著者
小林 絢三 北野 厚生 山口 勝治 水野 滋 溝口 靖紘
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.195-202,257, 1976 (Released:2009-06-05)
参考文献数
38

X線,内視鏡ならびに生検により診断し得た潰瘍性大腸炎15例,大腸結核3例,ンクロー病4例.ベーチエット病1例,計23例を対象として,主として細胞性免疫の立場から検討を加えた。潰瘍性大腸炎においてはT-cell populationはもとよりその機能も対照群より低下し,T-cell系の障害を支持する成績を得た。病期による差ではT-cell機能は活動期では非常にぱらつきがあり,免疫学的に不安定であることを示すが寛解期に入ると,その分布の巾が狭くなり病態として落着いた状態となると考えられる。これに対し,大腸粘膜なちびに菌抗原に対しては陽性を示すものが多いことが特徴づけられる。クローン病においては病巣は小腸にみられたが,全例T-cell系の障害を示し,その程度は潰瘍性大腸炎におけるそれよりも強かった。また,大腸結核症全例にPHA responseが高い結果が得られた。
著者
牧野 哲也 菊地 誠 松能 久雄 小西 二三男
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.46, no.7, pp.904-908, 1993 (Released:2009-06-05)
参考文献数
15
被引用文献数
2

巨細胞封入体を生検組織中に認めた潰瘍性大腸炎重篤例を報告した,症例は73歳の女性で,平成3年5月下痢症状を主訴に近医受診し,精査の結果初めて潰瘍性大腸炎と診断された.2カ月後,症状は再燃増悪し,直腸から下行結腸に至る高度の炎症性変化と生検組織中の巨細胞封入体が認められた.全身的にウィルス学的検索を行ったが,全身感染は証明されず,ulcerative colitis(以下UCと略す)に併発した大腸のサイトメガロ限局感染と考えた,サイトメガロ感染はUC症状増悪の原因と考え,抗ウィルス療法を併用し,症状の改善をみた.
著者
梅枝 覚 松本 好市 北川 達士 野地 みどり 山本 隆行 石井 雅昭 成田 清 鳥井 孝宏 肥満 智紀 山崎 学
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.838-845, 2010 (Released:2010-10-15)
参考文献数
28
被引用文献数
1

環状自動縫合器(circuler stapler,PPH=procedure for prolapse and hemorrhoids)による痔核脱肛の手術は,1998年Longoによって発表された手術(粘膜環状切除術,以下PPH)であり,痔核口側の直腸粘膜を環状切除し,痔核脱肛を吊り上げ固定する術式で,疼痛が少なく,QOLにすぐれているため世界で広く行われるようになった.本邦でも2001年より各施設で施行され,術後疼痛の軽減,早期社会復帰,再発率において結紮切除術と比べても差がない,などとIII度内痔核には有用な手術術式と考えられる.一時期PPHによる合併症も報告されたが,PPH機種の改良,手技の向上により合併症が減少した.PPHの特性から,すべての痔核に適応はなく,適応基準を厳格にして症例を選択する必要がある.術者は他の治療法であるLEやALTAにも精通し,長所短所を理解のうえ,痔核・脱肛の適応を的確に判断出来る能力があり,PPHの特性と実技を充分会得したうえで行う手技である.適応症例においては非常に有用な手術と思われる.
著者
山名 哲郎 大堀 晃裕
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.819-825, 2010 (Released:2010-10-15)
参考文献数
47
被引用文献数
2 2

痔核の疫学に関する報告は少ないが,アメリカ国内のアンケート調査では痔核の有病率は4.4%と推定され,年齢層は男女とも45歳から65歳が最も多い.病院受診者のデータベースでは痔核による受診者は年々減少傾向にある.痔核の成因については歴史的にみると18世紀から19世紀にかけて静脈組織の異常な拡張による静脈瘤説や,海綿状血管組織の過形成説などの血管系に関する諸説が唱えられてきた.しかし1970年代以降はこれらの血管を起源とする説の病理学的根拠が乏しいことが報告され,かわりに結合組織や筋組織などの支持組織減弱による肛門上皮滑脱説が有力視されるようになった.痔核の病因はその病態の多様性と複雑性から現在でもいまだに解明されてはいないが,静脈還流障害に起因するうっ血や出血症状や,支持組織の減弱化に起因する脱出症状という病態からみて,血管組織と結合組織のいずれの因子も痔核の病因に関わっていると考えるのが妥当であると思われる.
著者
宮崎 道彦 豊原 敏光 黒水 丈次
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.267-272, 2004 (Released:2009-06-05)
参考文献数
16

当院で1991年から2001年の期間に外科的に治療した臀部膿皮症(慢性化膿性汗腺炎)18例をretrospectiveに検討した.再発は認めなかった.年齢は25歳から74歳で平均38±12歳,うち10例(56%)は40歳未満であった.病悩期間は5例(28%)が10年以上であった.5例(28%)は肛門周囲膿瘍または痔瘻を合併していた.痔瘻(肛門周囲膿瘍)の合併症例は複雑で病巣把握が困難であることが多く,手術回数(平均5回)や入院期間(平均95日)に影響をおよぼすため慎重に対処しなければならない.
著者
内山 正一 小熊 将之 山本 英希 重光 剛志
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.7, pp.383-387, 2005 (Released:2009-06-05)
参考文献数
14
被引用文献数
1 2

軟膏の長期使用が原因と考えられる直腸Oleogranuloma(OG)を経験したので報告する.症例は64歳男性,排便困難を主訴に初診.15年前にWhitehead手術の既往があるが痔の注射療法の既往はない.1年9カ月間,痔核の脱出と排便時出血に対し,強力ポステリザン軟膏を使用.2001年9月頃より,排便困難と軟膏挿入時痛出現.肛門指診で,粘膜の脱出と,下部直腸左前壁に弾性硬の3cm大の粘膜下腫瘍を触知した.痔核切除および腫瘍の組織診施行しOGの診断で経過観察.軟膏中止後2カ月後のCT検査では腫瘍は縮小し,排便困難も軽快していた.さらに術後3年を経過し排便困難は無くなり,腫瘍は1cm以下に縮小していた.坐薬または軟膏が発症原因と考えられるOGの報告は現在までに8例でこれを含め直腸OG25例の発生部位,腫瘍径,自然経過を検討した.
著者
佐野 弘治 末包 剛久 上田 渉 大庭 宏子 青木 哲哉 大川 清孝
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.224-228, 2012 (Released:2012-04-03)
参考文献数
9

症例は43歳女性.17年前に前置胎盤で帝王切開術を受けている.某年7月から下痢と血便があり,前医を受診した.翌月に大腸内視鏡検査(CS)を施行し,直腸に隆起性病変をみとめたため,精査目的で当科を受診した.CSでは,横行結腸中央部に狭窄を伴う表面顆粒状隆起性病変,S状結腸に粘膜下腫瘍様隆起,下部直腸に表面顆粒状の隆起性病変がみられた.腹部造影CT検査では,横行結腸に壁肥厚と壁内部に低吸収域がみられた.子宮は肥大し内部に低吸収域が多発し,子宮背側周囲に多胞性嚢胞がみられたため,子宮内膜症が疑われた.注腸検査では,横行結腸中央部に約6cmにわたる狭窄と鋸歯状の陰影欠損,S状結腸に壁の伸展不良,直腸に壁のひきつれと隆起を認めた.2ヵ月後CSを行い,横行結腸中央部,下部直腸からの生検で腸管子宮内膜症と診断した.横行結腸に病変をみとめた腸管子宮内膜症は,本邦では2例目で非常に稀であり,文献的考察を加えて報告する.
著者
河村 卓二 趙 栄済 宮田 正年 酒田 宗博 河端 秀明 郡 靖裕 小川 真実 森川 宗一郎 芦原 亨
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.142-145, 2007 (Released:2008-10-31)
参考文献数
12

1988年8月から2004年8月までの16年間に, 当科において15歳以下の小児32症例に全大腸内視鏡検査47回を含む計143回の大腸内視鏡検査を施行した. 30例は鎮静剤の静脈投与を用いて内視鏡室で, 2例は全身麻酔を用いて手術室でそれぞれ施行した. 挿入および観察は無透視一人法で行った. 血便症例は22例で, 内視鏡施行により15例 (68.2%) で出血源の同定が可能であった. 全大腸内視鏡検査は試行した47回においてすべて可能であり, 回盲部までの平均到達時間は10分22秒であった. 成人と同様に腸管洗浄液を用いた場合は前処置の効果は良好となったが, 小児での腸管洗浄液に対する受容性は低かった. 塩酸ペチジンにミダゾラムを併用した前投薬の鎮静効果はおおむね良好であり, 3例の治療を含む全検査で偶発症を認めなかった. 小児に対する大腸内視鏡検査は適正な前投薬の使用で安全に施行可能であり, 診断および治療に有用である.
著者
味村 俊樹 山名 哲郎 高尾 良彦 積 美保子 遠藤 智美 勝野 秀稔 松岡 弘芳 大毛 宏喜 角田 明良 吉岡 和彦 貞廣 荘太郎 前田 耕太郎
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.109-117, 2012 (Released:2012-03-27)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

目的:多施設共同による本邦における便失禁診療実態調査に伴って,仙骨神経刺激療法(sacral nerve stimulation,以下SNS)の適応に関して検討した.方法:2009年の1年間に便失禁を主訴に9施設を初診した患者を対象に, SNSの適応に関して調査した.結果:対象症例は293例で,女性214例,初診時平均年齢65歳であった.266例(91%)に何らかの治療が行われ,症状改善率44~93%と,ある程度良好な成績をおさめていた.しかしそれでもSNSの適応に関して,「良い適応」8例,「適応になるかも知れない」73例と合計81例(28%)に,更なる治療としてSNSの適応ありとされていた.適応ありとした理由は,「現在の治療法では症状の改善が不十分だから」が47%,「SNSの効果に期待するから」が38%であった.結語:多くの症例に検査や治療が行われていたが,症状改善が不十分でSNSの効果に期待する症例が28%いた.今後,本邦へのSNSの導入・普及によって便失禁治療の選択肢が拡がることを期待する.
著者
中村 浩之 藤本 三喜夫 宮本 勝也 中井 志郎
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.6, pp.320-323, 2008 (Released:2008-10-02)
参考文献数
21

症例は14歳の男性.平成18年6月より腹痛,嘔気,嘔吐を主訴に近医受診.腸重積症と診断されたため,加療目的のため当院へ紹介された.腹部は平坦,軟で,右下腹部に腫瘤を触知したが,下血を認めなかった.腹部造影CT上,回盲部腸重積症の所見であった.注腸による整復を試みたが,不成功のため,緊急手術を施行した.腹腔内を検索したところ,盲腸および上行結腸は後腹膜への固定が不十分であった.回腸が約10cmの長さにわたって上行結腸に重積しており,Hutchinson手技で用手的に整復した.同部位に腫瘤,癒着,捻れなどはなく,血行障害も認めなかった.術後4日目の下部消化管内視鏡検査で回腸末端にリンパ濾胞の過形成を認めるのみであった.回盲部および上行結腸の固定不全という広義のmalrotationとintussusceptionとの合併はWaugh's syndromeといわれ,稀な病態である.
著者
岡崎 啓介
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.339-345, 2010 (Released:2010-05-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2 2

放射線不透過マーカーを用いて大腸通過時間を測定し,便秘の質的診断を試みた.健常成人ボランティア43名を対象とし,1,2,3日目に放射線不透過マーカー(Sitzmarks)を服用,4,7日目に腹部単純写真を撮影,Metcalfらの方法で全大腸通過時間,大腸各区域(右側,左側,S状結腸直腸)通過時間を測定した.質問アンケートと排便状況(回数,ブリストルスケール)について自記させた.通過時間は中央値で示した.男性(n=13)はすべて便秘(-)で,全大腸通過時間は7.2h,右側2.4h,左側3.6h,S状結腸直腸2.4h.女性で便秘(-)(n=24)は全大腸31.8h,右側4.2h,左側9.0h,S状結腸直腸11.4h.女性で便秘(+)(n=6)は全大腸110.4h,右側30.6h,左側36.6h,S状結腸直腸30.0hであった.大腸通過時間が40h超の延長例を類型化すると,左側通過時間を最長とするcolonic inertia型とS状結腸直腸通過時間を最長とするoutlet obstruction型に分類できた.この分類は排便回数やブリストルスケールでは判別できず,放射線不透過マーカーによる質的診断の有効性が示唆された.
著者
永田 浩一 伊山 篤
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.133-139, 2011 (Released:2011-03-03)
参考文献数
27
被引用文献数
2

目的:大腸3D-CT検査の炭酸ガス手動注入時に直腸内圧をモニターすることは,腸管拡張程度の改善に寄与するか比較検討した. 方法:大腸3D-CT検査を施行した合計140例を対象として圧力計未使用群70例,炭酸ガス手動注入時に圧力計で直腸内圧をモニターした圧力計併用群70例の2群に分けた.大腸を6区分に分類し,2体位分で合計1,680の大腸区分の腸管拡張程度を評価者2名が4段階の腸管拡張スコアで評価した.圧力計併用群では,ガス注入中止時の直腸内圧を記録した. 結果:圧力計併用群では圧力計未使用群に比較し,両体位でガス注入量が増加し,2体位目の腸管拡張程度では下行結腸を除いた大腸5区分で有意な改善がみられた.ガス注入中止時の平均直腸内圧は,1体位目が32.6mmHg,2体位目は31.2mmHgであった. 結論:大腸3D-CT検査の送気時に直腸内圧をモニターすることは,腸管拡張程度の改善に有用である.