著者
藤井 孝政 柏木 宏介 川添 堯彬
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.92-98, 2005-03-25
被引用文献数
2

本研究では, 繊維強化コンポジット(FRC)を応用したメタルフリーブリッジの強度の向上を目指し, FRCの形態がブリッジの曲げ強さに及ぼす影響について検討した.実験材料として, FRC(BR-100, KURARAY MEDICAL)とハイブリッド型レジン(ESTENIA, KURARAY MEDICAL)を用いた.臼歯部3ユニットブリッジの支台歯を想定した金型を印象採得し, 超硬石膏にて作業用模型を製作した.作業用模型に透明シリコンの型枠を装着し, FRCとハイブリッド型レジンを填入してブリッジを製作し, 実験試料とした.FRC(厚さ1mm, 長さ28mm)の形態は, 幅3mm(F3)および幅6mm(F6)のそれぞれを, 平板状にしたもの(Straight)およびポンティック部で曲げたもの(Bent)の4種類に設定した.また, 参考としてハイブリッド型レジン単体の実験試料を用意した.実験試料はそれぞれ5個ずつ, 計25個製作した.実験試料を室温, 空気中で24時間保存し, 接着性レジンセメントを用いて金型に接着した.万能試験機を用いてポンティック中央部に荷重を加え, 破折時の最大荷重値を曲げ強さとして求めた.統計学的解析はFRCの幅および形態を要因とする二元配置分散分析を用いた.統計学的有意水準を1%に設定した.分散分析の結果, FRCの幅および形態に有意差が認められた.曲げ強さはF6 Bentが最も大きく, 以下F6 Straight, F3 Bent, F3 Straight, およびハイブリッド型レジン単体の順となり, FRCの幅を3mmから6mmにすること, およびポンティック部でFRCを曲げることによって, それぞれ約400Nの強度の向上が認められた.以上の結果から, FRCをブリッジへ応用する際には, FRCの幅を大きくすること, およびFRCをポンティック部で曲げることが望ましいことが明らかとなった.
著者
福田 宏 西川 泰央
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.349-360, 1990
被引用文献数
1

視床髄板内核における三叉神経性侵害受容ニューロンの局在部位とその性質とを調べるとともに, 視床髄板内核の一つである外側中心核へ投射する延髄尾側部の侵害受容ニューロンを検索して, 三叉神経支配領域から視床髄板内核へ上行する侵害受容情報の機能的意義を解明した.<br> 実験には, ウレタン・クロラローズで麻酔したネコを用いた. 視床および延髄尾側部における単一ニューロン活動の導出には, 2% pontamine sky blue含有の1M酢酸ナトリウム溶液を充填したガラス毛細管微小電極を用いた. ニューロン活動の記録部位は, 電気泳動的に色素を注入し, 脳を灌流固定して組織学的に同定した.<br> その結果, 視床髄板内核である内側中心核, 外側中心核および束傍核に三叉神経支配領域から侵害受容性入力を受けるニューロンが検出された. これらの侵害受容ニューロンは, 角膜への圧刺激, 鼻背への叩打, 耳介, 舌および顔面への侵害性機械的刺激あるいは犬歯歯髄への電気刺激に反応した. このような末梢受容野の分布様式は延髄尾側部に存在する腹側網様亜核の侵害受容ニューロンの末梢受容野と類似しており, 腹側網様亜核ニューロンが直接的にあるいは脳幹網様体を介して間接的に視床髄板内核へ投射していることを示している.<br> そこで, 外側中心核に電気刺激を加えて, 延髄尾側部ニューロンの反応を調べたところ, 逆方向性に興奮する三叉神経性侵害受容ニューロンが, 腹側網様亜核背外側部から検出された. また, 腹側網様亜核ニューロンの半数以上が対側の外側中心核へ直接投射していることがわかった.<br> 延髄尾側部の腹側網様亜核で中継されて, 視床髄板内核に送られる三叉神経支配領域がらの侵害受容情報は, さらに大脳辺縁系に投射して, 三又神経系の痛みに伴う情動の発現に関与すると考えられる.
著者
眞境名 英幸
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.g53-g54, 1992

細胞を取り巻く環境因子であるグリコサミノグリカン (GAG) あるいはプロテオグリカンの細胞モジュレーターとしての機能は, 病態下における疾患の発症や進展, あるいは組織修復との関連から, 興味ある課題として関心が寄せられており, 近年, GAGの糖鎖構造がその機能に重要な役割を果たしていることが明らかにされてきた. 著者の教室でも病態下の組織GAGの変化をHPLCで不飽和二糖レベルから解析し, ヒト炎症歯髄ではGAGの組成およびコンドロイチン硫酸 (CS) 由来不飽和二糖の組成が組織防御的にシフトしていることを明らかにするとともに, ラット顎下腺では糖尿病によってヘパラン硫酸 (HS) が低硫酸化を起こし, その変化は細胞機能と関連することを指摘してきた. 本研究は, 下顎第三大臼歯抜歯時に得た最後方臼歯遠心部歯肉を臨床的にも組織学的にも炎症所見のみられない健全歯肉と智歯周囲炎としての臨床所見を呈する炎症歯肉との2群に分けて試料とし, 歯肉GAGの炎症に伴う糖鎖レベルにおける応答を検索したものである. 歯肉GAGは脱脂乾燥歯肉から常法にしたがって抽出し, Bitter-Muir法でウロン酸量として定量した. GAGの分子種はセルロースアセテート膜電気泳動で, その構成比率は泳動スポットのアルシアンブルー定量で, CS由来およびデルマタン硫酸 (DS) 由来の不飽和二糖はHPLCでそれぞれ解析し, 次の所見を得た. 1) 健全群に比べ, 炎症群では歯肉組織乾燥重量当たりの総タンパク量とDNA量が増加し, Hyp量は減少した. また, 炎症群の歯肉GAG (ウロン酸) 量は健全群の約1.6倍に増加した. 2) GAGは両群ともヒアルロン酸, CS, DSおよびHSから構成されていたが, 炎症群ではCSが健全群の1.6倍に, DSは3.8倍に増加した. 3) 健全群のCS由来不飽和二糖は, 主成分のΔDi-0Sと少量のΔDi-4SおよびΔDi-6Sから構成され, 健全歯肉のCSは硫酸化傾向の低い糖鎖構造をもつことが示された. また, 炎症群ではΔDi-4SとΔDi-6Sが主成分をなし, 硫酸化不飽和二糖, 非硫酸化不飽和二糖の相対比は健全群 (0.34) より大きく上昇 (1.06) し, CSは炎症によって硫酸化傾向を強めることが明らかとなった. 一方, 健全群のDS由来不飽和二糖はおもにΔDi-4SとΔDi-0Sから構成されていたが, 炎症群ではΔDi-4Sが著明に増加し, 炎症に伴うDSの増加はΔDi-4Sに由来することが明らかになった. 一般に, CSは細胞増殖と, DSは組織コラーゲンの線維化とそれぞれ密接に対応しながら組織機能の維持と調節に関与することが知られている. したがって本実験の結果は, 慢性炎症時の歯肉組織ではGAGが量的にも糖鎖構造においても, 炎症に対して組織修復的に機能するようにシフトされることを示すものといえる.
著者
土居 正英 福島 久典
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.189-204, 1995-06-25
被引用文献数
4

著者らは, Prevotella intermedia (P. intermedia) strain E18に強い赤血球凝集活性を見いだし, 凝集因子を分離精製している. P. intermedia strain E18の継代培養でしばしば黒色色素を産生しないコロニーがみられるので, 本実験では, これらの黒色色素非産生コロニーを分離し, 黒色色素産生株との性状を比較検討した. その結果, P. intermedia strain E18, 3株の黒色色素非産生株(strain E1801, E1802, E1803)およびtype strainであるP. intermedia ATCC 25611は, API ZYM systemでそれぞれ alkaline phosphatase, acid phosphatase, phosphoamidase および α-glucosidase 活性を示した. SDS-PAGEによる可溶性タンパク泳動パターンはいずれの菌株とも類似していた. また, P. intermedia strain E18と黒色色素非産生株は菌体表層に線毛構造がみられず, 両者の間に形態学的な相違は認められなかった. 赤血球凝集性は, 対照としたP. intermedia ATCC 25611では8AUであったのに対して, P. intermedia strain E18と黒色色素非産生株はともに32AUであった. 試験したすべての培養菌液と P. intermedia strain E18を硫安分画で濃縮し, ショ糖密度勾配遠心で得た vesicle画分である fraction B と C に対する抗fraction B および抗fraction C抗血清との間には共通する二本の沈降線が認められた. また, fraction Aを Arginine-agarose とゲル濾過でさらに精製し, SDS-PACEで約25kDaのバンドを示す赤血球凝集因子に対する抗血清と各培養菌液とを反応させた場合も共通する一本の沈降線が認められた. P. intermedia strain E18および3株の黒色色素非産生株はいずれもβ-lactamase, DNase, lecithinase および lipaseを産生した. パルスフィールド電気泳動では, P. intermedia strain E18, 黒色色素非産生株とも2,200kb と 750kb付近に二本のバンドが認められ, chromosomal DNAに相違は認められなかった. 以上の結果から, 黒色色素非産生株は P. intermedia strain E18由来の変異株であると考えられる.
著者
崗本 建澤 河原 茂
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.507-524, 1992
被引用文献数
1

Jarabak分析法の特徴は, 分析項目を骨格系と歯牙系に大別し, 骨格系において成長方向を詳しく解析している点である. この分析法では, 頭蓋顎顔面に関する計測項目を数多く設けているため, 頭蓋顎顔面全体の成長に伴う形態変化を把握できるという長所を有している. <br> そのため, 小児歯科臨床において頭部エックス線規格写真を用いて小児の顎顔面系の成長変化を追跡する分析法としては最適のものと考えられる. そこで, このJarabak分析法における各計測項目の経年的なデータを求めると同時に, この分析の骨格系の計測項目を経年的に分析することにより, 小児から成人へと成長する際の頭蓋顎顔面の変化について調査した. その結果, <br> 1) 10歳から15歳までの日本人のJarabak分析各計測項目における平均値および年間成長量を求めることができた. <br> 2) 本研究により得られた日本人の資料による顔面の成長パターンは, 前下方への成長を示すJarabakのいうstraight downward typeではなく, わずかではあるがcounterclockwise growth typeの成長パターンを示す傾向があることがわかった. <br> これらのデータは, 小児歯科臨床において頭蓋顎顔面の成長を考慮した咬合誘導を行う際に, 重要な参考資料になると考える.
著者
辰巳 浩隆 黒田 洋生 竹本 靖子 小川 歓 福島 久典 佐川 寛典 植野 茂 白数 力也 神原 正樹 大東 道治 毛利 学
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.403-407, 1994
被引用文献数
14

臨床の場から分離した methicillin-resistant staphylococci (MRS) 8株と標準株4株に対するアクア酸化水の殺菌効果を検索するために, アクア酸化水と対照の消毒剤 (グルタルアルデヒド, 次亜塩素酸ナトリウムおよび塩化ベンザルコニウム) の最小殺菌濃度を測定し, 比較検討した.<br> その結果, 4倍希釈したアクア酸化水では, 標準株の <i>Staphylococcus aureus</i> Oxford 209P と <i>Candida albicans</i> ATCC 10259 の発育が, また2倍希釈液では <i>Staphlococcus aureus</i> Oxford 209P の発育が認められた. しかし, 原液のアクア酸化水では, すべての供試菌株に対して全接触時間とも菌の発育が抑制された. 一方, 対照の消毒剤では, MRS 1株に対する 0.01% 次亜塩素酸ナトリウムの場合を除いて, すべて有効であった.<br> このことから, 原液のアクア酸化水は, 対照の消毒剤と同等あるいはそれ以上の優れた殺菌力を有すると考えられる.
著者
山脇 裕 川本 達雄
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.53-63, 1996-03-25
被引用文献数
7

矯正歯科臨床においてパラクルバーは舌の機能力を上顎大臼歯に伝達し, 上顎大臼歯の垂直的な矯正力に対するコントロールを行うことを目的として用いられる場合がある. 嚥下時に舌によりパラクルバーを介して上顎第一大臼歯に伝達される垂直力の大きさ, および特性を明確にすることを目的として本研究を行った. 被験者は正常咬合を有する22名で, 平均年齢は22.3歳であった. 測定装置はカンチレバー式ストレインゲージトランスデューサーを用いた口腔内センサー, ひずみ測定用直流増幅器およびオシログラフよりなる. 口腔内センサーは左側第一大臼歯の矯正バンドに設置した. パラクルバーはゴシュガリアンクイプとした. パラクルバーの右側脚部は大臼歯バンドに固定し, 左側脚部は遊離端として口腔内センサーに連結した. 測定条件は37で, 5mlの水の嚥下時, 意識下での唾液の嚥下時および180mlの水の嚥下時とした. 測定は波形, 力の大きさ, 持続時間および力の時間積分について行った. 測定の結果, 波形は二相性を示した. 5mlの水の嚥下時の垂直力の平均値は743.3g, 持続時間の平均値は1.30sec, 時間積分の平均値は396.2g・secであった. 唾液嚥下時の垂直力の平均値は816.0g, 持続時間の平均値は1.63sec, 時間積分の平均値は628.2g・secであった. 180mlの水の嚥下時の垂直力の平均値は925.2g, 持続時間の平均値は10.37sec, 時間積分の平均値は2,792.4g・secであった. 嚥下頻度に関する研究の結果より, パラクルバーに嚥下時に力が付加される頻度は非常に高いことが推測される. また, 本研究において得られた付加される垂直力の大きさおよび持続時間より考えパラクルバーは矯正歯科臨床において上顎大臼歯の垂直的コントロールに効果があることが示唆された.
著者
森 直樹 山中 武志 福島 久典
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.139-150, 2006-12-25
被引用文献数
6

細菌が菌体外多糖(exopolysaccharide: EPS)を産生し,バイオフィルムを形成すると,たとえ弱毒菌であっても難治性感染症を惹起し得ることが近年の研究で明らかとなっている.我々はこれまでに,歯周病原細菌の1つであるPrevotella intermedia (P. intermedia)のなかに,EPSを産生してバイオフィルム様構造をもつものが存在すること,EPSを産生するP. intermediaのマウスにおける膿瘍形成誘導能は,EPSを産生しない株と比較すると100〜1,000倍強いことを報告してきた.EPS産生性はP. intermediaの病原性を決定する重要な因子であると考えられるが,その産生調節に関わる遺伝子は未だ不明である.本研究では,当研究室で辺縁性歯周炎病巣より分離した,EPSを産生するP. intermedia strain 17と,strain 17のvariantで,EPS産生性を失ったstrain 17-2を用いて,両菌株の病原性と遺伝子発現の差について検討した.マウスにおける膿瘍形成試験の結果,strain 17の膿瘍形成能はEPSを産生しないstrain17-2と比べ,約100倍強いことが明らかとなった.ヒト好中球を用いた貪食試験により,strain 17は好中球の貪食に対して抵抗性を有することが確認された.Strain 17の全ゲノム配列をもとにマイクロアレイを作製し,strain 17が菌体周囲に網目状構造物の産生を開始する培養12時間頃の遺伝子発現を,これを産生しないstrain 17-2と比較した.その結果,strain 17において21遺伝子が2〜4倍発現上昇していた.機能の特定が可能であった遺伝子としては,熱ショックタンパクである10 kDa chaperonin, 60 kDa chaperonin, DnaJ, DnaK, CIpB遺伝子が含まれていた.また,膜輸送に関わるABC transporter遺伝子の1つであるATP結合タンパク遺伝子も発現上昇していた.以上の結果から,EPS産生性はP. intermediaの病原性に強く関わっており,その産生に熱ショックタンパクとABC transporter関連遺伝子が介在することが示唆された.
著者
大下 智友美
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.385-397, 1993
被引用文献数
3

&emsp;近年、若年の咬合異常者と顎関節症状を有するものとの関連について注目が集まっている。本研究は、小児における顆頭運動の基礎的なデータを得ることを目的として、下顎に対して終末蝶番運動、protrusion-retrusion、mediotrusion-medioretrusion、opening-closing という 4 つの基本運動を行わせ、顆路描記装置 Axi-Path II Recorder を用いて顆頭運動路の三次元的な記録を行った。そしてその運動路の距離ならびに角度計測を行い、平均値を求めると同時に計測結果について成人と比較分析し、以下の結論を得た。<br>1. Manipulation technique により reference position での顆頭の蝶番軸点を求めることは、小児においても可能であり、かつ有効であることが認められた。<br>2. Hellman の dental stage III A~III B の小児の顆頭運動について各計測項目における平均値のデータを求めることができた。<br>3. 小児の excursive な運動は成人よりも浅い角度で滑走していた。<br>4. Protrusion、mediotrusion 時の顆頭の運動距離について小児と成人を比較したところ有意差は認められなかった。Opening 時の運動距離は小児のほうが有意に小さかった。<br>5. Mediotrusion 時の顆頭の側方変位量について左右を比較すると、小児では Motility、Mobility ともに左右差がみられなかったが、成人では右側のほうが左側より大きな値を示した。小児と成人を比較すると、右側では Motility、Mobility ともに差が認められなかった。左側では Mobility には差が認められなかったが、Motility は成人のほうが小児より小さな値を示した。<br>&emsp;これらのデータは小児歯科臨床においてアンテリアガイダンスとポステリアガイダンスの調和のとれた顎運動を行うことのできる顎顔面系の成長を育成するうえで重要な参考資料になると考えられる。
著者
酒匂 潤 覚道 健治 白数 力也
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.160-168, 1999-09-25
被引用文献数
1

慢性関節リウマチ(以下RAと略す)のモデル動物であるMRL/lpr/lprマウスの顎関節について組織学的に,そしてMMP-3とTIMP-2の局在を免疫組織化学的に観察した.MMP-3は32週齢でパンヌスと思われる増殖滑膜組織および変形した表層関節軟骨の細胞周囲で強陽性であった.さらに滑膜および変形した下顎骨軟骨においてMMP-3陽性でTIMP-2陰性の部位も認められた.このことは局所的にMMPとTIMPのバランスが崩壊していると考えられた.関節円板は成長発育の時期においては最菲薄部でMMP-3が強陽性であったが,週齢を重ねるにつれ軟骨様細胞においても陽性像がみられるようになった.骨は全週齢を通して陰性であった.以上の結果からRAに罹患した顎関節におけるMMP-3の産生部位は滑膜,関節円板および関節軟骨であることが示唆される.
著者
原 佳代子 小野 圭昭 権田 悦通
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.271-282, 2001-09-25

本研究は, 下顎骨弓幅径変化を計測し, 同時に切歯部と顆頭部の下顎運動との関係を分析することによって, 下顎の基本運動時における下顎骨弓幅径の経時的変化ならびに顆頭運動と下顎骨弓幅径変化との関連を明らかにすることを目的とした.被験者は顎口腔系の機能に異常を認めない25〜28歳の男性5名とした.下顎骨弓幅径の計測はLinear Variable Differential Transformer(LVDT)用い, 下顎運動(切歯点と顆頭点)の計測には6自由度顎運動計測器ナソヘキサグラフを用いた. 被験運動は, 開口運動, 前方運動, 側方運動とし, 被験者それぞれに可能な顎位まで運動を行わせた後, それぞれの最大移動顎位において下顎を保持させた.その結果, 以下の結論を得た.1.下顎骨弓幅径は各運動時に減少し, 最大減少量は, 前方運動時333.73±96.25μm, 開口運動時295.25±52.92μm, 側方運動時77.04±33.31μmであり, それぞれに有意な差が認められた.2.すべての運動において下顎骨弓幅径減少量は顆頭点の移動量増加に伴い有意に上昇した.3.すべての運動において顆頭点移動量に伴う下顎骨弓幅径の経時的変化に往路と復路間に差はなかった.4.顆頭点移動量に伴う下顎骨弓幅径変化は, 運動の種類によって異なり, 顆頭点の同一移動量における下顎骨弓幅径減少量は, 前方運動, 開口運動, 側方運動の順に大きかった.以上のことから, 各運動内においては下顎骨弓幅径減少量は顆頭点移動量と密接な関係を持つが, その経時的変化は運動の種類によって影響を受けることが明らかとなった.
著者
安岡 良介
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.361-373, 1990
被引用文献数
10

糖尿病における網膜と歯肉内縁上皮の細小血管症について, 太田らの方法により微細血管鋳型標本を作製し, 微細血管構築の変化を立体的に走査電顕で観察した. また網膜毛細血管壁の超微形態の変化についても観察した.<br> その結果, 網膜微細血管構築では糖尿病発症後10週より細小血管症が出現し, 16週後では, 硝子体側と脈絡膜側の毛細血管網は粗く平面的となった. 20週後では毛細血管瘤を認め, 硝子体側, 脈絡膜側の毛細血管網は粗く, 毛細血管は部分的に狭窄し文通枝は減少した。また毛細血管の分布密度は低下し, 2層構造は不明瞭であった. 網膜毛細血管の超微細形態では, 糖尿病発症後16週から基底膜に部分的な軽度の肥厚を認め, 20週後の基底膜では部分的な肥厚を呈し, 剥離して重層化しているものもあった. 周皮細胞には飲小胞をほとんど認めず, 内皮細胞には扁平化, microvilli様の突起の減少, 空胞変性を認めた.<br> 歯肉内縁上皮の微細血管構築では, 糖尿病発症後6, 10, 16週でほとんど変化を認めなかった. しかし20週後から急激に細小血管症が出現し, 歯肉内縁上皮下方の毛細血管網は粗雑となり, 上方の歯肉内縁上皮では毛細血管loopの高さが低くなり, 連珠状の毛細血管を呈した.<br> 以上のように, 網膜における細小血管症は段階的に進行していくが, 歯肉内縁上皮では糖尿病発症後20週から急激に血管構築の変化が出現した. したがって, 網膜の変化の観察は, 糖尿病病期決定に有用であることが確認され, 糖尿病罹患期間が長くなると, 歯肉内縁上皮にも細小血管症が出現することが明らかとなった.
著者
松浦 修 山中 武志 福島 久典
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.141-150, 2007-06-25

我々はこれまでに臨床分離のPrevotella intermedia(P.intermedia)のなかに,菌体外多糖(exopoly-saccharide:EPS)を多量に産生して単独でバイオフィルムを形成する株が存在することを明らかにしてきた.また,バイオフィルムを形成するP.intermediaのマウスにおける膿瘍形成誘導能は,非形成株と比較すると100〜1,000倍強いことや,EPS産生に関わる遺伝子発現についても報告してきた.EPS産生性獲得に伴うバイオフィルム形成性は,口腔常在菌であるP.intermediaの病原性を決定する重要な因子であると考えられるが,膿瘍形成誘導との直接的な繋がりについてはいまだ不明である.そこで今回,当研究室で辺縁性歯周炎病巣より分離した,P.intermedia strain OD 1-16よリ分離精製したEPSを用いて,これがヒト貪食細胞に与える影響について検討を試みた.貪食試験には,ヒト単球系細胞であるTHP-1細胞と直径2.0μmのラテックスビーズを用いた.オプソニン化したラテックスビーズを0.5〜2.0mg/mL濃度のEPSでコートし,HP-1細胞の貪食に与える影響を透過型電子顕微鏡にて観察した.THP-1細胞をEPSコート/非コ一トラテックスビーズと共培養したのち,RNAを回収し,純度を確認後,マイクロアレイにアプライし,遺伝子発現の差を検討した.精製したEPSでコートしたラテックスビーズを走査型電子顕微鏡観察し,OD 1-16のバイオフィルムに特徴的な菌体間の網目状構造がラテックスビーズ間にも再現されることを確認した.これをTHP-1細胞に貪食させたところ,EPSが濃度依存的にラテックスビーズの細胞内への取り込みを抑制することが明らかとなった.EPSによる貪食抑制を受けたTHP-1細胞と,活発にビーズを貪食した細胞の遺伝子発現をマイクロアレイ解析したところ,EPSによる貪食抑制を受けた細胞の約140遺伝子で2倍以上の発現上昇がみられた.今回の研究結果より,バイオフィルムを形成するP.intermedia由来のEPSが,ヒト単球系細胞であるTHP-1細胞の異物認識後の捕食を障害し,その遺伝子発現にも影響を与えることが明らかとなった.これらのことから,バイオフィルム形成細菌のEPS産生性は貪食細胞に対する抵抗因子として働き,さらには宿主細胞の動態に影響を与えることで組織侵襲性に関与していることが示唆された.
著者
Yamamoto Kazuyo Takeuchi Osamu Zennyuu Kanji Fukui Masaki Suzuki Koichiro Hatsuoka Yoshinori Shiraishi Mitsuru
出版者
大阪歯科学会
雑誌
Journal of Osaka Dental University (ISSN:04752058)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.37-42, 2006

We did an in vitro study on the bonding durability both to enamel and dentin of three fluoride-releasing enamel/dentin adhesive systems: experimental ABF and Imperva Fluorobond which are 2-step (self-etching primer+adhesive) systems, and Reactmer which is a 1-step (self-etching-priming-adhesive) system. The tensile bond strength was determined after 1 day and 1 year in 37℃ water. ABF showed high bond strength to enamel and dentin after 1 day. Although the bond strength to enamel was significantly degraded after 1 year, fractures were almost all cohesive failures in the bonding resin. Therefore, TBS values seemed to reflect the tensile strength of the bonding resin; the actual bond strength at the interface was probably greater than the values obtained from the tensile bond strength tests. Although Fluorobond had dentin bonding durability similar to ABF, its bond strength to enamel was inferior. Adhesive failures were mainly observed with enamel, indicating that the bonding durability to enamel was insufficient. In Reactmer, bond strengths both to enamel and dentin were significantly reduced after 1 year in water. The fractured surfaces were cohesive failures in the bonding resin for all specimens. These findings suggest that the bonding of ABF and Fluorobond to enamel and dentin was generally durable. The bond strength of Reactmer was less durable than the other two systems because of the fragile bonding resin.