著者
伊藤 一貴 長尾 強志 坪井 宏樹 井手 雄一郎 鶴山 幸喜 速水 良高
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.10, pp.1094-1101, 2009 (Released:2013-07-24)
参考文献数
4
被引用文献数
1

心臓血管外科が併設されてない地方病院では, 重篤な症例に遭遇した場合には経皮的心肺補助装置(percutanoeous cardiopulmonary support; PCPS)や大動脈内バルーンパンピング(intraaortic balloon pumping; IABP)を装着し救急車で都市部の高次救急病院に搬送することになる. しかし, 標準規格の救急車では車内電源の電流容量は3.0 ampere(A)であるため, 複数の医療機器の使用により容量を超過する. この場合, 電力の再供給が不能になる場合がある. このため, IABPやPCPSの消費電流特性, 内部電池の容量および予備電源の確保について検討した. PCPSの消費電流は起動時に最大の2.3Aになるが, IABPでは充電が低下した状態では3.0Aを超えることがあった. このため, IABPの車内電源による利用には注意が必要と考えられた. PCPSではポンプ回転数に比例して消費電流が増加したが, IABPではパンピングレートやバルーン拡張率の変更による消費電流の変化は軽微であった. 充電された内部電池によりPCPSは約60分, IABPは約120分駆動できた. 人工呼吸器に付属する無停電電源装置を予備電源として応用することにより, PCPSを約60分, IABPを約30分間駆動できた. 無停電電源装置は病棟のセントラルモニターなどにも設置されているため, それらを活用すれば救急搬送に必要な電力を確保できると考えられた. 重症患者を搬送する機会のある施設では, 搬送時間, 使用する医療機器の消費電流特性, 内部電池の容量さらに予備電源についての検討が必要と考えられた.
著者
島田 和幸 山本 啓二
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.32, no.12, pp.1001-1011, 2000-12-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
39

大規模な臨床疫学調査や個々の臨床成績は,いずれも急性心筋梗塞のみならず,一過性心筋虚血,不安定狭心症,突然死,重症不整脈,および脳卒中などのほとんど全ての心血管系疾患が覚醒起床後の午前中の数時間の時間帯に集中して発症する事実を報告している.神経・体液性の生理的諸指標の概日リズムの研究を通して,何故この時期に疾患が多発するのかが次第に解明されてきた.たとえば,血圧や心拍数は交感神経活性の充進とともに"morningsurge"という早朝の急激な上昇が観察される.これらが単なる生体内時計による生物学的現象の日内リズムのなせるわざではないことは,覚醒後故意に起床を遅らせた場合,生理諸指標の変動や心血管系疾患の発症時間も並行して後ろにシフトすることから理解できる.生物現象としての生体内時計と人間の行動が生み出す日内リズムの総和として,心血管系疾患の概日リズムが形成されると考えられる.これらの病態をふまえて,時間薬物治療学などの概念を導入しつつ心血管系疾患への対処を考えることが重要である.
著者
日本循環器学会AED検討委員会
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.303-307, 2003-04-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
10

致死性不整脈によって心停止を起こした患者は,心停止後数分以内の電気的除細動によってのみ蘇生できる.現場近くにいる人が即座に除細動器を使って除細動を行えばそれが可能となるが,現状では一部の有資格者しか,この器械の使用が許されていない.近年,操作が簡単で,専門知識を必要とせず,しかも安全に使用できる自動体外式除細動器(AED)が開発され,とくに欧米では様々な職種の非医師の人達によって積極的に使用され,驚異的な救命成果をあげている.日本循環器学会は,日本においても,AED使用に関する規制を緩和し,非医師による緊急時の除細動行為を促すことが,日本国民の院外心停止からの救命率改善に必須と考え,厚生労働大臣に提言を提出し,国がこれら提言に対して真剣かつ早急に取り組むことを要望した.
著者
中根 志保 沖 淳義 薄葉 文彦 桐山 誠一 浜田 俊之 野村 文一 遠藤 真弘
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.443-448, 2009 (Released:2013-05-23)
参考文献数
12

左冠動脈肺動脈起始症は先天性心奇形の0.3%を占める極めて稀な疾患である. 本症には側副血行路の発達が悪く, 無治療では生後1年以内に約90%が心筋虚血や致死的心室性不整脈などで突然死するといわれている乳児型と, 側副血行路が発達し無症状で小児期を経過し, 成人になってから発見される成人型がある. 成人型は本症の約10%を占めるとされるが, 今回, 高齢にいたるまで無症状であった本症を経験し, 稀な症例と考えられたので報告する. 症例は70歳, 女性. 労作時息切れにて当院循環器科を受診した. 心エコーでは左心房, 左室の拡大, 心収縮率の低下, 左室壁運動の低下, 僧帽弁逆流症が認められた. 冠動脈造影では, 右冠動脈は約8mmと著明に拡張し, 発達した側副血行路を介して左前下行枝が逆行性に造影された後, 主肺動脈への造影剤の流入がみられた. 以上より左冠動脈は主肺動脈より起始していることが判明し, 僧帽弁形成術, 左冠動脈主幹部移植術, 三尖弁形成術を施行し, 退院した.
著者
榛沢 和彦
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.569-573, 2014 (Released:2015-05-15)
参考文献数
9
著者
伊藤 貞嘉
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.7, pp.733-738, 2009 (Released:2013-06-12)
参考文献数
19
被引用文献数
1
著者
三羽 邦久 神原 啓文 河合 忠一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.15, no.8, pp.928-932, 1983

症例は53歳,男,夜間安静時または早朝ランニング時の胸痛発作を主訴とする.入院後,胸痛発作は起こらなくなっていたが,冠動脈造影時のエルゴノビン試験で,右冠動脈近位部の冠攣縮が証明され,発作時,II,III,aV<SUB>F</SUB>に加え,I誘導でもSTが上昇し,Mobitz II型の房室ブロックとなった.V<SUB>2</SUB>,aV<SUB>R</SUB>,aV<SUB>L</SUB>ではST低下を認めた.このとき,左室圧は55/end25と低下し,ノルエピネフリンの少量動注により回復した.前日のエルゴノビン誘発発作時には,II,III,aV<SUB>F</SUB>でSTが上昇したが,IではST低下を認め,血圧の低下も少なかった.右冠動脈攣縮異型狭心症でI誘導でもST上昇の見られる例は報告されておらず,まれな症例である.右冠動脈攣縮による血流途絶に加え,左回旋枝末梢部の冠攣縮あるいは血圧の低下などにより,心尖部に近い下側壁部にも貫壁性虚血が拡大し,I誘導にST上昇をきたした可能性が考えられる.
著者
香川 英介 井上 一郎 河越 卓司 石原 正治 嶋谷 祐二 栗栖 智 中間 泰晴 丸橋 達也 臺 和興 松下 純一 池永 寛樹
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.SUPPL.3, pp.S3_155-S3_158, 2009 (Released:2015-01-23)
参考文献数
6

背景 : 心肺停止患者に対し低体温療法を行うことで社会復帰率が上昇することが報告されている.  目的 : 良好な社会復帰 (FR) 可能な心停止時間について検討した.  方法 : 2003年から2008年に低体温療法を行った80人 (HT-group) と, 2007年4月から2008年5月までの院外心肺停止患者で, 自己心拍は再開したが低体温療法は行われなかった174人 (NT-group) を対象とした. 心停止時間は心肺停止から自己心拍の再開もしくは体外循環の開始までの時間と定義した.  結果 : FRはHT-groupで30人, NT-groupで20人であった. FRにおいてはHT-goupの方がより若年であった. FRに関して心停止から心拍再開もしくは体外循環の開始までの時間は独立した予後因子であった (OR 1.07, 95%CI 1.02-1.13, p<0.01). FRにおける心停止時間は低体温療法を行ったもので有意に短かった (26±15 vs 12± 5分, p<0.01).  結語 : 低体温療法により良好な社会復帰に許容される心停止時間は延長する.
著者
福永 寛 櫻木 悟 藤原 敬士 藤田 慎平 山田 大介 鈴木 秀行 宮地 剛 川本 健治 山本 和彦 堀崎 孝松 田中屋 真智子 片山 祐介
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.S2_154-S2_158, 2011

Kounis症候群とはアレルギー反応に伴い急性冠症候群をきたす症候群であり, 冠攣縮に合併したタイプ1とプラーク破裂に伴う血栓形成に起因するタイプ2に分類される. 今回, われわれはKounis症候群により心肺停止をきたした2症例を経験したので報告する.<BR>症例1: 76歳, 男性. 腰部脊中柱管狭窄症の術中にセフォペラゾンを投与したところ, アナフィラキシーショックを発症した. 下壁誘導にてST上昇を認めたため急性冠症候群と診断, 緊急冠動脈造影にて右冠動脈#1に血栓および#4AVに完全閉塞を認めた. 血栓吸引療法のみで再疎通が得られた.<BR>症例2: 61歳, 男性. 起床時より四肢・体幹に蕁麻疹を認め, その後, 心肺停止となり, 当院へ搬送された. 心肺蘇生術にて心拍再開したが, その後, 心室頻拍が頻発, 急性冠症候群を疑い緊急冠動脈造影を施行した. 冠動脈に有意狭窄は認めなかったが, 心電図上胸部誘導で一時的にST上昇を認めたため, 左前下行枝の冠攣縮と診断した.
著者
関 年雅 矢崎 善一 堀込 充章 池田 宇一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.259-265, 2013 (Released:2014-09-13)
参考文献数
10

2011年1~3月の間に当院に入院した非代償性心不全患者で, これまでに3回以上の心不全入院歴があるか, または強心薬依存状態でフロセミド40mg/日相当以上, あるいは複数の利尿薬を内服していた65歳以上の高齢者心不全増悪症例計18例 (平均81歳) に対するバソプレシンV2受容体, トルバプタンの有用性を検討した. トルバプタンの経口投与開始24時間後には, 尿量が有意に増加した. 心エコーから求めた心内圧や脳性ナトリウム利尿ペプチド (brain natriuretic peptide ; BNP) 値は有意に低下した. 一方, 血圧に関しては有意な変化は認めなかった. 血清クレアチニン値に有意な変化はなかったが, 血清ナトリウム濃度は3例で145mEq/Lを超えたため, トルバプタンを中止した. 入退院を繰り返す非代償性心不全において, トルバプタンの追加投与は, 少量の内服でも有効な尿量増加が期待できる.
著者
伊藤 歩 七里 守 江口 駿介 安藤 萌名美 竹中 真規 前田 眞勇輔 任 隆光 鈴木 博彦 神谷 宏樹 吉田 幸彦 平山 治雄 室原 豊明
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.724-730, 2015

慢性心不全では睡眠呼吸障害を高率に合併することが知られている. 特にチェーン-ストークス呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸の割合が多く, 予後不良因子とされている. 一方, 睡眠呼吸障害に対し治療介入することで, 左室駆出率や生命予後の改善が期待できるとの報告がある. 具体的な治療法として, 閉塞性睡眠時無呼吸においては持続陽圧呼吸療法 (Continuous Positive Airway Pressure ; CPAP) の有用性が確立されている. しかし, 中枢性睡眠時無呼吸にはnon-responderが存在し, CPAPの有用性については議論がある. 中枢性睡眠時無呼吸の治療において, 新しいデバイスとしてadaptive servo ventilation (ASV) に注目が集まっている. 症例は体重増加, 労作時呼吸困難を主訴に来院した74歳, 男性. 外来にて利尿薬等による内服管理をしていたが, 経胸壁心臓超音波検査にて推定収縮期右室圧の上昇を認めた. さらにSwan-Gantzカテーテル検査では, 左心不全を認めるとともに, 右房圧・右室圧の上昇を認めた. 原因精査のため終夜ポリソムノグラフィを施行したところ, チェーン-ストークス呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸を認めた. CPAPにて治療を開始したが, 十分な治療効果が得られず, ASVに変更し継続したところ, 無呼吸イベントの抑制とともに左室駆出率は上昇し, 右房圧・右室圧・肺動脈楔入圧はいずれも低下した. ASVはチェーン-ストークス呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸を合併した心不全において有効な非薬物治療法と考えられた.

1 0 0 0 OA 良い医師とは

著者
小川 久雄
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.7, pp.779, 2015 (Released:2016-07-15)
著者
高階 経和 山科 章
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.813-820, 2010

高階先生は4年間のアメリカ留学を終えてご帰国. その後, 評判を呼んだのが, 淀川キリスト教病院でのベッドサイド・レクチャーです. さらに, テキストのご執筆や, 臨床心臓病学教育研究会を立ち上げられたりといったご活躍が続きます. そしていよいよ, 心臓病患者シミュレータ「イチロー」が誕生します.
著者
星野 真介 谷口 由紀 津田 悦子 北野 正尚 山田 修 古川 央樹 宗村 純平 中川 雅生 西島 節子
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.584-590, 2015 (Released:2016-05-16)
参考文献数
11

二次孔心房中隔欠損 (atrial septal defect ; ASD) に合併した僧帽弁逆流 (MR) が急激に進行し, 心不全をきたした症例を経験した. 症例は10歳女児. 5歳時に心雑音を指摘され, 近医を受診してASD, 軽度のMRと診断された. ASDに対してカテーテル治療を希望し, 至適体重まで待機中に, 経済的理由により病院を受診しなかった. 10歳で, 全身倦怠感, 起坐呼吸が出現し, 胸部X線写真では, 心胸郭比が80%と心拡大を認め, 心臓カテーテル検査では, 肺体血流比は5.1で, 重度のMRと肺高血圧を認めた. 外科的にASD閉鎖術および僧帽弁人工弁置換術を施行した. ASD症例で稀ながらMRが進行する場合があり注意が必要である.
著者
永田 義毅 中村 由紀夫 木田 寛 佐野 譲
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.121-125, 2001-02-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
12

症例は平成5年より多系統萎縮症に罹患した54歳,女性.平成9年1月頃より食事性低血圧を認めるようになった.一日の血圧最高値,血圧最低値はそれぞれ232/146mmHg,72/46mmHgであった.本例において食事が自律神経に及ぼす影響をホルター心電図を用いた心拍変動解析にて検討した.副交感神経機能,交感神経機能の指標としてHF,LF/HFを用いた.健常者では食事によりLF/HFは上昇し,交感神経活動の賦活化がみられた.本例では血圧が188/119mmHgから105/40mmHgへと低下したが,LF/HF,血漿ノルアドレナリン値は不変であった.食事性低血圧の機序の一つとして,食事による腹部内臓血流増加に対する交感神経系を介した血流再分布障害の関与が推測されている.本例の心拍変動解析の結果も,それを示唆するものと思われた.
著者
川人 充知 石川 恵理 露木 義章 蔦野 陽一 石田 仁志 金森 範夫 松岡 良太 谷尾 仁志 服部 隆一 寺本 祐記 橘 充弘 青山 武
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.1314-1322, 2016-11-15 (Released:2017-11-15)
参考文献数
14

症例は86歳男性,労作時息切れと前胸部痛が出現し来院.心電図で四肢誘導に低電位を認めた.心エコーで左室全周性の心肥大および,アデノシン三リン酸負荷による冠血流予備能の低下を認めた.99mTc-ピロリン酸心筋シンチグラムで心筋への高集積,心臓MRIでは右室,両心房および左室全周性に心内膜下優位の遅延造影を認めた.左室心筋生検組織でコンゴレッド染色および,トランスサイレチン(TTR)免疫組織化学染色陽性であることからATTRアミロイドーシスと診断した.初診から2年後に完全房室ブロックをきたし,DDD型恒久ペースメーカ植込み術を施行したが,労作時息切れや全身倦怠感が持続した.その後心不全増悪による入院を繰り返し,5年後に死亡した.剖検で両心房,右室,左室心内膜側から中間層の広範囲にTTR免疫染色陽性のアミロイド沈着を認めた.MRIの遅延造影所見と同様に心外膜側は比較的沈着が軽度であった.肝,膵,脾,腎,副腎,膀胱,肺など全身の臓器にも血管壁を主体とした広範囲のアミロイド沈着がみられた.遺伝子解析ではTTR遺伝子に変異を認めず,野生型ATTRと診断した.5年の経過を追えた野生型ATTRアミロイドーシスの1剖検例において,画像所見と病理組織学的所見を対比検討した.