著者
梁 興明
出版者
佐賀大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

衛星観測データを用いた海洋エネルギー及び海洋環境情報の抽出には、大気中の空気分子、エアロゾル、水蒸気及びオゾン等の散乱、吸収で、大きい影響を与える。大気の影響を考慮するのは必要である。そのため、地上観測により、大気のエアロゾルの光学特性、水蒸気及び気温の鉛直分布、オゾンの鉛直分布を推定するのは大変重要である。本研究では、スカイラジオメータ(POM-01)及び偏光分光放射計(PSR1000)における太陽の直達、散乱及びオーリオールの観測データを用いたエアロゾルの粒径分布及び複素屈折率の同時推定(Arai-Ryoモデル)を提案した。また、地上観測における、Arai-Ryoモデルにより、有明海の近傍、佐賀地域のエアロゾルの光学特性(光学的厚さ、位相関数、単散乱アルベト、)及び微物理特性(粒径分布及び複素屈折率)の日変化及び季節の変化を検討した。その結果、朝及び夕方のエアロゾルの光学的厚さ、密度、単散乱アルベト、非対称性はお昼より大きいことが分かった。エアロゾルの粒径分布及び光学的厚さの変化には、お昼より、朝及び夕方に大きいことも分かった。また、秋及び冬より、夏のエアロゾルの光学特性及び微物理特性の変化は大きいことがわかった。一方、赤外、マイクロ波長域における衛星サウンダーデータを用いた、非線形最適化手法により、水蒸気及び気温の鉛直分布同時推定のモデルの構築も行った。メキシコ湾のAIRSデータを用いた気温及び水蒸気鉛直分布を推定した結果、及びMODTRAN4.0により求めたシミュレーションデータを比べによると、両モデルにより計算した気温及び水蒸気鉛直分布の傾向が一致したことがわかった。今後、そのモデルを用いて、有明海の周辺、佐賀地域の水蒸気及び気温の鉛直分布の同時推定を行うと考える。
著者
三原 信一
出版者
佐賀大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

(1)CAI教材導入前の学習過程の分析:被験者を大学生とした中学校技術・家庭科の教科書を参考にした内燃機関の分解組立学習を行い、作業分析を行った。この結果をもとに、まず、簡易型燃焼実験装置の製作、ビデオによる気化器の学習教材の製作を行った。簡易型燃焼実験装置についてはその結果を産業技術教育学会全国大会に報告した。さらにこれらの教材開発をもとに、CAIの導入効果が得られる内容を検討し、その第一段階として内燃機関の機構学習につながるリンク装置のCAI教材を開発することにした。(2)CAI教材の作成技法の開発:開発の理念として、単にリンク装置の動きを理解するという基本的な学習としての、一方向的な内容にするのではなく、基本的な学習内容をさらに応用化する能力を養うために自主的に教材に参加できる双方向的な内容にすることとした。具体的には、生徒にリンクの動く範囲をマウスを用いて入力させると、その動きを満足するリンク装置がディスプレイに動画表示され、ついで、このリンク装置の各リンクにマウスを用いて絵を重ねさせると、これらの絵がリンクの動きに従ってシミュレーション表示されるソフトになる。この内容は、産業技術教育学会情報部会において報告した。この中で用いた動画技法は、非常に簡便にかつ容易に複雑な絵(モジュール)を任意の関数で動画出来るものであり、リンク機構の学習以外の教材に広く応用できるので、今後開発を続行していきたい。(3)授業実践:2項で述べた開発ソフトを用いて初任者教師による授業実践を行い、開発教材の検討を行った。個性的で創造性の高い学習結果が得られ、CAI教材が学習効果の質を高めるのに非常に有効であることが明らかになった。この結果は来年度の産業技術教育学会で報告する。
著者
石橋 孝治
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

平成9年度はプロトタイプ型の簡易岩盤三軸圧縮試験装置(直径10cmの試験片対応)を製作し,原位置での適用を前提とした中規模の室内モデル実験を実施した。根付き試験片部は低強度セメントモルタル(一軸圧縮強度15.4MPa)を,周辺岩盤部はコンクリート(呼び強度24MPa)を用いてモデル岩塊を作製した。根付き試験片が最も単純な1不連続面(円柱軸から60度傾斜)を内在する場合も取り扱った。平成10年度は圧力変換器と油圧ジャッキを装備して,佐賀県多久市の砕石工場内(玄武岩が主体)での原位置岩盤に対する適用実験を行った。軸値からの反力は鉱山重機(自重80トン)にとった。周圧,軸力および変位はデータロガーを介してパソコンに取り込む計測システムを構築しこれを採用した。2年間に渡る一連の実験から明らかとなった事柄を以下に列挙する。1.作成したプロトタイプ型の簡易岩盤三軸圧縮試験装置が計画どおりの機能を有していることを確認した。2.本試験は強度定数を5%程度過小評価する傾向がある。実験の範囲内では強度定数に関して寸法効果は確認されなかった。3.不連続面を内在する試験片の強度は不連続面自身の強度定数の影響を著しく受ける。4.原位置試験から実験手順と計測システムに問題の無いことが確認された。しかしながら,水溶性コーキング材のシール効果は低くシール材の改善が指摘された。重機重量不足のため1本の試験片のみの破壊となった。指摘された問題を解消し,原位置試験の実施実績を重ねることで本試験法の試験技術を確立したい。
著者
宮脇 博巳
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

佐賀市内のオニバスを佐賀大学噴水池に移植栽培し2003年度に549個,2005年度に200個の種子を採集した.これらの種子使って実験室で種種の条件で栽培した.以下にその研究の概要を箇条書きにする.1,野外観察により富栄養な水質と底土があり,年間を通して流れが緩やかで,水位が安定している場所を好んでオニバスが生育していることが判明した.2.農薬,河川の清掃などによってオニバスは,絶滅の危機へと追い込んでいると思われた.3.オニバスの移植栽培は適した水質と底土さえあれば比較的簡単に行え,種子も採集することが判明した.4.オニバスの発芽は低温処理と珠孔の蓋の除去を行い,水温を20〜26℃に保てば,発芽率を約10%に上げることができた.
著者
塚本 明廣
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1 ピラミッド・テキスト全文を、ゼーテ底本およびフォークナー補遺に基づき、聖刻文字手書本文から、一定の書式に従ってローマ字化翻字本文に書換え、言語学的情報を付加して入力した。2 この翻字法は、文字の転移・簡略表記・同一語の多様な表記・語境界を跨ぐ音声連続の1文字表記・碑文の欠損・欠落が多いピラミッド・テキストに対応して、筆者の従来の翻字法を改良して、有効性を検証したものである。同時に、入力作業の一層の軽減を図った。3 言語学的情報を付加して入力した単一のファイルから、転写本文・復元箇所明示転写本文、狭義の翻字本文、語形総索引を、指定に従って自動的に出力する方式を確立した。出力本文は、ゼーテの底本同様、行毎の異文校合が可能である。4 本データベースに統語情報を付加し、文構造を表示することに拡張できるかを否かを探った。統語情報をかなり絞り込めば、この書式のままで利用できる。一方、相当に議論の多い文法解釈をデータベースに盛り込むことが躊躇されたため、統語分析用の書式例および付随ファイル類を提供するに止める。5 プログラム(バッチ・ファイルとスクリプト)類のモジュール化(部品化)を図り、一部のプログラムの変更が、関連する一連のプログラム類に自動的に反映できるようにした。これにより、一部修正のたびに他の関連プログラムを逐一照合しながら書換える無駄が解消された。6 王毎に出現節が異なるピラミッド・テキストの出入りを自動表示するプログラムを作成した。7 これらの成果の一部は、ピラミッド・テキスト・データベースとして、ウェブ上に公開された。
著者
中島 幹夫
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的はビブリオ・バルニフィカス(以下Vibrio vulnificus)に対する迅速な診断法を確立し、本症の救命率を向上させることにある。平成20年度にV.vulnificus感染を疑った5症例に対し患者家族から同意を得て、患者背景、臨床症状、既往歴等の情報収集を行うとともに、提供を受けた創部の滲出液や血液検体について簡易迅速培養検査および遺伝子増幅検査を行った。その結果、5例中2例において遺伝子増幅検査(LAMP法)では検査開始から約5時間、2種類の培地による簡易迅速培養検査では約1日で患者収容医療機関に情報提供を行うことができた。また、この結果は、検査開始から2日後に得られた従来の培養結果と一致した。残念ながら、本感染症の確定診断に至った2症例ともに医療機関受信時すでにショック状態を呈していたため、早期診断結果も救命には繋がらなかった。感染モデル作製報告はないため、経口感染による実験動物モデルの作製に着手した。今回は肝機能が正常なマウスを用いて感染実験を実施したが、今後の臨床的研究推進のためには肝障害マウスの作製が必要となる。従って現在下記手順に則り肝障害マウスの作製と感染実験を計画中である。
著者
井上 正允 西 晃央 藤田 景子
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

中学入学後に急増する「数学嫌い」。この原因は、学習量の増加や学習内容が難しくなったことだけでは説明ができない。本研究では酒井朗等の「学校適応」研究が指摘した「中1から中2にかけて起こる『学校不適応』」に着目し、公立の小中一貫校と附属の小学校・中学校の小中連携研究にコミットし、算数・数学における「中1ギャップ」の表れ方について分析を試みた。数学の授業でも中1から中2にかけて「考えようとしない」「正解が出ればそれでいい」「結果がよければそれでいい」とする生徒が増えることをつきとめた。この背景には中学校の数学の授業があり、中学校の授業改革が求められる。
著者
日野 剛徳 田口 岳志
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

北部九州に位置する有明海沿岸低平地域の表層には、海成の有明粘土層と非海成層の蓮池層からなる軟弱粘土層が厚く堆積している。これらの軟弱粘土層の上では、諫早湾干拓や有明海沿岸道路のビッグプロジェクトを始めとする種々の建設現場が存在し、化学的地盤改良技術の採用、あるいは検討がなされている。化学的地盤改良技術は決して新しいものではないが、その社会問題化が後を絶えない。この課題を解決するために、本研究では : (1)化学的改良土における物質循環の解明 ; (2)物質循環が認められる場合の具体的な課題の解明 ; (3)この結果が化学的改良土の品質や周辺環境に及ぼす影響の解明、に取り組み、(4)対策の提案を行うことにより、地域・社会貢献を果たそうとするものである。有明海沿岸域に堆積する採取直後の粘土、浮泥および底泥に生石灰(以後CaO と呼ぶ), 酸化マグネシウム(MgO)および高炉セメントB種(BB)を添加した化学的改良土の改良特性および溶出・固定特性に関する検討を行い、次の結果を得た : 1)通常のタンクリーチング試験におけるpHと浸水日数の関係から、CaOではほぼ12以上のpHを示し、BB、MgOの順でpHの値は小さくなり、どの固化材においても浸水日数の経過に伴うpHの変化は認められなかった ; 2)他方、エアレーションを与え好気性環境を再現した場合のタンクリーチング試験のpHと浸水日数の関係では、生石灰150, 250kg/m^3のものは浸水当初に高いpHを示したものの、28日間の浸水期間中に全ての改良パターンで改良前の値まで減少した ; 3)硫酸水溶液を用いたタンクリーチング試験では化学的改良土の劣化速度が進み、主成分の溶出特性に違いが認められた ; 4)タンクリーチング試験と実環境との間の具体的な対比および地表・地下における化学的改良土の環境影響・変遷の考え方について新たな視点・対策案を見出せた。
著者
野瀬 昭博
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

イネ紋枯病抵抗性は、解糖系の炭素分配クロスロードと名付けた、解糖系からのスクロース合成・澱粉合成・フェニルプロパノイド代謝への分岐部の炭素分配制御によってもたらされていることが明らかとなり、今後この部分における制御特性についての解明が代謝工学的な紋枯病抵抗性の実現に向けたターゲットであることが示唆された。また、現有するイネ紋枯病抵抗性を交配育種的に活用する2種類のQTLが同定され、抵抗性イネ育種に大きな可能性があることも明らかとなった。さらに、現有する抵抗性系統に多収性をもたらす遺伝子の連鎖が示唆され、紋枯病抵抗性と多収性の両立も可能である。
著者
柿原 正幸
出版者
佐賀大学
雑誌
佐賀医科大学一般教育紀要 (ISSN:02880865)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.63-70, 1987-12

「覚書」の中でハイネは,ゲーテ観の違いをもとに,「感覚主義的ヘレネ人」である自分を,「精神主義的ナザレ人」であるベルネと対比して二人の資質の違いを強調している。しかしこの二元的対立は,ハイネの言葉通りに受け取るわけにはいかない。ハイネがゲーテを受入れてきた過程を見ると,決して肯定的評価一辺倒ではない。政治的現象に冷淡なゲーテに対する反発と,その作品の芸術性に対する高い評価が同時にあったと思われる。「覚書」で自分のゲーテ観の否定的な面を,ベルネという対立を用いて自分の内面の矛盾を語っている。「覚書」を歴史として批判的に読むには,ハイネが用いているこうした仮構性を考慮に入れておかねばならない。