- 著者
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深見 智子
- 出版者
- 公益財団法人 日本心臓財団
- 雑誌
- 心臓 (ISSN:05864488)
- 巻号頁・発行日
- vol.49, no.10, pp.1097-1098, 2017
<p> <b>【目的】</b>Auto SV(以下ASV)を導入する慢性心不全患者に,QOLが低下することなく患者らしい生活を継続するために有効であった支援を明らかにする.</p><p> <b>【症例】</b>A氏50歳代後半男性.心エコー結果:EF 21.7% 199X年に特発性拡張型心筋症と診断され入院加療,内服にて心不全治療されていた.201X年かかりつけ医より『余命1年です』と宣告されたため当院での治療を希望された.A氏は2回の心不全入院を繰り返し,入院時から『眠れない,熟睡感がない』と訴えた.家族は『夜寝る時にすごいイビキと息が止まっている感じがしする』と言われたため,心不全チームにて陽圧治療の適応について検討した.</p><p> <b>【経過】</b>201X年1月簡易睡眠検査結果はAHI 30.0回/h,中枢性無呼吸主体の重症SASでありチェーンストーク様呼吸を認めた.しかし,A氏に陽圧治療を導入すると医療費の負担(指導料)が大きくなることが予測されたため,医療費の負担を軽減できるように医師,社会福祉士と検討し調整をした.3月に実施した終夜睡眠ポリグラフィー検査結果はAHI 43.6回/hであった.A氏にCPAP導入の必要性を説明し患者指導と試験実施を開始した.A氏はCPAP導入後も『熟睡感がない,眠れない』と睡眠に対する自覚症状の変化を認めなかった.CPAP解析結果はAHI 33.3回/hでありCheyne-Stokes respiration(以下CSR)が残存している状態であった.そのため,医師,臨床工学技士,看護師と協議を行いCPAPからASVへ変更した.ASV解析結果はAHI 33.3回/hからAHI 12.3回/hまで低下した.A氏はASV使用後,仰臥位での睡眠が可能となり睡眠導入剤を離脱することができた.A氏は『こんなに眠れたのは久しぶり.朝方の息苦しさもないし,夜に起きることもなかった.こんなに楽に付けられるとは思っていなかった』と話した.外来の定期受診時には日常生活やセルフモニタリングについて慢性心不全看護認定看護師が面談を行い,ASVについては慢性呼吸器疾患認定看護師がマスク装着の不具合や使用時の不安や疑問をA氏から確認し,適切に使用できているか解析結果を参考にフィードバックした.</p><p> <b>【結果】</b>A氏に入院中から外来において適切な支援と医療費の負担額を軽減できたことがASVを継続的に使用することに繋がった.CPAPからASVへの変更を余儀なくされたが,AHIの改善と睡眠に対する自覚症状が消失し,睡眠導入剤を使用することなく熟睡感を得ることができた.</p><p> <b>【考察】</b>慢性心不全ガイドラインでは,収縮不全を伴う慢性心不全患者においては,CSR-CSAは右室収縮機能障害,拡張期血圧低下とともに主要な予後悪化因子であり,CSR-CSAがあると死亡のリスクが2.14倍になることが報告されている.A氏も病期の進行から睡眠呼吸障害があることが明らかとなった.今回A氏にCPAP・ASVの解析結果から適切な陽圧治療を選択し,入院中から外来まで多職種と協働し包括的な支援を継続できたことが,ASVを継続的に使用することに繋がり睡眠の質が改善し,QOLを低下することなくA氏の望む生活を送ることができたと考える.</p>