- 著者
-
善入 敏子
- 出版者
- 大阪歯科学会
- 雑誌
- 歯科医学
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.1, pp.g41-g42, 1990
1965年にブラケットを直接, 歯に接着させるダイレクトボンディング法が紹介されて以来, 接着材料およびブラケットの改善により接着力が増強され, この方法がバンド法でのfixed applianceによる矯正術式を一変させた. しかし, 今なお歯に接着されたブラケットの脱落が見られ, また治療上の修正のため, ときとして再接着の必要が生じてくる. そこで今回, 私は歯科矯正用ブラケットの再接着後の接着強さを調査する目的で本実験を行った. 実験材料 : 試料としては, 抜去されたヒト上顎中切歯346本を使用した. 接着材としては, スリーエム社製コンサイス・クラレ社製クリアーフィルFII・サンメディカル社製スーパーボンド・オームコ社製システムIを使用し, ブラケットはトミー社製マイクロロックベースタイプの上顎中切歯用メタルエッジワイズブラケットを使用した. 実験方法 : ブラケットの再接着方法を次の4群に分け, それぞれの接着強度を調査し, 同時に走査型電顕組織像についても検索を行った. A群は, 歯面処理なしで, 除去したものと同じブラケットを再接着したもの, B群は, 歯面上レジンを表層のみ滑らかに研磨し, 除去したものと同じブラケットを再接着したもの, C群は, 歯面上レジンが肉眼的に見て薄く一層付着していると思われる程度に研磨し, 60秒間再エッチングを行ったのち, 新しいブラケットを再接着したもの, およびD群は歯面上レジンを全て除去後, 60秒間再エッチング処理をした歯面に新しいブラケットを再接着したものである. 実験結果 : 1. 接着強度について 1) A群の接着強度は, コンサイス9.1kg, スーパーボンドが10.2kgで初回と同じであったが, クリアーフィルは10.3kg, システムIは7.1kgと初回の約2/3であった. 2) B群の接着強度はコンサイス7.4kg, スーパーボンド9.3kgで初回と有意差がなかったが, クリアーフィルは10.3kg, システムIは6.6kgで初回接着力の約2/3であった. 3) C群の接着力はコンサイス7.6kg, スーパーボンド9.3kg, クリアーフィル14.1kg, システムI9.9kgで初回と有意差がなかった. 4) D群の接着強度はコンサイス9.3kg, スーパーボンド9.8kg, クリアーフィル14.2kg, システムI10.0kgといずれのレジンにおいても初回接着力と同じであった. 2. Debondingによる歯面像 (SEM) について 1) 研磨をしなかったA群では, 全てのレジンに気泡が認められた. 2) 歯面の研磨処理B群では, MMA系のスーポーボンドを除く, 他のレジンに多くのフィラーが確認された. 3) 歯面の研磨処理C群では, エナメル質に研磨傷がみられ, 薄いレジン層も存在したが, 酸エッチング像は, はじめのそれと同じであった. 4) 歯面の研磨処理D群では, 肉眼的にエナメル面上のレジンを全て除去したにもかかわらずレジン片が随所にみられ, エナメル質にも荒い研磨傷がみられた. 以上の結果から, 臨床的にみて, システムIのみレジン研磨および再エッチングを必要としたが, その他の3種類のレジンについては本実験のどの再接着方法でも実用性があると考えられた. また再エッチング処理にて矯正ブラケットの再接着を行うと, 接着力は高くなるが, エナメル質の損傷があるので, 大いに注意を払うべきである.