著者
山崎 尚
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
紀要 (ISSN:03852741)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.55-62, 1997

ヒキガエルBufo japonicus卵は紐状に繋がった卵塊として産卵される。卵の周囲は卵膜と4層のゼリー層に覆われている。卵はまず卵膜(vitelline coat)に覆われ、更にJ1、J2という2層のゼリー層により個々の卵が覆われる。更に、各卵は紐状に並び、J3、J4が覆っている(図1A)。卵膜は卵形成時に卵内で合成される糖蛋白質からなる非細胞性の構造で、ヒキガエルの場合、主として8種類の成分で構成されている。一方、ゼリー層は、卵が排卵されたのち、輸卵管を通過する際に付加される親水性の巨大糖タンパク質であり、約70%の糖質と30%のタンパク質からなっている。胚の[figure]図1 A. 産卵されたヒキガエル卵は個々の卵が二層(J1、J2)のゼリー層に包まれ、更にその外側を二層(J3、J4)のゼリー層により紐状に覆われている。B. 最初の孵化は外側のゼリー層からの孵化で、胚は依然、内側の二層のゼリー層と卵膜(図には書き入れてない)で覆われている。孵化はこれらのゼリー層及び卵膜から胚が抜け出ることを意味するが、この過程はヒキガエルでは2段階に分けることが出来る。第1段階は、紐状の卵塊からJ1とJ2、更に卵膜を伴った胚が抜け出る過程で、これは、Stage 20(神経管中期)前後に起こる(図1B)。この過程は胚の呼吸による二酸化炭素の産出の関与や孵化酵素の関与が示唆されている。第2段階は胚がJ1、J2、そして卵膜を抜け出る過程であり、Stage 23(尾芽胚中期)以降に起こる。Yamasaki, et. al.,では、ヒキガエル胚での孵化腺細胞の分化がStage 19以降に起こり、それに伴ってStage 18からStage 22にかけて、8種の卵膜構成糖タンパク質のうちの、62KDと58KD成分が選択的に分解されること、更にこの分解が胚から得た孵化液により起こることなどが明らかになった。両生類の孵化は、ヒキガエル以外にも、エゾアカガエル(Rana pirica)やアフリカツメガエル(Xenopus laevis)で研究されている。特に最近、ツメガエルでは遺伝子工学の手法を用いて、孵化酵素遺伝子の構造解析、胚での局在の様子や、酵素本体の精製などが行われており、両生類における孵化酵素の遺伝子、分子レベルの性質が初めて明確になりつつある。本研究ではヒキガエル胚の孵化に関係している孵化酵素の正体を明確にするため、孵化自体がどの様な阻害剤の影響を受けるのか、また孵化液中に含まれるタンパク質分解酵素の基質特異性を人工基質であるMCA基質を用いて調べた。更に、人工基質を分解する活性の阻害剤感受性を調べることで、ヒキガエル孵化液に基質特異性や阻害剤感受性の異なるタンパク質分解活性が少なくとも2種類存在することを示唆する結果を得たので報告する。この研究の多くは北海道大学理学部動物学教室で行った。また、MCA基質を用いた実験の一部には和歌山県立医科大学進学課程化学教室の蛍光光度計を使わせて戴いた。
著者
坂田 清美 吉村 典子 森岡 聖次
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

近年わが国における児童の肥満傾向の者や高脂血症が増加を続けているため、児童を対象とした高脂血症、肥満予防を主な目的とした教材を開発した。教材の開発にあたっては単に知識を与えるだけでなく、自ら考え判断できるスキルを身に付けるよう工夫した。教師の使いやすさや、保護者に対しても教育効果が上がるように配慮した。和歌山県中部の一地域において、小学4年生を対象に教材を用いて教育を実施した結果、「コレステロール」の言葉の認知度は、1年間で61%から79%まで上昇した。「食物繊維」という言葉の認知度は59%から78%まで上昇した。油、塩、砂糖に関する正解率では、15問中13問以上正解した者の割合は、38%から49%まで上昇した。お菓子の材料が記載されていることを知っている者は73%から85%まで上昇した。肉・魚を同じくらい食べると答えた者は51%から54%まで上昇した。野菜を毎日食べる者は、37%から42%と増加した。朝ご飯を毎日食べる者は、78%から81%と増加した。運動をほとんど毎日する者は、41%から43%へと微増した。健康教育教材を使用することにより、健康に関する知識の向上がもたらされた。運動については、今後さらにプログラムを充実させる必要がある。今後は、血清脂質等に与える影響を評価し、さらに健康教育プログラムを他の学年にも実施し、こころと体、健康と病気についての段階的で、包括的な学習プログラムへ発展させる予定である。
著者
田島 文博 中村 健 峠 康
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

【目的】健常者における運動時の免疫機能はNatural Killer細胞(NK細胞)活性を指標として、多数の報告がある。しかし、脊髄損傷者においては、我々が車いすフルマラソンではレース直後にNK細胞活性が低下し、ハーフマラソンでは上昇する事が知られているだけである。今回我々は、実験室で運動強度を一定にし、2時間の運動を継続した時の免疫機能の変動を調査した。【方法】対象は男性脊髄損傷者7名(脊損者、年齢34.3±7.1歳、損傷レベルTh11〜L4)と健常男性6名(健常者、年齢28.8±7.7歳)とした。予めハンドエルゴメーターで被験者の最大酸素摂取量(VO2max)を測定した結果、脊損者は27.9±3.0ml/min、健常者は25.7±4.1ml/minであり、両群に有意差を認めなかった。VO2max測定とは別の日に、被験者はそれぞれのVO2maxの60%で2時間ハンドエルゴメーター運動を行った。採血は、運動前、1時間運動後、運動終了直後、終了後2時間の4回行い、白血球数、アドレナリン、NK細胞数、NK細胞活性を測定した。別の日に運動を行わないタイムコントロール実験を行った。【結果】健常者の白血球数と血中アドレナリンは運動直後に有意な上昇を見た。NK細胞数は運動直後の変動は有意ではなかったが、NK細胞活性は運動直後に有意に低下し、2時間後に回復した。【考察】車いすフルマラソンの実験モデルを行い、NK細胞活性は低下した。しかし、NK細胞活性は2時間後には回復した事から、車いすマラソンで選手が感染に留意する時間は数時間で良いと考えられる。
著者
竹山 重光
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

・X線画像をはじめとする画像技術の普及および進展によって、人間のからだにたいするイメージや知識が大きく再構成された。・それらイメージや知識は医学医療側によって占有的に囲い込まれており、生きられるからだはいわば不在になっている。・そうした状況下にあってわれわれは、医学医療という科学技術の営みとどうかかわるべきか。事実的に、われわれが抱くイメージおよび知をそれが構成している以上、それと訣別することはできない。囲い込みの柵を破って、われわれ自身がこの営みに近づき、ハイデガーの言う「技術との自由な関係」を結ぶべく努めるしかない。・画像制作を先導している諸概念、諸志向をわれわれ自身が追跡し言語化しなければならない。・そしてその際に、医学医療の営みに相当ジェンダー・バイアスがあること、これが手がかりとなる点であり、また留意すべき点である。
著者
宮下 和久 吉益 光一 森岡 郁晴 福元 仁 竹村 重輝 宮井 信行 坂口 俊二 寺田 和史
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、(1)高濃度人工炭酸浴による下肢の末梢循環促進効果をもたらす条件(温度,CO_2濃度)を淡水温水をコントロールとして検証し、(2)その上で、高濃度人工炭酸浴による下肢痛の改善効果を検証した。最終的に介護施設および家庭における高濃度炭酸浴による下肢痛改善のためのQOL評価を行ない、介護予防のエビデンスに基づく健康事業としての位置づけを試みた。有症者を含めた介護施設入所者で検討した結果、皮膚温は浸漬前後で両群とも上昇していたが、群間の差は見出せなかった。ただ1.5ヶ月の長期間でSF-8の「全体的健康感」が、刺激群で高い傾向があったことは評価できると考える。疼痛に対する効果としては、同意・協力が得られた下肢疼痛の有症者が少なく、統計学的な評価が出来なかったが、個人内では炭酸水浸漬群、淡水浸漬群ともに浸漬の前後で低下していた。レーザー血流画像化装置で末梢循環促進効果を検討すると、足背皮膚血流変化量は浸漬後に対照と比較して有意に高値であった。高齢者でも高濃度人工炭酸温水浴による血管拡張による症状改善効果が期待できた。
著者
野畑 健太郎
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
紀要 (ISSN:03852741)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.11-23, 1997

On 18 May 1988 in Singapore, the Constitution of Singapore (Amendment) Act and the Parliamentary Elections (Amendment) Act 1988, to ensure the representation in Parliament of members of the Malay and other minority communities, were passed by Paliment. Under the new constitutional provision (Article 39A of the Constitution of the Republic of Singapore), the Legislature may make provision for "any constituency to be declared by the President……as a Group Representation Constituency (GRC) to enable any election in that constituency to be held on a basis of a group of 3 candidates". Furthermore, "at least one of the 3 candidates in every group shall be a person belonging to the Malay" or "Indian or other minority communities". The matters I will consider in this paper are as follows. The role and task of the GRC system, which was reinforced in 1991 and 1996, to elect Team MPs or MPs on a group basis in some constituencies, and the essence of the GRC system to entrench the idea of multi-ratialism in the written constitution, in relation to the result of the General Elections of (1988, 1991 and) 1997.
著者
山田 和子 上野 昌江 柳川 敏彦 前馬 理恵
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

目的:4か月児健康診査(以下、「4か月」とする)、1歳6か月(以下、「18か月」とする)における母親の育児不安とその関連要因を明らかにするとともに、都市部と郡部の育児の違いを明らかにすることで、乳児からの育児支援の方法について検討する基礎資料を得ることを目的とする。調査方法:調査対象はA市(以下、「郡部」とする)の平成20年7月~12月生まれの児を持つ母親とした。調査方法は健診の問診票を送付時に本調査の調査票を同封してもらい、健診時に回収した。育児不安得点を平均点により2分して比較した。結果:調査の回収は4か月107名(回収率97.3%)、18か月103名(回収率92.8%)であった。4か月において、育児不安が強い群の方が、児への気持ち得点、母性意識得点は、有意に否定的であった。育児で心配なことも育児不安が強い群の方が有意に心配なことが多かった。郡部と都市部を比較すると、育児不安得点は、郡部の方が都市部より低かった。児への気持ち得点は、郡部の方が都市部より子どもへの否定的感情が弱かった。4か月と18か月の育児不安得点との相関をみたところ、4か月時に育児不安がある母親は18か月時点でも有意に育児不安があった。18か月において、育児不安が強い群の方が夫の育児参加や話しすることが有意に少なかった。まとめ:4か月で育児不安がある母親は18か月でも育児不安があることが多いことより、乳児期早期からの育児支援の必要性が示唆された。さらに、育児不安の状況は地域により異なることより、各地域の状況に応じた育児支援対策を行うことが必要である。
著者
佐方 哲彦
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
紀要 (ISSN:03852741)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.1-12, 1993

The purpose of this study was to investigate adolescents' attitudes or orientations toward love. Two hundred and thirty nine students under age 25 (96 males and 143 females) responded to the Sentence Completion Test (SCT) which consisted of three questions about what to do in situations of love in conflict. Half of the respondents hope to continue associtating with their best girl/boy friend even though their families and friends are against it. When a person is worrying about being attracted to a lover of his/her good friend, almost two in five would like to advise him/her to confess or disclose what he/she feels. However, about 40 percent of the students do not want to accept the feelings of love which a sweetheart of their close friend expresses to them. Some sex differences were found; for example, male students seem to be more involved in loving than females.
著者
錦見 盛光 松井 仁淑
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

ヒトを含む霊長類はビタミンCの合成ができないが、その原因は合成経路で働くグロノラクトン酸化酵素(GLO)の欠損による。われわれは、機能を有するラットのGLO遺伝子と機能を失ったヒトのGLO遺伝子の塩基配列をすでに報告した。本研究では、ヒトの遺伝子において特定された4つのエキソン(VII,IX,X,XII)の配列についてラットの配列と比較し分子進化学的検討を加えた。ヒトのGLO遺伝子における非同義置換は、遺伝子が機能をなくした後は選択圧を受けないため、同義置換と同じ頻度で生じてきたと推定される。この推定が正しいと仮定して、ヒトとラットの間の非同義サイトにおける置換数の値(0.16)と霊長類の同義サイトの進化速度(2.3×10^<-9>/サイト/年)とから、ヒトがGLOを失った時期は約7,000万年前以後と推測した。また、チンパンジーとマカクのゲノムDNAを鋳型にしてPCRを行い、エキソンXを増幅して得られたDNAの塩基配列を決定した。その結果、ヒトの配列と比べたホモロジーはそれぞれ97.6%と89.7%であった。これらの値は霊長類の祖先がGLOを失って以降、GLO遺伝子で塩基置換がランダムに起きていることを示しており、この遺伝子が進化の中立説を説明する恰好の例であることが分かった。さらに、ヒトの配列においてエキソンXIは欠失していることが分かっているので、この欠失が類人猿においても認められるか否かを調べた。ヒト、チンパンジー、およびゴリラのゲノムDNAを鋳型として、エキソンXからエキソンXIIにわたる領域をPCRによって増幅した結果、いずれも同一サイズ(23.5kbp)のDNAが得られたことから、エキソンXIの欠失はこれらの類人猿の分岐以前に起きたものと想定された。
著者
志波 充 奥村 匡敏 山本 耕平 坂口 守男 武用 百子 山本 明弘
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
和歌山県立医科大学看護短期大学部紀要 (ISSN:13439243)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.37-42, 2004-03

近年,人格の分類においてCloningerの理論が注目を集めている。この理論の特徴は,従来の類型論と異なり,人格は遺伝規定性の強い「気質Temperament」と,自己概念について洞察学習することによって成人期に成熟する「性格Character」から成ると考え,さらに気質を4次元,性格を3次元に分け,気質の4次元のうち3次元にはそれぞれ脳内神経伝達物質であるドーパミン,セロトニン,ノルアドレナリンの対応を仮定したことである。今回我々は看護学生に特徴的な人格傾向について検討する目的で,Cloningerの作成した「気質と性格の7次元モデル」の質問紙Temperament and Character Inventory(TCI)日本語版を用いて,W医大看護短期大学部学生(W看護短大生)およびW医大医学部学生(W医大生)の人格傾向を調査した。その結果を一般健常対照者(対照者)と比較した。W看護短大生と対照者との比較では,W看護短大生でHarm Avoidance(HA:「損害回避」)のスコアが有意に高く,Self-Directedness(SD:「自己志向」)が有意に低かった。W医大生と対照者との比較では,W医大生でSDが有意に高く,Reward Dependence(RD:「報酬依存」), Self-Transcendence(ST:「自己超越」)が有意に低かった。W看護短大生の人格傾向として,やや不安傾向が強いものの,暖かな社交的友好関係や社会的契機に対する共鳴・感受性が高く,人としての成熟度は高いが,自己による意志決定の力は弱い傾向がみえる。一方W医大生では,意志の力は強いが,社交的友好関係を保つことは苦手で,科学は万能ではないことに気づかない傾向が伺える。