- 著者
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川村 広
- 出版者
- 大阪歯科学会
- 雑誌
- 歯科医学
- 巻号頁・発行日
- vol.56, no.2, pp.g99-g100, 1993
小児歯科保健教育の充実化に伴い, 小児の咬合咀嚼の発育と発達に関して, 改めて問われている. なかでも, 乳歯列期の咬合型の発育変化についての報告は数みられるが,いずれも乳歯萌出期の1歳から咬合完成期の5歳までを同一集団で追跡したものはない. 今回, 本研究では, 1歳の誕生日から5年間継続して定期検診を受診し, う蝕予防処置および歯科保健指導を受け続けた集団(男児202名, 女児219名, 合計421名)の咬合型の発育変化を追跡調査した. また, 第二乳臼歯が萌出し咬合位が決定した正常咬合児について, 第二乳臼歯の最大咬合力を測定すると同時に, 厚さが1mmおよび3mmの2種類のバイトワックスをそれぞれ最大咬合力で約3秒間咬合させ, 咬合印記点の厚みを測定した. その結果, 咬合型は正常咬合, 過蓋咬合, 上顎前突, 反対咬合, 切縁咬合, 交叉咬合および開咬の7型に分類された. いずれの年齢においても各咬合型の出現頻度は, 正常咬合が50%以上であり, ついで過蓋咬合, 上顎前突の順であった. また性差は認められなかった. 発育に伴う各咬合型の推移には, 同一咬合型を継承する継承型と他の咬合型へ変化する移行型を認めた. たとえば正常咬合からは正常咬合への継承型と, 過蓋咬合, 上顎前突, 反対咬合, 切縁咬合, 交叉咬合または開咬へと正常咬合以外のすべての咬合型へ移行する移行型を認めた. なお, 正常咬合以外のすべての咬合型からは, すべての年齢において, 正常咬合へ移行する可能性のあることが示された. 1歳における咬合型がどれだけの期間継承され, 4年後の5歳における咬合型とどう関係しているかについては, 正常咬合, 過蓋咬合, 上顎前突および反対咬合の継承期間は1年のものが最も多く, そのため5歳では他の咬合型へ移行するものも多く認められるが, 同一咬合型を4年間継承したものは5歳まで継承する率が高かった. また, 1歳におけるすべての咬合型は, 5歳時には正常咬合に移行する可能性を認めた. 正常咬合型の3歳から5歳までの第二乳臼歯の咬合力は, 歴齢の平均体重を上まわる値を示し, 加齢的な増大を認め, 3歳と5歳との間には200%以上の増大があった. しかし,同年齢児においても最小値は最大値の約1/3であった. バイトワックス上の咬合印記点は, 厚さが1mmおよび3mmのバイトワックスにおいてすべて確認された. またすべての歯の各咬合印記測定点の噛み込み印記量(平均値)はいずれも加齢的に減少し, 年齢差が有意に認められた. 1mmのバイトワックス上では, 上下顎の歯の咬合接触点および噛み込み量の加齢的減少は, どの年齢においても認められた. 3mmのバイトワックス上では, 咬合力の加齢的な増加があって噛み込み量はそれとともに減少したが, どの年齢児においても上下顎の歯の咬合接触点は確認できなかった. しかし, 3mmのバイトワックスを100%噛みしめることができなかった現象は, 乳歯列期における10mesh篩咀嚼効率が5歳までは100%にならないという報告と矛盾するところはない. 以上のことから, 乳歯列期の歯科的健康管理にあたっては, 正常咬合の咬合力は加齢的な増加を認めるが, 咀嚼機能や咬合型は定型であることは少なく, つねに変動していることをよく理解して対処すべきであることが示唆された.