著者
森川 康之 四井 資隆 松本 尚之
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.35-48, 2008-03-25 (Released:2017-05-29)
参考文献数
12
被引用文献数
1

歯列矯正装置が磁気共鳴画像装置(以下,MRIと略す)に及ぼす影響について,多岐の材料の組み合わせを実験的に検討した.試料および方法として,プラスチック製歯列模型にブラケット3種類(スチール,セラミック,レジン)とワイヤー4種類(スチール, NiTi,ヒートアクチベートNiTi,ベータTi),リガチャー2種類(スチール,エラスチック)を組み合わせた装置を作製の上,1.5Tesla MRI装置を使用し,6種類の撮像シーケンス(以下,撮像法と略す)で撮像した.得られた画像で障害について,信号強度の変化と信号欠損の大きさ,信号欠損直近のひずみ,3次元構築像でのゆがみの計測を行い,以下の結果を得た.すべての部品がスチール製の矯正装置を装着した場合にGR-T2法で極端な信号強度の低下を示し,画像の表示が困難となった.同じ組み合わせで最大の信号欠損を形成し,磁場方向で160mm,左右方向で145mm,上下方向では137mmに達した.セラミック・ブラケットにスチール以外のワイヤ一をエラスチック・リガチャーで結紮した場合は障害像を発生しなかった.スチール・ブラケットを装着した場合,MRIのすべての撮像で磁場方向に100mm以上の信号欠損を形成し,特にSE-T1法で広範囲に影響した.信号欠損周囲では縮小傾向で0.62倍,膨張傾向で1.58倍のひずみを示し,影響は広範囲に及んだ.3次元像ではスチール・ブラケットを装着した場合には,他の材料に関わらずほぼ10mm以上のゆがみを示し,その最大値は13.7mmであった.スチール製歯列矯正装置を用いた場合に最大の金属障害が発生するのはスチールが常磁性体であり,磁場断面積が大きいためである.しかし,スチール・ブラケット単独の場合でも大きな金属障害を生み出し,ブラケット相互間の電気的短絡がない状態でも障害を生ずる.したがって,磁力線に対する影響は相乗効果かあるものと考えられる.MRI検査を用いる可能性のある歯科矯正治療患者には,スチール製矯正装置を避け,他の材料の装置作製が必要である.また,撮像法はFSE法やFGR法を用いるべきであると考えられる.
著者
川添 尭彬 末瀬 一彦 上田 直克 安田 俊冶 今西 俊雅 高田 秀秋 糸田 昌隆 札 束銘
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.378-402, 1994
被引用文献数
6

新たに開発された歯冠材料 (ハイブリッドセラミックス, HCC-4S) を用いて臨床試験を行った. 被験者は, 大阪歯科大学附属病院補綴科へ来院した患者47名 (男性10名, 女性37名) である. 修復部位は, 前歯が1歯, 小臼歯が22歯, 大臼歯が24歯で, 臨床経過を術前, 装着直後, 術後1週間, 術後3か月まで詳細に観察, 種々の評価を行い以下の結論を得た.<br> 1) 支台歯に対する評価では, 3症例に自発痛, 冷水反応, 打診痛が認められた. 1症例は, 術前から冷水反応が認められていたもので, 装着後消失した. 他の2症例については, 口腔内全体にわたる知覚過敏反応, 感染根管処置後の術後疼痛であった.<br> 2) 歯肉縁の状態については, クラウンの装着後改善されたものが多く, 増悪した症例はほとんどなかった.<br> 3) 摩耗については, 模型で認知できる咬耗はほとんどなく, シャイニングスポットが認められたものが2症例あった.<br> 4) 破折は3症例に認められたが, 2症例については試適中および仮着中に, 他の1症例のみ装着後に破折が生じた.<br> 5) 対合歯の咬耗は肉眼的に認められなかったが, 2症例にシャイニングスポットが認められた. 以上の結果から, ハイブリッドセラミックス, HCC-4Sは, 臼歯の咬合面を含む歯冠材料として有用で, 強度, 生体親和性および審美性において優れた歯冠材料であることが判明した.
著者
福島 久典
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.115-120, 1998
参考文献数
13
被引用文献数
1

う蝕は, 歯周疾患や根尖性歯周疾患とともに, 口腔常在細菌によって引き起こされる, 内因感染症である.しかしコレラ菌やチフス菌などの外因感染症と異なり, 内因感染症は, 病原性の弱い細菌による感染症であるので, 発症するためには, 宿主の状態, 基質などの因子が密接に関連する.う蝕は, 高濃度の有機酸でエナメル質が脱灰されることで始まる.この酸は, 歯の表面の歯垢内細菌が植物のなかの糖を発酵して生じる.歯垢内細菌のなかでmutans streptococciは, う蝕の原因菌としてもっとも注目を集めている.それはmutans streptococciが, 以下に示す種々の病原性状を備え, 実験動物に単独でう蝕を誘発することができるためである.歯の表面へのmutans streptococciの付着は, う蝕の発症にとって重要なステップである.この過程は, スクロール非依存性とスクロール依存性メカニズムによて仲介されている.スクロース非依存性の付着は, mutans streptococciと歯の表面の獲得被膜との間の相互作用で起こる.Mutans streptococciは, wall-associated proteins, serotype-specific antigens, lipoteichoic acid, peptidoglycan のような種々の細胞表面ポリマーをもっている.これらのポリマーのうち, 190 kDa(Russellらは, 167-kDaと記載している)cell surtace fibrillar protein antigen (antigen l/ll、B、lF, P1, SR, MSL-1, PAcなどと命名されている)は, 歯の表面の獲得被膜へのmutans streptococciの結合を仲介する要因の1つとして知られている.スクロース依存性の付着(粘着)は, glucosyltransferase(GTFs)で触媒される, スクロースから水不溶性グルカンの合成による.Mutans streptococciの歯の表面への粘着に続いて, 水溶性のdextranによる細菌の凝集(aggregation)巣が形成される.さらに菌体内外の各種の糖(多糖体を含む)を分解し, 乳酸を産生して, エナメル質の脱灰を生じさせる.このとき増殖が抑制される低いpH値でも, mutans streptococciは, 酸を産生し続ける性質(耐酸性)をもつ.このように, mutans streptococciは多くのう蝕誘発因子で, う蝕を発症させる.本シンポジウムでは, mutans streptococciのcell surface fibrillar protein antigen, GTFs, 耐酸性に関連するproton-ATPaseなどの最近の知見について概説する.
著者
岩井 康智
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.233-238, 1999-12-25 (Released:2017-04-13)
参考文献数
27

解剖学的ならびに生物学的な立場からみると, ヒトの系統発生および個体発生における総合咀嚼器官の進化または退化には, 環境因子が深く関与している.一方, 正常咬合は総合咀嚼器官が正常に機能するための重要な要件とされている.咬合の静態と動態, 即ち形態的ならびに生理的にともに正常であることが, 形態学的立場からの理想的咬合の条件である.
著者
貴島 真佐子
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.153-168, 1998
参考文献数
49
被引用文献数
1

理学療法は, 筋や関節における機能障害の回復ならびに疼痛緩和に用いられる. 近年, 顎機能異常患者に対する理学療法, なかでも超音波治療は, 深部加熱効果を期待して障害を受けた咀嚼筋に応用されてきた. ところが, これまで明確な超音波照射条件は示されていない. 本研究では, 健常有歯顎者について, まず従来の照射条件(2.0, 1.5, 1.0W/cm<sup>2</sup>), 超音波診断装置による皮下(咬筋, 下顎枝)組織の横断面の計測について検討した. 次に無侵襲的な深部体温計測法を咬筋に応用し, 照射による咬筋深部温変化の再現性, 照射強度ならびに照射時間が咬筋深部温に及ぼす影響について検討した. 照射条件は, 照射強度を0.5, 0.75, 1.0W/cm<sup>2</sup>, 照射時間を5, 10分間の合計6条件で周波数3MHz, 連続波, ストローク法で照射した. さらに痛みに関するアンケートは, 5段階のLikert型スケールを応用し, 照射中, 後に採取した. 安静時熱平衡状態, 照射終了20分後, 60分後の3時点の測定温からΔT, 上昇率ならびに減衰率を求めた. そして得られた結果に基づいた照射条件である0.5W/cm<sup>2</sup>の10分間を顎機能異常患者に応用した. その結果, 1) 1.5W/cm^2以上の照射強度は痛みのため2分以上の照射は不可能であり, 咬筋には高い照射強度であることがわかった. 2) 咬筋表層は皮下3.3〜5.9mmに位置することから, 3MHzの照射ならびに深部温プローブの測定が可能であった. 3) 級内相関係数は0.75以上を示し, 照射による咬筋深部温変化の再現性が良好であった. 4) ΔTならびに上昇率は, 照射時間が長いほど高くなり, 減衰率は, 照射強度が高いほど高くなった. 5) 痛みに関するアンケート評価において, 1.0W/cm<sup>2</sup>では比較的早期に痛みを誘発するため, 咬筋に応用するには不適切であった. 6) 顎機能異常患者への超音波照射により咬筋の違和感・だるさと触診による圧痛は, 照射後60分後では軽減し, VASからも改善が認められた. 以上のことから, 超音波照射の至適条件は, 照射プローブの特性により機種ごとに異なる. しかし, 咬筋への超音波照剣による深部温計測と痛みに関するLikert型スケールの結果から, その至適条件がわかった.
著者
森下 寛史 中嶋 正博 田中 克弥 覚道 健治 佐藤 正樹 川添 堯彬 杉立 光史 赤根 昌樹
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.227-231, 2005-06-25 (Released:2017-05-18)

われわれは舌縁部の咬傷を主訴に来院した58歳女性の巨舌症に対して舌縮小術を施行し, 術前後における音声機能を比較した.最大舌幅径は術前55mmから術後40mmに減少し, 舌縁部の歯の圧痕も消失した.また発語明瞭度検査および「杉スピーチアナライザー」を用いた音声分析の結果では術前と術後5か月とでは変化がみられず, 手術における機能障害は認められなかった.
著者
内貴 寛敬 小野 圭昭 小正 裕
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.51-63, 2004-03-25 (Released:2017-05-15)
参考文献数
42
被引用文献数
2

本研究は鼻呼吸動態の計測を利用し,臨床に応用可能な嚥下運動の臨床的検査法を検討することを目的とするものである.正常被験者に対して差圧型気流量計を用いて鼻呼吸動態,オトガイ舌骨筋筋活動,喉頭運動ならびに胸郭・腹部運動を計測することによって嚥下時の鼻呼吸動態を明らかにし,従来の検査法と比較検討した.鼻呼吸停止時間とオトガイ舌骨節筋活動時間,喉頭運動時間,胸郭運動停止時間ならびに腹部運動停止時間とを比較した結果,鼻呼吸停止時間は他のパラメータよりもばらつきが小さく,鼻呼吸停止時点ならびに開始時点を明確に特定することが容易であった.また,水至適嚥下量(20mL)において,鼻呼吸はオトガイ舌骨節筋活動開始時点および喉頭運動開始時点よりも遅れて停止し,オトガイ舌骨筋筋活動終了時点よりも遅く,喉頭運動終了時点よりも早く開始していた.至適嚥下量範囲内の嚥下では鼻呼吸動態とオトガイ舌骨節筋活動ならびに喉頭運動との間に顕著な差は認められなかった.至適嚥下量を越えると,鼻呼吸はオトガイ舌骨筋筋活動開始時点よりも遅れるが喉頭運動開始時点よりも早く停止し,オトガイ舌骨筋筋活動終了時点および喉頭運動終了時点よりも遅れて開始することが明らかとなった.以上の結果よリ,嚥下運動を評価するにあたり,鼻呼吸動態を計測することは他のパラメータよりも正確,簡便であり,嚥下運動の臨床的検査法として有用であると考える.
著者
岡田 正博 内田 愼爾
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.173-188, 1995-06-25 (Released:2017-03-09)
参考文献数
40
被引用文献数
3

咀嚼時に観察される開口筋の開口動作に先行する筋活動の動作学的な意義を明らかにするため, 咀嚼に比べ比較的単純で再現性に優れたopen-close-clench cycle (OCC運動)を被験運動とし, 開閉口運動速度, 咬みしめ力, 運動の繰り返しの有無, 歯の接触の有無, 歯根膜感覚の有無などの条件が外側翼突筋下頭(Lpt), 顎二腹筋前腹(Dig)の onsetに及ぼす影響について観察した. 有歯顎者のOCC運動では, Lpt, Digともに開口開始に先行する筋活動がみられ, それぞれの筋の onsetは, 開閉口相時間, 咬合相時間の変化によっては有意な変動を示さなかったものの, 咬みしめ力に対応する咬筋(Mm)平均筋活動量の変化によって有意に変動し, Mmの活動量が大きくなると開口筋 onsetはより先行する傾向を示した. 最大開口速度の変化は開口前の筋活動量に影響を及ぼした. 咬合相におけるMmの平均筋活動量が増すと, 開口筋の開口前に認められる筋活動が大きくなる傾向を示した. 開口筋の先行活動は, OCC運動のような繰り返し運動のみならず, 一度だけの咬みしめ後開口においても認められた. 歯を接触させない開閉口運動では, Lpt, Digともに開口に先行した活動が認められず, cycle timeの変化によってもOTは影響されなかった. 総義歯患者におけるOCC運動では, LptおよびDigの onsetが, 開口開始より先行したが, Mmの平均筋活動量の変化によって onsetは有意な変動を示さなかった. 以上の結果より, 開口筋 onsetの開口開始からの先行は, 下顎を開口方向に向けるための準備的活動であることが示唆され, これらは開口筋としての動作的特徴であることが示された. また, 開口筋 onsetを変化させる重要な要因は咬みしめ力であることが明らかとなったが, 総義歯患者では, 開口筋 onsetの調節性が有歯顎者に比較するとやや劣る傾向が示された.
著者
石田 哲也 福島 久典
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.139-146, 2008-06-25 (Released:2017-05-29)
参考文献数
36
被引用文献数
1

高野槙68%エタノール抽出液(試料A)の口腔細菌に対する抗菌域や性状を検索するとともに,精製を試みた.試料Aには夾雑物の混入が予測されたので,Sephacryl S-100によるゲル濾過を行った.溶出には0.05M Tris-HCl buffer(pH 7.5)を用いた.その結果,2つのピークが得られた.抗菌活性は両者に認められた.そこで試料A,第1ピーク,第2ピークの抗菌域を検討した.3者とも広い抗菌域(好気性ないし通性嫌気性菌ではStreptococcus oralis, Streptococcus sanguinis, Enterococcus faecalis, Staphylococcus aureus, Actinomyces viscosus, Bacillus subtilis, Rothia mucilaginosa, Pseudomonas aeruginosa, Escherichia coliなど,偏性嫌気性菌ではPorphyromonas gingivalis, Prevotella intermedia, Peptostreptococcus anaerobiusなど)を有し,ほぼ一致した.したがって,以後の実験には第2ピークの凍結乾燥標品(試料B)を供した.試料Bをそれぞれ0〜99.59%濃度のエタノールで溶解し,抗菌活性を測定した.その結果,エタノール濃度60%と70%をピークとする活性(16AU)がみられ,0%濃度でも4AUの活性が得られた.試料B水溶性画分の抗菌作用性は,指示菌(7.0×10^9/mL)と,試料Bをphosphate buffer salineで溶解させた活性画分(16AU)とを等量混ぜ合わせ,経時的に残存生菌数を測定した.生菌数は経時的に減少し,1時間後では5.0×10^2/mLであった.それゆえ試料B水溶性画分の抗菌活性は殺菌的であるといえる.抗菌活性の本体を知る目的で,chloroform-H_2O(1:1)に試料Bを溶解させ,活性を調べたところ,ほとんどの抗菌活性はchloroform層にみられた.ついで乾固させたchloroform層をacetonitrileで溶解してHPLCに供した.その結果,acetonitrileの高濃度画分に明瞭な抗菌活性がみられた.今後さらに解析を進め,抗菌成分を明らかにしたいと考えている.
著者
田中 栄士 小野 圭昭 権田 悦通
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.152-160, 2001-06-25 (Released:2017-04-20)
参考文献数
26
被引用文献数
5

本研究は水嚥下時の口腔期から咽頭期への嚥下動態を経時的に観察し, 口腔期から咽頭期にかけての嚥下機能を明らかにすることを目的とした, 嚥下機能に問題のない健康な成人男性8名を被験者とした各被験者に5から50mLの間で5mLごとの異なる量の水をランダムに口腔内に含ませ素早く嚥下する一回嚥下, ならびに, 嚥下量, 嚥下速度とも被験者任意で試行する連続嚥下を行わせ, 下顎運動と口腔および咽頭の嚥下圧を同時記録し, 口腔内圧, 中咽頭圧, 下咽頭圧ならびに, 各最大圧と下顎運動との時間的関係について分析を行った. その結果 1. 一回嚥下量の増加に伴って, 口腔内圧には差は認められず, 中咽頭圧ならびに下咽頭圧は有意に上昇した. 2. 一回嚥下では嚥下量の増加に伴って, 口腔期から咽頭期への移行時間を表す閉口点と最大中咽頭圧点の時間差ならびに最大口腔内圧点と最大中咽頭圧点の時間差に有意な減少が認められた. 3. 一回嚥下において, 大きな嚥下量(35〜50mL)で最大口腔内圧と最大中咽頭圧の発生時間に逆転現象がみられた. 4. 連続嚥下の各サイクルは, 最初と最後を除いて一回嚥下の動態と類似していた. 5. 嚥下量の近似した一回嚥下と連続嚥下を比較すると, 下顎運動との時間的パラメータにおいて連続嚥下の方が有意に小さな値を示した. 以上のことから, 嚥下運動は嚥下量や嚥下様式の違いによって一定の特徴を示し, 特に下顎運動と嚥下圧の関係は嚥下様式ごとに, それそれの協調活動を持つことが明らかとなり, 嚥下評価に下顎運動と嚥下圧を同時に測定することが有用であることが示唆された.
著者
鶴身 暁子 田中 昌博 川添 蕘彬
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.72-80, 2007-03-25 (Released:2017-05-25)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本研究では身体活動時における顎口腔機能の役割を明らかにするために,動的な咬合接触および咬合接触圧分布と筋電図の同時計測を行い,健常有歯顎者のベンチプレス動作時の咬合接触と筋活動について検討した. 被検者は健常有歯顎者5名を選択した.被検者利き手側の側頭筋前部,咬筋,顎二腹筋前腹を対象筋とした. 咬合接触および咬合接触圧分布と筋電図の同時計測には,当講座で開発した同時計測システムを用い,咬合接触および咬合接触圧分布の測定には咬合接触圧用特注センサシートを用いた. 被検者に最大随意咬みしめおよび最大随意開口を指示し,3回の試行の咬合接触圧の最大値および筋電図包絡線の最大値を平均し,その値を個人の100%の値とした. 被検動作はベンチプレス動作とし,光による単刺激の合図に,可能な限りすばやくバーベルを挙上するよう指示した.被検者の最大挙上重量を100%とし,各重量時の側頭筋前部,咬筋および顎二腹筋の筋電図包絡線最大値に対する比率を計測したところ,ベンチプレス動作と顎口腔機能の関連において以下の結論を得た. 1.すべての被検者で約95%重量時において,咬筋筋電位の発現が20%を超えた. 2.約50%以下の重量時においては,全被検者で側頭筋前部および咬筋筋電位の発現が10%未満であった. 3.顎二腹筋の筋活動量は最大随意開口時とほぼ同程度であった. 4.すべての被検者の全試行において,最大咬みしめに至るような咬合接触値は認められなかった. 5.身体活動時において,挙上重量が個体の限界に近いほど,咀嚼筋が協力的に作用し,咬合接触の有無にかかわらず,下顎の固定に関与していることが示唆された.
著者
善入 敏子
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.g41-g42, 1990

1965年にブラケットを直接, 歯に接着させるダイレクトボンディング法が紹介されて以来, 接着材料およびブラケットの改善により接着力が増強され, この方法がバンド法でのfixed applianceによる矯正術式を一変させた. しかし, 今なお歯に接着されたブラケットの脱落が見られ, また治療上の修正のため, ときとして再接着の必要が生じてくる. そこで今回, 私は歯科矯正用ブラケットの再接着後の接着強さを調査する目的で本実験を行った. 実験材料 : 試料としては, 抜去されたヒト上顎中切歯346本を使用した. 接着材としては, スリーエム社製コンサイス・クラレ社製クリアーフィルFII・サンメディカル社製スーパーボンド・オームコ社製システムIを使用し, ブラケットはトミー社製マイクロロックベースタイプの上顎中切歯用メタルエッジワイズブラケットを使用した. 実験方法 : ブラケットの再接着方法を次の4群に分け, それぞれの接着強度を調査し, 同時に走査型電顕組織像についても検索を行った. A群は, 歯面処理なしで, 除去したものと同じブラケットを再接着したもの, B群は, 歯面上レジンを表層のみ滑らかに研磨し, 除去したものと同じブラケットを再接着したもの, C群は, 歯面上レジンが肉眼的に見て薄く一層付着していると思われる程度に研磨し, 60秒間再エッチングを行ったのち, 新しいブラケットを再接着したもの, およびD群は歯面上レジンを全て除去後, 60秒間再エッチング処理をした歯面に新しいブラケットを再接着したものである. 実験結果 : 1. 接着強度について 1) A群の接着強度は, コンサイス9.1kg, スーパーボンドが10.2kgで初回と同じであったが, クリアーフィルは10.3kg, システムIは7.1kgと初回の約2/3であった. 2) B群の接着強度はコンサイス7.4kg, スーパーボンド9.3kgで初回と有意差がなかったが, クリアーフィルは10.3kg, システムIは6.6kgで初回接着力の約2/3であった. 3) C群の接着力はコンサイス7.6kg, スーパーボンド9.3kg, クリアーフィル14.1kg, システムI9.9kgで初回と有意差がなかった. 4) D群の接着強度はコンサイス9.3kg, スーパーボンド9.8kg, クリアーフィル14.2kg, システムI10.0kgといずれのレジンにおいても初回接着力と同じであった. 2. Debondingによる歯面像 (SEM) について 1) 研磨をしなかったA群では, 全てのレジンに気泡が認められた. 2) 歯面の研磨処理B群では, MMA系のスーポーボンドを除く, 他のレジンに多くのフィラーが確認された. 3) 歯面の研磨処理C群では, エナメル質に研磨傷がみられ, 薄いレジン層も存在したが, 酸エッチング像は, はじめのそれと同じであった. 4) 歯面の研磨処理D群では, 肉眼的にエナメル面上のレジンを全て除去したにもかかわらずレジン片が随所にみられ, エナメル質にも荒い研磨傷がみられた. 以上の結果から, 臨床的にみて, システムIのみレジン研磨および再エッチングを必要としたが, その他の3種類のレジンについては本実験のどの再接着方法でも実用性があると考えられた. また再エッチング処理にて矯正ブラケットの再接着を行うと, 接着力は高くなるが, エナメル質の損傷があるので, 大いに注意を払うべきである.
著者
西川 泰央 吉田 洋
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.123-132, 1995-04-25
参考文献数
29
被引用文献数
5

ウレタン・クロラローズで麻酔したネコを用いて, 末梢入力に対する反射性の唾液(顎下腺唾液)分泌を調べるとともに, 咀嚼運動関連中枢である視床下部外側野, 扁桃体, 大脳皮質顔面野および大脳皮質咀嚼野への電気刺激による唾液分泌を調べて, 唾液分泌を含めた咀嚼運動への上位中枢の役割を検討した. 除脳動物を用いて口腔感覚による反射性の唾液分泌を調べたところ, 通常の咀嚼時に生ずるような非侵害刺激(触刺激および圧刺激)ではその分泌は少量であった. また, 上位中枢への電気刺激によって顎運動および舌運動が誘発されるとともに, 同側優位の唾液分泌が観察された. 唾液分泌量は非動化後も変化しなかったので, 咀嚼筋からの感覚情報は唾液分泌機序に関与しないことがわかった. さらに, 大脳皮質において, 一部の口腔内感覚投射部位と顎運動および唾液分泌に関連する局在部位とは, 小範囲で隣接しているかあるいは部分的に重なっていることが判明した. 以上の成績から, 上位中枢が反射唾液分泌に修飾作用を及ぼすとともに, 食物を咀嚼するために視床下部, 扁桃体および大脳皮質が活動し, 同時に口腔内からの感覚情報がこれらの上位中枢に達するとそこでの活動が高められ, その結果唾液分泌が促進されると考えられる.
著者
岩山 和史 小野 圭昭 小正 裕
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.81-90, 2007
参考文献数
42
被引用文献数
2

本研究は,高さの異なる2種類の咬合干渉装置を付与し,対光反応を計測することにより,それぞれの咬合干渉が自律神経機能に及ぼす影響を明らかにし,その作用機序について検討した.<br>&nbsp;&nbsp;被験者は,全身および顎口腔機能に自覚的,他覚的な異常の認められない成人被験者5名とした.自律神経機能の計測には,赤外線電子瞳孔計を用いた.付与する咬合干渉の高さは,2mmならびに100μmの2種類とした.実験は,下顎安静時と,咬合干渉装置を装着して最大咬みしめを行わせたときの2条件にて行った.分析は交感神経機能の指標である初期瞳孔径,ならびに副交感神経の指標である最大縮瞳速度をパラメータとして行った.その結果,以下の結論を得た.<br>&nbsp;&nbsp;1.2mmの咬合干渉付与時,初期瞳孔径ならびに最大縮瞳速度は,すべての被験者において咬合干渉の有無による有意な差が認められ,咬合干渉付与時に散瞳傾向ならびに最大縮瞳速度の減少傾向が認められた.<br>&nbsp;&nbsp;2.100μmの咬合干渉付与時,初期瞳孔径ならびに最大縮瞳速度は,1名の被験者においてのみ咬合干渉の有無による有意な差が認められ,その傾向は2mm干渉付与時と同様であった.他の4名の被験者においては有意な差は認められなかった.<br>&nbsp;&nbsp;以上のことから,2mmの咬合干渉付与時には,すべての被験者において交感神経の興奮ならびに副交感神経の抑制が生じ,一方,100μmの咬合干渉付与時には,その反応性に個人差が存在した.これは,歯根膜感覚が自律神経機能に影響を及ぼすことは少なく,顎関節内の感覚受容器が刺激され,自律神経機能に変化が生じたと考えられる.
著者
橋川 直浩 志田 亨
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.417-428, 1990

唾液分泌はおもに, 交感, 副交感神経により支配され, その神経伝達物質としてアセチルコリン, ノルアドレナリンがよく知られている. これらの自律神経系の唾液分泌における役割は複雑で不明な点も多いが, 神経科学の発達に伴ない, 非コリン非アドレナリン性の血管拡張や唾液分泌が明らかにされてきている. 一方, 唾液分泌の機序は, これら自律神経系の支配とともに, 情動を含めた高位中枢の影響も受けており複雑である.<br> 本研究は, ラットにおいて, 高位中枢の影響を全脊椎麻酔 (total spinal block : TSB) 法により遮断し, 吸入麻酔薬である笑気, halothane, enfluraneによる唾液分泌量の変動を観察した. さらに, 神経伝達物質であるadrenalinとvasoactive intestinal polypeptide (VIP) を静脈内投与し, 唾液分泌に対する影響を観察した. また, VIPについては, 免疫組織学的手法を用いて, 顎下腺におけるVIP陽性線維の分布を観察し, 以下の結果を得た.<br> 1) TSB下で, 笑気の唾液分泌への影響は認められなかった.<br> 2) TSB下で, halothaneおよびenfluraneは唾液分泌を抑制した.<br> 3) 平均動脈圧を上昇させない量のadrenalin投与により唾液分泌量, 顎下腺血流量ともに抑制を認めた. 一方, TSB下では, 同量のadrenalin投与により唾液分泌量, 顎下腺血流量ともに変動を認めなかった.<br> 4) VIPはアトロピン抵抗性の唾液分泌作用を示した.<br> 5) 蛍光抗体染色法により, 顎下腺導管および腺房周囲にVIP陽性線維を認めた.