著者
吉田 康太 藤野 毅
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.88-100, 2021-10-01 (Released:2021-10-01)
参考文献数
68

深層ニューラルネットワーク(DNNs)などの機械学習技術(以降AI技術と呼ぶ)は,画像認識をはじめとする様々なタスクにおいて非常に高い性能を発揮しており,本技術の社会実装が今後更に加速することが予想される.自動運転車や監視カメラなど,安全やセキュリティに関わる分野にAI技術を導入するためには,誤動作の誘発・プライバシー情報の窃取などを目的としたAIに対する攻撃手法に対するセキュリティ対策が重要になる.また,学習済みAIモデルは重要な知的財産であるため,これを保護する手法も実装しなければならない.一方で,監視カメラや自動運転システムのようなプライバシー保護・リアルタイム性が要求されるアプリケーションでは,推論処理を組み込み機器(以降エッジAIと呼ぶ)で実行する必要がある.このようなケースでは攻撃者がエッジAIへ物理的にアクセスできるシナリオも考慮したセキュリティの確保が求められ,エッジAIのハードウェアセキュリティという研究分野が2017年頃から注目されている.本稿では,AI特有のセキュリティ課題及びエッジAIのハードウェアセキュリティについて,脅威を整理し,更に近年の研究動向や対策技術を紹介する.
著者
泉 泰介
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.46-56, 2016-07-01 (Released:2016-07-02)
参考文献数
19

通信複雑性理論とは,複数のプレイヤ間に分散して保持されているデータに対して,何らかの大域的な関数計算を行いたいとき,プレイヤ間で交換しなければならないビット数の上下界を明らかにする理論である.本解説では,同理論の基礎について概説するとともに,強力かつ新たなアプローチとして近年注目を集める,情報理論的手法を用いた通信複雑性の限界解明手法について,その基本的なアイデアを紹介する.
著者
谷 誠一郎 高橋 康博
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.15-27, 2020-07-01 (Released:2020-07-01)
参考文献数
62

量子コンピュータは現在のコンピュータにおける不可能を可能にする高速コンピュータとして大きな期待を集めている.この期待の実現には,新しいハードウェア技術とともに,ハードウェアの能力を引き出す新しいアルゴリズム技術が不可欠である.本稿では,このような高速量子アルゴリズムの開発に焦点を当て,量子コンピュータ単体による計算や通信が可能な複数の量子コンピュータを利用する計算のために開発されてきた高速量子アルゴリズムの歴史を振り返るとともに,我々の成果について,その原点となる発想を中心に紹介する.
著者
萩行 正嗣 上谷 珠視 東 宏樹 大竹 清敬
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.200-210, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
14

近年,ICT の発達に伴い,災害対応の現場でもこれらを活用した災害対応の効率化が行われている.特にTwitter やLINE に代表されるコミュニケーションツールは被災者一人一人と災害対応機関とのコミュニケーションを変えつつある.本稿では,現在コミュニケーションツールが災害対応の現場で活用されている例やその背景にある技術について紹介するとともに,我々が開発中の防災チャットボットSOCDA の機能と展望についても紹介する.
著者
小林 欣吾
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.28-43, 2020-07-01 (Released:2020-07-01)
参考文献数
8

組合せ論的ゲーム理論の礎とも目されるE.R. Berlekamp, J.H. Conway, R.K. GuyによるWinning Ways for Mathematical Playsという今や古典的な名著の翻訳を昨年の秋に完了した.その機会に合わせてSITA2019霧島のワークショップにおいて講演したので,そのときの話題を中心に組合せ論的ゲームを解説する.組合せ論的ゲームというのは,2人のプレーヤが交互に着手し,ゲームの規則,勝敗の判定法など必要となる情報はお互いに完全に分かり合っており,偶然性は入らないゲームをいう.そのようなゲームは子供のお遊びのチック・タック・トウ(マルとバツ),点と箱などから,囲碁,将棋,チェスなどという高度の戦略を必要とするゲームまで広範囲にわたっている.ゲームの勝敗を知るためには,局面の値を決定することが重要である.そのような値は単に数だけでは表現できず,Conwayの発案になる実数を拡張した超限実数という概念も顔を見せてくる.
著者
安永 憲司
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.56-67, 2011-07-01 (Released:2011-07-01)
参考文献数
17

ランダムに構成すると望ましい性質を持つオブジェクトは,多くの場合ランダムなままでは扱えないため,「擬似ランダム」に構成する必要がある.擬似ランダムオブジェクトは様々に存在し,それぞれの目的や性質は異なるが,幾つもの擬似ランダムオブジェクトは,統一的な特徴付けが可能であることをVadhan が示した.そのオブジェクトとは,誤り訂正符号,エクスパンダグラフ,標本器,乱数抽出器,困難性増幅器,擬似乱数生成である.本稿では,誤り訂正符号を基本的な視点として,その他のオブジェクトについて統一的に理解することを目的とし,各オブジェクトの紹介と解説を行う.
著者
平部 正司 善久 竜滋 宮元 裕章 生田 耕嗣 佐々木 英作
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.195-204, 2019 (Released:2019-12-01)
参考文献数
13

5G やBeyond 5G に向けて基地局の大容量化が進み,バックホール,及びフロントホールの大容量化の要求が高まっている.近年,無線通信の大容量化技術としてOAM(Orbital Angular Momentum)モード多重無線伝送が注目されている.本稿ではOAM モード多重無線伝送をミリ波に適用することによりスモールセルのバックホール,フロントホールに向けた100Gbit/s クラスの無線伝送が可能であることを示す.OAM モード多重無線伝送技術について解説し,筆者らが行ったOAM モード多重無線伝送実験結果について解説する.筆者らは等間隔円形素子配置アレーアンテナ(UCA:Universal Circular Array)とDBF(Digital Beam-Forming)技術で構成したOAM モード多重無線伝送実験装置によりE-BAND で屋外伝送実験を行い,8OAM モード多重と偏波多重により256QAM で16 多重の伝送を達成した.
著者
栗田 雄一 石原 茂和 稲見 昌彦
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.105-111, 2018

本稿では,2016 年10 月にスイスで開催された義手競技,動力義足,エグゾスケルトン,電動車椅子,BCI ゲーム,FES 自転車の各競走から構成されたサイバスロン(Cybathlon)のあらまし,並びに人の身体的運動を支援する身体的ヒューマンロボットインタラクション技術について概説し,人間拡張工学の開く世界を展望する.
著者
安藤 彰男
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.4_33-4_46, 2010-04-01 (Released:2010-11-01)
参考文献数
25
被引用文献数
2

臨場感の高い音響を実現するため,様々な音場再生技術が研究開発されている.これらは,心理音響モデルに基づく方式と,物理音響モデルに基づく方式に大別できる.前者としては,5.1サラウンドから22.2マルチチャネル音響に至る様々な方式が提案されている.いずれも,2チャネルステレオの音像制御方式を基本としており,チャネル数を増やすことで,音場再生能力を向上させている.一方,後者は,音の物理量再現を目的とした方式であり,Wave Field Synthesisや境界音場制御法など,音の場の再現を目指す方式と,アンビソニックスに代表される,受音点での音の物理量を再現する方式に分けることができる.本稿では,これらの方式の基本技術を概観するとともに,その背景となる理論を紹介する.
著者
平澤 茂一 笠原 正雄
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.183-191, 2011-01-01 (Released:2011-01-01)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

誤り訂正符号の代数的復号法の一つであるユークリッド復号法について解説する.ユークリッド復号法はBCH符号やRS 符号の強力な復号法として知られ,数多くの適用例がある.まず,1950 年代に始まった誤り訂正符号の構成法の研究と,1960 年代から1970 年代にかけての復号法の研究の歴史をたどり,ユークリッド復号法の位置付けを行う.次に,ユークリッド復号法の概要を紹介する.最後に,この復号法発見に至る筆者らの当時の環境や様子を,研究者の立場から経験談に私見を交えながら述べる.