著者
大倉 沙江
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.23-30, 2018 (Released:2018-08-21)
参考文献数
5

高齢化の進展に伴い、中途障害者が増加している。このことから、聴覚障害者は手話、視覚障害者は点字といったステレオタイプを超えて、障害の種類や程度、コミュニケーション手段の違いに応じた情報提供が求められている。本稿は、障害がある有権者に対する選挙情報の保障に関わる国レベルの政策の現状と課題を明らかにすることを目的とする。具体的には、政見放送への手話通訳・字幕の付与、選挙公報の点訳・音訳を中心に、審議会の会議録や新聞記事を用いて検討を行った。分析の結果、政見放送については、衆議院議員総選挙の比例代表では字幕の付与が、参議院通常選挙の選挙区では手話通訳および字幕の付与が認められていないことが確認された。また、選挙公報については、点字版はすべての都道府県で作成されているものの、拡大文字版は半数以上の都道府県で作成されていないことが確認された。選挙情報の保障に向けて、障害がある有権者の選挙情報の保障をいかに、誰の責任で実現するかという点に関する政策決定者や有権者の間の合意形成を図ることが緊要であり、将来の政策展開に必要な課題が整理された。
著者
金 エリ 三友 仁志
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1_57-1_70, 2011 (Released:2011-10-05)
参考文献数
38

本研究は、モバイル版SNSの典型的なサービスであるモバイルツイッターの主たる利用者である大学生に焦点を当て、その利用がユーザー間の関係性と社会に与える影響の実証的分析を行うことを目的とする。対象として、モバイルインターネットが世界で最も高度に利用されている日本と韓国を選び、両国の大学生において、人間関係や社会的な影響にいかなる効果を及ぼすかを実証的に検証する。分析の結果、モバイルツイッター利用によるユーザー間のコミュニケーションの頻度数は増えたが、実質的な人間関係の変化に与える影響は限られることがわかった。また、フォロワーが多い政治家や有名人などの影響力より、良質の情報を提供するユーザーの影響力の方が大きいという結果となった。このことから、今後提供される情報の内容は、さらに詳細に細分化された専門的なものになる可能性があることが示唆される。
著者
斉藤 邦史
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.83-92, 2014 (Released:2014-11-27)

著名人の氏名や肖像が宣伝広告や商品事業等に利用された場合に問題となるいわゆるパブリシティ権の侵害における準拠法選択に関しては、市場の横取りという側面を重視し法適用通則法17条の適用範囲に含める見解と、信用毀損との類似や肖像等の人格的側面を考慮して19条の適用範囲に含める見解とが対立している。本稿では、パブリシティ権の侵害における準拠法の選択について、周辺事例に関する裁判例および学説の概観を通じて、見解が分かれている通則法の解釈を検討し、以下の考察を得た。第一に、19条の定める単位法律関係の範囲は、人格的な権利利益の侵害に限定されると解すべきである。第二に、パブリシティ権の侵害における法律関係の性質は、人格権としての氏名権や肖像権との区別に鑑みて、不正競争の一類型と理解すべきである。第三に、パブリシティ権の侵害を理由とする差止請求と損害賠償請求は、いずれも17条および20条により準拠法を決定すべきである。
著者
小寺 敦之
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.51-59, 2014 (Released:2014-04-28)
参考文献数
16

本稿は、その定義や指標に焦点を当てながら、日本国内における「インターネット依存」に関する調査研究のメタ分析を行うものである。CiNiiやNDL-OPACから「インターネット依存」や「携帯電話依存」についての実証的研究を行った論文53編を抽出して分析したところ、海外の状況と同様にその定義や用語の使い方が曖昧であることが明らかになった。また、指標については、DSM-IVを転用したYoung(1996, 1998)の尺度を基盤にするものに加え、自由回答から作られた項目で構成される尺度が開発されているという独自性が見られた。サンプルや因果関係の仮定に偏りがあることも問題点として挙げられた。日本でも「インターネット依存」の概念検討は不充分な状況にあり、言葉のみが拡散している可能性がある。本稿では、このような状況で「インターネット依存」に対する対策が採られることには注意が必要であると主張している。
著者
塚原 康博
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.1-13, 2020 (Released:2021-02-02)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本研究では、インターネット通販の拡大を背景とする宅配クライシスの問題を取り上げ、それをもたらした要因、それを解決もしくは緩和するための方策を考察した。本研究では、さまざまな方策のうち、再配達の有料化に注目し、その実現可能性について、全国調査の結果を基に検討した。この調査の結果から、再配達を有料化すると、多くの回答者に行動変容が生じ、1 回目での受け取りが増えるので、再配達の削減が期待できる。また、有料化の導入に際しては、多くの回答者が再配達の配送料に対して支払う意思を示している。有料化における配送料の金額設定に関しては、回答者による支払い可能な金額の最頻値、中央値、平均値が参考になるが、配達される品物の金額が10000 円以内のケースにおいて数百円程度であると考えられる。有料化で得た収入は、宅配ボックスの設置数の増加や配送員の増員などに活用できる。全国調査の結果から再配達の有料化は実現可能であり、宅配クライシスを緩和する効果は得られると期待できる。
著者
井口 貴紀
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.41-51, 2015

現代日本ではゲームが社会に浸透していて、代表的な娯楽メディアとなっている。これまでのゲーム研究はメディア研究において暴力表現が強調されたゲームで遊ぶことによる人への悪影響や、教育ゲームで遊ぶことによる人への教育効果など伝統的な効果研究を中心に行われている。加えて現代のゲームジャンルは多様化しているけれどもゲームジャンルの研究も効果研究が中心である。そこで本研究ではユーザー側の利用動機と好きなゲームジャンルに焦点を当てて、大学生1503名の量的調査とインタビューによる質的調査を行った。調査の結果、好きなゲームジャンルによって利用動機が異なることと、利用動機の高いジャンル群と低いジャンル群が存在してそれによってゲームのプレイ時間や費やした金額が異なっていた。
著者
大野 志郎
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-10, 2016 (Released:2016-06-17)
参考文献数
32

SNS や動画サイト、オンラインゲームなどの普及に伴い、憂うつな気分やストレスからの逃避を目的としてウェブサービスを使用する「ネット逃避」の機会が、特に青少年に増えている。ネット逃避はインターネット依存の一因となり、日常生活における実害となって顕在化するものと考えられる。しかしながら、ネット逃避と実害との関係性については、十分に研究が行われていない。本研究では都立高校の生徒 (n=15,191) を対象に質問紙調査を行い、抑うつが、ネット逃避、インターネット依存を介してネット使用の実害へと結びつく構造について検証を行った。共分散構造分析の結果、抑うつがネット逃避 (.23) と潜在的ネット依存傾向 (.04) へ、ネット逃避が潜在的ネット依存傾向 (.66) とネット使用の実害 (.06) へ、潜在的ネット依存傾向がネット使用の実害 (.72) へ影響する、逃避型インターネット依存モデルの適合を確認した。このモデルは、ネット逃避が、インターネット依存を介してネット使用の実害へと結び付く強いパスを示している。抑うつなどの心理的ストレス要因に対し、ネット逃避に代替する効果的な対処方法を見つけ出すことが重要である。
著者
山口 真一
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.15-27, 2015 (Released:2015-07-30)
参考文献数
35
被引用文献数
1

本研究では、コンテンツ産業におけるインターネット配信について、それらがパッケージ製品販売数に与える影響を、補完効果と代替効果という観点から理論的に整理する。そして、深夜アニメ市場の需要モデルを用いた実証分析によって、定量的な検証を行う。作品をグループ、エピソードを系列とした固定効果法推定の結果、無料配信の補完効果は代替効果より大きく、パッケージ製品販売数に対して有意に正の影響を与えていた。そして、その大きさは、無料配信動画再生回数が1%増えるとパッケージ製品販売数が約0.10%増加するというものであった。また、有料配信は有意な影響を与えていなかった。このことから、少なくとも深夜アニメ市場については、インターネット配信を積極的に行うことが、生産者余剰と社会的厚生の増加に繋がることが確認された。さらに、詳細な分析の結果、男性向作品では無料配信、有料配信共に有意に正の影響を与えていた一方で、女性向では共に有意な影響がなかった。そして、オリジナル作品と人気作以外では無料配信が有意に正の影響を与えていた一方で、オリジナル作品以外と人気作では無料配信も有料配信も有意な影響を与えていなかった。
著者
辻 大介 北村 智
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.99-109, 2018

<p>インターネット上では、従来のマスメディア中心型の環境よりも、情報・ニュースの選択的接触が生じやすく、それによって人びとの意見の極性化が生じ、世論や社会の分断を招くのではないかという懸念が、多くの研究者や評論家から表明されている。本稿では、日本の「ネット右翼」やアメリカの"Alt-Right"に見られるようなネット上の排外主義に着目しつつ、2016年に日本とアメリカで実施したウェブ調査のデータから、ネットでのニュース接触が排外的態度の極性化(二極分化)傾向との連関について検証する。分位点回帰分析の結果、日本ではPCを用いたネットでのニュース接触頻度がユーザの排外的態度の二極化傾向と有意に連関していたが、アメリカではむしろ専ら反排外的な方向のみに変化させることが確認された。このことは、ネットにおける態度・意見の極性化の生起が、社会・政治・文化的コンテクストによって左右されることを示唆している。</p>
著者
山口 真一 坂口 洋英 彌永 浩太郎 田中 辰雄
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.69-79, 2016 (Released:2017-02-06)
参考文献数
13

情報通信産業の新しいビジネスモデルとして、基本機能を無料で提供し、付加機能を有料で提供する、いわゆるフリーミアムがある。フリーミアムを採用しているサービスは急増しているが、特にその中でも、非定額型のデジタル財課金のビジネスモデルであるモバイルゲームは、高収益・高成長率を達成している。しかしその一方で、実証研究は少なく、ビジネスモデルの確立途上にある部分も多い。そこで本研究では、モバイルゲームのパネルデータを用いて実証分析を行い、消費者の支払行動と長期売上高の関係を統計的に検証する。推定の結果、前期の有料ユーザ 1 人当たりの平均支払額(ARPPU)は、今期の売上高に非線形で有意な影響を与えていた。また、その極大値は約 11,754 円であった。このことから、長期売上高最大化という観点からは、ARPPU が約 11,754 円になるようにイベントやガチャの頻度、アイテムの価格を調整することが最適であることが示唆された。また、フリーミアムを採用しているサービスの大半がマネタイズに失敗し、サービス終了となっている現在、非定額型フリーミアムは成功手法として着目されている。本研究の結果はモバイルゲーム以外にもいえる可能性がある。
著者
松原 聡 山口 翔 岡山 将也 池田 敬二
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.77-87, 2012-12-25

2010年代に入り、日本でも、電子書籍が普及し始めた。電子書籍では、コンピュータによる音声読み上げ技術 (TTS) を使うことで、音声で書籍の内容を聞くことが可能になる。このことは、視覚障害者に、読書の道が開かれることを意味する。しかし、日本においては、音声読み上げ対応の電子書籍はまだわずかしかない。<br>紙の書籍による読書が困難なのは、視覚障害者だけではない。読字障害者 (ディスレクシア)、身体障害者などの読書障害者ともいうべき者や、健常者であっても、指先をケガしてページをめくれない者、老眼が進んだ者なども含んだ読書困難者、さらには満員電車の中で、イヤフォンで読書をしたいというニーズもある。<br>こういった広範なニーズを踏まえて、政府は、すでに発足した出版デジタル機構などを通じて、積極的に、音声読み上げ対応の電子書籍の普及に取り組む必要がある。
著者
実積 寿也
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.13-27, 2015 (Released:2016-01-30)
参考文献数
50

情報通信技術(ICT)の急速な進歩を背景に、コンテンツ産業は、日本の持続的成長・発展を支える基盤産業としての貢献が期待されている。そのため、同産業に対して何らかの成長阻害要因が予見される場合は、相応の政策的対処を検討し、望ましい産業組織を育成する必要がある。近年のインターネットプロトコル(IP)技術の高度化は、ネットワーク産業とコンテンツ産業を垂直統合した新しいプレイヤーを生みつつあり、これら新型プレイヤーは、独占力のレバレッジを通じて競争政策上の新たな課題をもたらす懸念がある。具体的には、モバイルブロードバンド(BB)が主流になるにつれ、プロバイダ市場の寡占化が進み、コンテンツ・ディストリビューションの効率的確保が阻害される可能性がある。そのため、モバイル BB 事業者に対し一定の規律を与えることは、BB 市場の効率性改善の観点のみならず、コンテンツ産業育成の観点からも重要である。米国のネット中立性規制は、その際、良い参照例となろう。
著者
小寺 敦之
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.51-59, 2014

本稿は、その定義や指標に焦点を当てながら、日本国内における「インターネット依存」に関する調査研究のメタ分析を行うものである。<br>CiNiiやNDL-OPACから「インターネット依存」や「携帯電話依存」についての実証的研究を行った論文53編を抽出して分析したところ、海外の状況と同様にその定義や用語の使い方が曖昧であることが明らかになった。また、指標については、DSM-IVを転用したYoung(1996, 1998)の尺度を基盤にするものに加え、自由回答から作られた項目で構成される尺度が開発されているという独自性が見られた。サンプルや因果関係の仮定に偏りがあることも問題点として挙げられた。<br>日本でも「インターネット依存」の概念検討は不充分な状況にあり、言葉のみが拡散している可能性がある。本稿では、このような状況で「インターネット依存」に対する対策が採られることには注意が必要であると主張している。
著者
今江 崇 兼子 正勝
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1-13, 2013 (Released:2013-09-25)
参考文献数
18

近年、ユーザ・エクスペリエンス(UX)などユーザを重視する設計思想では、製品そのものにとどまらず、ユーザの使用体験をデザインすることが提唱される。筆者らはこれらの設計思想の検討を通じてユーザの概念を明確化する必要性を論じ、使用を、製品が予め決められた通りに機能するプロセスとしてのみならず、つどの使い方に応じてユーザと機能の関係が動的に生成するプロセスと捉える概念モデル (機能中心と、使い方中心の使用モデル) を提案する。本稿ではその概念モデルに基づき、ユーザの使用を定量的に把握する手法を検討する。即ち、先行研究の蓄積があるUXの評価項目を利用し、UXに配慮し設計された製品である初代iPadを事例とし、そのユーザの使用体験が記述されたブログをテキストマイニングの手法で分析する。そして形態素の出現傾向から、使い方中心のモデルで捉えうる使用のあり方を定量的に把握し、使用を通じて活性化するユーザと機能の関係を確認する手法の検討を行う。これは質的データを定量的に処理することで、特定の製品の使用体験に関するユーザの主観的評価の傾向を俯瞰する試みである。これにより、ユーザの行動の活性化を企図して設計された製品に関して、実際にそうした活性化が実現しているかどうかを確認する方法について検討する。
著者
大磯 一 依田 高典 黒田 敏史
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.37-47, 2021 (Released:2022-01-28)
参考文献数
29

プライバシー保護とデジタルサービス利用を推進する政策の探求の観点から、マイナンバーカー ド、COCOA、LINE、スマートスピーカーの4 種類のサービスについて、約1400~2400 のオンラ イン調査回答を用いて、サービス採用行動とプライバシーリスク感覚(リスク感覚)について分 析した。 採用行動分析では、主観確率で計測したリスク感覚、利便性評価、主観利用率及び新デジタル 製品への積極性が採用確率との間で有意の関係であること、リスク感覚は最大で6~10%ポイン ト程度の採用確率の変動をもたらすことが分かった。 リスク感覚の分析では、リテラシーとリスク感覚緩和の間の関係を確認したほか、スマートス ピーカー以外の3 サービスについて、オンライン事業者への信頼、個人情報保護制度への信頼及 び漏えい等ニュースが多いという感覚がリスク感覚の緩和と関係することを発見した。スマート スピーカーについては、インターネット上のトラブル経験とリスク感覚緩和の関係性を示した。 トラブル等の「悪い」情報と制度の対応状況や再発防止策等の情報の提供により、信頼・リテ ラシーの向上とリスク感覚の緩和、採用行動促進が可能と考えられる。