著者
淺野 敏久
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-22, 1997
参考文献数
26
被引用文献数
5

中海・宍道湖の干拓・淡水化事業は, 1988年に地元を中心とする反対運動によって, 淡水化について事実上の中止に追い込まれた。干拓事業については1990年代半ばになって再び事業を進めるか否かが問い直されている。本稿では前者の淡水化事業が凍結されるまでの反対運動に注目し, その地域性及びその意味を明らかにする。反対運動は, 宍道湖でシジミ漁を営む漁民や生活環境・観光資源を重視する松江市民らを中心として, 広範に展開された。この一連の反対運動は, 関係する地域で一様な展開をみせたわけではなく, その発生や展開過程において顕著な地域差をみせた。それは, 鳥取県と島根県という行政領域の違い, 中海と宍道湖という直接の関心事となる対象の違い, 都市部と農村部という社会経済環境の違いという3つの視点からとらえることができる。環境保全運動は, 対象が, その存在する地域と不可分なことや, 運動の担い手がその地域の住民であること等のために, 地域性を反映したものとなる。今回の例では, 松江中心で運動が進んだために, 「宍道湖を守ろう」という性格の強い運動となった。運動を成功させるためにも, また, 当事者間の主張や利害関係を調整し, 問題を解決するためにも, 表面的な争点にとどまらず, 地域構造上の問題点に踏み込んだ環境問題の理解が求められる。
著者
野本 晃史
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, 2000-07-28
著者
フンク カロリン
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.213-230, 2000-10-28

観光地理学の主たる関心は,観光行動が地域間の均等な発展にどう影響するかという疑問に集中してきた。伝統的には観光は中心地域から周辺地域への動きであり,周辺地域の発展に貢献するとされていたが,近年,観光行動が多様化かつ個性化したなかでは,地域への影響を評価することが困難となった。現代社会における観光行動の多様化の傾向と,各地域の社会的・文化的な条件が山間地域にそれぞれ異なった発展の可能性と限界をもたらすからである。本稿では,日本における山間地域の観光開発の条件を観光客の行動の視点から分析する。背景として全国の観光客動態と観光に影響する社会的要素にふれた後に,ローカルレベルで観光客のタイム・バジェット調査を行った。調査地として兵庫県の神鍋高原,愛媛県の久万高原を選択した。 調査の結果,旅行期間の短さが最も観光客の行動を制限する要因として明らかになった。その一方で,多様化をもたらす要因もいくつか見出された。年齢,同行者との関係,そして子供の有無が活動内容と宿泊施設の選択を決めている。子供のいる家庭は自然を対象に活動を行っているが,時期的に夏休みに限られている。若者はスポーツに興味を持っており,整備が進んだ施設を要望している。観光客の活動が史跡観賞などの伝統的な観光よりも,レジャーに近いように思われる。また,山間地域をスポーツやグルメなど,一つの明確な目的でたずねる客が多い。このような多様化に対応し,様々な小規模な宿泊施設,レジャー施設を整備することが山間地域リゾートの成功を決めるといえよう。観光を中心にした地域発展の可能性と限界を決める要因のなか,世界的な観光行動の変化に相当するものも,日本に特殊な条件からなっていることも分析で明らかになった。
著者
小島 大輔
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.49-65, 2008-04-28
被引用文献数
2

本稿の目的は,近年注目の集まりつつある都市観光(urban tourism)について,熊本市の都心の集客施設への来訪者の行動から,観光行動についての空間的特性とその規定要因を明らかにすることである。調査対象は,中心市街地およびそれに隣接し,熊本市の観光入込客数の上位に含まれる主要な集客施設である。分析は,熊本市内および熊本市外の2つの地域スケールについて行い,さらに,数量化III類によって両者の行動の関係およびその規定要因を検討した。分析の結果,熊本市は,熊本県内周遊,九州横断,および九州周遊という3つの主要な旅行ルートによって,階層的な観光流動に組み込まれていることが明らかになった。また,熊本市内における行動について,トリップ数の増加に伴い,行動が多様化し,さらに行動空間も拡大することが示された。さらに,現地への滞在時間の増大または来訪経験の増加によって,滴下効果が生じ,ツーリストの卓越する施設に加えてレクリエーショナリストの卓越する施設への来訪行動が現れることが確認された。
著者
山村 順次
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
no.33, pp.p1-13, 1980-06

It is one of the basic works to study the regional and seasonal changes in tourist flow in nation wide for geography of tourism and recreation. However until very recently, this method has not been undertaken due to the insufflcient data. The present report therefore aims at presenting basic data on the regional and seasonal change in tourist flow visiting hot spring resorts in Japan. The results may be summarized as follows : l ) In Tohoku district at a long distance from Tol{yo metropolitan region, there are many local tourists from own district especially own prefecture alike western Kyushu and a part of Jo-shin district. On the other hand, in Tokai including lzu Peninsula and north Kanto districts around Tokyo, in Kinki and Chugoku districts around Osaka, many hot spring resorts are characterized by lots of tourists from metropolitan regions. They are located in about 200 km zone from Tokyo or Osaka. Hot spring resorts in Hokkaido district far from Tokyo have mainly been developed by many tourists from Tokyo and Osaka because of own special tourist resources and acces-sibility to metropolitan regions by progress of airplane traffic. 2) Three types of hot spring resorts, namely 1, Iocal, 2. intermediate, 3. wide area types were pointed out from view point of the seasonal change in tourist flow. Hot spring resorts as local type in Tohoku district are generally characterized by the local tourists during four seasons, and intermediate type especially shows the locality In other districts except Tohoku district, many in winter in southern Tohoku. tourists from wide area visit the hot spring resorts in a year round. 3 ) The significance of the regional and seasonal changes in tourist fiow is considered to be character of hot spring resorts and accessibility to great tourist markets. Tohoku district is remarkable primary industrial region, and have many hot springs for health, so farmers, fishermen and other local tourists go to near by hot springs. At the same time, the difference of accommodation facility and advertising activity of hot spring resorts determine the types of the regional and seasonal changes in tourist flow. Atami spa, the most advanced hot spring resort in Japan, which is located near Tokyo shows the constant tourist flow in regional and seasonal changes. 4 ) Local type hot spring resorts in Tohoku district generally have good environment comparing with other types characterized by uniformity and poor environment. Therefore, it is important to protect the good en\'ironment and to maintain the local charactor on regional policy in the future.
著者
ルレ モーニカ
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.116-126, 2009-07-28

ドイツにおける18世紀初頭から現在の状況まで,ドイツ東部の海岸地域の観光及び健康目的の観光に特に焦点をあて,観光地の発展について検討する。ドイツにおける最初の観光の形は,中世の巡礼及び温泉地訪問に始まる。しかし,18世紀後半から19世紀初頭かけて,上流階級及び知識階級の旅においてレジャー及び娯楽のための観光が始まっているのが見受けられる。これらは,まだ珍しく,特権階級に限られ,諸外国にとって目立った行動であった。同時に,ドイツにおいて健康目的の観光の開発が始まった。1793年には,Heiligendamm(ハイリゲンダン)でヨーロッパ海岸域の温泉が初めて発見され,当産業の数ある上昇の一つが始まった。続く次の世紀において,温泉を訪れる人はまだ主に上流階級であり,温泉を訪れるのは主に社会的な理由によるもので,滞在は数週間にわたった。20世紀になると,ドイツにおける観光は,社会のすべての階級の人たちに提供されるものに根本的に変化した。観光が初めてレクレーション及び教育の中にもみられるようになってきた。1930年代においては,国による社会のすべての階級の人たちが楽しめる観光の確実な推進が,マス・ツーリズムの最初の兆候をみせた。ドイツの海岸に沿って,それぞれ20,000床を有するよく似た観光地が5つ計画されたが,Ruegen島(リューゲン島)にあるProra(プローラ)だけが実現し,残りは第二次世界大戦勃発のため完成しなかった。戦後,東西ドイツでは政治体制が異なったため,観光の発展は別々の道をたどった。ドイツ連邦共和国(西ドイツ)は北海及びバルト海の海岸線に沿った温泉や海に関する観光産業をさらに発展させた。西ドイツでは,すべての人々に対して一般に4週間継続する治療を施す社会システムが考案されたので,特に温泉地への訪問者数は大きな飛躍をみせた。西ドイツにおいて,約300の温泉地ができるという強力な発展を導いた。ドイツ民主共和国(東ドイツ)においては,観光について確固たる組織的なシステムが形成された。1950年代の初めには,すべての観光施設は民営化された。この国が存在した40年間,観光は中央集権化され,質及び量ともに足りないというのが特徴であった。その結果として,一般的なインフラ及び特に温泉のインフラは1990年代の初めには劣悪な状態にあった。それ以来,特に海沿いの温泉にある古い建物及び施設の再開発のために莫大な努力と資金が投入された。今日では,『温泉建築』の文化遺産は特別すぐれたものだと考えられており,後の世代のためにも保存の価値があると理解されている。社会主義時代後の時期には,変化という一般的な問題とは別に,新たな問題の兆候が出てきている。すなわち,観光地発展のライフサイクル段階の一つとして引き起こされる停滞という一般的な兆候である。これは特に,Mecklenburg-Vorpommern(メクレンブルク=フォアポメルン州)の海沿いの温泉における問題であり,それらは特に停滞する危険性が高いとされている4つのタイプのうち2つ,つまり「海岸観光地」と「温泉」が組み合わさっていることによる。これらの問題に対する新しい解決策を見つけなければならない。
著者
クーパー マルコム エアフルトクーパー パトリシア
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.127-139, 2009-07-28

観光地としての別府のイメージの影響について議論する。別府の観光については近年,大分県及び九州の地域的な課題として浮上している。別府のイメージは,国内の温泉観光に焦点をあてるとあまりに限定され,21世紀に向けて活用するには疲弊しており,ある面では実際の地域の特性からはみ出しているという懸念がある。この懸念は,大分県,特に別府で体験する観光が,新しい世紀においては通用しないと思われることである。また,焦点が限られると,より広い地域にある観光資源から興味がそれ,国内外からの観光客にとってみれば,地域の真の価値及び潜在的な価値を見落としてしまうことになる。この状態の結果として,訪問者の不満足,よくない口コミ,別府市の業績の停滞がおきてきた。日本及び九州へやってくる外国人観光客は著しく伸びてきており,当地域ではマーケティングに力を入れることが重要である。日本に入ってくる外国人観光客及び国内からの観光客に対する競争も激化しており,マーケティングの努力はより重要なものとなっている。別府は,当市及び当地域の長所について,ブランドとして再構築することが必要である。再構築に当たっては:1.他の国内外のブランドと混同してはならない。2.正しいブランドを得るためのリサーチを行わなければならない。3.持続可能な観光地を開発するには,重要な意思決定権のある人々にも共に活動してもらわなければならない。4.これまでの過程で得た知識及び根拠が脅かされる(または排除される)と感じるようなすべての利害関係者(stakeholder)を含める必要がある。5.マーケティング領域外にある問題を周知する必要がある。すなわち,ブランド事業はサービス提供者,観光業者,交通機関等からの支援が得られなければ充分ではない(最初から同じ「ブランド」に向かうように説得しなければならない)。別府が21世紀の国際市場において競争することができるように,これらの問題に対して実現可能な解決策を順を追って提案する。
著者
古田 充宏
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.96-112, 1987-05
被引用文献数
5

The purpose of this paper is to clarify the changes of the land use of mountain inhabitants from the Meiji era (1868 - 1912), and to describe their environmental recognition to the dynamic changes of land use, considering an interactive processes on how the drastic changes in the land uses are related with environmental recognition on a rural scene. An investigation was conducted at Nasu in Togouchi-cho. Hiroshima Prefecture in 1985. Firstly the author has begun on a collection of the place names from the old people by interview and tried to understand the environmental recognition of the villagers. Changes in land use were ecologically analized from the viewpoint of reciprocal relationships between villagers and natural environment. Drastic changes in their traditional works, and in the distribution of large wild mammals and changes of transportation system around Nasu were discussed. The findings are as follows : Before World War II, the people had various works, which have been largely dependent on broadleaf deciduous trees. Since around 1950, the virgin broadleaf deciduous trees have been chiefly replaced by Japanese cedar trees (Cryptomeria japonica) through afforeststion. As a result, traditional works have generally disappered except cultivation in lenaru (fields around the houses) and afforestation. Wasabi (Wasabia japonica) fields, for example, which are necessary to be surrounded by broadleaf deciduous trees have disappered. Viewing from environmental recognition, villagers' spatial classification of the mountain area, such as Miyama (remote and dense forest) and Naruyama (forests near around the village), has not been available in present daily life. Especialy, the space called Miyama has disappeared. Villagers have long cherished an awful feeling to the nature. However, with the progress of modernization of rural areas, traditional recognition such as above mentioned have been weakened. As a result, reckless overcutting of woods on a steep slopes has caused successive debris flows and the natural hazard has been accelerated to some extent. Drastic changes in fuel use, that are closely related to remarkable economic development in Japan, have changed forest and land use. Such changes have influenced the vegetation and stimulated breeding system of wild boars(Sus scrofa leumystax). Under these situations, a striking outflow of the population has remark-ably increased. The increase of the damage by wild boars into mountain fields has also become one of the causes that bring about afforestation of them. In short, their various works have disappeared as a result of changes of their land use, which is largely influenced by the great consumption for the forest resources in cities or depopulation caused by the change of the regional structure in the Ota Basin.
著者
Fukuoka Yoshitaka Narita Kenichi Matsuura Kenji
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.24-32, 1979-12
被引用文献数
1

本研究は,広島市の都市気候と大気汚染に関する気候学的研究であるが,第1報では主として前者について論じた。(1)まず,広島市の気候についての概観では,典型的な大陸東岸気候の中にあって,「夏は太平洋地域より涼しく,冬は日本海側より暖かい」という従来の説が妥当でないことを指摘し,かつ年平均流線図の上にも海風前線の存在が確認された。(2)次に,都市気温分布とそれに及ぼす太田川水系の影響に関しては,約4半世紀前にくらべ,built-up area と川面との気温差が増大していることが自動車による移動観測の結果わかった。(3)この川水の影響は,水温そのものの冷源(または熱源)効果よりも,水面からの蒸発に伴なう潜熱交換が気温緩和作用をもたらしているからと考えられる。(4)赤外放射温度針での表面温度測定による顕熱輸送は橋上で小さい。すなわち,川水面上で気温が和らかげられるのは,鉛直方向の熱収支だけでなく,川面での冷気の移流も想定される。