著者
小川 和孝
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.39-51, 2016 (Released:2016-08-06)
参考文献数
23
被引用文献数
1

本論文の目的は,通常の回帰分析で注目されているグループ間の不平等にくわえ,グループ内の不平等を明示的にモデル化した分析を行うことである.グループ内の分散の異質性に注目することで,どのような社会的属性を持つ人々がより不安定な状況に置かれているのかが分析の関心となる.従属変数の条件付き期待値と残差分散に対してそれぞれ共変量ベクトルを設定し,それらのパラメータを同時推定するモデルを用いる.データは,「社会階層と社会移動全国調査」の1995年調査A票および2005年調査であり,従属変数には個人収入および世帯収入の対数値を用いる.分析の結果,男女ともに正規雇用者や既婚者は収入の平均が高いだけではなく,それぞれのグループ内部での収入のばらつきが小さいことが明らかにされる.これらは日本の社会制度の特徴とされてきた「男性稼ぎ主型」モデルが想定してきた人々において,収入の安定性が大きいことを示唆する.本論文の知見は,これまでの社会階層研究やライフコース研究において重要な問いではありながらも直接的に検証が行われてこなかった,リスクや不安定性について新たな視点を導入した.
著者
中田 知生
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.57-72, 2008-06-30 (Released:2008-08-11)
参考文献数
38
被引用文献数
2 7

本研究の目的は、高齢期における主観的健康の悪化や退職のプロセスと教育の関係を、潜在成長曲線モデルから明らかにすることである。「Longer life but worsening health仮説」、すなわち、高齢期において、健康悪化が急激に起こるか、もしくは緩やかに起こるかが社会的地位としての教育の程度によって異なるかを検証した。用いたデータは、「老研-ミシガン大全国高齢者パネル調査」のウェーブ1から3までである。潜在成長曲線モデルを用いた分析の結果、以下が明らかになった。(1)教育は、主観的健康の悪化に対しても退職のプロセスに対しても効果を持っていない、(2)女性と比較して男性ほど、年齢が上昇するにつれて主観的健康が急激に悪化する、(3)ウェーブ1調査時における高い健康が、長く就労を続けることに影響を持っており、また、就労つづけていることは、急激な主観的健康の悪化を押さえることに対しても効果を持つ。これらのように、横断的調査では明らかにできない主観的健康および退職のプロセスと教育の関係の一端が明らかになった。
著者
有田 伸
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.69-86, 2013 (Released:2014-09-01)
参考文献数
12

本稿では,パネルデータを分析するために広く用いられている固定効果モデルなどの手法が置いている諸仮定を確認した上で,独立変数の変化(または非変化)の内容を詳細に区別しうる代替的なモデルを築くことで,それらの仮定を緩めた分析の可能性を探る.カテゴリカルな変数を独立変数とする固定効果モデルを事例として,変数の「変化」に焦点を当てて考えれば,一般的な固定効果モデルは変化の向き・経路と非変化時の状態の違いを区別しておらず,これらの違いが独自の効果を生み出す可能性は考慮されない.しかしこのような想定は現実的には満たされない可能性もあることから,本稿では,「(独立変数の)変化が(従属変数の)変化をもたらす」という立場に立ちつつ,一階差分モデルを利用してこれらの仮定を緩め,変化の向き・経路と非変化時の状態の違いがもたらす独自の効果を捕捉することを試みる.さらにこの手法を,従業上の地位が個人所得に及ぼす影響の分析にあてはめると共に,現実的にはどのような場合に従来のモデルの仮定を緩める必要が生じるのか,事象の発生メカニズムと関連付けた考察を行い,この手法の意義と適用時の留意点を検討する.
著者
浜田 宏
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.259-276, 2012 (Released:2013-08-12)
参考文献数
29

重回帰分析に代表される説明変数の線形結合モデルは,その適用において単純な数式による真の関係の近似という以上の積極的な根拠を従来持っていなかった.本稿では特定の条件下で,社会学的仮定から導出された数理モデルによって,線形結合モデルが基礎づけられることを示し,計量分析で用いられる統計モデルに対して,単なるあてはめではない理論的な根拠を与えることを目指す.具体的には階層帰属意識研究におけるFararo-Kosakaモデルと地位継承モデルが重回帰モデルの基礎付けとなり得ることを示し,階層帰属意識研究という文脈における,計量モデルと数理モデルの統合的な発展の条件を検討する.
著者
中澤 渉
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.23-40, 2012 (Released:2013-03-18)
参考文献数
48
被引用文献数
5

本稿では,日本ではまだ利用例の少ないパネル・データ分析が,社会学においてなぜ重要なのかが説明される.回顧法の調査でも時系列データをつくることはできるが,曖昧な記憶による不確実な回答で信頼性が低下したり,サンプルの選択バイアスが生じるという問題がある.特に社会科学の重要な課題である因果関係の解明には,時間の経過に伴う変化の情報が不可欠であり,パネル・データでなければ精度の高い分析はできない.さらに通常の最小二乗法では,観察できない異質性と独立変数との相関の存在から,不偏推定量を求めることができない可能性があるが,計量経済学的固定効果推定により因果効果の純粋な取り出しが可能になる.さらにマルチレベル分析の集団平均センタリングを応用したハイブリッド・モデルの紹介を行い,個人間と個人内の変動を同時に推定できることを示す.最後にパネル・データ分析を行う上での今後の課題をまとめる.
著者
Hirohisa TAKENOSHITA
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.2_85-2_104, 2008-11-30 (Released:2009-01-05)
参考文献数
40
被引用文献数
1

This research aims to make clear the determinants of job shift patterns in Japan. Previous studies have highlighted the importance of both individual level of resource and reward, and labor market structures which affect job mobility patterns. However, previous research on job mobility in Japan did not incorporate individual level of attributes such as resource and reward into systematic theoretical points of view while the impact of labor market structure on job mobility drew distinctive attention in Japan. In addition, many previous studies did not take into account the context of job shift because of a lack of available source of information in survey data. The present research pays attention to the divergence between voluntary and involuntary job mobility. The result shows that firm-specific skills and occupational reward made it less likely for employees to quit a job. It corresponds to the model of reward and resource. However, there is no evidence that general human capital which is transferable across firm would increase the likelihood of quitting a job as is seen in the U.S labor market. In addition, the way in which labor market structure influences job shift patterns is almost identical to the model of segmented labor market. In contrast, the way in which macroeconomic conditions for labor market affects rates of job shift in Japan is deviant from the hypothesis for the U.S labor market. This paper highlights the differences between voluntary and involuntary job mobility in Japan. Compared to the previous studies in the U.S, the job mobility patterns in Japan appear to be roughly similar to the ones for the United States whereas it seems that the institutional arrangements specific to Japanese labor market could make the job mobility patterns substantially different from those for the other industrialized countries. Cross-national comparison of intragenerational mobility which has lacked empirical studies would be further needed so that we can make clear the underpinnings of job mobility structure and institutional arrangements of labor market which diverge job mobility across country.

1 0 0 0 OA 書評

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.121-136, 2007-04-30 (Released:2009-03-27)

1 0 0 0 OA 書評

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.2_131-2_140, 1991-11-01 (Released:2009-03-31)

1 0 0 0 OA 書評

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.115-126, 2003-03-31 (Released:2009-01-20)

1 0 0 0 OA 書評

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.117-128, 2004-03-31 (Released:2008-12-22)

1 0 0 0 OA 書評

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.313-324, 2012 (Released:2013-08-12)

1 0 0 0 OA 書評

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.265-273, 2004-09-30 (Released:2008-12-22)

1 0 0 0 OA 書評

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.237-251, 2002-10-31 (Released:2009-02-10)
著者
藤山 英樹
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.109-119, 2009

本稿では、温泉地域の中心的な組織である旅館に注目し、「地域の異質性および規模」と「地域公共活動」との関係について実証分析をした。「地域公共活動」については、より具体的には、「自治活動」、「旅館組合活動」および「祭り関連の活動」を取り上げた。<BR> 調査地域は、長野・山形・群馬・新潟の4県であり、対象は10軒以上の宿泊施設で構成されている旅館組合に加盟している全ての宿泊施設である。有効回答率は51.4%であった。<BR> 推定結果から、第1に地域の異質性は自治活動に負の相関があり、第2に地域の規模は組合活動に負の相関があることが示された。解釈は以下の通りである:自治活動といった目的がより漠然とした活動においては、地域の異質性に起因するコミュニケーションコストの高さが大きな影響を与える。他方、組合活動のような目的が決まっている活動では、コミュニケーションコストの効果は小さくなり、公共財としての性質が強くなり、より規模の大きい組織でより多くのフリーライドが生まれる。
著者
白川 俊之
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.249-265, 2010

日本とアメリカにおいて,ひとり親家族で育つことが子どもの学力形成にあたえている影響を検討する.父不在と母不在とで,子どものリテラシーへの影響の程度と影響が生じる過程が異なりうることをふまえ,2つの仮説を提示する.ひとり親家族は貧困であったり経済的に不安定であったりするため,子どもの学力形成に不利が生じると,第1の仮説は主張する(経済的剥奪仮説).一方,第2の仮説は,ひとり親家族における子どもへの教育的関与の水準の低さが,学力低下の原因になっているという可能性に着目するものである(関係的剥奪仮説).これらの2つの仮説を手がかりに,父/母不在家族のそれぞれを両親のそろった家族と比較したとき,子どもの学力形成に関してどのような不利が見られるのかを分析する.PISA2000のテスト結果から学力の指標を取り出し家族構成との関係を調べたところ,日米に共通の結果として,以下の知見がえられた.(1)子どもの学力は家族の形態で有意に異なり,母不在家族の子どもの学力がとくに低い.(2)家族形態と資源保有との関連については,父不在家族において経済的資源の不足が見られる.母不在家族では経済的資源の不足に加えて,関係的資源の顕著な不足が特徴的である.(3)父不在家族の子どもの学力の低さの背後には,経済的な不利が要因として働いている.(4)母不在家族の子どもの低学力は,家族単位の資源不足の観点からは説明することができない.

1 0 0 0 OA Poverty Reduction:

著者
Wendy OLSEN Hisako NOMURA
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.219-246, 2009-09-30 (Released:2010-03-30)
参考文献数
40
被引用文献数
1

This paper examines the results of economic poverty reduction modelling in selected countries 1992-2002 using the fuzzy set method (fsQCA) and the crisp set method (csQCA). The fsQCA and csQCA are the two main configurational comparative methods (CCM). This paper primarily focuses on making sensitivity assessments of the fsQCA and csQCA results. The outcomes of CCM based on the truth table algorithm are determined by the calibration of the set-relation membership score as well as the outcome variable of the interim truth table (called the consistency cutoff). Calibration of the raw data into crisp- and fuzzy-set membership scores based on theoretically and empirically grounded establishment of thresholds has been emphasised as it shapes the truth table algorithm. Thus, like previous studies of sensitivity assessment we focus on calibration. However this paper shows how to determine the balance of consistency and coverage outcomes based on various cutoff points as being highly important for a sensitivity assessment. We argue that the optimal consistency cutoff point helps us optimally determine the configurational multiple causality. The outcomes of fsQCA and csQCA are considered in relation to the balance of consistency and coverage. The robustness of the results of the truth table algorithm depends on the balance of consistency and coverage. Using poverty reduction as a dependent variate, we compare the two methods which are both useful.
著者
石田 淳
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.203-218, 2009-09-30 (Released:2010-03-30)
参考文献数
28
被引用文献数
2

本稿の第一の目的は,Raginによって提唱されたファジィ集合を用いた質的比較分析(fsQCA)の手法,とくにファジィ集合から真理表を作成しブール代数分析につなげるアプローチを紹介することである.第二の目的は,ファジィ集合を扱うというfsQCAの特性を活かしたさらなる応用の可能性,具体的には,fsQCAをいくつかの指数から作られる合成指数の再構成に用いるという応用の仕方を提案することである.本稿では特に,fsQCAを用いて,国連開発計画によって提唱され毎年データが公開されている人間開発指数を,主観的幸福感や選択の自由についての自己評価といった,人々の主観的評価をも考慮した指数に再構成することを試みる.
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.71-86, 1986

社会学の現状の"危機"は、その理論の欠如に由来しており、個別科学としての社会学の独立と安定のためには理論の創出という営為が不可欠である。社会学にはこれまで理論と言うよりも擬似理論の方が横行している。それらは例えば「視座」「概念図式や定義」「経験的一般化」「the more..., the more型言明」あるいは「パスモデルのような統計的モデル」などである。前二者は真偽性を欠いているし、後の三つは説明力に乏しい。<BR> こうした背景には次のような方法的な誤りがある。(1)説明の持つ意義を否定して記述のみに満足する経験主義的バイアス、(2)小さな問題への理論的考察の価値を評価しない全体論的バイアス、(3)理論の正しさがそれ自体にではなくそれが生産される基盤の方にあると考える土台理論とそれと関連した方法的一元主義、(4)新しい知識がデータからのあるいは既存の言明からの積み上げによってえられるとする積み上げ主義。<BR> 我々の知識の拡大に貢献するような理論の創出にとって必要なのは、知的課題に対してさまざまな解を思い付く想像力とともに、それを自ら厳しく検討していく批判力である。
著者
田辺 俊介
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.235-249, 2004-09-30

本論文は様々な外国人に対する認知構造について、多次元尺度構成法による把握を試みたものである。先行研究を受けつつ本研究では、26国民・民族集団についての類似度データ、10国民・民族集団の一対比較データ、海外経験の有無や外国人友人の有無についてのデータを、主に大学生を対象として収集し、分析した。<BR> 類似度データをクラスカルの非計量多次元尺度構成法で分析した結果、「西洋人(あるいは白人)か否か」、心理的距離、地理の3つの次元によって人々が外国人を分類していることが示された。さらに個人差多次元尺構成度法により認知構造の属性差を検討した結果、旅行経験の有無に関して旅行経験のある人の方が「西洋人か否か」(「白人か否か」)という次元をあまり重視しないという傾向が見られた。また一対比較データを選好度の多次元尺度構成法で分析した結果、「アジアびいき」、「欧米びいき」という異なる選好パターンが存在すること、またイスラム諸国やアフリカ地域の人々がどんな人からも「遠い」存在と考えられていることが示された。