著者
井原 哲人
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.37, pp.1-18, 2009-03
被引用文献数
1

障害者自立支援法の施行3年後を目途とした障害児施策の見直しを目的として,厚生労働省社会・援護局障害保健部長の下に「障害児支援の見直しに関する検討会」が設置された。しかし,2008年7月22日に発表された「障害児支援の見直しに関する検討会報告書」には,社会権を形骸化させる利用契約制度が盛り込まれる等,日本も批准している子どもの権利条約に背馳する内容を含んでいる。小論では,同権利条約における発達への権利及び、「療育の権利」の位置づけを検討することによって,今後の議論の方向性を提示する。本論ではまず,療育概念を検討し,同権利条約制定以前から,実践の中から発達への権利が提唱されていたことを確認し,その性質を明らかにした。次に,発達への権利及び「療育の権利」の性質を,子ども観の変遷に基づいて検討した。それは自由権と社会権が統合されたものであり,発達への機会を実質的に保障する権利であると述ベた。子どもの権利条約療育子ども観発達への権利療育の権利
著者
清田 政秋
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.46, pp.37-54, 2018-03-01

本論文は本居宣長と悉曇学との関連を考察する。宣長は『古事記』の基は稗田阿礼の誦習の声であるとして音声を重視する。言語は音声であるとする言語観を江戸期音韻論の議論から獲得した宣長は、音声の持つ特質に注目した。音声の問題を考察して来たのは仏教、特に密教と不可分の悉曇学である。宣長は契沖と安然の悉曇学から音声の力、音楽性、真言を学んだ。真言という思想は、語り伝えは上代の実だとする『古事記伝』の考え方に繫がった。更に仏教は心と世界と言葉は相応するという。宣長はこれを契沖を介して学び「意と事と言とは皆相称へる物」という『古事記伝』の基礎にある重要な言語観を確立した。宣長契沖安然悉曇学心と世界と言葉の相応
著者
出口 博久
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.37-54, 2016-03-01

平成12年に介護保険制度がスタートし、介護老人福祉施設は身体拘束が全面禁止となったが、一定の条件を満たし家族等の同意を得た場合は、「緊急やむを得ない場合」の身体拘束として認められている。「緊急やむを得ない場合」の身体拘束であっても、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援に関する法律」の中に示された虐待に関する5つの定義の1つであり、身体的虐待である。そこで、「緊急やむを得ない場合」の身体拘束の実態調査はもとより、無くす為に必要な項目として抽出した「職員の意識」「研修・知識・介護技術」「施設組織・体制、連携」「利用者の理解」「家族の理解・協力」の5つの項目が、「緊急やむを得ない場合」の身体拘束を無くすことに成功した施設の取り組み実績と比較検証し、身体拘束をしない介護を重視した「質の高いサービス」を提供する為の組織や体制の整備に必要なことについての手がかりを得ることができた。高齢者施設身体拘束虐待施設介護質の高いサービス
著者
田阪 仁
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 = The Bukkyo University Graduate School review. 佛教大学学術委員会, 文学部編集委員会 編 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.42, pp.119-136, 2014-03

伊勢斎宮は伊勢神宮祭祀のために都から発遣された斎内親王の居住施設とその運営に当たる役所があった所である。本稿はそれがなぜ皇大神宮(内宮)から遠く離れた神郡の西端に置かれたのかを考察する。それには、(1)水害の心配なく最も安定した土地、(2)恒例の禊に至便な河川に近い事、(3)官道に接し、かつ外港が発達して、人と物資の移動・運搬に適した水陸交通の要衝であることが不可欠の条件であった。この三条件を満たすのは宮川左岸と多気川右岸に当たる洪積台地の縁辺部しかない。それが後者に置かれた理由は、多気川流域には遅くとも六世紀以来の王権による土地開発があり、すでに天武の即位段階には八〇町もの土地を高市大寺(後の大官大寺・大安寺)へ施入し得るだけの政治経済的基盤がそこにあったからである。そしてそれは、斎宮跡の発掘調査においてこれまでに検出された官衙的遺構がすべて七世紀後半を上限としている事実と見事に符合しあうものである。斎宮的形(円形)天武胸形(宗像)氏金銅装頭椎大刀
著者
小林 美津江
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.19-35, 2017-03-01

本研究は,障害者の「知る権利」について,世界の主な差別禁止法と障害者権利条約の内容を検討し法理を明らかにすることを目指す。その理由は,知的障害者,自閉スペクトラム症,高齢者,外国人等一般の情報提供では理解できない人達の「知る権利」が充足されていないとの問題意識を持っているためである。「知る権利」は,憲法第21条の表現の自由から派生する権利だが,それだけでなく憲法第13条幸福追求権や第25条生存権など基本的人権と関わりを持つ重要な権利であると考えるからである。アメリカ公民権法の法理はADA法に適用され,その後,障害者権利条約に反映されている。「合理的配慮」は,直接差別禁止,間接差別禁止を目的としており,イギリスMCA法は自律支援の観点から重度障害者,認知症高齢者等に意思決定能力があるとしている。人としての「知る権利」の保障はどうあるべきで,社会の中でどう根ざすか課題である。知る権利公民権非差別平等合理的配慮障害者権利条約
著者
田阪 仁
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.53-69, 2016-03-01

『日本書紀』等の諸書に見えるわが国の「斎宮」は複数の訓義をもつ汎用語である。中国の「斎宮」は皇帝祭祀や民間の水神祭祀に登場するも一貫して施設名である。日本へ受容される以前の中国古代の民間信仰にみる「斎宮」を検討し、かつそこにわが国とも類似した文化的要素を抽出すると共に、その伝承される故事の部分的な虚構性についても指摘する。斎宮いもゐ(ひ)屋人身犠牲西門豹河伯
著者
伊佐 迪子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 = The Bukkyo University Graduate School review. 佛教大学学術委員会, 文学部編集委員会 編 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.41, pp.71-88, 2013-03

本稿では二条院讃岐の四十二歳から四十四歳までの実人生を検証した。平家の都落ちは平家滅亡へと進展し、雅な平安貴族社会から関東武士社会へと世相は大きく変化した。この激変の時代の中で兼実長男良通は大納言に、次男良經は三位の中将へと昇進した兼 。実は二人に平安貴族文化の継承を託し、寿永二年は年間十一回、寿永三年にも年間十一回、元暦元年は年間二十一回の勉強会を設け、主に漢詩の勉強をさせている。催馬楽、名律例、笛、左伝などをも併せて修習させているが、俊成との間で和歌の交流と発展は見えていない。兼実は脚力がなく体調不良に悩み続ける日々である。自分の傍に居る讃岐に頼り切っており、本妻讃岐は兼実と同居である。本稿の検証結果は讃岐研究にとって大きな成果である良通良經平家滅亡貴族文化本妻讃岐
著者
金子 秋斗
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.46, pp.91-107, 2018-03-01

本稿では、院政期・鎌倉初期の摂関である九条兼実と、その弟である慈円に共通して見られる院近臣批判について、特に兼実による近臣批判の変容と、それが慈円の『愚管抄』の政治理念へと展開していく事実に着目し、当該期の摂関家の現状との関連で如何なるものとして位置づけられるかを検討する。兼実の立場の変化に伴う院近臣批判の変容は、批判が単なる不満から、内乱期以降、近臣の言動を天下の乱れの原因として認識する姿勢となって表れるようになる。この認識は兼実の実践と失脚を経て弟である慈円の『愚管抄』において、世を直すための重要な政治理念として表れることとなる。九条家を取り巻く社会的・政治的現実が変化しているにも関わらず、慈円が兼実と同様に近臣を敵視し、乱れた世を直すための重要な鍵とみなしたことは、兼実亡き後、九条家の補佐の臣としての正統性の面で近臣の存在が重大な問題であると認識されていたことを意味する。九条兼実『玉葉』慈円『愚管抄』院近臣
著者
高橋 良江
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 = The Bukkyo University Graduate School review. 佛教大学学術委員会, 文学部編集委員会 編 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.42, pp.63-74, 2014-03

1905年から1906年にかけて、当時の中国人留日学生の数は8,000人を超えた。その受け入れの中心となった宏文学院が最も力を入れたのは速成師範科であり、1906年までの4年間で学生数は3,000人に達したという。このような状況の中で学院の財政は圧迫され、教職員の質の低下が顕在化し、その結果、学生達から不満の声が学院長嘉納治五郎に続々と寄せられた。この要求に応えて、日本語担当の教授陣は分かりやすい体系的文法の教科書作りを模索した。短期間に日本語を最も効果的に教える文法教科書の必要性であった。そして1906年8月、宏文学院編纂『日本語教科書』全3巻が刊行された。そこでの改良点は日本語の中で最も複雑で学習上困難な助詞、助動詞の用法を明らかにすること、中国人留日学生にとって特に難しい副詞、接頭語、接尾語の用例を多く示すようにしたことなどであった。その編纂の中心になったのが三矢重松、松下大三郎、松本亀次郎で、後に国文法の大家や中国人留日学生教育の第一人者となった人たちである。本稿ではこれらを明らかにすることにある。速成教育日本語教科書編纂松本亀次郎三矢重松松下大三郎
著者
水谷 憲二
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.40, pp.19-36, 2012-03

地方の戦国史研究では、比較的古い時期に編纂された地方自治体史の多くが、近世に著された軍記・地誌の信憑性について懐疑なく、無差別に引用されている。しかし、地方自治体史のように、狭域的な歴史を編纂しなければならない場合、一次史料によって確認できない事象に直面すれば、同軍記・地誌の影響を完全に払拭できないジレンマがある。本稿は、一次史料が不足する地域の戦国史研究に活路を見いだすため、三重県の桑名市域に着目し、同軍記・地誌の豊富な情報量の活用を試みた。第1章では、比較的高い信憑性が評価されている太田牛一著の『信長公記』より、伊勢長島一向一揆の記事を再検証し、その有効性を実証した。第2章では、前章の結果をもとに、同書が記す天正元年の織田信長出陣において、一向一揆に加担して信長に抵抗したと言われる小領主層に着目し、それらに関する情報を、同軍記・地誌で確認した(第3章は次年度に続く)。伊勢長島一向一揆北勢四十八家信長公記軍記地誌
著者
上田 純子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.49, pp.19-36, 2021-03-01

医療技術が進歩し,障害の重い子どもたちも就学するようになってきた。彼らを支える養育者の支援という視点からの研究は見られるようになった。しかし本人が直面している課題に焦点をあてた研究は,該当する子どもの数の相対的な少なさや本人による明確な意思表示の難しさ,生命の脆弱さなどの背景から,まだ少ない。そこで本稿では,学童期にある重度障害児本人及び家族が直面している課題の実態を,本人にとって生活の中心的な部分を占める学校生活を軸としながら,ある母へのインタビューをもとに明らかにすることを試みた。登校したい,家族と離れて過ごしたい,放課後は友だちと過ごしたい。そんな思いを実現すること,それを支えることがなぜ困難なのか。不平等及び多様性という観点を糸口として,彼らが直面している様々な課題に対する考察を試みた。超重症児家族不平等多様性
著者
Andassova Maral
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.38, pp.43-58, 2010-03-01

国譲り神話の末尾における「天の御饗」の記述をとりあげる。「天の御饗」を献る対象は天つ神であるのかオホクニヌシであるのかということは国譲り神話と古事記におけるオホクニヌシの性格に深く関わっている。この論文において「シャーマニズム」の視点からの「天の御饗」の考察を通して、古事記におけるオホクニヌシの位置づけを試みたい。オホクニヌシ国譲り文体一体化「天の御饗」
著者
田中 勝裕
出版者
佛教大学大学院
雑誌
仏教大学大学院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
no.33, pp.17-32, 2005-03

陰陽道で行われた反閇という作法の実態を知るための史料として、『小反閇并護身法』というものがある。この文献が発見されてから、小坂眞二氏をはじめ、陰陽道の反閇に関しての研究は進んだが、未だ不明な点はいくつか残されている。本稿ではそれらのうち、特に「天鼓」と「玉女」について考察したものである。反閇とは中国の「玉女反閉局法」を典拠にしたとされる陰陽道の作法であり、「天鼓」とはその中で行なわれるものであり、「玉女」とは作法中に現われる神格のことである。「天鼓」は今までその実態が言及されていない作法であり、また「玉女」については諸説あるものの、実態のはっきりとしない神格である。本稿はそれらについて分析したものである。反閉局法反閇天鼓玉女
著者
田中 勝裕
出版者
佛教大学大学院
雑誌
仏教大学大学院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
no.35, pp.29-43, 2007-03

陰陽道で行われた反閇に関する史料として『小反閇并護身法』という史料がある。そのうちの次第の一つである地戸呪の項には、用途によって呪の内容を変更するという記述がある。本稿ではそれらの用途に反閇が用いられる時、そこにどのような機能が期待されたのかを探る。具体的には典拠である反閉局法と小反閇作法の次第の比較や呪の解読(特に地戸呪に関する箇所)を行い、それらが何を目的にしているのかを明らかにすることで、反閇という作法の性格を探る。その上で、反閇の性格と、それが用いられた状況にどのような関係があるかについて考察する。なお、反閇に関してはいくつか表記があるが、論題など特別な場合を除いて、典拠とされる中国のものは「反閉局法」、陰陽道で用いられた場合は「反閇」に統一した。反閉局法反閇天門呪地戸呪
著者
二橋 依里子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.45, pp.119-134, 2017-03-01

和歌山藩では慶応二年から明治四年にかけて西洋式軍隊導入を目標とした兵制改革が行われた。特に明治二〜四年には、ドイツからお雇い外国人を複数人雇用し、実際に徴兵制が施行されるなど他藩が行った兵制改革と比べると特異性が目立つ。軍隊はプロイセン式に統一され、弾丸や軍服の製造が行われていた。このような和歌山藩の兵制改革は、後の明治陸軍に影響を与えたとされる。本稿では、特に最初のお雇い外国人カール・ケッペン(CarlJosephWilhelmKoppen一八三三〜一九〇七)と、和歌山藩において施行された徴兵制を中心に考察する。その中でも当事者や目撃者である、ケッペンの日記やドイツのヘルタ号乗員の見聞録、村方の記録などを用い、和歌山藩の兵制改革の実態を考察する。和歌山藩兵制改革徴兵制カール・ケッペン
著者
北野 元生
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 = The Bukkyo University Graduate School review. 佛教大学学術委員会, 文学部編集委員会 編 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.42, pp.169-185, 2014-03

俳人であり歯科医療に携わった歯科医師であった西東三鬼が診療人とくに歯科診療人として詠んだ「診療俳句」を取りあげ、その文学性及び現代性について論考した。三鬼の俳句については、平易な用語を使用しており、その内容も明快であり、一般人にとっても理解しやすいと言えよう。彼の俳句は彼の人柄や彼の来し方を反映して貧しい人や孤児に対して情感を寄せている作品が多い。患者個々人に向けた診療行為を詠んだ俳句作品は極めて小さなものに過ぎないとはいえ、その作品が内在する本来的な人道思想や博愛思想に通ずる救済観と生命観がその句の中で沈静するものでは決してないことを明らかにした。さらに本論文では、「診療俳句」という分野が俳句の一分野であることを指摘した。「診療俳句」の輪郭をつけることの意義は決して小さいものではない。西東三鬼歯科医療診療俳句新興俳句山口誓子
著者
浅子 里絵
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.49, pp.73-88, 2021-03-31

本研究は大正14(1925)年に発生した北但馬震災について、「田結村文書」から兵庫県港村田結の震災被害の状況と救護活動を読み解いたものである。震災は震源地に近い田結の住家を倒潰させ、甚大な被害をもたらした。田結では震災直後に全戸におよぶ被害調査を実施し、詳細な記録を残している。その調査をもとにして罹災民への支援品や御救恤金・義捐金の分配といった救護活動が行われたとみられる。「田結村文書」の記録からは田結の集落の規模に合わせた震災対応の手法がみえてくる。またこの文書の存在により、こうしたミクロ単位での調査が同時代の災害において他の町村でも行われていた可能性が示唆される。ミクロ単位の調査を基として地域全体の被害状況を把握したと考えられよう。北但馬震災田結村文書震災被害救護活動
著者
清田 政秋
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.46, pp.37-54, 2018-03-01

本論文は本居宣長と悉曇学との関連を考察する。宣長は『古事記』の基は稗田阿礼の誦習の声であるとして音声を重視する。言語は音声であるとする言語観を江戸期音韻論の議論から獲得した宣長は、音声の持つ特質に注目した。音声の問題を考察して来たのは仏教、特に密教と不可分の悉曇学である。宣長は契沖と安然の悉曇学から音声の力、音楽性、真言を学んだ。真言という思想は、語り伝えは上代の実だとする『古事記伝』の考え方に繫がった。更に仏教は心と世界と言葉は相応するという。宣長はこれを契沖を介して学び「意と事と言とは皆相称へる物」という『古事記伝』の基礎にある重要な言語観を確立した。宣長契沖安然悉曇学心と世界と言葉の相応
著者
松岡 江里奈
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.49, pp.109-125, 2021-03-01

本稿は,韓国のソウル市で2016 年から制度化している青年手当に焦点を当て,韓国で展開されている若者支援について検討を加えるものである。青年手当は,韓国の青年たちが自ら,その政策を提言し議論するなかで制度化した経緯がある。筆者は,その青年たちによる運動の背景には,韓国の代案教育運動や,市民運動によって生み出された社会的企業,さらには協同組合等の連帯経済を創り出す主体,つまり社会を変革する運動の主体を育ててきた実践があると考える。本稿では,今日の韓国の若者たちが抱えている深刻な生活問題とそれを支える支援制度に焦点を当て,その運動の主体を育てる学びと運動への参加が,主体的な社会参加を保障すると考え,その実践を行うソウル市青年活動支援センターの今後の運動課題を考察する。若者支援自立支援韓国青年手当時間の保障
著者
牧野 芳子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会学研究科篇 = The Bukkyo University Graduate School review. 佛教大学学術委員会, 社会学部編集委員会 編 (ISSN:18834000)
巻号頁・発行日
no.43, pp.17-34, 2015-03

一般に社会では何かしらの排除がみられる。なぜなら,社会が必要とする諸資源には限りがあり,その配分を平等公平に行うことは難しく,結果として配分に関するルールが作られる。しかし,そのルールは他者を排除するためのルールともなり得るからである。一方こうした排他性は共同体内部の連帯意識と結束を強化させもする。事例とした沖縄本島北部の軍用地には,国有・個人所有の土地以外にかつて「字」と呼ばれた地域が共同で維持管理してきた共有地がある。現在それらの土地は登録上「公有地」になっているが,その土地つまり軍用地に支払われる借地料すなわち軍用地料は,かつてその土地を維持管理してきたメンバーにも分収されている。本稿は沖縄本島北部でも南に位置する3 町村内の共有地に関わる資源配分ルールとその地域における住民組織のメンバーシップについて考察を試みたものである。共有地住民自治組織軍用地軍用地料共有財産