著者
太郎丸 博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.131-133, 2004-09-30 (Released:2008-12-22)
著者
山口 一男
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.137-153, 1999

本稿は合理的選択の論理と行為の数理モデルを用い混合交換ネットワークにおける勢力分布の主な決定原理を明らかにする。混合交換ネットワークとは代替的な関係と補完的関係を共に持つ行為者の存在する交換ネットワークである。またそれらの原理を論理的に明らかにする具体的例示として少年2人少女2人よりなる15の異なるデイトネットワークを分析する。
著者
富山 慶典
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.69-84, 1991

集合的選択の正確確率と個人的選択能力,集団構成員数,集団の決定規則との間の関係は,コンドルセの陪審定理において初めて理論的に分析された.数名の研究者がこの定理を様々に展開してきているが,単一の集合的選択領域を暗黙裡に仮定し,その領域における個人的選択能力だけを導入しているという点で共通している.しかし現実には,“経営戦略と人事移動”というように集合的選択領域は複数存在し,“経営戦略には強いが,人事移動には弱い”というように集合的選択領域によって構成員の個人的選択能力には違いがあると考えられる.領域の違いによって構成員の個人的選択能力が異なり,かつ集団の構成員が限られているという条件のもとで,集団はどのような集合的選択領域にどのような個人的選択能力を持った構成員を配置すればよいのであろうか? この集団分割問題は陪審定理からの従来の展開研究のモデルでは取り扱うことができない.集合的選択領域が1つという仮定のもとでのモデル展開になっているからである.この論文では,陪審定理の証明の前提になっている基本モデルを集合的選択領域が2つある場合に拡張し,新たに集団2分割問題を一般的に定式化し,すべての領域に対するすべての個人的選択能力が等しいという完全同質性の仮定を導入した場合の集団2分割問題に対する解を定理の形で与える.最後に,今後の課題について言及する.
著者
富山 慶典 細野 文雄
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.2_73-2_88, 1999-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
18

研究室配属とは,大学における卒業研究やゼミナール活動などのために,学生を研究室に配属させることをいう。“学生は1つの研究室にしか所属できず,研究室は定員をもち,学生と研究室の両方の意向にもとづいて配属するということを前提として,すべての学生をどこかの研究室に必ず配属する”という要請を満たす研究室配属制度を対象とする。社会的マッチング理論に基づく学生志願型GS制度は,この要請を満たし,かつ,いくつかの理論的に望ましい性質をもっている。しかし,すべての学生がすべての研究室に対する線形の選好順序に基づいて全研究室数分の順位を表明するということを仮定している。実際の研究室数はそれほど小さくないため,非現実的である。この制度を実際に利用できるようにするためには,比較的小さな学生表明順位ですべての学生の配属が可能であるか否かを調べなければならない。そのため,モンテカルロ・シミュレーションを実施した。その結果,学生の情報処理能力からみて無理がなく,配属される研究室に対する学生の希望順位の格差を小さくできる比較的小さな学生表明順位と,配属される学生数を研究室間で均一化できる小さな研究室定員との組の存在が明らかになった。
著者
鈴木 貴久 小林 哲郎
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.31-50, 2011

本研究は,異なる寛容性を持つ評判生成規範が協力に対してもたらす効果について,先行研究より現実に即した制約を課す進化シミュレーションによって検討した.具体的には,エージェントはネットワーク上で隣接する相手のみと社会的交換を行い,社会的交換における行動決定時とネットワークのリワイヤリング時に評判を参照するが,すべてのエージェントの評判情報を参照できるのではなく,評判が参照できるのはネットワーク上で2 ステップの距離に位置する他者までに限定された.こうした現実的な制約の下で,全エージェントがimage scoring(IS)規範,standing(ST)規範,strict discriminator(SD)規範のいずれかに従って評判を生成する条件を比較した結果,(1)全エージェントが寛容なST 規範に従って評判を生成する場合にはネットワークは密になり社会的交換の数は増加していくが,非協力行動が適応的になって協力率が大幅に低下する確率が高くなること,(2)全エージェントが非寛容なSD 規範に従って評判を生成する場合には協力率は安定するが,ネットワークが疎になり社会的交換の数自体が減少することが示された.この結果から,評判の生成規範の寛容性は,社会的交換における協力率だけでなく,社会的ネットワークの構造に対しても効果を持つ可能性が示された.このことは,協力率のみに注目した非寛容な評判生成規範では,副産物的に社会的ネットワークを縮小することで社会関係資本に対して負の効果を持ちうることを示唆している.さらに,相手の評判値を誤って知覚するエラーを投入したところ,寛容なST 規範に従って評判を生成する場合でも協力率が安定した.このことは,社会的交換がネットワーク構造を持つ制約の中で行われる場合には,寛容な評判生成規範でも高い協力率の維持が可能になりうることを示唆している.
著者
佐藤 嘉倫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.39-52, 1989-03-24 (Released:2009-03-31)
参考文献数
15
被引用文献数
2

従来の社会計画論は社会計画の失敗メカニズムを的確に捉えることができなかった。その理由は、従来の社会計画論が「社会システムは通常の行為者の『理論や知識』(一次理論)に依存する」ということにあまり注意を払わなかったからである。このため、「社会計画の実施によって通常の行為者の一次理論が変動する」というようなケースを適切に扱うことができなかった。 本稿では、分析モデルの構成要素として、計画主体の一次理論(政策と結果を結びつける理論)、通常の行為者の一次理論、通常の行為者の一次理論に依存する社会的メカニズム(政策と結果の実際の関係)を設定する。さらに、「社会計画の実施は通常の行為者の一次理論を変動させる」、「通常の行為者の一次理論の変動は社会的メカニズムを変動させる」という二つの仮定を置く。そして計画主体の一次理論と社会的メカニズムの一致・不一致、上の仮定の成立・不成立を組み合わせて、六つのケースを得る。これらの中、社会計画の失敗メカニズムに対応する三つのケースを検討し、失敗メカニズムを解明する。さらに、成功メカニズムに対応する残りの三つのケースも検討し、成功メカニズムの解明も行う。
著者
大﨑 裕子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.35-48, 2017 (Released:2017-07-19)
参考文献数
19

多くの主観的ウェル・ビーイング研究において,経済的な豊かさの向上が主観的ウェル・ビーイングの上昇に必ずしも結びつかないことが報告される一方で,近年,経済的な豊かさ以外の要因としてソーシャル・キャピタルのもつ可能性に関心が集まっている.本研究は,ソーシャル・キャピタルのうちとくに一般的信頼に着目し,主観的ウェル・ビーイングにおける経済的豊かさの限界を補完する可能性を検討した.その方法として,東京都に住む1,033人の個人レベルデータをもちい,従属変数を生活満足感,独立変数を一般的信頼と経済的安心とする回帰分析をおこなった.その際,これら2要因が生活満足感を高める効果に対し客観的な所得レベルが与える影響について,交互作用効果を検討した.分析の結果は以下のとおりである.(1)所得レベルが高い人ほど,経済的安心が生活満足感を高める効果は小さい.(2)所得レベルが高い人ほど,一般的信頼が生活満足感を高める効果は大きい.すなわち,所得が高い人々は低い人々に比べて,経済的安心から得られる生活満足感は少なくなり,それを補完する形で,一般的信頼が生活満足感の向上により強く結びつくことが明らかとなった.以上の結果から,理論的および政策的含意について論じた.
著者
山本 啓三 宮島 佐介
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.133-138, 2001
被引用文献数
2

経済現象の一例として、毎年5月に発表される前年分の高額納税者リストを取り上げ、その納税額と順位の関係を考えた。これは複雑な入れ子構造的経済活動の結果の一側面であり、フラクタル的な規則性があると考ている。全国、都道府県別の高額納税額順位リストより、次の特徴を得ている。高額納税額はその順位に対してベキ乗則となり、その全国のベキ乗則の指数は米国のCEOの給与と賞与のみから得られる指数と一致している。又、各都道府県のベキ乗則の指数はその地域の経済活動の指標となり得ることも示唆している。
著者
近藤 博之
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1-15, 2014

教育拡大にもかかわらず教育達成の階層差が持続的であるという事実は,何らかの特定要因や単一メカニズムに依拠した説明が無効であることを示唆している.この講演では,教育不平等に関する計量社会学的研究での,ハビトゥス概念を用いた因果的探求の可能性について論じている.まず,ブルデューの「構造的因果性」の概念に立ち返り,それが近年の社会学の文献にみられる「基本的原因」や「根本的因果性」の考えと同じであることを示した.その見方によるなら,ハビトゥスは社会的条件付によって諸実践に差異をつくりだすメタ・メカニズムとして解釈することができる.その観点から,多重的影響を包含した社会空間アプローチについて説明し,例としてPISA2009日本データの分析結果を提示した.さらに,意志決定において埋没費用が問題となるように,教育的選択においても個人の無意識や過去からの慣性が重要な役割を演じていることを論じた.
著者
遠藤 晶久 山崎 新
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.225-240, 2015 (Released:2016-07-10)
参考文献数
30

CAI調査の大きな利点としてあげられるのは,調査プログラムで設定さえすれば回答時間という新しい種類のデータを手に入れられることである.質問を尋ねてから(あるいは表示してから)回答を得るまでの時間を計測した回答時間データは,回答結果のみでは知ることができない,その回答に至るプロセスを推測するための情報として利用可能である.本稿では回答時間データの分析を通じて,新たな世論調査分析の可能性を示す.その一例として,イデオロギーをテーマとして取り上げ,有権者のイデオロギー認知を政治知識と対照させることで政治的洗練性概念との関係を検討する.分析の結果,短時間で正解を取り出すという政治知識の回答過程に比べて,正解にたどりつくまでに時間がかかりやすい政党間対立認識は,有権者が確固として既に有しているものというよりも,何らかの情報処理を必要とするものであるということを示した.つまり,イデオロギー認知は政治知識と異なる認知モードにしたがっており,現実の保革イデオロギーによる政党間対立は,有権者の中では「知識」ではなく,類推からたどりつくものであることが示唆された.
著者
与謝野 有紀
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.47-60, 1997-07-31 (Released:2016-08-26)
参考文献数
5

本研究の目的は、いわゆるOstrogorskiパラドックスの成立条件とこのパラドックスが生起する確率を求めることである。Ostrogorskiパラドックスは代議制に関わる投票のパラドックスであり、既存研究の中でこのパラドックス状況が生起する条件が検討されてきた。Rae and Daudtの定理はそのような研究によって得られた条件の一例であるが、この条件は現実的な場面でパラドックスが発生する可能性の有無を検討するには不十分なものであり、また、その識別力も必ずしも強いとはいえない。ここでは、投票結果に関する情報が得られている場合について、より識別力の強い条件を明らかにするとともに、どの程度このようなパラドックスが生じるのかについての確率を求めた。これらの分析から、主に以下の2点が明らかになった。第一は、ある党が100%の得票率で選ばれたとしても、Osrtogorskiパラドックスが生じる可能性を棄却できないことであり、また、第2は、パラドックスが生じる可能性が予想以上に高いことである。この点からも、住民投票の意義は簡単には否定できない。
著者
阿部 潔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.137-143, 2014 (Released:2016-07-10)
被引用文献数
1
著者
堀内 史朗
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.51-66, 2011 (Released:2012-01-31)
参考文献数
40
被引用文献数
1

様々な対立を潜在的に孕む人々が,その対立を乗り越えて仲良く暮らすためには何が必要なのか?その条件を明らかにするため,互いに異質なエージェントが緩やかな集団を形成するエージェント・ベース・モデル(ABM)を作成した.モデリングに際して,隣接者との違いが閾値より大きいとエージェントが移動を続けるシェリングモデル(Schelling 1971)と,複数の特性それぞれについて複数の構成要素をもった隣接者同士が相互作用するアクセルロッドモデル(Axelrod 1997)を参照した.シミュレーションの最終時刻までに達成された最も大きい集団をコミュニティと定義し,どのようなエージェントの活躍の下に巨大なコミュニティが成立するかを調べた.分析の結果,特性の数F と構成要素の数Q の比Q/F が低いと,僅かな構成要素の一致で隣接エージェントと集団を形成しようとする「丁重」なエージェントが大きなコミュニティ形成に貢献する.Q/F の値が高いと,構成要素が一致するエージェントとの集団形成を求めて「移動」するエージェントが大きなコミュニティ形成に貢献する.またシミュレーション時間が長いほど,移動するエージェントが活躍する領域が増えることがわかった.この結果は,人々の異質性が高いときにこそ,集団間を移動する「よそ者」がコミュニティの形成に貢献すると示唆する.人間類型としてのよそ者に付与されてきた「地域社会を客観的な世界と結びつける」という理論的位置づけを,本稿はABM によって裏付けた.
著者
太郎丸 博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.115-122, 2014 (Released:2016-07-10)
参考文献数
13
著者
村井 源 山本 竜大 徃住 彰文
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.111-128, 2008
被引用文献数
1

複雑な人間関係を数理的に解析するために、近年ネットワーク解析が盛んに用いられるようになった。また、解析用のネットワークを構築するための基礎データとして、WWWのハイパーリンクが用いられるケースが増えてきている。本論文では政治家間の人間関係を示すネットワーク構造の構築に、ハイパーリンク関係を用いる妥当性を検討するため、日本の国会議員のWebページをデータとして用い、議員間のハイパーリンクと議員の名前のテキスト上での言及関係によって二種類のネットワークを構築した。また、得られたネットワークに対してネットワーク解析の手法中心性とクリーク分析の解析を適用し、結果を比較した。得られた結果より、言及関係によるネットワークは、集団における重要性を表す指標としての妥当性があり、ハイパーリンクによるネットワークでは派閥の分析が可能であることが分かった。現状として、大規模政党においては、比較的Webの利用は進んでいないが、今後政治領域でもWebの利用がより一般化することが期待される。このため、将来的にはより多様な関係性の計量的解析にWebデータが利用可能になると考えられる。
著者
久慈 利武
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.1-20, 1991

本稿ではデュルケム(パーソンズ)の功利理論(合理的選択理論)批判、社会契約論からの見えざる手説明批判を、功利理論、見えざる手説明を区分せず、その擁護、反論を行なった。簡単に言えば社会学にたいしては、社会化(愛他心の喚起、将来の利益・公共の利益へのコミット)からの協力の発生の説明を避け、個人が相変わらず利己的なままであるのに協力が発生し得ることの証明と、社会契約論にたいしては、専門機関によるコントロール(監視と制裁)による利己的な個人のあいだの協力発生の説明を避け、そのようなフォーマルなコントロールがなくとも利己的な個人のあいだに協力が発生しうることの証明である。後者については二者ペア間インタラクション戦略では大規模匿名社会でもその戦略が進化的に安定的であることが明らかになった。しかし二者でなく、三人以上になると合意がないと協力の維持は不安定であること、そしてその人数が多くなるに連れて協力の発生すらおぼつかなくなる、つまり監視や制裁の統制がなければ協力の発生が難しくなることが明らかになった。
著者
Ryoji MATSUOKA
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.147-165, 2014 (Released:2016-07-10)
参考文献数
42
被引用文献数
2

U.S. studies on parental involvement (PI) indicate that parenting practices vary by families' socioeconomic status (SES) (e.g., Lareau 2003) and that different degrees of PI differentiate students' academic achievement (e.g., Hill and Tyson 2009); PI differences based on parents' SES are considered one source of the achievement gap. While some scholars (e.g., Honda 2008) address this critical topic in Japanese society, existing studies using regional and/or retrospective data without a rigorous indicator of students' academic abilities fall short of investigating relationships between students' family SES, the degree of PI, and their achievement at one of the most important stages of education: compulsory education. This study is therefore intended to empirically investigate these relationships by analyzing nationally representative data of Japanese eighth-grade students. This study's results indicate that (1) higher SES parents tend to more frequently ask their children what they study in school; (2) the school-level PI indicator is not equally distributed socioeconomically, and School SES relates to the degree of PI in school activities; and (3) the degree of PI and school PI in school activities are associated with students' mathematics achievement. Contrary to expectations, however, PI mediates small parts of SES effects, especially at the student level; only some of the relationships between SES, PI, and achievement are verified empirically.
著者
渡邉 勉
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.213-234, 2004-09-30

本稿では、職歴データの分析を通じて、近年系列データの分析手法として注目されつつある最適マッチング分析の有効性と問題点を検討する。職歴パターンについては、これまで原(1979)、盛山(1988) などによって検討されてきた。ただ職歴データの分析はあまり進んでいるとはいえない。本稿では、1995年社会階層と社会移動に関する全国調査(SSM調査)の職歴データを最適マッチング分析により検討する。まず入職から10年間、および30年間の職歴データについて、最適マッチング分析によって距離行列を求め、さらにクラスター分析によって、それぞれ6つのクラスターを析出した。また初職、現職、学歴、職歴パターンの関係を明らかにするために、ブール代数分析をおこなった。以上の分析から、既存の類型化とは異なり、職歴の包括的な類型化が可能であることを示し、従来の分析方法では十分にできなかった職歴の新たな分析の可能性があることを示した。
著者
尾張 豊
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.59-74, 1998

従来、公立学校の教育成果の低下の原因に関する研究が数多くなされてきた。その多くは原因を画一化教育や過度な受験教育などの教育内容の欠陥に求めている。一方で、その原因を学校組織に内在する欠陥に求める議論はほとんどなされてこなかった。<BR> そこで、本稿ではTirole(1986)の提起した3階層組織モデルを学校組織に適用し、多段階ゲームを用いてその原因の追求と教育成果の向上のための改善案について考察した。<BR> 主な結論は以下のとおりである。&alpha;プリンシパルがエージェントにその努力、あるいは教育成果に関係なく一定の報酬を提示すれば、エージェントは低い努力を実行する。&beta;エージェントの努力水準が観察できる場合、プリンシパルはエージェントの努力水準に応じた報酬を提示すればよい。&gamma;生徒の能力が観察できない場合、プリンシパルはエージェントに教育成果に応じた報酬を提示すればよい。&delta;スーパーバイザーがエージェントと共謀してプリンシパルに嘘の報告をする場合には、プリンシパルは共謀を防止するための報酬を支払わなければならない。
著者
盛山 和夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.3-16, 2000

今日、社会学とその関連分野は深い混迷の中にあるといっていいだろう。1968 年を境に、それまで研究共同体を支えていた二つの信仰があっという間に崩壊してしまい、いまや何ら共通の信仰(形而上学、理念)も共通の言葉もないまま、公式組織(大学、学会)の中に共同体の形骸をさらすのみである。こうした中で、数理社会学がどのような意義を持ちうるのか、そしてそれはいかにして可能なのか(土場(1996)の問題提起を参照されたい)。1970 年代のはじめ、さまざまな新しいパラダイムが出現して注目されていった中に、数理社会学もその一つとしてあった。他には、現象学的社会学、レイベリング論、エスノメソドロジー、社会構築主義、フェミニズム、エスニシティ研究、カルチュラル・スタディーズ、文化的再生産論、従属理論、世界システム論、社会システム論、言説分析、ポスト構造主義など、枚挙にいとまがない。数理社会学はこうした他のパラダイムと比べるとやや特殊な位置に立っている。他の多くが、とりわけポスト構造主義が典型的にそうであるように、近代的な知のあり方の脱構築をめざしているのに対して、数理社会学は数学を用いた合理的な知識の体系という、見方によっては時代錯誤的な目標をかかげているのである。現象の数理的把握という方法は、ガリレオやニュートンによって近代科学が華々しく興隆していく上での基盤であったが、それは、脱構築派からみれば、単なる「現前」についての知識にすぎないということになる。<BR> 他方、数学は基礎づけ主義的思考の大いなる源泉であった。ホッブズもカントもユークリッド幾何学の華麗な体系に魅了されていた。自明で疑いえない真理から出発して正しい世界もしくは世界像を構築していくことがめざされていた。しかし今日、この公理主義的世界観はうさん臭く思われている。