンボードを用意し、母親に手渡した。行動の指標 指導台本の実施率を指導行動の正確率と定義し、従属変数とした。また、併せて子どもの行動変容について、図形における運筆逸脱率を測定した。介入後に、母親より社会的妥当性アンケートへの回答を得た。結果 介入後に母親の指導行動の正確率が改善し、子どもの運筆逸脱率が減少した。結論 未編集のビデオ映像を用いたビデオ・フィードバックによる支援は母親の運筆指導行動の正確性を改善するのに有効であることが示された。
著者
小野 浩一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.1-44, 1990-09-30 (Released:2017-06-28)

Four types of research on superstitious behavior in humans and nonhumans were reviewed and discussed from the perspective of recent developments in this area. The first type explains the effects of periodic delivery of food on pigeons' superstitious responding in terms of stimulus substitution or species-specific appetitive behavior. Though this type of research is sometimes said to replicate Skinner (1948)'s experiment, this statement may not be accurate because the experiments emphasize the effects of contingencies in steady-state performance. The second type examines whether or not idiosyncratic and stereotyped patterns of behavior develop under response-independent contingencies with attention to accidental response-reinforcer contiguities. The third type includes a variety of studies examining the effects of response independence, such as delay of reinforcement. The fourth type studies superstitious behavior under response-dependent contingencies. It is suggested that further studies should be designed to examine more precisely the effects of response-reinforcer contiguity, aversive control, accidental reinforcement under response-dependent schedules, and verbal control over human superstitious behavior.
著者
Agnew Judy L. 安生 祐治
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.133-141, 1994

行動分析学の企業への応用はここ数年の間にめざましい発展を遂げている。本論文では、行動分析学を利用しているビジネスコンサルティング会社、Aubrey Daniels & Associatesが提供するコンサルティングサービスを解説する。パフォーマンス・マネジメントと呼ばれるこのサービスは、標的行動と成果の特定、先行条件の特定、測定、フィードバック、ゴール設定、結果の操作の6つの基本的なステップから成り立っている。パフォーマンス・マネジメントによる成功事例を、クライアントが直面していた問題とその解決方法を含めて紹介する。
著者
山下 裕史朗 向笠 章子 松石 豊次郎 WILLIAM E. PELHAM
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.75-81, 2009-03-30 (Released:2017-06-28)

われわれは、米国BuffaloのPelham教授によって確立され、ADHDをもつ子どもへの治療モデルプログラムとして全米で行われているSummer Treatment Program(STP)を2005年から久留米市でスタートし、3年間継続してきた。STPは、デイキャンプ方式のプログラムで、ポイントシステム、正の強化子、デイリーレポートカード、タイムアウトなどのエビデンスに基づく手法を用いた。2005年は2週間、2006から2007年は3週間、のべ89名(年齢6〜12歳)が参加した。タイムアウト頻発のため個別プログラムを要する子どもが毎年1名いたが、ドロップアウトしたものはいなかった。行動改善はすべての子どもに認められ、ADHDや反抗挑戦性障害の症状も有意に改善した。保護者の満足度はきわめて高い。米国のSTPは、日本人ADHDをもつ子どもにも有効であるだけでなく、医療・心理・教育の各専門家のコラボレーションを高め、学生の臨床教育、臨床研究に役立つプログラムである。
著者
若林 上総 中野 聡 加藤 哲文
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.145-156, 2016-03-25 (Released:2017-06-22)
参考文献数
15

研究の目的 定時制課程の高等学校において、生徒の課題遂行を高めることを目的とした行動コンサルテーションを実施し、介入厳密性(treatment integrity)を保つのに必要となる支援の検討を行った。研究計画 2学級を対象としてA-B-C-CD-CDEデザインで実施した。場面 定時制高等学校の数学Iの授業に介入した。参加者 コンサルタントとして特別支援教育コーディネーター、コンサルティとして教職経験4年目の数学Iの教科担当、クライエントとして教科担当が指導する2つの学級に在籍する生徒35名が参加した。介入 教科担当の介入厳密性を高めるために、2度の打ち合わせ、遂行する教授行動の毎朝の確認、パフォーマンス・フィードバック、台本の提示を行った。行動の指標 授業ごとの生徒の課題遂行率および教師の教授行動の遂行率を測定した。結果 介入とともに発達障害の生徒を含む各学級の生徒の期間ごとの課題遂行率が上昇の傾向を示した。それに応じて教師の介入厳密性も高まった。結論 コーディネーターの働きかけが教師の教授行動に与えた影響が示唆された。考察 コンサルテーションで生じた教師の教授行動の変容の要因、生徒の課題遂行率の上昇との関連を議論した。研究の限界として厳密な場面の統制ができなかった。
著者
D. L. Chambless T. H. Ollendick
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.81-105, 2005-04-25 (Released:2017-06-28)

アメリカ合衆国における、証拠に基づく心理療法(evidence-based psychology)の実践を増加させようとする努力の結果、経験的に支持された心理的介入についての情報を明らかにし、同定し、普及させるための特別委員会が組織されるに至った。この論文ではアメリカ合衆国やイギリスなどにおける、経験的に支持された処遇(empirically supported treatment, EST)を展望した特別委員会や他のグループの活動成果と、ESTとして同定された処遇のリストを要約して示すことにする。研究方法論や、外的妥当性や、研究の有用性、そしてEST展望過程の信頼性と透明性を含めた、ESTの同定と普及をめぐる論争についても、展望することにする。
著者
Spates C. Richard 瀧本 靖子 鷲尾 幸子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.161-173, 2003

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、生死に関わるような恐ろしい体験をした人に見られる事の多い、行動的、情動的な反応のことである。全人口のおよそ7%の人がこの障害を持つと言われている。この障害は戦争、火事、交通事故、自然災害、暴力、テロ、などから引き起こされることが多い。この発表では、PTSDにみられる行動や情動などを行動分析の視点から解釈する。行動分析学からの解釈によって、発症のメカニズム、PTSDに対する正しい理解、より優れた治療方法についての幅広い発展が期待できる。治療方法について各種の方法を比較分析したデータも紹介する。
著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.88-108, 1997
被引用文献数
2

実験的行動分析における行動経済学の成立過程とその代表的実験を挙げながらこのアプローチの考え方を述べ、選択行動の研究をめぐるこの学の貢献と今後の問題を検討する。行動経済学は心理学と経済学の共同領域として生まれた。しかし、この学がミクロ経済学が蓄積してきた経済理論とその予測を、実験的行動分析における選択行動の実験結果に適用して理論の実証を行ってきたこと、経済学が培っていた諸概念を新しい行動指標として活用していったことから、それまであった伝統的な経済心理学とは異なる道を歩んだ。ミクロ経済学には、最適化と均衡化という2つの考え方がある。それぞれの主要な分析道具である無差別曲線分析と需要・供給分析から導出される予測や概念、例えば効用最大化・代替効果・労働供給曲線・弾力性は、個体の選択行動の様々なケース、例えば対応法則、反応遮断化理論、実験環境の経済的性質などへの行動経済学からの視点を提供してきた。今後、行動生態学、行動薬理学、実験経済学といった諸領域との連携をとりながら、実験的行動分析における独自の枠組みの中での均衡化と最適化の原理が検討されていく必要がある。
著者
山口 哲生 伊藤 正人
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.185-196, 2002-03-30 (Released:2017-06-28)

本稿では、単位価格、需要曲線、価格弾力性といった行動経済学の基礎的な概念が、喫煙・飲酒・薬物摂取行動を理解する上でいかに有効であるかを述べる。また、消費者行動に影響を及ぼす経済学的要因として価格、代替性、所得、遅延による価値割引を取り上げ、こうした要因が喫煙・飲酒・薬物摂取行動にどのように影響するかを明らかにする。現在までに、行動経済学的概念が依存症治療へ応用可能であることが多くの研究より示されているが、行動経済学的な枠組みでは、薬物摂取行動以外の他行動の強化により、薬物摂取行動を減少させることができる。こうした治療を行う際は、問題行動を強化している強化子と代替強化子との機能的等価性、望ましい強化子に対する補完強化子の有無を考慮する必要がある。行動経済学的研究は、また、薬物摂取に関する社会政策にも有効な方法を提言することができる。
著者
M.Mason Matthew 水野 圭郎
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.117-131, 1994-12-25 (Released:2017-06-28)

行動分析家にとって、行動科学は、行動を説明・予測するためのアプローチとして、他の様々な科学的または疑似科学的アプローチより優れているものである。したがって、行動分析家がこれまで人間社会の多種多様な場面に行動的な方法論を応用してきたことは当然のことといえよう。近年では、行動的な方法論の応用が、単に学術的な世界にはとどまらず、産業界でもポピュラーなものになりつつある。この論文では、産業界での行動分析学の発展について概観すると共に、企業という環境で、行動マネジメントプログラムを計画・実行するさいの問題点を指摘する。また、行動分析学が組織の中で効果をあげるための戦略についても述べていく。
著者
山田 剛史
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.87-98, 2000-02-29 (Released:2017-06-28)

単一事例実験計画は、教育の幅広い領域で利用されている実験計画の手法である。そこで得られたデータの分析は主に視覚的判断(visual inspection)によって行われる。しかし、この方法の客観性、評定の信頼性といった問題から、単一事例実験データの評価に統計的方法を適用することが提案されるようになった。その中でも、ランダマイゼーション検定とC統計による処理効果の検定は、日米で多くの研究者からその利用が推奨されてきた。本研究では、この2種類の方法間の比較を検定力という視点から行う。モンテカルロ法によるコンピュータシミュレーション実験を行い、2つの方法の検定力を推定した。SAS / IMLによって1次の自己相関を持つ単一事例実験データ(35個のデータを持つABデザイン)を生成し、4種類の自己相関、6つの効果量のもとでそれぞれの方法の検定力を算出した。その結果、ランダマイゼーション検定は検定力が十分に高いとはいえないが、第1種の誤りの統制は良くできていることがわかった。一方、C統計による検定では、正の自己相関のあるデータでは第1種の誤りの統制ができず、逆に、負の自己相関のあるデータでは検定力が低すぎるということがわかった。これより、系列依存性がある単一事例実験データの分析にC統計による検定を用いるのはふさわしくないことがわかった。
著者
松本 啓子 村井 佳比子 眞邉 一近
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.2-18, 2014-07-30 (Released:2017-06-28)

研究の目的 美容師用集団SSTによって必要な社会的スキルを獲得することで、指名客数が増加するかどうかを検討するとともに、より効果的なSSTにするための要素を明らかにすることを目的とした。実験1 美容師20名を対象に、独立変数:美容師用集団SSTの各スキルトレーニング(笑顔・声・傾聴・雑談・説明)、従属変数:観察者による各スキル評定得点、実験デザイン:集団間多重ベースラインデザインによって検討した。また、SSTを実施することで指名客数が増加するかを調べた。その結果、SSTによって笑顔・声スキルの評定得点が上昇すること、傾聴スキルの評定得点の上昇率と指名客数の上昇率に関連があることがわかった。また、スキル評定得点の上昇率と業務時間中の接客行動自己記録票への記入率に関連があることが示唆された。実験2 美容師8名を対象に、独立変数:傾聴スキルの習得に重点を置いた美容師用集団SST修正版の各スキルトレーニング、従属変数:観察者による各スキル評定得点、実験デザイン:個体内ABデザインおよび統制群比較によって実験を行った。その結果、雑談スキル以外の評定得点が統制群より上昇することが示唆された。結論 美容師用集団SSTによって指名客数が増加する可能性があること、また、指名客数を増加させるためには傾聴スキルを身につける必要があることがわかった。効果的なSSTを実施するには、必要な社会的スキルに焦点化した短期間のトレーニングと、日常業務の中で繰り返し自己記録を取るという組み合わせが有効であることが示唆された。
著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.5-17, 2005

ヒトを参加者とした研究の倫理基準(American Psychological Association, 1992版)は以下のようにまとめられる。(1)倫理的自己制御とその限界、(2)他者の権利の尊重、(3)より上位の規定や勧告の遵守、(4)強制のない参加の保証、(5)情報操作の禁止、(6)秘密の保持。このうち、はじめの2つのクラスターを除けば、それらは参加者の対抗制御、特に倫理審査機関、説明付き同意(書)、そして倫理的問題の事例の歴史に関するインターネットによる情報の公開を利用した対抗制御と深く関連している。研究参加者による、対抗制御の行使のための環境随伴性の設計が倫理的行動を促進するために必要であるが、ルール支配行動といった、その他の倫理的行動の特性もその設計が計画される際には考慮されなくてはならない。最後に、従来の応用倫理学的なアプローチに対する可能な候補として、行動倫理学を提案することができる。なぜなら、この学は、ルール支配行動と対抗制御についての概念的、実験的、応用的分析を用いることで、倫理的行動の具体的な環境制御を研究することが可能であるからである。
著者
馬場 ちはる 佐藤 美幸 松見 淳子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.26-42, 2013

通常保育場面ならびに通常学級には多様な行動を示す幼児・児童・生徒が在籍しており、支援ニーズのあることが明らかにされている。その対応策として、問題行動の低減と望ましい行動の増大における効果が報告されている機能的アセスメントに基づく支援が挙げられる。本研究の目的は、通常学級における機能的アセスメント研究のレビューを行い、それらの研究が1)通常学級で求められている多様な参加者、幅広い標的行動、統合場面、先行事象への着目、教師による支援実施に到達しているか否かを明らかにすること、および2)支援の効果を検討することであった。そのために、1982-2010年に出版された国内外の通常学級における機能的アセスメント研究39本を対象に、「出版年」、「参加者属性」、「標的行動」、「場面」、「アセスメント」、「支援」および「評価」の各項目に関して分類・分析を行った。その結果、参加者の有する診断は多様であり、統合場面でのアセスメントや支援の実施、先行事象の考慮、および教師による支援の実施がなされていたことが明らかとなった。支援では、妨害/攻撃行動を対象にその有効性が確認された一方で、新たな研究の方向性として静かで目立だないが授業参加では問題となる多様な行動(例えば、手遊びなど)への応用が考えられた。今後、望ましい行動の促進を目指した実践も含め、機能的アセスメントのさらなる応用と普及が期待される。