- 著者
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江口 一久
- 出版者
- 国立民族学博物館
- 雑誌
- 特定領域研究
- 巻号頁・発行日
- 2001
ベトナム木版画のなかに仏教、道教、儒教、その他とかかわる民間の生活と密接した民間版画がある。現存する民間版画としてもっとも有名なのは、ドン・ホー版画とハン・チョン版画、それに「ハン・マー版画」がある。すでに、生産されていないものに、キム・ホアン版画がある。ドンホー村ではおもに、グエン・フウ・サム、グエン・ダン・チェとチャン・ニャット・タンの三人とその家族が年画をつくっている。今日、年画が一般のあいだで利用されていないのは、現代人の考え方や思いをあらわすことができないからといえる。ハン・チョン版画の後継者は今、グエン・バン・ギエン一人しかいない。民間版画は字句による祈願、象徴による祈願、同音が吉祥をしめすものによる祈願、字句と象徴による祈願、護符、新年の宗教的絵、滑稽な絵、愛国的な絵、鑑賞用の絵、霊媒信仰の神の絵に分類される。ドンホー版画はおもにツーリスト・アート(観光用の土産物)に活路をみいだしているが、もはや、民衆のなかではいきていない。ハン・チョン版画は国立美術館で制作されており、高価で、美術愛好家によって購入されている。ハン・マー版画は霊媒信仰の神の絵が中心となっており、今日でも、民衆のなかでいきている。仏国遠東学院にはドン・ホーとハン・チョン版画が所蔵されており、どれも、1960年以前のもので、紙や絵の具の質がわるいが、版画の全盛期を彷彿させる。