著者
長手 尊俊 杉田 和彦 宮地 純子 宮崎 真奈美 竹市 千恵 小野 武夫 大竹 盾夫 大村 貞文
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
CHEMOTHERAPY (ISSN:00093165)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.170-191, 1988

新規マクロライド系抗生物質TE-031の体液内濃度測定法について検討した。検定菌として<I>Micrococcus lutescs</I> ATCC 9341, 検定培地としてHeart infusion agar (栄研; pH8.0) を用いたペーパーディスク法が最適であった。血中濃度測定には, その標準液としてヒトプール血清 (Consera) を, 尿中濃度測定には, メタノール・リン酸塩緩衝液 (メタノール: 0.02Mリン酸塩緩衝液, pH7.4=4:1) と一部には1/15Mリン酸塩緩衝液を, 組織内濃度測定にはメタノール・リン酸塩緩衝液を用いTE-031の定量が可能であった。各サンプルの調製は各々のサンプルに応じた希釈液を用いて行った。また, TE-031ヒト主要代謝物で最も強い抗菌力を有するM-5も上記と同様の方法にてその定量が可能であり, TE-031とほぼ同様の検量線が得られた。<BR>TE-031の測定範囲は0.025~100μg/ml (但し1/15Mリン酸塩緩衝液; 0.2~100μg/ml) であった。また, これらbioassay法は高速液体クロマトグラフィー (HPLC) を用いるchemical assay法と良好な相関性を示した。
著者
長手 尊俊 杉田 和彦 沼田 和生 小野 武夫 宮地 純子 森川 悦子 大村 貞文
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
CHEMOTHERAPY (ISSN:00093165)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.129-155, 1988

TE-031の<I>in vitro</I>および<I>in vivo</I>抗菌力をErythromycin (EM), Josamycin (JM) および他の抗生剤と比較検討し, 次の結果を得た。<BR>1. TE-031は, EMと同様の抗菌スペクトルを有し, 好気性グラム陽性菌, 好気性グラム陰性菌の一部 (<I>B. catarrhalis, N. gonorrhoeu, H. influenzae</I>), 嫌気性菌, L型菌およびマイコプラズマに対して優れた抗菌活性を示した。<BR>2. TE-031は臨床分離株388株に対して, EMと同等ないしやや強く, JMより強い抗菌力を示した。<BR>3. TE-031はEMと同様<I>H.influenzae</I>に対して殺菌的に作用した。<BR>4. TE-031はマウス実験的全身感染症, 皮下感染症および呼吸器感染症に対してEM, JMよりも優れた<I>in vivo</I>抗菌力を示した。
著者
中島 光好
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.229-235, 2001-04-25 (Released:2011-08-04)
参考文献数
30

多くの抗不整脈薬がQT間隔を延長しそしてときにtorsades de pointesをおこすことはよく知られている。最近, 心臓疾患を対象としない治療薬が問様にQT間隔を延長し, torsades de pointesをおこすことが数多く報告されている。向精神薬, 抗高血圧薬, 抗ヒスタミン薬, 抗真菌薬, 抗菌薬などである。近年特に, キノロン薬に注目が集まっている。Torsades de pointesは多形性心室性頻拍を起こし, 死に至ることもある重大な副作用である。キノロン薬のなかではsparfloxacin, grepafloxacinで, 少ないがlevofloxacinでも報告されている。非心臓薬によるQTc延長は通常起こり得ない現象で, 特にtorsades de pointesのような致死的なものはまれである。わずかな人しか対象としない第I~III相試験ではおこりそうもない, しかし市販後多くのさまざまな病態の患者に使用されると出現する。これを開発段階でいかに早くみつけるかその努力が求められる。そのためにはQT間隔延長をおこすメカニズムを明らかにし特殊なイオンチャネルに作用する化合物の構造活性相関の研究を行うと共に, QT間隔延長作用を持つか否かを調べる非臨床試験のin vivo研究方法の標準化, このようなQT間隔延長作用があると非臨床試験でわかった薬については臨床第I, II, III相試験のデザインを慎重に行う必要がある。
著者
宇治 達哉 古川 哲心 清水 千絵 兵頭 昭夫 石田 直文 戸塚 恭一 清水 喜八郎
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
CHEMOTHERAPY (ISSN:00093165)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.305-310, 1994

<I>Klebsiella pnemonn</I>に対するgentamicin, cefodizimeおよびceftazidimeの再増殖抑制作用におよぼす白血球の影響を<I>in vitro</I>および<I>in vivo</I>で検討した。各薬剤の4MICで前処理した菌の増殖は白血球存在下で薬剤非処理菌に比べ抑制された。一方, マウスの敗血症モデルにおいて, 菌の増殖は各薬剤投与によりX線照射マウスに比べて正常およびG-CSF投与マウスで有意に抑制された。これらのことより, gentamicinとともにcefodizime, ceftazidimeにおいても生体防御因子との協力作用により, 再増殖抑制効果の増強が認められることが明らかとなった。
著者
溝尻 顕爾 高嶋 彰 湯川 忠彦 中野 正行
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
CHEMOTHERAPY (ISSN:00093165)
巻号頁・発行日
vol.37, no.Supplement1, pp.774-782, 1989-11-30 (Released:2011-08-04)
参考文献数
8

14C-標識7432-Sをラットに20mg/kg経口あるいは5mg/kg静脈内投与したときの血漿濃度と排泄について検討した。1. 経口投与後の血漿中放射能濃度は投与後30分で最高濃度平均9.18μg equiv./mlに達し, 以後速やかに減少した。血漿中放射能の大部分は未変化体の7432-Sであり, 7432-S-trans濃度は極めて低かった。2. 経口投与時の7432-Sの薬動力学的パラメーターはTmax 24分, Cmax 7.44μg/ml, t1/2 52分であった。静脈内投与時の7432-Sのt1/2は17.3分であった。3. 経口投与後24時間に投与放射能の平均約47%が尿中に, 平均約46%が糞中に排泄された。尿中放射能の大部分は7432-Sで, 7432-S-transあるいはその他の代謝物は極めて少なかった。4. 経口投与後24時間までの胆汁中放射能排泄率は平均約8%と少なく, 少量の代謝物が認められたが大部分は7432-Sであった。5. 7432-Sの吸収部位は小腸上部および中部で, 胃, 盲腸, 結腸ではほとんど吸収されなかった。6. 7432-Sは小膓では比較的安定であったが, 胃では7432-S-transへの転換が認められた。7432-S-transは吸収されず, 7432-Sが選択的に吸収されると思われた。ラットに経口投与したときの消化管吸収率は約50%と推定された。
著者
石黒 正路
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.361-366, 2004-07-25 (Released:2011-08-04)
参考文献数
8

β-ラクタマーゼの変異による広範なβ-ラクタム剤への親和性と基質分解能の向上, そして変異によるPBPのβ-ラクタム剤への親和性の低下によってβ-ラクタム系抗菌薬に対する耐性が獲得されており, β-ラクタム剤にはこれらの耐性を克服できる新しい誘導体の開発が望まれる。すなわち, 変異したPBPに対して高い親和性を示し, 変異したβ-ラクタマーゼ (ESBL) に抵抗性を有する構造をもつβ-ラクタム剤がデザインされる必要がある。X線結晶解析により, PBPおよび多くのβ-ラクタマーゼの結晶構造が明らかとなり, またMRSAのPBP2aやβ-ラクタム系抗菌薬の親和性が低下したPBP2xのミュータントの立体構造も明らかにされている。このような構造情報から得られる重要なアミノ酸残基の役割の解明とコンピュータによるドッキングシミュレーションを組み合わせることによって, β-ラクタム剤の加水分解機構を解明でき, これをもとにMRSAに対して親和性を有し, β-ラクタマーゼに安定な5, 6-シスペネム化合物などのデザインが可能となっている。
著者
古久保 拓
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.462-466, 2008-07-10 (Released:2011-08-04)
参考文献数
9

ニューキノロン系合成抗菌薬のpazufloxacin mesilate (PZFX) の腎不全患者における体内動態に関する検討は十分でない。今回, のう胞腎感染症と診断された4名 (年齢65.3±9.7歳, 体重49.0±4.1kg, 男1名) の血液透析 (HD) 患者を対象として, PZFX 300mgを週3回HD後に投与し, 体内動態を評価した。初回投与時のPZFXのCmaxは10.47±2.19μg/mL, AUC(0-∞)は421±175μg・h/mLであり, 腎機能正常者に比べ消失の著しい遅延が認められた。一方で, 3回目投与時の投与終了2時間後の血漿濃度は11.12±2.30μg/mLであり, この値は健常成人に常用量を反復投与した成績と同レベルであり, 消失の遅延から予測される程度には上昇していなかった。HD除去率は4時間のHDによりみかけ上58.7±7.7%であったが, HD終了1時間後までに認められた平均13.5%のリバウンド現象を考慮すると45.2±5.9%と算出された。全例において治療期間内に血漿濃度依存的な毒性は認めなかった。以上より, HD患者におけるPZFXの消失は腎機能正常患者に比べ大幅に遅延しているものの, HD除去性が高いために血漿濃度の蓄積性は小さいと考えられ, 毎HD後の投与が合理的であると考えられた。
著者
秋澤 孝則 中神 和清 鈴木 一 野口 英世 寺田 秀夫
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
CHEMOTHERAPY (ISSN:00093165)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.896-902, 1989-07-25 (Released:2011-08-04)
参考文献数
20

最近抗生物質投与に伴う副作用として出血傾向が注目されている。そこで我々は, 新しく開発されたカルバペネム系抗生物質イミペネム (IPM) と同剤の尿中回収率を高めるシラスタチンナトリウム (CS) との合剤であるチェナム® (以下IPM/CS) の, 血小板機能・出血凝固機能に対する影響について検討した。対象は肺炎10例, 肺化膿症1例の計11例の呼吸器感染症である。IPM/CSは原則として1日IPM量として1gを7日間点滴静注し, その前後で血小板数, 出血時間, 血小板粘着能, 血小板凝集能, 血小板ATP放出能, プロトロンビン時間, 活性部分トロンボプラスチン時間, 血漿フィブリノーゲン, フィブリン分解産物, トロンボテスト, 第II・VII-IX・X凝固因子を測定した。各検査結果がIPM/CS投与後で増悪した症例は認められず, このことよりIPM/CSは, 1日1g7日間程度の投与では血小板機能, 出血凝固機能に影響を与えることの無い, 安全な抗生物質であると考えられた。
著者
内納 和浩 山口 広貴 安藤 友三 横山 博夫
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.321-329, 2006-07-10 (Released:2011-08-04)
参考文献数
13

38℃以上の咽頭炎. 扁桃炎, 急性気管支炎を対象としたlevofloxacin (LVFX) の特別調査症例8,856例のうち, 感染症以外の合併症・基礎疾患を有さない7,597例について昨ステロイド性消炎鎮痛薬 (nonsteroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs) 併用時の安全性を検討した。NSAIDsの併用率は64.4% (4,890/7,597) で, 「併用注意」と記載されているフェニル酢酸系・プロピオン酸系NSAIDsと併用率は37.2% (2,828/7,597) であった。NSAIDs併用有無別の中枢神経系副作用発現率は, NSAIDs非併用群で0.04% (1/2,707), フェニル酢酸系・プロピオン酸系NSAIDs併用群で0.07% (2/2,828), その他のNSAIDs併用群で0.10% (2/2,062) であり, NSAIDs非併用群とNSAIDs併用群との間に有意差は認められなかった。中枢神経系副作用の種類は, めまいが2例, ふらつき感不眠, 眠気が各1例報告されたが, 痙攣は認められなかった。LVFXの1日投与量別の中枢神経系副作用発現率は, 200mg分2/日投与群で0% (0/458), 300mg分3/日投与群で0.07% (4/5,716), 400mg分2/日投与群で0.10% (1/1.031), 600mg分3/日投与群で0% (0/65) であり, 4群間に有意差は認められず, NSAIDs併用の有無で層別した結果でも有意差は認められなかった。年齢別の中枢神経系副作用発現率は, 65歳未満で0.06% (4/7,088), 65~74歳で0.28% (1/358), 75歳以上で0% (0/151) であり, 有意差は認められなかった。さらにNSAIDs併用の有無で層別した結果でも有意差は認められなかった。以上の結果より, 基礎疾患・合併症を有さない症例においてLVFXに対するNSAIDsの影響はきわめて小さいことが示唆された。
著者
今井 博久
出版者
公益社団法人 日本化学療法学会
雑誌
日本化学療法学会雑誌 (ISSN:13407007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.135-142, 2007-03-10 (Released:2011-08-04)
参考文献数
14

性器クラミジア感染は, これまでは医療機関を受診した有症状の感染者の有病率が明らかになっていたが, 感染の大半を占める無症候患者の感染状況は十分に明らかにされていなかった。また, 近年, 性交し始める年齢が低くなりティーンエイジャーにおける感染の蔓延が懸念されているが, そうした疫学情報もなかった。そこで, 高校生を含む若年者を対象とした無症候性クラミジア感染症の大規模スクリーニング調査研究が開始された。本論文では,(1) 先行して実施した大学生や専門学校生の調査,(2) 高校生を対象とした大規模調査, この2つの調査について説明し, これらの調査結果をふまえながらティーンエイジャーにおけるクラミジア感染症の蔓延とその予防について述べたい。大学および専修職業学校に在関する無症候の性交経験を有する18歳以上の男女学生における性器クラミジア感染症の有病率は8.3%(女性9.1%, 男性7.0%) であった。特に, 年齢別にみると女性では18~19歳でla4%の感染率を示し, ティーンエイジャーへの感染が深刻な状態にあることを示唆していた。ティーンエイジャーの中心層である高校生における感染拡大が懸念され, 高校生を対象にした大規模調査が実施された。その結果, これまでに5,000名を超える高校生の対象者を得て, わが国において初めて高校生の無症候性クラミジア感染の感染状況が明らかになってきた。感染率は女子高校生では13.1%, 男子高校生では6.7%であった。ティーンエイジャーにおける蔓延は間違いないことが明らかにされた。米国では39%(カリフォルニアの女子高校生2003年), スウェーデンでは21%(ウプスラの女子高校生1994年) などであり, わが国はおそらく先進諸国のなかで最も感染が拡大していることが考えられた。一連の調査結果から具体的な対策を考察すると, 性感染症の蔓延防止対策の実施に向けて (1) 蔓延予防対策の焦点を当てるべき対象者をティーンエイジャーとすべきである,(2) 性別, 年齢, 危険因子が明らかになったので, こうしたデータに基づいた蔓延予防対策の施策を実施することが要請される,(3) 今後は各省庁や地元医師会, 関係学会, 学校教育関係者等が協力し合って緊急に対策を講じる, といったことが必要となろう。