著者
樋口 真一 新野 七恵 中村 佳子 小林 克樹
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.117-120, 2023 (Released:2023-03-28)
参考文献数
3

【背景】シャント管理に聴診は重要であるが聴診器がない場合がある.スマートフォンは日常携帯していることが多くスマートフォンによるシャント音聴取法を報告する.【方法】スマートフォンの底面をシャント吻合部の上の皮膚に軽く押し当て,録音アプリで録音をする.【結果】経皮的血管拡張術(PTA)を施行した3例の術前後のシャント音を録音した.PTA前に比しPTA後でシャント音は音量が大きく聴取可能であり,聴診と同様の音を聴取できる.【考察】聴診器がない際に代用可能であり,また電話などでの遠隔で聴取が可能となると考える.個人情報の保護には留意が必要である.
著者
猪阪 善隆 松井 功
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.665-669, 2018 (Released:2018-11-28)
参考文献数
28

CKD-MBDに関わる因子のうちで, 最も生命予後と関係の深い因子である, リンの調整系が判明したのは最近のことである. fibroblast growth factor 23 (FGF23) は骨細胞より分泌されるが, KlothoとFGF受容体の複合体に結合すると, 近位尿細管でのナトリウム-リン共輸送体 (NaPi-Ⅱ) の発現が抑制され, リンの再吸収が低下する. また, 活性型ビタミンD [1,25(OH)2D] 産生を抑制し, 腸管からのリン再吸収を抑制する. KlothoはCKDの早期から発現が低下し始めるが, 動物実験などから腎保護作用を有することが確かめられている. FGF23もCKD早期から上昇を認めるが, 透析患者のみならず, 保存期CKD患者の予後とも関係が深い. また, FGF23は予後予測因子というだけでなく, 予後不良因子として, FGF23自体が左室肥大をきたすことも指摘されており, そのメカニズムも解明されつつある. さらには, 肥大心自体もFGF23を産生することが判明している.
著者
岩渕 仁 中原 徳弥 岡本 真智子 浅野 学 小口 健一 黒川 清 山西 八郎 舘田 一博 山口 惠三
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.7, pp.617-622, 2011-07-28 (Released:2011-08-26)
参考文献数
19
被引用文献数
4 2

感染症は本邦における透析患者の死因として第2位にあげられる.なかでも敗血症は直接生命を脅かすものとして最も警戒すべき感染症である.最近9年間に自施設で経験した敗血症症例を集積し解析を行った.延べ205名の患者に計465回の血液培養検査を試み,陽性率は23.7%であった.この結果73例が臨床的に敗血症と診断された.患者背景として糖尿病合併は46例,カテーテル留置ありは47例であった.菌種については球菌:桿菌の比率は約4:1であり,最も頻度の高い菌種はブドウ球菌であった.メチシリン耐性ブドウ球菌の検出頻度は増加していた.転帰については過半数の38例が経過中に死亡した.メチシリン耐性菌がそのうちの24例を占め,致死率の高さが再認識された.また多変量解析の結果,危険因子としてCRPならびに血小板数の減少が死亡リスクを高めることが判明した.
著者
堀田 祐紀
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.81-86, 2017 (Released:2017-01-28)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

透析シャント狭窄に対する血管内治療 (PTA) は第一選択の治療法とされるが高い再狭窄率が問題である. 今回PTA後の短期間に繰り返す透析シャント狭窄に対してpaclitaxelを塗布した薬剤溶出性バルーン (drug-coated balloon: DCB, SeQuent Please balloon) 治療を行った5症例6病変の成績を報告する. 対象は自己動静脈シャント狭窄4病変, 人工血管内狭窄1病変, 鎖骨下静脈ステント内再狭窄1病変であり, 繰り返すPTAの平均開存期間は3.4±1.9か月であった. 3~4.0mmのバルーンにて前拡張を行い, 3.5mmまたは4.0mm径DCBにて120秒間の拡張を行った. 2病変は7および16か月後に血流障害で再度PTAとなったがDCB拡張部位に再狭窄は認めず, 新規病変が原因であった. ほかの4病変は血流障害を認めていない. DCB後の開存期間は10.8±5.9か月であり, DCB前のPTA開存期間と比較し有意な延長を認めた (p<0.0001).
著者
山口 奈保美 金田 幸司 木本 美由起 末永 裕子 大野 絵梨 内田 英司 福長 直也 柴田 洋孝
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.465-470, 2021 (Released:2021-09-28)
参考文献数
16

症例は65歳男性.糖尿病性腎症による末期腎不全に対して腹膜透析を導入した.導入から半年後にESA(erythropoiesis stimulating agent)低反応性貧血を呈するようになり,精査にて胃に生じたangiodysplasiaからの出血を認めた.内視鏡的止血術後,貧血コントロールは改善していたが,加療から8か月後に再度胃のangiodysplasiaからの出血を生じ貧血の進行を認めた.内視鏡的止血術を行い,数日後のフォローアップにて,胃の他部位にangiodysplasiaからの出血を認め再度止血術を要した.それから4か月後に真菌感染が疑われた難治性腹膜炎を発症し血液透析へ移行したところ,以降は消化管出血を起こさずに経過している.末期腎不全患者において,消化管のangiodysplasiaからの出血は療法別では腹膜透析より血液透析症例の割合のほうが多いが,本症例においては腹膜透析から血液透析へ移行したことがangiodysplasiaからの再出血を防ぐことに繋がった可能性がある.
著者
人見 泰正 鈴木 尚紀 辻 義弘 松井 博志 小西 昂博 高田 博弥 延命寺 俊哉 佐藤 暢
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.393-399, 2020 (Released:2020-08-01)
参考文献数
22
被引用文献数
2

【目的】上腕動脈から狭窄病変へ至るまでの血管ルートに逃げ道となる分枝血管がある場合とない場合で, FV, RIの病変検出能力にどの程度の数値的差異があるのかを調べた. 【対象・方法】対象は, 399名の維持血液透析患者とした. 対象をNormal群, 狭窄病変を有するStenosis群, 狭窄病変を有し病変手前に分枝血管を有するStenosis+分枝群に分類し, 各群間の背景因子とFV, RIの平均値を比較するとともに, 病変検出をアウトカムにROC曲線を描いた. 【結果・考察】Stenosis+分枝群の割合は, 病変を有する症例の39.0%を占めた. Stenosis群は狭窄病変検出に対するFVの信頼度がhigh accuracyであったが, Stenosis+分枝群ではlow accuracyであった. RIはともにmoderate accuracyであった. 本検討結果はエコーを用いた内シャント評価時に加味すべきである.
著者
森 慶太 越川 真男 明石 健吾 西倉 哲司 嶋津 啓二 高折 光司 西口 健介 村上 徹 依藤 壮史 江口 恵梨子 田中 敬雄 仙崎 英人 桑原 隆
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.43, no.10, pp.853-857, 2010-10-28 (Released:2010-11-17)
参考文献数
11
被引用文献数
1

透析患者に用いるリン(P)吸着剤として,従来からの沈降炭酸カルシウム(Ca)や非Ca性である塩酸セベラマーに加え,新たなP吸着剤として炭酸ランタン(La)が用いられるようになった.炭酸Laは非Ca性で,炭酸Caやアルミニウムゲルと同等のP吸着能力があるとされ,さらにほぼ体内に吸収されないため安全性が高いといわれている.しかし,少量ではあるが複数の臓器に沈着することが知られており,長期投与における安全性が課題となっている.今回われわれは,炭酸Laの使用を開始したPコントロール不良の末期腎不全患者が,虚血性腸炎を起因として急変し死亡した症例を経験した.生前の腹部X線および腹部CTでは円形の高濃度の陰影を4個認め,噛まずに内服した炭酸Laチュアブル錠が疑われた.病理解剖では著明な肥大型心筋症と広範な虚血性腸炎を認めたほか,ほぼ原型をとどめた炭酸Laチュアブル錠が消化管内に計4個確認された.死因は肥大型心筋症および虚血性腸炎と考えられたが,炭酸Laチュアブル錠自体と虚血性腸炎との直接的な因果関係は不明であった.炭酸Laチュアブル錠は崩壊剤を含まないため噛み砕かずにそのまま内服すると溶解しにくく,十分なP吸着能を発揮できないことが予想された.より良いPコントロールのため,内服に関しては充分な患者教育が必要と考えられる.
著者
西浦 庸介 太田 圭祐 小林 利江 倉知 あかね 村瀬 景子 石黒 正崇 平野 ツヤ子 伊藤 友一 井手 敦基 濱野 髙行
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.215-220, 2022 (Released:2022-03-28)
参考文献数
18

われわれはシャント音を人工知能で音質を数値化し評価できることを報告した.しかし,聴診部位の情報が欠損しており閉塞の予測因子としては不足があった.また,分枝の多いシャントは血流量が低下しにくいため,ドップラー超音波による上腕動脈平均血流量(mFV)や血管抵抗指数(RI)では閉塞を予見しにくいと言われている.しかし,聴診部位が記録しやすい吻合部のみでのシャント音であれば,前述超音波所見との関連を認めるのではないかと考えた.評価項目として,シャント吻合部での音質と超音波によるmFV,RIを用いて比較を行った.その結果,シャント血流量を示すmFVはシャント聴診音の強度と相関した.超音波によるRIは人工知能で判断される断続音と弱い相関を認めた.日々の聴診によりシャント血流量を間接的に評価することが可能であると考えられた.しかし,吻合部のみでなくシャント全長にわたる聴診が狭窄音の評価に重要である.
著者
樋口 輝美 眞野 善裕 石川 由美子 山崎 俊男 水野 真理 大川 恵里奈 堀田 直 瀬戸口 晴美 早瀬 美幸 吉沢 美佳 堀之内 那美 榎本 伸一 安藤 英之
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.45, no.10, pp.937-945, 2012-10-28 (Released:2012-11-14)
参考文献数
29
被引用文献数
1

目的:透析患者は低栄養,炎症,動脈硬化を主体としたMIA症候群の危険にさらされている.今回維持透析施行中の患者のgeriatric nutritional risk index(GNRI)を測定し,栄養状態について検討し,血漿CRP,IL-6,Fetuin-A,8-OHdG等の各種パラメーターを測定し,それらとの相関等について検討した.対象:当院で安定した維持血液透析施行中の患者138名.内訳は男性95名,女性43名.平均年齢69±11歳(38から88歳)で平均透析歴58±60か月(3から390か月)である.方法:GNRIはBouillanneらが提唱し,Yamadaらが改変した計算式より求めた.血漿IL-6,Fetuin-A,8-OHdGはenzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)法にて求めた.結果:GNRIは加齢により次第に低下し,年齢と有意な負の相関を示した.また男性に比べ女性で有意な低値を示し,原疾患では糖尿病性腎症の有無では有意な差は認められなかった.生化学パラメーターとしては,血清アルブミン(p<0.0001),Fetuin-A(p<0.01)と正の相関を示し,CRP(p<0.0005),IL-6(p<0.0001),8-OHdG(p<0.0001)と負の相関を示した.結論:透析患者の栄養状態を反映する上で,GNRIは簡易に計測できる指標となりえると考えられた.また栄養,炎症,動脈硬化,酸化ストレスとGNRIの間には密接な関連があることが示唆された.
著者
増田 俊樹 坂井 智行 山田 伸一郎
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.65-69, 2016

症例は79歳, 女性. 糖尿病性腎症を原病とし, 73歳時に血液透析を導入された. 76歳頃より無尿であった. 糖尿病性神経障害による下肢壊疽のため, 両側下腿切断術を受け入院加療中であった. 術後に血尿, 下腹部痛および透析中の著明な血圧低下を認めたため精査したところ, 腹部造影CTにて膀胱壁の肥厚および膀胱粘膜下のガス貯留像を認め, 気腫性膀胱炎と診断した. 発症時の尿からは<i>Escherichia coli</i>が培養されたが, 血液からは<i>Bacteroides fragilis</i>が培養され, 両者を起因菌とした気腫性膀胱炎から敗血症をきたしたと考えた. 抗生剤投与, 膀胱ドレナージを実施し, 速やかに軽快した. とくに無尿の維持血液透析患者において, 気腫性膀胱炎の報告は少ないが, 発症が認識されないまま経験的抗生剤投与にて軽快している可能性がある. 気腫性膀胱炎の大部分は適切な抗生剤投与と排尿管理で軽快するが, 治療開始の遅れから重篤な経過に至ることがあり, 早期に診断し治療を行うことが重要である.
著者
後藤 淳 岩田 英信 清水 俊行 高橋 督 白形 昌人 佐藤 充則
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.415-420, 2008-07-28 (Released:2008-12-16)
参考文献数
25

慢性血液透析患者が安心してカリウム(K)含有量の多い食品を食べることを検証するために,透析開始直前のミカン摂取が透析前後の血清K値および透析によるK除去量におよぼす影響を検討した.過去3か月の透析前血清K値が6.0mEq/L以下の透析患者13名(男性6名,女性7名;平均年齢59.3±12.6歳)を対象として,ミカン非摂取日および摂取日の透析前後の血液と透析排液を採取して電解質濃度を測定した.ミカン摂取日は透析開始直前にMサイズのミカン5個(総重量0.5~0.55kg,K負荷量約15mEq)を摂取した.血清K値は,ミカン非摂取日は透析前4.8±0.5mEq/L,透析後3.3±0.4mEq/L,ミカン摂取日は透析前5.0±0.6mEq/L,透析後3.3±0.3mEq/Lであった.透析によるK除去総量は,ミカン非摂取日44.9±9.5mEq,ミカン摂取日51.5±9.6mEqであり,その差は6.6±7.1mEqでミカンによるK負荷量の44%が除去された.以上の結果から,普段の透析前血清K値が6.0mEq/L以下の透析患者においては,Mサイズのミカン5個程度までなら透析開始直前に摂取しても安全と考えられた.
著者
松本 博 村井 誠三
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.291-294, 2021 (Released:2021-06-28)
参考文献数
6

当院で外来維持透析中の患者110名および職員16名において2020年4月1日から4月8日の間に透析患者3名と看護師3名の新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)がPCR検査で確認された.3名の高齢男性患者は咳嗽と発熱で発症し,そのうち2名は糖尿病と脳梗塞による仮性球麻痺を合併し,類天疱瘡でステロイド薬を服用中であった.2名の看護師は発熱で発症した.COVID‒19発生後,すべての患者と職員にPCR検査を行い無症状な看護師1名が陽性であった.透析患者3名と看護師1名が入院,看護師2名は自宅待機となり,全員がCOVID‒19より回復した.2020年7月すべての患者と職員を対象とした新型コロナウイルス抗体価は,罹患歴をもつ5名(入院中の1名を除く)以外は全員陰性であった.それ以後2020年10月10日まで新たなCOVID‒19発症は経験していない.
著者
松下 和通 新田 孝作 海上 耕平 多胡 紀一郎
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.12, pp.813-816, 2016 (Released:2016-12-27)
参考文献数
17

心不全は, 心臓のポンプ機能の低下に基づく水分の体内貯留が本態である. 最近, 一般人においては, 心収縮能低下を伴わない拡張障害によって惹起される心不全が約40%を占めることが報告されている. この病態は, hear failure with preserved ejection fraction (HFpEF) などの名称でよばれている. 背景因子としては, 高血圧, 糖尿病および肥満が重要であり, 高齢者や女性に多いのが特徴である. 透析患者は体液過剰を伴うため, HFpEFを合併しやすいと考えられるが, その頻度に関しては不明なことが多い. 拡張能の評価は, 心エコーや組織ドップラーにより行われる. 治療としては, 適切なdry weightの設定, 血圧の適正化, 心房細動のコントロール, 虚血性心疾患の治療などが施行されている.
著者
岡 大祐 関根 芳岳 大津 晃 青木 雅典 林 拓磨 馬場 恭子 中山 紘史 栗原 聰太 宮尾 武士 大木 亮 宮澤 慶行 柴田 康博 鈴木 和浩
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.155-158, 2021 (Released:2021-03-28)
参考文献数
9

自己血管による内シャント(arteriovenous fistula: AVF)は本邦における慢性透析用バスキュラーアクセスの中で最も多い.AVF造設術は一定の割合で不成功例を認めるが,本邦において大規模RCTは行われておらず,AVFの初期開存に影響を与える因子の詳細な解析は行われていない.今回AVF造設術を施行した症例群をレトロスペクティブに解析し,初期開存に影響を及ぼす因子を解析した.対象とした119例の内,シャント閉塞をきたした症例は15例(12.6%)であり,初期開存に影響を与える因子として有意差を認めた項目は深部静脈血栓症(deep vein thrombosis: DVT)の既往のみであった.過去の論文にて開存率に影響を与える因子とされている,性別,年齢,糖尿病の既往などの因子よりも,血栓素因の有無がAVF初期開存に重要な影響を与える可能性が示唆された.
著者
樋口 輝美 石川 由美子 山崎 俊男 水野 真理 大川 恵里奈 瀬戸口 晴美 柳沢 順子 中島 詩織 安藤 英之 及川 治 井下 篤司 阿部 雅紀 上野 高浩 相馬 正義
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.119-127, 2014 (Released:2014-03-06)
参考文献数
30
被引用文献数
3

【目的】透析患者におけるレボカルニチンの腎性貧血に及ぼす効果を検討する.【対象】当院にて維持透析施行中の患者192名のうち,選択基準を満たした対象患者153名に対し内服希望のアンケートを実施し,内服希望患者群113名(内服群)と内服希望のない患者群40名(非内服群)とした.【方法】今回の臨床試験においては,内服希望患者による介入試験であり,非ランダム化比較試験である.内服群はレボカルニチンを20mg/kg/日(最大用量1,200mg/日)を投与した.Erythropoiesis stimulating agents(ESAs)はrecombinant human erythropoietin(rHuEPO)とDarbepoetinα(DA)を使用しているため,rHuEPOとDAの比を200:1としrHuEPOの換算量とし,週あたりのESAs使用量,ESAs治療反応性の指標としてerythropoiesis resistance index(ERI)をESA doses/kg/g/dL/週として算出した.【結果】対象患者の患者背景は,内服群で,非内服群に比し有意に男性患者が多く,原疾患は糖尿病性腎症が多く,有意にクレアチニン,尿酸,アルブミンとTIBCの高値を認めたが,その他両群間で有意な差は認めなかった.1)内服群,非内服群とも試験開始前から6か月まで目標Hbに達し,両群間で有意な差は認めなかった.2)内服群のESAs使用量は6か月目に有意な低値を認め,非内服群に比し,6か月目で有意な低値を認めた.3)内服群でESAs doses/kg/dL/週は6か月目で有意な低値を認め,非内服群に比し,開始3,6か月で有意な差を認めた.【結論】レボカルニチンは透析患者の腎性貧血におけるESAs使用量の低下と,ESAsへの反応性を改善させることが示唆された.
著者
濱田 哲 松原 雄 遠藤 修一郎 山田 幸子 家原 典之 中山 晋哉 伊丹 淳 渡辺 剛 坂井 義治 深津 敦司
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.541-545, 2009-06-28 (Released:2009-09-15)
参考文献数
6
被引用文献数
1

症例は,69歳女性で,食道癌手術目的で入院,初回血液透析終了後から発熱を生じるようになった.種々の原因検索の結果,先発医薬品(以後先発品),後発医薬品(以後後発品)両者の含めたメシル酸ナファモスタットが原因であることが分かった.詳細に臨床症状を検討した結果,両者では副作用発現様式に明らかな相違が認められた.後発品の場合,使用回数とともに発熱までの時間が短縮し,血圧低下も合併するようになった.一方,先発品に変更後は後発品と同様に発熱は認められたが,透析終了後一定時間を経過して生じるようになり,アナフィラキシー症状は認められなかった.この相違に対して可能な限りの血清学的検索を行った.DLSTでは後発品使用後116日目に陽性,先発品は128日目に陰性,以後は両者とも陰性であった.先発品でメシル酸ナファモスタットに対するIgE抗体は陰性,IgG抗体は陽性であった.後発品では抗体検索システムが確立されておらず測定不可能であった.以上の結果を総じて,透析関連性の発熱の原因としてメシル酸ナファモスタットが原因であること,先発品・後発品で明らかに発症状況に差があり,発症機序が異なっていることが示唆された.先発品ではIgGによる免疫反応が発熱の原因であると推測された.しかし後発品のアレルギー症状と免疫反応との関連が発症機序の理解に重要であると考えられたが,原因検索システムが整備されておらず解明できなかった.本症例のように,先発品,後発品両者の間で,アレルギー症状発現様式に相違があることを,詳細に分析した症例報告は検索した範囲内では認められなかった.後発品においても先発品同様副作用の原因検索システム構築が重要であることを指摘する上でも貴重な症例であると考えられた.
著者
岡田 一義
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.29-37, 2008-01-28 (Released:2008-09-10)
参考文献数
18
被引用文献数
2 2