著者
池田 敬子 小山 一 鈴木 幸子 辻本 和子
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

アミノ酸誘導体など食品や食品由来成分のもつ微生物不活化(消毒)活性を利用したスキンケアによい新しいタイプの消毒薬の開発を念頭に食品由来成分の探索とその作用機構の解析、ならびに実際の応用に向けたウイルス伝播力の解析を行った。塩基性アミノ酸のひとつアルギニンの持つ殺菌作用(ことに緑膿菌への)や梅酢ポリフェノールなどのウイルス不活化作用を見出し、ことに呼吸器感染症起因ウイルスへの消毒作用を明らかにした。また、医療環境を汚染したウイルスの持つ伝播力を汚染後の時間との関係において定量的に解析した。
著者
岸岡 史郎 雑賀 史浩 深澤 洋滋 木口 倫一 小林 大地
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

マクロファージのフェノタイプ制御に及ぼすニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)シグナルの影響を精査し、神経障害性疼痛を含む慢性炎症疾患の治療に繋がる研究を行った。神経障害性疼痛を担う炎症性マクロファージにはnAChRが発現しており、nAChRリガンドの処置により炎症性因子の産生が抑制されることをin vivoおよびin vitroにおける各種解析から証明した。さらにnAChRリガンドを投与することで、神経障害性疼痛病態が改善することも明らかにしている。従って、nAChRシグナルを介した炎症性マクロファージの制御は慢性炎症疾患の治療に有用な薬物療法として期待される。
著者
木口 倫一 岸岡 史郎 小林 悠佳 深澤 洋滋 阪口 晴香
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

慢性疼痛の分子基盤解明を目的とし、核タンパク質であるヒストンの役割に着目した。末梢神経傷害後にはマクロファージなどの免疫細胞が浸潤し、ケモカインに代表される種々の疼痛増悪因子を産生する。これらの発現はヒストンのアセチル化やメチル化修飾に基づいて生じることを明らかにした。またヒストン修飾を受けたマクロファージは疼痛増悪に関与する性質に変化しており、薬物処置によりそのマクロファージを沈静化させると慢性疼痛が改善することを見出した。結論として、マクロファージにおけるヒストン修飾変化が慢性疼痛病態の鍵であり、新たな治療標的として期待される。
著者
岸岡 史郎 前田 武彦 木口 倫一
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究ではニコチン、アルコールの身体的および精神的依存における内因性オピオイドシステムの役割について検討した。マウスにニコチンを1日2回5-9日間反復皮下投与し、その後オピオイド受容体拮抗薬であるナロキソンを投与すると退薬症状が発現した。ニコチンによる身体的依存形成はオピオイド受容体拮抗薬であるナルトレキソンの併用により抑制された。一方で、1%エタノールを含む飲料水をマウスに与え、ナロキソンを投与すると退薬症状が認められた。上記の結果より、ニコチンおよびアルコールにより形成される身体的依存には、内因性オピオイドシステムが重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
著者
谷村 弘 内山 和久 石本 喜和男 OCHIAI Minoru TUJI Takeshi IWAHASHI Makoto 岩橋 誠
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

炎症性腸疾患における食物繊維の意義は、いまだ未解決のままである。われわれは、その原因は、食物繊維の特性の違いを無視した検討がなされてきたためであると考える。そこで、特性のことなる2つの食物繊維(15%セルロースと10%フラクトオリゴ糖)と無繊維食、普通食をラット、デキストラン硫酸ナトリウム誘発潰瘍性大腸炎モデルに投与し、糞便中短鎖脂肪酸、腸内細菌叢、病理組織学的検討を行い、食物繊維の炎症予防効果、治癒促進効果について検討した。その結果、同じ食物繊維でもセルロースに代表される不溶性で、刺激性の強い食物繊維は、むしろ炎症を助長するが、フラクトオリゴ糖では、腸内細菌叢を早期に改善し、短鎖脂肪酸を増加させ、腸内環境をいちはやく改善し、炎症予防・治癒促進の両面の作用を有することが判明した。この理由としては、まず第一にフラクトオリゴ糖が水様性で、発酵性に富み、なかでもビフィズス菌に選択的に利用される特性からビフィズス菌優位の腸内細菌叢を作り出し、短鎖脂肪酸代謝を活性化するためであると考える。短鎖脂肪酸は、大腸粘膜細胞のエネルギー源であり、細胞回転率を高め、粘膜血流を増加させ、水分や電解質の吸収を調整し、腸管の蠕動運動を高める作用がある。このような作用が抗炎症的効果を産み出したものと考える。また臨床例においても、フラクトオリゴ糖10〜30g/日を投与した結果、腸内細菌の改善や短鎖脂肪酸の増加に有用であり、そのような症例では、便性の改善や臨床症状の改善が認めれ、新食物繊維としてのフラクトオリゴ糖の有用性が確認された。
著者
北野 尚美 鈴木 啓之 西尾 信宏 垣本 信幸
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

川崎病は乳幼児に好発する急性の全身性血管炎で、後天性の心障害の原因となる。病因は解明されておらず、その疫学的特徴から感染性因子の関与が示唆されている。本研究では、発症に感染性因子が関与するならば、宿主の年齢は重要な条件の1つと仮説を立て、罹患者の発症時の年齢層によって、性別の分布や発症した季節に特徴があるかを調べた。和歌山川崎病研究会が年1回実施した和歌山県内の小児科病床を有する医療機関を対象とした川崎病新規症例の調査(回収割合100%)の資料をもとに電子データベースを構築した。本研究では連続する1945例を対象に疫学的記述を行った。発症時年齢は5分割(4か月未満、4-10か月、11-47か月、48-83か月、84か月以上)し、その特徴を分析した。全体では、男女比は1.4で、年齢は1か月から212か月に分布を認めた。年齢層別に観察した結果、4か月未満で男女比は2.0で、年齢が大きくなるにつれて罹患者に占める男児の割合が小さくなる線形の関連を認め、7歳以上の年齢層では男女比が逆転して1未満であった。川崎病発症の季節性については、全体では冬が33%を占め、秋は19%であった。年齢層別に観察すると、4か月未満の6割が夏と秋に発症していた。本研究の特徴として、研究対象としたデータの選択バイアスが小さいことがある。和歌山県は疫学研究に有利な地理的条件を備えており、県内全域から17年間に報告された全症例を対象として研究を実施した点が本研究の強みである。川崎病発症時の患者年齢と発症の季節性については、年齢層によって発症のトリガーとなる環境要因(ここでは感染性因子を仮定している)が異なることを示唆する結果と考えている。
著者
池田 敬子 小山 一 鈴木 幸子
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

皮膚に安全で不活化効果の高い消毒薬の開発を念頭に、アルギニン及びアミノ酸誘導体や食品由来天然物質のウイルスや細菌に対する作用を網羅的に調べ、ウイルス不活化作用や殺菌作用、抗ウイルス作用があることを見出した。インビトロでの解析に加えて、体表への表在性ヘルペスウイルス感染症に対してインビボでの効果についても検証した。同時に、医療者の衣服などを汚染したウイルスがもつ伝播力についても実験的な解析を行った。
著者
茂里 康 上垣 浩一 絹見 朋也 稲垣 英利
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

研究計画が採択された直後の2018年の5月に、産総研から和歌山県立医科大学に異動した。その頃はモリアオガエルの産卵期であり、泡巣の採取時期であったが好機を逃したため、開始が数か月遅れた。しかし、2019年の春から初夏にかけての泡巣及び成体メスの採取時期は、順調に実験が進展した。その結果、泡巣の生体分子の精製・LC-MSによる解析。均一精製を行ったタンパク質分子のエドマン分解によるN末端配列解析の実施。泡巣を精製せずに、還元アルキル化・プロテアーゼによる切断・プロテオーム解析を行った。同時に並行して、モリアオガエル成体メスの輸卵管(産卵前後)及びコントロール組織として皮膚の発現遺伝子の次世代シーケンサーによるRNA-Seq解析を行なった。LC-MS・エドマン分析・プロテオーム解析・次世代シーケンサーのデータをマッチングする事により、約40種類の泡巣のタンパク質成分の分子同定ができた。血球系や酸化ストレスに関与するタンパク質分子が単離できている。またミトコンドリアのDNA配列は、生物の分子進化を考える上で、重要な遺伝子情報である。次世代シーケンサーを用いて、これまで未報告であったモリアオガエルのミトコンドリアDNA配列の解読を行った。現在アノテーションを実施し、全長の配列解読を継続実施している。また台湾には、泡巣を産生するアオガエル科は少なくとも5種類、R. arvalis, R. aurantiventris, R. moltrechti, R. prasinatus, R. taipeianus、が生息している。その内4種類は台湾の法律により保護されているが、台北市立動物園・両生爬虫類館で飼育・保護されている。台北市立動物園の研究者とメール等で共同研究の実施に合意した。またプロテオーム解析に関しても、長庚大学(台湾・桃園市)の研究者と共同研究に合意している。春には台北市立動物園・長庚大学を訪問予定であったが、新型コロナの一件で訪問を延期している。
著者
久岡 朋子 森川 吉博 北村 俊雄 小森 忠祐
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

自閉症リスク遺伝子として知られているKirrel3遺伝子の欠損マウスを作成し、その行動解析を行った結果、自閉症様の行動に加えて、多動(ADHD様行動)を伴うことを見いだした。さらにKirrel3欠損マウスにおいて、小脳や副嗅球のシナプス部の構造異常を見いだした。これらの結果から、Kirrel3遺伝子欠損による小脳や嗅覚神経回路・シナプス回路の形成異常は、ADHDを伴う自閉症様行動の発現に関与している可能性が考えられた。ADHDを伴う治療抵抗性の自閉症患者で異常となる脳領域・神経回路に関しては不明であり、本研究結果はADHDを伴う自閉症の病態解明につながる重要な知見を提供すると考えられる。
著者
辻本 和子
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

〔目的】エビデンスに基づいた感染防御の基礎データを得ることを目的に、小学生が日常環境で触れる材料に付着したウイルスがどのくらいの時間感染性を保っているかを調べた。【材料と方法】ウイルスには単純ヘルペスウイルス1型(HSV)、インフルエンザA型Aichi株(IAV)、ポリオウイルスセービンワクチン株(PV)を用いた。適当量を分取した材料にウイルス液2μlを置いて汚染し、経時的にウイルス希釈液を加えた試験管に汚染材料を移し、回収される感染性ウイルス量を定量した。【結果と考察】1、檜(机)や砂(運動場)ではウイルス液が汚染直後に吸収された、檜は汚染5分後に全ウイルス種で感染性が失われたが、砂は15分間有意に感染性が保たれた。2、ペットボトル、ゴム、ランドセル、など撥水性素材では15分から20分間は汚染直後と変わらない感染性が全ウイルス種で見られた。3、ステンレスではウイルス種によって挙動が異なったが5分から10分程度で感染性が低下した。4、種々の布地では汚染すぐにウイルス液を吸収するものは感染性維持も短かったが、撥水性では長かった。5、IAVで共存タンパク質の影響をランドセルを用いて調べた。0.5%BSAを加えてもウイルスの感染性に差はなかった。以上の結果は、ウイルス液の乾燥を早める材料では感染性維持の時間が短く、撥水性で液が残る材料では感染性維持が長い事を示す。ステンレスでは液が残っても金属による不活化の関係か感染性維持は比較的短い。液を乾燥させやすい素材か否かは、集団環境での接触感染経路になりやすいか否かに関連すると言える。感染性維持が15分以上の材料が多種あるが、通常ヒトがくしゃみをした後や感染者が触れた材料を15分間も気に留める人はいない事は留意点であると言える。【今後の課題】定量的に検出する方法が確立され結果も得られ始めており、材料の範囲を広げ消毒法など更に応用へ繋げたい。
著者
岩鶴 早苗 池田 敬子 板谷 裕美 服部 園美 日下 裕子 上田 恵
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
和歌山県立医科大学看護短期大学部紀要 (ISSN:13439243)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.63-70, 2002

本研究の目的は炭酸ガス入り足浴(;炭酸ガス浴)の有用性の検討である。健康な女性16人(平均年齢19.6±0.7歳,平均身長160.2±5.0cm,平均体重52.4±5.8kg)を対象とし炭酸ガス浴と従来の足浴(;混浴)を実施した。測定内容は生理的指標として,皮膚血流量,体温(中枢温・末梢温・・腋窩温),脈拍,血圧であり,主観的指標として炭酸ガス浴と温浴を比較した被験者の感想である。生理的指標は足浴前,足浴直後,15分後,30分後,1時間後,2時間後に測定した。データの分析はpaired-t検定を行った。その結果,炭酸ガス浴後の皮膚血流量において,温浴と比較して有意に上昇していた(p<0.01〜O.05)。体温,脈拍,血圧では有意な差はみとめなかった。被験者の感想では,炭酸ガス浴の満足度は非常に高かった。以上のことから,炭酸ガス浴は皮膚血流量増加による保温効果や心地よさのレベルを高めることが明らかとなった。
著者
鵜飼 聡 石井 良平 岩瀬 真生 武田 雅俊 篠崎 和弘
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

統合失調症の治療には通常薬物療法が選択されるが、今後期待されるその他の治療法のひとつに反復的経頭蓋磁気刺激療法がある。この治療法は幻聴や陰性症状の改善に有効である可能性が指摘されているが、その作用機作は不明であり、個々の症例での有効性の予測の指標も確立されていない。本研究では脳磁図を用いた時間分解能の高い脳機能画像を得る手法を確立するとともに、それを用いて本治療法の作用機作や有効性予測の指標を確立することを最終目標として基礎的な研究をおこない、いくつかの重要な成果を得た。
著者
山本 博一 吉益 光一 宮下 和久 福元 仁 竹村 重輝 宮井 信行 宮井 信行
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

地域住民では、うつ病に関連する身体要因は明らかでない。地域住民および警察職員の健診受診者から得られた健診データと、精神疾患簡易構造化面接法の結果を統合し、うつ病・自殺リスクに関連する身体要因を調査した。その結果、自覚症状をはじめ多彩な要因がうつ病・自殺リスクと関連していた。易疲労感、頭痛・頭重感、めまい・立ちくらみ、吐き気・胸焼け・胃もたれ・腹痛などの胃腸症状、腰痛・関節痛などの自覚症状は、うつ病の存在を示唆するかもしれない。
著者
尾崎 敬 村垣 泰光
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

甲状腺再生の有無を調査するため、再生に必要な幹細胞(もしくは癌幹細胞)存在の有無を検討した。幹細胞・癌幹細胞遺伝子としてOct4が重要な因子とされているが、この遺伝子発現を誘導する手段として我々はマイクロ波を利用した方法を確立し、甲状腺未分化癌から(癌)幹細胞を誘導する可能性を形態学的・分子生物学的に示した。マイクロ波照射(2450MHz、47℃)後、未分化癌の細胞形態が変化し、細胞接着が低下することが示された(spheroid形成)。さらにOct4遺伝子発現が有意に増加することが示され甲状腺(癌)幹細胞である可能性を示唆した。(癌)幹細胞の存在は今後の甲状腺再生の可能性を示すものである。
著者
近藤 稔和
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

胸腺退縮は被虐待児の特徴の一つであるとされ,虐待によるストレスによって胸腺のリンパ球にアポトーシスが誘導されることによって生じると考えられている.そのアポトーシスの過程においてサイトカイン・ケモカインの関与が示唆されている.そこで,マウスにおけるストレス誘発性胸腺退縮におけるサイトカイン・ケモカインの役割を解析する.野生型マウスで1日1時間拘束ストレスにさらすと,胸腺が退縮することを明らかにした.さらに,胸腺のT細胞に様々なケモカインレセプターが発現してることに着目した.ケモカインレセプターの1つCCR5に着目した.そこで,CCR5遺伝子欠損マウスと野生型マウスを拘束ストレスに供したところ,両マウスで胸腺が退縮したがCCR5遺伝子欠損マウスでは,胸腺退縮に対して抵抗性を示した.実際,胸腺細胞のアポトーシス細胞はCCR5遺伝子欠損マウスで減少し,Fas及びFasリガンドの遺伝子発現が抑制されていた.このことから,CCR5を介したシグナルがFas及びFasリガンドの遺伝子発現を制御しているものと考えられた.次に,CX3CR1ケモカインレセプターに着目し,CX3CR1遺伝子欠損マウスを同様に拘束ストレスに暴露した時の胸腺の変化についてみたところ,CX3CR1遺伝子欠損マウスでは胸腺退縮の程度が軽減していた.また,胸腺細胞のアポトーシスについても,野生型マウスでは胸腺細胞の多数のアポトーシス細胞を認めたが,CX3CR1遺伝子欠損マウスでは,アポトーシス細胞の数が明らか減少していた.さらに,副腎皮質ホルモンについては,CX3CR1遺伝子欠損マウスに比べて野生型マウスでは優位に増加していた.すなわち,CX3CR1遺伝子欠損マウスでは副腎皮質ホルモンを抑制することでストレス誘発性胸腺退縮に対して抵抗性を示すことが明らかになった.
著者
中田 正範
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

概日リズムは摂食・エネルギー代謝に重要である。本研究では弓状核、室傍核を標的とした時計遺伝子BMAL1のKOマウスを4系統作成・解析を行ったが、いずれのマウスも過食と肥満を呈する事はなかった。一方、室傍核のNesfatin-1ニューロンの活動リズムが、摂食リズムを調節する事、Nesfatin-1ニューロンのリズム失調が肥満、糖代謝異常、高血圧を引き起こす事を明らかにした。さらに、Nesfatin-1ニューロンの活動リズム形成は、血糖上昇とFGF21により制御されていた。このことから、末梢代謝シグナルによるNesfatin-1ニューロンのリズム形成が、摂食リズムに重要であることが示唆された。
著者
久岡 朋子
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

[1]発達過程、及び成獣のKirrel3欠損マウスにおいて、小脳バスケット細胞とプルキンエ細胞間(ピンスー)シナプスのバスケット細胞軸索の分枝に異常があるかを検討するために、NF200の免疫染色を行った結果、野生型マウスと比べてKirrel3欠損マウスでNF200陽性領域と輝度の有意な増加が認められた。さらに、ビルショウスキー染色を用いてバスケット細胞軸索の分枝形態を検討した結果、Kirrel3欠損マウスで過剰な分枝が見られた。[2]オープンフィールドテストにおける多動(ADHD)を伴う常同行動(ASD)の亢進により活性化、または抑制される脳部位を、神経活動依存的に発現するc-fos蛋白を指標として、野生型とKirrel3欠損マウス間で比較した結果、いくつかの領域で異常を見いだしており、現在、個体数を増やして解析中である。[3] Kirrel3欠損マウスにADHD治療薬でドーパミン伝達系の賦活薬であるメタンフェタミンを腹腔内投与し、オープンフィールドテストによりADHD様行動(多動)が改善するかを検討した結果、メタンフェタミン非投与群と比べて多動の有意な亢進が見られた。この結果から、Kirrel3欠損マウスのADHDを伴うASDの病態として、ADHDで報告されているドーパミン伝達系の低下ではなく、ドーパミン伝達系の亢進が関連している可能性が示唆された。[意義・重要性] ADHDを伴うASD様行動を示すKirrel3欠損マウスの小脳において、ピンスーシナプスの形成に異常が見られ、ADHD治療薬であるドーパミン系賦活薬の投与によりADHD様行動の増悪が見られたことから、この疾患の新たな病態を見いだした。これらの知見から、ADHDを伴うASDと小脳やドーパミン伝達神経回路との関連性をさらに解明することで、ADHD単独の病態とは異なるこの疾患の治療法の開発に役立つと考えられる。
著者
河野 正充
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

乳幼児の免疫学的未成熟な期間における母体免疫の有効性について、従来より指摘されている移行抗体の役割のみではなく、免疫担当細胞の誘導や免疫学的メモリーの獲得等、乳幼児自身の免疫システム構築の側面から検討を行った。①肺炎球菌の表面共通蛋白抗原であるPspAを用いた母体免疫により、新生児マウスの脾臓において抗PspA特異的抗体産生細胞が非免疫群由来の新生児マウスと比較して有意に多く検出された。すなわち、母体免疫により新生児マウスの体内には経胎盤あるいは母乳を介した移行抗体のみではなく、肺炎球菌に対する免疫担当細胞が誘導されていることが確認された。②母体免疫により誘導された抗肺炎球菌特異的免疫能は、肺炎球菌感染症に対する予防効果を認めた。母体からの移行抗体が消失している5週齢前後の仔マウスにPspAを皮下接種し、抗肺炎球菌特異的抗体を誘導した後、肺炎球菌を全身感染させた。免疫群由来の仔マウスは非免疫群由来の仔マウスと比較し、生存期間の有意な延長を認めた。③母体免疫により、仔マウスは肺炎球菌抗原に対する長期的な免疫学的メモリーを獲得した。5週齢前後の仔マウスにPspAをアジュバントを用いずに皮下接種し、血清中に誘導される抗PspA特異的抗体を経時的に測定した。非免疫群由来の仔マウスでは抗体価の上昇は軽度であり、PspA皮下接種から2週間後に血清抗体価のピークを認めたのに対し、免疫群由来の仔マウスの血清中抗体価は接種後1週間後から有意な上昇を認め、2週目以降も抗体価の上昇を認めた。PspAを用いた母体免疫により、新生児マウスに抗肺炎球菌特異的免疫応答の持続的な誘導を行うことが示された。今後、免疫誘導の詳細な機構を解明することで、新たなワクチン開発における有用な情報が得られることが望まれる。