著者
新井 イスマイル
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.3_10-3_22, 2015-07-24 (Released:2015-09-24)

政府・自治体が所有するデータを行政の透明性確保,市民参加の促進,経済活性化を目的に,オープンデータとして公開しようとする動きが2013年度から活発になっている.異業種交流や学生の自主活動のきっかけになると期待できる.オープンデータの活発かつ効果的な利用を実現するには,オープンデータが機械可読であること,また,それらのデータを活かせるソフトウェア技術者の活躍が期待される.2013年度以降のオープンデータに関わる全国の活動状況と今後の課題について,ソフトウェア技術者の視点に立って解説する.
著者
藏本 貴久 奥田 洋司 陳 昱
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.3_120-3_129, 2014-07-25 (Released:2014-09-10)

金融市場は世界恐慌のようなクラッシュを被り,世界経済は大きな打撃を受けてきた.本研究では,そのようなクラッシュと近代の金融市場における重要な取引手法である空売りの関係性に焦点を当てる.FriedmanとAbrahamのモデルには,利得勾配に応じて取引戦略のレバレッジを変化させるポートフォリオマネージャーが存在するが,そのモデルを基礎として,空売りを導入したシミュレーションモデルを構築した.先行研究と同様に,シミュレーション結果と理論解の比較によりモデルの妥当性の検証を行ったうえで,ミクロ–マクロそれぞれのレベルでクラッシュの統計量に対する空売りの影響を分析した.その結果,空売りのある市場では空売りのない市場に比べてボラティリティが2倍になること,空売りによってクラッシュの発生頻度が増加し,空売りが市場を不安定にする可能性を示した.さらに,損失を生じたエージェントが他のエージェントのレバレッジを下げる戦略選択を誘発すること,一方でクラッシュ直後の取引は空売りのある市場の方が活発になることを発見した.
著者
新居 雅行 鄭 顕志 石川 冬樹
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.1_60-1_74, 2014-01-27 (Released:2014-03-27)

筆者が開発したINTER-Mediatorは,データベースを使用しWeb経由でアクセスするシステムの開発に利用するためのフレームワークである.予算規模の小さな組織でも業務システムの開発を円滑にできることを目指して開発された.データの表示や書き込みは手続き的なプログラムを作成しなくても宣言的な記述で実現する.開発作業後での表示項目の追加のような小規模な改変であれば,HTMLでの記述や設定ファイルの修正で行えるので,エンドユーザーやデザイナーによるシステム変更作業が可能となる.本稿では,これらの仕組みを実現するフレームワークのアーキテクチャを解説し,フレームワークを利用して構築したシステムの改変が宣言的な手法によってできる点を議論する.
著者
高野 祐輝 井上 朋哉 知念 賢一 篠田 陽一
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.4_58-4_76, 2010-10-26 (Released:2010-12-26)

分散ハッシュテーブル(DHT)はPeer-to-Peer(P2P)ネットワークを構築する手法の1つであり,スケーラビリティの高いKey-Value型の検索を可能とする.しかしながら,既存のDHTアルゴリズムはNATの問題を考慮しておらず,現実世界で用いるには不十分である.NAT問題は非常に深刻であり,P2Pネットワークアプリケーションを設計・実装する際に最も考慮しなければならない点の1つであるが,既存DHTアルゴリズム・実装のほとんどは,NAT問題について十分に考慮しているとは言い難い.そこで我々は,NATが介在する環境においても安定して利用することの出来るDHTの設計と,実証ライブラリであるlibcageの実装を行った.本論文では,その設計と実装について述べ,評価を行う.なお,libcageのソースコードはインターネット上にBSDライセンスで公開しているため,誰でも自由に利用・改変が可能である.
著者
中村 裕美 宮下 芳明
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.1_65-1_75, 2013-01-25 (Released:2013-03-25)

食メディアに関する研究には,料理情報の共有や調理工程の分析と支援,食事内容の記録や分析,健康維持のための食事環境支援,共食におけるコミュニケーションの分析,支援,味情報の計測や提示などが含まれる.本論文では,近年活発に展開されるようになった情報科学技術を活用した味情報の提示手法を対象に,該当する研究や技術展開を直接提示型と間接提示型の2つに分類し,各分類の特性を議論したうえでサーベイを行った.また,これらの研究領域や技術の今後の動向と食メディアへの貢献について議論した.
著者
我妻 広明
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1_2-1_20, 2011-01-25 (Released:2011-03-25)
被引用文献数
1

コンピュータの分野において,自律分散制御方式は集中型システムの開発・稼働における欠点を補うものとして注目され研究が進められて来た.今やインターネット普及等を背景に,分散した情報を知識として再集約する集合知の仕組みを考える必要性がある.全体機能や目的をシステム自身が再定義する,つまり集団全体が意志決定を行うという観点が導入されつつある.工学化において自明であるべき目的すら再構成されるとすればシステム破綻や暴走のリスクが増すことは疑いない.本論では,現実に自律分散制御の内部機構を持ちながら,自らで目的を定義し意図をもって行動計画を立てる「脳」の機能を工学的に再構成する脳型ロボットの立場から俯瞰し,要素の自律性と全体性創出の関係からある種の集合知を得る工学的方法論を模索したい.そして,ネットワークダイナミクスが発展的でありつつも,破綻に向かわない構成論と関連する「意識」の話題を解説する.
著者
落合 洋文 鈴木 麗璽 有田 隆也
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.1_34-1_42, 2011-01-25 (Released:2011-03-25)

食物網は生態系における捕食-被食関係を描いたネットワークであり,これらのネットワークのトポロジーを考えることで生態系全体の構造と機能を明らかにすることが生態学の1つの基本的課題となっている.そこで,実際の生態系において確認されているネットワーク構造の基本的な特徴のみを用いた単純な進化モデルを用いて,栄養段階における特性が食物網のトポロジーやダイナミクスにもたらす影響を調べた.実験の結果,生態系ネットワークに現れる特徴と定量的・定性的な一致を示し,ネットワーク構造の生成メカニズムの一部を示すことができた.
著者
田辺 良則 高井 利憲 高橋 孝一
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1_2-1_44, 2005-01-26 (Released:2008-09-09)
被引用文献数
1

モデル検査技法は,仕様に対する設計の妥当性検証への適用において,近年大きな成功をおさめている.この技法の適用範囲をさらに広げるためには,状態数爆発問題を解決することが必要である.この問題を解決する方法として注目されている抽象化技法,およびそれを実装したツールを紹介する.
著者
権藤 克彦 冨永 和人
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.2_93-2_99, 2010-04-27 (Released:2010-05-17)

Cプログラム中の#includeの正しさをチェックするツール「簡単#include検査君」を開発した.教科書用の158個の小さなサンプルコードに実験的に適用し,58個のファイルから#includeミスを発見できた.経験として,ツールは#includeミスの発見に非常に有効だったこと,この成功は「使い捨てツール」のアイデアを裏付けること,#includeミスは予想よりもはるかに多かったこと,などを述べる.
著者
西岡 真吾
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.4_87-4_106, 2009-10-27 (Released:2009-11-16)

大規模な文書集合について各種の連想計算を高精度かつ高速に処理することができ,高度な情報検索を必要とする応用プログラムで使用可能な汎用連想計算エンジンGETAを紹介する.GETAの設計にあたって重視した点は(1)大規模な自然言語コーパスを扱えること,(2)様々な応用プログラムで利用できること,(3)ユーザが自由に類似度を定義できること,(4)推定などによらない完全な計算結果を返すこと,(5)高速であることである.また,十分な可用性を確保するためにプラットフォームに対する要求は大容量の主記憶装置と近代的なオペレーティングシステムのみとした.上記5点を満たすために大部分のコードをC言語で記述した.さらに,主記憶装置を節約するためのデータ圧縮機能,高速な計算のための類似度定義からC言語への変換機能などを備えている.GETAは学術用から商用に至るまで様々な応用プログラムで利用されており,数百万件規模の文書集合に対しても実用に耐え得るスケーラビリティを持つ.
著者
風間 一洋 佐藤 進也 斉藤 和巳 山田 武士
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.1_81-1_90, 2007 (Released:2007-06-11)
被引用文献数
1

本論文では,人間関係のネットワークから活発な人間で構成されるコミュニティ構造を互いの重なりを許容しながら抽出するSR-2法を提案する.本手法は,スペクトラルグラフ分析の一手法であり,ネットワーク構造中で他と重なりを持つような結合が密なコア部を抽出できる特徴を持つSR法を,特に共起ネットワークに対して,より詳細な分類ができるように変更したものである.この特性を調べるために,SR-2法に加えてSR法とk-クリークコミュニティ法を,実際のWebデータから抽出した小規模な人間関係に適用して抽出されたノード集合を可視化すると共に,抽出性能を評価する.さらに,より大規模なネットワークとして論文の共著関係を取り上げ,各手法で抽出されるノード集合のサイズの分布を分析する.この結果,SR-2法は,現実の人間の集まりに対応した妥当なコミュニティ構造を抽出できることを示す.
著者
森本 祥一 重松 真二郎 後藤 祐一 程 京徳
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.3_117-3_133, 2006 (Released:2006-09-01)

情報システムの設計・開発において,セキュリティ仕様とその検証は重要な課題となっている.検証を行うには基準が必要であるが,情報システムが備えるべきセキュリティの基準を定めることは難しい.このため本論文では,IT製品や情報システムのセキュリティ評価の国際標準であるISO/IEC15408を基準として採用し,これに基づいた情報セキュリティ仕様の形式手法による検証技法を提案する.本検証技法では,形式的に記述したISO/IEC15408のセキュリティ評価基準を用いて,対象となる情報システムの仕様がISO/IEC15408の基準を満たしているかどうかを定理証明とモデル検査により厳密に検証することができる.

1 0 0 0 OA 型理論I

著者
龍田 真
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.1_25-1_33, 1991-01-14 (Released:2018-11-05)
著者
平賀 正樹
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.2_170-2_178, 1989-04-14 (Released:2018-11-05)

近年,情報処理分野で日本語プログラミング言語が話題になっているが,その中の代表的なものにMindがある.Mindは,もともとForthから派生したパソコン用コンパイラ言語である.そして,その日本語記述能力による初心者用言語というイメージに反して,最近では開発用言語として使用されている場合が増えてきている. 本稿では,このMindの概要を述べるとともにそのプログラム記述能力などについても言及する.またMindによるアプリケーションの開発事例を紹介し,今後の課題も含めて考察する.
著者
萩野 達也
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1_16-1_32, 1990-01-16 (Released:2018-11-05)

カテゴリー理論的関数型言語は,カテゴリー理論に基づいた関数型プログラミング言語で,カテゴリー理論的に随伴関手を使ってデータ型を定義し,その上でプログラムを書くことができる.この言語では元々定義されたデータ型が存在せず,すべて随伴関手の機能を使って定義される.定義可能なデータ型には,終対象,始対象,積,和,関数型,自然数,有限リスト,無限リスト等がある.また,この言語は,制御構造も元々は定義されておらず,データ型の定義と共にそのデータ型に関する基本演算および制御構造が定義される.そして,プログラムの実行のための計算規則は,カテゴリー理論によって,単純な統一されたものとなっている.
著者
佐々 政孝 石塚 治志 中田 育男
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.3_212-3_228, 1993-05-19 (Released:2018-11-05)

1パス型属性文法に基づくコンパイラ生成系Rie(りえ)について述べる.LR構文解析と同時に解析木を作らずに属性評価ができる属性文法のクラスにLR属性文法というものがあるが,Rieはそれに同値類を導入したECLR属性文法というものに基づいている.Rieは属性文法によるコンパイラの記述から1パスのコンパイラを生成する.Rieにより種々の言語処理系が開発されている.生成されたコンパイラは,手書きのものに比べて1.8倍程度の時間で動き,形式的な記述から生成されたコンパイラとしてはかなり効率がよいことが確認された.
著者
丸山 宏
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.3_262-3_271, 1990-07-16 (Released:2018-11-05)

自然言語における組合せ的な数の構文的曖昧さを一つの制約充足問題として表現するため,我々は制約依存文法を開発した.本論文では,制約依存文法の定義と,その弱生成力について論じる.我々は,arity=2,degree=2の制約依存文法が,その弱生成力において文脈自由文法を真に含むことを示す.
著者
北川 貴之 橋本 憲幸 吉田 和樹 位野木 万里
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.3_93-3_98, 2010-07-27 (Released:2010-08-07)
被引用文献数
1

高品質な要求定義のためには,要求の抽出,仕様化,検証のノウハウが必要になる.しかし,そのようなノウハウは,ベテラン技術者の暗黙知となっている.そこで,本稿では,要求定義ノウハウを形式知化し,組織の資産(アセット)として共有する手法を提案する.本手法では,成功事例の要求仕様書の分析とベテラン技術者へのインタビューを通して,要求定義ノウハウを抽出した.これらのノウハウを,要求仕様メタモデル,要求仕様テンプレート,要求仕様プロダクトおよびプロセス検証ルールに分類して,形式知化した.