著者
小林 盾 大林 真也
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.304-317, 2016 (Released:2017-01-16)
参考文献数
22
被引用文献数
2

この論文は, 分析社会学を実証研究へと応用する. そのために, 美術展や小説などの文化活動を事例とし, 人びとはオムニボア(雑食)的で多趣味なのか, ユニボア(偏食)的で偏っているのかを検討することで, 文化の階層構造(文化格差)を解明する. 分析社会学のDBO理論によれば, 人びとは「~したい」という欲求(Desire)と「自分や世界は~だろう」という信念(Belief)を持ち, 客観的条件である機会(Opportunity)に制約される. そこで, 「自分は自由に文化活動できる」という信念を持ち, さらに等価所得が高く実行機会に恵まれた人ほど, 文化的オムニボアとなると仮説を立てた. データとして2015年階層と社会意識全国調査(第1回SSP調査)を用い, 文化的オムニボアを高級文化(クラシック音楽と美術展)と中間文化(小説)の頻度の幾何平均で測定した(分析対象2,769人). その結果, (1)分布から, オムニボアが52.5%いた. (2)回帰分析における教育, 等価所得の主効果から, 高い階層的地位が文化的オムニボアを促進した. (3)信念(主観的自由)と機会(等価所得)の交互作用効果から, 信念と機会の両立が文化的オムニボアを促進した. 以上より, 日本社会における文化活動は, ブルデューの主張するような排他的なものではなかった. 分析社会学を用いたことで, 人びとの合理性を仮定する必要がなく, どうじに信念という主観的心理的要因の役割が明確になった.
著者
土場 学
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.117-134, 2000-06-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
39

ハーバーマスは、『認識と関心』において、理論と実践の統一的な研究プログラムとして批判的社会学(批判的社会理論)を構想した。そこにおいてハーバーマスは、認識を導く関心というアイデアをもとに、技術的認識関心に導かれる科学、実践的認識関心に導かれる解釈学、そして解放的認識関心に導かれる批判的社会学という認識類型の認識人間学的な正当化を試みた。しかしこの構想は、ハーバーマスの学問的営為のなかで、認識論からコミュニケーション論へというコミュニケーション論的転回によって放棄されることになった。そしてそれと同時に、理論と実践の統一という要請も断念されることになった。この構想の綻びは、ヘーゲル-マルクスの歴史哲学を継承した「人類主体」という実体概念を認識の最終審級に置く主体哲学に淵源する。しかしながら、こうした主体哲学を放棄するならば、アイデンティティ(自立性)を確立する政治的過程としての「承認をめぐる闘争」にその立脚点を据え直すことによって、理論と実践の統一という要請を断念することなく新たな批判的社会学を構想しえるはずであり、実際今日の批判的研究はかつてのモダニズム/ポストモダニズムという対立軸を越えてこうした構想に収斂しつつある。
著者
長谷川 計二
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.135-136, 2005 (Released:2007-07-06)
参考文献数
1
著者
三谷 はるよ
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.69-83, 2015 (Released:2016-07-10)
参考文献数
27
被引用文献数
1

東日本大震災後に展開されたボランティア活動に関して,かつて災害に遭った時に支援を受けた元被災者が,新たな災害に遭った被災者を支援するという「被災地のリレー」現象が指摘されている.これは,C. Lévi-Straussが「限定交換」に対比させた「一般交換」の具体例といえる.しかし国内外の先行研究において,災害ボランティア活動に一般交換の側面がみられるかを計量的に実証したものはない. そこで本稿では全国調査データを用いて,東日本大震災後のボランティア活動に一般交換の側面がみられるのか,みられる場合にはいかなる条件下で一般交換が発現しやすいのかを検討した.その結果,(1)過去の被災時の被援助経験は,被災地・被災地以外での震災ボランティア活動への参加に影響を与えること,(2)被災低リスク地域に住んでいる場合,被援助経験と被災地での震災ボランティア活動の関連が強まることが明らかになった.以上から,東日本大震災後のボランティア活動には一般交換の側面がみられること,さらに災害が珍しい地域で受ける “思いがけない恩” が一般交換を促す可能性が示唆された.
著者
伊藤 尚 前田 義信 谷 賢太朗 林 豊彦 宮川 道夫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.117-130, 2012 (Released:2013-03-18)
参考文献数
12
被引用文献数
2

ジニ係数は標本間格差を評価する代表的な指標のひとつである.しかし,ジニ係数は全標本が非負であることを前提としているため,負の標本を含む標本間格差を評価することは出来ない.Chenらはこの場合でも標本間格差を評価できるようにするためジニ係数の拡張を試みた.しかし彼らの提案した拡張ジニ係数は全標本の合計が0以下である場合において標本間格差を評価することが不可能であった.そこで本論文では,負の標本を含む場合および全標本の合計が0以下の場合においても標本間格差を評価するために,ジニ係数の幾何的表現の拡張を提案する.提案された拡張ジニ係数では負の標本を含む場合および全標本の合計が0以下の場合においても標本間格差を評価することが可能であり,全標本が非負である場合において拡張ジニ係数は従来のジニ係数と一致する.さらに,拡張ジニ係数の代数的表現を検討し,得られた代数的表現から本論文で提案する拡張ジニ係数が母集団原理と拡張移転原理を満たすことを示す.
著者
森野 真理
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.261-276, 2014 (Released:2016-07-10)
参考文献数
22
被引用文献数
1

コモンズの「過少利用」では,直接的な資源利用が減少したことで,景観や季節感の喪失,生物相の変化,災害防止機能の低下といった,自然資源の総体(生態系)としての機能低下が問題視されている.本稿では,森林・河川・農地の過少利用の事例をとりあげ,「生態系サービス」という観点から問題の特徴を分析した.その結果,コモンズに期待される受益は,物質資源を供給するサービスから,レクリエーションや景観といった文化的サービス,気候や災害制御といった調節的サービスへと重点が移っていた.期待されるサービスの変化にともない,ステークホルダーの拡張がみられた.
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.2_135-2_150, 1988-10-09 (Released:2009-03-06)
著者
小池 心平 中井 豊
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.293-307, 2014 (Released:2016-07-10)
参考文献数
33

「共有地の悲劇」以来,コモンズ管理は社会的ジレンマとして位置づけられ,フリーライダー問題と利害関係者による自主管理の可能性が議論されてきた.しかし,日本社会におけるコモンズ管理の現状は,人口減少や高齢化により利用者が減少しコモンズが放棄されてしまう新たな問題に直面している. 本稿では,公共財供給ゲームにおける非参加戦略を用いて,コモンズ管理においてフリーライダー問題を内包しつつ過疎化によりコモンズが荒廃する状況を定式化した.また,地域活性化に協力的な移住者に着目し,移住者と地域住民がコモンズ管理の枠組みの外で地域資源を活用する地域再生事業のモデルを提示した.フリーライダーと過疎化の問題を同時に解決しうる地域再生事業の条件を整理し以下の点を明らかにした.共同事業の収益性に関わらず,少数の移住者と多数の地域住民による共同事業だけがコモンズの維持と過疎化対策に寄与する.地域住民への公的補助の増額は移住を促進するが,地域内で移住者をフリーライダーに変え,再び共有地の悲劇が生じる.
著者
吉良 洋輔
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.107-124, 2013 (Released:2014-09-01)
参考文献数
21
被引用文献数
2

社会的ジレンマは,プレイヤー同士でコミュニケーションを行うことによって解決されやすくなることが知られている.しかし,このメカニズムを数理モデルによって説明することは,未だ行われていない.そこで本稿では,無限繰り返しN人囚人のジレンマ(INPD)ゲームの均衡精緻化を行う.サブゲーム完全ナッシュ均衡では,1人のプレイヤーが戦略を変更する逸脱しか考慮されていない.そのために,INPDにはパレート劣位な均衡が多数存在する.そこで本稿では,プレイヤー同士がコミュニケーションを行うことによって,複数人が同時に戦略変更を行う「結託による逸脱」が可能であることを仮定した.その結果,大多数のプレイヤーが非協力を行うナッシュ均衡は不安定となる一方,ある条件を満たせば全員が協力を行う均衡は頑健であり続けることが分かった.得られた知見は次の2点である.1点目は,社会的ジレンマを解決する上で,長期的関係とコミュニケーションは異なる機能を持つことである.2点目は,より自由なコミュニケーションと行動の変更が認められている状況の方が,社会的ジレンマが解決されやすい場合もある,ということである.
著者
大浦 宏邦
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.298-314, 2018 (Released:2019-09-28)
参考文献数
19

本研究では社会的ジレンマの回避メカニズムを探る試みの一つとして,集権的組織における試行錯誤ダイナミクスを検討することを試みる.1人の管理者が複数のメンバーにサンクションを与える集権的組織では,サンクションの過小供給や管理者による利得の過剰徴収が生じる可能性がある.シミュレーションと解析的な分析を行ったところ,管理者が長い時間間隔で戦略の修正を行う場合にはサンクションの過小供給を回避しうること,複数の集団の間をメンバーが移動できる場合には利得の過剰徴収を避けうることを示す結果が得られた.
著者
金澤 悠介 朝岡 誠 堀内 史朗 関口 卓也 中井 豊
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.141-159, 2011 (Released:2012-01-31)
参考文献数
41

本稿の目的は,エージェント・ベースト・モデルの方法の特徴を明らかにするとともに,この方法を用いた研究が社会学の中でどのように展開されてきたのか/されうるのかを議論することである.最初に,エージェント・ベースト・モデルの方法的な特色を,数理モデル分析や計量分析という既存の社会学の方法と比較を通じて,明らかにする.次に,社会学において,エージェント・ベースト・モデルを用いた研究がどのように展開されてきたのかを,社会秩序の生成と社会構造の生成というトピックを題材に確認する.最後に,社会学の重要なテーマでありながら,エージェント・ベースト・モデルを用いた既存の研究ではいまだ未探索となっている領域について議論する.
著者
高坂 健次 吹野 卓
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.93-116, 1989-03-24 (Released:2009-03-31)
参考文献数
12
被引用文献数
2

天然の漁業資源は、一方では自然的再生産メカニズムを享受しているものの、他方では、人間の手による乱獲のためにしばしば枯渇の危機に晒されている。本稿では、資源の再生産メカニズムの仮定をモデルに組み込み、(1)漁獲規制を遵守した漁獲戦略と、(2)規制を無視して可能な限りの漁獲をする漁獲戦略、の2戦略が選択可能な状況について考察する。そして、漁獲活動がDawes(1975)の定式化による「社会的ジレンマ」に陥るのは、資源再生産と漁獲に関するパラメータが特定の関係を持つ場合だけであることを示す。あわせて、囚人のジレンマ・ゲーム論的な観点から、乱獲の数理モデルの社会学的含みについて考察を加える。
著者
土場 学
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.115-132, 1995-12-01 (Released:2016-08-26)
参考文献数
30
被引用文献数
8

社会的ジレンマに関する実験社会心理学的研究のなかでもっとも有力な立場の一つに「社会的価値理論」がある。これは、自己の利得と他者の利得の考量の仕方に含意される個人の価値指向の「社会性」に注目して、個人の価値指向と状況認知が社会的ジレンマ状況における個人の行動にどのような影響を及ぼすかを解明しようとするものである。本稿はまず、この社会的価値理論が考察している問題状況をゲーム理論にもとづいて「不完備情報ゲーム」としてフォーマライズすることを試みた。そしてそのゲーム理論モデルから、ある特定の条件のもとでは社会的価値理論にもとづく実験研究から得られた経験命題とは対立する事態が成立することを明らかにした。本稿では、そうした結果を踏まえて、社会的価値理論における社会的価値指向の概念化にそもそも問題があることを指摘した。
著者
宮野 勝
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.101-114, 1986-11-20 (Released:2009-03-01)
参考文献数
27
被引用文献数
2

投票率を例として、標本調査が社会の実際と異なる理由を三分し、その相対的重要性を調べる方法を考察する。データとした1980年衆議院選挙に関する明るい選挙推進協会の全国3000サンプル調査の投票率は、選挙結果より12.4%高かった。第一に、この差を、(1)標本誤差、(2)「誤答効果」、(3)非回答バイアス、の三原因に数学的に分解できることを示した。第二に、層別二段抽出法による標本誤差の5%信頼区間はわれわれのデータでは±2.2%であることから、標本誤差以外の二原因によって10.2%~14.6%の誤差がもたらされていると推測した。そこで、第三に、点推定である12.4%を用いて、この誤差を「誤答効果」と非回答バイアスとに分解することを試みた。一つ目の方法は、非線形回帰分析を用いた統計的手法で、データが十分に存在する場合に適用できる。二つ目の方法は、先験的にまたは他のデータから仮定を導入して、数学的に解く手法である。われわれは二つ目の方法を用いて三種類の異なる仮定の各々について推定した。その結果、非回答バイアスが重要で、7~13%の差をもたらし、「誤答効果は」0~6%の差をもたらしたと推測された。第四に、性別などの属性別の分析が可能であり、投票率のデータでは、男性の方が誤差が大きく、非回答バイアスのウェイトも大きい。また、投票―棄権と回答―非回答とが正の相関を持ち、特に非投票者に非回答バイアスの影響が大きい。以上の検討は、標本調査データの特質の理解に重要であり、かつ、投票率以外の項目、例えば、投票政党、教育年数、所得、等にも適用可能である。
著者
林 雅秀 金澤 悠介
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.241-259, 2014 (Released:2016-07-10)
参考文献数
72
被引用文献数
1

多くのコモンズ研究は,人々の過剰利用によりコモンズが荒廃するリスクがあるという想定のもと,過剰利用を防ぐ制度的な仕組みを解明してきた.しかし,現代日本のコモンズに目を転じると,近代化や少子高齢化といった社会変動の結果,従来のコモンズ研究が想定しない状況が生じてきた.本研究の目的は,既存の研究を検討することで,このような新しいコモンズ問題を解明する糸口を探ることである.まず,新しいコモンズ問題の特徴を把握するために,従来のコモンズ研究の到達点を確認した.次に,新たなコモンズ問題として,社会変動の問題,資源利用の多様化の問題,過少利用問題をとりあげ,それぞれの問題の解明を試みた.その結果,社会的ジレンマモデルに基づく従来の研究では利用者のコミュニティが大きな役割を果たしているが,新しいコモンズ問題では利用者のコミュニティとその外部の関係が大きな役割を果たしていることが判明した.加えて,新しいコモンズ問題を探求する研究の絶対数が少ないことも判明した.