著者
黒川 美紀子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.153, pp.96-110, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
25

サービス・ラーニング(以下SL)とは,学習者が明確な学習目標を持って地域社会のサービス活動に従事し,知識を体験に生かすとともに,その体験を通じてさらに生きた知識を学ぶ(ラーニング)体験学習の一手法であり,近年日本でも大学教育に取り入れられ始めている。本稿は,SLの要素を取り入れ,高齢者施設で「話し相手ボランティア」を行った上級日本語コースの実践報告であり,コースの概要を紹介するとともに,学習者による授業評価アンケート,個別インタビュー,学習者が書いたジャーナルおよびレポートの分析を行った。その結果学習者は日本語力,特に書く力が伸びたと感じていたほか,人生観,価値観への影響があったと考えていることがわかった。学習者がSLから得たものとしては,(1)人生の先輩から与えられる気づきや励まし,(2)人の役に立つことの喜び,達成感(3)人間に対する洞察と共感,(4)知識の個人化,(5)先入観からの脱却,が認められた。

3 0 0 0 OA 「社会」分野

著者
宇佐美 洋
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.153, pp.55-70, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
9

『日本語教育』1号から150号までに掲載された全論文のうち,「社会との関わり」を扱った論文610編について,その研究テーマの変遷を社会的情勢の変化と関連させて論じた。全体として社会分野論文は,件数,全論文に占める割合ともに80年代後半まで順調に増加し,その後いったん停滞したものの,00年代後半には過去最高に達している。また刊行当初は国外の教育事情を紹介する論文が多かったが,80年代以降は国内における学習者の多様化に伴って国内の学習者に焦点を当てた論文が増えるなど,研究テーマが社会的情勢に鋭敏に反応して変化していることが認められた。さらに,社会情勢の変化に伴って生まれた新しい研究テーマを一過性のものに終わらせないためには,他の研究領域との連携により普遍性・一般性を追求していくという試みが重要になるとともに,日本語教育研究コミュニティ全体として「いま必要とされている研究とはどのようなものか」という議論を深め,研究観を拡張させていく必要もあることを論じた。
著者
岡 典栄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.66-80, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
14

本稿では,聴覚を通じて音声日本語を習得することがほぼ不可能な,日本手話を第一言語とするろう児・者に対する第二言語としての日本語教育について考察する。従来のろう教育で行われてきた補聴機器等を用いた母語教育としての国語教育では達成が難しかった日本語の習得が,日本語教育の視点の導入によりパラダイム自体が転換し,ろう者のエンパワーメントにつながることを見る。また,ろう者に対するわかりやすい日本語,視覚情報としての日本語の提示を通じて,まわりの人々もエンパワーされることを見る。
著者
内海 由美子 澤 恩嬉
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.51-65, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本稿では,外国人の母親31人を対象とした聞き取り調査の結果から,幼稚園・保育園における読み書きの必要性とその課題を明らかにし,読み書き能力支援について提案する。園と連携して子育てに当たるには日本語使用が不可欠で,連絡帳やお便り等の読み書きが重要となる。しかし調査の結果から,全ての母親が連絡帳を書くことに苦手意識を持ち,困難を感じていることがわかった。また,連絡帳によって園と信頼関係を築いたり,子育て上の問題を相談したりする等,日本人の母親が行う利用の仕方は外国人の母親には見られなかった。さらに,連絡帳を書くかどうかには,子どもの入園時にすでに日本語学習歴があり,ひらがなカタカナの読み書きができるかどうかが大きく関わっていた。園との文字によるやりとりを支えるには,連絡帳に特徴的な言語形式や談話の流れを自習可能な教材にすることが求められる。また,書くか書かないかの判断や,書くか話すかの技能選択のポイントを示すことも必要である。
著者
柴崎 秀子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.158, pp.49-65, 2014 (Released:2017-02-17)
参考文献数
20

本稿では,まず,リーダビリティー研究が始まった背景とその定義について紹介し,次に,リーダビリティーを測定するツールの使い方と内容を説明した。さらに,リーダビリティー研究成果の国内外における応用例を挙げ,日本語教育においては日本語能力試験を土台にしたリーダビリティー研究の可能性があることを論じた。同時に,リーダビリティー研究はテキスト要因のみを対象とするものであり,守備範囲には限界があることも加えた。最後に,今後の可能性として,新たなリーダビリティー判定式の構築よりも,社会的応用に着目すべきであることを述べた。
著者
寺嶋 弘道
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.163, pp.79-94, 2016 (Released:2018-04-26)
参考文献数
13

本稿では,コロケーションテストにおいて日英バイリンガル辞書のみを用いる方法(以下:DIC法)と日英のバイリンガル辞書とレキシカルプロファイリングツールを併用する方法(以下:DIC-LP法)の比較を行った。 実験の結果,DIC-LP法の得点のほうが有意に高かった。DIC法においては①適切な訳語の表示不足,②解答となる表現や解答につながる表現の表示不足,③複数の訳語表示とその違いを理解するための情報の不足,④過剰な訳語表示,⑤学習者の類推の誤り,⑥複数の辞書による不確認が得点に負の影響を,DIC-LP法においては⑦共起表現リストからの意味の検討,⑧共起表現の有無やその数の確認ができたことが得点に正の影響を与え,2つの方法の間に有意差が生じたと考察した。また,DIC法では過剰な例文表示や想定した助詞の誤り,DIC-LP法では想定した助詞の誤りや辞書で動詞の候補が絞れないことがコロケーションテストの得点に負の影響を与えた原因だと考察した。
著者
岡田 美穂 林田 実
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.163, pp.48-63, 2016 (Released:2018-04-26)
参考文献数
16

本研究は,①「あの喫茶店にコーヒーを飲む」のような誤用がどのような用法の「に」と動作場所を表す「で」の混同によるものであるかに焦点を当て,日本語学習者の「に」と「で」の習得の様子を探ったものである。まず,①の「に」を用いるという中級レベルの中国語話者計47人に対し翻訳調査などの予備調査を実施した。次に,日本語能力試験のN2に合格している中国語話者49人に対し「あの食堂(に・で・を・から)食事する」のような格助詞選択テスト式の調査を行い,49人の内10人にフォローアップインタビューを行った。回帰分析の結果,①の「で」→「に」は移動先を表す「に」と動作場所を表す「で」の混同による可能性があることが分かった。日本語学習者の習得は「場所への移動がある」と判断された場合に①の「に」が産出されるという段階を経て,その後,移動先を表す「に」と動作場所を表す「で」を正しく用いる段階に至るのではないかと考えられた。
著者
島田 めぐみ 野口 裕之 谷部 弘子 斎藤 純男
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.141, pp.90-100, 2009 (Released:2017-04-05)
参考文献数
6

本研究では,自己評価であるCan-do statements(Cds)を利用して,日本のT大学と海外協定校の日本語科目の対応関係を明らかにした。具体的には,T大学と,協定校5校の日本語学習者を対象に調査を実施し,各授業科目受講生のCds平均得点を用いて,T大学各レベルの授業科目と各協定校各学年の対応表を作成した。対応関係が明らかになったことにより,協定校においてより適切に単位互換を行うこと,来日前に留学生の配置クラスを予測することが可能となった。さらに,T大学と協定校における各項目の回答結果を比較することにより,技能の習熟度における相違点を検討した。今回使用した項目には,海外においては遭遇する可能性がない言語行動もあり,そのような項目は,おおむね自己評価が低くなることも明らかになった。
著者
横山 紀子 福永 由佳 森 篤嗣 王 瑞 ショリナ ダリヤグル
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.141, pp.79-89, 2009 (Released:2017-06-21)
参考文献数
11

海外の日本語教育では,聴解技能が弱点であるばかりでなく,聴解技能開発の必要性やその方法論に対する認識が一般に低いことが指摘される。このような海外の日本語教育における課題を解決に導く事例として,カザフスタンおよび中国で非母語話者日本語教師が実践したピア・リスニングの試みを紹介した。ピア・リスニングとは聴解の過程をピア(学習仲間)で共有し,協力しながら理解を構築していく教室活動である。ピアの話し合いを文字化した資料および学習者からの意見聴取をデータとして,実践の成果を分析した。ピア活動では,言語知識の共有および欠落した理解を補う方策の共有が行われていた。また,ピア学習に合わせ,カザフスタンでは聴解を仮説検証的に進めていくためのタスク中国では学習者のモニターを促進するために「質問」を作るタスクを導入したが,これらのタスクとピア活動が相乗的な効果を上げたことを考察した。
著者
井上 次夫
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.141, pp.57-67, 2009 (Released:2017-04-05)
参考文献数
15

本稿では,論説文に用いられる語の適切性について語の文体の観点から考察した。語の文体の分類は連続的・相対的なものであるが,これまで3分類と5分類が行われている。しかし,本稿では教育上・実用上の視点から文体の2分類を提案し,多くの語例を示した。また,宮島(1977)の5分類を以下のように位置づけた。記号「<」は書きことばらしさの強弱,「≪」は論説文に用いる語としての適否の境界を表す。 俗語<くだけた日常語≪無色透明な日常語<あらたまった日常語<文章語 しかし,「日常語」の中には「けれども」「いろいろな」のように話しことばの色合いが強く,論説文における語の文体としての適切性の判断が難しい語が存在し,その見極めが重要なことを指摘した。また,個々の語の文体表示を図るためにはシソーラス,コーパスのデータが有益であるため,その活用法の一端を示した。
著者
増田 恭子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.141, pp.3-13, 2009 (Released:2017-04-05)
参考文献数
36

本研究は母語の音韻構造が日本語モーラ(特に促音)の習得に与える影響を考察する。被験者は初級後半と中級の2つのレベルの英語母語話者(EL)24名,韓国語母語話者(KL)24名,日本語母語話者12(JS)名で,単語学習のタスクで産出された閉鎖音の非促音と促音,非閉鎖音の非促音と促音のC1V1C2V2のC2の閉鎖持続時間(CD)とV1の割合を比較した。また,V1の長音化によるエラーも調べた。結果はJSに比べ,ESは閉鎖促音のCDのV1に対する割合が小さく,逆に,KLはJSに比べ閉鎖促音のCDのV1に対する割合が大きかった。また,ESにはV1の長音化によるエラーが確認されたが、KLには確認されなかった。更に,KLは閉鎖促音のV1の長さのコントロールという点でもJSとの違いが見られた。以上,学習者の語彙習得には母語の音韻構造が密接に関わっていることが判明した。
著者
齋藤 ひろみ
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.156-162, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
5

年少者日本語教育では日本で生まれ育った外国人児童への日本語教育が新たな課題となっている。その教育の充実には,日本人児童や学齢期来日児童とは異なる彼らの日本語発達の特徴を把握することが不可欠である。小論では,就学後(6月)に日本生育外国人児童(8名)を対象に行ったインタビュータスクの会話資料を,日本人児童(7名)との比較を通して分析した。タスクの評価では,外国人児童は日本人児童に比べ,インタビューの報告タスクで達成度が低かった。また,会話のなめらかさや文の複雑さにおいて大きな差が見られた。会話の分析からは,日本生育外国人児童の場合,会話生成力,会話の流れの中で発話を理解する力,相手の発話に応じて新情報を提供したり情報を再構成したりする力が,日本人児童に比べて弱いと考えられた。ただし,特定文脈における発話資料に基づく試行的な調査であるため,今後は,調査対象者数を増やし分析方法を精緻化するなどし,検証の妥当性を高めていく必要がある。
著者
市嶋 典子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.134-144, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
5

本稿では,M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)によって,学習者の相互自己評価活動に対する認識を調査・分析した。分析からは,学習者らが,学習者同士が互いに行うという相互自己評価活動に対して心理的負担を抱きながらも,これらの葛藤と向き合い,評価を再解釈していくプロセスを生み出していったこと,自身の価値観が変化したことに意義を見出し,この変化を将来の日本語学習への動機付けとして位置づけるようになったことが明らかになった。一方で,このように相互自己評価活動に対して意義を感じつつも,不満も抱いていることが明らかになった。以上の分析結果を踏まえ,相互自己評価活動の意義と課題を考察した。
著者
スルダノヴィッチ イレーナ ベケシュ アンドレイ 仁科 喜久子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.69-79, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
18

従来,日本語教育における語彙や文法のシラバスは教師や教材の作成者の直感と経験に基づいて作成されることが多かった。本稿は日本語教育へのコーパスの応用を考え,複数のコーパスに基づいた語彙シラバス作成の妥当性と可能性を探る。分析結果に基づいて,学習者の目的とコーパスの種類との関連,また項目の導入段階と適切なコーパスにおける項目の頻度との関連を考慮したシラバス作成方法を提案する。その一例として,推量副詞と文末モダリティの共起を取りあげ,複数のコーパスの中から,抽出した語および共起表現とその頻度・重要度を比較検討することで,従来のシラバス項目を改善することを提案する。
著者
庵 功雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.58-68, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
15

「でしょう(だろう)」には推量と確認の2つの用法がある。しかし,実際の発話データを分析した結果では確認が多数派である。特に,推量の「でしょう」の言い切りの用法は極めて少ない。「でしょう」で言い切ることができるのは発話者が「専門家」である場合(天気予報はその典型である)など一部の場合に限られる。にもかかわらず,日本語教科書では推量の「でしょう」(言い切り)は必ず導入されている。これは「体系」を重視する日本語学的発想によるものであり,「日本語学的文法から独立した」日本語教育文法という立場からは否定されるべきものである。本稿では発話データと日本語教科書の分析を通して,「でしょう」の実相を明らかにし,それに基づいて「でしょう(及び「だろう」)」の導入の順序について論じる。本稿は白川(2005)らが主張する日本語教育文法の内実を豊かにすることを目指すものである。
著者
前川 喜久雄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.4-13, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
12

日本語教育における音声研究の課題のひとつに,学習者が生成する日本語音声に生じる外国語なまりの研究がある。この現象をきちんと研究するためには,大規模な学習者音声データベースが有効であり必須でもある。その理由としては,過去の対照言語学的研究が音韻論に基づくトップダウン分析が音声変異の研究には無力であることを示していることにくわえ,母語の音声認識の研究がボトムダウンに構成される音響モデルの有効性を示していることがあげられる。本稿の後半では,日本語学習者データベースの仕様,構築手法,解析上の可能性について筆者自身のコーパス構築経験に基づく見解を述べた。最後にコーパスに基づく日本語教育研究において学会が果たすべき役割についても意見を述べた。
著者
古別府 ひづる
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.143, pp.60-71, 2009 (Released:2017-04-07)
参考文献数
10
被引用文献数
1

本稿では,大学日本語教員養成における二人の海外日本語アシスタントの成長を,良き日本語教師観の変容という視点を中心に,PAC分析と半構造化面接の方法を用いて示す。 調査の結果,双方の渡航前と帰国後の良き日本語教師観に変化があった。帰国後の双方の変化として,派遣先の日本語教師の影響が強く出ていることがわかった。帰国後の,双方に共通の良き日本語教師観として,教室運営力と明るい人間性が挙げられた。さらに,二人の成長のプロセスには,共通点と異なる点が見られた。また,アシスタント以外のホームステイ等の体験が成長に関わることが考えられた。 これらの結果は,大学日本語教員養成の実習の延長線上にある日本語アシスタントの事前教育及び資質の特定に寄与すると考える。
著者
野々口 ちとせ
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.169-180, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
6

対話的問題提起学習では,言語文化が異なる者たちの間で「社会の共生を阻む自分たちの問題」の本質を見出し,共有することが目指される。本稿では,ある地域日本語教室で実施された日本人と外国人による対話活動で,外国人から提起された問題に対する参加者の認識が変化していく様相を記述し,相互学習としての対話の意義を示した。対話の成立には,他者の枠組みを否定しないで自己の枠組みを省察する姿勢と,他者の発言を支える協働的な言語使用で信頼を表出しながら,一時的な対峙が可能な環境を作り,当事者性を持って自分はどう思うかを率直に述べることが必要である。
著者
魏 志珍
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.133-144, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
13

日本語学習者の談話に見られる視点の不統一の問題について,本研究では視点表現に着目し,台湾人日本語学習者の事態描写における視点表現の使用や視点の置き方とそれらに影響する要因及び日本語の熟達度との関連性を検討した。調査に当たって,グループ別に異なる指示A「自由に書く」とB「登場人物になったつもりで書く」を与え,漫画の内容を記述させた。その結果,指示Bを受けた学習者は視点表現の使用量がより多く,さらに上位群の学習者は日本語母語話者に近づくような産出が見られた。一方,下位群の学習者は指示に関わらず,授受表現の使用が少なかったことから,たとえ視点意識があっても視点表現の習得が不十分で適切に用いられない場合もあると言える。したがって,学習者の視点表現の使用に与える影響は,「視点表現の習得の度合い」という要因の方が「視点意識の有無」という要因より大きいことが示唆された。
著者
文野 峯子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.15-25, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
43
被引用文献数
1

本稿では,教師自らが「あるべき姿」(横溝2009)に向けて変化し続けることを「教師の成長」と捉え,その実践に授業分析がどう貢献できるかを考察した。まず,日本語教室を対象とした授業分析の先行研究を概観した。次に,教師の成長には「自己主導性」(藤岡1998)が必要であり,自己主導性の獲得には教師自身が自分の授業を批判的に内省する授業分析が最適な方法であることを確認した。その上で,授業分析を教師の成長に役立てるために考慮すべき事柄を考えた。その結果,以下のような結論が導き出された。(1)システムや枠組みを利用することによって,より焦点化された体系的な観察が可能になる。(2)授業分析では,得られたデータを検討するプロセスが重要である。(3)データの検討過程では,さまざまな視点から解釈を試みる作業が有効である。(4)(3)の作業は,授業についてより深い理解をもたらすだけでなく,教師を思い込みから解放し,教師に自由と自信を与える可能性が高い。その結果,自己研修型の教師としての学びが期待できる。(5)授業分析や考察の作業は仲間との対話を通じて行うことでより効果的になる。