- 著者
-
鈴木 貴久
小林 哲郎
- 出版者
- 数理社会学会
- 雑誌
- 理論と方法 (ISSN:09131442)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, no.1, pp.31-50, 2011
本研究は,異なる寛容性を持つ評判生成規範が協力に対してもたらす効果について,先行研究より現実に即した制約を課す進化シミュレーションによって検討した.具体的には,エージェントはネットワーク上で隣接する相手のみと社会的交換を行い,社会的交換における行動決定時とネットワークのリワイヤリング時に評判を参照するが,すべてのエージェントの評判情報を参照できるのではなく,評判が参照できるのはネットワーク上で2 ステップの距離に位置する他者までに限定された.こうした現実的な制約の下で,全エージェントがimage scoring(IS)規範,standing(ST)規範,strict discriminator(SD)規範のいずれかに従って評判を生成する条件を比較した結果,(1)全エージェントが寛容なST 規範に従って評判を生成する場合にはネットワークは密になり社会的交換の数は増加していくが,非協力行動が適応的になって協力率が大幅に低下する確率が高くなること,(2)全エージェントが非寛容なSD 規範に従って評判を生成する場合には協力率は安定するが,ネットワークが疎になり社会的交換の数自体が減少することが示された.この結果から,評判の生成規範の寛容性は,社会的交換における協力率だけでなく,社会的ネットワークの構造に対しても効果を持つ可能性が示された.このことは,協力率のみに注目した非寛容な評判生成規範では,副産物的に社会的ネットワークを縮小することで社会関係資本に対して負の効果を持ちうることを示唆している.さらに,相手の評判値を誤って知覚するエラーを投入したところ,寛容なST 規範に従って評判を生成する場合でも協力率が安定した.このことは,社会的交換がネットワーク構造を持つ制約の中で行われる場合には,寛容な評判生成規範でも高い協力率の維持が可能になりうることを示唆している.