著者
笹本 洋子 松村 正 小林 由佳 内古閑 修 長澤 利彦 十川 裕史 佐々木 環
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.599-604, 2016 (Released:2016-09-29)
参考文献数
22
被引用文献数
1

7X歳女性, 血液透析 (HD) 歴1年. 透析当日, 来院時から全身倦怠感と発熱 (37.5°C) を認め入院となった. 血液培養検査でG群β溶血性レンサ球菌を検出した. 一時40°C近い発熱と敗血症様の症状を呈し全身状態が悪化したが, 抗菌薬の点滴により全身症状は速やかに改善した. しかし同時に両眼の視力低下を認め, 敗血症による両眼の内因性細菌性眼内炎と診断された. 内因性細菌性眼内炎は, 視力予後不良な疾患として知られているが, 幸いにも速やかな診断の上で抗菌薬の全身投与と抗菌薬の頻回点眼により最終的には視力回復を得た. 今回, われわれは早期の診断と適切な抗菌薬の全身投与によりG群β溶血性レンサ球菌 (GGS) の敗血症から発症した内因性眼内炎から視力回復した症例を経験した.
著者
濱田 真宏 森川 貴 山崎 大輔 竹内 由佳 大野 良晃 柴田 幹子 岸田 真嗣 今西 政仁 北林 千津子 小西 啓夫
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.297-303, 2016 (Released:2016-04-28)
参考文献数
21

症例は66歳男性. 32歳から2型糖尿病, 52歳時に慢性C型肝炎による膜性増殖性糸球体腎炎からの末期腎不全で血液透析導入となった. X年2月, 腰痛の出現後から左下肢の筋力低下と両下肢痛が出現し歩行困難となったため入院となった. MRIにて胸椎2-3レベルの脊髄の腫大を認め, 左側よりにT1, T2強調画像で淡いhigh intensity areaを認めた. 髄液検査にて水痘帯状疱疹ウイルスを認めたが, 皮疹を認めないことから無疹性帯状疱疹に伴う脊髄炎と診断した. 免疫能が低下していると皮疹が現れにくいといわれており, そのため診断に苦慮することが多い. 本例は糖尿病, 肝硬変, 腎不全などによる免疫不全状態がその要因と考えられた.
著者
天野 栄三 水田 耕治 橋本 寛文 今冨 亨亮
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.34, no.13, pp.1549-1553, 2001-12-28 (Released:2010-03-16)
参考文献数
19

症例は58歳男性, 原疾患は糖尿病. 1995年4月, 血液透析導入. 導入時より慢性C型肝炎, 肝硬変を合併していた. 1997年7月頃よりエリスロポエチン抵抗性の貧血が持続. 定期的上部消化管造影・内視鏡にて下部食道表在癌と診断され, また, 腹部造影CT, 選択的腹腔動脈造影にて肝細胞癌と診断された. 食道癌に対しては放射線療法を行い, 肝細胞癌に対してはSMANCS (styrene maleic acid neocarzinostatin)/TAE (transcatheter arterial embolization) 療法を計3回施行した. 治療後, 上部消化管造影では隆起性病変は消失し, SMANCS/TAE後のCTではリピオドール集積像が比較的良好に認められたが, 次第に肝機能障害増悪, 維持透析継続困難となり, 1999年2月死亡した. 透析患者は細胞性免疫能の低下により, 一般的に悪性腫瘍の発生頻度が高く, 自験例のような重複癌や多発癌の発生する可能性は十分に予想される. 早期診断, 早期治療のためには積極的な定期検査の重要性が強調される.
著者
中島 惠仁 小池 清美 深水 圭 楠本 拓生 玻座真 琢磨 松元 貴史 上田 誠二 奥田 誠也
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.493-499, 2013-05-28 (Released:2013-06-08)
参考文献数
32

ロサルタン,フロセミドによる中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)を発症し救命しえた1例を経験した.症例は76歳,男性.慢性腎不全と高血圧の教育入院中にTENを発症した.原因薬剤中止後も改善せず,ステロイド内服とステロイド外用薬に加え,ステロイドパルス療法,血漿交換を施行し,口腔内膿瘍合併に対しヒト免疫グロブリン大量静注療法(Intravenous immunoglobulin:IVIg)を併用した.リンパ球幼弱化試験(DLST)陽性と臨床経過よりロサルタン,フロセミドを原因薬剤と判断した.TENの原因薬剤としてロサルタンは本邦初,さらにフロセミドもまれであるため報告する.腎不全患者で薬疹が疑われた場合は速やかに被疑薬を中止し,薬疹が改善しない場合は重症薬疹を考え迅速に対症することが重要と考えられた.
著者
大前 清嗣 小川 哲也 吉川 昌男 佐倉 宏 新田 孝作
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.287-294, 2015 (Released:2015-05-28)
参考文献数
30

透析患者に広く使用されるRenin-Angiotensin系抑制薬 (RASI) のうちAngiotensin変換酵素阻害薬 (ACEI), AT1受容体拮抗薬 (ARB) と生命予後との関連を当院databaseにより検討した. 2006年4月以降databaseに登録された透析患者を対象とした. 対象の傾向スコア (PS) を算出し3群 (ACEI, ARB, 非RASI群) からPS近似例を抽出した. 疾患死をエンドポイントとした3群の生存曲線を作成し比較した. 対象の347例から31組93例が抽出, 3群間に有意差なく4.2年で全死亡30例, 心血管死19例であった. 全死亡はACEI群7例, ARB群14例, 非RASI群9例でACEI群が予後良好であったが心血管死は有意差を認めなかった. 透析患者においてACEIによる全死亡抑制を認めたがARBは予後に影響しなかった. 今後多施設での前向き研究が必要と考えられた.
著者
草野 浩幸 丸山 寿晴 野澤 幸成 高山 英一 浜田 寛昭 須藤 祐司 丸山 高史 里村 厚司 川本 進也
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.281-286, 2015 (Released:2015-05-28)
参考文献数
9

血液透析患者258名における遊離カルニチン濃度と各種検査値との関連を調査した. 健常者125名の遊離カルニチン濃度と検査値の関連を調査し, 健常者と血液透析患者の検査値を比較検討した. 血液透析患者190名を4群に分け, カルニチン静注, 栄養指導による効果を各種検査値で比較する前向き研究を実施した. 透析患者の年齢と遊離カルニチン濃度は負の相関を示していた. 遊離カルニチン濃度とプレアルブミン, 筋肉量/身長2は正の相関を示した. 透析患者と異なり, 健常者では遊離カルニチン濃度は年齢と正の相関を示した. カルニチン静注により, 血液透析患者で遊離カルニチン濃度の著明な上昇を認めた. 栄養指導のみでも遊離カルニチン濃度は有意に上昇した. そのほかエリスロポエチン抵抗性指数, 下肢つれなども調査したが, カルニチン補充療法の効果には限界があると考えられ, その使用には症例を選ぶ必要があると考えられた.
著者
浪江 智 浜辺 定徳 川冨 正治 川冨 正弘 小田 英俊 中沢 将之 西野 友哉
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.169-177, 2015 (Released:2015-03-27)
参考文献数
17
被引用文献数
3 9

炭酸ランタンを服用中の70例の血液透析患者の腹部単純CTにおける胃のhigh density area (HDA) について検討した. 70例に173回のCT検査を行ったが, そのうち明らかなHDAを認めたものは42例 (60%) に計67回 (39%) であった. HDAを認めた群 (42例) はHDAを認めない群 (28例) と比較して, 炭酸ランタンの服用期間が有意に長かった. また, 服用期間が長いほどHDAの程度が有意に強かった. 胃内視鏡検査を施行した4例の内視鏡所見は胃粘膜の白色肥厚が特徴的にみられ, 組織所見は胃粘膜固有層に沈着物を認め, マクロファージの浸潤と貪食像を認めた. 胃組織中のランタン定量分析では, ランタンの存在が確認された. 炭酸ランタンを服用中止して8か月後に経過をみた2例の腹部CTでは, HDAは残存し, 1例の胃内視鏡所見では胃粘膜の白色肥厚が残存した. 炭酸ランタンが胃粘膜に与える影響について, 注意深い観察が必要であると考えられた.
著者
脇川 健 峰 恵理子
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.723-729, 2014 (Released:2014-12-22)
参考文献数
30

血液透析患者90名のHelicobacter pylori (H.pylori) 感染率を調査し, 除菌成功率の評価を行った. 血清抗H.pylori IgG抗体 (抗HP-IgG抗体) を測定したところ, 透析患者21名 (23.3%) がH.pylori陽性と診断された. 除菌治療に同意された抗体陽性患者17名に, ランソプラゾール (LPZ) 30mg/日, クラリスロマイシン (CAM) 200mg/日, アモキシシリン (AMPC) 500mg/日の3剤を7日間投与し, CAM耐性患者3名には, CAMに変えてメトロニダゾール (MNZ) 250mg/日を用いた. 除菌判定の糞便中H.pylori抗原検査は, 17名中16名 (94.1%) が陰性を示した. 血清抗HP-IgG抗体は, 除菌前24.8±26.4U/mLが6か月後13.9±24.3U/mLと有意に低下した (p<0.05). 今回, 通常除菌の半量以下の服用量でも, 副作用を認めず高率に除菌された.
著者
渡邉 廉也 高橋 宏治 多田 和弘 石村 春令
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.755-759, 2014 (Released:2014-12-22)
参考文献数
8
被引用文献数
1

症例は糖尿病歴10年の65歳女性. 2014年2月上旬, 近医にてインフルエンザBと診断され, オセルタミビル, クラリスロマイシンの内服治療を開始した. 2週間後, 徐々に尿量が低下し, 嘔吐, 全身倦怠感が出現したため, 2月中旬, 当院夜間内科外来を受診した. 来院時検査にて著明な高K血症, 腎機能障害を認め, 緊急透析を施行し入院となった. 2回目の透析後より徐々に, 尿量が改善し血液透析を2回施行し離脱した. その後, 全身状態が軽快し退院となった. 急性腎障害の原因はさまざまであるが, 本症例は受診までの経過, 来院後の検査結果からオセルタミビルとクラリスロマイシンを被疑薬とする薬剤性腎障害が最も考えられた. 両薬剤とも日常診療で頻繁に使用される薬剤であり, 投与後の経過には注意が必要である.
著者
福永 昇平 石田 千尋 中岡 明久 伊藤 孝史
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.9, pp.563-568, 2014 (Released:2014-09-28)
参考文献数
13

本邦では抗MRSA薬はバンコマイシンの他5種類が認可されている. 今回重症MRSA感染症に対してダプトマイシン+リネゾリドの併用によって救命できた1例を経験したので報告する. 症例は47歳男性. 血液透析歴は13年. 近医にてカテーテル感染症を発症し, 当院へ緊急搬送となった. 敗血症性肺塞栓症および全身に感染巣があり, 血液培養でMRSAを認めたため, バンコマイシンによる治療を行ったが改善しなかった. このため, 腸腰筋膿瘍ドレナージおよびダプトマイシンとリネゾリド併用に変更した. その後炎症反応改善しCT上肺炎・膿瘍が改善したため, リネゾリド, ダプトマイシンを中止した. 以後再発は認めず, 透析用人工血管移植術施行後にリハビリ転院した. 現在MRSA感染症に対してはバンコマイシンが第1選択となることが多いが, 組織移行性が悪いという問題がある. 今回, 全身にMRSA感染巣を認めたため, ダプトマイシンとリネゾリドを併用し, 救命することができた. 重症MRSA感染症に対しては抗MRSA薬併用療法も選択肢となりうることが示唆された.
著者
松村 実美子 今井 恵理 多田 真奈美 加藤 麻美 濱野 直人 佐々木 絵美 勝木 俊 勝馬 愛 柴田 真希 日ノ下 文彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.387-393, 2014 (Released:2014-06-28)
参考文献数
29

症例は73歳女性. 69歳のとき腎硬化症による慢性腎不全のため, 腹膜透析を導入した. 73歳のときランソプラゾールの内服を開始し, 3か月後, 3回目の腹膜炎で入院となった. セファゾリンとセフタジジムを経静脈, その後腹腔内投与に切り替え計2週間投与し, 軽快退院した. 入院中に軟便であったが便Clostridium difficile抗原は陰性であった. 退院後から水様~泥状便が持続し, 外来にて便Clostridium difficile抗原陽性となり, 偽膜性腸炎の診断でメトロニダゾールを14日間内服した. その後も下痢は持続し, 食思不振, 炎症反応高値を認めたため, 精査加療目的に当科入院となった. 絶食・中心静脈栄養を開始した. 大腸内視鏡検査を施行し, 肉眼で上行結腸に炎症瘢痕を認めた以外は異常所見を認めなかったが, 直腸, 盲腸, および結腸の粘膜生検で粘膜表層上皮下にリンパ球浸潤を認め, Masson Trichrome染色で特徴的なcollagen bandの形成を認めたため, collagenous colitis (CC) と診断した. CCは慢性水様性下痢の原因として知られ, 本邦での報告数はまだ少ないが, 年々増加傾向にある. 原因は不明だが, 薬剤や自己免疫の関与などが考えられている. 本例では被疑薬であるランソプラゾールを休薬し下痢が消失したことから, その関与が考えられた. 透析患者は消化管出血のリスクが高いためプロトンポンプインヒビター (proton pump inhibitor : PPI) を内服していることが多いが, 文献上, 国内外において腹膜透析患者におけるCCの報告はなく, 慢性下痢の鑑別疾患の一つとして念頭におくことが重要であると考え, 報告した.
著者
中井 滋 政金 生人 秋葉 隆 井関 邦敏 渡邊 有三 伊丹 儀友 木全 直樹 重松 隆 篠田 俊雄 勝二 達也 庄司 哲雄 鈴木 一之 土田 健司 中元 秀友 濱野 高行 丸林 誠二 守田 治 両角 國男 山縣 邦弘 山下 明泰 若井 建志 和田 篤志 椿原 美治
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-30, 2007-01-28 (Released:2008-11-07)
参考文献数
12
被引用文献数
7 7

2005年末の統計調査は全国の3,985施設を対象に実施され, 3,940施設 (98.87%) から回答を回収した. 2005年末のわが国の透析人口は257,765人であり, 昨年末に比べて9,599名 (3.87%) の増加であった. 人口百万人あたりの患者数は2,017.6人である. 2004年末から2005年末までの1年間の粗死亡率は9.5%であった. 透析導入症例の平均年齢は66.2歳, 透析人口全体の平均年齢は63.9歳であった. 透析導入症例の原疾患毎のパーセンテージでは, 糖尿病性腎症が42.0%, 慢性糸球体腎炎は27.3%であった.透析患者全体の血清フェリチン濃度の平均 (±S.D.) は191 (±329) ng/mLであった. 血液透析患者の各種降圧薬の使用状況では, カルシウム拮抗薬が50.3%に, アンギオテンシン変換酵素阻害薬が11.5%に, アンギオテンシンII受容体拮抗薬が33.9%に投与されていた. 腹膜透析患者の33.4%が自動腹膜灌流装置を使用していた. また7.3%の患者は日中のみ, 15.0%の患者が夜間のみの治療を行っていた. 腹膜透析患者の37.2%がイコデキストリン液を使用していた. 腹膜透析患者の透析液総使用量の平均は7.43 (±2.52) リットル/日, 除水量の平均は0.81 (±0.60) リットル/日であった. 腹膜平衡試験は67%の患者において実施されており, D/P比の平均は0.65 (±0.13) であった. 腹膜透析患者の年間腹膜炎発症率は19.7%であった. 腹膜透析治療状況に回答のあった126,040人中, 676人 (0.7%) に被嚢性腹膜硬化症の既往があり, 66人 (0.1%) は被嚢性腹膜硬化症を現在治療中であった.2003年の透析人口の平均余命を, 男女の各年齢毎に算定した. その結果, 透析人口の平均余命は, 同性同年齢の一般人口平均余命のおよそ4割から6割であることが示された.
著者
田邉 一成
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.135-136, 2011-02-28 (Released:2011-03-31)
参考文献数
7
被引用文献数
1
著者
金井 秀夫 野口 俊治 小柳 光 丸橋 恭子 猿谷 真也
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.42, no.11, pp.905-910, 2009-11-28 (Released:2009-12-22)
参考文献数
22
被引用文献数
2 2

クローン病は,比較的若年に好発する腸管全層の炎症を主体とする疾患で,腹痛・下痢・下血などの症状が緩解と再燃を繰り返す慢性非特異性炎症性疾患である.今回われわれはクローン病の初発から40年を経過したのち再燃をおこし,mesalazineおよびprednisoloneの投与にもかかわらず頻回の下血を繰り返した症例に対して,infliximabの投与を試みた透析施行症例を経験した.症例は69歳,男性.25歳時よりクローン病と診断され5~6年の間に計5回の手術歴がある.その後消化器症状はみられず,2005年,慢性腎不全によるうっ血性心不全のため透析導入となった.当院に転院後約3年間著変なく週3回の維持透析を施行していた.今回,配偶者の突然死の4日後に突然の大量下血をおこした.大腸内視鏡所見より縦走潰瘍およびアフタが多発しておりクローン病の再発と診断された.当初mesalazine 1,500mg/日の投与および栄養療法を行ったが効果はみられなかった.次に,prednisolone 30mg/日を併用したが,下痢・下血が連日みられ,頻回の輸血が必要となったことよりinfliximabの投与を行った.初回および2週目と2度のinfliximabの点滴治療を行ったがinfusion reactionはみられなかった.一方,2度目の投与2週間後にニューモシスチス肺炎の合併が認められ,ステロイドパルス療法およびST合剤にての加療を要した.そのため現在,2度のinfliximabの投与にて経過観察しているが,再発後約6か月を経過した後もクローン病の再燃はみられていない.抗ヒトTNF-αモノクローナル抗体infliximabは当初慢性関節リウマチの治療薬として開発されたが,クローン病およびベーチェット病でもその効果が期待されている.今回の症例においては,治療中にニューモシスチス肺炎の合併を認めたが,クローン病に対してのinfliximabの効果は認められており,特に感染症の合併に注意しながら使用することが有効であると考えられた.