著者
長野 泰彦 菊澤 律子 西尾 哲夫 武内 紹人 高橋 慶治 立川 武蔵 白井 聡子 池田 巧 武内 紹人 池田 巧 高橋 慶治 立川 武蔵 白井 聡子 本田 伊早夫 桐生 和幸 R. LaPolla M. Prins 戴 慶厦 G. Jacques 才譲 太 S. Karmay M. Turin 鈴木 博之 津曲 真一
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2004

チベット・ビルマ語族は、中国・青海省からパキスタン東北部にわたる広い地域に分布する。この語族の歴史はその大枠がようやく明らかになってきたものの、未解読文献言語や記述のない言語が多数残っている。本計画は(1)未記述言語の調査、(2)未解読古文献(シャンシュン語)の解読、(3)チベット語圏の言語基層動態解明、を目標として研究を行い、幾つかの知られていなかった言語を発見して記述、新シャンシュン語(14 世紀)語彙集集成、古シャンシュン語の文法的特徴の抽出、に成功しただけでなく、歴史言語学方法論に接触・基層という視点を導入することの意義に関して提言を行うことができた。
著者
中牧 弘允 陳 天璽 廣瀬 浩二郎 日置 弘一郎 廣山 謙介 澤野 雅彦 三井 泉 竹内 恵行 澤木 聖子 出口 竜也 周佐 喜和 大石 徹 王 英燕 秦 兆雄 曹 斗燮 岩井 洋 市川 文彦 住原 則也 出口 正之 李 妍〓
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

上海万博のテーマに沿って、展示やイベントに見られる近未来の望ましい都市文化、都市生活のありようを研究した。追究したテーマは主に聖空間、国家、都市、企業にかかわるものであり、国威発揚、経済効果、生活様式の変化などに注目した。上海万博は、上海を「龍頭」として発展する現代中国を中心に、それをとりまく国際環境の縮図を一つの世界観として内外に提示したといえる。
著者
和田 正平 吉田 憲司 小川 了 端 信行 A.B. イタンダーラ 阿久津 昌三 栗田 和明 江口 一久 小馬 徹 S B Pius A B Itandala
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

平成6年度は以下のような実績をあげることができた。1.カメルーン北西部州では、端が州都バメンダから離れたいくつかの村で調査を行ない、都市化、貨幣経済化の浸透のなかでの性による役割分担の変化を示した。男性のグループは、稲作農民組合を形成して水田耕作を拡大している。一方、伝統的な自給的農業の担い手であった女性もグループで土地を購入し、換金性の高い作物を栽培して貨幣経済に積極的にかかわっていく動きを見せている。男女それぞれが新しい社会経済的なニッチェを生み出している傾向が明らかになった。またカメルーン国北部で、フルベ族の女性の調査を行なった、フルベ社会ではイスラム教の影響で女性の社会的な立場は低いのとされ、仕事も禁じられている。しかし、実際には自活している女性も少なくなく、昔話の中にも女性の力を讚えているものもある。女性の生活を多面的に示し、実際の両性の関係を精密に記述する試みをした。2.セネガル国ダガ-ルで、小川は都市に住む人々の経済活動を調査した。インフォーマル・セクターでの女性の活躍が昨年度から指摘されていたが、全体像の記載の必要から男性も含めたインフォーマル経済従事者たちの活動状況を広く調査した。これらの経済活動と都市民の互助組織がセネガル国全体の経済、発展と密接な関連があることを示した。3.ザンビア国でチェワ社会とンゴニ社会での儀礼における性差に注目して、吉田が調査を行った。その結果、父系社会であるンゴニ社会から母系社会であるチェワ社会へ精霊信仰が導入され、その時点で信仰の主たる担い手が男性から女性へと変化したことがわかった。また、その信仰がチェワ社会の伝統的な儀礼組織の欠如を埋め、それを補完する形で浸透してきていることを示した。4.コートジボワール国ダブ郡で、茨木はアジュクル社会の女性の活動に注目した。最近の都市部での人口急増によってキャッサバを加工した食品、アチュケの需要が高まっている。アジュクルの女性はこの食品を加工生産する作業にふかく関わるようになり、その結果、農作業や日常の生活上の性別の分業に変化がみられるようになった。平成4年度から6年度にかけての本研究によって以下のような成果をあげることができた。1.本研究全体の主題は、女性、伝統と変化、に関わるものであったが、これは研究対象となったそれぞれの民族社会の理解をすすめる上で大きな意味をもつ問題であり、それぞれ有効な記述の観点を引き出すことができた。したがって、女性と変化を主題に研究する視点は、多くの社会にあてはまる普遍性をもち、これからの文化人類学研究の分野として重要であることが示唆される。2.特に変化を踏まえての記述は、多くの場面で有効であった。フェミニズム人類学やマルキズム文化論の影響下の人類学では十分に示すことができなかった、「現在起っている社会の変化に柔軟に対応して変化していく両性の役割」という研究視点を提供することができた。3.本研究にって提供された、女性の文化人類学に向けての研究視点として、具体的には以下のようなものを挙げることができる。それは、都市の中での女性の経済活動、都市と農村との関係で農村女性が果たす役割、農村女性の生活改善運動、他民族やキリスト教との接触による女性の役割の変化、両性の役割のノルムと実際、などである。とくに現在では国際的な経済活動、開発と援助の影響の下で大きな変化と対応を示している女性の諸活動に注目する研究視点が重要であると示唆された。
著者
中牧 弘允 近藤 雅樹 片倉 もとこ 鵜飼 正樹 岩田 龍子 石井 研士
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本年度は、昨年度に引き続き企業博物館や会社を個人ないし数名で訪問し、聞き取り調査をおこなった。地域別の主な訪問先は次のとおりである(詳細は報告書参照)。北海道:小樽オルゴール堂アンティークミュージアム、小樽ヴェネチア美術館、旧日本郵船株式会社小樽支店、小樽運河工芸館、雪印乳業史料館、サッポロビール博物館、竹鶴資料館、コニカプラザ・サッポロ、らいらっく、ぎゃらりい(北海道銀行)、石炭の歴史村、男山酒作り史料館、優佳良織工芸館、ふらのワイン工場、池田町ワイン城、馬の資料館、太平洋炭礦炭鉱展示館 関東:資生堂企業資料館、日本銀行貨幣博物館 中部:東海銀行資料館、窯のある広場・資料館(INAX)、日本モンキーセンター(名古屋鉄道) 諏訪北澤美術館、SUWAガラスの里 近畿:ホンダコレクションホール、パルケエスパーニャ、真珠博物館、竹中大工道具館、島津創業記念資料館 九州:西部ガス、ハウステンボス、べっ甲文化資料館このほか住原は原子力発電所PR館のうち昨年度の訪問先以外のすべてを調査するとともに、関電、北電、九電の本社でインタビューをおこない、PR館が原発のしくみや安全性を説明する施設から、リクリエーションや地元文化を紹介する文化観光施設に変わってきたことを明らかにし、記号論者の言う「詩的機能」が付与されヘゲモニ-形成に寄与していることを実証した。会社の求心性や遠心性については、日置が「組織ユニットにおける副の職務」に関して、企業の組織改革の中で自分の役割を主張する機会のないまま、整理対象となっている副の役割について研究をおこなった。会社の記念行事や宗教儀礼にみられるように、経営に宗教的要素が動員されることについては、ダスキンと日立製作所、伏見稲荷神社で調査を実施した。2年度にわたる調査研究の結果、会社文化の研究には「経営人類学」とでも称すべき研究分野が存在することがしだいに明確となり、企業博物館や宗教儀礼の分析を通して、会社の精神的の文化的・経営的側面こそが経済よりもむしろ歴史的に意味をもつ場面のあることを明らかにした。
著者
廣瀬 浩二郎 小山 修三 五月女 賢司
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本プロジェクトは、ユニバーサル・ミュージアム(誰もが楽しめる博物館)の具体像を模索する多様な研究活動を展開した。2011年10月にはプロジェクトの成果発表を目的とする公開シンポジウム「ユニバーサル・ミュージアムの理論と実践」を国立民族学博物館で行なった。吹田市立博物館の実験展示「さわる-五感の挑戦」(2009年・2010年)、特別展「さわる-みんなで楽しむ博物館」(2011年)の開催に当たっては、展示コンセプトの立案、資料選定などで協力した。
著者
中牧 弘允 村上 興匡 石井 研士 安達 義弘 山田 慎也
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

平成11年度は、入社式、新入社員研修と社葬に焦点を置いて調査をおこなった。入社式と新入社員研修については大阪のダスキンで、一燈園とのつながりを明らかにした。社葬については、ソニーの社葬を調査し、国際色豊かな演出の中にソニーの企業としての特色と盛田会長のカリスマ的創業者としての性格を明らかにした。また、大成祭典、一柳葬具総本店といった葬儀社においても調査をおこない、社葬と社員特約の歴史的変遷を跡づけた。平成12年度は、前年度に引き続いて入社式、新入社員研修、社葬を追跡調査したほか、社内結婚についての調査もおこない、公と私の場が入り交じった日本独特の会社文化を明かにした。社葬と会社特約については、大阪の大手葬儀社である公益社を新たに調査した。平成11・12年度を通じて、九州の酒造関係の地場産業における儀礼調査、京都の伏見稲荷神社における会社儀礼の調査をおこない、伝統産業と宗教の関わり、会社ならびにサラリーマンの強化儀礼について研究をおこなった。それぞれの調査を総合して、報告書として「サラリーマンの通過儀礼に関する宗教学的研究」を作成した。
著者
中牧 弘允 CARLE Ronald Denis
出版者
国立民族学博物館
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

調査研究活動-岐阜県大野郡白川村 平成15年12月18日より24日まで-白川村役場:訪問と集材-白川村荻町区「合掌造り集落」での一般参与観察-野外博物館「合掌造り民家園」で来客との聞き取り調査-大雪の日:旧近所の雪かき手伝い運動と近況聞き取り調査-岐阜県大野郡白川村 平成15年12月27日より平成16年1月元日まで-白川郷荻町八幡神社の年末行事の参与観察-白川村荻町区「合掌造り集落」での一般参与観察-野外博物館「合掌造り民家園」で来客との聞き取り調査-大雪の日:旧近所の雪かき手伝い運動と近況聞き取り調査-沖縄県八重山郡竹富町竹富島 平成16年1月元日より16日まで-竹富島における町並み保存の一般調査:町並み保存の実践に関する聞き取り調査観光業の経営に関する聞き取り調査来客に聞き取り調査-沖縄県八重山郡竹富町竹富島 平成16年3月8日-28日まで-竹富島における町並み保存の調査:町並み保存の実践に関する聞き取り調査と参与観察(保存会委員会、海岸美化運動など)観光業の経営に関する聞き取り調査観光業の行事観察(海開き祭りなど)来客に聞き取り調査学会活動-Anthropologists of Japan in Japan (AJJ) Autumn 2003 WorkshopSofia University, TokyoNovember 1-2, 2003聴講
著者
和田 正平 PIUS S.B MASAO F.T 小田 亮 阿久津 昌三 栗田 和明 渡辺 公三 江口 一久 端 信行 PIUS S.B. MASAO F.T.
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1989

本調査はケニア、タンザニア、ザイ-ル、カメル-ン、ガ-ナを主要調査国として1989年から3年間(3年目は調査総括)伝統的政治構造と近代化の比較研究を目的に実施された。調査開始後の1990年頃からアフリカには「民主化」の気運が急激に高まり、複数政党制へ転換する要求運動が実現にむけて動きだした。1991年11月ザンビアで一党独裁が打倒され、12月にはケニアの一党制廃止がきまった。こうした独立時を彷彿させるような急激な民主化運動は社社主義の挫折という国際関係の大変化に呼応しているが、内実、根強い部族主義から噴出している面も否定できない。調査は政治人類学的な視角から住み込み調査法によって行なわれ、以下のような調査成果が得られた。ケニアでは、新しく結成された二大野党FORDと民主党の支持基盤について調査を行なった。民衆の民主化要求では裏面で小数派のカレンジン族出身の現大統領に対する反政府運動であり、新党の結成は新しい部族の対立と反目を生み出している。他方部族の基盤である農村では西ケニアを中心に住み込み調査を行なった。地方では、近代行政とは別個に伝統的権威をもった長老会議が実質的な力をもっていることが明らかにされた。具体的にはアバクリア族のインチャマのように長老会議は邪術者によって構成されているが、個別利害をこえて裁判等を行ない、その権威は正当化されている。タンザニアでは逆に伝統的な長老会議は衰退、共同体儀礼の消滅が記録された。調査したイラク族の村ではウジャマ-開発が強行された後、行政組織はCCM(革命党)に密接に関連するようになり、長老会議は家庭内のもめ事を解決するだけに機能が縮小した。しかし、かつて首長制があったニャキュウサ族ではCCMの影響もさほど強くなく、長老会議の権威がまだ維持されていて、土地の再分配等に大きな発言力をもっている。ザイ-ルでは1990年にカサイ州、クバ王国を調査した。現王朝は17世紀前半の王から数えて22代目にあたり、今日も伝統的権威をもった王が、実効的な統治を行なっている。今回は、王国に生きる人々の社会空間の場がどのようにつくられるかを目的に調査を行なった。具体的にはクバ王権とその傘下のショウア首長権を対比し、両者の最大の質的差異が女性の「集中=再分配」システムから発していることが明らかになった。王権の形成史を女性の授受関係を通してみることがいかに重要な視点であるかを明示できたと思う。カメル-ンでは19世紀末から20世紀初頭にかけて、北部フルベ諸王国で創作された抵抗詩「ムポ-ク」を採録した。「ムポ-ク」はヨ-ロッパ人の前では決して明かすことのなかったフルベ族の本心が、詩というメタフォリックな形で表現された貴重な資料である。伝統的な吟遊詩人「グリオ」が朗唱の中で暗に植民地政府を批判し、世論を形成していった社会状況がこの詩からうかがい知ることができる。また北西部州では、マンコン王国の伝統的王制と近代文明的価値をめぐって調査を行なった。歴代伝承されてきた王の伝統的諸儀礼と近代化に対応する社会と文化の変容過程に注目し、両者が功緻に融合している状態を観察し、その実態について民族誌的記録をとることができた。ガ-ナでは中部アシャンティ王国の王都クマシにおいて現地の歴史資料に依拠しつつ、歴代王位の継承方式のついて調査を行ない、アサンテ王における王位をめぐる相克の歴史を明らかにした。王朝は統合と分裂を繰り返したが、王母を核とする「血の原理」に着眼し、王位継承を論じたところに、今回の研究の新しい展開がある。ト-ゴでは、中部山岳地方に居住するアケブ族の首長制の形成と解体に関する調査を行ない、同地方の伝統的政治組織が海岸諸王国の奴隷狩りに対抗していたことを証明することができた。以上、調査を分担した各個は、成果報告として論文を作成中であり、国立民族学博物館論文報告や学会誌等に寄稿する予定になっている。
著者
吉田 憲司 江口 一久 端 信行 和田 正平 栗田 和明 竹沢 尚一郎
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

アフリカにおいては、民族意識の高揚にともない、とくに1980年代以降、民族の伝統を再編し、民族独自の文化を創造しようという文化運動が各地で活発化している。本研究は、こうした文化運動に焦点をあて、その実態を明らかにするとともに、そうした運動によるエスニシティ形成のメカニズムを明らかにすることを目的として発足した。調査対象は、アフリカ全体を視野にいれた比較研究を実施するという視点から、地域的にはアフリカ各地にまたがり、また運動の形態の上でも、宗教運動から美術や音楽・舞踊、祭礼の創造・再編に代表される芸術運動から、さらには博物館建設運動に至るまで、多岐にわたった。それらの比較検討を通じて、エスニシティの編成を大きく左右する要素として、祭りやスポーツの展開、伝統工芸の処遇(交易や展示)、普遍宗教の動向、そして人口の移動といった事象が抽出されてきた。また、単にアフリカ内部だけでなく、ディアスポラにおける民族意識のありかたや、欧米における先住民権支援運動の動向も、エスニシティの編成に大きな影響をもっていることが明らかとなった。これまでの調査により、文化運動の基本的類型は概ね把握できたと考えられる。一連の研究を通じて、とくに芸術に焦点をあてた文化運動は、欧米人による介入が運動の成立とその後の展開の大きな要因になっていることが確認された。一方で、宗教運動や人口の移動や集中にともなう生活運動のなかには、外的な影響を契機としつつも、その後の展開においては極端に排他的な展開をみせる運動形態も存在する。ただ、いずれにせよ、文化運動の動向とエスニシティのありかたは、それぞれの民族の外部世界とのグローバルな相互関係の網の目のなかで編成されてきていることが浮き彫りにされた。いわば、アフリカ文化をめぐるグローバル・エスニック・ネットワークの存在を確認したことが本研究の最大の成果である。
著者
園田 直子 日高 真吾 岡山 隆之 大谷 肇 増田 勝彦 青木 睦 近藤 正子 増田 勝彦 青木 睦 金山 正子 関 正純 村本 聡子 森田 恒之 大江 礼三郎
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

図書・文書資料に適用できる劣化度評価法のうち、ローリングテストはほぼ非破壊で実施でき、通常の物性試験では測定不可能なほど劣化の進んだ紙の劣化度評価に適用できる可能性を持つ。アコースティック・エミッションは最小限の破壊はあるものの、劣化度評価に有効である。極微量のサンプル量を必要とする熱分解分析法は劣化度評価だけでなく、これにより劣化機構の違いが解明できることが示唆された。紙の劣化度を考慮に入れながら強化処理法を検証した結果、セルロース誘導体による強化処理は状態の良い酸性紙に対する予防保存的措置として、ペーパースプリット法は対処療法という位置づけが明確になった。
著者
中牧 弘允 住原 則也 塩路 有子 澤野 雅彦 廣山 謙介 日置 弘一郎
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

最終年度にあたるため、イギリスでの補足調査を実施するとともに、研究成果のとりまとめをおこなった。報告書には日本語版と英語版を掲載した。(1)宗教共同体に関しては、三井がクエーカ-の企業体であるロウントゥリー(ヨーク)の調査を継続し、クエーカーのダービー家によって創始された製鉄業の象徴的建造物であるアイアンブリッジを訪問した。(2)企業博物館に関しては、中牧、広山がストーク・オン・トレントとバートン・アポン・トレントでそれぞれ陶器業と醸造業の補充調査を実施した。ケリーはバートン・アポン・トレントに合流するとともに、他の醸造業の博物館についても調査を実施した。住原とセジウィックはスコットランドで昨年度着手した蒸留酒のビジターセンターについて補充調査を実施した。廣山、中牧、ヘンドリーはロンドンでウエルカム財団ならびにその資料を展示した大英博物館企画展の調査を実施した。澤野はレディングでハントゥリー&パーマー社の補充調査をおこなった。(3)観光産業の経営文化に関しては、塩路が引き続きコッツウォルズ地域を対象に、とくに陶器をめぐる産業と家庭と関係について補充調査を実施した。(4)マツナガは長期滞日中のため現地調査はおこなわなかったが、報告書の英語版の監修に当たった。(5)日置は勤務校の責務のため、現地調査を実施しなかった。(6)オックスフォード・ブルックス大学でミニ・シンポジウムを開催し、メンバー以外の研究者や学生の参加を得た。
著者
笹原 亮二
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

南九州から薩南諸島・吐喝喇列島を経て奄美諸島に至る地域には、数多くの民俗芸能が伝わっている。それらの中には、この地域が沖縄とヤマト(沖縄・奄美以外の日本)の境界領域に位置し、双方から政治的・社会的・文化的な影響を歴史的に様々なかたちで蒙ってきたことと呼応して、沖縄あるいはヤマトとの関係が様々なかたちで認められる、琉球系及びヤマト系の民俗芸能が少なからず存在している。従来、この地域の民俗文化については、吐喝喇列島と奄美大島の間にヤマトと沖縄・奄美を分かつ境界があり、奄美大島以南では与論島と沖縄本島の間に沖縄と奄美を分かつ境界があり、奄美諸島内においても他の2つ程明確ではないが、徳之島と沖永良部島の問にも境界があって、大きく3領域に分かれることが指摘されてきた。この地域の琉球系・ヤマト系両系統の民俗芸能も、南九州から吐喝喇列島までは、ヤマト的な芸能をベースに、沖縄的な趣向や特徴が異国・異人的なイメージとして現地の人々によって意識的に演じられている琉球系の芸能が見られ、奄美大島・喜界島・徳之島では、沖縄的・ヤマト3的それぞれの趣向や特徴が現地の人々によって意識的・無意識的に演じられている両系統の芸能の混在.が見られ、沖永良部島以南では、全般的には琉球系の芸能が優越する中で、ヤマト的な趣向や特徴が異国・異人的なイメージとして現地の人々によって意識的に演じられるヤマト系の芸能が見られるというように、ほぼ3領域の区分に沿ったかたちで整理することも可能である。しかし、各領域内を見ると、吐喝喇列島以北では、同じ琉球系芸能でも南九州に比べて薩南諸島は沖縄的な特徴や趣向が異国・異文化イメージとして過剰に演出されていたり、奄美大島・喜界島・徳之島では、奄美大島で見られないヤマト的な特徴やイメージの表出が、喜界島・徳之島それぞれ別のかたちで見られたりというように、より狭い地域や個々の島々の問で民俗芸能のあり方に類型的かつ明確な違いが存在していた。このことは、この地域の民俗文化の理解においては、従来の3区分に基づく境界論では必ずしも十分ではなく、外界との交流と域内での滞留の相互作用によって文化的な独自性が歴史的に醸成されてきた諸地域・島々の集合といった、より複雑な地域構造を想定する必要性を示唆している。
著者
白川 千尋
出版者
国立民族学博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

一昨年度と昨年度に続き、本年度も戦後日本のマスメディアにおけるオセアニア表象、とりわけメラネシア地域に関する異文化表象を主たる対象としながら、主に以下の研究活動を行った。1.1960年代から本研究に着手する前年(2002年)までに放映されたメラネシアを取り上げたテレビ番組における異文化表象のあり方の検討。2.同じ時期に出版されたメラネシアを取り上げた図書における異文化表象のあり方の検討。3.1.で検討の対象としたテレビ番組の制作過程に対する文化人類学者の関与のあり方の検討。その結果、主に以下の知見を得た。1.テレビ番組においては、各年代を通じて集落部を対象とした番組がきわめて多く、対照的に都市部のみを取り上げたものは皆無に等しい。また、番組のなかで取り上げられる人々はペニスケースや腰蓑といった出で立ちであることが多い。そして、これらの地域や人々に対して「秘境」、「未開」、「裸族」などの語が使われ、「近代的な世界から隔絶した世界に生きる人々」や「外部者を容易に寄せつけない未開人」といった提示の仕方がなされている。こうした傾向は1960年代から2002年まで大きく変化することなく続いている。2.図書においては、テレビ番組にみられたものと同じような傾向が、1960年代から70年代に出版されたものに関して認められる。しかしながら、そうした傾向は1980年代以降に出版されたものに関しては希薄になり、都市部を取り上げたもの、あるいはTシャツやズボン、ワンピースといった出で立ちの人々の写真を多く掲載したものも目立つようになっている。3.テレビ番組の制作過程に対する文化人類学者の関与は1960年代においては顕著であったが、海外での調査研究に関する基盤整備(科研費の充実化など)が進むとともに希薄化し、近年では番組制作者が番組の制作過程で文化人類学者の研究成果を一方的に「流用」する形になっている。上の1.で指摘したように、テレビ番組のなかでメラネシアとそこで暮らす人々は、1960年代からこの方、一貫して「未開」や「秘境」といったキーワードに収斂する形で表象されてきた。こうした表象が維持されてきた背景には、それがテレビ界の視聴率競争との関連で、視聴率を獲得するための重要な「資源」と目され、利用され続けてきたことがあると考えられる。なお、以上に述べた知見などについては、別に作成した報告書(『日本のマスメディアにおけるオセアニア表象の文化人類学的研究-平成15〜17年度科学研究費補助金研究成果報告書』)で詳述した。