著者
渡邉 斉志
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.66, pp.153-165, 2011

短報【目的】本稿の目的は, 公立図書館におけるレファレンスサービスがどのような状況にあるのかを分析し, レファレンスサービスの位置づけを見直す必要があることを示すことにある。【方法】統計が比較的整備されている静岡, 富山, 神奈川の三県の公立図書館及び都道府県立図書館における平成14年度以降のレファレンスサービスの件数の推移を分析した。併せて, 大阪版市場化テストにおける府立図書館の業務に関する議論からレファレンスサービスに関する論点を抽出し, 検討を行った。【結果】静岡, 富山, 神奈川の三県の公立図書館においては, 蔵書規模に比してレファレンスサービスが活発に行われている図書館ではレファレンス件数は総じて減少傾向にあり, レファレンスサービスが不活発な図書館においてレファレンス件数が増加しているのとは対照的な状況にあることが明らかとなった。また, レファレンス質問の難易度との関連性で見ると, 難易度が低い質問の多寡がレファレンス件数全体の増減を左右しており, インターネットの普及が進む環境下において, 図書館に寄せられるレファレンス質問が難化しているという通説の妥当性はかなりの程度疑わしいことが判明した。このことと, 大阪版市場化テストにおいて提起されたような「レファレンスサービスは過剰サービスである」という考え方が一定程度社会に存在していることとを併せ考えることにより, レファレンスサービスへのリソースの投入が今後も継続可能であると考えるのは楽観的に過ぎること, したがってレファレンスサービスの発達を図るためにはレファレンスサービスの充実が社会的に容認されるようにするための取組みが必要であること, という二点が導き出された。
著者
三根 慎二
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.61, pp.25-58, 2009

原著論文【目的】 本稿の目的は、プレプリントサーバarXivの学術情報メディアとしての役割および位置づけを、2007年までに登録された論文・記事すべてに基づいて実証的に明らかにすることである。 【方法】 1) 論文・記事の年間および総登録件数 2) 論文・記事の学術雑誌掲載率とその後の掲載先 3) arXiv への登録年と学術雑誌掲載年の差(即時性) を明らかにするために、1991年から2007年にわたってarXiv に登録された論文・記事449,071件すべてを対象に、各論文・記事に付与された1) ID, 2) journal-ref (登録論文・記事のその後の掲載先 、 3) 主題領域のデータを分析した。【結果】 方法で述べた3点について、以下のことがわかった。 1) 17年間にわたってarXiv全体では登録件数が毎年増加傾向にあり、とくに宇宙物理学、物性物理学、数学で顕著であるが、主題領域により差がある。 2) arXivに登録された論文・記事のその後の学術雑誌掲載率は全体で47.1%であり、少なくとも論文・記事の半数弱だけが学術雑誌等に掲載されていること、領域では物理学の理論系の領域で高いが数学や計算機科学では低いこと、学術雑誌に掲載された登録論文・記事全体の半数近くを"Physical Review"各誌や"Astronomical Journal"など、物理学と天文学のコアジャーナルに掲載された論文が占めていることがわかった。 3) 高エネルギー物理学4領域では多くの論文が雑誌掲載年以前に登録されているが、登録時点で既に掲載済みである学術論文一般へのアクセス提供を目的としたものも一部の主題領域で見られるようになっている。 以上から、現在arXivは学術雑誌論文のプレプリントサーバと学術論文一般の電子アーカイブという二つの機能を同時に果たしていると考えられる。
著者
酒井 由紀子
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.65, pp.1-35, 2011

原著論文【目的】本研究の目的は, 健康医学情報を伝える日本語テキストのリーダビリティの改善と評価の一連の手続きにおいて, 包括的な改善方法と評価方法を記述的に確認し, 今後の研究課題を明らかにすることにある。【方法】医師が執筆した, 慢性化膿性中耳炎の一般市民向けの日本語説明テキスト1件を取り上げ, 改善と評価の実験を行った。最初に, リーダビリティに影響するとされる構文, 語彙, テキスト構造のすべての要素について, 方法を変えて改善したテキストを2種類用意し, オリジナルテキストと合わせテキスト分析を行った。次に, 大学生91名にこれら3種類のテキストのいずれかを割り当て, Webテストを行った。テストでは, 読みやすさの指標としてテキストを読む所要時間を計測した。内容理解のしやすさの指標として, 選択肢問題の回答と, 「読みにくい点・わかりにくい点」の具体的な指摘を求めた。【結果】構文的要素を改善し, 語彙的改善として医学・医療用語に解説をかっこで補記し, テキスト構造を簡易な方法で改善したテキストAは, 内容理解テストの平均スコアはオリジナルテキストより高かったが, 読みの所要時間は長かった。構文的要素を改善し, 医学・医療用語を一般的な用語や表現に置き換え, テキスト構造を入念に改善したテキストBは, 読みの所要時間は短縮されたが, 内容理解テストの平均スコアはオリジナルテキストと変わらなかった。また, 本人に罹患経験があると所要時間が有意に短かった。これらの結果から, 1)構文的改善は読みやすい印象を与えるが, 他の要素の改善と対立が生じることがある, 2)医学・医療用語の改善は自然な置き換えや文中での説明の補足が望ましい, 3)テキスト構造は, 今回の改善・評価方法では問題が多くその効果は明らかではない, 4)読み手としての人の特性を考慮した評価が必要である, 5)内容理解を正確に測定する選択肢問題の作成に課題があることが確認された。
著者
石山 夕記
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.64, pp.81-107, 2010

原著論文【目的】2004年に実施された「書誌ユーティリティ課題検討プロジェクト」の調査結果や報告を踏まえ, プロジェクト後のNACSIS-ILLの実態を調査することにより, 参加館における「謝絶」の状況とその理由を解明することを目的とする。【方法】一橋大学附属図書館における2004年度~2008年度のILLレコードを用いた謝絶理由の分析調査, 2004年度~2007年度の各館ごとの謝絶率と, 『日本の図書館』から得られる環境要因となる数値の分析調査, 『大学図書館間相互利用マニュアル』に記載された手順の実施度に対するILL担当者への質問紙調査という, 3つの調査を行った。【結果】1)現物貸借の最大の謝絶理由は研究室所在であるが, 文献複写では多様な理由から謝絶されていること, 2)謝絶の9割が所蔵館の事情による現物貸借と比べて, 文献複写では依頼館の事情による謝絶が5~6割を占め, 文献複写においてよりモラルの低下が進んでいること, 3)謝絶率に影響を及ぼしている環境要因は, 貸借における所蔵資料の量と, 職員数であること, 4)謝絶率の上位館と下位館で, 『大学図書館間相互利用マニュアル』に掲載された手順の実施度に大きな差が出る項目があり, これらの項目を確実に実施することが謝絶率の低下に繋がること, 5)近年の資料形態の多様化・複雑化により, 依頼館が依頼する前に確認する項目や範囲が拡大したこと, またそのことが心理的な職員数不足により一層の拍車をかけていることが明らかになった。
著者
長谷川 豊祐
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.62, pp.1-27, 2009
被引用文献数
2

原著論文【目的】日本の大学図書館における業務電算化システムの導入が1994 年に8 割を超え,2002 年には99%の大学図書館が「電算化図書館」となった。現在は,インターネットや電子資料を活用した利用者志向の図書館サービスが多くの大学図書館で提供されるようになり,大学図書館は程度の差こそあれ「電子図書館」となった。本研究は,利用者志向の図書館サービスの展開を支える基盤となっている発注・支払,受入,目録,貸出・返却などの業務電算化の課題構造を図書館員の立場から解明する。【方法】2 グループ各6 名の大学図書館員を出席者としたフォーカス・グループ・インタビューを実施した。インタビューでは,図書館業務電算化に関する印象,図書館業務電算化が図書館に及ぼした影響,および図書館業務電算化の今後の方向など,探索的課題について話し合ってもらった。インタビューによって収集した発言内容を因果対立関係に着目して分析した。【成果】電算化の課題を10 個にカテゴリー化し,課題の構造を概念図として導いた。電算化における効果と課題として,1) 省力化と機能向上,2) 図書館の力量低下,3) 未完成なパッケージ,の3 点が明らかになった。
著者
岡田 将彦 安形 麻理 小島 浩之
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.64, pp.33-53, 2010

原著論文【目的】図書館における資料保存では, 紙の長期保存が端緒となってさまざまな取り組みがなされてきた。近年, 製本形態も扱った図書の状態調査が始まったが, 無線綴じや接着剤の状態に焦点を当てた調査はほとんどない。しかし, 戦略的な資料保存のためには状態調査が不可欠である。本研究では, 現代の図書の主流である無線綴じの状態を把握するため, (1)専門書を中心に所蔵する大学図書館における無線綴じ図書の割合を明らかにする, (2)損傷状況を明らかにする, (3)損傷の原因を検討する, の3点を目的に調査を行った。【方法】調査票は, 国立国会図書館による状態調査の調査票を基に, 無線綴じに特化した項目を追加して作成した。調査対象は, 大規模開架図書館である慶應義塾大学三田メディアセンターの蔵書のうち, 1962年以降に受入した図書とした。1960年代から2000年代までの10年ごとの資料群から, ドロットのランダムサンプリング法を用いて, 和書(日本語・中国語・朝鮮語)・洋書400点ずつ, 合計4, 000点を抽出した。6名の調査者が, 調査票にしたがい, 標本を調査した。【結果】調査の結果からは, 和書・洋書ともに, ソフトカバー・ハードカバーにかかわらず無線綴じの割合が一貫して増加していること, 洋書の方が無線綴じの採用時期は早かったが, その後の増加率は緩やかであること, 現在では和書の方が無線綴じの割合が高く, 2000年代には全体の75.3%(ソフトカバーでは94.8%)に達すること, などが明らかになった。無線綴じに特徴的な損傷である背割れの割合は和書の方が高かったが, 和書・洋書ともに出版後間もない2000年代の図書でも生じているという全体的な傾向は共通していた。分析の結果, 貸出回数が背割れの大きな要因であることが明らかとなった。