著者
二通 諭
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.271, 2017-03-10

言葉を字義通り受け取る.言外の意味を捉えることが苦手.これは,自閉症スペクトラムなどの発達障害当事者がしばしば口にすることだ.となれば,セリフの奥に隠された別の意味を察するというところに面白さがある小津安二郎(1903〜1963)の作品は,苦手克服に向けた学習テキストになる可能性がある.この観点から3つのシーンを取り出してみた.「お早よう」(1959)では,加代子(沢村貞子)が弟の平一郎(佐田啓二)に「お天気の話ばっかりして,肝腎なこと一つも言わないで……」とボヤいていたが,天気談義に意味をもたせる自作への当てつけのようにも聞こえた. 本稿は,それに倣って「天気」に焦点を定める.
著者
高木 淳 玉井 一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.638-639, 2003-07-01

死産児を分娩した妻(O型)が出血多量のために夫(O型)の血液を輸血したところ,妻は輸血後に副作用を起こした.Levineら(1939)は,この妻の血清から104検体のO型赤血球中80検体を凝集する抗体を見出し,ABO血液型以外の血液型の存在を指摘した(図1左).その翌年,Landsteinerらはアカゲザル(Rhesus macaque)の赤血球をモルモットに免疫して得られた抗体が,アカゲザルのみならず白人の赤血球の約85%を凝集することを見出した(図1右).アカゲザルとヒトが同じ血液型抗原を持っていることを意味するので,この抗原を“Rhesus”にちなんでRh血液型と名付け,この免疫抗体で凝集する赤血球をRh(+)型,凝集しない赤血球をRh(-)型と名付けた.そして,Levineらの症例など,ABO血液型適合の輸血において副作用を呈した者に見出された現象はRh抗原によるものであろうと推定した.しかし,その後輸血副作用を起こした患者の血清中に他の種々の抗体が見いだされ,次に述べるように1種類の抗原によるものでないことが明らかになった. Rh 血液型因子 Rh血液型遺伝子はD,d,C,c,E,eが第1染色体の上に存在する.Dとd,Cとc,Eとeの各遺伝子がそれぞれ対立遺伝子として存在し,DCe,dCEなど3個ずつセットで両親からまとめて遺伝され(図2),各遺伝子が作る抗原が赤血球膜上に表現される.Rh式血液型抗原性の強さはD>>c>E>C>eの順であり,D抗原の抗原性はE抗原よりも10倍高く,D抗原が最も強い.したがって,両親からもらった1対の遺伝子セット(例えばDCe)の中に遺伝子Dを持つヒトをRh陽性者,持っていないヒトをRh陰性者と呼ぶ(dは,いまだに抗d抗体が検出されていないので理論上の抗原である).Rh式血液型はABO型と異なり,Rh陰性者でも血清中に抗Rh抗体を持っておらず,Rh陽性の血液をRh陰性者に輸血すると受血者がRh抗原に免疫されて抗体が産生される.また,Rh陰性の母親がRh陽性の夫の胎児を宿し,その児がRh陽性であると妊娠中または分娩時に児血球が母の血流中に入り,約10%の母が免疫されてRh抗体を作る.この抗体による児への影響は初回の妊娠においては一般的に軽いが,妊娠回数が増えるにつれて新生児溶血性疾患など重い症状を来したり,また抗Rh抗体が胎盤を通過して胎児血球と反応して流産を引き起こす場合もある.Rh陰性は日本では人口の0.2%であるが白人では15%と高い.Rh血液型抗原の命名法には上記のFisher-RaceによるCDE表記と,図2に示すWienerによるRh-Hr表記法の2種類がある.
著者
古山 将康
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.136-140, 2019-02-20

▶ポイント ・NTR手術は,産婦人科医が施行してきた従来法に上部腟管の固定を確実にすることで,安全性の高い,再発率の低い骨盤底再建術が可能となる. ・骨盤底臓器の解剖学的支持欠損の部位を診断し,年齢や患者のライフスタイルに合わせた術式を選択する. ・泌尿器科領域では骨盤臓器脱に対してプロリンメッシュを用いたTVM手術が急速に普及したが,FDAのアラート以後,詳しいインフォームド・コンセントが必要である.
著者
須田 生英子 福地 健郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.245-248, 2002-09-10

はじめに 真性小眼球症は,両眼の眼軸長が14mmから20.5mmと短く,他の身体的または眼科的な異常を伴わない疾患と定義されている1)。遠視の強い症例が多く,脈絡膜の異常な発達と強膜の肥厚,強膜におけるコラーゲンの異常やコンドロイチン硫酸の減少が報告されており2),蛋白透過性の低下に伴いuveal effusionや非裂孔原性網膜剥離を生じやすい3)。また,眼球内容積が正常眼の2/3程度に減少しているにもかかわらず,水晶体の容積はほぼ正常であるため,正常眼では3〜4%である水晶体の占める割合が10〜32%までになり4),この解剖学的な異常が40〜60代の比較的若い年齢で閉塞隅角緑内障を引き起こす原因と考えられている。真性小眼球症眼は,相対的に大きい水晶体のために相対的瞳孔ブロックをきたしやすく,これは40代以降の加齢に伴う水晶体の肥厚とともに助長される。また,症例によってはUBMでplateau iris configurationや水晶体と毛様突起の接触,圧排などの悪性緑内障の際に認められる所見が観察されることがあり,相対的瞳孔ブロックにこれらの要因が加わることによって隅角閉塞が生じると考えられる。 緑内障の発症にあたっては,慢性の経過をとる症例もあるが,急性閉塞隅角緑内障発作を起こす場合も多く,うち約2/3の症例では両眼性に発症する5)。真性小眼球症の緑内障を治療するためには,まず細隙灯顕微鏡検査,隅角鏡検査,Aモードエコー,Bモードエコー,MRI, UBMなどで可能な限り病状を正確に把握し,その眼圧上昇機序を十分に検討したうえで,病期に応じた治療法を考えていく必要がある。
著者
大橋 利和
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1443-1446, 1966-11-15

I.緒言 望遠鏡や顕微鏡等の光学器械を覗く時,正視眼者でも接眼鏡のDiopter (以下D.と略す)目盛が負側に傾くことが多いが,この現象がどの程度の割合で存在し,又,如何なる因子がどの程度に関与しているかを見る目的で,実験を行ない成績を得たので報告する。
著者
平田 明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
1967-08-15

はじめに オートラジオグラフィーとは,一口にいうと標本中の放射性同位元素(ラジオアイソトープ)の分布を,それから出る放射線の感光作用によって,標本に密着させた写真乳剤膜に直接記録させる方法である。もう少し具体的に説明すると,ある化合物の生体内での挙動を知りたいときは,この化合物を適当なラジオアイソトープでラベルして,これを生体内に入れ,その動きをラジオアイソトープから出る放射線を目印にして,適当な検出器で検知すればよい。このような方法を一般にトレーサー技術というが,電気的な検出器の代りに写真感光材料を用いる方法がオートラジオグラフィである。方法は,動物に投与した後,一定時間経過したところで,所定の臓器をとり出し,それの組織標本を作る。この上に後で説明するミクロオートラジオグラフ用乳剤をかぶせて,1〜2週間放置する。これを現像,定着など,通常の写真処理を行なった後,切片を適当な色素で染色して,顕微鏡で観察すればよい。組織や細胞内にとり込まれたラジオアイソトープの局在を,組織像の上に重なった現像銀の分布として見ることができる。この方法はオートラジオグラフィのなかでもミクロオートラジオグラフィと呼ばれ,細胞生理学,細胞化学的な研究面に大きな貢献をしてきた。最近では,より解像力のすぐれている電子顕微鏡を用いての電子顕微鏡的オートラジオグラフィの技法も研究され,両者共,今後ますます進展するものと思われる。
著者
沖 都麦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.775-779, 2019-06-15

■Simpson法 Simpson法とは左室容積を求める際に用いられ,左室容積を長軸に対して直交する円盤状のディスクの総和として計算する方法である.通常,心尖部四腔像および二腔像の二段面(biplane)から計測される20の楕円形のディスクの総和を左室容積とするbiplane modified Simpson法が用いられており,近年ではこの測定原理を反映して,ディスク法やdisc summation法(ディスク加算法)という呼称が主流となりつつある. 本法から得られた収縮期および拡張期の容積から左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)が算出され,左室収縮能を評価する指標の1つとして広く用いられている1,2)(図1).
著者
深井 恭子 山口 さやか 大嶺 卓也 山城 充士 眞鳥 繁隆 高橋 健造
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.393-396, 2017-05-01

要約 27歳,女性.オコゼ刺傷による右下腿皮膚潰瘍に対して,ゲーベン®クリームを外用していたが難治のため当科を紹介受診した.潰瘍周囲に紅斑,丘疹が広がり,ゲーベン®クリームの外用を中止したところ,潰瘍部の肉芽形成が良好となり植皮術を行った.術後,顔や植皮部にヒルドイド®ソフト軟膏を外用し,瘙痒が出現していたが不定期に外用を続けていた.約1年後に全身に紅斑が拡大し,再度当科を受診した.パッチテストでは,ゲーベン®クリーム,ヒルドイド®ソフト軟膏,これらに共通した添加物であるパラベンが陽性だった.自験例では,最初の接触皮膚炎の診断時に原因成分までは特定しなかったため,パラベン含有薬剤の外用を継続し経過が長期化した.パラベンは身近な医薬品,化粧品に数多く含まれており,難治性の皮膚炎や皮膚潰瘍では,パラベン類へのアレルギーも念頭に置きたい.
著者
堀 成美
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.836-839, 2020-11-25

2020年春ごろに新型コロナウイルスに感染した方へのインタビューを行い,実際に罹った際の当時のことや,ホテルでの療養を経験されて感じたことを語っていただきました。
著者
田口 喜一郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.403-406, 1966-04-20

Ⅰ.緒言 めまいを主訴とする疾患はきわめて多いが,耳鼻科領域に限っても,一般に鼻疾患ことに慢性副鼻腔炎に伴うめまいはよく知られていないために,不適当な治療を加えられて患者の苦痛を緩解し得ないことがある。わたくしはとくに炎症性変化の少ないといわれる蝶形骨洞に限局した炎症のために,重篤なめまい,歩行障害,両側耳鳴,後頭部痛を主訴として来院,これが文献上OaksおよびMerrill1)が1930年に発表している蝶形骨洞症候群Sphenoidal Sinus Syndromeなることを確め得た興味ある症例を経験した。
著者
平沢 一
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.229-237, 1962-04-15

Ⅰ.序説 執着性格は下田により初めて提唱された。この性格と躁うつ病(下田・王丸・向笠)および初老期うつ病(中およびその共同研究者)とが密接な関係を有することは,多数例においてすでに明らかにされているが,その具体的な性格像および執着性格により生ずるうつ病像の症候論的な研究は乏しいように思われる。 著者は昭和33年10月より36年10月までに京都大学の精神科の外来および入院のうつ病患者の中から「執着性格」を示す105例を選び,つぎの諸点を検討した。

1 0 0 0 黄害の実態

著者
古川 元
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.383-388, 1969-07-15

黄色い霧の降る国土 公害は社会的議題として私たちの日常生活の中の根深くはいり込んできました.高度経済成長のあおりを受けて(?)社会機構の変革は生活構造や消費構造に大きな変化をもたらし,農業の近代化は化学肥料を使用することになりました.そして一般の公衆衛生知識は急速に高まってきたのですが,国鉄列車の糞尿タレ流しは100年間もそのままです. "汽笛一声新橋を早や我が汽車は離れたり"という鉄道唱歌が流行した明治初年当時といささかも変わっていないというから驚いたものです.その野蛮で不潔きわまる汚物放出は東京大阪間500kmの新幹線を除いた全長2万4000kmの国鉄沿線の上に毎日昼夜兼行でぶち撤かれているわけです.
著者
野本 文幸
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.829-835, 1987-08-15

抄録 9歳女児の一卵性と考えられる双生児に同時期に認められた,食物の吹出しと犬の遠吠え様の持続的捻り声を示す病態を経験した。本双生児たちは,実母と但母(実母の姉)とによって別々に育てられたが,両家は近所にあるため患児達もよく一緒に遊んでいた。2人の感冒罹患時,それまでA(姉)には食物の吹出しが,B(妹)には唸り声が認められ,2人一緒に二人部屋に入院したことを契機に,入院した翌朝には食物の吹出しがAからBに,捻り声がBからAに伝播し,以後2人とも全く同じ症状を示した。そして,2人の分離によってAの吹出しと捻り声,Bの吹出し,つまり伝播した症状,は速やかに消失した。 本例は双生児間の感応精神病(ヒステリー感応型)と考えられ,いわば「双生児間相互感応型」と称せられる病態であった。また,患児達の示した捻り声は,ヒステリー性失声に対して「ヒステリー性発声」と呼べることを報告した。
著者
鈴木 康譯 星野 良一 藍澤 鎮雄 大原 健士郎
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.561-568, 1981-06-15

抄録 母親(57歳)・息子(26歳)の間でみられたfolie à deuxについて,心理学的背景とその経過を中心に,臨床精神医学的な考察をおこなった。発端者は息子であり,劣位者であるはずの息子から優位者である母親に妄想が伝播しており,西田の『二重の結合』があてはまる。息子の妄想発症には,わずかな刺激で動揺する感情面の未熟さ・敏感さが関係しており,心因反応性に生じている。継発者の母親において妄想が強固であるが,①思考の発展性や可塑性が十分といえず細かいことに拘泥しやすいこと,②主観性の高いこと,③内的洞察力の不足,等といった心理状況が大きく左右していると思われる。従来folie à deuxの心理機制として,同情と共感・被暗示性などが言われているが,上記の事実も無視できない。なお,本症例では,経過中に母子心中未遂がみられているが,それがfolie à deux解体の動因となっていることも注目される。
著者
新井 弘 柏瀬 宏隆
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.951-956, 1992-09-15

【抄録】 父親(夫)に対し母・娘・息子が被害妄想を抱いた感応精神病の1例を報告し,その発症から治癒までの経過中にみられた家族病理の変化,継発者の関与の過程を考察した。発端者は母親,継発者は15歳の娘と10歳の息子であり,2人の継発者で感応現象が異なっていた。すなわち,娘は母の精神異常に積極的に関与し,母の周囲に対する被害妄想に感応した後は,母と一緒に,妄想に共感しなかった父へと妄想の対象を移していった。他方,息子は父と母・娘との対立関係の中で,心因性けいれん発作を起こした後,消極的関与のまま父への被害妄想を抱くようになった。このような2人の感応過程の様態から,娘は積極的関与型,息子は消極的関与型の感応精神病と分類される。継発者を積極的関与型と消極的関与型という視点からみれば,感応精神病の治療への反応性が予測されうると考えられた。
著者
三田 俊夫 酒井 明夫 上田 均 藤村 剛男 中村 正彦 伊藤 欣司 坂本 文明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.983-989, 1993-09-15

【抄録】 憑依症状群(キツネ憑き)を中心とするfolie à troisの2例を報告した。発端者はいずれも精神分裂病であり,「家」のうちでは中心的役割を果たし,共同体の文化的脈絡にそって生活していくべき立場にあった。1例は山村,他例は漁村が舞台となっているが,いずれにおいても発端者と継発者とは,地域の民間信仰と俗信を絆として互いの緊密な結びつきを保ち,それを土台に互いの病像を支持し合い,強め合うという傾向が顕著に認められた。従来,本病態の発生には,外部とは隔絶された,長期にわたる同居の期間が必要とされてきたが,本例では,地域と家庭双方における民間信仰の共有が,いわば心性という次元で同居と同様の状況を作り出していると考えられる。これらのことより,本病態の発生因として,従来重要視されてきた遺伝的近接と環境的近接に加えて,地域の伝統風俗や習慣に土台を持つ,信仰,思想上の近接が重要な役割を果たしうることが示唆された。
著者
加藤 秀明 白河 裕志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.100-102, 1996-01-15

牛蒡種(ゴンボダネ)とは,牛蒡種筋と呼ばれる家系があって,その筋の者に憎悪や羨望などの感情を持たれると,牛蒡種の生霊が憑いて精神異常を来すとされる岐阜県飛騨地方特有の憑きもの俗信である。筆者らは先に牛蒡種憑依4例について報告3)したが,その後新たな症例を経験した。地方特有の憑きもの俗信に基づく憑依現象の発症はそれ自体稀なことであるし,前報告でみられなかった症状を呈したので,追加報告する。