著者
真木 雅之 播磨 屋敏生
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.581-597, 1988
被引用文献数
16

盆地において,まわりの山地斜面からの冷気の移流•堆積が地表面の夜間冷却量に及ぼす効果を1次元の数値モデルを用いて調べた。数値モデルは冷気の移流•堆積による大気層の冷却を熱収支的な立場から考慮したものである。計算結果によれば,例えば,盆地の深さが500m の場合,風の弱い快晴の夜間に,盆地底での夜間冷却量は平坦地に比べ約15%(冬期)から約25%(夏期)大きくなり,山頂や丘陵頂部に比べ約40%(冬期)から約90%(夏期)大きくなる。これは,盆地のようにまわりを山で囲まれたところでは山地斜面からの冷気が盆地中央部上空へ移流•堆積するために,盆地底での下向きの大気放射量が小さくなり,地表面の放射冷却を強めるためである。この冷気の移流•堆積の効果は深い盆地ほど顕著である。移流による大気層の冷却が盆地に比べて小さい山麓の地表面冷却量は盆地に比べて小さくなるが,平坦地に比べて約10%(冬期)から約15%(夏期)大きく,山頂や丘陵頂部に比べて約30%(冬期)から約75%(夏期)大きくなる、計算された結果は AMeDAS で観測された結果と比較して妥当なものであった。
著者
菊地 勝弘
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.341-353, 1964
被引用文献数
2

北海道石狩湾々上,特に沿岸付近に冬期間早朝しばしば雲頂20~30mめ層状の雲が発生した。これ等の雲を手稲山頂から35ミリカメラおよび16ミリムービーカメラで一定時間毎に撮影し,観測した。その結果,はじめ層状に発生したこれ等の雲は日の出後時間と共に上昇し,雲頂200m位でセル状となり,規則正しい列状に配列し,10時前後にいずれも消滅した。解析の結果,これ等の雲は夜間の強い輻射冷却により石狩平野上にできた寒気が,比較的暖かい石狩湾上に吹出し,垂直混合により湾上の暖気が凝結してできたものと考えられる。日の出後寒気の吹出しが弱まり,逆転層の上昇とともに,これ等の雲は上昇し,セル状となりその高度のwind shearによって列状に配列したものであろう。この論文ではこの雲を"Coastal Cloud"と名付けた。<br>観測されたCoastal Cloudsはsmall scaleのもので降水現象を伴わなかったが,もし同様な過程でlarge scaleに生ずるならば,前線や山岳効果がなくても降水をもたらすことが十分期待される。
著者
高橋 劭
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.121-129, 1977
被引用文献数
6

ハワイ島の雨を逆転層の高さ,強度に関係させて分類することをこころみた。貿易風の強い8月の場合がこの論文ではくわしく解析された。雨は逆転層が低い時に見られる早朝と夕方のシャワー(海&bull;陸風に左右される),逆転層の高い時に見られる日中の強い雨,逆転層が2層あるときの地雨に大別された,又この逆転層が上層のcyclonic ce11の動きと密接な関係があることもわかった。<br>Front systemの影響をうけるハワイの冬の雨との比較で空中電場に強い差が見られた。氷晶の存在がその原因であろう。
著者
二宮 洸三 古賀 晴成 山岸 米二郎 巽 保夫
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.273-295, 1984
被引用文献数
24

1982年7月23日九州西北部(長崎市近傍)で豪雨(~400mm/1日)が発生した。この豪雨の予報実験を13層42km格子プリミティブ&bull;モデルによって行なった。<br>九州北西部に集中した降水,その近傍における小低気圧と循環系の形成は24時間予報でかなり正確にシミュレートされた。しかし実況に比較すると予報雨量(~70mm/6時間)も低気圧の深まりも不充分である。特に22日12時(GMT)を初期値とする予報実験ではspin upに時間がかかり,はじめの12時間の降雨,低気圧発達が不充分であった。これらの問題は残るが,微格子モデルによる豪雨予報の可能性が示されたものと考える。非断熱過程の効果を確かめるためdry modelによる実験を行なうと,小低気圧の発達はなく上昇流も非常に弱い。降雨にともなう非断熱効果がさらに降雨を強めるという作用が推論される。<br>モデルの分解能増加の効果を見るため,11層63km格子,10層127km格子および8層381km格子モデルの予報と比較した。分解能増加によって降雨の集中性が強まるだけでなく,総(面積積算)雨量も増加する。分解能を増すと豪雨域周辺から豪雨域へ流入する水蒸気流束が増大するからである。<br>実験データにもとづき,豪雨域の水蒸気収支,対流不安定の生成,発散方程式および渦度方程式のバランスを解析した。<br>さらに1983年7月22~23日の山陰豪雨の予報実験を行った。東西にのびる豪雨域は予報されたが,予報された豪雨のピーク時と観測されたピークとの間には数時間の差があり,前線上の弱い小低気圧近傍の降雨は実際よりはやく予報され,一方小低気圧通過後の降雨は予報されなかった。小低気圧にともなわない降水が予報されなかった理由は現在不明である。
著者
椎野 純一
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.109-134, 1984

積雲の降水形成過程を理解するために,第1部に示した力学過程と微物理学的過程との非線形相互作用を考慮した,暖かい海洋性積雲の軸対称モデルを用いて,雨滴の成長に関する数値シミュレーションを行った.第2部では,特に降水発生の重要な先駆現象の一つと考えられる,雲粒一小雨滴間のバイモーダル粒径分布形成のための微物理学的パラメータの臨界条件が調べられる.その目的に沿って,小規模積雲と背の高い発達した積雲について,雨滴の成長過程が詳しく調べられた.<br>その結果,バイモーダル粒径分布形成の一般的な臨界条件の存在することが強く示唆された.その条件とは,半径60&mu;程度の水滴がある程度の濃度で形成されることであるが,それは水滴の平均半径と分散によって一義的に表わされる.<br>力学的に活発なよく発達した積雲では,水蒸気の凝結率が高いために,雲粒は雲の"発達期"に既にこの臨界条件を満たす.その結果水滴は顕著な併合効果によって急激に成長し,降水物理過程と力学過程との非線形相互作用によって作られる強い下降流に伴って,突然,大粒の雨滴からなる強い降水をもたらす.しかしこの強い降水は継続時間が短く,かつ局地性を示す.一方,力学的に不活発な小規模積雲では,水蒸気の凝結率が小さいため雲粒の成長速度は遅く,臨界値到達直後のバイモーダル粒径分布は,"最盛期"の雲頂付近にようやく現われる.しかし雲の衰弱過程での水滴の平均半径が小さい(数濃度は逆に大きい)ために,雨滴のかなりの部分が蒸発する.その結果,地上の降水強度は弱く,雨滴の粒も小さく,また雲の降水能率(総降水量/総凝結水量)も発達した積雲に比べはるかに小さい.このように両者の降水形成過程には顕著な相異が認められる.<br>積雲モデルについては慎重な考察が加えられている.
著者
グリフィス R.F. レーサム J.
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.416-422, 1972
被引用文献数
20

半径R電荷Qをもった球形の水滴が,約4.5m/secの速度で電極間を落下するとき,その水滴からコロナ放電を起こすに要する電場の強さ瓦と気圧との関係を測定した.気圧1,000mbで正の垂直電場では瓦は9.0&plusmn;05kv/cmであり,気圧500 mbではこれが5.5&plusmn;1.0kv/cmに減少した.電場が水平である場合には,気圧1,000,500mbで瓦はそれぞれ6.3&plusmn;0.3,6.9&plusmn;0.3 kv/cmであった.<br>Dawson(1969)とRichards and Dawson(1971)の研究を主な論拠として,これらの結果を説明しうる方程式をたてたが,この式から予想されることは,大粒の雨を含む雷雲中に存在しうる電場の最大値は,気圧には無関係であって,ほぼ12/R0&bull;3e.s.u.あたりであるということである.これは500kV/mに相当する.ここで,もしこのような強さの電場が雷雲の内部に生ずると,分裂しつつある水滴から生ずるコロナ放電が雷放電のトリガーとなるであろうと考えられる.
著者
アバス M.A. レーサム J.
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.65-74, 1969
被引用文献数
28

温度が0&deg;Cから-45&deg;Cまでかえられる箱の中に半径0.106cm~0.134cmの過冷却水滴を絶縁してつるし,その凍結状態を調べた.<br>その結果,もし水滴の表面が電気的または力学的な力でふん砕され,こわれた部分から液体のフィラメントが発生する場合には,0&deg;C~-22&deg;Cの温度範囲で,一定の時間間隔の中で水滴が凍結する割合は,かなり大きいことがわかった.<br>たとえば5分間の実験間隔で,水滴の凍結率は,もし水滴が電場でこわされる時には,-50&deg;C,-10&deg;C,-15&deg;C,-20&deg;Cで夫々0.44,0.62,0.75,0.88であり,もし同じ温度で,水滴の表面に絶縁されている糸又は導線をつっこんだ時には,夫々0.25fO.44,0.50,0.58となるが,もし水滴の表面が,この時間中にこおされたり乱されたりされずに,その破壊点以下のところに相当する強電場の下にそっとおかれるか,水滴をつるしたものを強くふるような場合には,夫々0,0.02,0.07,0.18に留まっていた.<br>この観測はPrupPacher(1963 a, b)によってなされた電場内での凍結についての規準(すなわち,三重相の境界の運動といつも関連しているとするもの)と全く一致しない.この観測はむしろ:Loeb(1963)の示嵯するものと-致している.それは電場内での凍結の最も本質的条件は水滴の.__.部分が細いフィラメントに,ひっばられることによるというのであるが,:Loeb et aL(1938)は既にフィラメントはすぐれた凍結核として働く分子凝集物を含むものであると言っている.これらの結果は,凍結が破壊の起った場所からはじまっているということを示す高速度写真によって裏づけされている.破壊の過程の間に,液体より放出される気泡の凍結確率に対する影響は二次的であることが示される.<br>自然の雲の中でなされた観測によると,電場内での凍結については,はっきりした証據がないとはいえ,かなりの量の間接的な研究からしても,過冷却の雲の中の気温の非常に高いところに氷粒が存在しているという事実のうらがきとなる.そして自然の中で観測された凍結粒の特性は電場内での凍結から期待されるものとよく一致している.
著者
Kang Sung-Dae 木村 富士男
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.955-968, 1997-10-25
参考文献数
25
被引用文献数
3 11

寒気が暖かい海面に移流してくるときには、しばしば筋状雲が観測される。これらの中で、海岸近くにある山の風下において特に太く長い筋状雲が見られることがある。一般の細い筋状雲の生成にはシアーと成層不安定が重要とされている。しかし、山岳風下の太い筋状雲の生成には成層不安定の他に重要なメカニズムが存在すると考えられる。上記の筋状雲の生成に係わっているであろう2つの要素、成層不安定と地形による力学的擾乱、を高分解能に設定したコロラド州立大学のメソモデルであるRAMS(Regional Atmospheric Modelling System)を使って調べた。数値実験では、基本場として一様な大気安定度と風速の低Froude数の流れを考え、これを風上境界に与えた。上記2つの効果を見るため数値実験は、主として海上の不安定成層の強さを決めている海面温度と、陸上の山岳の有無を変えて数値実験を行った。その結果、海面からの顕熱輸送が大きく、山岳を仮定したときには、モデルによって安定した形状の筋状雲が再現された。筋状雲は高度約1kmで一対の対流性ロールの間に形成される。以下の5つの性質が明らかになった。1)安定した形状の筋状雲が形成されるためには不安定層と地形性の力学擾乱の両方が必要である。2)海面からの顕熱が対流性ロールと筋状雲を維持する主な原因であり、雲の中の凝結による潜熱の解放による効果は無視できる。3)一対の対流性ロールはそれぞれ2つのサブ・ロールの複合体である。サブ・ロールの一つは、大きな半径をもつ弱いロール、もう一つは小さな半径の強いロールである。前者(外部サブ・ロール)は水蒸気を広い範囲から集め、後者(内部サブ・ロール)はロール対の間にある強い上昇流によって水蒸気を上層へ輸送する役割を担っている。内部サブ・ロールの存在が筋状雲の形状を細い状態に保っている。5)静力学平衡の仮定を置いても置かなくても筋状雲の再現は可能である。これは大気の鉛直方向の慣性が本質的には重要な役割をしていないことを意味し、また必ずしも地形の水平規模の大きさによって、筋状雲の生成が制約されるものではないことも示唆している。