著者
戸田 貴子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.47-57, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本稿では,近年の学習者音声に関する研究成果を紹介し,音声教育実践について述べる。 三つの調査の結果から,1)発音上の問題がコミュニケーションの弊害になっているとの認識を学習者が示していることが明らかになった。一方,2)大人になってから学習を開始した場合でも,学習次第でネイティブレベルの発音習得が可能であることがわかった。また,3)学習成功者は発音学習に対する意識・学習方法・インプットの量などの理由に支えられて高い発音習得度を達成したことが示唆された。 これらの研究成果を踏まえ,教室内外において発音練習ができる学習環境を整備し,学習機会を提供することにより,自律学習を促していくことを提案した。具体例としては,1)シャドーイング練習用DVD教材,2)オンデマンド日本語発音講座,3)日本語発音練習用ソフトウェアの開発について述べた。
著者
松崎 寛
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.142, pp.25-35, 2009 (Released:2017-04-25)
参考文献数
8

従来の音声教育実践研究には,指導前後の発音成績等を比べた量的研究は多いが,教師と学習者の行動を質的に分析した研究はあまりない。本研究では,韻律指導時の内省および行動を,学習者,教師,観察者のメールによる報告をもとに分析し,教師に求められる知識および指導技術について,「モデル音を与えることの是非」「評価の食い違いと評価箇所のズレの問題」「誤用指摘方法の使い分け」「教師の正誤判断や解答を与えるタイミング」「学習者の発音に対する教師評価」等の観点から考察した。
著者
宇佐美 洋
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.145-156, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
8

本論文では,「外国人が日本で行う行動」について,その実行頻度による再分類を試みた。この目的のため,日本在住の外国人に対し「社会の中で,どの言語行動をどのくらいの頻度で行っているか」を問う質問紙調査を行い,欠損値のない908名分の回答に対し因子分析を実施,6因子を得た。このうち第3~第6因子は特定の状況・場所でのみ行われる行動と,第1,第2因子は個人的状況を問わず必要となる可能性のある行動と結びついていた。 第1,第2因子の負荷が大きかった行動の性格を詳細に検討すると,第1因子には「生きていくために必要となる私的な行動」が,第2因子には「人と深く関わるために必要となる公的な行動」が多く結びついていた。また,日本語レベルと第1因子の因子得点との間には高い相関があったのに対し,第2因子の因子得点との相関は決して高くなく,第2因子の行動頻度はむしろ職業・身分から強い影響を受けていることが示唆された。
著者
魏 志珍
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.133-144, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
13

日本語学習者の談話に見られる視点の不統一の問題について,本研究では視点表現に着目し,台湾人日本語学習者の事態描写における視点表現の使用や視点の置き方とそれらに影響する要因及び日本語の熟達度との関連性を検討した。調査に当たって,グループ別に異なる指示A「自由に書く」とB「登場人物になったつもりで書く」を与え,漫画の内容を記述させた。その結果,指示Bを受けた学習者は視点表現の使用量がより多く,さらに上位群の学習者は日本語母語話者に近づくような産出が見られた。一方,下位群の学習者は指示に関わらず,授受表現の使用が少なかったことから,たとえ視点意識があっても視点表現の習得が不十分で適切に用いられない場合もあると言える。したがって,学習者の視点表現の使用に与える影響は,「視点表現の習得の度合い」という要因の方が「視点意識の有無」という要因より大きいことが示唆された。
著者
広谷 真紀
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.145, pp.72-83, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
16

第二言語習得研究において,学習者が母語話者と自分の言語表現の使い方の違いや間違いに気付くことは言語習得を促すものとして指摘されている。それをうけ,学習者のブログなどのComputer Mediated Communication(CMC)のデータの管理ができて,表現の分析ができる教師用のツールと,学習者側も自分の過去の言語データを模範例と比較しながら自分の表現を省みることができる学習者用のツールの開発をした。それらのツールを1学期にわたって実際のコースで使用したが,学習者たちがレビューを通じて模範例との違いに気付き,その後の表現の使用に生かすようになったのかどうかを検証する。
著者
田中 共子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.61-75, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
22

ソーシャルスキルは,対人関係の形成・維持・発展に役立つ技能を指す心理学の概念であり,内容や機能に関する調査や実験が蓄積され,教育訓練の方法が発達している。異文化圏では,挨拶,主張,遠慮,社交辞令などの対人行動が未知であると,困難や誤解が生じる。そこで,文化的行動の背景や異文化交流の要領として,異文化圏での人付き合いに役立つ認知や行動を抽出し,社会的行動の学習を試みるのが,異文化間ソーシャルスキル学習である。本稿では,在日留学生を対象とした研究をもとに異文化適応とソーシャルスキルの関わりを論じ,この心理教育を異文化間教育として使う場合の概念枠組みと学習セッションの概略を紹介する。そして,将来的な研究課題を述べる。ソーシャルスキルが適応にどのように関わるのか,ホストとの対人関係形成,およびホスト文化への関わり方の観点から考察し,日本語教育との接点を探る。
著者
伊東 祐郎
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.57-71, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
9
被引用文献数
1

最近の大規模テストでは,問題をコンピュータ上で提示し,受検者の反応によって瞬時に適切なものを出題する適応型テストが開発されるようになってきた。適応型テストの実用化には,事前に問題群が統計的数値に基づいて分類され整理されたテスト問題のデータベース,即ち,項目バンク(item bank)が不可欠である。項目バンクは,①蓄積機能:作成した項目を,コンピュータ内に蓄積し保存する機能,②抽出機能:出題の目的や評価しようとする領域に基づいて,必要な項目を検索し抽出する機能,③組み替え機能:項目困難度,項目弁別力などの条件によって抽出した項目群を,必要に応じて問題文を新たに組み合わせたり,選択肢の組み替えを行ったりする機能,④作成機能:蓄積・保管されている項目を,測定目的に応じて編集・加工・削除する機能等を有している。本稿では,項目バンク作成の背景となるテスト理論の諸概念について解説するとともに,実際の項目バンク開発の一例を紹介し,今後のテスト作成の在り方を探る。
著者
西原 鈴子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.148, pp.4-12, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
11

日本国内に留学生を受け入れることには,個々の留学生の知的達成目標と将来計画の充足を支援するという直接的目的のほかに,受け入れる日本社会の側からの期待が込められている。(1)日本の知的資源の国際的共有,(2)高等教育の活性化,(3)知日・親日人材の育成,(4)将来における生産年齢人口の質・量確保,などである。現行の計画の中で(1)の要因を満足させるには,英語力のある学生を優先的に獲得することが重要となるが,(4)のためには卒業までに日本社会で活躍できるだけの日本語能力を養成する責任を負うことを念頭に入れた,入学時の学生受け入れが肝要である。 日本留学の出発点においては,留学生としての資格を得るために「日本留学試験」などの関門が設けられており,各高等教育機関は,それらの大規模テストを主体的に活用することが求められている。しかし,大規模テスト自体にも制約が多く,留学生受け入れに果たす役割と持つべき性格に関して,現時点では関係各方面に認識が共有されているとはいえない。むしろ留学生に対する期待の違いに起因して錯綜する要因の存在が浮き彫りになる。留学生受け入れのためには,テスト制度の改善と共に,留学生受け入れに関して,日本の高等教育および日本社会の将来を視野に入れた議論が必須である。 さらに,受け入れた留学生が卒業・修了後に日本社会に定着し,中核的な人材として活躍することも見据えた,長期的展望に立った総合的留学生政策の策定が必須である。そのための産学官の連携,地域社会の行動計画を含めたさらなる議論を展開することが必要である。
著者
田川麻央
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.151, pp.34-47, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
31

本研究は,要点探索活動と構造探索活動,その両方を促す要点構造探索活動と構造要点探索活動が日本語中級学習者の文章理解に及ぼす影響を検証した。協力者は,国内で高等教育機関への進学を目指す中級日本語学習者86名である。計画は要点探索群,構造探索群,要点構造探索群,構造要点探索群,統制群の一要因被験者間計画である。割り当てられた活動を行いながら因果型の説明文を読んだ後,筆記再生課題と正誤判断課題を行った。データは要点理解,全体構造理解,要点構造の理解の観点から分析した。結果は,要点理解で構造要点探索群が構造探索群や要点構造探索群,統制群より効果があった。全体構造理解には差がなかった。要点構造理解は,構造要点探索群と要点探索群が促進した。以上より中級学習者にとって全体構造の理解は容易ではないが,構造と要点の順番で両方を探索させることが要点理解と要点構造の2つの理解を促進させることが示唆された。
著者
池田 順子 深田 淳
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.152, pp.46-60, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
19

Speak Everywhere(以下SE)は,インターネットの繋がる環境にいれば,どこからでもアクセスでき,学習者が個人的に口頭練習をしたり,オーラルテストを受けることができるウェブベースのシステムである。本稿では,このSEを取り入れたスピーキング重視のコース設計とその実践について報告する。SEをカリキュラムに組み込み,教室活動と密接に連動させることで以下の成果が得られた。(1)本来,個人練習であるべき基礎口頭練習が授業時間外で個人的にできるようになり,口頭練習の機会が増え,さらにそこで得られた授業時間をコミュニケーション活動の充実にあてることができた。(2)オーラルテストを,対面式に加え,SE上でも行うことによって,貴重な授業時間を確保でき,またスピーキング能力を評価する機会も増えた。(3)学習者はより快適な環境で,個人的に練習したり,オーラルテストを受けたりすることができた。(4)学習者の多くがSEのシステムに対し,肯定的な評価をした。
著者
広瀬 和佳子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.152, pp.30-45, 2012 (Released:2017-02-17)
参考文献数
11

本研究は,書くことを協働で学ぶ学習者の相互行為を,発話の単声機能と対話機能の観点から考察した。学習者の言いたいことは固定的なものではなく,他者との対話によって変容し,明確化していった。このような発話の対話機能よりも,情報の正確な伝達を重視する単声機能が優位になると,権威者である教師や専門家のことばで語ることが目標となり,学習者は自分の言いたいことが実感できない。日本語だから表現できないというもどかしさを抱えることになる。学習者が「本当に言いたいこと」を表現するためには,対話を通して内省を深め,他者のことばとの葛藤によって新しい意味を創出していく過程,すなわち対立する価値観をぶつけあい,他者との関係をつくっていく過程を経る必要がある。
著者
三井 さや花
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.154, pp.115-122, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
6

日本語には,名詞の単数形と複数形に文法上の対立がないため,英語母語話者が日本語を産出する際,名詞の単・複対立の誤用が起こることは少ないと考えられている。つまり,日本語母語話者が英語を産出する際に文法範疇としての「数number」についてかなり意識をしているのに対し,英語母語話者が日本語を産出する際は文法的現象としての「数」概念については考慮する必要がないとされている。しかし,実際には指示語による複数提示において,複数接辞や数量表現を伴わない単数での指示表現を使ってしまうこと,また類例として挙げた先行詞を指示詞単数形で示してしまうことにより,誤用が生じていることがわかった。英語母語話者が複数指示を明確にしたい場合には,複数を表す接尾辞か数量表現,または指示詞複数形等で明示する必要がある。
著者
松下 達彦 陳 夢夏 王 雪竹 陳 林柯
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.177, pp.62-76, 2020-12-25 (Released:2022-12-26)
参考文献数
32

本研究では日中対照漢字語データベースを開発した。日本語の語彙における,漢語 (字音語) の日中両語の意味対応パタンを文化庁 (1978),三浦 (1984) を参考に6種類に分類した結果,頻度上位2万語のうち,50%が漢語で,漢語の70% (全体の35%) が同形語で,30% (全体の15%) が非同形語であること,同形語7,074語のうち,82% (全体の29%,漢語の58%) が同形同義で,18% (同形語の6語~5語に1語) が同形類義や同形異義といった要注意の語であること等が明らかになった。本データベースは語の検索などで直接利用できるほか,J-LEX (菅長・松下,2014) のような語彙頻度プロファイラーへの搭載によって,文章の語彙的負荷の母語別表示機能や,対象者母語別のリーダビリティ計算,中国語母語学習者にとっての要注意点を表示する機能への応用が期待される。
著者
立川 真紀絵
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.189-197, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
12

本研究では,中国人ビジネスパーソン(以下CBP)に対するインタビューから,CBPの在日日本企業における異文化間コンフリクトの対応方法を分析した。その結果,「回避」「順応」の対立管理方式が多く用いられ,対応方法には言語・文化的マイノリティーや部下であること等の職場環境的な要因の影響が考えられた。一方,それらの多くは発想の転換や相手情報・企業ルールに基づく理解等,多様な働きかけを伴っており,戦略的な使用が観察された。「回避」「順応」がCBPに多用される中で,その一部は主体的な対立管理となり,有効に作用していることが示唆された。
著者
鎌田 倫子 中河 和子 後藤 寛樹
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.95-110, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
8

エンパワメント評価は評価活動自体をエンパワメント活動と捉え,評価によってプログラムの改善を目指す評価方法である。エンパワメント評価はどのように実践され,組織や当事者にどのような変化がおこるのか,日本語プログラムにおける評価実践から見えてきた点を報告する。大学の理系小規模日本語プログラムでエンパワメント評価を実践し,プログラム当事者のエンパワメントによりプログラムの改善を目指した。評価実践を1期実施した中間点で,プログラム当事者である教員の変化について分析した。エンパワメント評価の導入には,プログラムがエンパワメントされることを希求する「エンパワメント文脈」が必要とされることから,当該プログラムのエンパワメント文脈について検討した。より困難なプログラムに向くとされるエンパワメント評価を,同様の困難を抱える日本語プログラムに適用すればプログラムの改善に繋がることが期待される。
著者
松尾 慎
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.155, pp.35-50, 2013 (Released:2017-02-17)
参考文献数
18

本稿は,群馬県太田市で日系ブラジル人の子どものために開かれている母語(ポルトガル語)教室における実践を取り上げる。この教室は太田市内の学校関係者などボランティアによって運営されており,東京女子大学の学生団体「ぱずる」のメンバーも活動に参加している。本稿では,母語教室での実践が子どもたちや参加学生にとっていかなるエンパワーメントにつながるのかを観察記録と「ぱずる」メンバーが書いた振り返りを主な材料にして論じた。結果として,それぞれ異なる背景を持つ子どもたちが,学習支援者と学生との間の協働実践を通して達成感を得ている様相が認められるとともに,教室活動において新たな役割を担うことで肯定的な自己概念が生まれるプロセスが確認された。また,教室内でのブラジル人スタッフや子どもの働きかけにより,支援する学生の参加の形態が変化し,多文化や複文化を受容し共生していく能力が涵養される事例が見られた。
著者
田中 祐輔
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.156, pp.60-75, 2013 (Released:2017-03-21)
参考文献数
61

本調査報告は,学術誌『日語学習与研究』(1979~2012)を対象に,現代中国における日本語教育論議について,過去から現在にかけてどのような人々が何についてどのような指摘をしてきたかを整理するものである。結果(1)日本語教育論議は1990年代初頭から活発化し,(2)執筆者は北京や吉林,沿岸部諸都市の大学に所属する教師が半数を占め,(3)研究対象は大学の日本語教育が6割以上であり,(4)研究分野は「言語習得・教授法」と「言葉の運用」が約半数を占めること,(5)これまでに,文学重視・文化理解・コミュニケーション能力育成・国家建設・中国独自の日本語教育スタイル・学習者中心・研究型人材育成・社会ニーズへの対応・教養力・学習者主体・複合型人材・ビジネス日本語等に関する指摘がなされたこと,の5点が明らかとなった。
著者
中俣 尚己
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.156, pp.16-30, 2013 (Released:2017-03-21)
参考文献数
11

「も」に関しては従来,意味による分類が行われていたが,この論文では構文のタイプが学習者の母語に存在するかしないかによって習得難易度に差があるのではないかという仮説を立て,JFL環境の中国語話者を対象に,3種の調査によってそれを検証した。理解について調べた文法性判断課題においては構文タイプによる差は見られなかった。しかし,産出について調べた翻訳課題ならびに作文課題においては,通常の「AもP」構文の使用に全く問題ない学習者であっても,「AもBもP」構文や「AもP,BもP」構文の使用は難しいという,母語の干渉の存在を支持する結果が得られた。この結果は,産出のための文法を考える際には,日本語学の視点のみから記述された文法では不十分で,学習者の母語についても考慮する必要があること,またJFL環境における検証調査の重要性を示している。
著者
山田 智久
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.157, pp.32-46, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
27

本研究は,日本語教師二名へのPAC分析調査を3年の間を空けて,2回行い,教師のビリーフの変化,および変化を促した要因について分析したものである。PAC分析調査の結果の比較から教師のビリーフには,その性質によって変化しやすいものと変化しにくいものがあることが分かった。変化しやすいビリーフの特徴としては,形成されて間もないものであることや同質のビリーフが存在せずに単独で存在していることなどが挙げられた。反対に,変化しにくいビリーフの特徴としては,新人教師の頃に獲得されたビリーフであることや同じ性質を持つビリーフが集まったビリーフの塊が形成されていることなどが挙げられた。
著者
大場 美和子 中井 陽子 寅丸 真澄
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.159, pp.46-60, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
48

本研究では,会話データを対象とした多様な研究を「会話データ分析」という包括的な概念で捉え直し,学会誌『日本語教育』創刊号から153号で会話データ分析を行う研究論文170本を対象に,その研究の動向を年代別に分析した。まず,『日本語教育』中の(1)会話データ分析論文数の比率,(2)分析データ場面の傾向(母語場面,接触場面,両場面),(3)会話データの種類の傾向について年代別に集計した。次に,この集計結果に加え,各論文が分析項目として設定している項目も詳細に見つつ,当時の日本語教育の歴史的・社会的状況をふまえた総合的な分析を行った。この結果,80年代から会話データ分析の論文が増加し,分析も専門化・詳細化し,会話データ分析の研究成果を教育現場で活用することを主張する論文が増加していることが明らかとなった。今後は,より専門化・詳細化していく研究成果を多様化する教育現場で活用できるよう,会話データ分析の知見を多分野で共有し,連携していく重要性を主張する。