著者
高橋 利之
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.688, 2010 (Released:2012-02-17)
参考文献数
3
著者
深見 智子
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.49, no.10, pp.1097-1098, 2017

<p> <b>【目的】</b>Auto SV(以下ASV)を導入する慢性心不全患者に,QOLが低下することなく患者らしい生活を継続するために有効であった支援を明らかにする.</p><p> <b>【症例】</b>A氏50歳代後半男性.心エコー結果:EF 21.7% 199X年に特発性拡張型心筋症と診断され入院加療,内服にて心不全治療されていた.201X年かかりつけ医より『余命1年です』と宣告されたため当院での治療を希望された.A氏は2回の心不全入院を繰り返し,入院時から『眠れない,熟睡感がない』と訴えた.家族は『夜寝る時にすごいイビキと息が止まっている感じがしする』と言われたため,心不全チームにて陽圧治療の適応について検討した.</p><p> <b>【経過】</b>201X年1月簡易睡眠検査結果はAHI 30.0回/h,中枢性無呼吸主体の重症SASでありチェーンストーク様呼吸を認めた.しかし,A氏に陽圧治療を導入すると医療費の負担(指導料)が大きくなることが予測されたため,医療費の負担を軽減できるように医師,社会福祉士と検討し調整をした.3月に実施した終夜睡眠ポリグラフィー検査結果はAHI 43.6回/hであった.A氏にCPAP導入の必要性を説明し患者指導と試験実施を開始した.A氏はCPAP導入後も『熟睡感がない,眠れない』と睡眠に対する自覚症状の変化を認めなかった.CPAP解析結果はAHI 33.3回/hでありCheyne-Stokes respiration(以下CSR)が残存している状態であった.そのため,医師,臨床工学技士,看護師と協議を行いCPAPからASVへ変更した.ASV解析結果はAHI 33.3回/hからAHI 12.3回/hまで低下した.A氏はASV使用後,仰臥位での睡眠が可能となり睡眠導入剤を離脱することができた.A氏は『こんなに眠れたのは久しぶり.朝方の息苦しさもないし,夜に起きることもなかった.こんなに楽に付けられるとは思っていなかった』と話した.外来の定期受診時には日常生活やセルフモニタリングについて慢性心不全看護認定看護師が面談を行い,ASVについては慢性呼吸器疾患認定看護師がマスク装着の不具合や使用時の不安や疑問をA氏から確認し,適切に使用できているか解析結果を参考にフィードバックした.</p><p> <b>【結果】</b>A氏に入院中から外来において適切な支援と医療費の負担額を軽減できたことがASVを継続的に使用することに繋がった.CPAPからASVへの変更を余儀なくされたが,AHIの改善と睡眠に対する自覚症状が消失し,睡眠導入剤を使用することなく熟睡感を得ることができた.</p><p> <b>【考察】</b>慢性心不全ガイドラインでは,収縮不全を伴う慢性心不全患者においては,CSR-CSAは右室収縮機能障害,拡張期血圧低下とともに主要な予後悪化因子であり,CSR-CSAがあると死亡のリスクが2.14倍になることが報告されている.A氏も病期の進行から睡眠呼吸障害があることが明らかとなった.今回A氏にCPAP・ASVの解析結果から適切な陽圧治療を選択し,入院中から外来まで多職種と協働し包括的な支援を継続できたことが,ASVを継続的に使用することに繋がり睡眠の質が改善し,QOLを低下することなくA氏の望む生活を送ることができたと考える.</p>
著者
中尾 浩一 近島 博道 山本 恵史
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.425-438, 2015 (Released:2016-04-15)
参考文献数
10

バソプレシンV2受容体拮抗薬 (トルバプタン) は心不全入院患者の新たな治療戦略として期待されるものの, 臨床現場での最適な使用法について不明な点が少なくない. 本研究では, 2011年7月~2013年9月に連続データを所有する全国121施設の診療データベースを用いて, 心不全入院に対するトルバプタンの処方実態を分析した.  心不全入院患者全体を対象とした集団 (A群 : 14,310例) を分析した結果, 入院期間中にトルバプタンが処方された群は988例 (6.9%) であり, その臨床背景はトルバプタンが処方されなかった群と比べて有意に重症で複雑な病態を有していた.  次に, トルバプタン早期処方の意義を検討するために, 慢性心不全の急性増悪による入院患者を対象とした集団 (B群 : 3,513例) を分析した. その結果, 早期トルバプタン処方群は, 早期未処方群と比較して, 同一施設への再入院患者である割合が高かった. 早期トルバプタン処方群は, 入院時BNP値およびクレアチニン値が有意に高値だったにもかかわらず, 院内死亡率および在院日数には差がなかった. 傾向スコアを用いて患者背景の不均衡を調整し, 早期にトルバプタンが処方される傾向にある層で比較すると, 実際に処方された群は, 未処方群と比較して, 院内死亡率に大きな違いはなかった (6.8%対7.4%) が, 在院日数が短縮される可能性 (中央値 : 15日対18日) が示唆された. 繰り返し入院する患者に入院早期からトルバプタンを使用する治療戦略は容認しうるものであり, 医療経済上の有用性が示唆された.
著者
高 永煥 四方 卓磨 中嶋 敏宏 三宅 宗隆 林 鐘声
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.21, no.8, pp.987-993, 1989-08-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
11

近年,ウイルス性心筋炎後に拡張型心筋症病態を呈する症例が散見される.今回,うっ血性心不全として発症し,拡張型心筋症様病態を呈するも,2年後には改善し,その約5年後に再びうっ血性心不全の型で発症した再発性ウイルス性心筋炎と思われる症例を経験し,ウイルス性心筋炎と拡張型心筋症の関連について考える上で,興味ある症例と思われ報告する.症例は18歳,男性10歳時,感冒症状を前駆症状としてうっ血性心不全の型で発症.心エコー上著明な左室腔の拡大と左室駆出率の低下を認めた.心不全症状改善後の左心機能の低下は続き,発症後3カ月目に行った右室心内膜心筋生検では著明な間質の線維化を認めた.また,ペア血清にて,コクサッキーB4ウイルスの有意の上昇を認めた.2年後,左心機能は回復,順調に経過していたが,約5年後(昭和62年4月)再び感冒症状を前駆症状として,うっ血性心不全の型で発症.前回同様著明な左室腔の拡大,左室駆出率の低下を認めた.右室心内膜心筋生検ではリンパ球の浸潤が主体で,問質の線維化は軽度であった.左心機能の回復は緩徐であったが,徐々に回復し,1年2カ月後の現在,左室駆出率の軽度の低下を残すのみとなった.免疫学的には,OKT 8の低下,OKT 4/OKT 8の上昇を認めた.
著者
貝原 俊樹 深水 誠二 吉田 精孝 河村 岩成 中田 晃裕 荒井 研 森山 優一 宮澤 聡 麻喜 幹博 北村 健 北條 林太郎 青山 祐也 小宮山 浩大 手島 保 西﨑 光弘 櫻田 春水 平岡 昌和
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.SUPPL.1, pp.S1_50-S1_54, 2015 (Released:2016-12-14)
参考文献数
7

高血圧症, 骨粗鬆症の既往がある83歳女性. 入院10日程前から食思不振があった. 入院4日前から食思不振が増悪し, ふらつきや1分程続く胸部圧迫感が出現した. 入院当日から動悸が出現したため, 当院を受診した. 心電図は洞調律で多形性心室性期外収縮が頻発し, 580msと著明なQT延長を認めた. 胸部レントゲンでは軽度心拡大を認めた. 採血では低カリウム血症 (2.3mEq/L), 低マグネシウム血症 (1.6mg/dL) を認めた. 検査終了後に突然強直性痙攣が出現し, 心肺停止となった. 無脈性多形性心室頻拍が確認され, 除細動150J 1回で洞調律に復帰した. 入院後は電解質を補正し, QT延長はやや遷延したものの, 心室性不整脈は著減した. また, 経過中たこつぼ様の壁運動を伴ったが, 第4病日で意識はほぼ清明にまで改善した. しかし第13病日に頭蓋内出血を発症し, 急変, 死亡退院となった. QT延長, 多形性心室頻拍に低カリウム血症, 低マグネシウム血症を伴った症例の報告は少ない. 本症例に関して, 低マグネシウム血症と心室性不整脈の観点から文献的考察を混じえ, 考察する.
著者
市川 啓之 櫻木 悟 藤原 敬士 西原 大裕 辻 真弘 横濱 ふみ 谷本 匡史 大塚 寛昭 山本 和彦 川本 健治 田中屋 真智子 片山 祐介
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.60-65, 2018-01-15 (Released:2019-03-28)
参考文献数
11

背景:急性冠症候群(ACS)の急性期には,糖代謝異常を認めることが多い.本研究ではACSの急性期に糖負荷試験を行い,糖代謝異常の経時的変化とその機序について検討した. 方法:対象は,ACSで当院に入院した患者のうち,糖尿病既往がなく,心不全などの合併症のない26名.急性期と亜急性期に75 gOGTTを施行し,インスリン分泌能および抵抗性の経時的変化を調査した. 結果:急性期には糖尿病型の割合が46%と多く存在したが,亜急性期には15%に低下した.急性期から亜急性期にかけて,Insulinogenic indexは有意に上昇した(0.50±0.46 vs 0.91±0.78,p=0.003).一方,HOMA-IRには変化がみられなかった. 結論:ACS患者では糖代謝異常が多く存在し,その原因として,インスリン抵抗性よりもインスリン分泌能の低下が大きく関与していると考えられた.
著者
櫻井 史紀 岩島 覚 早野 聡 佐藤 慶介 芳本 潤
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.181-187, 2020-02-15 (Released:2021-04-22)
参考文献数
23

成人先天性心疾患に神経性食指不振症を合併し経過中に心房粗動(atrial flutter;AFL)を発症した19歳女性を経験した.症例は生後に心雑音に気づかれventricular septal defect(VSD perimenbranous type),pulmonic stenosis(PS, valvular and subvalvular stenosis)と診断.3歳3カ月時に人工心肺管理下にVSD閉鎖術,右室流出路形成術施行.術後経過は良好であったが,16歳頃より神経性食思不振症(anorexia nervosa;AN)と診断され,その頃より動悸を自覚,入浴後に突然動悸が持続し救急外来受診,AFLが疑われたが,不整脈治療準備中に自然頓挫し動悸の症状も消失した.不整脈発症前の心臓MRI検査で右房右心系の拡大とpulmonary regurgitation fraction 39.8%を認め,ANの治療が長期に及ぶ可能性があったため心臓電気生理学検査を施行,三尖弁輪を反時計方向に旋回する頻拍が誘発されAFLと診断,アブレーション療法施行.その後の経過は良好であった.成人先天性心疾患症例では経年的に不整脈を合併するリスクがあるがAN等,不整脈を合併しやすい病態を合併した場合,さらに不整脈発症のリスクが高まる可能性があるため注意深い観察が必要と思われた.
著者
中前 恵一郎 桝田 出 東 信之 岩崎 新 髭 秀樹 今井 優 戸田 勝代 藤井 嘉章 鮎川 宏之 黒瀬 聖司 武田 定子 葛谷 英嗣
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.1357-1363, 2016-12-15 (Released:2017-12-15)
参考文献数
19

脳性(B型)ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は,心血管保護作用のほかに脂肪分解促進,インスリン抵抗性改善など代謝作用を有している.SGLT2阻害薬ダパグリフロジン(DAPA)の心機能や代謝・体組成への効果に対する心臓・代謝ホルモンとしてのBNPの意義を検討した.高血圧合併2型糖尿病患者24例(血中BNP 4 pg/mL以上,平均BMI 28.0 kg/m2,平均HbA1c 7.4%)にDAPA 5 mg/日を24週間投与し,心エコー,血液検査,体組成を測定した.生理活性を有する血中BNPは増加傾向(p=0.08)を示したが,非活性の血中NT-proBNP(p<0.05),NT-proBNP/BNPモル比(p<0.01)は低下した.心エコー拡張機能指標のE/e’や左房容積係数は改善し,空腹時血糖,HbA1c,血中インスリン値,体重,内臓脂肪面積,拡張期血圧は有意に低下した.血中BNPの増加は,脂肪分解,糖代謝改善作用などのBNPの生理活性が発揮されていることを示す可能性が考えられた.DAPAは,BNPの生理活性増強と心負荷軽減作用を介して,心機能や代謝に好影響を及ぼすことが示唆された.
著者
平岡 昌和
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.34, no.11, pp.891-911, 2002-11-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
92

肥大心や不全心では,不整脈の発現が突然死などを引き起こしやすく,その基盤にはイオンチャネルのリモデリングが関与する.肥大・不全心で最も多く見られる電気的変化は活動電位維持時間の延長と,その頻度依存性変化の消失である.そのイオン機序としては,一過性外向きK電流の現象が主因であり,チャネルメッセージや蛋白の発現低下も認められる.その他に,肥大が高度となると内向き整流Kチャネルの減少,遅延外向きKチャネルの二つの成分(Ikr,Iks)の減少・低下,を生じる.L型Caチャネルについては,軽度から中等度の肥大までは変化が少ないが,不活性化の遅延やβ受容体刺激に対する反応性の低下,などが認められ,高度肥大では電流値も低下する.一方,Na-Ca交換機構の亢進,細胞内Ca transientの低下と反応性の遅延などを生じる.さらに,ペースメーカーチャネルの発現,CI電流の活性化,伸展活性化チャネルの亢進などが,肥大や不全の異なる発現時期に現れてくる.これら様々なイオンチャネルリモデリングにより,活動電位延長から不応期の不均一性を生じてリエントリーの基盤をもたらし,また早期後脱分極からの異常興奮が生じやすくなる.また,Ca電流やNa-Ca交換機構の変化,細胞内Ca負荷などから,遅延後脱分極などによる異常自動能の亢進がもたらされ,不整脈の易発現性が高まると考えられる.
著者
西澤 寛人 住吉 正孝 土屋 洋人 韋 靖彦 圓山 雅巳 岡井 巌 丸山 園美 岡崎 真也 井上 健司 藤原 康昌
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.S3_93, 2009

症例は90歳, 女性. 5年前より発作性心房細動のためベプリジル100mg/日内服していた. 心エコーで基礎心疾患なく心機能は正常範囲内であった. 2007年6月ころより下腿浮腫が出現, 近医よりフロセミド20mg/日の投与を受けていた. 2008年7月ころからふらつきが出現したため当院を受診した. 入院時心電図は心拍数65/分の洞調律, QT時間0.44 (QTc 0.46), V2~4に著明なU波を認めた. 入院後, 多形性心室頻拍 (PVT) が繰り返し出現, 硫酸マグネシウムおよびリドカイン静注によりPVTは抑制された. 血液検査でK 3.4mmol/Lと低カリウム血症を認め, ベプリジルを中止しカリウムを補正した後はPVTの再発はない.  ベプリジル投与中のPVT発症には明らかなQT延長を伴わない場合もあり, 血清カリウム濃度には十分に注意する必要がある.
著者
児島 昭徳 大橋 壯樹 大城 規和 只腰 雅夫 小谷 典子 景山 聡一郎 青山 英和 亀谷 良介 安藤 みゆき 田中 昭光
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.848-854, 2019-08-15 (Released:2020-10-26)
参考文献数
11

症例は呼吸困難を主訴とする85歳の女性で近医より当院緊急搬送となった.右冠動脈後下行枝の閉塞による急性心筋梗塞後の後壁心室中隔穿孔と診断し,心不全に対し人工呼吸,強心薬での治療を開始したが,肺うっ血,尿量減少を認めた.そのためIMPELLA 2.5を挿入し,これにより血圧の上昇と尿量の流出を認め呼吸循環動態は安定した.その後心筋梗塞発症推定2週間後,IMPELLA導入6日後に手術を行った.経右室にて後壁基部よりの4 cmの心室中隔穿孔をパッチにて閉鎖し同時にIMPELLAを抜去した.術後2日後に抜管しその後の経過は良好でリハビリを行い2カ月後に退院となった.術後3カ月後に大腸がんに対して腹腔鏡下S状結腸切除術を行い,その後の経過も良好で近医にて外来通院中である.心筋梗塞後心室中隔穿孔に対しIMPELLAを使用し循環動態の改善と維持が可能となりその後待機的にパッチ閉鎖を行い救命し得た症例を経験した.
著者
工藤 龍彦 内堀 陽二 渥美 和彦 沼尾 嘉時 川守田 英夫 三浦 勇 設楽 正登 北村 信夫 石井 潔 橋本 明政
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.10, no.6, pp.595-598, 1978-06-01 (Released:2013-05-24)
参考文献数
11

われわれは,弁置換術後で抗凝血(薬)療法を実施中の患者が,納豆を摂取したのちThromb-test値が有意に上昇する現象を経験した.ヒトと家兎による裏付け実験で,日常食品である納豆に,強力なWarfarin拮抗作用を認めた.納豆が有するWarfarin拮抗作用は,納豆菌が腸内で多量のビタミンKを合成するためと推定した.抗凝血療法のポイントは,TT値を長期間,一定の治療域内に維持することにある.したがって,Warfarin投与患者に対しては,TT値に影響を及ぼす納豆を要注意食品として指導する必要があると考えた.
著者
八巻 通安
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.516-522, 2005-06-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
10

心疾患におけるST-T波の成因を考察するため,以下の臨床検討およびモデル心臓での検討を行った.[心室再分極のシークエンスとT波]心室再分極のシークエンスとT波の波形との関連を,健常者および陰性T波を有する陳旧性心筋梗塞患者,心肥大患者で検討した.体表面心電図は体表面87誘導点から記録し,心室再分極のシークエンスをrecovery timeから推定した.陰性T波について検討したところ健常者,心肥大,心筋梗塞のrecovery timeと陰性T波高は高い相関関係が認められた.一方,陽性T波高については健常者,心肥大においてはrecovery timeはよく相関したが,心筋梗塞では相関がみられなかった.すなわち心筋梗塞の陽性T波高以外のT波形状の成因はおおよそ心室再分極のシークエンス説で説明可能であるが,心筋梗塞の陽性T波高に関してはこの説では説明できず,傷害電流の関与などが考えられると思われた.T波を理解するうえでコンピュータ心臓モデルでの検討は不可欠である.そこでわれわれはユニット分割三次元心臓モデルを用いいくつかの疾患モデルを作成し,形成されるT波およびU波の形状を観察した.[心筋梗塞の陰性T波]梗塞領域の心筋細胞の単純に欠失のみでは胸部誘導T波は陽性のままであった.そこで梗塞周囲心筋の活動電位持続時間(APD)を延長させたところ胸部誘導に陰性T波が出現した.心筋梗塞にみられる広範な陰性T波は梗塞周囲心筋の電気的リモデリングを反映と考えられる.[心肥大の陰性T波]単純に細胞の追加のみで心筋肥大を作成したところT波は平定化したが,陰性Tは生じなかった.陰性Tを生じさせるためには肥大心筋の1)興奮伝導遅延,2)APD延長のいずれかが必要であった.陰性Tを生じるような肥大心心筋では電気生理学的な変化が生じていることが示唆された.[虚血陰性U波]限局した筋層にM細胞を設定すると陽性U波が出現した.この条件で,局所的にM細胞のAPDを短縮させ心筋虚血を模したところ,体表面上の対応する局所に陰性U波が出現した.M細胞領域を含む局所的な心筋虚血が,陰性U波の成立に関与していることが推測された.
著者
猪原 拓 寺内 靖順 神野 泰 大井 邦臣 西原 崇創 安齋 均 高尾 信廣 西 裕太郎 林田 憲明
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.38-43, 2010 (Released:2011-11-02)
参考文献数
17

たこつぼ心筋症から心破裂にいたった1例を経験したので報告する. 症例は89歳, 男性. 細菌性肺炎の診断にて入院. 入院翌日の心電図にてII, III, aVF, V2~6でST上昇を認めたため, 冠動脈造影を施行したが有意狭窄は認めなかった. 左室造影では, 心基部以外はほぼ無収縮であり, たこつぼ心筋症と診断した. 経過中, バイタルサインは安定しており, 心不全, 致死的不整脈を認めることはなかったものの, peak CK 2,200IU/Lという高値であり, ST上昇が遷延していた. 第6病日, 突然PEAとなり, CPRを施行したが, 救命できなかった. 心エコーにて心嚢液の貯留, 心嚢穿刺にて血性心嚢液を認めており, 心破裂にいたったと診断した.たこつぼ心筋症から心破裂にいたった報告は少数しかなく, 臨床的に重要な症例と考えられるため報告する.
著者
下岡 良典 牧口 展子 成田 浩二 福澤 純 鶴巻 文生 菅原 寛之 長谷部 直幸
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.284-291, 2017-03-15 (Released:2018-03-15)
参考文献数
17

無症候の60歳代男性.健診で高血圧と心雑音を指摘され,2010年10月に当院を初診した.聴診で拡張期雑音を聴取し,経胸壁心エコー検査で中程度の大動脈弁逆流症と大動脈四尖弁を認め,精査目的で当科へ入院となった.入院時の左室駆出率は62%であった.経食道心エコー検査,心臓CT検査から2つのlarger cuspと2つのsmaller cuspから構成される大動脈四尖弁を認めた.自覚症状がなく,左室拡張末期径も60 mm以下であったことから経過観察の方針とし,高血圧に対する内服治療を開始し退院となった.初診から5年間の経過観察期間内で明らかな臨床症状は出現しなかった.降圧管理と利尿薬の内服により,経胸壁心エコー検査では大動脈弁逆流症の進行もみられず,左室拡張末期径,左室駆出率の増悪はみられなかった.また大動脈径や弁基部の拡大も認めなかった.大動脈四尖弁は稀な疾患であり,臨床経過についてはほとんど報告がない.これまでの報告から四尖弁に起因する大動脈弁逆流症は比較的早期に外科的修復を要することが多いとされる.われわれの経験した症例から無症候性の大動脈弁逆流症と診断された症例においては,早期に内科的管理を行うことで外科的修復を回避ないし延期することの可能性が示唆され,修復時期の延期は修復方法の選択肢を広げ得る可能性も期待できる.