著者
村田 健児 金村 尚彦 羽田 侑里子 飯島 弘貴 高栁 清美 森山 英樹
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.61-66, 2011 (Released:2011-03-30)
参考文献数
15

加齢により関節軟骨は退行性変化を呈し,主要構成要素であるプロテオグリカン含量やⅡ型コラーゲンの減少が認められる。この関節軟骨の退行性変化は運動がもたらす関節への機械的刺激によって抑制および修復させることが報告されている。本研究では老齢ラットモデルの距腿関節軟骨を組織学的に分析し,走行運動およびバランス運動が距腿関節軟骨にあたえる影響を検討した。結果,老齢ラット群の関節軟骨は若齢ラット群と比較してⅡ型コラーゲン及び関節軟骨厚が減少し,関節軟骨表層部に亀裂が認められた。一方で,老齢ラット通常飼育群に比較してバランス運動群の軟骨厚が増加していた。このことから加齢によって距腿関節軟骨退行性変化を呈するが,関節運動を伴う機械的刺激によって関節軟骨変性を抑制,改善に作用する可能性があることが示唆された。
著者
宮原 拓也 平林 弦大 原 和彦
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.44-47, 2006 (Released:2006-06-14)
参考文献数
7

フォワードランジとは,スポーツ活動中に多用される動作であり,下肢筋力強化や協調性トレーニングとして用いられる。この動作中,さまざまなスポーツ障害の原因となりうるknee inを示す場合があり,その原因としては内側広筋をはじめとした大腿四頭筋の明らかな筋力低下が挙げられる。しかし,knee in時の筋活動に関する報告は少ない。そこで,今回の研究目的はknee in時の下肢伸展筋活動を明らかにすることとした。対象は健常男性10名,下肢伸展筋活動の測定は筋電計を用い被検筋である大腿直筋・内側広筋・外側広筋・大殿筋・腓腹筋の%iEMGを算出した。結果は,内側広筋・大殿筋の%iEMGが有意に減少し,腓腹筋の%iEMGが有意に増加した。内側広筋の活動減少は,膝内側支持に働く軟部組織伸張による静的支持と,knee in時に膝外反することで,大腿四頭筋力の外側ベクトルが増加したことに起因したと推察された。
著者
新井 龍一
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.59-62, 2019 (Released:2019-05-24)
参考文献数
14

脊柱の変形を伴う右変形性股関節症患者を担当する機会を得た。股関節に対する理学療法を3週間行ったが,歩行時の疼痛がNumerical Rating Scale(以下NRS)4と残存し難渋した。治療内容を再考してシュロス法の治療概念を用いた脊柱に対する理学療法を行い,歩行時の体幹動揺を制御させた結果,12週目で腰椎のコブ角が4°改善した。歩行時の動揺も減少し,14週にはNRS 0へ減少した。脊柱の変形を伴う股関節症患者において,脊柱のアライメントを修正することが股関節の負担軽減に繋がり,さらなる疼痛軽減に効果があることが示唆された。
著者
荒木 智子* 清宮 清美 渡邊 雅恵 井上 和久 須永 康代 石渡 睦子 柳田 千絵 河合 麻美 須藤 京子 伯耆田 聡子 吉岡 明美
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.15-21, 2011

埼玉県理学療法士会全会員を対象に職場環境に関する調査を実施した。960名より回答があり,平均年齢は30.5歳,97.5%が従事しており,病院・診療所が最も多かった。全体の38.8%が既婚者で子どもがいるのは66.3%であった。有給休暇取得率は50.9%であった。産前・産後休暇は女性の73.6%が取得した一方,子どもがいない群に制度の有無や利用の可否が「わからない」が高率にみられた。育児休暇は男性の5.0%,女性の60.5%が取得していた。国民平均値に比して埼玉県内の理学療法士は産前・産後休暇の取得率が全国より高く,育児休暇の取得率は低く示された。産前・産後休暇,育児休暇の制度の違いや復職後の不安により,取得状況が異なる背景が示唆された。今後妊娠・出産を迎える会員が増加することを考慮すると,就労継続を前提とした制度の周知,職場環境の整備,利用の促進が必要と考えられた。<br>
著者
米澤 隆介 河井 剛 中野 克己 廣島 拓也 前原 邦彦 宮原 拓也 山際 正博 横山 聖一 阿部 裕一 江川 俊介 山畑 史織 實 結樹 久保田 めぐみ 常名 勇気 桒原 慶太
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.80-85, 2016 (Released:2016-03-17)
参考文献数
2

【目的】公益社団法人埼玉県理学療法士会(県士会)南部ブロック県央エリアの認知度と,地域で働く理学療法士(PT)の県士会活動へのニーズを把握する目的でアンケートを実施した。【方法】アンケートは県央エリアの全てのPTを対象とした。アンケートは県央エリアの認知度,研修会や研修会への参加,および県士会活動に関する情報収集に関する計7問とし,郵送にて送付と回収を行った。【結果】アンケートの回答数は274通であった。77名が県央エリアを知らないと答え,186名が県央エリアの研修会や交流会に参加経験がないと答えた。一方,218名が研修会や交流会に参加したいと答えたが,83名が県士会活動について情報収集しておらず,研修会や交流会の開催情報を知らなかったという意見が多かった。【結論】県央エリアの認知度を高めるとともに,研修会や交流会の情報を地域の隅々まで広報することで,PTの県士会活動への潜在的なニーズに応えていく必要がある。
著者
金村 尚彦
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.72-77, 2019 (Released:2019-05-24)
参考文献数
6

理学療法研究は,2014年12月に告示された人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に基づき研究を行うが,時代とともに変化する社会情勢に対応するため,この倫理指針も個人情報保護法の改定に伴い,2017年2月に一部改正されている。侵襲と介入や,個人認識符号や要配慮個人情報等の用語の定義,インフォームド・コンセント等の手続きの見直し,利益相反などを考慮し,倫理審査のプロセスを確認し,研究計画を立案することが重要である。
著者
矢作 賢史 圷 誠斗 矢作 翔平 吉野 恭平 久高 正嗣 福田 佳男 藤井 基晴
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.102-105, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
6

【はじめに】手指屈曲時において浅指・深指屈筋腱の逆転現象を呈した弾発指症例を経験した。本症例に対し運動療法を実施し,弾発現象の改善を得た。弾発現象の発生機序と治療方法についてその要点を運動学的視点から検討する。【方法】弾発現象の改善を目的として浅指屈筋腱の滑走性改善を主体とした運動療法を実施した。PIP関節の他動運動により浅指屈筋腱の滑走に必要な関節可動域を獲得し,DIP関節伸展位でのPIP関節自動屈曲運動である指腹つまみを反復することで浅指屈筋腱の滑走を促した。【結果】理学療法開始後1年の時点で屈筋腱の逆転は観察されなくなり,弾発現象と手指関節可動域も改善した。【考察】屈筋腱の逆転による弾発現象は運動療法により改善可能な病態であると考える。浅指屈筋腱の滑走性改善が必要であり,DIP関節伸展位でのPIP関節自動屈曲運動である指腹つまみが屈筋腱逆転を防止する重要な手指屈曲様式になると考える。
著者
佐々木 洋平 近藤 静香 市橋 駿也 藤本 秀子
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.47-51, 2016 (Released:2016-03-17)
参考文献数
12

【目的】フレイルの評価は多数あるが未だに統一されていない。そこで今回は学術的に最も受け入れられているCardiovascular Health Study(以下,CHS)とその有用性が多く報告されているStudy of Osteoporotic Fracture(以下,SOF)という2種類のフレイルの評価を実施し,両者の関連性および特性について確認した。【方法】当院通所リハビリテーションの利用者(24名)に対し,CHSおよびSOFをそれぞれ実施した。結果についてはJSTAT for Windowsを使用し,Spearmanの順位相関係数を算出した。【結果】CHSとSOFの結果について,両者の間に有意な相関関係を認めた(r=0.669,p<0.01)。【結論】フレイルの評価は病院や施設など設備が充実した環境ばかりではなく,自宅や地域活動の場などさまざまな物理的制約が存在する環境でも実施される。したがってフレイルの評価を行う際は,さまざまな条件を鑑みたうえで,CHSとSOFそれぞれの特性を考慮し,妥当な評価方法を選択することが重要であると考える。
著者
千明 譲 古田 晴朗 島貫 かおる 近藤 千愛 笹 哲彰 鈴木 秀彦
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.41-45, 2009 (Released:2009-03-12)
参考文献数
5

超高齢化社会を迎え,何らかの内科的基礎疾患を有しながら変形性膝関節症に罹患した患者が増加している。高齢者にとって膝関節痛は日常生活に制限をもたらす耐え難い要因の一つである。今回,我々は変形性膝関節症患者に対して施行した最小侵襲手技による人工膝関節単顆置換術(MIS-UKA)の術後経過を調査し,リハビリテーションにおけるその有用性に関して検討した。MIS-UKAの術後,関節可動域,下肢筋力の回復が早かったため,ADL動作及び歩行能が早期に改善された。MIS-UKAの低侵襲性は術後のリハビリテーション期においても有用であり,身体や基礎疾患に与える影響が少ないため,高齢者や基礎疾患を伴う患者に対しても有効であると推察された。
著者
深田 和浩 網本 和 藤野 雄次
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.11-16, 2021 (Released:2021-04-09)
参考文献数
22

ヒトはあらゆる環境下において身体を垂直に保つことが可能であるが,脳卒中を発症すると安定した床面であっても姿勢を垂直に維持することが難しい症例も存在する。特に脳卒中重症例では,垂直性の問題により,基本動作練習や歩行練習が思うように進まないことを経験する。この垂直性障害については不明な点も多いが,近年では垂直性に関する報告も増えつつある。本項では,垂直性障害のレビューや評価と治療について概説したい。
著者
若梅 一樹 米澤 隆介 目黒 智康 海老澤 玲 田沼 志保 桒原 慶太 塗山 正宏 占部 憲
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.58-62, 2015 (Released:2015-01-09)
参考文献数
16

【目的】大腿骨近位部骨折において骨折型の違いによる術後の機能回復および自宅退院率を比較検討した。【方法】大腿骨近位部骨折患者26例を対象として,骨折型によって頚部骨折群15例と転子部骨折群11例の2群に分類し,術後1週と退院時において術側股関節の関節可動域,術側と非術側の下肢筋力,および歩行能力を測定した。また,自宅退院率を調査した。【結果】術後1週において,頚部骨折群は転子部骨折群と比べて下肢筋力のうち術側の股関節外転筋力が有意に強く,病棟での歩行自立度も有意に高かった。退院時において,頚部骨折群は転子部骨折群と比べて受傷前と同様の歩行能力まで回復した割合が有意に高く,自宅退院率も有意に高かった。【結論】大腿骨近位部骨折において,頚部骨折は転子部骨折よりも術後の筋力や歩行能力の回復が早く,自宅退院率も高いことが示された。
著者
西田 和正
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.69-72, 2014 (Released:2014-02-05)
参考文献数
6

【目的】本症例は右視床出血により主に体幹筋群の筋活動低下を生じていたため,食事時に座位アライメントが崩れ,食事動作に一部介助を要していた。理学療法では座位能力向上を目標とし,担当チーム(Ns,PT,OT,ST)では食事動作向上を目標に挙げ,関わった。その結果,座位アライメントが改善し,食事動作の改善に繋がったので報告する。【方法】座位でのリーチングと長下肢装具を使用した立位保持練習を行い,体幹筋群・股関節周囲筋群へアプローチした。担当チームが食事時に関わり,その場で情報共有と発信を行った。【結果】内外腹斜筋の機能が向上し,座位で正中位を保持することができるようになった。食事では,良肢位で座位を保つことができ,食べこぼしが少なく自力摂取できるようになった。【結論】理学療法アプローチによって体幹・股関節周囲筋群の筋活動が向上し,それを担当チームで密に情報交換しながら関わったことで,向上した能力を実際の食事場面へ活かすことができたと考えられる。
著者
諸沢 和真 荒川 航平 国分 貴徳
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.62-68, 2021 (Released:2021-04-09)
参考文献数
12

【目的】メカニカルストレスは変形性膝関節症(膝 osteoarthritis:膝OA)の発症・進行において主要因の一つとされている。本研究では膝OA動物モデルであるdestabilization of medial meniscus(DMM)モデルで生じる半月板機能不全に着目し,関節不安定性を抑制する関節制動モデルを用いることで,関節不安定性の違いが関節軟骨,半月板に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象をDMM群,DMM群に対して関節制動を施したDMM制動群,INTACT群に分類した。制動モデルの妥当性を検証した後,関節軟骨変性と半月板変性について組織学的解析を行った。【結果】DMM制動群では関節不安定性が抑制された。関節軟骨変性では,DMM制動群で関節軟骨変性が抑制されていた。一方,半月板変性に関しては, DMM・DMM制動群の両群で半月板変性が確認された。【結論】本研究から,DMMモデルで生じる関節軟骨変性は関節不安定性に起因することを示唆した。
著者
高畠 啓 小曽根 海知 髙橋 花奈 米野 萌恵 国分 貴徳
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.51-56, 2021 (Released:2021-04-09)
参考文献数
16

【目的】Enthesisとは靭帯や腱が骨に付着する部位を指し,Osgood-Schlatter病など同部に生じる傷害“Enthesopathy”は,近年,遠心性収縮が発症に関与している可能性が示唆されている。そこで,本研究では筋収縮形態の違いがマウスのEnthesis構造に及ぼす影響を調査した。【方法】ICR系白色雄性マウス(3週齢)を非運動介入群,平地走行群,下り坂走行群に分類し,2週間の運動介入後,染色像から棘上筋断面積及び棘上筋Enthesisの組織学的分析を行った。【結果】遠心性収縮が惹起される下り坂走行群において筋断面積は有意に拡大し(p<0.05),Enthesisの線維軟骨層に対する非石灰化線維軟骨層の割合は拡大傾向にあった。【結論】Enthesopathy発症には,筋収縮形態の違いによる負荷量の違いが影響し,Enthesis4層構造の変化に関与している可能性を示唆した。
著者
荒木 智子 河合 麻美 中邑 まりこ 奥住 彩子 飯高 加奈子 板垣 美鈴 山田 紀子 市川 保子
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.49-53, 2012 (Released:2012-03-23)
参考文献数
10

理学療法士(以下PT)における妊娠経過に関する報告は数少ない。本研究ではPTを対象に妊娠経過,それに伴うトラブルへの対応について調査を行った。妊娠の経験回数は平均2.08回だった。妊娠経過は48名中32名(66.6%)が「問題があった」と回答し,内訳は重度悪阻,貧血,妊娠高血圧症候群,切迫流産,切迫早産,流産,早産であった。初回妊娠で問題があったのは31例(64.5%)で,問題があった妊娠回数は平均1.14回であった。対応は業務の軽減,休暇を利用した一方,通常業務の継続,退職したという回答もあった。また,妊娠・出産を理由に退職したのは13名(27.6%)だった。対象の6割に妊娠中のトラブルの経験があり,その対応も様々であった。また業務軽減・配慮は7割を超える施設で行われており,その制度の活用については今後さらに相互理解をすることで可能になると考えた。妊娠・出産を健やかに経験し,就業継続できる環境整備はPTの質の向上にも寄与できると考える。
著者
友信 綾 國田 広規 伊藤 有希 間嶋 満
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.51-54, 2011 (Released:2011-03-30)
参考文献数
5

脊髄性筋萎縮症(SMA)Ⅰ型では乳児期から重度の肢体不自由を呈するが,一般的に知的な遅れはあっても軽度とされており,福祉機器を使用することでコミュニケーション手段の獲得に至っている例も多い。本報告では当院入院中のSMAⅠ型児に対してコミュニケーション手段の獲得を最終目標に,導入期としてスイッチを工夫して玩具を操作できる環境を設定し,その理解度を4段階で評価した。その結果,児は現在機器操作の理解度の3段階目にあたり,スイッチと機器との一次的な繋がりは理解しているものの,完全な理解には至っていないということが解った。その背景として,子どもがコミュニケーション能力を発達させていく過程で必要な相互作用が,本児には与えられる機会が極めて乏しかったという経緯が示唆された。今回の結果を受けコミュニケーション手段獲得に向けた今後の課題として,フィードバックを強化した機器操作練習と,児からの働きかけを汲み取り,応答し,さらなる表出を促していくような取り組みの必要性を検証することができた。
著者
武田 尊徳 山崎 弘嗣 田代 英之 中村 高仁 星 文彦
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.62-67, 2017 (Released:2017-04-27)
参考文献数
13

本研究は歩行中の重心移動のパターンを評価するための基礎的な指標を得ることを目的とし,jerk最小モデルから予測される運動軌道との差を検討した。対象は健常成人女性8名とし,3次元動作解析装置を用いて歩行時の重心移動を計測した。jerk最小モデルを用いて計算される1歩行周期の重心移動の最適軌道を基準とし,軌道波形のピークの位置から定性的な一致度を調べ,前後,左右,上下の3方向で実測値との差の実効値を算出した。前後,左右方向の実測軌道と最適軌道は波形が類似しており,上下方向においては軌道のパターンの差が顕著であった。重心変位の最大値で正規化した実効値は左右方向15.7%,前後方向2.4%,上下方向70.1%であった。左右,前後の2方向において健常成人における実測軌道は予測した最適軌道に近似し,本研究で示した数値を用いて歩行動作の機能的制限を定量化することが可能である。本研究は歩行動作における重心移動解析の基礎的資料となり得る。
著者
廣島 拓也 杉山 真理 武川 真弓 清宮 清美 鈴木 康子 河合 俊宏
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.25-29, 2015 (Released:2015-01-09)
参考文献数
5

【はじめに】車椅子処方の際の座位評価において,左右の坐骨の高低差を数値で表現することは困難である。本報では,左右の坐骨の高低差を,股関節屈曲角度または上前腸骨棘(ASIS)傾斜角度から,推測可能か検証した。【方法】対象は股関節屈曲角度の片側が90度以上(健側)で,対側が90度未満(患側)の,脊柱側弯のない12名とした。両側の股関節屈曲角度と坐骨間距離,ASIS間距離を計測した。測定姿勢は,足底を床に接地させ,骨盤前後傾中間位,健側膝関節90度屈曲位,健側腓骨が鉛直となる姿勢とした。ASISの傾斜角度と坐骨傾斜角度は,臀部の陰性モデルを作成し測定した。坐骨高低差とASIS高低差を算出し,坐骨高低差を従属変数,患側股関節屈曲角度・ASIS高低差を独立変数とした単回帰分析により回帰式を算出し,検討した。【結果】回帰式は[坐骨高低差=-0.276×患側股関節屈曲角度+28.146](回帰係数p=0.01)と,[坐骨高低差=0.261×ASIS高低差+4.469](回帰係数p=0.96)が算出された。【結論】股関節屈曲角度に左右差のあるものに対して,患側股関節屈曲角度から坐骨の高低差が推定可能であることが示唆された。身体機能評価に基づいた車椅子処方の一助となると考えられる。
著者
會田 萌美 武井 圭一 岩田 一輝 山本 満
出版者
公益社団法人 埼玉県理学療法士会
雑誌
理学療法 - 臨床・研究・教育 (ISSN:1880893X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.78-81, 2018 (Released:2018-04-03)
参考文献数
12

【目的】本研究では,がん患者の歩行自立度と下肢筋力の関連を明らかにし,自立歩行を維持するための下肢筋力の目標値を検討することを目的とした。【方法】がん患者48例で繰り返し測定した値を含む延べ 68例を対象とし,Barthel Indexの移動の項目から15点を自立群(49例),10点以下を非自立群(19例)とし2群に分類した。ロコモスキャンにて膝伸展筋力を測定し,2群間を比較した後に,ROC曲線からcut off値を求めた。【結果】膝伸展筋力は,自立群が0.53 ± 0.15 kgf/kg,非自立群が0.35 ± 0.10 kgf/kgであり,2群間に有意差を認めた。ROC曲線からcut off値は0.42 kgf/kgであった。【結論】全病期のがん患者を対象にした場合,自立歩行を維持するための膝伸展筋力として, 0.4 kgf/kgを一つの目安と考えられた。