著者
指山 浩志 辻仲 康伸 浜畑 幸弘 松尾 恵五 堤 修 中島 康雄 高瀬 康雄 赤木 一成 新井 健広 星野 敏彦 南 有紀子 角田 祥之 北山 大祐
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.7, pp.440-443, 2010 (Released:2010-07-02)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1

症例は53歳の男性.工事現場のコンクリートから突出した鉄筋の上に座り受傷した.その後肛門痛があったが軽度であったため3週間放置し,症状悪化後近医を受診,外傷性直腸損傷による直腸周囲膿瘍の診断にて当院紹介入院となった.入院時は肛門痛著明で歩行困難であり,脱水状態であった.直腸指診では直腸後壁側に半周性の直腸壁欠損があり,外傷性直腸穿孔の診断で,双口式人工肛門を造設し,直腸周囲膿瘍のドレナージ術を施行した.未治療の糖尿病があり,膿瘍の改善が不良で治療に難渋したが,直腸穿孔部が閉鎖していることを確認の上,術後7カ月後人工肛門を閉鎖した.杙創性直腸穿孔は通常受傷後直ちに治療される場合が多いが,経肛門的な直腸損傷の場合,症状が乏しい場合があり,本症例のように受診が遅れることがある.受診の遅延は治療の難渋につながり,合併症の頻度を高めるため,早期の診断,治療が予後の改善には重要である.
著者
高野 正太 辻 順行 山田 一隆
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.8, pp.530-533, 2015 (Released:2015-08-04)
参考文献数
23

症例は64歳女性.肛門痛,会陰痛を主訴に受診し肛門診,肛門指診,肛門鏡診および経肛門超音波検査にて異常所見を認めず機能性直腸肛門痛と診断された.ロキソプロフェンナトリウム錠,ジクロフェナクナトリウム坐剤,トリベノシド・リドカイン軟膏による保存療法を施行し疼痛は落ち着いていたが,1年後に疼痛増悪した.両側脛骨神経刺激療法を開始し週2回,計12回施行した.Visual analog scale for painは治療前8.3から治療後0へ減少,1ヵ月間で疼痛を感じた日数は治療前30日から0日へ減少し,また会陰痛も消失した.脛骨神経刺激療法は簡便に施行でき侵襲も少なく,機能性直腸肛門痛の治療の選択肢のひとつと考える.
著者
味村 俊樹 本間 祐子 堀江 久永
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.583-599, 2019 (Released:2019-11-15)
参考文献数
58
被引用文献数
6 2

2017年に本邦初の慢性便秘症診療ガイドラインが発行され,その中で「便秘」は,「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義された.また便秘症は,症状によって排便回数減少型と排便困難型に,病態によって大腸通過遅延型,大腸通過正常型,便排出障害に分類された.慢性便秘症の病態は多数あるので,正しい診断に基づいて適切に治療する必要がある.初期診療では,症状と身体診察で排便回数減少型と排便困難型を鑑別した上で,食事・生活・排便習慣指導や慢性便秘症治療薬で治療する.それで症状が改善しなければ,専門施設で大腸通過時間検査や排便造影検査にて病態を診断するが,その際には,真の便秘ではない機能性腹痛症,機能性腹部膨満症,排便強迫神経症を鑑別することが重要である.専門的治療にはバイオフィードバック療法,直腸瘤修復術,ventral rectopexy,結腸全摘・回腸直腸吻合術などがある.
著者
田近 正洋 田中 努 石原 誠 水野 伸匡 原 和生 肱岡 範 今岡 大 小森 康司 木村 賢哉 木下 敬史 山雄 健次 丹羽 康正
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.900-907, 2015 (Released:2015-10-31)
参考文献数
34
被引用文献数
3 3

【目的】家族性大腸腺腫症(FAP)に対する大腸全摘術後に造設された回腸嚢における腺腫や癌の発生について解説する.【方法】FAP術後の回腸嚢に発生した腺腫あるいは癌に関する36論文をreviewし,その発生頻度,特徴,サーベイランスの方法について自験例も含めて検討した.【結果】回腸嚢における腺腫発生頻度は6.7%~73.9%で,回腸嚢造設から5年,10年,15年で,それぞれ7~16%,35~42%,75%と経時的に増加していた.癌の発生は22例の報告があり,発生までに術後中央値で10年(3~23.6年)を要していた.サーベイランスに関しては,術後6~12ヵ月ごとに内視鏡を行っている報告が多く,適切なサーベイランスを行う上では,最適な腸管洗浄とインジゴカルミンの使用が重要である.【結論】FAP術後の回腸嚢には,高率に腺腫,ときに癌が発生するため,術後早期からの定期的な内視鏡サーベイランスが重要である.
著者
田上 創一 佐藤 裕二 村田 祐二郎 服部 正一 洲之内 廣紀
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.27-32, 2008 (Released:2008-10-02)
参考文献数
27
被引用文献数
3 1

虚血性腸炎は,一般に保存的に軽快するが,壊死型は不可逆的で緊急手術適応である.原因は,動脈硬化など血管因子と便秘·細菌など腸管因子が関与するとされるが,特定し難い.我々は,救命しえた3例の壊死型虚血性大腸炎を経験し,非閉塞性腸管虚血症(NOMI)との関連を検討した.3例の虚血部位は,いずれも下腸間膜動脈領域に限局し,30, 70, 60時間後に全身状態の改善を待って壊死腸管切除を施行した.術後,3例それぞれ腸管内圧上昇·外傷性ショック·腸内細菌,糖尿病による動脈内膜肥厚·狭小化と便秘·腸内細菌,動脈硬化の進行による狭義の腸管虚血症の悪化と便秘が推定された. 一方,NOMIは,心疾患など高危険群を原因に血管攣縮の結果,再灌流障害から広範に壊死に至る疾患で,診断·治療には血管造影も有効とされる.治療法,生存率,術後Quality of life(QOL)を評価するために,二者の定義を明確にする必要があると思われた.
著者
安部 達也 鉢呂 芳一 海老澤 良昭 菱山 豊平 國本 正雄
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.6-10, 2016 (Released:2015-12-24)
参考文献数
15
被引用文献数
4 3

目的:新規便秘治療薬であるルビプロストンの有効性と副作用について検討した.方法:慢性便秘症に対してルビプロストンを投与した133例(女性73例,平均65.0歳)を対象とした.投与開始から2週間観察してConstipation scoring system(CSS)の変化と副作用について検討した.成績:CSSの全8因子のうち,排便回数,排便困難,残便感,腹痛,排便時間,排便失敗回数の6因子が有意に減少し,合計点はベースラインの10.05から7.60に有意に改善した.55例(41.4%)に副作用を認め,36例(27.1%)が副作用のために内服を中止した.副作用としては悪心(24.1%)と下痢(16.5%)が多く,悪心の頻度は男性よりも女性で高かった.結論:ルビプロストンは排便回数を増加させ,便秘の諸症状を改善することが示された.女性は悪心を起こしやすいため,適応は慎重に判断すべきである.
著者
小村 憲一 杉山 順子
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.162-169, 2022 (Released:2022-03-30)
参考文献数
15

目的肛門科医院における「肛門が臭う」という主訴患者に対しての治療を報告する.対象と方法2年間で19名の患者を対象とし,肛門疾患があれば手術,薬物治療,希望者に肛門管内低周波電気刺激療法,骨盤底筋体操指導を行った.結果19名中10名に症状の改善を認めた.内訳:手術は3例に行い,全例改善した.電気刺激療法は11例に行い,肛門管内随意収縮圧が90mmHg未満の4例は骨盤底筋体操の指導も同時に行い全例改善した.肛門周囲皮膚炎,直腸瘤の1例,慢性裂肛の1例は,薬物治療で改善.肛門に何の異常も認められなかった10名中9名は改善せず,改善した1例は海外移住することで改善していた.結論肛門に器質的疾患を有する肛門が臭うという主訴患者は,手術,薬物治療を行えば,改善する可能性がある.また,肛門管内随意収縮圧が90mmHg未満の女性患者には,電気刺激療法+骨盤底筋体操指導は試みられて良い方法である.
著者
梁井 俊一 菅井 有 松本 主之
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.599-605, 2021 (Released:2021-11-29)
参考文献数
63

免疫チェックポイント阻害薬(immune-checkpoint inhibitors:ICI)が悪性腫瘍の標準治療となるに伴い,免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)が注目されている.全身諸臓器の中で,消化管はirAEの好発部位であり,なかでも大腸が最も高率である.ICI関連大腸炎の内視鏡所見は血管透見の消失,顆粒状粘膜,発赤,粘液付着,浮腫性粘膜,びらん,潰瘍などであり,病理学的所見として粘膜固有層の拡張,好中球の上皮内浸潤,陰窩の歪み,陰窩膿瘍および顕著なアポトーシスが認められる.このように,ICI関連大腸炎の診断には内視鏡検査と生検が必須であるが,重症度は患者により大きく異なる.また,副腎皮質ステロイドや生物学的製剤などの免疫制御療法を要する重症例も存在するため,本症を見逃さないことが重要である.
著者
豊田 和広 楠部 潤子 高橋 忠照 池田 昌博 徳本 憲昭
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.137-140, 2008 (Released:2008-10-02)
参考文献数
10

消化管のストーマはクリーブランドクリニックの原則に基づき臍を避けた下腹部に造設されることが多いが,臍部にストーマを造設し良好なケアができた症例を経験した.症例は74歳,女性.既往に慢性腎不全,貧血,洞不全症候群,慢性心不全,脳梗塞後遺症が存在した.横行結腸癌による大腸閉塞で入院となったが全身麻酔下に切除術を行うにはリスクが高いと判断し,局所麻酔下に横行結腸双孔式ストーマ造設術を行うこととした.患者は小柄痩せ型であり,面板が貼付できる平面を得ること,ほぼ寝たきり状態であることなどを考慮し臍部にストーマを造設した.術後経過は良好で,家族によるストーマケアができるようになり退院された.近年結腸ストーマを造設する機会は減少したが,症例によっては臍部がストーマ造設部位の良い選択肢になりうると考えられた.
著者
伊藤 佳之 加藤 俊夫 毛利 智美 入山 拓平 深谷 良 重盛 恒彦 伊藤 智恵子
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.60-64, 2009 (Released:2009-01-05)
参考文献数
8

糞線虫流行地域での生活歴を有し,成人T細胞白血病ウイルスキャリアでもある56歳男性に見られた糞線虫大腸炎の1例を報告する.この症例は,左側結腸に優位であるが,全大腸にわたって直径5∼10mmの頂部に陥凹を有する丘状発赤がみられるという特異的な内視鏡像を示した.同様の内視鏡所見を示したのは文献上1例が報告されているのみで,本例は大腸病変の内視鏡診断上有意義な所見と考えられる.
著者
土屋 剛史 八木 貴博 塚本 充雄 福島 慶久 島田 竜 岡本 耕一 藤井 正一 野澤 慶次郎 松田 圭二 石田 剛 斉藤 光次 橋口 陽二郎
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.374-378, 2016 (Released:2016-06-24)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

症例は50歳,女性.検診で上部消化管造影検査施行後7日目に,急激な腹痛が出現した.前医に緊急入院となったが,排便なく,貧血の進行も認めたため,当院へ転院となった.腹部CT検査で,S状結腸周囲に腹腔内遊離ガス像と,腸管外へのバリウムの漏出を認めた.また,骨盤底には強いアーチファクトを引く巨大なバリウム陰影を認めた.下部消化管穿孔疑いにて,同日緊急手術を施行した.術中所見では,S状結腸の腸間膜側へ穿孔を起こしており,同部では壊死性の変化を伴っていた.また,直腸内には鶏卵大の硬い異物を触知した.ハルトマン手術,腹腔ドレナージを施行した.直腸内異物を用手的に肛門から排出させると,バリウム塊であった.標本上は,34mm大の穿孔部を認めた以外,憩室や腫瘍性病変は指摘できなかった.バリウムによる上部消化管造影検査後の大腸穿孔はまれであるが,重篤な転帰をとる場合もあるため,若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
日山 亨 國弘 真己 朝山 直樹 卜部 祐司 岡信 秀治 小野川 靖二 國弘 佳代子 桑井 寿雄 児玉 美千世 佐野村 洋次 永井 健太 濱田 博重 古土井 明 実綿 倫宏 毛利 律生 吉岡 京子 田中 信治 岡 志郎
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.76, no.7, pp.467-479, 2023 (Released:2023-06-29)
参考文献数
101

プロバイオティクスは日常診療において頻用されているが,現在,その使用ガイドラインは作成されていない.そのため,「広島大学消化器内科関連病院プロバイオティクス使用ガイドライン」を作成した.実地診療における疑問や問題を取り上げ,7(実質10)項目のクリニカルクエスチョンを決定した.作成に当たっては「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0」に従い,推奨の強さとエビデンスの質を示した.なお,この領域における本邦からのメタアナリシスなど質の高い報告は少なく,委員のコンセンサスを重視せざるを得ない部分も多かった.ガイドラインは現時点でのエビデンスの質に基づいたものであり,医療の現場で患者と医師による意思決定を支援するものである.個々の患者に応じて,柔軟に対応する必要がある.
著者
谷 友之 太田 智之 武藤 桃太郎
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.315-319, 2008 (Released:2008-10-02)
参考文献数
13
被引用文献数
1

症例は21歳,男性.右下腹部痛を主訴に来院した.血液検査では炎症マーカーの軽度上昇がみられ,腹部CT検査で右下腹部にtarget signを認めたため回盲部腸重積症と診断した.その後の大腸内視鏡検査では虫垂開口部を中心とした発赤の強い粘膜下腫瘍様隆起を認めたため,虫垂炎による虫垂重積症と診断した.1週間の保存的治療により重積所見の改善を認めた.その後外科的に虫垂切除術を施行したところ,病理組織学的結果は特に重積の核となるような器質的疾患をともなわない急性蜂窩織炎性虫垂炎であった.虫垂重積症は成人腸重積の中で頻度はまれだが,原因として本例のような急性虫垂炎の可能性も考慮する必要があると考えられた.
著者
高橋 慶一 山口 達郎 夏目 壮一郎 中守 咲子 小野 智之 高雄 美里 中野 大輔
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.467-474, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
17

大腸NET(neuroendocrine tumor)の外科治療で局所切除を行うか,リンパ節郭清を伴う腸管切除を行うかしばしば術式選択に悩む.リンパ節転移の危険性が高ければ,後者の手術が必要になる.術前CTでの転移リンパ節は直腸癌に比べて小さい傾向があり,術前に転移リンパ節を的確に指摘することは困難である.そこで,リンパ節転移予測危険因子を国内のアンケート調査387例で検討し,腫瘍径10mm以上,表面陥凹あり,NETG2,pT2以深,脈管侵襲陽性の5つの因子が抽出された.これらの因子数別のリンパ節転移率は,予測危険因子なし:0.7%,1因子:19.1%,2因子:20.7%,3因子:61.9%,4因子:75.0%,5因子:75.0%で,3因子以上では高いリンパ節転移率を示した.大腸NETの外科治療ではこれら5つのリンパ節転移予測危険因子を念頭に置き,手術方法を決定することが推奨される.
著者
斉藤 裕輔 藤谷 幹浩
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.458-466, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
24

大腸,特に直腸の黄色調の粘膜下腫瘍をみた際にはneuroendocrine tumor(NET)は一番の鑑別にあがり,色素散布を行い超音波内視鏡検査を併用して診断することが望ましい.大きさ10mm未満で表面に陥凹や潰瘍を認めず,T1(SM)に留まっている病変は内視鏡切除の適応である.大腸NETに対する内視鏡切除法として通常のスネアポリペクトミーやEMRは垂断端陽性率が高率となるため適さない.2-チャンネル法,キャップ法(EMRC),結紮法(ESMR-L),さらにはESDによる切除が推奨される.施設や施行医の技量を十分考慮した上で,それぞれの内視鏡切除法の利点を生かした治療法を選択する必要がある.内視鏡切除後はリンパ節転移の危険因子について評価し,患者の年齢,全身状態・合併症を考慮した上で追加治療の是非を決定する.NETに対する内視鏡切除は適応病変において良好な成績と予後が報告されている.
著者
河内 洋
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.452-457, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

本邦の大腸NETは後腸系に属する直腸原発が90%以上を占め,Chromogranin Aの陽性率が低いなど,中腸系NETとは異なる免疫組織化学的特徴がある.2019年に発刊された消化器WHO分類にてNET亜分類の変更が行われ,旧版の増殖指数によるものから,細胞異型度や組織分化度などの組織学的所見と増殖指数を組み合わせたものへ変更された.これにより,増殖指数の高いNETと,ゲノム異常や薬物治療反応性の異なる高悪性度の神経内分泌癌とが明確に区別された.本邦の大腸癌取扱い規約では,以前から両者を明確に区別する立場をとっており,新WHO分類は本邦の立場に近くなった.近年では,増殖指数以外のバイオマーカーの報告も散見され,多因子の解析による,適切な治療戦略の確率が期待される.虫垂杯細胞カルチノイドは,新WHO分類では虫垂杯細胞腺癌に名称変更され,NETとは別の腫瘍であることが明確になった.
著者
小林 清典
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.442-451, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
24

本邦では大腸Neuroendocrine tumor(NET)の病変部位は直腸に多く直腸下部に好発する.50歳台に多く,性別は男性優位である.大腸NETに特徴的な自覚症状はない.直腸NETは10mm以下の小病変で,粘膜下腫瘍様を呈し無茎性隆起の場合が多い.内視鏡所見では,腫瘍は黄色調で,表面血管の拡張を伴う場合が多い.超音波内視鏡では,内部が低~等エコーで境界明瞭な腫瘤像として描出され,深達度診断に有用である.直腸NETは,肉眼型や腫瘍径が深達度やリンパ節などへの転移の危険性と密接に関係しており,亜有茎性の肉眼型や中心陥凹,腫瘍径が10mm以上の場合は,固有筋層以深への浸潤や転移の危険性が高まる.直腸NETは単発が多いが,多発する場合もあり注意が必要である.予後については,直腸NETより結腸NETのほうが不良との報告があるが,今後多数例での検証が必要であると考える.
著者
瀧上 隆夫 嶋村 廣視 根津 真司 鈴木 健夫 谷浦 允厚 中村 峻輔 藤本 卓也 竹馬 彰 竹馬 浩 森谷 行利
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.199-217, 2022 (Released:2022-04-27)
参考文献数
30

痔瘻の成因は,今ではcrypt-glandular infection theoryが定説であり,治療の原則は原発口(anal crypt),原発巣(anal gland, primary lesion)の完全除去である.痔瘻の原発巣に対する考え方も,坐骨直腸窩痔瘻では従来のanal crypt─内外括約筋間─Courtney's space(原発巣)の考えから新しい概念,後方深部隙(PDS)の存在の提唱により大きく変わった.痔瘻の初発症状の直腸肛門周囲膿瘍は,診断すれば抗血栓薬の服用の有無,基礎疾患の有無にかかわらず,即,切開排膿が原則である.排膿後の痔瘻への移行状態をみて手術を決める.痔瘻手術の基本は開放術式であるが,前方,側方のものは肛門括約筋の損傷を考慮して術式を決める必要があり,根治性,肛門機能温存のバランスを重視した術式を選択することが大切である.
著者
桑原 明史 須田 武保 飯合 恒夫 畠山 勝義
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.21-26, 2009 (Released:2009-01-05)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

新潟県における大腸内視鏡検査関連の偶発症の実態を明らかにするため,アンケート調査を用いた検討を行った.対象は2000∼2004年に新潟大腸肛門病研究会の13幹事施設で行われた大腸内視鏡検査症例である.検査総数は,85,507件(観察のみ40,149件: 処置あり45,358件)であった.偶発症の発生頻度は,全体で198件,0.23%に認められ,処置あり群で8倍高くなっていた(観察のみ0.05%,処置あり群0.39%).偶発症の内訳は出血80.3%と穿孔13.6%が多く,発生頻度は出血0.19%,穿孔0.03%であった.出血の原因手技はEMRが76.7%で,治療はクリッピングが66%に行われていた.穿孔例の部位は96.3%が左側結腸であり,59.3%が観察行為のみで起きていた.穿孔に対する処置は85.2%で緊急手術が施行されていた.偶発症での死亡例は0.002%であり,いずれも穿孔例であった.