著者
藤本 幸永 福島 久典
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.48-55, 2011-09-25 (Released:2017-06-08)
参考文献数
34

高野槙68%エタノール抽出液の抗菌物質を部分精製するために,ヘキサン,ジイソプロピルエーテル,酢酸エチル,ブタノールで分画した.各層を乾固し,60%エタノールで溶解して抗菌活性を測定した.抗菌活性は,Staphylococcus aureus ATCC 12600を指示菌としてsoft agarとともに流し固めた平板上に,それぞれの試料の2培連続希釈液10μLずつを滴下して培養し,発育阻止が認められた最大希釈の逆数で表した.各活性画分はそれぞれSephadex^<TM>LH-20によるゲル濾過で分画した.またゲル濾過で得られた活性画分は高速液体クロマトグラフ分析に供した.さらに各抗菌活性画分の抗菌域についても検索した.最も強い抗菌活性が認められたのはジイソプロピルエーテル層(74.1%)で,ついでヘキサン層(19.7%),酢酸エチル層(6.2%)の順であった.ブタノール層と水層に活性はみられなかった.ヘキサン層をゲル濾過に供した結果,2つのピークが得られ,活性は第1ピークと第2ピークの間(Hb)にみられた.ジイソプロピルエーテル層のゲル濾過では3つのピークが得られ,抗菌活性は第1ピーク(Ea),第2ピーク(Eb)および低分子画分(Ec)に認められた.またHb,EbおよびEc画分について高速液体クロマトグラフで分析した結果,Hb,Eb画分では混在物のため抗菌活性のあるピークを分離することはできなかったが,Ec画分では4つのピークが得られ,活性は3番目のピークにみられた.したがって今後,このピークの成分について明らかにする予定である.Hb,Ea,EbおよびEc画分の通性嫌気性菌,好気性菌,真菌に対する抗菌域は,名画分間で相違がみられた.また嫌気性菌に対しても同様であった.これらの結果を総合してみると,高野槙68%エタノール抽出液は,極性,分子量,抗菌域の異なる抗菌物質を複数含んでいると考えられる.
著者
武田 安弘
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.g105-g106, 1990

顔面に分布する主要動脈の1つである顔面動脈の走行と分枝の発達は動物種によって異なっている. 霊長類の顔面動脈については, ヒトを除いては極めて少数の報告をみるにすぎない. 著者はコモンマーモセット (Callithrix jacchus) の顔面動脈と分枝ならびに分布域について詳細に観察し, 霊長類のものと比較解剖学的に考察した. 本研究には, コモンマーモセット成体7頭を用い, アクリル樹脂脈管注入法によって両側総頚動脈からアクリル樹脂を注入し, うち6体は頭頚部血管系の鋳型標本, 残る1体は10%ホルマリン固定剖検標本として観察に供した. 顔面動脈は起始から顔面での分布まで長い走行をとるので, これを顎下部と顔面部にわけて観察した. 1) 顎下部 : 顔面動脈は環椎中央の高さ, 顎二腹筋後腹ならびに茎突舌筋筋腹中央, かつ舌下神経の内側で外頚動脈の前壁から舌顔面動脈幹 (全観察7体, 14側中10側) または単独 (4側) で起始していた. この動脈幹からは常に上甲状腺動脈が起始していた. 舌顔面動脈幹または単独起始の顔面動脈は顎二腹筋後腹の内側を前上方へ, 同幹は本筋上縁で舌動脈と顔面動脈に2分していた. 顔面動脈は茎突舌筋と顎二腹筋中間腱の間を前外側方へ通過し, 途中, 茎突舌筋枝と顎下腺枝を派出していた. 本幹は内側翼突筋と顎二腹筋中間腱の間を前下方へつづき, 同翼突筋停止前縁でオトガイ下動脈を前上方へ, 咬筋枝を前下外側方へ派出していた. さらに本幹は皮下にでて咬筋と顎二腹筋前腹の間を前走し, 咬筋停止と顎二腹筋停止の後縁の間で前上外側方へ曲がって顔面に出ていた. オトガイ下動脈は内側翼突筋枝, 皮枝, 舌下腺枝, 顎二腹筋枝と顎舌骨筋枝を派出しつつ下顎骨内面を正中まで前走し, オトガイ舌筋の起始に分布して終わっていた. 2) 顔面部 : 顔面動脈本幹は6体の両側では咬筋前縁に接して前上方へ向かっていた. 残る1体の両側では同縁から前方へ離れて走行し, その片側では咬筋前枝の派出を認めた. 本幹は下顎体中央の高さで皮枝, 下顎縁枝, 頬枝を派出し, 頬筋下顎起始の下縁で下唇動脈を前方へ派出したのち, 頬筋外面を上行して頬筋枝を後内側方へ派出していた. さらに本幹は頬骨側頭突起の基部下縁の高さで頬骨動脈との吻合枝を派出したのち, 前方へ曲がり鼻孔外側動脈と上唇動脈に2分して終わっていた. 2体の両側では鼻孔外側動脈を欠如していて上唇動脈が終枝となり, また眼窩下動脈が発達していた. 下唇動脈は下顎縁枝, 唇縁枝, 下唇腺枝を派出し, オトガイ動脈と吻合して終わっていた. 上唇動脈は浅枝と深枝となり, 対側相互間で吻合して鼻中隔枝となっていた. コモンマーモセットの顔面動脈の起始は甲状舌顔面動脈幹が全観察例の2/3に, 単独起始が1/3に認められた. 起始様相について霊長類のツパイからヒトまでを総括すると, 単独起始, 甲状舌顔面動脈幹形成という順に変化し, 高等霊長類ではこのような起始変化が種別に独自の出現率を示している. 顔面動脈顎下部の形態については他種についての所見と変わらない. 顔面動脈は咬筋前縁に接して走行しており, これは頬嚢を有するカニクイザルやアカゲザルと異なっていた. 顔面動脈の終枝は鼻孔外側動脈と上唇動脈であって, カニクイザルやアカゲザルにみられる眼角動脈は認められなかった. したがって, 顔面動脈の分布は鼻背にとどまっていた.
著者
尾崎 均 三宅 達郎
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.475-497, 1994
被引用文献数
4

ハイドロキシアパタイト (以下 HAp と略す.), タンパク質被覆 HAp および口腔内細菌の各表面間に働く相互作用ポテンシャルエネルギー (Vel+V_A) を電気二重層相互作用ポテンシャルエネルギー (Vel) およびファンデルワールス相互作用ポテンシャルエネルギー (V_A) から理論計算し, HAp への細菌の付着現象に及ぼす遠距離で働く力の効果を検討した.<br> 同種粒子の場合, HAp 間では極大反発力 (Vmax) が大きく, 凝集しにくいのに対し, ゼータ電位が負に小さい細菌 (<i>Streptococcus mutans</i> (以下 <i>S. mutans</i> と略す.) OMZ175, <i>S. mutans</i> K-1 および <i>Streptoccus sobrinus</i> (以下 <i>S. sobrinus</i> と略す.) 6715) 間では Vmax が小さく, 凝集しやすいことがわかった.<br> 異種粒子である HAp と口腔内細菌との間においては, 負で小さいゼータ電位をもつ菌の Vmax は, 負で大きいゼータ電位をもつ菌に比べて小さい. すなわち, ゼータ電位の大きさから, HAp 表面に付着しやすい菌と付着しにくい菌とに大別できることが判明した. また, 同様に異種粒子であるタンパク質被覆 HAp と口腔内細菌との間においては, タンパク質の Hamaker 定数が水よりも小さいため, ファンデルワールス力はつねに反発力となった. とくに, HAp の負の電位を高くするタンパク質が HAp に吸着すると, 静電気的にも反発力が生じ, 細菌の付着はきわめて起こりにくくなる. この傾向は負で大きいゼータ電位をもつ細菌において顕著であった. これに対して, HAp の正のゼータ電位を高くするタンパク質が HAp に吸着すると, 細菌の種類を問わず, 静電気的引力がファンデルワールス力の反発力を大きく上回り, きわめて付着しやすい状態になった. また, 溶液 pH が低くなるほど, 細菌の付着は容易になる傾向を示した.<br> 以上の結果から, HAp 表面に Hamaker 定数が小さく, HAp の負の電位を大きくする物質を吸着させ, 溶液の pH を高くすることができれば, HAp と細菌との間に大きなポテンシャルエネルギーの障壁が生じ, それによって, 細菌とくに負の電位の大きい細菌の付着を遠距離力で阻害できることが示唆された.
著者
林 靖久
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.g31-g32, 1995-10-25

発癌には多くの要因が関与しているため, 臨床面からその因子を推定し因果関係を明らかにすることは非常に困難である. 現在, 飲酒・喫煙は多くの疫学的および臨床的研究から癌発生に大きく関与し, 口腔癌においても重要な発生因子であると認識されている. しかし, 口腔癌患者の口腔環境についての研究は癌治療が最優先されることや, 口腔癌の発生数が少ないことなどの理由から, ほとんど明らかにされていないのが現状である. 本研究は口腔癌患者の口腔環境の実態を, オルソパントモグラムを用いて分析し, 癌発生を効果的に予防する具体的な方法の手掛かりを探求するものである. 研究対象 1968年から1990年の23年間に扁平上皮癌と診断され初診時のオルソパントモグラムが保管されている, 口腔癌患者454例(下顎歯肉癌223例, 舌癌155例, 口底癌76例)を対象とした. 対照群は1992年5〜6月および11〜12月にかけて本学附属病院歯科放射線科でオルソパントモグラムが撮影された30歳以上の患者390例(腫瘍や嚢胞および炎症で歯や顎骨に著明な変化を認めないもの)である. 研究方法 歯の齲蝕罹患や処置の指標はDMFを参考にし, 一部を改変した. D: Decayは未処置齲蝕, M: Missingは齲蝕により喪失した歯, F: Fillingは処置された過去の齲蝕と定義されているが, 本研究での MissingはX線写真上での喪失歯を意味する. その評価項目は残存歯数, 未処置齲蝕歯率(未処置齲蝕歯数/残存歯数)とした. また歯周組織の重篤度を示す指標として, 歯槽骨の吸収度を植立歯の長さに対応させて0から4まで, 1)レベル0: 歯槽骨頂に白線が認められるか, あるいは歯槽骨の吸収がないもの, 2)レベル1: 歯槽骨頂の吸収が軽度にみられるもの, 3)レベル2: その吸収量が根尖側2/3付近まで, 4)レベル3: 根尖側1/3付近まで, 5)レベル4: レベル3を越える吸収, の5段階に分類した. この基準に従って, 各歯において最も重篤な骨吸収レベルを点数として与え(腫瘍による骨浸潤相当歯は除く), その合計点数を残存歯数で割った値(骨吸収得点合計/残存歯数)を個人の歯周組織の状態の指標とし, これを骨指数とした. これら4群(下顎歯肉, 舌, 口底, 対照の各群)の比較は, 性および年齢で層別化して平均値の一様性の判定を行った. その判定には分散分析を用い, 平均値の一様性に差が認められた場合(P<0.05)にのみ, 各2群間の平均値の差をt検定で検討した. 結果 1)未処置齲蝕率は, 対照群より癌群のほうがやや高い傾向をみたが, 統計的な有意差は認められなかった. 2)歯槽骨頂の吸収程度は, 癌群のほうが進行していた. なかでも口底癌は対照群と比較すると, その吸収程度はかなり進行していた(男性49歳以下群1%以下, 50歳群0.1%以下, 60歳群5%以下, 70歳以上群0.5%以下の危険率で有意差を認めた). 3)癌群中, 舌癌の歯槽骨頂の吸収程度は, 対照群と類似していた. 腫瘍の発生部位で発癌の刺激因子は異なると考えられ, とくに口底癌と下顎歯肉癌は, 歯周疾患の進行が発癌因子の一つと思われた. 以上より口腔癌にかける第一次予防の手掛かりは, 歯周疾患進行の制御と考えられた.
著者
上り口 晃成 青木 誠喜 森田 真功 田畑 勝彦 畦崎 泰男 前田 照太 井上 宏
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.248-254, 2002-12-25
被引用文献数
10

我々は唾液を経時的に採取しつつ,歯肉浸潤麻酔を行う試行と行わない試行を設定し,唾液中ストレスホルモンであるコルチゾールおよびクロモグラニンAの濃度変化を分析することで,疼痛刺激が唾液中ストレスホルモン濃度に与える影響を検討した.被検者として,健康な健常有歯顎者8名を用いた.実験は3日間行い,1日目は実験説明日とし,2日目と3日目に浸潤麻酔日とコントロール日をランダムに割り当てた.実験説明日は実験内容の説明と実験環境への順応を目的とした.コントロール日と浸潤麻酔日は同一時刻に実験を開始し,被検者を水平位にて10分間安静に保った後2分間の唾液採取と8分間の安静期間を交互に6回繰り返した.浸潤麻酔日においては,2回目の唾液採取直前である,安静開始後19分15秒から45秒までの30秒間,上顎中切歯歯肉頬移行部に浸潤麻酔を行った.採取した唾液は直ちに-50℃にて凍結し,ホルモン濃度を測定するまで保存した.濃度分析は凍結した唾液を解凍した後,3000rpmで30分間遠心分離し,EIA法にて測定した.統計解析として,危険率10%で浸潤麻酔の有無および時間を因子とした反復測定分散分析を行った.また,被検者ごとに異なる変化パターンを統合的に比較するため,各試行における変動係数を求め,危険率10%で浸潤麻酔の有無について対応のあるt検定を行った.分析の結果,歯肉浸潤麻酔による疼痛刺激は唾液中コルチゾール濃度およびクロモグラニンA濃度を上昇させるほど大きなストレスではないことが明らかとなった.また,唾液中コルチゾール濃度の経時的減少は水平位による安静効果がもたらしたと推察された.そして,経時的測定を行った唾液中コルチゾール濃度の変動係数を比較することで,歯肉浸潤麻酔によるストレスを評価できる可能性が示唆された.
著者
重松 佳樹 川崎 弘二 神原 正樹
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.287-295, 2000-12-25
参考文献数
39
被引用文献数
1

ヒトの平均寿命(ゼロ歳平均余命)の延びに歯がどのように寄与しているのかを明らかにするため, 歯の平均寿命の年次推移について検討を加えた.ヒトの平均寿命および歯の平均寿命の年次推移は, 戦後どの年度においてもヒトの平均寿命は女性の方が男性に比べて長いのに対し, 歯の平均寿命はいずれの歯種においても女性の方が短かった.歯の平均寿命を歯種別に比較すると, 第二大臼歯が最も平均寿命が短く, 犬歯が最も長いという結果であり, 歯種による平均寿命の差は約14年であった.このことにより, 歯の平均寿命を配慮した歯種別保健指導の重要性が示された.また, ヒトの平均寿命および歯の平均寿命を平成5年の結果で比較すると, 男性では最も平均寿命の長い犬歯でヒトの平均寿命(76.2歳)と比較して約5年平均寿命が短く, 最も平均寿命の短い第二大臼歯では約20年も歯のない期間が存在することが明らかとなった.さらに, 女性においてはヒトの平均寿命(84.0歳)と歯の平均寿命の差が大きく, 犬歯で約14年, 第二大臼歯で約28年の差が認められ, 無歯で過ごす期間が男性に比べ長いことがわかった.つぎに, 昭和62年から平成5年までのヒトの平均寿命と歯の平均寿命の延び率を比較すると, ヒトの平均寿命の延び率に対し, 歯の平均寿命の伸び率は約2倍であった.これらの結果より, ヒトの平均寿命に対し女性の歯の平均寿命が短い原因の究明, 口腔保健指導および予防プログラムを各年齢階級別および歯種別に構築する必要があること, 歯の平均寿命の推移に関わる歯科医療および歯科保健状況の解明が, 今後の歯科保健施策の立案に必要であることが明らかとなった.
著者
川村 広
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.g99-g100, 1993

小児歯科保健教育の充実化に伴い, 小児の咬合咀嚼の発育と発達に関して, 改めて問われている. なかでも, 乳歯列期の咬合型の発育変化についての報告は数みられるが,いずれも乳歯萌出期の1歳から咬合完成期の5歳までを同一集団で追跡したものはない. 今回, 本研究では, 1歳の誕生日から5年間継続して定期検診を受診し, う蝕予防処置および歯科保健指導を受け続けた集団(男児202名, 女児219名, 合計421名)の咬合型の発育変化を追跡調査した. また, 第二乳臼歯が萌出し咬合位が決定した正常咬合児について, 第二乳臼歯の最大咬合力を測定すると同時に, 厚さが1mmおよび3mmの2種類のバイトワックスをそれぞれ最大咬合力で約3秒間咬合させ, 咬合印記点の厚みを測定した. その結果, 咬合型は正常咬合, 過蓋咬合, 上顎前突, 反対咬合, 切縁咬合, 交叉咬合および開咬の7型に分類された. いずれの年齢においても各咬合型の出現頻度は, 正常咬合が50%以上であり, ついで過蓋咬合, 上顎前突の順であった. また性差は認められなかった. 発育に伴う各咬合型の推移には, 同一咬合型を継承する継承型と他の咬合型へ変化する移行型を認めた. たとえば正常咬合からは正常咬合への継承型と, 過蓋咬合, 上顎前突, 反対咬合, 切縁咬合, 交叉咬合または開咬へと正常咬合以外のすべての咬合型へ移行する移行型を認めた. なお, 正常咬合以外のすべての咬合型からは, すべての年齢において, 正常咬合へ移行する可能性のあることが示された. 1歳における咬合型がどれだけの期間継承され, 4年後の5歳における咬合型とどう関係しているかについては, 正常咬合, 過蓋咬合, 上顎前突および反対咬合の継承期間は1年のものが最も多く, そのため5歳では他の咬合型へ移行するものも多く認められるが, 同一咬合型を4年間継承したものは5歳まで継承する率が高かった. また, 1歳におけるすべての咬合型は, 5歳時には正常咬合に移行する可能性を認めた. 正常咬合型の3歳から5歳までの第二乳臼歯の咬合力は, 歴齢の平均体重を上まわる値を示し, 加齢的な増大を認め, 3歳と5歳との間には200%以上の増大があった. しかし,同年齢児においても最小値は最大値の約1/3であった. バイトワックス上の咬合印記点は, 厚さが1mmおよび3mmのバイトワックスにおいてすべて確認された. またすべての歯の各咬合印記測定点の噛み込み印記量(平均値)はいずれも加齢的に減少し, 年齢差が有意に認められた. 1mmのバイトワックス上では, 上下顎の歯の咬合接触点および噛み込み量の加齢的減少は, どの年齢においても認められた. 3mmのバイトワックス上では, 咬合力の加齢的な増加があって噛み込み量はそれとともに減少したが, どの年齢児においても上下顎の歯の咬合接触点は確認できなかった. しかし, 3mmのバイトワックスを100%噛みしめることができなかった現象は, 乳歯列期における10mesh篩咀嚼効率が5歳までは100%にならないという報告と矛盾するところはない. 以上のことから, 乳歯列期の歯科的健康管理にあたっては, 正常咬合の咬合力は加齢的な増加を認めるが, 咀嚼機能や咬合型は定型であることは少なく, つねに変動していることをよく理解して対処すべきであることが示唆された.
著者
池田 直也 内田 愼爾 井上 宏
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.77-89, 1999-06-25
被引用文献数
1

バイトプレート上における咬合接触状態の変化が,開閉口運動と開閉口筋活動に及ぼす影響を観察するため,下顎両側臼歯部歯列を覆う実験用バイトプレートを作製し,上顎臼歯部の左右機能咬頭を8点接触させるよう調節した(AL).この状態からバイトプレート上の咬合接触点を7__-6__-5__-&mid;5__-6__-7__-,7__-6__-&mid;6__-7__-,6__-&mid;6__-,6__-&mid;接触と変化させていき,各接触状態でopen-close-clench cycleを行わせた.この時の外側翼突筋下頭(Lpt),顎二腹筋削腹(Dig),咬筋(Mm)からの筋電図を,MKG下顎切歯点運動とともに記録し,下顎運動とEMGの時間的要素,筋活動要素,開閉口経路,閉口時終末顎位の分析から,次のような結果を得た. Cycle time,各筋のdurationおよびintervalは,おおむね咬合接触の減少とともに短縮した.平均開口加速度はAL接触から6__-&mid;6__-接触まで有意に増加したが,6__-&mid;接触で再び低下した.変異係数(CV)の観察では,cycle timeのCV値には接触点の変化による変動が見られなかった.durationのCV値は,開口筋,MmともにALでは低い値を示し,接触点が変わると変動したが,その傾向は筋間で異なった.積分値は開口筋,Mmとも接触点の減少により低下する傾向を示した.開閉口経路は,接触点の変化により変化しなかった.切歯点の閉口時終末点平均値は,接触点の変化によって,左右,前後方向とも有意に変動しなかったが,そのばらつきを示す標準偏差(SD)は,6__-&mid;接触時に他の接触条件に比べて左右方向で有意に増大した. 以上の結果より,AL接触は開閉口リズムは遅いものの規則性に優れており,接触点の減少によって開閉口運動に要するエネルギーは少なくなり,開閉口速度は速くなるがリズム性は乱れる可能性が示唆された.特に片側性の接触では,リズムばかりでなく,終末顎位にも影響を及ぼすことが示された.
著者
布川 隆三 川本 達雄
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.325-338, 1990
被引用文献数
9

矯正歯科臨床分野において, 成長発育期の患者に対して, より効果的な顎の垂直的な成長コントロールを行うのに, ヘッドギアーと併用して嚥下時舌圧を利用したパラタルバーが使用されている. そのパラタルバーが上顎骨に及ぼす作用を調べるために, 成人および小児乾燥頭蓋骨各1体を試料とし, ストレインゲージ法を用いて力学的実験を行った. その結果, ストレートとカーブの2つのタイプのパラタルバーに荷重を加えた場合, 以下に示すような結論を得た.<br> 1) 上顎骨の歯槽骨頬側板における歪分布は, パラタルバーのタイプによって異なるが, 成人および小児頭蓋を問わず, ストレートタイプでは上顎第一大臼歯を中心とする側方歯の歯槽骨頬側板において, 咬合平面に対して垂直方向の圧縮歪が認められた. それに対して, カーブタイプでは同部位における圧縮歪は前者よりも小さい値を示した.<br> 2) 歯槽骨舌側板での歪分布は, 成人および小児頭蓋において, ストレートタイプでは上顎第一大臼歯を中心とする側方歯の歯槽骨舌側板で, 咬合平面に対して垂直方向の圧縮歪が認められた. それに対して, カーブタイプでは同部位における圧縮歪は前者よりも大きい値を示した.<br> 3) 小児頭蓋ではパラタルバーのタイプを問わず, ヘッドギアーの後上方牽引時のような反時計まわりの回転に近い上顎骨の変形が認められた.<br> 4) 成人および小児頭蓋ではパラタルバーのタイプを問わず, 上顎骨に隣接する周囲骨にも歪が及んでいた.<br> 以上の結果から, パラタルバーは成長発育期のII級I類不正咬合および下顎下縁平面角の大きい不正咬合の患者に対してヘッドギアーと併用することによって, 上顎第一大臼歯を中心とする側方歯群の歯槽骨の垂直的な成長コントロールが行える. また, 成人に使用した場合も, 顎間ゴムなどの矯正力による上顎第一大臼歯の提出および近心移動などに抵抗する固定源の加強として役立つことが示唆された.
著者
上田 善弘
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.g15-g16, 1995-08-25

根管充填用シーラー(シーラーと略)には緊密な根管封鎖性と高い組織親和性が求められる. さらに, 根尖孔を硬組織で封鎖させる作用を有することが理想的とされている. 最近, リン酸カルシウムの硬組織誘導能と高い組織親和性が注目され, リン酸カルシウムを主成分とする新しいシーラーの研究, 開発が進められている. 今回, α-リン酸三カルシウム(α-TCP)とクエン酸/タンニン酸溶液を主な成分とする2種類と, リン酸四カルシウム・リン酸水素カルシウム等モル混合物(TeDCPD)と低濃度クエン酸溶液からなる1種類のシーラーを試作した. そして, これらの物性と組織刺激性を検索し, 臨床応用の可能性を検討したのでその結果を報告する. 実験材料および方法 試作シーラー-1 (NS-1)の粉剤は70% α-TCP/30% TiO_4で, 液剤は35%クエン酸/5%タンニン酸溶液, 試作シーラー-2 (NS-2)の粉剤は85% α-TCP/15% BaSO_4で液剤は35%クエン酸/5%タンニン酸溶液である. また, 試料シーラー-3 (NS-3)の成分はTeDCPDと増粘剤および防腐剤を含む2.1%クエン酸溶液である. 対照には市販の酸化亜鉛ユージノール系シーラー(ZOE)とリン酸カルシウム系シーラー(ARS)を用いた. 試料シーラー練和後のpH, 硬化時間, 崩壊率を測定して物性を検討するとともに, エックス線回折(XRD)による硬化体内反応物の同定を行った. また, 根管を拡大・形成(#70)したヒト抜去上顎中切歯40歯に各シーラーをレンツロで根管に填入し, 一部を液体窒素中で凍結, 割断し根管壁とシーラーの界面および硬化後のシーラー内部の観察のために走査型電子顕微鏡(SEM)の検索に供し, 残りは墨汁に浸漬したあとに根管封鎖性試験に用いた. さらに, 試作シーラーの組織刺激性試験を Sprague Dawleyラット背部皮下組織と根尖歯周組織で行った. すなわち, 30匹のラット背部皮下に各シーラーを埋入した1および4週後の, また, 別の75匹のラットで下顎左右側第一臼歯根管の抜髄と根管拡大・形成(#25)を行い, 各シーラーを充填した. その後, 1, 2, 3, 4および5週後の組織反応について, それぞれ通法に従って作製した6μmの連続切片(ヘマトキシリン・エオジン染色)にて病理組織学的に検索した. 結果・考察 液剤が練和後のpHに強く影響し, NS-1, NS-2およびARSは酸性を示し, NS-3のみが中性域にあった. また, 根管封鎖性は試作シーラー, なかでもNS-3が有意に優れていた. 硬化時間はすべてのシーラーで有意差が認められ, NS-2の硬化が最も早く, ARSが最も遅かった. 崩壊率はNS-1とNS-2は3%を超え, ARSも約3%であったが, NS-3は約0.9%で優れた結果を示した. TiO_2やBaSO_4の添加が硬化時間の遅延および崩壊率の増加に関係すると思われる. 練和後14時間のXRDでは, NS-1とNS-2にハイドロキシアパタイト(HAp)が検出されず, α-TCPとTiO_2あるいはBaSO_4が検出されたのみであった. NS-3では低結晶性がHApがおもに検出された. SEMでの観察の結果, NS-1とNS-2には貫通性の小孔が存在し, NS-3には板状と塊状の粒子で満たされた小孔が存在した. XRDとSEMの結果から, NS-3の優れた封鎖性が確認された. 組織刺激性はNS-2が最も強く, 高い酸性度とBaSO_4の影響が示唆される結果が得られた. 結論 1. NS-1は強い酸性を示したが組織刺激性は緩徐で, 新規シーラーとして応用できる可能性が認められた. 2. NS-2は強い組織刺激性を示し, 新規シーラーとして不適当であると結論された. 3. NS-3は凝結硬化するために初期にマクロファージ系細胞を誘導するが, 優れた生体親和性を有することが確認された. さらに, NS-3は崩壊率が小さく, pHも中性域にあることから, 新規シーラーとして有望であると判断された.
著者
岩崎 精彦
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.g59-g60, 1990

硬, 軟両食品咀嚼時の頭蓋の力学的反応の違いと頭蓋の成長, 発育との関連性を明らかにすることが, この研究の目的である. 立位に固定した麻酔下の成熟期 (体重 : 7.0〜10.4kg) および幼年期 (体重 : 2.3〜2.7kg) の日本ザルの下顎骨の両側の臼歯部骨体部ならびに両側の上顎骨の臼歯部骨体部, 頬骨弓前部, 頬骨弓後部, 側頭骨鱗部, 頭頂骨中央部および側頭骨顎関節周辺部の合計14か所に三軸ストレインゲージを貼付し, 両側の咬筋を同時に電気刺激して収縮させ, 咬合, 咀嚼させた. なお, 電気刺激の強さは, 咬合時の両側咬筋ならびに硬食品 (クッキー) および軟食品 (マシュマロ) 咀嚼時の左側 (咀嚼側) 咬筋においては60V, 食品咀嚼時の右側 (非咀嚼側) の咬筋は30Vである. 咬合時に対する咀嚼時の全総主ひずみ量 (咀嚼時に咀嚼側と非咀嚼側との頭蓋各骨に生ずる主ひずみ量の総和) の百分率は, 硬食品咀嚼時には成熟期頭蓋と幼年期頭蓋とではほとんど差は認められないが, 軟食品咀嚼時には幼年期頭蓋のほうが小さい. 咬合時に対する咀嚼側頭蓋総主ひずみ量 (咀嚼時に咀嚼側頭蓋の各骨に生ずる主ひずみ量の総和) の百分率については, どちらの食品を咀嚼しても, 両頭蓋間にそれほど差が認められないかあるいは差が認められたとしてもその差はわずかである. それに対して, 咬合時に対する非咀嚼側頭蓋総主ひずみ量の百分率は, 幼年期頭蓋のほうが硬食品咀嚼時では大きく, 軟食品咀嚼時では著しく小さい. すなわち, 硬食品咀嚼においては, 非咀嚼側頭蓋にはその発育を促すのに必要なだけの大きさの咀嚼力が加わっているのに対して, 軟食品咀嚼時には加わらない. したがって, 摂取食品の性状による頭蓋の力学的反応の悪影響は, 軟食品咀嚼時において, とくに幼年期の非咀嚼側の頭蓋に現われる. 咀嚼時には, 咀嚼物質の大きさや性状等によって頭蓋各骨に加わる咀嚼力の方向, したがって主ひずみの方向が咬合時と異なる骨とまったく差異の認められない骨とがある. 前者の骨は, 幼年期頭蓋のほうに多く認められる. このことから, 成熟期頭蓋のほうが応力が集中しやすいことがわかる. また, 頭蓋各骨における咀嚼時の主ひずみ量が咬合時に比べて増加する骨は, 軟食品咀嚼時よりも硬食品咀嚼時のほうが, また幼年期頭蓋よりも成熟期頭蓋のほうが多い. 頭蓋各骨における咀嚼時の主ひずみ方向の変動および主ひずみ量の増大についての以上の知見から, 成熟期頭蓋においては咀嚼時には個々の骨がそれぞれ単独に, これに対して幼年期頭蓋では頭蓋を構成するすべての骨が一塊として, 咀嚼力を緩衝していることがわかる. 非咀嚼側の頬骨弓は, 咀嚼力の緩衝作用に対して重要な働きをしている. すなわち, 頬骨弓の主ひずみ量は, 軟食品咀嚼時の幼年期非咀嚼側頬骨弓における場合を除いては, 他の頭蓋各骨よりも著しく大きい. また, その主ひずみの方向は非咀嚼側頬骨弓では変わりやすく, 咀嚼側頬骨弓では変わりにくい. 量と方向とについての以上の現象から, 非咀嚼側の頬骨弓は第2級のてこの作用が十分に発揮されるように, 機能していることが証明される. しかし, 幼年期の非咀嚼側頬骨弓は, 軟食品咀嚼時には主ひずみの方向は変わりやすいが, 主ひずみ量が大きくないから, 第2級のてこの作用は発揮されない. なお, latency time, peak time, restoration timeおよびひずみ波形のパターンを測定し, 粘弾性体としての頭蓋各骨の力学的モデルは三要素モデルによって説明できると判断した.
著者
上り口 晃成 井上 宏 森本 兼曩
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.48-54, 2003-03-25
参考文献数
27
被引用文献数
7

本研究の目的は,唾液を非侵襲的に採取し,そのコルチゾール濃度を分析することで,歯科処置によるストレス反応に治療内容の詳細な説明と来院の繰り返しが与える影響を検討することにある.被検者は,専門的な医学的知識をもたない者を対象に本研究の主旨を説明し,実験協力の同意を得たボランティア18名(男性16名,女性2名,平均年齢20.3歳)を用いた.実験手順として,まず被検者を診療室に入室させ,実験の説明を行い,同意を再確認した.説明群には実験器具をすべて見せながら詳細な手順を説日し,非説明には実験の概略のみを説明した.次に,SpielbergerのSTATE-TRAIT ANXIETY INVENTORY(以後STAIとする)および不安に関するVisual Analogue Scale(以後VASとする)を記入させた.そして水平位にて歯科処置を行い,唾液を採取し,再度VAS、STAIを記録した.歯科処置として,□腔内診査,上顎中切歯部歯肉への浸潤麻酔,下顎歯列の超音波スケーリング,上顎のアルジネートによる印象採得を順に行った.統計解析の結果,コルチゾール濃度のCV値は,非説明群が説明群と比べて有意に高い値を示した.また,非説明群において第1日目のCV値が高<,第2日目にかけて減少する傾向がみられた.STAIの状態不安スコアに関しては開始時が終了時よリ,また第1日目が第2日目より有意に高い値を示した.不安に開するVAS値は説明の有無と来院回数間に交互作用がみられ,非説明群において第1日目が第2日目よリも有意に高い不安VAS値を示した.さらに,不安に関するVAS値と疼痛に関するVAS値はともに同一処置への来院の繰り返しによって低下することが示された.以上の結果から、歯科処置によって生じるストレス反応は,来院回数によって慣れが生じて減少するとともに,ストレスの軽減には詳細な処置内容の説明が有効であることが明らかとなった.
著者
吉岡 正晴 杉村 忠敬
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.183-197, 1994
被引用文献数
4

&emsp;咬合力に対する頸椎の力学的反応を解明する目的で, 麻酔下の成熟日本ザルの両側の咬筋を電気刺激して, 咬合させたときおよび片側の犬歯あるいは第一大臼歯で3, 7および10mmの物質を噛ませたときの各頸椎の左右の椎弓板のひずみを測定した. <br>&emsp;作業側では犬歯で木片を噛ませたときには第二頸椎が, 第一大臼歯で噛ませたときには第四頸椎が, 非作業側では木片を犬歯で噛ませたときでも第一大臼歯で噛ませたときでも, 第三頸椎と第七頸椎とが, 噛むことによって頚椎が片側に傾斜するのを防ぐ支点としての役割を果たしている. <br>&emsp;犬歯で木片を噛ませると, 頸椎の上部は収縮し下部は伸展する. そして, 中間部は上部と下部との変形のバランスをとるために作業側が伸展し非作業側は収縮する傾向がある. これに対して, 第一大臼歯で木片を噛ませると, 木片が厚くなればなるほど作業側ではほとんどの部位が体軸方向に伸展し, 非作業側では頸椎の多くが水平方向に伸展(圧迫)する. <br>&emsp;また, 犬歯あるいは第一大臼歯でどの厚さの木片を噛ませても, 第六頸椎の非作業側には応力が集中する傾向がみられた. しかし, 頸椎には顔面や頭蓋を構成している骨よりも応力を分散させることを示唆するひずみ波形が多く認められることから, 咬合や咀嚼運動時には, 各頸椎はそれぞれの位置や形状に応じて変形して, 応力を巧妙に分散していると考えられる.
著者
井上 博
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.62-63, 2000-06-25

歯周炎などの炎症歯周組織には, リンパ球をはじめとする免疫担当細胞の浸潤が認められることにより, 局所的免疫反応が歯周疾患発症の要因であると考えられる.NK細胞は, CD16を介した抗体依存性細胞傷害活性を発揮し, また, IL-2刺激に応じて活性化や増殖を行うことにより, 炎症病変の形成と進展に関与していると考えられる.NK細胞による標的細胞の認識は, 非自己認識(標的細胞)による活性化シグナルと, 自己認識による抑制性シグナルとの微妙なバランスのよって決定されていると考えられる.したがって, 両者の調節機構を明らかにするためには, NK細胞上の各レセプターのシグナル伝達経路を明らかにする必要がある.今回私は, NK細胞活性化におけるCD2とIL-2を介したシグナル伝達経路を解析し, 両刺激による細胞増殖への協調効果との関連について検討した.実験材料および方法 1)ヒトIL-2依存性NK様細胞株, NK3.3細胞を2nMのリコンビナントIL-2添加RPMI1640培地で継代培養した.2)NK細胞を各種抗体を固相化したプレートに播種し, IL-2存在下に37℃, 5%CO_2条件下で72時間培養した.細胞増殖能は, WST-1溶液(20μL / well)をプレートに加え37C, 5%CO_2下で3時間呈色反応させ, プレートリーダーを用いて波長405nm(対照波長:630nm)で測定した.3)NK細胞を各種抗体で処理後, polystyrene beadsに固相化した二次抗体を用いて, IL-2の存在下あるいは非存在下で架橋刺激後, 細胞溶解液で可溶化した.抗Syk, 抗Shc, 抗Cbl, 抗Grb2抗体でそれぞれ免疫沈降を行い, SDS-PAGEによる電気泳動後, ナイロン膜上に転写した.ナイロン膜を抗チロシンリン酸化抗体で処理し, ECLシステムを用いてレントゲンフィルムに感光させチロシンリン酸化バンドを検出した.4)前述の様に細胞刺激後可溶化し, GST-Grb2 fusionタンパクを加え4℃で2時間反応させ細胞溶解液上清中のGrb2とGST-Grb2 fusionタンパクとを結合させたのち, 抗GST抗体で免疫沈降した後, 前述の方法でチロシンリン酸化バンドを検出した.結果および考察 1)NK細胞の増殖活性は, 固相化抗CD2抗体による架橋刺激とIL-2との協調刺激により, IL-2単独時に比べ有意に増加した.2)CD2架橋刺激によりSykの強いチロシンリン酸化が誘導されたが, IL-2やIL-12刺激では認められなかった.3)Shcのチロシンリン酸化はCD2架橋刺激およびIL-2両者により誘導されたが, Cblのチロシンリン酸化はおもにCD2架橋刺激により増強した.4)CblとGrb2との結合は, 刺激の如何に関らずGrb2のN末端側SH3ドメインを介して認められた.一方, ShcとGrb2との結合はGrb2のSH2ドメインを介して起こっており, CD2架橋刺激およびIL-2依存性に認められた.IL-2とCD2の協調効果により, NK細胞の増殖活性が亢進した機序は, 1)IL-2刺激によるLckの活性化とCD2刺激によるSykの活性化が協調してShcのチロシンリン酸化を増強し, Grb2との結合を介してRasを活性化した可能性, 2)IL-2によるShc-Grb2のシグナル経路とCD2によるCbl-Grb2のシグナル経路とが協調し, Rasを活性化した可能性が考えられる.これらのシグナル伝達機構やその相互作用についてはまだ不明な点が多く, 今後さらに分子レベルでの解析が進められ歯周病の発症機構が解明されることにより, 有効な治療法の開発に至るものと考える.
著者
李 賛榮
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.g43-g44, 1990

最近のコンポジットレジン修復はエナメル質のみならず, 象牙質に対して接着性を有することが求められている. そこで私は, 新しく試作した4-META系デンチンボンディングシステムの象牙質接着性を検討するとともに, 歯髄に対する病理学的反応をニホンザルを用いて検索し, 臨床応用に際して2, 3の問題点をも指摘することができた. 実験1. 試作ボンディングシステムの象牙質接着性について 試作ボンディングシステムMETAFIL Iを用い, 被験歯は抜去後直ちに4 ℃生理食塩水中に浸漬保存し, 数か月経過のヒト大臼歯を使用した. エッチング剤は20%リン酸溶液 (20-P), 25%リン酸溶液 (25-P), 40%リン酸ゲル (40-P), 10%クエン酸と3%塩化第二鉄混合液 (10-3)と, pH7.4に調整した0.5M・EDTAの5種を用いた. エッチング後のプライマーは, GLUMA (10%Glutaraldehyde+35% Hydroxyethyl-methacrylate) を用いた. コンポジットレジンはClearfil New Bondを用いるときは化学重合型のClearfil Posteriorを, 4-META系の場合は光重合型のMETAFIL Iを用いた. 実験結果 1. 象牙質に対する接着強さは, 一般的に従来の象牙質ボンディング剤に比べて同等かまたはそれ以上の値を示した. 2. 酸処理剤としては40-P以外に10-3が適していた. 3. プライマーとしてのGLUMAとの組み合わせについては, とくに効果をみなかった. 実験2. 試作ボンディングシステムの歯髄反応 用いた修復剤は実験1に用いたものと同様である. ただし, ボンディング剤を適用する前の酸処理については, エナメル質には30-Pを, 象牙質には4.5%EDTA/Fe・Na水溶液を用いた. 実験に供した動物はニホンザル雌雄各5匹 (体重10〜15kg) で, 犬歯を除く上下顎前歯 (総計40歯, 実験歯20, 対照歯20) を使用した. 通法により頬側歯頚部に5級窩洞を形成し, ベベル形成後, 通法に従ってコンポジットレジン充填を施し, 対照歯には水酸化カルシウム製剤およびリン酸亜鉛セメントを使用した. 観察期間は充填後1週間および12週間とした. 反応の程度はADA, FDI/ISOの診断基準に従って確認した. 実験結果 1. 歯髄刺激は従来品のコンポジットレジン修復材と同程度か, それよりやや少ない程度のものであった. 2. 歯髄刺激の反応結果と考えられる修復象牙質の添加が, コントロールに比較してやや多いようであっだが, この原因が歯髄刺激の持続性にあるかどうかは不明で, 重篤な為害作用も認められず, 臨床応用には問題ないと考える.