著者
大内 夏子 西浦 升人 濱田 高志
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.219-227, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
11

災害発生後72 時間は災害応急活動において最も重要な時間とされているが,この時間は携帯電話網やWi-Fi によるインターネット接続などの既存通信網が利用できない「通信途絶」が想定される時間でもある.災害時に既存通信網が途絶した状況においても,コミュニケーション手段の確保は必須であり,特に東日本大震災以降様々な対策が取られてきた.しかし,自助・共助を支える被災者及び救援者が必要とするコミュニケーション手段の確保には課題が残る.筆者らは,この課題を解決するため,一般の人々に広く普及しているスマートフォンを用いた自律分散ネットワーク構築技術「スマホde リレー」の研究開発,社会実装に取り組んできた.本稿では,スマホde リレーの要素技術,通信性能の検証結果,社会展開に向けた取組み,災害時通信における今後の展開について紹介する.
著者
青木 孝文 伊藤 康一 青山 章一郎
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.119-130, 2015-10-01 (Released:2015-10-01)
参考文献数
14
被引用文献数
2

本稿では,東日本大震災において亡くなられた方の御遺体の個人識別(身元確認)が,いかにして行われてきたかを明らかにする.今回の震災では,顔貌,指紋,掌紋,DNA型などを用いた各種の個人識別手法の中でも,特に歯科的個人識別が有効であった.しかし,発災当時,我が国の警察でさえも,多数遺体の歯科的個人識別について十分な経験を有しておらず,その方法論の確立が急務であった.この状況を打開するために,筆者らは,2011年4月から,宮城県警察本部の身元確認チームに参画し,ICTを活用した歯科的個人識別の高度化に取り組んだ.最終的に,歯科医師会と合同で,歯科情報に基づく迅速な身元確認のワークフローを構築した.本稿は,この震災現場で学んだ教訓を共有することを目的としている.更に,将来の大規模災害の身元確認に備えるために,現在,厚生労働省が実施している「歯科診療情報の標準化」事業の現状と,将来へ向けた技術課題を明らかにする.
著者
花岡 悟一郎
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1_21-1_31, 2009-07-01 (Released:2011-07-01)
参考文献数
25

本稿では,実用的な公開鍵暗号方式に求められる安全性の概念であるCCA 安全性(選択暗号文攻撃に対する識別不可性)について紹介し,それを達成するための方法論を紹介する.特に,CCA 安全な公開鍵暗号を設計する上での具体的な技術的な障害を明らかにし,そのような障害が過去にどのように乗り越えてこられてきたかをできるだけ系統立てて紹介する.
著者
ラナンテ レオナルド Jr. 長尾 勇平 尾知 博
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.124-132, 2019-10-01 (Released:2019-10-01)
参考文献数
16

本稿では,IEEE主導の802.11委員会によって策定されている無線LAN国際規格IEEE802.11の標準化作業の手順や最近の規格動向について概説する.同規格では,最新の11ac改訂でダウンリンクマルチユーザ技術が導入され,もうすぐ標準化作業が完了する11ax改訂でOFDMA技術によるアップリンクマルチユーザ高効率通信が可能となる.筆者らは,それらの規格改訂において計3件(11ac改訂で2件,11ax改訂で1件)の技術提案が採択された経験を有している.また,次世代測位規格11azや次世代超高速通信規格11beなどの最新の標準化動向についても紹介する.
著者
守谷 健弘 鎌本 優 原田 登 杉浦 亮介
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.246-256, 2017-04-01 (Released:2017-04-01)
参考文献数
87

多様な信号処理の全般で重要な役割を果たしている線形予測分析技術の利用の観点で,音声音響符号化技術の進展を紹介する.開発当初から線形予測分析による合成フィルタは音声生成の声道モデルと親和性が高く,音声合成や電話音声に特化した音声符号化で広く使われてきた.一方,現在普及している典型的な音響符号化には線形予測符号化技術が使われていないが,低ビットレート化,音声音響統合符号化の要請に合わせて,スペクトル包絡を効率的に表現する手法として広く使われるようになった.これらの経緯を説明し,あわせて最近実用段階にあるロスレス音響符号化MPEG-4 ALS,携帯電話用の符号化3GPP EVS について紹介する.
著者
内田 理 宇津 圭祐
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.301-311, 2020-04-01 (Released:2020-04-01)
参考文献数
89
被引用文献数
7

災害時に被害を最小限に食い止めるためには,迅速,かつ的確な災害関連情報の収集,発信,共有が重要であり,そのような観点から,災害時のソーシャルメディア利用に注目が集まっている.近年では,災害関連情報の発信や収集にソーシャルメディアを利用している,若しくは利用を検討している行政機関も増えている.一方で,災害時にはソーシャルメディアの投稿数は爆発的に増加するため,必要な情報が埋もれてしまったり,デマや不正確な情報が広く拡散してしまうなどの問題点も指摘されている.本稿では,災害時のソーシャルメディア利用事例や関連する研究の動向を述べた後,筆者たちが実施した災害時のTwitter利活用に関する研究の一部を紹介する.
著者
渡辺 峻
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.38-50, 2013-07-01 (Released:2013-07-01)
参考文献数
46

本稿では,情報理論的に安全な秘密鍵共有とそれに関連するトピックについて概説する.まず,秘密鍵共有のモデルについて説明した後,鍵共有プロトコルが情報整合と秘匿増強と呼ばれる二つのステップから成ることを説明し,幾つかの安全性基準を紹介する.その後,情報整合の手段としてSlepian-Wolf 符号化と呼ばれるデータ圧縮法について説明する.次に,従来広く使われていた秘匿増強の方法について述べる.特に,その方法によって生成された秘密鍵は弱い安全性を満たすものの,その他の安全性基準は満たさないことを説明する.そして弱い安全性基準以外の基準を満足するにはどのように秘匿増強を行えばよいか説明する.更に,Slepian-Wolf 符号化と秘匿増強の一般化として,多端子情報源符号化問題と多端子乱数生成問題について説明する.これらの応用として,3者以上の正規ユーザ間での秘密鍵共有と秘匿関数計算について紹介する.
著者
植松 友彦
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.123-128, 2010-10-01 (Released:2010-12-01)
参考文献数
62

シャノンによる情報通信のマグナカルタ “A mathematical theory of communication” が発表されてから60年以上を経た.本稿では,シャノンが最初に創造した情報理論の枠組みについて解説した後,いつだれによって基本定理の厳密な証明がなされたか,並びに情報理論がどのような発展の経路をたどってシャノンの後にどこまで到達したかについて解説している.
著者
坂東 幸浩
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.186-196, 2014-01-01 (Released:2014-01-01)
参考文献数
37

近年,映像の高精細化・モバイル端末の高性能化により,映像トラヒックが爆発的に増大している.増大する映像トラヒックに対する効率的な伝送・蓄積のために,高効率な映像符号化が求められている.しかし,H.264/AVC に代表される現行の符号化方式は成熟期を迎えており,今後,大きな符号化性能の向上が期待できない.そこで,こうしたニーズの高まりを受け,ISO/IEC 及びITU-T により,映像符号化に関する最新の国際規格High Efficiency Video Coding (HEVC) が策定された.本稿では,HEVC について,標準化の経緯を概観し,H.264/AVC からHEVC に至る発展の中で導入された新技術を紹介する.新技術の紹介では,従来法(H.264/AVC) の課題,同課題を解決するためにHEVC で講じられた手段,同手段が課題を解決できる仕組みを中心に概説する.