著者
信田 裕 北村 謙 大井 衣里 西尾 利樹
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.7, pp.375-379, 2021 (Released:2021-07-28)
参考文献数
29

症例1は78歳男性.回転性めまいを主訴に来院し,著明な腎機能障害を認めた.入院後に会話の辻褄があわなくなり,不穏が出現した.症例2は72歳女性.両側下肢の脱力と構音障害を主訴に来院し,症例1と同様に腎機能障害を認めた.2症例ともに腎機能障害の既往はなく,来院数日前に近医でバラシクロビル3,000 mgと非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を処方されていた.頭部CT,MRIでは明らかな頭蓋内病変を認めず,これらはアシクロビル脳症であると考えた.バラシクロビル,NSAIDsを中止し補液を行ったが,2症例ともに腎機能障害および神経症状の改善を得られず第2病日に血液透析を開始した.その後,腎機能は改善し神経症状も消失したため透析を離脱した.腎機能が正常であっても高齢者ではバラシクロビルによって腎障害や神経症状が出現する場合があり注意が必要である.
著者
新田 孝作 政金 生人 花房 規男 星野 純一 谷口 正智 常喜 信彦 後藤 俊介 阿部 雅紀 中井 滋 長谷川 毅 濱野 高行 三浦 健一郎 和田 篤志 山本 景一 中元 秀友
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.579-632, 2020 (Released:2020-12-28)
参考文献数
23
被引用文献数
22

日本透析医学会統計調査 (JSDT Renal Data Registry: JRDR) の2019年末時点における年次調査は, 4,487施設を対象に実施され, 施設調査票は4,411施設 (98.3%), 患者調査票は4,238施設 (94.5%) からほぼ例年通りの回答を得た. わが国の慢性透析患者数は年々増加し, 2019年末の施設調査結果による透析患者数は344,640人に達し, 人口百万人あたりの患者数は2,732人であった. 患者調査結果による平均年齢は69.09歳で, 最も多い原疾患は糖尿病性腎症 (39.1%), 次いで慢性糸球体腎炎 (25.7%), 第3位は腎硬化症であった (11.4%). 2019年の施設調査結果による透析導入患者数は40,885人であり, 2018年から417人増加した. 患者調査結果による透析導入患者の平均年齢は70.42歳であり, 原疾患では糖尿病性腎症が最も多く41.6%で, 昨年より0.7ポイント少なかった. 第2位は腎硬化症 (16.4%) で, 初めて慢性糸球体腎炎 (14.9%) を上回った. 2019年の施設調査結果による年間死亡患者数は34,642人であり, 年間粗死亡率は10.1%であった. 主要死因は心不全 (22.7%), 感染症 (21.5%), 悪性腫瘍 (8.7%) の順で, 昨年とほぼ同じ比率であった. 2012年以降, 血液透析濾過 (HDF) 患者数は急増しており2019年末の施設調査票による患者数は144,686人で, 維持透析患者全体の42.0%を占めた. 腹膜透析 (PD) 患者数は9,920人であり2017年から増加傾向にある. 腹膜透析患者のうち19.2%は血液透析 (HD) やHDFとの併用療法であり, この比率はほぼ一定していた. 2019年末の在宅HD患者数は760人であり, 2018年末から40人増加した. 2019年調査では, 2009年から10年ぶりにCKD-MBDに関する総合的な調査が行われた. 今後は新しく開発された薬剤の治療効果や問題点, 2012年に改訂されたガイドラインの影響等を詳細に解析する予定である. これらのデータは, CKD-MBDガイドラインの改定の基礎資料となり, より治療効果の高い日常臨床の治療パターンの提案が期待される.
著者
村上 真基 武舎 孝之 栗田 直美 塚田 修
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.417-422, 2007-05-28 (Released:2008-11-07)
参考文献数
15

背景 : 糖尿病合併症予防の治療指標は糖尿病学会ガイドラインよりHbA1c : 6.5%未満とされているが, 血液透析症例では赤血球寿命短縮などのためHbA1cは指標となりづらく, グリコアルブミン (GA) が赤血球寿命やエリスロポエチン (rHuEpo) 投与の影響を受けず良い指標になると報告されている. われわれはrHuEpo投与量補正を行ったHbA1c目標値は透析症例における長期予後予測の指標となりうるかどうかを検討した. 方法 : 糖尿病血液透析症例51例に対し1か月ごとに延べ290回HbA1c, GAを測定した. HbA1c, GA, rHuEpo投与量の相関より, rHuEpo投与量補正を行ったHbA1c目標値を設定した. 2000年1月以降の糖尿病血液透析症例96例のHbA1c測定値とrHuEpo補正HbA1c目標値について, 治療指標を基準とした生存解析を行って両者を比較した. 結果 : HbA1c : 6.5%を基準とすると, 回帰分析によりrHuEpo非投与症例のGAは22.8%が基準値となった. この値に基づくとrHuEpo投与量3,000 [IU/week] 以下ではHbA1cは5.7%, 6,000以下で5.5%, 9,000以下で5.2%が治療の目標値となった. いずれの群でもp<0.0001であった. HbA1c測定値における生存解析では生存率に有意差を認めなかったが, 補正後のHbA1c目標値未満にとどまる症例では有意に生存率が良好であった. 結論 : 糖尿病血液透析症例であっても, rHuEpoによる補正を加えれば, HbA1cは長期予後を予測する鋭敏な治療目標として使用可能で, 臨床現場でも扱いやすい指標になると考えられた.

4 0 0 0 OA 6. 貧血領域

著者
倉賀野 隆裕 土谷 健
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.758-760, 2017 (Released:2017-12-28)
参考文献数
8
著者
酒井 佳奈紀 宇津 貴 近森 康宏 難波 倫子 原田 環 竹治 正展 高原 健 山内 淳
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.38, no.12, pp.1793-1797, 2005-12-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
11
被引用文献数
2 1 2

症例1は保存期腎不全で通院中の68歳の男性. 2005年2月, 左膝の疼痛, 腫脹のため, スリンダクの内服を開始した. スリンダク開始10日後より, 食欲低下, 全身倦怠感が出現. 全身倦怠感が強く, 腹痛, 嘔吐を伴ったため当科紹介. 腎不全の進行, アシドーシス, 高カリウム血症を認め, 直ちに血液透析を施行した. 血液透析中より腹痛が増強, 透析後の腹部CTにてfree airを認めたため, 緊急開腹手術を行い, 回腸末端より120cm口側に穿孔を伴った小腸潰瘍を認めた.症例2は72歳の男性. 2004年10月, 急性心筋梗塞を契機に血液透析に導入され, 近医で維持血液透析を行っていた. 2005年1月末より両下肢の安静時疼痛のため, ロキソプロフェンを内服していた. ロキソプロフェン開始5日後, 突然腹痛が出現し持続し, 近医でイレウスと診断され, 当院に緊急受診した. 腹部全体の圧痛, 筋性防御, Blumberg徴候, 炎症反応の上昇より, 消化管穿孔を疑い腹部CT施行. 肝前面に少量のfree airを認めた. 保存的治療に反応しないため, 翌日開腹術施行. トライツ靱帯より40cm肛門側の空腸に, 径8mmの穿孔を認めた.近年, 非ステロイド性抗炎症薬の使用者に小腸潰瘍が多発することが明らかにされてきた. 腎不全患者は, さまざまな合併症による疼痛を訴えることが多いが, 安易な非ステロイド性抗炎症薬の使用を慎むとともに, 非ステロイド性抗炎症薬の投与中に貧血低アルブミン血症, 腹痛などを生じた場合, 小腸の潰瘍や穿孔も考慮する必要がある.
著者
桑原 隆 王 麗楊 谷野 彰子 山田 佐知子
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.457-463, 2021 (Released:2021-09-28)
参考文献数
20
被引用文献数
1

【目的】血液透析(HD)患者のカルシウム(Ca)濃度評価に適したCa値はイオン化Ca(iCa),総Ca(tCa),アルブミン(Alb)補正Caいずれかを検討する.【方法】HD患者43名に透析前後の総Ca,K/DOQI‒1式からAlb補正Ca(KDOQI‒Ca),tCaに対するpH補正iCa(pH‒iCa)の割合(Caイオン化率:CaIR)からのAlb補正Ca(CaIR‒Ca)とpH‒iCaの関係を求めた.【結果】HD前/後のAlbとCaIRの関係は,-0.011*Alb+0.558(r=0.199,p>0.2)/-0.031*Alb+0.655(r=0.720,p<0.0001)であり,HD前/後のpH‒iCaとtCa,KDOQI‒Ca,CaIR‒Caの相関係数(r)は,0.862,0.846,0.859/0.482,0.460,0.282であった.HD後のpH‒iCaとtCaの関係の減弱はHDによるCa結合Alb濃度の上昇が透析液から血漿へのiCa移動を妨げるため生じたと思われる.【結論】HD前のCa濃度評価は,iCa,tCa,KDOQI‒Ca,CaIR‒Caいずれでも良いが,HD後のCa濃度評価にiCaは適さない.
著者
本田 浩一
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.365-369, 2022 (Released:2022-06-28)
参考文献数
26

1990 年に遺伝子組み換えヒトEPO(rHuEPO)製剤が上市され,腎性貧血治療は大きく変貌を遂げた.rHuEPO は忍容性が高い薬剤で広く普及したが,作用時間が短いことから血液透析患者に比べ,保存期慢性腎臓病や腹膜透析患者の貧血治療薬としては不十分であった.また,rHuEPO 低反応性の問題が報告された.その後,長時間作用型の赤血球造血刺激因子(ESA)製剤が開発されて貧血管理は向上したが,ESA 低反応性の問題は残されたままであった.2019 年に低酸素誘導因子(hypoxia‒inducible factor:HIF)プロリン水酸化酵素阻害薬(HIF‒PH 阻害薬)が保険収載され,腎性貧血治療の選択肢が増えた.HIF‒PH 阻害薬は内因性EPO を生理的な範囲で産生し,鉄代謝に対する直接的作用も有する薬剤であり,ESA 低反応性にも効果が期待できる.本稿ではESA 製剤による腎性貧血治療の課題に触れ,ESA 製剤とHIF‒PH 阻害薬の使い分けについて私見を述べる.
著者
岡 英明 本間 義人 恩地 芳子 櫻井 裕子 関本 美月 安藤 翔太 岩本 早紀 岩本 昂樹 近藤 美佳 梶原 浩太郎 牧野 英記 松田 健 近藤 陽一 佐藤 格夫 上村 太朗
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.583-589, 2021 (Released:2021-11-28)
参考文献数
29
被引用文献数
1

症例は73歳,男性.7年前に糖尿病性腎症で血液透析を導入,冠動脈ステント留置後で抗血小板薬を内服中であった.接触者検診で新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)と診断され当院に入院した.肺炎像は軽微であったが,D‒dimerが陽性でありヘパリンの予防投与を開始した.第2病日より38℃台の熱が続くため第4病日にデキサメタゾンを開始した.第6病日に腰痛が出現し,翌日には腹痛に変化した.同日の透析中にショックを呈し,貧血も進行しており透析を中止した.造影CTで左後腹膜出血と造影剤の漏出を認め,輸血を開始し感染対策を行った上で血管造影を行った.腰動脈出血を同定しコイル塞栓術で止血した.以後は貧血の進行を認めず,第60病日に転院した.COVID‒19では血栓性合併症が多くしばしば予防的ヘパリン投与が行われる.一方で抗血小板薬内服例や透析例は出血合併症のリスクが高く,抗血栓療法に関して慎重な判断が求められる.
著者
池田 弘 味埜 泰明 高橋 泰 井口 泰孝 井口 大助 藤田 浩二 大重 和樹
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.7, pp.467-473, 2022 (Released:2022-07-28)
参考文献数
28

症例は85 歳,男性.糖尿病による慢性腎不全で血液透析導入となり,透析歴は2.7 年であった.高血圧,気管支喘息の合併あり.初発症状は発熱のみで,SARS-CoV-2 抗原検査の陽性が判明し入院となった.肺CT で両肺にすりガラス影が散在していた.第2 病日に酸素投与が必要となり,レムデシビル,デキサメサゾン,ファビピラビルの投与を開始したところ肺炎は改善した.第14 病日のCT ですりガラス影は改善するも左上区に新たな結節影が出現し,第27 病日には空洞を伴う陰影に変化した.第28 病日の血清ガラクトマンナン抗原(GM)が2.5(ODI)と陽性で,肺アスペルギルス症(PA)と診断し,第36 病日からボリコナゾールの投与を開始した.血清GM 抗原の低下とともに空洞病変は改善した.血液透析患者でCOVID-19 急性期に空洞を伴う非典型的な肺病変が出現した場合,PA を疑う必要がある.
著者
深澤 瑞也 竜崎 崇和 亀井 大悟 川合 徹 川西 秀樹 菅野 義彦 篠田 俊雄 田倉 智之 土谷 健 友利 浩司 長谷川 毅 本間 崇 矢内 充 脇野 修 村上 淳 米川 元樹 中元 秀友
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.57-60, 2021 (Released:2021-03-03)
参考文献数
3

透析患者の高齢化および長期間化によりシャント系アクセスの作製困難症例が増加しており,カテーテルでの透析を余儀なくされる患者も多い.一方,透析用カテーテル挿入手技は現在の診療報酬上,注射コードに分類されており保険点数はついているもののDPC施設ではその期間内,消耗品であるカテーテル代も含めて保険請求ができない.一方,中心静脈へのカテーテル挿入手技においては体表超音波装置やX線透視装置などの周辺機器の使用や,医師・看護師・技師も含めた人的な負担を要すること,また血管損傷などによる死亡例も含めた重篤な合併症を呈することもあり,改善が必要と考える.そこで保険委員会として今般,手技のタイムスタディーを含めた現状把握を行い,診療報酬改定への足掛かりとなるべく実態調査を行った.本結果を基に,外科系学会社会保険委員会連合を通して改定の要望を提出する方向である.
著者
河野 健一 矢部 広樹 森山 善文 森 敏彦 田岡 正宏 佐藤 隆
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.635-641, 2015 (Released:2015-11-27)
参考文献数
28
被引用文献数
5 2

血液透析患者の転倒リスクを予測するうえで有用な指標を明らかにする. 歩行可能な血液透析患者123例を対象に転倒の発生を主要アウトカムとする1年間の前向きコホートを実施した. 身体パフォーマンスに関する指標であるshort physical performance battery (SPPB), 筋力, 筋肉量に加え, 栄養状態の指標や透析に関連する指標の転倒に対するハザード比を算出した. 観察期間内に38名 (31%) が転倒し, 透析関連低血圧 (intra-dialytic hypotension : IDH) が独立した危険因子として抽出された (HR=2.66, p=0.01, Log rank test p=0.002). また, SPPB 7点以下は11点以上と比較して有意に転倒のリスクが高かった (HR=2.41, p=0.02, Log rank test p=0.021). IDHやSPPBの低下は透析患者の転倒リスクを予測するうえで有用な指標となることが明らかとなった.
著者
水口 斉 脇野 修 川合 徹 菅野 義彦 熊谷 裕生 児玉 浩子 藤島 洋介 松永 智仁 吉田 博
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.191-201, 2021 (Released:2021-05-28)
参考文献数
30

セレン(selenium)は必須微量元素であり,セレノシステイン,セレノメチオニンとしてセレン含有たんぱく内に組み込まれセレン含有たんぱくとして作用を発揮する.セレン欠乏症では心機能低下,動脈硬化,感染症,甲状腺機能低下,皮膚症状,筋肉症状が認められる.セレン欠乏症は長期静脈栄養・経腸栄養剤を用いる患者において重要であり,2018年セレン欠乏症の診療指針が策定された.透析患者にもセレン欠乏症が認められ,血清セレン低値は死亡と関連し,特に本邦のKAREN研究では感染症死と関連があることが報告されている.その一方で透析患者への介入研究はこれまで報告が少なく,栄養状態の改善のみが報告されている.セレン欠乏は透析患者の2大死因である感染症と心血管病にかかわる可能性があり,今後透析患者における基準値の策定および治療介入の可能性も検討すべきである.
著者
松下 泰祐 古田 充 島田 直幸 今井 淳裕 岡 香奈子 勝間 勇介 松岡 佑季 大田 南欧美 末光 浩太郎 和泉 雅章
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.229-234, 2021 (Released:2021-05-28)
参考文献数
16

症例は66歳,女性.人工血管内シャントにより維持透析されていた.発熱のため前医を受診し感染症疑いで入院.入院第1病日よりセフトリアキソン(CTRX)2 g/日の投与開始.第3病日人工血管感染の診断となり,改善を認めないため第10病日手術目的にて当院に転院.第16病日人工血管部分置換術を行った.第17病日より意識レベルが低下し,第18病日に昏睡状態となった.頭部CT・MRIや髄液検査で特異的所見を認めず,CTRXによる脳症の可能性を考えた.CTRXは蛋白結合率が高く血液透析(hemodialysis: HD)では除去効率が悪いため,第19病日に血液吸着(hemoadsorption: HA)を定期のHDに併用し,明らかに意識レベルが改善し,第21病日には入院前と変わらない意識レベルまで回復した.後日判明したHD・HA併用前の血中CTRX濃度は306 μg/mLと高値であり,HD・HA併用を1回行うことにより約3分の1に低下した.また,髄液中CTRX濃度も26 μg/mLと著明に高値であった.以上よりCTRX脳症であったと確定診断した.
著者
丹波 嘉一郎 秋元 哲 村橋 昌樹
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.499-501, 2022 (Released:2022-08-28)
参考文献数
4

栃木県の透析施設で透析医療を行っている医師を対象に,透析中止や導入差し控えならびに緩和ケアについてのアンケート調査を行った.21 施設に35 通送付し,20 名(57.1%)から有効回答を得た.透析導入差し控えの経験があると答えた医師,透析中止の経験があると答えた医師いずれも18 名(90%)であった.末期腎不全患者の症状緩和にオピオイドを用いた経験のある医師が14 名(70%)だった.末期腎不全患者に対して緩和ケアが関わることに賛成もしくは大賛成が17 名(85%)を占めた.多くの透析医は,保存的腎臓療法(CKM)や透析中止についての経験があり,緩和ケアの介入を望んでいるとみられた.
著者
玉谷 亮一 覚知 泰志
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.53, no.12, pp.633-638, 2020 (Released:2020-12-28)
参考文献数
20

【背景】バスキュラーアクセス (VA) の管理において超音波検査は有効であるが治療介入に定まったものはない. AI技術は近年急成長しており医療への応用も進んでいる. 今回われわれはpythonの機械学習を用いて超音波検査結果などから適切なVAの治療介入時期を予測した. 【方法】超音波検査を施行した1,862名を対象とした. 機械学習で学習, 予測し各アルゴリズムのROC曲線からAUCを算出した. 従来の治療基準の比較としてガイドライン群 (GL基準) とし機械学習との正解率を比較した. 【結果】最も良好なアルゴリズムはLogistic regressionでAUC (0.88), 感度 (0.85), 特異度 (0.71), 正解率 (0.83) となった. GL基準は感度 (0.69), 特異度 (0.86), 正解率 (0.72) であった. 【結語】機械学習の予測は正解率でGL基準を上回り, 機械学習を用いてVAの治療介入時期予測を高精度で行えた.
著者
金澤 良枝 城田 直子 中尾 俊之
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.147-151, 2020 (Released:2020-03-28)
参考文献数
17

透析患者では高めの血清マグネシウム (Mg) 濃度が良好な予後と関連している. そこで血清Mg濃度が一定値以下の患者での食事からのMg補給に関し, 日常生活上でよく摂取される食品100品目のMg含有量と食品常用量当たりのMg量について検討した. また血液透析患者の標準的食事 (1,800kcal, たんぱく質60g) のモデル献立を動物性: 植物性たんぱく質比率別に合計30献立作成し検討したところ, たんぱく質の植物性比率60%の献立が同50%, 40%よりMg量が高く (358±47, 309±36, 254±28, p<0.001) かつリン量, カリウム量に有意差なく, アミノ酸スコアはいずれも100 (perfect) であった. したがって透析患者の食事管理においてMg摂取量を増加させるには, たんぱく質の動物性・植物性比率において植物性たんぱく質を60%にすることが有利であると考えられた.
著者
野垣 文昭 鈴木 訓之 杉田 和哉
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.159-165, 2019 (Released:2019-03-28)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

経皮的腹膜透析カテーテル留置術は局所麻酔で施行できるカテーテル留置法である. 当院では超音波および透視を用いたSeldinger法による同留置術を20名の患者に施行し, 1名で腹腔穿刺ができず断念したが, 腹部手術歴のある6名を含む19名でカテーテル留置に成功した. 腸管穿刺は起きなかった. SMAP法8名, 一期的導入9名 (待機期間6~16日) で腹膜透析を開始しているが, 液漏れは認めていない. 早期合併症として, カテーテル先端位置異常2名, 腹膜炎1名, 血性排液2名のうち1名はカテーテル閉塞に至ったが, いずれも非観血的に対処可能であり腹膜透析が継続できた. 1名で留置15か月後にカテーテル抜去を行ったが, 局所麻酔のみで容易であった. 本留置術は低侵襲であり, 透析患者の高齢化が進むわが国においても有用な腹膜透析カテーテル留置法である.
著者
加藤 明彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.349-355, 2022 (Released:2022-06-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

透析患者の栄養評価法に関する最近の話題は,Nutritional Risk Index for Japanese Hemodialysis patients(NRI–JH)とGLIM(the Global Leadership Initiative on Malnutrition)基準である.NRI–JH は日本人血液透析患者向けの新たな栄養指標であり,短期的な生命予後の予測に優れる.一方,GLIM 基準の予後予測能は,透析患者では感度,特異度とも低いため,従来の栄養評価法が優先される.Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)2019 によると,透析患者の27~68%にサルコペニアを合併している.診断項目にある握力および5 回椅子立ち上がりテストのカットオフ値は,予後予測に有用である.透析患者の栄養障害には,経腸栄養剤(oral nutritional supplements:ONS)による経腸栄養が第一選択であり,3 か月以上の継続が勧められる.透析時静脈栄養(intradialytic parenteral nutrition:IDPN)は,少なくともエネルギー≥20 kcal/kg/日,たんぱく質≥0.8 g/kg/日を摂取している透析患者が対象となる.現在,透析患者でも一般用のアミノ酸製剤やキット輸液製剤が使えるため,ONS とIDPN で必要量を確保できない場合には中心静脈栄養を検討する.