- 著者
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小俣 謙二
- 出版者
- 学校法人滝川学園 名古屋文理大学
- 雑誌
- 名古屋文理短期大学紀要 (ISSN:09146474)
- 巻号頁・発行日
- vol.23, pp.41-51, 1998-04-01 (Released:2019-07-01)
犯罪の環境心理学的研究は, 従来, 犯罪者の人格特性などの主体的要因の分析を主におこなってきた.とくにわが国の場合こうした傾向が強いように思われる.しかし, 行動は通常主体と環境の相互作用の結果として生じるのであり, 犯罪もその例外ではない.このような立場から本研究ではまず, 従来の犯罪研究において環境の関与がどの程度明らかにされてきたのかを概観した.その際, 環境を巨視的環境と微視的環境の二つに分け, それぞれについて概観した.その結果, 所見の不一致や犯罪の分類の不十分さなど, 多くの課題が残されていることを指摘した.次に, わが国の場合, 実証的な研究そのものが不足していることから, 犯罪環境として最もしばしば言及される人口密集と犯罪の関係を都道府県単位で検討した.とくに, 今回の分析では密集を周辺環境の密集と住居内の密集に区分すること, 社会変動の影響の検討も含めて継年的な分析をおこなうことに主眼をおいた.その結果, 人口密集でも, 周辺環境の密集の指標である人口密度は犯罪認知総数, 窃盗, 強盗, 粗暴犯と関連するのに対して, 住居内密集の指標である一人当たりの畳数は殺人と強盗と関連するという違いがみられた.また, 人口密集や求人倍率, 都市公園面積, 転入率などの環境要因は年とともに相関関係が強くなること, 住居内密集度では1980年代後半以降に総数や窃盗との関係が弱まること, 知能犯はバブル景気の時期に当たる1980年代後半の一時期に密集の二つの指標や求人倍率と関連することなど, 年による変化もみられた.これらを踏まえて, 犯罪と環境の問題に関する今後の研究の課題と問題点を指摘した.