著者
景山 秀二 三重野 孝太郎 小山 隆之 小林 茂俊
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.579-583, 2020-12-20 (Released:2020-12-20)
参考文献数
9

小児の食物アレルギー患者は現在も増加しつつあり,治療として食物除去を行っている場合は患者のquality of life(QOL)が低下するため,社会問題ともなっている.中でも牛乳は食物アレルギーの主なアレルゲンで食物アレルギー全体の2割程度を占め,特に乳児期に多く発生する.今回我々は,牛乳タンパクを練りこんだレーヨン繊維を使用した肌着の着用後に接触蕁麻疹を呈した4か月の牛乳アレルギーの男児例を経験した.本症例では数日前よりミルク摂取にて皮膚の即時型症状が出現していたが,当該肌着の着用直後に肌着の接触する体幹部を中心とした発赤,紅斑,膨疹が出現した.牛乳,カゼイン特異IgE抗体は陽性で,当該肌着のパッチテストにて発赤,膨疹が観察されたため,診断が確定した.最近,アレルゲンとなりうる食物タンパク由来の物質が食品だけでなく,衣類,化粧品などに添加されることが増えているが,安易な添加はアレルギー症状の発症を誘発する可能性もあり注意を要する.
著者
岩井 郁子 松永 真由美 金井 怜 高瀬 貴文 安田 泰明 山田 慎吾 浜田 佳奈 中本 牧子 野上 和剛 長尾 みづほ 藤澤 隆夫
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.477-484, 2022-12-20 (Released:2022-12-20)
参考文献数
9

【目的】学校における食物アレルギー児の適切な管理には学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)(以下,管理指導表)は必須である.問題点を知るために,医師が記載する管理表の実態を調査した.【方法】令和2年度に三重県の小・中学校に提出された全ての管理指導表について,食物アレルギー欄の各項目を集計した.【結果】提出総数は2,387で,食物アレルギー以外(乳糖不耐症等)を除いた2,364を解析した.除去食物の頻度は鶏卵,牛乳・乳製品,果物,甲殻類,ナッツ類の順で,医療機関を調査した既報とは若干の相違があった.除去根拠が2つ以上記載された管理指導表の割合は鶏卵78%,小麦68%,牛乳64%であったが,ソバ30%,肉類15%など低い食品があり,地域差もみられた.給食での除去の原則に反する不完全除去の指示が8.7%にみられた.【結語】根拠に乏しい除去指示など管理指導表記載の問題点が明らかとなった.管理指導表の正しい記載について医師への啓発を進めることが重要と考えられた.
著者
古林 万木夫 谷内 昇一郎
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.144-151, 2018 (Released:2018-03-31)
参考文献数
23
被引用文献数
1

醤油は大豆と小麦を主原料とする日本を代表する発酵調味料の1つであるが, これまで醤油中の両アレルゲンの残存性について詳細な研究が行われていなかった. そこでわれわれは, さまざまな免疫学的検査手法により醤油醸造工程中の小麦アレルゲンならびに大豆アレルゲンの消長を調べた. その結果, 小麦のたんぱく質に比べて大豆のたんぱく質は諸味中では完全に分解されず, 生揚には小麦アレルゲンが残存しないが, 大豆アレルゲンは残存することが確認された. 次の火入工程により, 生揚に残存する大豆アレルゲンが熱変性を受けて火入オリとして不溶化することや, 不溶化した火入オリが, その後のオリ下げ・ろ過工程で除去されることで最終の火入醤油には大豆アレルゲンが残存しないことが確認された. 醤油中のアレルゲンの分解・除去には, 麹・諸味工程に加えて, 火入・オリ下げ・ろ過工程が重要であることが示された.
著者
藤高 道子 河野 一輝 上田 晴雄 川口 浩史 佐倉 伸夫 上田 一博
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.99-102, 2002-03-01 (Released:2010-08-05)
参考文献数
16

症例は12歳5ヶ月の喘息女児. 従来より梅雨時期に発作が増悪する傾向がありプロピオン酸ベクロメタゾンを吸入していたが, 発作が軽減したため平成11年2月に中止した. 平成11年6月, ヒマラヤ杉とカモガヤ等のイネ科植物が群生する地域の伐採現場を通った約15分後より, 上眼瞼と口唇を中心とした顔面の浮腫, 全身チアノーゼ, 喘鳴を伴う呼吸困難が出現し当院へ緊急受診した. 受診時の意識レベルはJCS III-300で血圧も触知不能であったが, 直ちにエピネフリン, メチルプレドニゾロン等の救急処置を施行し, 当院到着から1時間後に意識は清明, 顔面の浮腫と全身のチアノーゼは消失, 呼吸状態も改善した. 発症の状況と CAP-RAST の結果から, イネ科植物花粉の大量吸入によるアナフィラキシーショックが考えられた. 花粉によるアナフィラキシーショックの報告は稀であるが花粉の大量吸入は重篤なアレルギー症状を起こす可能性が示唆され, 花粉の飛散時期を考慮に入れた注意深い治療管理が必要と思われた.
著者
岡部 公樹 吉川 知伸 宮本 学 金子 恵美 吉田 幸一 緒方 美佳 渡邉 暁洋 本村 知華子 小林 茂俊
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.424-433, 2023-12-20 (Released:2023-12-20)
参考文献数
15

【目的】大規模災害現場で薬剤師がアレルギー疾患患者に対応する際の問題点,アンメットニーズを明らかにするため調査を行った.【対象と方法】災害医療に携わる薬剤師に日本薬剤師会,日本病院薬剤師会を介し無記名のWEBアンケート調査を行った.【結果】235名から回答を得た.アレルギー疾患に関する情報を平時は電子媒体で得たい薬剤師が多く,災害時はアプリ,紙媒体で得たい薬剤師が平時より増加した.アレルギーポータルや既存の資材の利用者は少なかった.支援で調剤・携行した薬は抗ヒスタミン薬が多かったが,アレルギー疾患関連薬剤の携行量や剤型の不足が問題であった.吸入補助器具やアドレナリン自己注射薬は携行数と比べ今後の携行が推奨されていた.患者指導で重要な事として79.6%の薬剤師が「避難時の薬剤手帳の携帯」と回答した.【結論】アレルギーポータルや資材の普及,支援時期毎の携行薬リスト作成,薬剤手帳を携帯して避難することの啓発が必要である.一方,使用期限の短いアドレナリン自己注射薬の災害時の供給方法は今後の課題である.
著者
平口 雪子
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.70-74, 2023-03-20 (Released:2023-03-20)
参考文献数
20

甲殻類とは節足動物門に属する甲殻亜門(Crustacea)の一群で,エビ・カニ・シャコなどが含まれる.2022年即時型食物アレルギー全国モニタリング調査では全年齢における食物アレルギーの原因食品として8位,初発例の原因食品として7~17歳で1位,18歳以上で2位と,甲殻類アレルギーの多くは学童期以降で発症する.即時型症状が多く,食物依存性運動誘発アナフィラキシーの原因食品としても頻度が高い.予後についての報告はほぼないが,耐性獲得は少ないと考えられている.甲殻亜門の主要アレルゲンはトロポミオシンとされるが,他にアルギニンキナーゼ,ミオシン軽鎖,筋形質カルシウム結合タンパクなどが報告されている.これらのコンポーネントは節足動物門でアミノ酸配列の相同性が高く,交差抗原性は甲殻亜門内だけでなく,節足動物門の鋏角亜門・六脚亜門と甲殻亜門間でも確認されている.粗抽出抗原特異的IgE抗体検査は感度,特異度共に不十分で,コンポーネント特異的IgE抗体検査の有用性が検討されているが地域差など課題も多い.
著者
宮本 学 岡部 公樹 吉川 知伸 金子 恵美 緒方 美佳 吉田 幸一 本村 知華子 小林 茂俊
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.213-223, 2023-08-20 (Released:2023-08-21)
参考文献数
26

我々は,災害医療従事者を対象に,災害時のアレルギー患者対応に関するパンフレットや相談窓口など既存のツールの評価,災害医療従事者のアンメットニーズを調査するためアンケート調査を行い,266名から回答を得た.アレルギーに関する情報を得る手段は,平時では電子媒体や講演会が,災害時にはスマートフォンアプリや紙媒体の要望が多かった.アレルギー関連webサイトなど既存ツールの認知度は約10~30%と高くなかった.COVID-19が災害時のアレルギー疾患対応に悪影響があると回答したのは66%であった.73%の災害医療従事者が,災害時アレルギー対応窓口の一本化を望んでいた.また,自助の啓発,患者情報を把握するためのツールを要望する意見も多数みられた.これらの結果から,災害医療従事者に向けたアレルギー疾患マニュアルの拡充を積極的に行う必要があると考えられた.
著者
濱口 冴香 山本 貴和子 佐藤 未織 大海 なつき 隈元 麻里子 小川 えりか 野村 伊知郎 山本 康仁
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.132-137, 2023-06-20 (Released:2023-06-20)
参考文献数
13

急性食物蛋白誘発胃腸炎(acute FPIES)の経口食物負荷試験(OFC)における,OFC施行時期,過去の症状の重症度や負荷量と,OFCでの誘発症状の重症度の関係については明らかでない.今回,生後1か月まで混合栄養で症状がなかったが,生後3か月時の普通ミルク再導入により軽症のacute FPIESを疑う症状を呈し,確定診断のために国際コンセンサスガイドラインに準拠した通常負荷量でOFCを施行したところ,意識障害やアシドーシスを伴う重症な症状を呈したacute FPIESの乳児例を経験したため報告する.乳児期,また最終エピソードからOFCまでの期間が短い場合は,ガイドラインに準拠した負荷量でも重症の誘発症状を生じる可能性があり,負荷量設定,緊急時対応の事前準備が,安全なOFC実施に重要である.Acute FPIESに対するOFCの方法はまだ標準化されておらず,今後のエビデンスの蓄積が必要である.
著者
佐野 英子 水野 友美 長尾 みづほ 松永 真由美 浜田 佳奈 高瀬 貴文 安田 泰明 星 みゆき 野上 和剛 藤澤 隆夫
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.138-149, 2023-06-20 (Released:2023-06-20)
参考文献数
20
被引用文献数
1

目的:アレルギー疾患児をもつ養育者のニーズをソーシャルネットワーキングサービスに投稿された質問から探索する.方法:Yahoo!知恵袋データ(国立情報学研究所提供)から養育者が小児のアレルギーについて尋ねたと想定される質問文を抽出,テキストマイニング手法で分析した.結果:全データ約269万件からキーワード検索と3名の研究者による直接レビューで707件を選択,形態素解析で語を抽出した.単純集計では皮膚,食事に関連する語が多く,多次元尺度構成法では,これらと呼吸器症状関連語が治療関連語,何らかの答えを求める語を取り囲む形で分布した.コード定義を行い分類すると,頻度は不安・疑問,病院受診のコードに続き,皮膚症状が多かった.コード間の共起では不安・疑問,病院受診に皮膚症状,アトピー,食事,環境,睡眠,家族関係が互いに関連していた.呼吸器関連コード群は互いに強く共起し,他コード群とは弱い共起であった.結語:SNSでの養育者ニーズは生活の諸側面につながっている皮膚の問題が大きい可能性がある.
著者
尾辻 健太 酒井 一徳
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.175-179, 2019 (Released:2019-06-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1

子持ちシシャモ (Mallotus villosus〔カラフトシシャモ, 別名 : カペリン [以下, シシャモ] 〕) 経口摂取によるアナフィラキシーを2例経験したので報告する. 2例とも食物アレルギーの既往はなく, シシャモ摂取歴は不明であった. 1例目は6歳男児. シシャモなど摂取後アナフィラキシーをきたした. シシャモの皮膚プリックテスト (SPT) の結果, 生では身は陰性で卵は強陽性, 加熱では身・卵とも陽性であった. 焼いたシシャモの食物経口負荷試験 (OFC) では, 身と卵のOFCいずれもアナフィラキシーをきたし, 卵ではアドレナリン筋注を要した. イクラ, タラコはともに特異的IgE陰性かつOFC陰性であった. 2例目は7歳男児. シシャモなど摂取後眼瞼腫脹あり. 加熱シシャモのSPTは身で陰性, 卵で弱陽性であった. 焼きシシャモOFCの結果, 身は陰性であったが, 卵はアナフィラキシーを認めた. イクラは自宅で症状なく摂取可能で, タラコOFCは陰性であった. 以上より, シシャモ卵独自のアレルゲンが存在する可能性があると考えられた.
著者
大瀧 悠嗣 北村 勝誠 松井 照明 高里 良宏 杉浦 至郎 伊藤 浩明
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.490-498, 2022-12-20 (Released:2022-12-20)
参考文献数
15
被引用文献数
2

目的日本の小児における木の実類アレルギーの増加が報告されているが,小児の救急受診患者の背景や誘発症状を検討したものはなく,当センターにおける状況を分析した.方法2016年2月~2021年10月に木の実類の即時型症状で救急外来を受診した29例(27名)について,原因食物,患者背景,誘発症状,治療を診療録から後方視的に検討した.結果原因はクルミ12例(10名),カシューナッツ12例,マカダミアナッツ3例,アーモンド1例,ペカンナッツ1例で,年齢中央値は3歳であった.15例がアナフィラキシー,うち5例はアナフィラキシーショックであった.13例がアドレナリン筋肉注射,うち1例がアドレナリン持続静脈注射を要した.11例が入院し,うち3例は集中治療室へ入院した.初発は22例で,そのうち14例が他の食物に対する食物アレルギーを有していた.結語木の実類アレルギーの救急受診患者は,年少児がアナフィラキシーで初発した事例が多かった.予期せぬ重篤事例を未然に防ぐため,何らかの医学的及び社会的対策が望まれる.
著者
西村 龍夫 寺口 正之 尾崎 由和 原田 佳明 松下 享
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.508-515, 2022-12-20 (Released:2022-12-20)
参考文献数
21
被引用文献数
1

目的:小児科外来を受診する母親に,離乳食での食物アレルギー(以下,FA)への不安と,それを増強する因子がないかについて調査を行った.方法:2020年3月から4月までの2か月間,後期乳児健診を目的に受診した乳児の母親を対象とし,離乳食でFA症状を経験したかを聞き,リッカートスケールを用いてその不安をどのように感じているのかのアンケート調査を行った.さらに,食物アレルギーと誤嚥,食中毒への不安を比較した.結果:36施設から533件の調査票を回収した.過去にFAの症状が出たことがあると答えたのは16.4%であった.FA症状の大部分は軽症であったが,部分的なじんましん症状でも不安スケールは有意に上昇し,食物制限も多かった(P<0.01).不安スケールは誤嚥がもっとも高く,続いて食中毒で,FAがもっとも低かった.結論:多くの母親のFAへの不安は高くなかったが,FA症状の経験は軽症でも離乳食への不安の上昇と制限につながっている.
著者
清水 美恵 今井 孝成 松本 勉 野々村 和男 神谷 太郎 岡田 祐樹 本多 愛子
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.499-507, 2022-12-20 (Released:2022-12-20)
参考文献数
29

【目的】心理的葛藤のさなかにある思春期アレルギー児が療養生活を送るうえでレジリエンス,すなわちダメージからの回復力は重要である.しかしアレルギー児のレジリエンスを測定する尺度はない.本研究では,思春期アレルギー児のレジリエンス尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検証する.【方法】対象は,協力医療施設に通院中の小4から中3のアレルギー児とした.調査は質問紙を用いて2021年9~11月に実施した.尺度原案を作成し,項目分析で得られた尺度項目に対する探索的因子分析,確認的因子分析を行った.【結果】621部を配布し,有効回答179名を分析対象とした.対象アレルギー疾患は,気管支喘息136名,食物アレルギー83名,アトピー性皮膚炎80名であった.思春期アレルギー児レジリエンス尺度は4因子(問題解決志向,探究志向,自然体志向,ネガティブ感情の共有)15項目で構成され,信頼性と妥当性が確認された.【考察】アレルギー児のレジリエンス尺度を開発した.移行支援など関係する研究で活用が期待される.
著者
伊藤 浩明
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.124-130, 2012 (Released:2012-05-31)
参考文献数
21

食物経口負荷試験(Oral food challenge, OFC)は,食物アレルギー診断のgold standardであり,アレルギー専門施設のみならず,広く全国の小児科で実施されている.OFCは,食物アレルギーの初期診断だけでなく,耐性獲得の診断にも重要な役割を果たす.最近では「必要最小限の除去」を目指すために,少量であっても安全に摂取可能なアレルゲン量を決定することを目的とするOFCも,専門施設を中心として行われることが増加してきた.OFCの標準的な方法についてはガイドラインも発行され,ほぼ確立してきたといえる.しかし,その結果に基づき,特に負荷試験陽性者に対して安全域を見込んで食事指導を進める方法については,今後の十分なエビデンス作りが求められている.
著者
大嶋 勇成
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.35-40, 2019 (Released:2019-03-31)
参考文献数
21

二重抗原曝露仮説が提唱されて以降, 食物アレルギーの発症機序として経皮感作が注目されている. 保湿剤により皮膚バリア機能を改善し, 食物アレルギーの発症を予防する試みが行われているが, アトピー性皮膚炎の発症を抑制しても, 食物アレルギーの発症を予防する効果は証明されていない. 食物アレルギー患者のすべてに, アトピー性皮膚炎の既往や皮膚バリア機能の異常を認めるわけでないことから経皮以外の感作経路の存在が示唆される. 花粉・食物アレルギー症候群では食物抗原と交差反応性をもつ花粉への感作は経気道的に生じていると考えられる. したがって, 経皮感作の予防のみでは食物アレルギーの発症を完全に防ぐことは困難と考えられる. 食物アレルギーの発症予防には, 経皮感作を修飾する因子, 経口・経気道感作の機序を明らかにする必要がある.
著者
松井 照明 田島 巌 牧野 篤司 内藤 宙大 森山 達哉 渡邊 弥一郎 北村 勝誠 高里 良宏 杉浦 至郎 和泉 秀彦 伊藤 浩明
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.234-240, 2022-08-20 (Released:2022-08-22)
参考文献数
19

目的:ボンラクトⓇ iの原料である酵素分解分離大豆たんぱく(酵素分解SPI)は,熱処理と酵素処理により低アレルゲン化されている可能性があり,そのアレルゲン性を確認することを目的とした.方法:1.酵素分解SPI及びその原料のSPIのポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)及び免疫ブロッティングを行った.2.大豆アレルギー患者に対して皮膚プリックテスト(SPT),豆腐または豆乳とボンラクトⓇ iの経口負荷試験(OFC)の比較を行った.結果:1.SDS-PAGEではSPIよりも酵素分解SPIで全体に低分子化されたバンドが確認され,免疫ブロッティングではGly m Bd 28K及び30Kに特異的なバンドが検出されづらくなった.2.2/3例で,大豆と比較して酵素分解SPIのSPT膨疹径が小さかった.OFCでは3/4例でボンラクトⓇ iの症状誘発閾値たんぱく量が多く,全例で重症度が低かった.結語:ボンラクトⓇ iは低分子化されており,アレルゲン性が低いことが示唆された.
著者
伊藤 尚弘 安冨 素子 村井 宏生 森岡 茂己 石原 靖紀 小倉 一将 谷口 義弘 大嶋 勇成
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.217-223, 2022-08-20 (Released:2022-08-22)
参考文献数
10

【目的】福井県では医療圏によって専門医への受診が困難であり,専門的診療を行う施設は限られる.今回,アレルギー診療の均霑化を進めるため実施しているオンライン勉強会の有用性と問題点を検証した.【方法】アレルギーの勉強会はオンライン会議システムを利用し,平日夕方に月1回開催した.勉強会に参加したことがある医師22名と小児アレルギーエデュケーター5名に対し,アンケートを行った.【結果】アレルギー専門医9名,非専門医10名,小児アレルギーエデュケーター4名から回答が得られた.参加した医師の73.7%が診療内容を変えたと回答した.大学病院への紹介に変化があったと解答したのは26.3%であった.従来現地開催で実施していた日本小児科学会福井県地方会と比較して女性医師の参加割合は有意に多かった.【結論】オンライン勉強会は子育て世代の女性医師にとっても参加しやすく,参加者の診療内容に変化をもたらしており,アレルギー診療の均霑化に繋がることが示唆された.
著者
北村 勝誠 伊藤 友弥 伊藤 浩明
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.141-147, 2022-06-20 (Released:2022-06-20)
参考文献数
15
被引用文献数
3

【目的】小児アナフィラキシー症例における木の実類の現状を明らかにする.【方法】2017年4月~2021年3月に愛知県下の救急指定施設をアナフィラキシーで受診した15歳未満の全患者調査から,食物を原因とする2,480例のうち木の実類による308例を解析した.【結果】症例数は2017年度40例,2018年度74例,2019年度94例,2020年度100例と増加した.原因食物に占める割合は,2017年は木の実類が6.0%で鶏卵,牛乳,小麦につぐ第4位であったが,2020年は18.8%で第1位となった.年齢別原因食物では2020年に木の実類は1,2歳,3-6歳群の第1位となった.189例(61.8%)が入院し,うち3例が集中治療室に入院した.147例がアドレナリン投与を受け,エピペンⓇ所有は55例であった.木の実類の内訳はクルミ,カシューナッツ,マカダミアナッツ,ピスタチオの順に多かった.【結語】15歳未満のアナフィラキシー症例において,木の実類の割合が明らかに増加していた.
著者
佐藤 さくら 田知本 寛 小俣 貴嗣 緒方 美佳 今井 孝成 富川 盛光 宿谷 明紀 海老澤 元宏
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.187-195, 2007-06-01 (Released:2007-12-26)
参考文献数
17
被引用文献数
4 2

アナフィラキシー補助治療薬のエピペン®が我が国で発売され,2004年5月から2005年10月まで当科で同薬を処方した食物アレルギー患者は50名(男33名,女17名,0.3mg:15名,0.15mg:35名)に上る.対象の平均年齢は6.8歳でアトピー性皮膚炎合併が78%,気管支喘息合併が52%であった.原因食品摂取時に呼吸器症状を96%,皮膚症状を92%に認めた.アナフィラキシー症例は48例で,食物アレルギー発症時の臨床型は36例が“食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎”,即時型症状8例,食物依存性運動誘発アナフィラキシー4例であった.アナフィラキシーを起こした理由は,初回,2回目以降も誤食によるものが最多であった.アナフィラキシー反復例は31例で,複数抗原に対してアナフィラキシーを起こした例や原因不明例も存在した.今回の処方50例中実際に使用された例は1例あり,17歳のナッツアレルギー患者において使用され著効していた.医師,コメディカルにおいてまだ認識が不十分なエピペンであるが,アナフィラキシーを起こす可能性のある食物アレルギー児に対して保護者と相談の上で処方していくべきである.