著者
真嶋 修慈 和田 悌司 池田 貢
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.6, pp.295-302, 2012-12-01

デノスマブ(ランマーク<sup>®</sup>)は,特異的かつ高い親和性でヒトreceptor activator of nuclear factor <I>κ</I>B ligand(RANKL)に結合するヒト型抗RANKL抗体であり,2012年1月に「多発性骨髄腫による骨病変及び固形癌骨転移による骨病変」の適応で承認された.骨転移はしばしば生活に支障を来す骨関連合併症を引き起こすことが知られている.骨病変は,骨内に侵入したがん細胞が骨芽細胞等のRANKL発現を促し,それにより破骨細胞による骨吸収が亢進し,骨吸収により生じた増殖因子等ががん細胞のさらなる増殖を促すという悪循環により進行する.デノスマブはRANKLを阻害し,この悪循環を断ち切ることで骨病変の進展を抑制する.非臨床試験では,各種がん骨転移マウスモデルにおいて,RANKLの阻害により溶骨性骨病変の進行が抑制された.3つの無作為化二重盲検比較第III相試験は,種々の悪性腫瘍患者を対象に,ゾレドロン酸を対照薬とし,同一の試験デザイン,評価項目,統計手法を用い,デノスマブの有効性と安全性を評価した.その結果,デノスマブは悪性腫瘍の種類を問わず一貫した骨関連事象(skeletal-related event:SRE)抑制効果を示した.3つの第III相試験の併合解析では,デノスマブはゾレドロン酸と比較し,初回SRE発現リスクを17%(優越性:<I>P</I><0.0001),初回および初回以降のSRE発現リスクを18%(優越性:<I>P</I><0.0001)低下させた.抗悪性腫瘍薬の進歩により生存期間が延長しつつある中,QOLを著しく低下させるSREの制御は臨床的に重要である.デノスマブの副作用として,低カルシウム血症およびosteonecrosis of the jaw(ONJ)が認められた.低カルシウム血症についてはゾレドロン酸よりも発現頻度が高かった.デノスマブは簡便な皮下投与であり,腎機能障害による用量調節の必要はないものの,腎機能障害患者では低カルシウム血症を起こしやすいことから慎重な投与が必要である.ONJについては口腔内を清潔に保つなどして予防することが重要である.以上を踏まえ,本剤が多発性骨髄腫による骨病変および固形がん骨転移による骨病変の治療に貢献することを期待する.
著者
柿原 浩明 井深 陽子 馬 欣欣
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理學雜誌 = Folia pharmacologica Japonica (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.141, no.2, pp.95-99, 2013-02-01
参考文献数
15

薬理学と関係の深い創薬は医薬品産業政策と密接なかかわりを持つ.本稿では,医薬品産業政策の課題を,経済の基盤である市場における主体の行動と経済の関わりをもとに整理する.医薬品産業政策を考える上での問題の1つは,医薬品産業政策において重視される複数の目的が必ずしも両立可能でないということである.たとえば,現在の政策の1つの流れである医療費の抑制は,その目的においてしばしば中・長期的な経済への正の影響とトレードオフの関係にある.中・長期的な経済への正の影響とは,消費者の将来の健康そのもの,または健康に起因する経済への効果のことであり,さらに生産者である医薬品業界における研究開発投資が経済成長を起こす潜在的な機動力となる,ということである.これらの医薬品の使用が健康に及ぼす影響や創薬の経済効果は,長期間にわたり発生するため定量的な評価が著しく困難であるが,医薬品産業政策を考えるうえで重要な要素である.
著者
島内 司 西村 明幸 石川 達也 西田 基宏
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.149, no.6, pp.269-273, 2017 (Released:2017-06-14)
参考文献数
18
被引用文献数
1

医薬品の開発研究は,新たな薬剤を生み出す創薬研究と既存の薬剤の新たな作用を見出し応用する育薬研究に分けられる.創薬標的はますます複雑化の一途を辿り,新薬創出の研究に必要とされる時間とコストも膨れ上がっている.新薬開発に比べて既承認薬はヒトでの安全性,薬物動態が確立されており,他の疾患への治療薬として適応するにあたって大幅な時間とコストの削減が可能となる.このような新しい医薬品研究のあり方は「エコファーマ(またはドラッグ・リポジショニング)」として提唱されている.ミトコンドリアは分裂と融合を動的に制御することでその品質を維持している.ミトコンドリアの機能異常は様々な疾患の原因となるため,その品質管理が新しい治療標的として注目されている.我々は心筋梗塞後に心筋が早期老化を引き起こす前段階において,ミトコンドリア過剰分裂が起こること,およびこの原因が低酸素に依存したミトコンドリア分裂促進GTP結合タンパク質dynamin-related protein 1(Drp1)の活性化にあることを見出した.ラット新生児心筋細胞において,低酸素/再酸素化刺激は心筋細胞の早期老化を引き起こし,低酸素誘発性のミトコンドリア分裂を阻害することで再酸素化後の心筋早期老化が抑制された.低酸素刺激によるミトコンドリア分裂を阻害しうる既承認薬のスクリーニングを行った結果,ジヒドロピリジン系Ca2+チャネル阻害薬であるシルニジピン(cilnidipine:CIL)がミトコンドリア分裂を抑制することを見出した.CILはCa2+チャネル阻害作用と無関係にDrp1活性化を抑制し,心筋老化を抑制した.以上の結果は,CILがミトコンドリア過剰分裂に起因する様々な疾患の治療薬に適応拡大できることを強く示している.
著者
高橋 京子 侯 暁瓏 高橋 幸一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.132, no.5, pp.270-275, 2008 (Released:2008-11-14)
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

東西医薬品の併用投与は有効な治療手段となっているが,歴史的経験知は東西薬物併用療法を想定していなかったため,適正使用に必要な情報が著しく不足している.最適な併用療法の実践には,安易な漢方薬の使用中止ではなく,薬物動態学的相互作用情報の提供が求められる.CYP3A4はヒトチトクロムP450(CYP)に最も多く存在する分子種で,小腸には全体の30%程度が分布することから,経口剤の薬物動態学 的相互作用の主要な因子である.従来の生薬・漢方薬に関する相互作用報告は統一的見解に至らず,結果の相違が生薬の多様性や実験動物の種差などで処理されている.そこで,動物実験の利点と限界を理解し,目的に応じた評価系構築を提案する.その目的は,(1)漢 方方剤(漢方薬)の総合的評価,(2)薬物代謝酵素CYP450とP-glycoproteinに対する影響,(3)漢方薬の服用方法(経口剤・前処置・連続投与)に則した実験法の構築,(4)薬物動態学的パラメーターの算出,(5)相互作用発現機序を検証できることである.まず,著者らは,雄性ラットに柴苓湯(さいれいとう)(蒼朮(そうじゅつ)配合)を反復前処置することで惹起される消化管CYP3A代謝変動を,ニフェジピンの体内動態パラメーターから解析した.その変動を肝臓および小腸ミクロソームのCYP3A活性,関連タンパクの発現状態,相互作用の持続性について検討し相互作用発現機序に至る過程を明らかにした.また,柴苓湯による異なる相互作用報告は,製造企業間で素材生薬(日本薬局方収載の蒼朮または白朮(びゃくじゅつ)配合)や混合比率の相違のため比較が困難で,生薬製剤の品質が重要な課題となることを再確認した.一方,柴苓湯の含有成分パターンから,高濃度を占めるバイカリンなどの配糖体由来成分の動態は,腸内細菌などの生体の反応性に左右される.漢方薬の真価を評価し適正使用を推進するためには,同じ規格毎の方剤で科学的エビデンスが蓄積され,情報発信ができることを切望する.
著者
安岡 由佳 後藤 新 芹生 卓
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.2, pp.87-94, 2011 (Released:2011-02-10)
参考文献数
28
被引用文献数
2 3

アバタセプトはCTLA-4細胞外領域とIgGのFc領域からなり,抗原提示細胞とT細胞間の共刺激経路を阻害することでT細胞活性化を調節する新規の薬理作用を持つ関節リウマチ治療薬である.関節リウマチの病態形成にはT細胞の活性化が重要な役割を果たしており,T細胞の活性化の調節には抗原提示細胞からの共刺激経路が必須であることが報告されている.関節リウマチを適応としている既存の生物学的製剤がTNFやIL-6等の炎症性サイトカインを標的としているのに対して,アバタセプトは炎症発生の上流で作用し,抗原提示細胞上のCD80/86と結合することによりT細胞への共刺激経路を阻害し,T細胞の活性化を抑制する.その結果,下流における炎症性サイトカインやメディエーターの産生が抑制される.アバタセプトは非臨床試験では,in vitro試験においてCD4陽性T細胞の増殖およびIL-2,TNF-α等のサイトカインの産生を抑制した.さらに,ラットの関節炎モデルにおいて,足浮腫,炎症性サイトカイン産生および関節破壊を抑制した.また,臨床試験においてもアバタセプトは,海外試験では,関節リウマチの標準的治療薬であるメトトレキサートの効果不十分例やTNF阻害薬の効果不十分例,さらには発症早期の関節リウマチに対しても疾患活動性の改善ならびに関節破壊抑制効果を示した.本邦においては,海外臨床成績を日本人に外挿して用いるブリッジング戦略に基づいて開発がすすめられ,2010年9月に関節リウマチに対する治療薬として上市された.新規作用機序をもつアバタセプトは,関節リウマチ治療において新たな治療オプションをもたらすものと考えられる.
著者
Sato Yoji Kurose Hitoshi Nagao Taku
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
The Japanese journal of pharmacology (ISSN:00215198)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.325-332, 1997-04-01
参考文献数
22

To examine the contribution of &beta;-adrenoceptor (&beta;AR) downregulation to desensitization of &beta;ARs by chronic administration of a &beta;AR agonist, we compared the adenylyl cyclase (AC) activities in two kinds of cardiac ventricular membranes with decreased available &beta;ARs: one was derived from rats infused with a selective &beta;<SUB>1</SUB>AR agonist, T-0509 [(&minus;)-(<I>R</I>)-1-(3, 4-dihydroxyphenyl)-2-[(3, 4-dimethoxyphenethyl)amino]ethanol hydrochloride], in vivo (40 &mu;g/kg/hr, s.c. for 6 days); and the other was obtained from treatment of control membranes with an irreversible &beta;AR antagonist, bromoacetyl alprenolol methane (BAAM). T-0509 infusion decreased the densities of &beta;<SUB>1</SUB>ARs and, &beta;<SUB>2</SUB>ARs by 26% and 32%, respectively, and reduced the maximal isoproterenol-stimulated AC activity by 53%. The amount of G<SUB>s&alpha;</SUB> and G</SUB>i&alpha;</SUB> proteins in the membranes was not significantly changed by T-0509 infusion. To make preparations that mimic the T0509-induced downregulation, we treated the control membranes with 100 nM BAAM in vitro. The BAAM treatment decreased the B<SUB>max</SUB>, value of [<SUP>125</SUP>I] iodocyanopindolol for &beta;1ARs and &beta;2ARs by 29070 and 36070, respectively, whereas it reduced the maximal effect of isoproterenol on AC activity only by 37%. These results suggest that downregulation of &beta;ARs cannot fully account for the desensitization by chronic treatment of T-0509 and that other mechanism(s) can play a significant role in the loss of responsiveness.
著者
池上 大悟 五十嵐 勝秀 大塚 まき 葛巻 直子 成田 年
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.4, pp.225-229, 2016 (Released:2016-04-09)
参考文献数
46

生物は生きていく上で,外界から絶えず様々なストレスに曝されている.こうした外界からのストレスに対して生体は適切に反応し,外界の変化に適応していく.これは生体レベルだけでなく,細胞レベルでも同様に起こる生命現象であり,後生的な遺伝子修飾機構であるエピジェネティクスの関与が考えられる.エピジェネティクスは,その効果を発揮するための遺伝子配列の変化を必要とせず,膨大なゲノム情報の各所を修飾することにより,転写装置が効率よくアクセスできるようにゲノム情報を制御している.このような制御機構は,外界からの様々なストレスを受けた細胞が,その変化を記憶・保持するために,なくてはならないものである.一方,痛みは急性痛と慢性痛に大別される.急性的な痛み反応は,危害から生体を防御するシグナルであり,『生体防御』に関与する重要なバイタルサインである.それに対し,慢性疼痛は,その病変部位が治癒あるいは修復に向かっている状態にも関わらず断続的に疼痛が認められる症状を示す.慢性的な痛みという不必要な強いストレスに曝されることにより,細胞が誤った変化を記憶し,末梢ならびに中枢神経の各所で不可逆的な神経可塑的変化が生じてしまうのである.これが,いわゆる「難治性」の疾患として認識される状態である.本稿では,慢性的な痛みストレスによる中枢のエピジェネティクス異常について概説することにより,エピジェネティクスの特徴,難治性の疾患に対する関与の可能性について論じる.
著者
山田 泰弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.3, pp.109-112, 2010 (Released:2010-03-14)
参考文献数
7
被引用文献数
2

薬物動態(DMPK)研究は,創薬の成功確率を高めるための重要な役割を担うだけではなく,戦略を左右することもあるので,DMPK研究が創薬のボトルネックになってはならない.そのために,DMPK試験の効率化と高速化が追求され,試験系の自動化や薬物濃度測定のハイスループット(HT)化が日々更新されている.本稿では,①探索段階でのDMPK試験の意義とHT分析の必要性,②HT分析へのアプローチおよび③HT分析での留意点について紹介する.
著者
水間 俊
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.3, pp.142-145, 2009 (Released:2009-09-14)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

腸管代謝は経口薬が循環血中に入るまでの初期に起こる過程であり,吸収率,肝アベイラビリティとともに重要な因子である.近年,腸管のCYP3Aによる第I相酸化代謝が経口バイオアベイラビリティを低下させるという認識が深まりつつある.さらに,最近,第II相代謝の抱合代謝についても,SULT1A3による硫酸抱合代謝,UGT1A8,UGT1A10などによるグルクロン酸抱合代謝が経口バイオアベイラビリティに大きなインパクトを与えることが明らかになった.これはプレシステミック臓器アベイラビリティとして評価すると肝代謝よりも大きなインパクトである.一方,視点を変えるとドラッグデリバリーの観点からも腸管代謝は興味深い.例えば,プロドラッグが活性薬物になる(程度の差はあるが)過程にもなり,トランスポーターを介した吸収ルートを利用するプロドラッグのプロドラッグ(プレプロドラッグ)への展開なども期待される.
著者
嶋澤 雅光 井口 勇太 伊藤 保志 原 英彰
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.6, pp.445-450, 2007 (Released:2007-06-14)
参考文献数
15

現在の主要な失明原因には,緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性症および網膜色素変性症などがある.これらの失明性眼疾患の多くは網膜細胞の変性に起因することから,網膜細胞の変性の原因を調べ,その機序を解明することは,病気の原因を解明し治療法を確立するうえで必須要件である.これまで,これらの病態モデル動物の作製にはラット,ウサギ,サルなどの大動物が多く用いられてきた.一方,マウスを用いた病態モデルの作製については,眼球自体が小さいため手技が難しいことにより今までほとんど検討されてこなかった.しかし,マウスは多くの遺伝子改変動物を利用できることから病態解明には最も有用な動物種である.本稿ではマウスを用いた網膜障害モデルの作製法ならびにその評価法について紹介する.
著者
嶋澤 雅光 原 英彰
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.152, no.3, pp.139-146, 2018 (Released:2018-09-06)
参考文献数
28

緑内障,糖尿病網膜症,加齢黄斑変性及び網膜色素変性症などの網膜疾患は主要な失明原因である.しかし,これらの病態の発症及び進展機構は十分解明されておらず,新規な治療薬の開発が望まれている.これまで,これらの網膜疾患の病態解明ならびに新規治療薬の開発のために,マウス及びラットを中心とした齧歯類を用いた多くの実験動物モデルが確立され,使用されてきた.しかし,齧歯類には視覚にとって最も重要な黄斑が存在しないなど網膜・視神経の組織構造がヒトと大きく異なっている.したがって,網膜疾患の病態形成機構がヒトと齧歯類では異なっている可能性が懸念され,さらに齧歯類における薬理効果をそのままヒトに外挿することは難しい.また,近年の医薬品の多くは抗体医薬を含めたバイオ医薬品に占められているが,特に抗ヒト抗体は齧歯類との交差性の問題などから薬効を齧歯類で評価すること自体ができない場合が多い.一方,非ヒト霊長類はヒトと同様に黄斑を有しており,網膜・視神経は解剖学的にヒトに類似している.したがって,アカゲザルやカニクイザルなどが網膜疾患の実験動物モデルとして広く使用されている.本稿では,非ヒト霊長類を用いた網膜疾患モデルの確立及びそれらを用いた創薬アプローチについて,著者らの最新の研究成果を中心に概説する.
著者
今岡 進 舩江 良彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.112, no.1, pp.23-31, 1998 (Released:2007-01-30)
参考文献数
45
被引用文献数
4 6

Arachidonic acid is metabolized to biologically active substances by three major enzyme systems including cyclooxygenases, lipoxygenases and cytochrome P450s. The third pathway, P450-dependent pathway, includes allylic oxidation, ω-hydroxylation, and epoxidation of arachidonic acid. Of these metabolites, the physiological role of 20-hydroxyeicosatetraenoic acid (20-HETE) produced by CYP4A isoforms has been extensively studied. 20-HETE affects ion transport, constricts blood vessels and participates in tubuloglomerular feed back. Increased production of 20-HETE is a major factor in elevating blood pressure in spontaneously hypertensive rats (SHR). We have found that CYP4A2 level in SHR is much higher than that of normotensive rat. Recently, factors of endothelial origin other than nitric oxide and prostaglandins were reported. Inhibitors of P450-dependent arachidonic acid metabolism greatly reduce the vasodilator effect and this factor is speculated to be an epoxide of arachidonic acid. We have isolated CYP2C23 from rat kidney and have found that it produces arachidonic acid epoxides. We have investigated changes in the CYP2C23 levels in physiological and pathophysiological conditions. Multiple pathways of arachidonic acid metabolism by P450 have been reported and the diverse properties of these metabolites and the wide distribution of the P450 system make them prime candidates for participation in regulatory mechanisms of the circulation and transporting epithelia.
著者
本多 健治 高野 行夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.1, pp.39-44, 2007 (Released:2007-07-13)
参考文献数
12
被引用文献数
2 6

近年,痛みに関する研究はめざましい進歩をとげているが,臨床では治療困難な痛みが数多く存在し,特に既存の非ステロイド性抗炎症薬が無効であるうえ麻薬性鎮痛薬に抵抗性を示す神経因性疼痛(Neuropathic pain)が問題になっている.そのような背景から,神経因性疼痛モデルの開発とその評価を行う疼痛試験法が研究されてきた.著者らは,ここ数年,神経因性疼痛モデル動物を用いて,その発症機構とそれに有効な鎮痛薬の検索について研究している.そこで本稿では,著者らの実験経験を基に神経因性疼痛と炎症性疼痛の疼痛評価法について解説する.
著者
松本 真知子 富樫 広子 吉岡 充弘 齋藤 秀哉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.207-222, 1989 (Released:2007-02-20)
参考文献数
215
被引用文献数
2

The role of serotonin (5-HT) in blood pressure (BP) regulation was reviewed. Central and peripheral 5-HT receptors can be divided into three receptor subtypes: 5-HT1 (5-HT1A, 5-HT1B, 5-HT1C), 5-HT2 and 5-HT3 receptors. The selective agonists and antagonists of these receptor subtypes are useful for investigating the BP regulation by 5-HT. The central 5-HT1A receptor agonist 8-hydroxy-2-(di-n-propylamino) tetralin (8-OH-DPAT) produced hypotension and decreases in sympathetic nerve activity (SNA). This suggests that central 5-HT may cause decreases in both BP and SNA via 5-HT1A receptors. Since the 5-HT2 receptor antagonist ketanserin, which has an antihypertensive effect, decreased SNA and the 5-HT2 agonist 1-(2, 5-dimethoxy-4-iodophenyl)-2-aminopropane (DOI) increased SNA, central 5-HT2 receptors may be connected with the 5-HT-induced increases in both BP and SNA. On the other hand, ketanserin's antihypertensive effects via its 5-HT2 receptor blocking action in the vascular system indicates that peripheral 5-HT may contribute to the initiation or the maintenance of elevated vascular resistance in several forms of hypertension including essential hypertension. However, ketanserin also possesses α1-adrenoceptor blocking action, and its precise antihypertensive mechanism has not been established. Further study of the antihypertensive mechanism of ketanserin will help clarify the precise role of 5-HT in BP regulation.
著者
仲澤 幹雄
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.98, no.3, pp.235-243, 1991 (Released:2007-02-13)
参考文献数
69

Cells are equipped with complex mechanisms for synthesis of ATP and try to keep the intracellular level of this compound, which is indispensable for maintenance of normal function and integrity, as constant as possible. Thus, it is generally believed that ATP rarely cross the plasma membrane of viable cells. However, since the first report of Holton in 1959, the release of nucleotides from cells has become an established fact, and the physiological role and metabolism of the released ATP has become an important topic; potent actions of extracellular purine nucleotides and nucleosides have been recognized for many years. In 1972, Burnstock demonstrated that ATP has a transmitter role in certain types of nerves and proposed a concept of purinergic nerve. The receptor for purine nucleotides, designated as P2, as opposed to P1, by Burnstock in 1978 was further subclassified in 1985 into P2X and P2Y by himself, and we now have a train of P2 receptors, such as P2S, P2T, P2Z and so forth. In this review, I summarized the characteristics of these purinoceptors. Pharmacological effects and metabolism of extracellular nucleotides were discussed and a brief mention was made of ecto-nucleotidases.
著者
木庭 守 山本 紀之 橋本 佳幸 三宅 秀和 増田 啓年
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.87, no.1, pp.89-97, 1986 (Released:2007-03-02)
参考文献数
16
被引用文献数
1 3

関節内投与ステロイド剤THS-201(halopredone diacetate)の抗炎症作用活性を急性,亜急性および慢性炎症モデル動物で検討した.対照としたtriamcinolone acetonide(TA),methylprednisolone acetate(MPA),hydrocortisone acetate(HA)およびTHS-201の母化合物であるhalopredone(HP)は,急性炎症モデルであるラットのcarrageenin足浮腫,CMC pouch法による白血球遊走,亜急性炎症モデルである線球肉芽腫,carrageenin granuloma pouch法による滲出液の貯溜を,皮下・局所投与によってほぼ一定の傾向の活性比で抑制した(TA>MPA>HA=HP).THS-201は皮下投与では100 mg/kg/dayでも全く抑制作用を示さなかったが,局所投与では急性モデルでは弱い(HA>THS-201),亜急性モデルでは強い(TA≥THS-201>MPA),作用時間依存性の抗炎症作用を示した.慢性モデルのウサギの抗原惹起型関節炎では,THS-201のみが2mg/jointの関節内投与により著明な関節腫脹抑制作用を示し,有意な抑制は30日以上持続した.これらの成績および関節炎ウサギにおけるTHS-201の残存量の成績は,THS-201が組織貯溜性が高く全身循環への移行速度が極めて遅いために,対照薬が投与局所から消失し,炎症反応の開始または再燃が起った後も有効濃度が持続したことを示唆している.また,THS-201は局所および皮下のいずれの投与でも全く全身性の作用を示さなかったが,対照薬では抗炎症作用に比例した全身性の薬理作用が認められた.ステロイド剤のような活性の強い薬剤では関節内のような局所投与であっても全身性の副作用を伴うが,THS-201は投与関節の炎症のみを特異的にしかも持続的に抑制するものと考えられる.
著者
小野 尚彦 山崎 靖人 山本 紀之 角南 明彦 三宅 秀和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.205-213, 1986 (Released:2007-03-02)
参考文献数
13
被引用文献数
3 2

indomethacin(IND)の誘導体であるproglumetacin maleate (PGM)の胃腸管障害作用をINDと比較検討した.ラットにPGMあるいはPGMと等モル用量のINDを経口投与し,胃および小腸粘膜障害の発生経過を検討した.PGMの胃および小腸粘膜障害作用のピークはそれぞれ投与後4および24時間で認められた.経口投与4時間後のPGMの胃粘膜障害作用は,絶食ラットにおいてモル比でINDの約1/7,摂食ラヅトにおいて約1/10であった.また経口投与24時間後のPGMの小腸粘膜障害作用はモル比でINDの約1/2であった.一方,PGMを7日間連続経口投与した際の胃粘膜障害作用はモル比でINDの約1/3,小腸粘膜障害作用は約1/2であり,INDよりも明らかに軽度であった.PGMの胃腸管障害がINDに比べて極めて弱かったことは,PGMの粘膜直接刺激作用が弱いことを反映しているものと考えられる.また腸管でのprostaglandin (PG)生合成阻害作用をマウスのアラキドン酸誘発下痢抑制作用を指標にして検討した.被験薬1あるいは4時間前投与時のいずれの場合もPGMの効果はモル比でINDの約1/2であり,PGMの腸管でのPG生合成阻害作用はINDよりも弱いものと考えられる.以上の結果から,PGMはリウマチ性疾患等の長期連用を要する炎症性疾患に対し治療係数の高い安全な非ステロイド性抗炎症薬であるものと考えられる.
著者
小野 尚彦 角南 明彦 山本 紀之 山崎 靖人 三宅 秀和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.77-84, 1986 (Released:2007-03-02)
参考文献数
13
被引用文献数
4 2

indomethacin(IND)の誘導体であるproglumetacin maleate (PGM)の鎮痛・解熱作用を等モル用量のINDと比較検討した.マウスphenylquinone writhingに対するPGMの効果は,被験薬1時間前投与時ではINDの約0.8倍であったが,4時間前投与時ではINDの約2倍であった.ラット硝酸銀関節炎疼痛に対してもPGMはINDの約1.5倍の効果を示したが,ラットadjuvant関節炎疼痛に対してはINDの約0.7倍の効果であった.一方,PGMはラット正常体温には全く影響をおよぼさない投与量で,ラットyeast発熱に対する抑制作用を示したが,その効果はINDの約0.5倍であった.またウサギLPS発熱に対するPGM、の解熱効果はINDの約0.3倍と弱かった.これらの結果から,PGMはINDにほぼ匹敵する強力な鎮痛効果を有するが,解熱効果は概して緩和であることが示された.このPGMの鎮痛・解熱作用は主として生体内で代謝されたINDによるものと考えられる.以上より,PGMは抗炎症作用に加え,鎮痛・解熱作用を有した非ステロイド性抗炎症薬であることが示唆された.
著者
小野 尚彦 山本 紀之 角南 明彦 山崎 靖人 三宅 秀和
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.88, no.1, pp.33-46, 1986 (Released:2007-03-02)
参考文献数
16
被引用文献数
6 2

新しいindomethacin(IND)の誘導体であるproglumetacin maleate(PGM)の急性ならびに亜急性・慢性炎症に対する作用を各種実験炎症モデルを用い,等モル用量のINDと比較検討した.急性炎症モデルである血管透過性亢進およびcarrageenin足浮腫に対して,被験薬1時間前投与時のPGMの効果はINDの約1/2であったが,4時間前投与時のPGMの効果は1時間前投与時の約2倍に増加した.kaolin足浮腫および紫外線紅斑に対するPGMの効果はINDよりも若干弱かった.carrageenin胸膜炎において,PGMの白血球遊走抑制作用は明らかにINDよりも強力であった.亜急性炎症モデルであるcarrageenin肉芽嚢法による抗滲出液作用および綿球法による抗肉芽腫作用は,PGMとINDでほぼ同等であった.慢性免疫炎症モデルであるadjuvant関節炎に対するPGMの予防効果は,adjuvant処置足の腫脹抑制でみるとINDとほぼ同等であったが,非処置足ではINDよりも強く,全身炎症症状の改善効果も著明であった.治療効果においても,PGMの効果はINDとほぼ同等以上であった.以上,PGMは急性炎症に対してはINDと同等か若干弱いが,その作用は概して遅効性であり持続的であった.急性炎症後期の白血球遊走抑制作用はINDよりも強く,亜急性・慢性免疫炎症に対してはINDより強いか同等の効果であった.これらの抗炎症作用態度より,PGMは特に慢性関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に好ましい薬剤といえる.このPGMの抗炎症作用の大部分は生体内で代謝されたINDによるものと考えられるが,足浮腫試験でPGMを局所投与した際でも抗炎症作用が認められたことより,PGM本体も薬理活性を有する可能性も考えられ,PGMはいわゆるプロドラッグとは厳密な意味で少し挙動を異にするものであった.