著者
奥野 啓子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.42, pp.17-33, 2014-03-01

高齢社会に伴う社会問題を発端として介護の社会化が進んでいる。高齢化による福祉ニーズの多様化に伴い,「量の確保」に加え「質の確保」が新たな課題として取り上げられ,介護の専門性が新たな問題として,問われ出している。本研究の目的は,組織としてとりくんでいるグループ会議と,個人の経験をインタビュー調査をすることで,実践場面におけるケアワーカーの専門性を明らかにすることである。調査は介護老人福祉施設に勤務するケアワーカーを対象に実施した。取材し得られたデータは,KJ 法を用いて統合し,その構造を明らかにした。介護の専門性は「ケアに潜む5 つの罠」「空転する思い」といった2 つの〈不全〉に流されることなく,価値に根拠をおき,そこに知識や理論が加わり,総体としての介護過程を実践し,「経験の質」「共有の質」があがり,その結果としてよい評価ややりがいといったケアワーカーにとっての強みと独自性が発揮されることまでを含むことが,本研究によって明らかになった。ケアワーカー専門性実践場面
著者
石坂 誠
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.44, pp.1-18, 2016-03-01

「日本の社会をより良い社会に変革するには、ソーシャルワークが社会運動の一環として、改めてマクロ的な視野を取り戻さない限りは不可能ではないのか?」上記の言葉は、訓覇法子が述べたものである。本研究では、構造的に拡大・深化する貧困に対して、社会福祉、ソーシャルワークがどう対峙するのか、そしてそのあり方について明らかにしていきたいと考えた。研究方法としては、先行研究や統計資料等からの貧困の現況の把握と2013年に筆者が行った反貧困運動団体や脱貧困に取り組むソーシャルワーカーへのインタビュー調査結果から得たストーリーラインの分析、そして貧困者支援のソーシャルワークに関する先行研究の検討等から行なった。そして、訓覇の言う「社会正義や人間性の回復という価値基盤・原点」にたったソーシャルワーク実践のためには、ソーシャル・アクションや社会運動との協働が重要であるという結論に至った。貧困社会正義マクロ的な視野ソーシャル・アクション社会運動
著者
星 優也
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.46, pp.109-125, 2018-03-01

『妙覚心地祭文』は、弘法大師空海作と伝わる祭文で、その書名自体は平安末期の嘉応二年(一一七〇)写とされる初期両部神道書『三角柏伝記』に確認できる。鎌倉期以降、各所に伝本が存在しているが、近世以降に空海仮託の偽書と見なされたことで研究は進まなかった。近年は中世神道研究において注目されており、再評価の機運が高まりつつある。本稿は以上の研究史を踏まえ、『妙覚心地祭文』前半部の祭文について、<本尊>である「尊神」「冥道」(冥衆)、そして祭文の詞章に登場する「陰陽師」、さらに弘法大師作という言説に注目し読解を試みる。初期中世神道書である『三角柏伝記』にその名が見え、平安後期以降に密教や陰陽道の神々として展開される冥道や星宿を<本尊>とし、さらに祭文に「陰陽師」が登場する『妙覚心地祭文』。本稿は、中世神道と中世仏教、中世陰陽道をクロスさせる『妙覚心地祭文』研究序説として位置づけるものである。『妙覚心地祭文』冥道陰陽師弘法大師中世神話
著者
高倉 瑞穂
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.49, pp.13-26, 2021-03-31

現在に伝わる身代わり説話はその対象となる仏菩薩を信仰する多くの人々に影響を与えてきた。その中で病に伏した高僧を憐れみ不動が身代わりとなる「泣不動説話」も諸作品に摂取され、多くの人々が知るものとなる。こうした諸作品それぞれに目を向けると、三井寺周辺で成立したものと巷間で広まったものとでは僧や不動霊験の描かれ方や記述の方法に差異がある。本論は三井寺の〈内〉なる作品と〈外〉なる作品を精査し、高僧の描かれ方に着目することで、三井寺を中心とした在地信仰の発展の可能性を探りつつ、それぞれの系統としての不動縁起が如何にして発展し、後代に伝播していったのかについての一考察を加えるものである。身代わり説話不動霊験三井寺
著者
髙橋 利博
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.48, pp.1-18, 2020-03-01

本研究の目的は,岐阜市の繊維産業と高齢者の貧困を縫製加工業に従事してきた高齢者の実態から分析し,その要因を明らかにすることにある。戦後の岐阜市は,縫製加工業が基幹的産業として発達してきた。しかし,グローバル化や安価な製品の輸入により縫製加工業は衰退の危機にあり,これらの事業所に携わる高齢者の生活は,不安定な収入による貧困を伴う。『国民生活基礎調査』は高齢者の貧困層の広がりを示しており,岐阜市の生活保護世帯と国民保険料滞納世帯も増加している。これらの貧困層に対する社会保障が機能しておらず,逆に高い公的保険料が市民生活の困難性をもたらす。このように産業構造の転換と社会保障の後退が労働者層への貧困の要因を作っているが,求められるのは生活に困っている国民を救う社会保障の充実である。高齢者の貧困産業構造国民健康保険生活保護国家責任
著者
松田 尚子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.48, pp.53-70, 2020-03-01

本研究では,介護現場における人手不足について,その要因と現在展開されている人材確保政策とを対比した上で,人手不足を改善するための方策について検討した。人手不足の根本的な要因は,介護労働の担い手として劣悪な労働条件でも確保し得る人材(女性,若年層,ボランティア等)を充ててきたことと,介護保険法の施行により付加された「営利性」が労働条件のさらなる悪化と介護労働の変容を招いたことにある。ところが,人材確保政策の主軸は「新たな担い手の創出」であり,さらには,介護労働者の労働条件と介護サービスの利便性とが天秤にかけられており,実態に即した対策とは言い難い状況にある。 介護保険制度は国民への介護保障の柱であり,人材確保はそのための手段に過ぎない。このことを踏まえ,まずは,労働環境の改善を図るとともに,それらとサービス利用とを完全に切り離し,「ケア」という一貫した概念を取り入れる必要がある。介護保険制度人手不足人材確保
著者
竹内 正興
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 教育学研究科篇 (ISSN:18833993)
巻号頁・発行日
no.44, pp.19-33, 2016-03-01

本研究は、進学校出身者が非進学校出身者と比べ、大学不本意入学となるリスクが高いことを明らかにし、不本意入学者を出さないための習熟度別クラス編成のあり方を提案することを目的とする。先行研究からの考察、ならびにアンケート調査による検証を試みた結果、進学校出身者は非進学校出身者と比べ、第一志望で大学に入学する割合が低く第二志望以下での入学になると不本意入学となりやすいのに対し、非進学校出身者は第二志望以下でも大学入学への本意度が高いメンタリティを持っていることが示唆された。調査結果と考察より、本稿では、進学校出身者は非進学校出身者と比べた場合、自己選抜機能が働きにくいと考えられる点を踏まえ、進学校でのバンディング型の習熟度別クラスの導入による学業的能力における自己概念の修正機能の強化が、高校での自己の評定を前提とした納得度の高い志望校の選定を促進し、大学進学に際しての不本意感の抑制に寄与できる可能性を指摘した。不本意入学進学校出身大学志望度評定
著者
加澤 昌人
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.48, pp.93-110, 2020-03-01

米沢城本丸の上杉謙信を祀る御堂(みどう)は、藩政期をとおし藩の安泰を祈る場として崇敬された。明治時代になりその祭祀は仏式から神祭へと転換する。そして旧藩士の発願によりすべて民費によって上杉神社が建立される。明治維新後、職を求めるなどして米沢を離れた旧藩士は少なくない。本論では、彼らの新天地におけるこの神社に対する崇敬のかたちを、『米澤有爲會雑誌』の記事を中心にとらえていく。ひとつは屯田兵として北海道厚岸郡太田村に渡った人々による上杉神社の遥拝式と神社の建立、もうひとつは全国各地の米澤有爲會支部が上杉神社の祭典に合わせて行った遥拝式から明らかにしていく。そこには具体的にその崇敬のかたちが表現されている。米沢の上杉神社の建立に関わった後に米沢を離れた彼らが、遠隔の地に神社を建立し、あるいは遥拝した米沢の上杉神社への思いは、単なる望郷の念ではなかった。彼らの先祖代々から精神的な支えとして受け継がれてきた、謙信の義勇と鷹山の民政に対する強い崇敬の念によるものであった。上杉謙信上杉鷹山上杉神社太田村屯田兵米澤有爲會
著者
谷口 潤
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.48, pp.111-126, 2020-03-01

『古事記』・『日本書紀』に見える草薙剣は、従来三種の神器のうちの一つとして、受け継ぐことで王権の正統性を保証する神璽の剣であるとされてきた。しかし神野志隆光によってそうした草薙剣の姿は『記』・『紀』には見られないことが明らにされ、『古語拾遺』がそうした言説を生み出したことが示された。本稿ではこれを受け、『古語拾遺』を編纂した斎部広成の側から『古語拾遺』の草薙剣を読み解き、『古語拾遺』の草薙剣をめぐる言説が、九世紀における天皇即位儀礼とどのように関わっていたのかを見ることで、草薙剣と神璽の剣の同一視が斎部氏の固有の祭祀実践によるものであったことを明らかにする。また、『古語拾遺』の神武天皇即位の場面に登場する殿祭の記述から、そうした斎部氏の実践が九世紀における即位儀礼の変化に対応するものであったことを示す。草薙剣『古語拾遺』斎部氏即位儀礼神璽
著者
山口 希世美
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.48, pp.163-180, 2020-03-01

本論は、院政期天皇の乳母の役割の歴史的変化を論じる。そのためには、乳母が何を目的として任命されたかを明らかにし、任命された時期に注目する必要がある。その視野に立ち、第一章において天皇それぞれの乳母を考察する。その過程で明らかとなった天皇の乳母の定員化・官職化、及び、皇子の乳母から天皇の乳母への分断についてを第二章で論じる。それが顕著に表れる、乳母の交代や践祚後に任命される傾向として、特定の行事がきっかけとなっている。第三章では、乳母典侍が行うことが多い、八十島祭使、賀茂祭女使、即位時の褰帳命婦、立后時の理髪役について検討し、乳母典侍が行うことの意義を論じる。乳母典侍乳父八十島祭平安時代鎌倉時代
著者
星 優也
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.109-125, 2018-03-01

『妙覚心地祭文』は、弘法大師空海作と伝わる祭文で、その書名自体は平安末期の嘉応二年(一一七〇)写とされる初期両部神道書『三角柏伝記』に確認できる。鎌倉期以降、各所に伝本が存在しているが、近世以降に空海仮託の偽書と見なされたことで研究は進まなかった。近年は中世神道研究において注目されており、再評価の機運が高まりつつある。本稿は以上の研究史を踏まえ、『妙覚心地祭文』前半部の祭文について、<本尊>である「尊神」「冥道」(冥衆)、そして祭文の詞章に登場する「陰陽師」、さらに弘法大師作という言説に注目し読解を試みる。初期中世神道書である『三角柏伝記』にその名が見え、平安後期以降に密教や陰陽道の神々として展開される冥道や星宿を<本尊>とし、さらに祭文に「陰陽師」が登場する『妙覚心地祭文』。本稿は、中世神道と中世仏教、中世陰陽道をクロスさせる『妙覚心地祭文』研究序説として位置づけるものである。『妙覚心地祭文』冥道陰陽師弘法大師中世神話

3 0 0 0 IR 牛久助郷一揆

著者
大久保 京子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.167-179, 2016-03-01

文化元(一八〇四)年に牛久宿で起きた牛久助郷一揆については、小室信介編『東洋民権百家伝』の第三秩に掲載されたことで世に出るまで、その地域ですらほとんど知られることがなかった。また掲載された後も、顕彰活動が起こることもなく、研究もいまだ地域的なものにとどまっているのが現状である。本稿は牛久助郷一揆の紹介と、義民として近代以降も活用されていくのに必要な条件について考察する。牛久助郷一揆牛久助郷騒動佐倉宗五郎東洋民権百家伝
著者
プレモセリ・ジョルジョ
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.45, pp.89-100, 2017-03-01

従来の研究では、泰山府君は病気治療や延命長寿から昇進や栄達といった現世利益の神として言われていた。さらに、最新の研究では、泰山府君は陰陽道諸神とともに、仏菩薩の変化・垂下とする顕密仏教の世界観のなかにあり、その秩序に組み込まれる存在として指摘された。しかし、このように描かれた陰陽道では、仏教を補完する信仰として存在しており、独自の世界観を持っていないように捉えられた。本論はこういった問題意識から出発し、『朝野群載』永承五年(一〇五〇)成立の都状と『台記』康治二年(一一四三)成立の都状に焦点を当てながら、泰山府君祭の生成と展開を分析した。その結果、泰山府君は、十世紀末に密教儀礼を取り組んだ上で、はじめて陰陽道神として生成したことがわかった。さらに、陰陽道は密教と競合することで、院政期において独自の世界観を維持しようとしたことを指摘した。その世界観では、泰山府君は顕密仏教の一環を担う存在には解消できない神格であった。陰陽道泰山府君都状台記祭祀泰山府君祭
著者
松田 尚子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.49, pp.127-144, 2021-03-01

本研究では,2007(平成19)年に示された「新人材確保指針」に基づく介護現場における人材確保政策と,A市内の介護保険関係の事業所に対して行なったアンケート調査により把握した人手不足の実態との整合性について検討した。その結果,労働環境改善の必要性や潜在的有資格者の再就業促進など,部分的には整合性が認められる施策が展開されている。しかし,給与水準の引き上げや労働負担を軽減するための施策については再考の余地があり,人手不足の根本的な要因を解決するという点では,現在の人材確保政策が十分であるとは言えない。人手不足の現状への対策を事業所の企業努力に委ねることは,各事業所の経営状況等を鑑みても,もはや限界である。特に,賃金水準の引き上げを含む介護現場の労働環境の改善や有資格者が離職した要因への根本的な解決策については,関係団体等や行政による取り組みの強化が必要である。介護保険制度人手不足人材確保
著者
宮澤 早紀
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.48, pp.145-162, 2020-03-01

本研究では「現在」と向き合い、いまを生きる人々と民俗を記述することが民俗学に必要な視点であるという立場をとっている。これまで「過去」を起点とし、「現在」までの変化を分析する方法を用いてきた。しかし前提となる「過去」を設定し「現在」を分析することで、「現在」を固定化して理解してしまう危険性がある。こうした点を踏まえ、近年の民俗学研究の成果から「照合」という方法を用いた。これは「現在」を起点として「過去」にさかのぼり、いまを生きている人々が持つ「現在」と「過去」とのつながりを発見する方法である。本論文では東京都青ヶ島の巫俗に関わる人々の語りを分析し、人々がいかに「現在」と「過去」のつながりによって生きているのかを明らかにすることを目的としている。分析を通して、巫俗の時代変化による衰退という結論にとどまらない、巫俗に関わる人々の「現在」を支えるものが明らかになった。青ヶ島巫俗現在照合語り
著者
小林 美津江
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.45, pp.19-35, 2017-03-01

本研究は,障害者の「知る権利」について,世界の主な差別禁止法と障害者権利条約の内容を検討し法理を明らかにすることを目指す。その理由は,知的障害者,自閉スペクトラム症,高齢者,外国人等一般の情報提供では理解できない人達の「知る権利」が充足されていないとの問題意識を持っているためである。「知る権利」は,憲法第21条の表現の自由から派生する権利だが,それだけでなく憲法第13条幸福追求権や第25条生存権など基本的人権と関わりを持つ重要な権利であると考えるからである。アメリカ公民権法の法理はADA法に適用され,その後,障害者権利条約に反映されている。「合理的配慮」は,直接差別禁止,間接差別禁止を目的としており,イギリスMCA法は自律支援の観点から重度障害者,認知症高齢者等に意思決定能力があるとしている。人としての「知る権利」の保障はどうあるべきで,社会の中でどう根ざすか課題である。知る権利公民権非差別平等合理的配慮障害者権利条約
著者
青木 京子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
仏教大学大学院紀要 (ISSN:13442422)
巻号頁・発行日
no.29, pp.41-51, 2001-03

「魚服記」の素材は、伝説「甲賀三郎」も重要な役割を果たしている。まず、「魚服記」には〈蛇〉の表記が四回も認められ、滝や渕の主とされる〈水神〉との関わりは深い。この〈水神〉を辿っていくと、大森郁之助氏の指摘による「八郎大明神」が想起され、そこから「甲賀三郎」があぶり出される。この題名から、「三郎と八郎のきこりの兄弟」の〈三郎〉が踏襲されているように思われる。「甲賀三郎窟物語」には、〈諏訪〉という表記が見え、母と夫の伯父の〈不義密通〉が描出される。〈諏訪〉は主人公の呼称〈スワ〉に、〈不義密通〉は、〈スワ〉と父との〈近親相姦〉に踏襲されている可能性は強い。〈スワ〉が滝に飛び込むシーン等は、伝説「龍になった甲賀三郎」に借材しているように思われる。大蛇甲賀三郎諏訪甲賀三郎窟物語龍になった甲賀三郎(伝説)
著者
堀岡 喜美子
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇 (ISSN:18833985)
巻号頁・発行日
no.49, pp.99-115, 2021-03-31

日本の歴史上、神仏や霊との意思伝達者(託宣者)はミコと称されその多くが女性である。柳田國男はその理由を古代からの「女性の特性」にあると説いている(「ミコ女性論」)。しかし、古代からの史料を概観すると、女性が「託宣者」として「特化」するのは摂関期であると推定される。摂関政治隆盛期の公卿藤原実資の日記『小右記』に記された託宣者を検証したところ、その特性は女性による直接言語によるものと判明した。なぜ、摂関期に託宣者が女性に特化されたのか、当時の貴族女性が置かれた状況を社会史、精神医学から検証した。結果、女性の苦難、葛藤からの脱却手段として現れる憑依現象が、託宣者として認識された可能性を導き出した。「ミコ女性論」摂関政治女性の苦悩直接言語託宣者憑依現象
著者
野口 さやか
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.48, pp.35-52, 2020-03-01

エンド・オブ・ライフ[ ターミナル期] に,在宅生活を希望するがん患者は多い。しかし,在宅での看取りは1割程度しかない。重度で死期が間近であるほど,家族の在宅介護の意思がターミナルでは揺らぎがちで,在宅生活を支え切れないとされている。重度要介護者の在宅生活の限界点を上げるために,看護小規模多機能型居宅介護(以下,看多機)は創設された。そのような看多機であれば,病状の変化や医療の内容決定によって生じる本人や家族の意思の揺らぎに対してもケアしやすく,利用者の意思決定支援にも有用ではないかと問いを立て,6事業所でインタビュー調査を行った。その結果,本人や家族の持つ様々な【心の揺れへの配慮】を行い,【"本人の意思を最優先"】にした【主体的な自己選択と自己決定】ができるように寄り添う【小回りのきく看多機】であれば,エンド・オブ・ライフの在宅がん患者の意思決定支援に有効な手段となりうる可能性が示唆された。意思決定支援エンド・オブ・ライフケア看護小規模多機能型居宅介護在宅看取り訪問看護師
出版者
佛教大学大学院
雑誌
佛教大学大学院紀要. 社会福祉学研究科篇 (ISSN:18834019)
巻号頁・発行日
no.48, pp.85-101, 2020-03-01

「自立支援」を打ち出した介護保険制度,そのスローガンであった「介護の社会化」は「介護予防重視」「自助・互助」へと国民に責任を押しつけ,信頼・期待を失いつつある。特に介護予防・日常生活支援総合事業の導入以降は,サービス利用からの強制的終了(卒業の押し付け)事例が起こり,これが介護予防ケアマネジメントの自立支援かのように評価される危機にある。 介護予防ケアマネジメントにおける「高齢者の自立・自立支援」について,居宅ケアマネジャーに対し調査を実施した。狭義のKJ法の結果,ケアマネジャーは「精神的自立」がカギであり,サービス等利用による継続支援は自立と考えていること,また制度と高齢者間の「かみ合わなさと困難さ」,現場での自立支援の実践と自身の専門性に葛藤を抱えていることが明らかになった。持続可能な制度という国の目標は,本来めざす高齢者の自立支援とケアマネジャーの専門性を揺るがしている。高齢者の自立支援介護保険制度介護予防ケアマネジメントサービス卒業専門性