著者
高野 正博 緒方 俊二 野崎 良一 久野 三朗 佐伯 泰愼 福永 光子 高野 正太 田中 正文 眞方 紳一郎 中村 寧 坂田 玄太郎 山田 一隆
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.134-146, 2010 (Released:2010-03-05)
参考文献数
34
被引用文献数
1 1

会陰部に慢性の鈍痛を訴える症例があり,括約不全・排便障害・腹部症状・腰椎症状を加え5症候が症候群を形成する.我々は2001~2005年に537例を経験し,女性に多く,平均58.5歳である. 症候別に他症候を合併する率は,肛門痛では括約不全27%と低い他は,排便障害67%,腹部症状56%,腰椎症状56%である.括約不全で排便障害78%,肛門痛72%,腹部症状56%と高い.排便障害で括約不全31%,肛門痛71%,腹部症状63%,腰椎症状54%.腹部症状でも括約不全が29%と低い他は肛門痛75%,排便障害80%,腰椎症状60%.腰椎症状では括約不全が31%と低い他は,肛門痛77%,排便障害77%,腹部症状71%と高い.括約不全が低いのは肛門機能障害のあと一つの排便障害が第3症候の排便障害と混同されたことによる.その他の症候の合併率は60~80%と高く,この症候群の存在意義は大きい. この症候の病態はS2,3,4より出る仙骨神経と同じ部位の骨盤内臓神経との障害で,前者支配の会陰・肛門部と,後者支配の直腸の機能障害との合併発生によると考える.
著者
飯室 正樹 中村 志郎 樋田 信幸 福永 健 松本 譽之
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.1021-1025, 2008 (Released:2008-11-05)
参考文献数
15
被引用文献数
5 1

大腸憩室症は食生活の欧米化,人口の高齢化にともない近年本邦でも増加傾向にある.また,重篤な合併症もしばしば経験されるようになってきている.以前は,急性虫垂炎との鑑別が困難な場合があったが,近年では,解像度の高いCT検査や超音波検査が普及し,多くの不要な緊急手術が回避可能となった.急性憩室炎に対する内科的治療は外来,入院とも抗生剤を中心としたものとなる.炎症所見はないが腹部症状を有する症例に対しても定期的な経口難吸収性抗生剤投与や食物繊維が有効である事が示されている.さらに,これまで炎症性腸疾患に用いられてきたメサラジンの他,LactobacillusやE. coliといったプロバイオティクス製剤に急性憩室炎の再発予防効果があることが報告され,注目されている.
著者
岩垂 純一
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.939-947, 2014
被引用文献数
1

肛門科として単独での診療科名での広告が不可能となっている現在,新しい専門医制度において肛門科専門医が認定されるのは極めて厳しい状況にある.公的に近い総合病院の中の肛門病に特化したセンター(社会保険中央総合病院大腸肛門病センター)で研修を受け,スタッフとして勤務した経験から,肛門病は決して外科の中の一小分野ではなく独自性のある分野を形成しているといえる.診察に際しては羞恥,恐怖などの患者心理の理解が必要とされ,治療に際しては単に治せばよいのではなく,後障害を生じないように機能的に問題なく,如何に,きれいに,痛くなく早く治すかが問われる.そのためには多数の症例経験が必要となり,また消化器の1部という観点から大腸疾患の症例経験も必要となる.肛門科の専門性がなくなる結果,診療レベルが低下し合併症や後障害により患者を苦しめるようなことがあってはならない.
著者
堀 義城 新垣 淳也 佐村 博範 古波倉 史子
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.207-210, 2018 (Released:2018-04-25)
参考文献数
9

症例1:62歳男性.上行結腸癌stage IIIa術後補助化学療法として,Cape-OX療法を開始した.2コース目に入る際の血液検査にて乳糜反応3+であったためトリグリセリド(TG)値を確認したところ1,037mg/dlであった.Capecitabineによる高TG血症を疑い,本剤を中止したところ,改善を認めた.症例2:62歳男性.直腸S状部癌High risk stage II術後補助化学療法として,Capecitabine単独療法を開始した.2コース目終了時の血液検査にて乳糜反応2+であったためTG値を確認したところ1,058mg/dlであった.本剤による高TG血症を疑い,本剤を中止したところ,改善を認めた.Capecitabineの有害事象として,高TG血症は比較的まれではあるが,急性膵炎のハイリスク因子であり,注意すべきである.本剤内服中はTG値の厳重なfollowを要する.
著者
指山 浩志 辻仲 康伸 浜畑 幸弘 松尾 恵五 堤 修 中島 康雄 高瀬 康雄 赤木 一成 新井 健広 田澤 章宏 星野 敏彦 南 有紀子 角田 祥之 北山 大祐
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.62, no.7, pp.466-470, 2009 (Released:2009-07-01)
参考文献数
16
被引用文献数
3 2

肛門部尖圭コンジローマ症例をHPVタイプにより分類し,疫学的,臨床的違いの有無について検討した.液相ハイブリダイゼーション法によりHPVのハイリスク型,ローリスク型の有無を調べえた166症例をHPVタイプ(ハイリスク:H ローリスク:L 陽性+ 陰性-)で分類すると,H+L+型39例,H+L-型2例,H-L+型97例,H-L-型28例であった.H+L+型は男性が多く,H-L-型は女性が多く年齢層が高いという傾向があった.居住地では,千葉北西部でH-症例,東京都内でH+症例が多く,疫学的違いがある可能性が考えられた.肉眼型では,H-L-型で散在型が多く臨床的な違いのある可能性も示唆された.HIV陽性例はH+L+型7例,H+L-型1例,H-L+型2例にみられH+症例で高率であった.術後の再発率は全体として33%であるが,HIV陽性例では67%と高く,免疫抑制状態が再発に関連すると考えられた.
著者
衣笠 昭
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.339-347, 2000 (Released:2009-06-05)
参考文献数
20
被引用文献数
2 2

わが国における古来よりの肛門疾患の治療の変遷を文献を中心に検索し,その方法を現在の治療と比較し解釈した.とくに江戸時代に名声を挙げた本間棗軒の手術術式を詳述し,以後平成11年までの治療の発展につき述べた.
著者
矢沢 知海 中村 光司 長廻 紘 饒 熾奇 小坂 知一郎 生沢 啓芳 渡辺 修身 金山 成保 竹本 忠良
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.373-377,406, 1974

大腸ポリープは癌と同様に,S状結腸以下に64.6%の発生をみた.他方,大腸早期癌(粘膜内,粘膜下層まで)32例では,潰瘍型は3例(すべて粘膜下層癌)で,他はポリープ型であった.<BR>そこで,良性,悪性ポリープの内視鏡的術前診断を試みたが,50%程度の癌特有の所見のみしかみられず,また,pedunculatedのものでは,生検でも陰性のことすらある.<BR>故に,polypoid lesionに対する正しき診断はExcision Biopsyによらねばならぬと考え,現在まで48個のpolypを内視鏡下に切除したが,その中に4例の早期癌が含まれている.そこで,subpedunculated,pedunculatedのpolypで,茎1.6mm以下であればすべて内視鏡下にpolypectomyを行ない,組織検査の結果で粘膜内癌は診断と治療がpolypectomyで完了し,粘膜下層癌では腸切除を追加すべきであり,また広基性(Sessile)ポリープでは,癌が生検で証明されたものは,深達度の判断が不可能であること,polypectomyが完全に,安全に施行できないことを考え,粘膜下層癌と同様に腸切除を施行すべきものと考える.
著者
佐々木 みのり 佐々木 巌 増田 芳夫
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.38-42, 2007 (Released:2008-10-31)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

bowenoid papulosis (以下BPと略す) は尖圭コンジローマと臨床所見が酷似するハイリスクHPV関連のSTDである. 本疾患は, 病理所見はBowen病に類似するが, 臨床経過は良性で自然消退の報告も多い. しかし同時に悪性化や子宮頸癌合併の報告もあり注意深い経過観察が必要な疾患でもある. 今回我々はBPの一例を経験したので報告する.症例は34歳女性. 2002年8月に肛門性交の機会があり, 同年秋頃より肛門周囲に丘疹が出現. 皮疹の増加と拡大を認め2003年1月当院受診した. 肛門周囲に尖圭コンジローマと, その中に混在する黒褐色の扁平な丘疹を認めた. BPを疑い混在する尖圭コンジローマと同時に切除焼灼した. 皮疹の組織像ではボーエン病類似の像を呈しBPと診断した. その後BPと思われる皮疹の再発を二度繰り返したが, その都度切除焼灼を行い2003年6月を最後に再発を認めていない.
著者
新垣 淳也 荒木 靖三 野明 俊裕 的野 敬子 鍋山 健太郎 岩谷 泰江 岩本 一亜 小篠 洋之 佐藤 郷子 高野 正博 佐村 博範 西巻 正
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.310-316, 2014 (Released:2014-04-30)
参考文献数
40
被引用文献数
1 1

目的:毛巣洞に対する当院で行ったV-Y plastyの手技と成績について報告する.対象と方法:2006年から2012年までの毛巣洞手術症例14例を対象とし,V-Y plastyの手術治療経験についてretrospectiveに検討した.結果:平均年齢31.5歳(16~48歳),全例男性.平均体重75.5kg(63.4~92kg),BMI 26.0kg/m2で,25kg/m2以上の症例は8例(57.1%)であった.病悩期間は平均15.5ヵ月(3日~5年),平均手術時間45.3分,術後合併症は6例(42.9%)のうち,創感染5例,創部不良肉芽形成1例であった.皮弁壊死など重篤な合併症はなかった.術後再発症例は認めていない.考察:病巣切除,一期的創閉鎖,V-Y plastyは,手術手技が容易で再発が少なく安全性が高いことより容認できる手術術式である.今後症例を蓄積しながら慎重な経過観察が必要である.
著者
宇都宮 高賢 柴田 興彦 菊田 信一 堀地 義広
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.169-174, 2005-03-01
参考文献数
26
被引用文献数
1

難治性の慢性直腸肛門痛症例,男性19人,女性42人について肛門管内を双極刺激電極を挿入し低周波電気刺激を週1~2回,一回5分間行いその効果について検討した.これら症例のうち男性9人,女性12人について低周波電気刺激前後における左側肛門管組織血流量の測定を行った.症例の肛門内圧検査を行い随意最大収縮圧100mmHg以上の症例(機能正常群)と100mmHg以下(機能低下群)に分けて検討した.男性では,機能正常群が多く,女性では機能低下群が多かったが,慢性直腸肛門痛との関連はなかった.痛みが消失するまでの刺激回数は平均3.5±1.6回であり,98%に効果を認め,59%に痛みの完全消失が得られた.肛門管組織血流量,血流速度は低周波電気刺激により男性で64%,女性で33%の有意な増加がみられた(p<0.Ol).肛門管内低周波電気刺激は,慢性直腸肛門痛症例に対して簡便有効な治療方法であった.
著者
野明 俊裕 荒木 靖三 的野 敬子 牛島 正貴 小篠 洋之 入江 朋子 家守 雅大 高野 正博
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.954-960, 2015 (Released:2015-10-31)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

便失禁は,4歳以上の個人が便の排出を制御できない状態が3ヵ月以上にわたり繰り返すことと定義され,成人の便失禁の有病率は2.2%と報告されている.肛門括約筋は,不随意筋である内肛門括約筋と,随意筋である外肛門括約筋,骨盤底筋群で構成され,内肛門括約筋の機能不全では,安静時の肛門管の緊張低下や静止圧の低下をきたす.外肛門括約筋や骨盤底筋群の機能不全では随意収縮圧が低下するが,バイオフィードバック療法により改善するといわれている.便失禁に対するバイオフィードバック療法は有用であるとする報告は多いが,単独での効果は疑問視されている.しかし,骨盤底筋体操にバイオフィードバック療法を加えることで治療効果が高まると報告されており便失禁治療においては重要なアイテムの1つである.今回の論文ではバイオフィードバック療法の文献的考察を行い,当院で行っているバイオフィードバック療法の実際を概説する.
著者
武田 元信
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.147-151, 2010 (Released:2010-03-05)
参考文献数
5

肛門部慢性疼痛患者の新しい治療法とその効果の精神的な側面を検討した. 抗うつ薬SSRIと抗不安薬の併用する治療により著しい改善をみる症例を多数経験し,その治療法の精神的評価として患者にSDSテストを行いその治療効果を評価したのでそれぞれ報告する.抗うつ薬SSRIと抗不安薬による治療経験治療としてロラゼパム0.5~1.5mg/日,スルピリド50~150mg/日,パロセキチン10~20mg/日を投与した.疼痛評価はVASスケールによる10段階評価とした.67%の患者で有効が確かめられた,次に抗うつ薬SSRIと抗不安薬によって治療した患者の精神的側面の検討をした.疼痛評価はVASスケール,精神的側面の評価はSDSで評価した.SDSが50点以上の患者はSSRIの投与が特に有効だった.慢性疼痛の治療には疼痛そのものに対する治療と疼痛によるうつに対する治療が必要である.
著者
山口 達郎 上野 秀樹 小泉 浩一 石田 秀行 岩間 毅夫
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.878-882, 2015

まれな疾患である家族性大腸腺腫症(FAP)の特徴を明らかにするためには,全国登録や多施設共同研究が必要である.本邦におけるFAPの最初の全国調査は1961年に開始され,1972年の第2回調査へと続いた.1976年からはFAPの登録事業が始まり,FAPに関する重要な疫学的・腫瘍学的知見が数多く得られた.それらは2012年に刊行された『遺伝性大腸癌診療ガイドライン』の基礎資料となっているが,海外からの引用文献が多く,本邦からの文献も2000年以前に集積された解析報告が多く,現状に即していない可能性がある.現在,大腸癌研究会の家族性大腸癌委員会内に組織されたFAPワーキンググループによる『FAPの多施設後方視的コホート研究』は,FAPの基礎データの集積と,我が国の診療実態の把握を行っている.また,次世代シークエンサーを用いた家族性腫瘍の遺伝子診断技術の確立と,新規原因遺伝子の探索が行われている.
著者
神山 剛一 安部 達也 鉢呂 芳一 國本 正雄 荒木 靖三 高野 正博
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.867-872, 2011 (Released:2011-11-02)
参考文献数
44
被引用文献数
4

便失禁の保存的治療では,まず患者の生活習慣を調べた上で食物繊維摂取を促し,便を軟化させるコーヒーやアルコールなどは控えるよう指導する.これに加え薬物療法が選択されるが,軟便が漏れる場合はロペラミドが有効とされ,一方ポリカルボフィルカルシウムは便の性状に関係なく便失禁を改善させる.これら基本的なアプローチで改善しない場合,より専門的な介入の適応となる.便失禁に対するバイオフィードバック療法(以下BF療法)は症状の改善に有用で,海外では広く認められた方法である.当院では薬物療法で改善しなかった54名にBF療法を施行し,Wexner's scoreを9から3へ改善させることができた.他にアナルプラグや逆行性洗腸があるが,いずれも脊髄障害患者や直腸切除後といった特定の対象者で有効性が得られている.
著者
多田 正大 橋本 京三 渡辺 能行 川井 啓市
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.24-29, 1984

潰瘍性大腸炎の病態生理の一面を知る日的で, ラジオカプセル法 (NationalTPH-101型) を用いて本症患者13名の各病期の直腸内圧を測定し, 直腸の運動量を内圧面積 (内圧曲線と基線で囲まれた面積) で表わした.その結果, 活動期において内圧面積は健常者よりも統計学的に有意の差で低下していた.特にpatient yearが4年以上と長くなり, 病変範囲も全大腸型の重症例ほど内圧面積は小さくなり, 緩解期でも健常者よりも低下していた.ネオスチグミンによる刺戟後の運動量の変化 (S/R) をみると, patient year4年以上, 全大腸型の活動期では健常者よりも高値を呈し, これらの症例では刺戟に対して過敏に反応すると考えられた.
著者
岩垂 純一
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.1011-1025, 2013 (Released:2013-10-31)
参考文献数
81
被引用文献数
1

痔瘻に対して術後の肛門変形,変位を少なくし術後の肛門機能を損なわないように低位筋間痔瘻に対しては内括約筋を切除して原発巣を処理する術式が行われ,次いで,内括約筋を,くり抜いて原発巣を処理する術式,原発口や原発巣をくり抜いた後を縫合閉鎖する方法,内括約筋に侵襲を加えない方法などが行われてきた.その後,侵襲があっても,より確実な方法としてseton法や,それに関連した方法,括約筋温存術式と切開開放術式の混合した手術が行われ,最近では肛門上皮を温存した様々な術式が試みられている.坐骨直腸窩痔瘻に対しては,くり抜き術の応用,筋肉充填術式,括約筋外にアプローチする様々な方法,そしてsetonを利用した方法が行われ最近では坐骨直腸窩痔瘻の病態も,より詳しく解明されている.痔瘻診療の標準化を目指していく上で,以上の術式の変遷,その考え方を理解することが必要である.
著者
斉田 芳久 榎本 俊行 長尾 二郎 高林 一浩 長尾 さやか 大辻 絢子 渡邊 良平 中村 陽一 高橋 亜紗子 草地 信也
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.317-323, 2014 (Released:2014-04-30)
参考文献数
10

前向きにリン酸ナトリウム錠(新NaP錠)の受容性と洗浄効果の検証を行った.対象と方法:2011年1月から2012年12月の期間で心腎機能異常がない外来大腸内視鏡を施行患者418名を対象とし,患者受容性はアンケートで洗浄効果は内視鏡術者の観察スコアで調査した.結果:新NaP錠の前処置は,添加物変更前のNaP錠(旧NaP錠)と同様に,嘔気・腹痛も少なく,高い受容性が認められた.ポリエチレングリコール含有電解質溶液(PEG)を前処置剤として服用した経験のある患者での次回の服薬希望において,新NaP錠の希望者は63.9%と,PEGの13.4%を大きく上回った.製剤残渣は旧NaP錠と比較して残存率には減少傾向が認められた.結論:新NaP錠の受容性と洗浄効果の高さが確認され,新たな大腸内視鏡前処置剤として有用である.