著者
吉野 正敏
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.223-233, 1990-10-28 (Released:2017-04-27)
被引用文献数
1

Luosanfung is a foehn wind blowing on the west coast of Hengchun Peninsula, the southern-most part of Taiwan. In order to describe its climatological features, observed records at the meteorological observatories and a result of field observation by the author were analysed and the following summaries are obtained. It blows strongly in the winter months, particularly under the winter monsoon synoptic situation. In addition to the macro-scale winter monsoon situation, when the local anticyclone is formed in the region of the mouth of Yangtze River and the cyclone in the Basi Channel, NE wind develops strongly on the southern-most part of Taiwan. In most cases, Luosanfung develops more at night than in day time. Air temperature is 2-3℃ warmer, relative humidity is lower and sunshine hour is longer on the west coast than on the east coast under the typical Luosanfung condition. The local peoples suffer frorn the strong wind for bicycle or motor-cycle driving, house construction and agricultural land use. The onion production is increasing by utilizing the wind conditions in this area. According to an estimation by the wind-shaped trees, Luosanfung develops on the west coast after passing over the low mountain area and flowing down along the relatively lower parts of the hilly area.
著者
後藤 拓也
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.114-126, 2018-10-28 (Released:2019-09-28)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本稿では,1990年代以降のインドにおける農業空間構造の変化を示す事例として,「ピンクの革命」と称されるほど急速な発展を遂げているブロイラー養鶏産業に着目し,その産地形成プロセスを考察した。インドのブロイラー養鶏産業は,多くの大手養鶏企業が立地する南インドで先行的に産地形成が進むなど,伝統的に「南高北低」の地域性を特徴としてきた。しかし1990年代後半以降,それまで養鶏産業の立地が進まなかった北インドにおいて急速な産地形成が認められる。そこで,北インドのなかでも新興産地の代表例であるハリヤーナー州において現地調査を行った。その結果,調査対象地域では1990年代以降,多くの農家がブロイラー養鶏に新規参入し,大規模な「2階建て鶏舎」を相次いで建設するなど,従来の穀倉地帯が大きく変容していることが確認された。しかし調査対象地域におけるほとんどの農家は,ブロイラー養鶏を始めるに当たって,ハード面(鶏舎の建設資金)およびソフト面(飼養技術の習得)において十分な政策的サポートを受けていないことが判明した。そのため,調査対象地域におけるブロイラー養鶏農家の技術的水準は総じて低く,鶏病などの疫病リスクに対して脆弱な産地構造をもっているという課題が明らかとなった。
著者
秦 洋二
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.45-64, 2007-04-28 (Released:2017-04-15)
参考文献数
27

本稿の研究目的は,取次会社が構築した雑誌物流システムの空間特性を,小売業者が構築する物流システムとの比較によって明らかにすることである。雑誌流通は,出版社と小売業者が小規模多寡であるのに対して,中間部門が寡占状態にあり,流通チャネル内において主導権を握っている。雑誌流動の空間的特徴は,生産者である出版社と中間部門である取次会社が東京とその周辺に集中しているのに対して,小売業者である書店・コンビニは全国に分散しており,商品は東京から全国へ流れる点にある。本稿では雑誌物流システムの送品部門と返品部門について,大手取次会社X社や九州雑誌センターの事例をもとに分析を行った。送品部門に関して,X社は1990年代に入って新たな物流センターを建設しているが,その背景には,コンビニ店舗の急増がある。また,返品システムの合理化には情報化の動きが関係している。雑誌物流システムを小売チェーンの物流システムと比較すると,小売チェーンの共同配送はチェーン毎に行われるのに対して,雑誌の共同配送は県毎にまとまって行われる点で異なる。さらに,物流拠点とリードタイムの関係を見ると,小売チェーンの物流システムが,リードタイムの遵守を第一に考えて物流拠点を設置するのに対して,雑誌物流システムでは物流拠点の立地が東京近辺に集中しているため,東京からの縁辺地域ほどリードタイムが長くなる。流通業全体では川下への主導権の移動によって物流システムの再編が進んだが,雑誌流通では,川下へのパワーシフトが進んでおらず,取次会社が流通チャネル内において主導権を握っている。雑誌物流システムの諸特徴には,このことが大きく影響していると考えられる。
著者
成瀬 厚
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.81-98, 1999-04-28 (Released:2017-04-20)
参考文献数
51

本稿は,小説を研究対象として地理的記述の方法を探求したものである。具体的には,ミラン・クンデラの処女長編小説『冗談』をテクストとし,主にその形式的側面と記述内容に着目した。4人の作中人物が語り手となっているこの作品においては,同一の人物や想定されている時空間上同一の出来事が語り手によって多様に語られる。この特徴を汲み取るために,語り手を中心とした読者の描く観念的な拡がりを「人物空間」とし,全体のテクスト空間,そして舞台であるチェコという地理空間との関係,また一方で物語の特徴である事件進行の時間と物語展開の時間という時間の二重性として考察した。次に,個々の人物や出来事,感情に関する描写がどのように地域や場所を構成するかという観点から,小説のなかの地理的な要素-点,文脈,場所感覚,景観描写-を分析した。その結果,地理的記述がその対象としての時空間とテクストの形式的側面としての時空間を利用し,ローカルな記述をリージョナルな全体的内容へと変換する物語構造の性格を明らかにした。
著者
森川 洋
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.37-53, 2020-10-28 (Released:2021-01-26)
参考文献数
17
被引用文献数
2

わが国では大都市圏と地方圏の差異だけでなく,地方圏の中にも地域差があるので,年齢階級別人口移動は都市システムの研究にとっても住民のライフコースの研究にとっても重要である。札幌市では壮年移動以外のすべての年齢階級にとって転入超過を示し,転入超過数が最も多いのは後期高齢者である。関係圏の形態には中心地の魅力度の差が強く反映され,札幌市の若年移動の関係圏は北海道全域に広がる。農村部や小都市では札幌市に向かって流出する後期高齢者が異常に多く,北海道特有の現象とみることができる。
著者
成瀬 厚
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.1-23, 2012-01-28 (Released:2017-04-07)
参考文献数
39

In this paper, I focused on a town, Shimokitazawa. By examining the activities of musicians there, I considered the relationship between the urban user and the place. A pop musician's occupation is singing her/his songs repeatedly. As the facilities where they play their music are scattered around the city, they move around as mobile laborers in a similar manner like nomads. Therefore, the audiences who appreciate the performance of the musicians are called mobile consumers. To understand some of these actual situations, I investigated the facilities that hold such music performances in Shimokitazawa and the behaviors of three musicians who give these performances around the town and an audience. I considered the relationship between the musicians and Shimokitazawa by focusing on the former's practices in their music performances, especially in 2005 and the musical landscape depicted in their songs. The upsurge of the redevelopment problem was observed in Shimokitazawa around 2005. As a result, it can be said that music played the significant role in the development of people's connections with the musicians, and of positive associations of the musicians with the town.
著者
谷 謙二
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.121-131, 2022-10-28 (Released:2022-10-21)
参考文献数
10

本稿は,新旧の地形図を並べて表示する「今昔マップ」について,システムの開発の経緯と利用について報告するものである。今昔マップは2005年にWindows版「時系列地形図閲覧ソフト 今昔マップ(首都圏編)」を開発したことに始まる。当初はDVDで配布していたが,2008年にインターネットからダウンロードできる「今昔マップ2」を公開した。2013年に地図タイル形式を採用したWeb版「今昔マップ on the web」,2015年にWindows版「今昔マップ3」を公開した。2019年には「地理総合」での利用を見越して全都道府県庁所在地を収録し,2021年12月末現在,52地域4,644図幅分の旧版地形図を収録している。今昔マップの利用例としては,旧街道のまち歩きや廃線探索など趣味的なものから,学術,教育,地歴調査,不動産関連の業務など広範にわたる。「地理総合」など地理教育で使う場合は,地図・GIS,防災,地域調査などでの利用が想定される。利用する際は,地図記号の変化や戦時改描に留意し,また,災害危険性の伝え方に工夫が必要である。今昔マップの収録範囲は一部に限られる。多様な需要に応えるため,国土地理院によるインターネットでの旧版地形図の詳細な画像の公開が求められる。
著者
藤井 正
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.166-175, 2016-09-28 (Released:2018-03-28)
参考文献数
28
被引用文献数
1
著者
鈴木 晃志郎 島田 章代 伊藤 修一
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.50-65, 2018-06-28 (Released:2019-08-21)
参考文献数
35

対象者が未知の財やサービス,製品にアクセスするときに依拠するのがいわゆる口コミ(WoM)である。観光行動もサービスを選択・消費する消費行動の一つであり,リピート率の向上や顧客満足度の上昇に及ぼすWoMの効果に注目した分析の対象となりうる。そこで本研究は富山県の湧水池「穴の谷霊場」をとりあげ,来訪者の特性を分析するとともに,入込客数の維持にWoMがもたらす効果を調査した。半構造化インタビューを交えたアンケート調査により来訪者86人の類型化を行いその動機を分析したところ,病気治療,健康維持,味の良さでカテゴリー化される一方,当初の霊場としての場所性はその影響力を大きく失っていた。また来訪者の76%が信頼のおける肉親や知人からのWoM情報を最初の来訪のきっかけに挙げ,WoM研究の知見を裏付けた。開祖が世を去って40年,穴の谷は宗教的な聖地としてよりも,霊水を求める一種の自然信仰に支えられた観光地へと変容を遂げており,WoM効果は観光客数の維持に少なからず貢献していると考えられる。
著者
和田 崇
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.237-257, 2007-10-28 (Released:2017-04-15)
参考文献数
19
被引用文献数
2

The geographical characteristics of communications through the online game "Virtual Farm" were examined, focusing on four analytical: design strategies to attract users, the actual communications themselves, the geography of the game as a communication space, and the relationships between cyberspace and real space. As a result, the followings were pointed out. (1) "Virtual Farm" was started as a pilot service to examine the possibility of cooperation between radio broadcasting and the Internet. In the beginning, users were attracted through radio broadcasts and offline meetings, held mainly in Hiroshima city. In addition, users were attracted through the Internet, regardless of their actual physical locations. After the radio broadcasts ended, users were attracted only through the Internet. (2) Users of "Virtual Farm" communicate using a bulletin board that is part of Virtual Farm and other media, such as websites, bulletin boards, and social networking services, which they create themselves. Although they communicated through radio broadcasts and offline meetings in the beginning, this stopped after the radio broadcasts ended. Since then, users have communicated with each other only through the Internet. (3) "Virtual Farm" provides a virtual world in which users conduct economic activities and communicate with each other. We can see characteristics of "locale", as defined by Anthony Giddens, in "Virtual Farm", except that the users do not physically exist there. User communications about "Virtual Farm" are concerned not with the real space in which the users live, but with the cyberspace in which they live virtually. In fact, user communications take place in two cyberspaces-the online game and the other communication media that they create themselves.
著者
由井 義通 日野 正輝 シャルマ ヴィシュワ ラージ
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-17, 2021

<p>1991年の経済自由化以降,インドの経済は急速な発展をとげ,メガ・リージョンの核となる大都市圏の郊外では,工業団地やオフィスビルディングの開発,および新中間層や富裕層向けの住宅開発と商業開発が進められている。本研究の目的は,グルグラムから外延的都市開発が進むマネサールを事例として,デリー大都市圏のアーバンフリンジにおける住宅開発の実態と課題を明らかにすることである。</p><p>研究対象のマネサールはインディラ・ガンジー国際空港からナショナルハイウェイ8号線で南へ 32 kmに位置し,デリーの郊外都市として急速に発展しているグルグラムの南に隣接し,行政上は村委員会が管理している村であるが,人口規模および社会経済的特性が都市の条件を備えているセンサス・タウンである。マネサールはグルグラムの「マスタープラン2021」においてグルグラムと一体化した都市計画区域となり,都市開発が進められている。</p><p>マネサールのセクター1の開発状況について,2016年2月および2017年2月に現地調査を行った。その結果,536区画中,入居中の戸建て住宅は269戸,自宅建物に借家を組み込んだ小規模な集合住宅が19棟,戸建て住宅区画に建設されたPGが63棟,グループハウジングは55区画中19区画が開発済みであった。また戸建て住宅区画のうち,空き地と空き家が多く,約30%は未利用の状態であった。空き地の土地所有者は,居住意思はなく,投機目的での土地取得といえる。</p><p>グループハウジングは,コーポラティブハウジングが多く,グルグラムのような大手不動産ディベロッパーによる開発はない。また,大部分のグループハウジングでは賃貸住宅が多かった。</p><p>このように,マネサールでは大量の空き地と空き家が発生していた。また,入居のある住宅についてみると,戸建て住宅とグループハウジングのいずれにおいても賃貸住宅として貸し出されている住宅が多い。これらはマネサールがアーバンフリンジにあり,地価や住宅価格が安いことやメトロの延伸計画などで将来的な発展を見込んだ投機的な住宅開発が行われたことによると思われる。さらに,単身者向けのPGが多いのは,食堂などの生活利便施設のないアーバンフリンジで工業団地が開発されたためといえる。</p><p>インドにおける都市開発の問題は,農村からの土地の収奪問題発生や,伝統的農村が計画的都市内に無秩序に分散しているような第三世界的な過剰都市化が課題となっている。</p>
著者
石井 實
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.118-131, 1998-04-28 (Released:2017-04-20)
参考文献数
45
被引用文献数
1