著者
朱 安新
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.307-317, 2015

中国社会では家族の急激な小規模化が進んでいるため,若い世代の世代間同居に関する意識が,今後の家族形態を予測するうえで注目されはじめている.しかし,まだ全国レベルの統計データが欠如している.そこで,本稿では2013年に中国大陸と台湾で大学生を対象に量的調査を実施し,大学生の世代間同居意識の現状と規定要因を明らかにすることを試みた.分析の結果,(1)世代間同居意識は低い水準にあるものの,伝統的規範のうち父系規範が同居意識の促進要因となっていた.ただし,親孝行規範は同居意識を促進するという傾向は見られなかった.(2)台湾に比して大陸においては都市に戸籍をもつ大学生が農業戸籍の大学生よりも,親世代と同居しようとする意識が顕著に低かった.したがって,大陸の都市と農村の二元社会構造がいまだに世代間同居意識に影響を与えていた.(3)大陸では男子学生が女子学生より世代間同居を意識する点で,台湾と異なることを明らかにした.
著者
大浦 宏邦
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.145-156, 2013 (Released:2014-09-01)
参考文献数
1
著者
永田 えり子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.261-272, 2000-10-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
14
被引用文献数
2

個人に合理性のみならず倫理性を求める。具体的には、他者危害原則に従う合理的な個人を想定し、かれらによる非協力ゲームのナッシュ均衡点は必ずパレート最適となることを確認する。すなわち「人に迷惑をかけない限り何をしてもよい」という倫理原則は、個人の自由よりもむしろ全員一致性、全体合理性を意味するものであることがわかる。
著者
佐藤 嘉倫
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-14, 1987-10-01 (Released:2009-03-01)
参考文献数
9
被引用文献数
1

本稿の目的は媒介主体と被媒介主体の関係と相互作用に関する対抗的分業論を2人チキン・ゲームとして定式化することである。このための準備作業として、初めに次のことを明らかにする。すなわち媒介主体は(指導,支配)という戦略を取ることができ、被媒介主体は(異議申し立て,防衛)という戦略を取ることができる。そして媒介主体が指導戦略を選択し被媒介主体が異議申し立て戦略を選択する時、対抗的分業が成立する。 しかし対抗的分業はつねに成立するわけではない。このことは(指導,異議申し立て)という状態が両プレイヤーによってつねに選択されるわけではないことを意味する。つまり対抗的分業ゲームは支配戦略のないゲームである。そこで本稿ではこの対抗的分業ゲームをチキン・ゲームとして定式化する。 通常のゲームの規則では、対抗的分業は成立しない。そこで通常のゲームの規則とプレイヤーの行動基準を変更したS. J. Bramsの継起的ゲームを対抗的分業ゲームに適用する。そして東京ゴミ戦争、排ガス規制問題という事例の分析を通じて、対抗的分業が成立・失敗するメカニズムを明らかにする。

1 0 0 0 OA 書評

出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.241-252, 1999-01-31 (Released:2016-09-30)
著者
林 直保子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.19-32, 1993-04-01 (Released:2009-03-31)
参考文献数
3
被引用文献数
4

これまで行われてきた囚人のジレンマ(PD)研究は、PDを孤立した2者関係として捉えるにとどまり、集団内に存在する2者間におこる状況として捉えることをしてこなかった。本稿では、3者以上の集団と、その中に生れる複数のPD関係を考えることにより、従来のPD研究の限界を克服することを目指している。そのために本稿では、集団の各成員が自分のつきあう相手を選択し、相互指名によってPD関係が成立するという状況――「ネットワーク型囚人のジレンマ」を設定する。このような状況では、特定の2者間に将来の関係が保証されていないために、PDにおける戦略的行動によって相互協力関係を築くことは難しくなる。従ってこのような選択的交際状況においては、孤立した2者PDにおける相互協力達成のためには最も有効であるとされてきたtit-for-tat(TFT)戦略は、そのままの形で有効性を発揮することはない。本稿では、ネットワーク型PD状況ではどのような戦略が可能で、また有効なのかということを調べるために、Axelrod(1984)が同一相手との反復PDにおいて行った「戦略のコンピュータ選手権」という方法をネットワーク型PDに用いた。その結果ネットワーク型PD状況で最も有効な戦略は、相手の裏切りに対しては非指名という形で対応するout-for-tat(OFT)戦略であることが明らかにされた。このOFT戦略は、TFTと非常に良く似た性質をもつ戦略であり、対象選択レベルに適用されたTFTと言うことができる。
著者
武藤 正義
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.63-76, 2006

本稿の目的は2つある。第1に、合理的選択理論において利己性について扱いうる4つの立場を区別する基準を示し、そのひとつである社会的動機アプローチの位置を明らかにする。第2に、二者関係における多様な社会的動機(配慮の仕方)を「利他性」と「平等性」という2変数によって表現することにより、13個の典型的な社会的動機間の相互関係を明らかにする。たとえば、「負けず嫌い」は反利他的かつ平等的な動機、「マクシミン主義」は利他的かつ平等的な動機の弱い形態、等がわかる。これらの知見はボランティアや友人関係の分析などに役立つだろう。
著者
内藤 準
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.155-175, 2009

リベラリズムの制度的秩序の基礎である「自由と責任のルール」は,われわれの社会的世界を構成する日常言語に組み込まれている.そのルールに依拠するわれわれの社会は,いかなる秩序のあり方を示すのか.本稿ではまず,リベラル・パラドクスの枠組みを応用して,自由と責任のルールおよび契約の自由からなる制度が,相互行為を規範的に秩序づける仕組みをまとめる.そのうえで,(1)リベラリズムに立脚する「近代市民社会の秩序」の基本的性格を検討する.そして,(2)貧困や格差の文脈における自由と責任のルールの意味と,いわゆる「自己責任論」の問題点を,社会の規範的な秩序形成という観点から,全国調査データの知見もふまえて検討する.分析の結果,(1)近代市民社会の秩序は人びとの十分な自由を前提とすること,その秩序は排除的な性格を持つことが明らかになる.さらに,(2)社会の規範的な秩序形成という観点からみると,拡大する貧困や格差の文脈において自己責任を理由に弱者支援や再分配政策を拒絶することが,むしろ秩序の基礎である自由と責任のルールそのものを掘り崩す可能性があることが分かる.
著者
中村 英昭
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.310-320, 2017 (Released:2018-03-27)
参考文献数
5

平成19年,統計法が60年ぶりに改正され,改正後の統計法(平成19年法律第53号.以下「新統計法」という.)では,統計データの利用促進と秘密の保護に関する諸々の規定が盛り込まれた.政府は,おおむね5年ごとの法定計画である「公的統計の整備に関する基本的な計画」(以下「基本計画」という.)に統計データの有効活用の推進に関する事項を具体的な施策として盛り込み,統計データの二次的利用の促進に努めてきたところである.その後約10年が経ち,平成28年末に経済財政諮問会議が決定した「統計改革の基本方針」に基づき,平成29年1月に統計改革推進会議が設置され,5月には改革の大きな方向性が取りまとめられた.本稿では,新統計法施行後の統計データの二次的利用の状況や課題の検討状況,統計改革の動向や基本計画見直しの議論,今後の方向性等について紹介する.
著者
一針 源一郎
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.93-106, 1998-09-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
11

日本企業のグローバル化で、かつての貿易摩擦よりも深刻な投資摩擦が引き起こされる可能性が高い。そこで、不連続な変化を扱うカタストロフィー理論を応用して、投資摩擦の発生メカニズムを解明し、防止の一助とすることを目的とした。 日本企業の海外進出は、「働き口が多くなる」と一般に歓迎されているが、「競争が激化し自国企業が苦しい」という反対もあり、被投資国の景況の悪化は、歓迎・反対の両方の世論を高める分裂要因であり、不快指数(失業率+インフレ)で表わした。一方日本のプレゼンス拡大は「日本人・製品が増えて欲しくない」という反対を常に高める平常要因であり、日本の直接投資残高の伸び率で示した。 この2つを外生変数とし、日本の投資を歓迎しない人の比率を被説明変数として投資摩擦モデルを作成した。「くさびのカタストロフィー」関数を用い、欧米亜13力国の経済環境と大蔵省「対外直接投資状況」、外務省「対日世論調査」のデータに基づき係数を推計した。 今回の分析では、投資摩擦を2つに分類することができた。(1) 集中豪雨的な企業の直接投資は、やや遅れて「不満型」投資摩擦を引き起こす。(2) 失業率・インフレなどが低くなる経済的好況も、「自立型」投資摩擦のきっかけになる。
著者
田中 愛治 日野 愛郎
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.201-224, 2015

政治学におけるCAI調査は,とりわけ選挙調査の文脈で発展してきた.本稿は,選挙調査におけるCASI調査の取り組みを概観し,CASI調査には,集計の迅速さ,設問や選択肢のランダム化,回答に応じた質問内容のカスタマイズ,回答時間の測定,画像や動画を用いた調査実験の実装,社会的望ましさバイアスの軽減,代表性の担保という7点のメリットがあることを論じる.一方,コストの高さや回収率の低さといったデメリットがあることも指摘する.その上で,回収率の低さというデメリットは代表性を損なうことにつながるのか,そして,CASI調査は,社会的望ましさバイアスを軽減するというメリットをどの程度活かしているのかを,過去に実施された選挙後の世論調査と公式発表されている選挙結果を比較して検証した.その結果,回収率の高低は,必ずしも投票率の乖離(回答データにおける投票率と実際の投票率の差)や得票率の乖離(回答データにおける各党の得票率と実際の各党の得票率の差)に結び付いていないことが明らかになった.一方,CASI調査は,投票率,得票率のいずれにおいても最も選挙結果との乖離が小さい調査モードであることが明らかになった.ただ,コストの高さという課題は残っている.
著者
福井 康貴
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.309-324, 2014

本研究の目的は,自己に対する希望,社会に対する希望,それぞれの規定要因の関係を,日本に居住する中高年者を対象として明らかにすることである.先行研究では,自己に対する希望の規定要因は検討されてきたが,それが社会に対する希望の形成につながるメカニズムは明らかになっていなかった.そこで,2010年に実施された「中高年の生活実態に関する全国調査」のデータを用いて,自己に対する希望と社会に対する希望の関連を,階層や社会関係などの要因に着目して検討した.分析の結果,(1) 自己に対する希望が階層や社会関係などの直接的な影響を受けていること,(2) これらの要因は自己に対する希望を通じて社会に対する希望に間接的な影響を与えていること,(3) 自己に対する希望と社会に対する希望の間には,他の変数を統制したうえでも,相互に高め合う関係があることが示された.以上の結果から,自己に対する希望を規定する社会的な次元の不平等を取り除くことにより,自己および社会に対する希望の格差を解消するという道筋が示唆された.
著者
片岡 栄美
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-20, 1996

本稿は、多様な文化活動に対する文化評価の根底にある認識図式の集団的・社会学的特徴を解明した。主な知見は、以下のとおりである。(1)文化活動の序列評価は異なる社会集団間で共通性が高いが、階層上の地位が高いほど文化弁別力は大きい。(2)社会階層と文化活動のヒエラルヒーは対応し、階層上の地位か高い集団は文化による差異化戦略を採用している。(3)文化評価の構造を検討すると、階層上の地位は文化評価に影響を与え、各階層成員は自らの所属集団の文化を高く、社会的距離のある階層の文化を低く評価することにより、自らが優位となるような評価分類図式を採用する。すなわち文化弁別力の階層差は、客観的な社会経済的な条件のなかから生み出される階級のハビトゥスとなった文化の知覚分類図式である。(4)世代間地位移動が文化評価に与える効果は男女で異なり、男性には文化同化仮説があてはまるが、女性は結婚による下降移動による影響は受けず、出身階層の文化評価パターンを相続する。
著者
中井 豊
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.345-358, 2000
被引用文献数
1

流行には、1960年以降3回あったスカートの流行や、幕末以降4回あった新宗教ブームなど、「ほぼ同一の様式がある程度周期的に普及と沈滞を繰り返す循環型」の流行現象が存在する。<BR> このような循環型流行現象の原因としては、従来いくつかのメカニズムが提案されていたが、本研究では「社会の気質」が周期的に変化している可能性に注目し、石井モデルを拡張したモデルを立てて、気質の周期的な変化が自律的に生じることがあるかどうかを検討した。<BR> 具体的には、石井モデルにおける流行採否戦略の社会的分布を社会の気質と解釈し、それを学習によって変化させるモデルを立ててシミュレーションを行った。その結果、あるパラメーターにおいて、採否戦略の周期的な変動と、それに伴うアイテムの流行の周期的な変化が見出された。<BR> 更に、採用に敏感な者同士のクラスターの発生と消滅が、この変動を駆動していることが分かった。
著者
土場 学
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.157-173, 1996-12-31 (Released:2016-08-26)
参考文献数
8
被引用文献数
6

数理社会学は、社会学を科学として自立化させることをめざす「啓蒙のプロジェクト」として出発した。そのさいそれは、「論理合理主義」のプログラムにもとづき、社会学理論を科学と非科学に峻別し、あわせてこれまでの社会学理論はほとんど非科学的な類似理論であると喝破し、真に科学の名に値する社会学理論の確立を標榜した。しかし現在、数理社会学は社会学のなかで確固たる地盤を築いたにもかかわらず、社会学全体の状況は数理社会学のもくろみどおりにはならなかった。その根本的理由は、論理合理主義のプログラムにこだわるかぎり社会学そのものが非科学にならざるをえず、したがって数理社会学の思い描く社会学理論なるものが多くの社会学者の思い描く社会学理論と乖離していたからである。そもそも、検証(反証)という普遍的基準で科学と非科学をアプリオリに判定するという論理合理主義の科学哲学が厳密には容認できないものであることは今日では明らかである。しかしその一方で、本来、数理社会学のポテンシャルは論理合理主義のプログラムを超えている。すなわち、数理社会学とは、社会学理論としての数理モデルの妥当性を超越的に宣言するのではなく経験的に追求していくプロジェクトであり、その意味で、このプロジェクトは今なお未完なのである。
著者
坂元 慶行
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.75-88, 2001-03-31 (Released:2016-09-30)
参考文献数
37

筆者は、「日本人の国民性調査」に長く携わり、これまで、この調査研究を継続する過程で三つの研究目的(計量的日本人研究、社会調査法の研究、統計解析法の研究)に関して調査の現場でどのような問題に直面し、どのように対処したか(あるいは、どのように対処すべきか)について、さまざまな報告や主張や提案を行ってきた。本稿はそれらの記録である。記録の内容は、計量的日本人研究に関しては、20世紀後半期の日本人の意識動向の概括、社会調査法に関しては、実査を専門調査機関に委託する際の調査結果の連続性に関する問題と対策、統計解析法に関しては、実用的な統計学の構築をめざして、統計モデルと情報量基準によるその評価という立場からの情報量統計学の提唱、等である。
著者
長谷川 計二
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.249-260, 2000

「生活環境主義」、「地域共同管理論」と、社会的ジレンマ研究に代表される数理的アプローチはともに、利用者としての地域住民自身が、いかにして自分たちの居住する地域を再編成し環境を保全していくかを問題とする点で探求の方向性を共有している。本稿は、資源管理問題と環境保全問題の具体的事例を手がかりに、これら諸アプローチ間の相互理解を図り、より一層の対話を促進することを目的としている。「生活環境主義」は、その方法が明確であり、数理的アプローチにおいて、たとえばゲームの構造を事例に即して考察し比較する上できわめて有効である。また「地域共同管理論」は、地域住民による主体的な地域の運営・管理を可能とする条件の解明に取り組んでおり、そこで明らかにされた諸条件は社会的ジレンマの新たな解決可能性を示唆する。他方、数理的アプローチは、地域社会に共通して見られるシステム安定化装置(たとえば、村八分)の存在根拠を示すとともに、地域管理に向けた諸条件の有効性を明らかにすることで、「生活環境主義」、「地域共同管理論」による研究に貢献することができる。
著者
土場 学
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.223-236, 1994 (Released:2016-08-26)
参考文献数
7
著者
太郎丸 博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.287-298, 2000-10-30 (Released:2016-09-30)
参考文献数
59
被引用文献数
4

本稿のねらいは、社会学における合理的選択理論の伝統を概観し、今後の発展の可能性を示すことにある。合理的選択理論は行為の目的合理性を過剰に強調すると同時に、選好と機会構造の形成過程をしばしばブラックボックスのままにしてきたため、社会学の中では異端でありつづけてきた。しかし、マイクロ-マクロ・リンクおよび行為の多元的合理性を梃子にしながら社会批判・政策提言を行っていくことは、社会学の良質の伝統に属する。そして合理的選択理論もそのような良質の伝統に属する。そのことが一見異端とも思える合理的選択理論が社会学の中で発展してきた理由の一つであり、このような伝統を共通の基盤にしながら他の学派との対話も可能であることを示す。